説明

火災感知器

【課題】監視空間における超音波の減衰量に基づいて火災の有無を判別する構成において、非火災報や失報を低減可能な火災感知器を提供する。
【解決手段】外部空間から煙粒子を含む浮遊粒子が侵入可能な監視空間Sp1に超音波を送波可能な監視音源部1と、浮遊粒子の侵入が遮断された基準空間Sp2に超音波を送波可能な基準音源部10と、監視音源部1および基準音源部10を制御する制御部2と、監視音源部1からの超音波の音圧を検出する監視受波素子3と、基準音源部10からの超音波の音圧を検出する基準受波素子30と、監視受波素子3および基準受波素子30の出力が同一周波数且つ同一位相となるように制御部2が監視音源部1および基準音源部10を同期させて制御したときに差動増幅部7から出力される監視受波素子3および基準受波素子30の差動出力に基づいて、火災の有無を判断する信号処理部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災感知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、火災時などに発生する煙を感知する火災感知器として、散乱光式煙感知器(たとえば特許文献1参照)や、減光式煙感知器(たとえば特許文献2参照)が知られている。ここにおいて、散乱光式煙感知器は、発光ダイオード素子よりなる投光素子から監視空間に照射された光の煙粒子による散乱光をフォトダイオードよりなる受光素子で受光するように構成されたものであり、監視空間に煙粒子が存在すれば散乱光が生じることによって受光素子での受光量が増大するから、受光素子での受光量の増加量に基づいて煙粒子の存否を検知できる。一方、減光式煙感知器は、投光素子から照射された光を受光素子により直接受光するように構成されたものであり、投光素子と受光素子との間の監視空間に煙粒子が存在すれば受光素子の受光量が減少するから、受光素子での受光量の減光量に基づいて煙粒子の存否を検知できる。
【0003】
ところで、散乱光式煙感知器は、迷光対策としてラビリンス体を設ける必要があるので、空気の流れが少ない場合には、火災発生時に監視空間へ煙粒子が侵入するまでの時間が長くなり、応答性に問題があった。また、減光式煙感知器においては、火災が発生していないにもかかわらずバックグランド光の影響で発報してしまう(非火災報が発生してしまう)ことがあるという問題があった。また、分離型の減光式煙感知器は、投光素子と受光素子との光軸を高精度に軸合わせする必要があり、施工に手間がかかるという問題があった。
【特許文献1】特開2001−34862号公報
【特許文献2】特開昭61−33595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した光電式の火災感知器の問題点を解決するために、本願出願人は、超音波を用いて煙の存否を検知する火災感知器を提案している。
【0005】
この火災感知器は、図16に示すように、超音波を送波可能な監視音源部1と、監視音源部1を制御する制御部と監視音源部1から送波された超音波の音圧を検出する監視受波素子3と、監視受波素子3の出力に基づいて火災の有無を判別する信号処理部とを備える。信号処理部は、監視受波素子3の出力の基準値からの減衰量に基づいて監視音源部1と監視受波素子3との間の監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段と、推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段とを有する。すなわち、監視空間に煙粒子が入り込むと図17に示すように監視音源部1からの超音波は監視受波素子3に到達するまでに音圧が低下し、監視受波素子3の出力の減衰量は監視空間の煙濃度に略比例して増加するので、この減衰量に基づき煙濃度を推定することで、火災の有無を判断することができる。
【0006】
この超音波式の火災感知器では、光電式の火災感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくすことができ、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができて火災発生時に監視空間へ煙粒子が拡散しやすくなるから、散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上でき、また、減光式煙感知器に比べて非火災報の低減が可能になる。
【0007】
しかし、上述した超音波式の火災感知器においては、火災感知器の周囲環境の変化(たとえば、温度、湿度、大気圧などの変化)に応じて、監視音源部1から送波される超音波の音圧が変化したり、煙濃度が一定でも媒質である空気を伝搬する際の超音波の減衰率が変化したり、監視受波素子3の感度が変化したりすることにより、監視空間の煙濃度にかかわらず監視受波素子3の出力の基準値からの減衰量が変動し、非火災報や失報を生じる可能性がある。
【0008】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、監視空間における超音波の減衰量に基づいて火災の有無を判別する構成において、非火災報や失報を低減可能な火災感知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明では、外部空間に連通し外部空間から煙粒子を含む浮遊粒子が侵入可能な監視空間に対して超音波を送波可能な監視音源部と、煙粒子を含む浮遊粒子の侵入が遮断された基準空間に対して超音波を送波可能な基準音源部と、監視音源部および基準音源部を制御する制御部と、監視音源部から送波された超音波の音圧を検出する監視受波素子と、基準音源部から送波された超音波の音圧を検出する基準受波素子と、監視受波素子および基準受波素子の出力が同一周波数且つ同一位相となるように制御部が監視音源部および基準音源部を同期させて制御したときの監視受波素子および基準受波素子の出力の差に相当する差動出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部とを備え、信号処理部は、前記差動出力の初期値からの変化量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段と、煙濃度推定手段にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段とを有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、外部空間に連通し外部空間から煙粒子を含む浮遊粒子が侵入可能な監視空間に対して超音波を送波可能な監視音源部と、煙粒子を含む浮遊粒子の侵入が遮断された基準空間に対して超音波を送波可能な基準音源部と、監視音源部から送波された超音波の音圧を検出する監視受波素子と、基準音源部から送波された超音波の音圧を検出する基準受波素子と、監視受波素子および基準受波素子の出力が同一周波数且つ同一位相となるように制御部が監視音源部および基準音源部を同期させて制御したときの監視受波素子および基準受波素子の出力の差に相当する差動出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部とを備え、煙濃度推定手段においては、前記差動出力の初期値からの変化量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定するので、火災感知器の周囲環境の変化に応じて、監視音源部から送波される超音波の音圧が変化したり、煙濃度が一定でも媒質である空気を伝搬する際の超音波の減衰率が変化したり、監視受波素子の感度が変化したりすることがあっても、これらの変化に起因した監視受波素子の出力変動が差動出力に影響することはなく、結果的に監視空間における煙濃度の推定の精度が向上し、非火災報や失報を低減することができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記監視音源部と前記基準音源部とが周波数の異なる複数種の超音波をそれぞれから送波可能であって、前記信号処理部が、前記監視空間に存在する浮遊粒子の種別および煙濃度に応じた前記監視音源部の出力周波数と前記差動出力の初期値からの変化量との関係データを記憶した記憶手段と、前記監視音源部から送波された各周波数の超音波ごとの前記差動出力と記憶手段に記憶されている関係データとを用いて前記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定する粒子種別推定手段とを有し、前記煙濃度推定手段が、粒子種別推定手段にて推定された粒子が煙粒子のときに特定周波数の超音波に対する前記差動出力の初期値からの変化量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、信号処理部では、粒子種別推定手段において、監視音源部から送波された各周波数の超音波ごとの差動出力と記憶手段に記憶されている関係データとを用いて監視空間に浮遊している粒子の種別を推定し、粒子種別推定手段にて推定された粒子が煙粒子のときに、煙濃度推定手段において、特定周波数の超音波に対する差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定するので、粒子種別識別手段において監視空間に浮遊している粒子の種別を推定することで、たとえば煙粒子と湯気とを識別可能となるから、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べて湯気に起因した非火災報を低減することが可能となり、台所や浴室での使用にも適する。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記記憶手段は、前記関係データとして前記音源部の出力周波数と前記差動出力の初期値からの変化量を前記基準受波素子の出力で除した変化率との関係データを記憶していることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、前記音源部の出力周波数に応じて前記基準受波素子の出力が変動する場合でも、前記音源部の出力周波数と前記基準受波素子の出力の変動の影響が除去された変化率との関係データを用いることにより、前記基準受波素子の出力の変動の影響を受けずに前記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定することができる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記監視音源部と前記基準音源部とがそれぞれ前記複数種の超音波を送波可能な単一の音波発生素子からなり、前記制御部が各音波発生素子からそれぞれ複数種の超音波が順次送波されるように前記監視音源部および前記基準音源部を制御することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、監視音源部と基準音源部とのそれぞれに各種の超音波を送波可能な音波発生素子を複数個ずつ備える場合に比べて、監視音源部および基準音源部の小型化、低コスト化が可能となる。
【0017】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明において、前記監視音源部および前記基準音源部が、発熱体部への通電に伴う発熱体部の温度変化により空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生するものであることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、監視音源部および基準音源部は平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。また、監視音源部および基準音源部から残響の少ない単パルス状の超音波を送波させることも可能となる。
【0019】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記監視音源部および前記基準音源部が、ベース基板の一表面側に前記発熱体部が形成されるとともに、ベース基板の前記一表面側で前記発熱体部とベース基板との間に設けられて前記発熱体部とベース基板とを熱絶縁する多孔質層からなる熱絶縁層を有してなることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、熱絶縁層が多孔質層からなるので、熱絶縁層が非多孔質層からなる場合に比べて、熱絶縁層の断熱性が向上して発熱体部への入力電圧に対する超音波の音圧の比が高くなり、低消費電力化を図ることができる。
【0021】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかの発明において、前記監視空間と前記基準空間とが隔壁を隔てて隣接しており、前記監視受波素子と前記基準受波素子とが、隔壁に配設されるとともに前記監視空間側と前記基準空間側とのそれぞれに音圧を受ける受圧部が形成されており、前記制御部が前記監視音源部および前記基準音源部を同期させて制御したときに両受圧部で受けた音圧の差を前記差動出力として検出する単一の差動型受波素子からなることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、監視受波素子と基準受波素子とが単一の差動型受波素子からなるので、監視受波素子と基準受波素子とを別々に設けて両者の出力の差を差分出力とする場合のように監視受波素子と基準受波素子とで個別に生じたノイズが差分出力にそれぞれ重畳することはなく、したがって、差動出力に含まれるノイズを低減することができSN比が向上する。
【0023】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記信号処理部が、前記制御部で前記基準音源部を制御し前記基準音源部のみから超音波を送波させた状態での前記差動型受波素子の出力を参照値として計測し、当該参照値の初期値からの変化量に基づいて前記差動出力を補正する出力補正手段を有することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、監視音源部および基準音源部あるいは差動型受波素子の経時変化に応じて、監視音源部および基準音源部から送波される超音波の音圧や差動型受波素子の感度が変化することがあっても、これらの変化に起因した差動出力の初期値からの変化量の変動は出力補正手段での補正によって除去することができ、長期的な信頼性が高くなる。
【0025】
請求項9の発明は、請求項7または請求項8の発明において、前記差動型受波素子が、互いに対向配置された固定電極と可動電極とを有し、前記両受圧部で受けた音圧の差に応じて固定電極と可動電極との間の距離が変化し固定電極と可動電極との間の静電容量が変化する静電容量型のマイクロホンからなることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、差動型受波素子は、静電容量型のマイクロホンからなるので、平坦な周波数特性を有し、また、出力における残響成分の発生期間が短いという利点がある。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1ないし請求項9のいずれかの発明において、前記基準空間が煙粒子を含む浮遊粒子を遮断する遮断壁によって包囲されており、遮断壁が前記浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔を有し、当該微細孔によって前記基準空間と前記外部空間とを連通させていることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、煙粒子を含む浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔によって基準空間と外部空間とが連通されているので、基準空間への浮遊粒子の侵入を遮断しながらも、火災感知器の周囲環境のたとえば湿度や大気圧などの変化が微細孔を通して基準空間にも反映され、これらの変化に起因した監視受波素子の出力変動の影響を差動出力から除去することができ、非火災報や失報を低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、煙濃度推定手段において、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間の煙濃度を推定するので、火災感知器の周囲環境の変化に応じて、監視音源部から送波される超音波の音圧が変化したり、煙濃度が一定でも媒質である空気を伝搬する際の超音波の減衰率が変化したり、監視受波素子の感度が変化したりすることがあっても、これらの変化に起因した監視受波素子の出力変動が差動出力に影響することはなく、結果的に、監視空間における煙濃度の推定の精度が向上し、非火災報や失報を低減することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(実施形態1)
本実施形態の火災感知器は、図1に示すように、超音波を送波可能な監視音源部1と、超音波を送波可能な基準音源部10と、監視音源部1および基準音源部10を制御する制御部2と、監視音源部1から送波された超音波の音圧を検出する監視受波素子3と、基準音源部10から送波された超音波の音圧を検出する基準受波素子30と、監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差をとり増幅して出力する差動増幅部7と、差動増幅部7の出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部4とを備えている。
【0031】
ここにおいて、監視音源部1と監視受波素子3とは、図2に示すように円盤状のプリント基板からなる回路基板5の一表面側において互いに離間して対向配置され、同様に基準音源部10と基準受波素子30とが、回路基板5の一表面側において互いに離間して対向配置されており、同回路基板5に制御部2と差動増幅部7と信号処理部4とが設けられている。また、監視音源部1と監視受波素子3との間には筒状に形成された筒体81が配設され、基準音源部10と基準受波素子30との間には筒状に形成された筒体82が配設されている。各筒体81,82は、それぞれ直管状の角筒であって、長手方向の一端面(図2における左端面)が監視音源部1および基準音源部10の各々で閉塞されるとともに、他端面(図2における右端面)が監視受波素子3および基準受波素子30の各々で閉塞されることにより、内部空間を通して監視音源部1および基準音源部10の各々からの超音波を伝搬させる。したがって監視音源部1と基準音源部10とのそれぞれから送波される超音波は、筒体81,82の内部空間を通ることで拡散が抑制され、超音波の拡散による音圧の低下を抑制することができる。なお、筒体81は、監視受波素子3の周囲に設けられ監視音源部1以外で発生した超音波が監視受波素子3に入射するのを阻止する遮音壁6(図16参照)としての機能を兼ねる。
【0032】
ここで、筒体81は、煙粒子を含む浮遊粒子が通過する大きさの連通孔81aを長手方向に沿う側面に複数有しており、これにより監視音源部1と監視受波素子3との間には、火災の有無を監視するために連通孔81aを通して火災感知器の周囲の外部空間(外気)に連通した監視空間Sp1が形成される。一方、筒体82は、少なくとも煙粒子を含む浮遊粒子を遮断する遮断壁としての機能を兼ねており、基準音源部10と基準受波素子30との間には、浮遊粒子の侵入が遮断された基準空間Sp2が形成される。つまり、監視音源部1は監視空間Sp1に対して超音波を送波し、基準音源部10は基準空間Sp2に対して超音波を送波することになる。さらに、本実施形態では両筒体81,82の長さ寸法、開口形状は同一に設定されており、監視空間Sp1と基準空間Sp2との形状が略同一となっている。また、基準空間Sp2においては浮遊粒子の侵入が遮断されているので、基準空間Sp2の温度に関しては外部空間(外気)および監視空間Sp1と同じになるものの、基準空間Sp2に煙粒子や湯気などが侵入することはない。ここにおいて、本実施形態では浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されているフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)を筒体82に有することで、微細孔を通して基準空間Sp2と外部空間とを連通させている。そのため、基準空間Sp2においては、温度以外に湿度や大気圧に関しても外部空間および監視空間Sp1と同じになる。
【0033】
本実施形態では、監視音源部1と基準音源部10とのそれぞれに、後述のように空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生させる音波発生素子を用いることで、圧電素子に比べて残響時間が短い超音波を送波するようにし、且つ、監視受波素子3と基準受波素子30とのそれぞれに共振特性のQ値が圧電素子に比べて十分に小さく受波信号に含まれる残響成分の発生期間が短い静電容量型のマイクロホンを用いている。以下では監視音源部1および監視受波素子3の構成について説明するが、基準音源部10においては監視音源部1、基準音源部30においては監視受波素子3とそれぞれ同様の構成を採用しているものとする。
【0034】
監視音源部1は、図3に示すように、単結晶のp形のシリコン基板からなるベース基板11の一表面(図3における上面)側に多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(断熱層)12が形成され、熱絶縁層12の表面側に発熱体部として金属薄膜からなる発熱体層13が形成され、ベース基板11の上記一表面側に発熱体層13と電気的に接続された一対のパッド14,14が形成されている。なお、ベース基板11の平面形状は矩形状であって、熱絶縁層12、発熱体層13それぞれの平面形状も矩形状に形成してある。また、ベース基板11の上記一表面側において熱絶縁層12が形成されていない部分の表面にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜(図示せず)が形成されている。
【0035】
上述の監視音源部1では、発熱体層13の両端のパッド14,14間に通電して発熱体層13に急激な温度変化を生じさせると、発熱体層13に接触している空気(媒質)に急激な温度変化(熱衝撃)が生じる(つまり、発熱体層13に接触している空気に熱衝撃が与えられる)。したがって、発熱体層13に接触している空気は、発熱体層13の温度上昇時には膨張し発熱体層13の温度下降時には収縮するから、発熱体層13への通電を適宜に制御することによって空気中を伝搬する超音波を発生させることができる。要するに、監視音源部1を構成する音波発生素子は、発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の急激な温度変化を媒質の膨張収縮に変換することにより媒質を伝搬する超音波を発生するので、圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する場合に比べて、残響の少ない単パルス状の超音波を送波させることができる。
【0036】
上述の監視音源部1は、ベース基板11としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層12を多孔度が略60〜略70%の多孔質シリコン層からなる多孔質層により構成しているので、ベース基板11として用いるシリコン基板の一部をフッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液中で陽極酸化処理することにより熱絶縁層12となる多孔質シリコン層を形成することができる(ここで、陽極酸化処理により形成された多孔質シリコン層は、結晶粒径がナノメータオーダの微結晶シリコンからなるナノ結晶シリコンを多数含んでいる)。多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなるので、熱絶縁層12の熱伝導率および熱容量をベース基板11の熱伝導率および熱容量に比べて小さくし、熱絶縁層12の熱伝導率と熱容量との積をベース基板11の熱伝導率と熱容量との積に比べて十分に小さくすることにより、発熱体層13の温度変化を空気に効率よく伝達することができ発熱体層13と空気との間で効率的な熱交換が起こり、且つ、ベース基板11が熱絶縁層12からの熱を効率よく受け取って熱絶縁層12の熱を逃がすことができて発熱体層13からの熱が熱絶縁層12に蓄積されるのを防止することができる。なお、熱伝導率が148W/(m・K)、熱容量が1.63×10J/(m・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化して形成される多孔度が60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が1W/(m・K)、熱容量が0.7×10J/(m・K)であることが知られている。本実施形態では、熱絶縁層12を多孔度が略70%の多孔質シリコン層により構成してあり、熱絶縁層12の熱伝導率が0.12W/(m・K)、熱容量が0.5×10J/(m・K)となっている。
【0037】
発熱体層13は、高融点金属の一種であるタングステンにより形成してあるが、発熱体層13の材料はタングステンに限らず、たとえば、タンタル、モリブデン、イリジウム、アルミニウムなどを採用してもよい。また、上述の監視音源部1では、ベース基板11の厚さを300〜700μm、熱絶縁層12の厚さを1〜10μm、発熱体層13の厚さを20〜100nm、各パッド14の厚さを0.5μmとしてあるが、これらの厚さは一例であって特に限定するものではない。また、ベース基板11の材料としてSiを採用しているが、ベース基板11の材料はSiに限らず、たとえば、Ge、SiC、GaP、GaAs、InPなどの陽極酸化処理による多孔質化が可能な他の半導体材料でもよく、いずれの場合にも、ベース基板11の一部を多孔質化することで形成した多孔質層を熱絶縁層12とすることができる。
【0038】
上述のように監視音源部1は、一対のパッド14,14を介した発熱体層13への通電に伴う発熱体層13の温度変化に伴って超音波を発生するものであり、発熱体層13へ与える駆動電圧波形あるいは駆動電流波形からなる駆動入力波形をたとえば周波数がf1の正弦波波形とした場合、理想的には、発熱体層13で生じる温度振動の周波数が駆動入力波形の周波数f1の2倍の周波数f2となり、駆動入力波形f1の略2倍の周波数の超音波を発生させることができる。すなわち、上述の監視音源部1は、圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する場合に比べて、平坦な周波数特性を有しており、発生させる超音波の周波数を広範囲にわたって変化させることができる。また、上述の監視音源部1では、たとえば正弦波波形の半周期の孤立波を駆動入力波形として一対のパッド14,14間へ与えることによって、残響の少ない略1周期の単パルス状の超音波を発生させることができる。このような単パルス状の超音波を用いることにより、反射による干渉が起こりにくくなる。また、監視音源部1は、熱絶縁層12が多孔質層により構成されているので、熱絶縁層12が非多孔質層(たとえば、SiO膜など)からなる場合に比べて、熱絶縁層12の断熱性が向上して超音波発生効率が高くなり、低消費電力化を図れる。
【0039】
また、上述の監視受波素子3を構成する静電容量型のマイクロホンは、図4に示すように、シリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔31aを設けることで形成された矩形枠状のフレーム31と、フレーム31の一表面側においてフレーム31の対向する2つの辺に跨る形で配置されるカンチレバー型の受圧部32とを備えている。ここにおいて、フレーム31の一表面側には熱酸化膜35と熱酸化膜35を覆うシリコン酸化膜36とシリコン酸化膜36を覆うシリコン窒化膜37とが形成されており、受圧部32の一端部がシリコン窒化膜37を介してフレーム31に支持され、他端部が上記シリコン基板の厚み方向においてシリコン窒化膜37に対向している。また、シリコン窒化膜37における受圧部32の他端部との対向面に金属薄膜(たとえば、クロム膜など)からなる固定電極33aが形成され、受圧部32の他端部におけるシリコン窒化膜37との対向面とは反対側に金属薄膜(たとえば、クロム膜など)からなる可動電極33bが形成されている。なお、フレーム31の他表面にはシリコン窒化膜38が形成されている。また、受圧部32は、上記各シリコン窒化膜37,38とは別工程で形成されるシリコン窒化膜により構成されている。
【0040】
図4に示した構成の静電容量型のマイクロホンからなる監視受波素子3では、固定電極33aと可動電極33bとを電極とするコンデンサが形成されるから、受圧部32が疎密波の圧力を受けることにより固定電極33aと可動電極33bとの間の距離が変化し、固定電極33aと可動電極33bとの間の静電容量が変化する。したがって、固定電極33aおよび可動電極33bに設けたパッド(図示せず)間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッドの間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。
【0041】
監視音源部1および基準音源部10を制御する制御部2は、図示していないが、監視音源部1および基準音源部10にそれぞれ駆動入力波形を与えて監視音源部1および基準音源部10を駆動する駆動回路と、当該駆動回路を制御するマイクロコンピュータからなる制御回路とで構成されている。この制御部2は、監視音源部1および基準音源部10のそれぞれから送波される超音波が互いに同一周波数且つ同一位相となるように監視音源部1および基準音源部10を同期させて制御する同期モードと、監視音源部1および基準音源部10の一方のみから超音波を送波させる非同期モードとの2種類の動作モードで監視音源部1および基準音源部10を制御する。本実施形態では、監視音源部1と基準音源部10とを同一の条件(たとえば、送波させる超音波の音圧)で駆動するとともに、監視受波素子3と基準受波素子30とを同一の条件(たとえば、直流バイアス電圧)で使用し、さらに監視音源部1および監視受波素子3の位置関係と基準音源部10および基準受波素子30の位置関係とを同一に設定することにより、制御部2が同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御した際に、監視空間Sp1に浮遊粒子の侵入がなく監視空間Sp1と基準空間Sp2とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であれば、監視受波素子3の出力と基準受波素子30の出力とが周波数および位相だけでなく強度についても同一になるようにしてある。
【0042】
差動増幅部7は、監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差分をとり、さらに当該差分を増幅して出力するものであって、制御部2が同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御した際の差動増幅部7の出力を以下では差動出力という。つまり、差動出力は、監視受波素子3および基準受波素子30の出力が同一周波数且つ同一位相となるように制御部2が監視音源部1および基準音源部10を同期させて制御したときの監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差に相当する。したがって、上述したように監視空間Sp1に浮遊粒子の侵入がなく監視空間Sp1と基準空間Sp2とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であれば、差動出力はゼロになる。そこで、本実施形態では差動出力の初期値をゼロとする。
【0043】
ところで、信号処理部4は、上述の差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視音源部1と監視受波素子3との間の監視空間Sp1の煙濃度を推定する煙濃度推定手段41と、煙濃度推定手段41にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段42と、監視音源部1が超音波を送波してから当該超音波が監視受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求める音速検出手段43と、音速検出手段43で求めた音速に基づいて上記監視空間Sp1の温度を推定する温度推定手段44と、温度推定手段44で推定された温度と規定温度とを比較して火災の有無を判断する熱式判断手段45とを有している。信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、上記各手段41〜45は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現されている。また、信号処理部4は、差動増幅部7の出力信号をアナログ−ディジタル変換するA/D変換器などが設けられている。
【0044】
煙濃度推定手段41は、制御部2が同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御した際の差動増幅部7の出力である差動出力の初期値(ゼロ)からの変化量に基づいて煙濃度を推定するものであるが、監視音源部1および基準音源部10から送波される超音波の周波数が一定であれば、上記変化量は上記監視空間Sp1の煙濃度に略比例して増加する。すなわち、監視空間Sp1を通して監視音源部1からの超音波を受波する監視受波素子3の出力の減衰量は監視空間Sp1の煙濃度に略比例して増加するものの、浮遊粒子の侵入が遮断された基準空間Sp2を通して基準音源部10からの超音波を受波する基準受波素子30の出力は監視空間Sp1の煙濃度によっては変化しないので、監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差に相当する差動出力の変化量は上記監視空間Sp1の煙濃度に略比例して増加する。したがって、あらかじめ測定した煙濃度と差動出力の変化量との関係データに基づいて煙濃度と変化量との関係式を求めて記憶しておけば、上記関係式を用いて差動出力の変化量から煙濃度を推定することができる。また、煙式判断手段42は、煙濃度推定手段41にて推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。ここで、制御部2は、煙式判断手段42からの火災感知信号を受信すると、監視音源部1から可聴域の音波からなる警報音が発生するように上記非同期モードで監視音源部1への駆動入力波形を制御する。したがって、監視音源部1から警報音を発生させることができるので、警報音を出力するスピーカなどを別途に設ける必要がなく、火災感知器全体の小型化および低コスト化が可能となる。
【0045】
また、音速検出手段43は、監視音源部1と監視受波素子3との間の距離と上記時間差とを用いて音速を求める。また、温度推定手段44は、周知の大気中の音速と絶対温度との関係式を利用して音速から上記監視空間Sp1の温度を推定する。熱式判断手段45は、温度推定手段44にて推定された温度が上記規定温度未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記規定温度以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。ここで、制御部2は、熱式判断手段45からの火災感知信号を受信した場合にも、監視音源部1から可聴域の音波からなる警報音が発生するように監視音源部1への駆動入力波形を制御する。なお、音速検出手段43は、煙濃度を推定するために監視音源部1から送波させる超音波とは別に、制御部2が非同期モードで監視音源部1を制御して所定周波数の超音波を監視音源部1から定期的に送波させ当該超音波が監視受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求めるようにしてもよいし、煙濃度を推定するために制御部2が同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御し監視音源部1から送波させる超音波を用いて音速を求めるようにしてもよい。基準音源部10から超音波を送波させ当該超音波が基準受波素子30に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求めるようにしてもよい。
【0046】
以下に、本実施形態の火災感知器の動作について図5を参照して説明する。制御部2は、定期的に、同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御することにより監視音源部1および基準音源部10から同時に超音波を送波させる。ここで、監視空間Sp1に煙が無ければ(つまり、図5(e)が「無」)、図5(a)に示す基準受波素子10の出力と図5(b)に示す監視受波素子1の出力とは同一となり、両者の差分は図5(c)のようにゼロとなる。したがって、図5(c)の差分を増幅した差動増幅部7の出力である図5(d)の差動出力はゼロ(初期値)となる。ここにおいて、煙濃度推定手段41は、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間Sp1の煙濃度を推定するが、差動出力の初期値からの変化量はゼロであるから、推定される煙濃度は上記閾値未満となることにより煙式判断手段42において「火災無し」と判断される。
【0047】
一方、監視空間Sp1に煙が有れば(つまり、図5(e)が「有」)、図5(a)に示す基準受波素子10の出力は変化しないものの、図5(b)に示す監視受波素子1の出力は監視空間Sp1の煙濃度に応じて減衰し、図5(c)のように両者に差が生じる。したがって、図5(c)の差分を増幅した差動増幅部7の出力である差動出力はゼロ(初期値)から変化する。このときの差動出力の初期値からの変化量は監視空間Sp1の煙濃度に略比例して増加する。ここにおいて、煙濃度推定手段41は、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間Sp1の煙濃度を推定し、煙式判断手段42は、煙濃度推定手段41で推定された煙濃度が上記閾値以上であれば「火災有り」と判断する。
【0048】
なお、本実施形態では、煙式判断手段42や熱式判断手段45から出力される火災感知器信号を制御部2へ出力するようにしているが、制御部2に限らず、たとえば、外部の通報装置へ出力するようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、監視音源部1と基準音源部10とを同一の条件(たとえば、送波させる超音波の音圧)で駆動するとともに、監視受波素子3と基準受波素子30とを同一の条件(たとえば、直流バイアス電圧)で使用する例を示したが、監視音源部1と基準音源部10とを別条件で駆動するとともに、監視受波素子3と基準受波素子30とを別条件で使用するようにしてもよい。この場合、監視空間Sp1に浮遊粒子の侵入がなく監視空間Sp1と基準空間Sp2とが同様の状態(たとえば、温度、湿度、大気圧)であるときに、監視音源部1および基準音源部10から同一周波数且つ同一位相の超音波を送波させても差動出力はゼロにはならないが、このときの差動出力を初期値とすれば、当該初期値からの差動出力の変化量に基づいて監視空間Sp1の煙濃度を推定することが可能である。
【0050】
以上説明した本実施形態の火災感知器では、煙濃度推定手段41において、差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視音源部1と監視受波素子3との間の監視空間Sp1の煙濃度を推定し、煙式判断手段42において、煙濃度推定手段41にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断するので、散乱光式煙感知器や減光式煙感知器のような光電式の火災感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくすことができ、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができて火災発生時に監視空間Sp1へ煙粒子が拡散しやすくなるから、散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上でき、さらに、減光式煙感知器に比べて非火災報の低減が可能になる。
【0051】
また、上述した構成の火災感知器においては、周囲環境の変化(たとえば、温度、湿度、大気圧などの変化)に応じて、監視音源部1から送波される超音波の音圧が変化したり、煙濃度が一定でも媒質である空気を伝搬する際の超音波の減衰率が変化したり、監視受波素子3の感度が変化したりすることが原因で、監視空間Sp1の煙濃度にかかわらず監視受波素子3の出力が変化することがある。ただし、このときの監視受波素子3の出力変動と同等の出力変動は基準受波素子30の出力にも生じることとなるので、監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差に相当する差動出力においては、監視受波素子3の出力変動と基準受波素子30の出力変動とが相殺されることでこれらの出力変動の影響は除去される。したがって、監視受波素子3単体の出力ではなく差動出力の初期値からの変化量に基づいて監視空間Sp1の煙濃度を推定する本実施形態の火災感知器では、周囲環境の変化があっても、この変化の影響を受けずに監視空間Sp1の煙濃度を推定することができ、結果的に監視空間Sp1における煙濃度の推定の精度が向上し、非火災報や失報を低減することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の火災感知器では、音速検出手段43において、監視音源部1が超音波を送波してから超音波が監視受波素子3に受波されるまでの時間差に基づいて音速を求め、温度推定手段44において、音速検出手段43で求めた音速に基づいて上記監視空間Sp1の温度を推定し、熱式判断手段45において、温度推定手段44で推定された温度と規定温度とを比較して火災の有無を判断するので、別途に温度検出素子を用いることなく火災発生時の温度上昇によっても火災を感知することが可能となり、火災をより確実に感知することが可能になる。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態の火災感知器は、基本構成が実施形態1と略同じであり、実施形態1にて説明した監視受波素子3と基準受波素子30とが図6に示すように単一の差動型受波素子9からなる点が実施形態1の火災感知器と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0054】
本実施形態では、図7に示すように監視空間Sp1を形成する筒体81と基準空間Sp2を形成する筒体82とが、回路基板5(図2参照)の厚み方向に積み重ねて配置されている。これにより、監視空間Sp1と基準空間Sp2とは、筒体81および筒体82の互いに対向した側壁を隔壁とし、当該隔壁を隔てて隣接する。隔壁となる筒体81および筒体82の側壁は一体であってもよい。ここで、筒体81の長手方向における監視音源部1と反対側の端面、筒体82の長手方向における基準音源部10と反対側の端面はそれぞれ閉塞されている。
【0055】
差動型受波素子9は、上述した監視空間Sp1と基準空間Sp2とを隔てる隔壁に配設されている。この差動型受波素子9は、筒体81の内部空間である監視空間Sp1側と筒体82の内部空間である基準空間Sp2側とのそれぞれに音圧を受ける受圧部が形成されており、両受圧部で受けた音圧の差を検出するものである。また、図6では図示を省略しているが、差動型受波素子9と信号処理部4との間には差動型受波素子9の出力を増幅する増幅器が設けられている。ここでは、制御部2が同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御した際の差動型受波素子9の後段の増幅器の出力を差動出力とする。つまり、このように監視受波素子3と基準受波素子30とを単一の差動型受波素子9としたことで監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差分に相当する成分を差動型受波素子9から直接取り出すことができるので、実施形態1で説明したように監視受波素子3と基準受波素子30との差分をとる差動増幅部7(図1参照)は不要である。
【0056】
なお、本実施形態では回路基板5の一表面側に筒体81と筒体82とを重ねて配置した例を示したが、筒体81,82の代わりに単一の筒体8を用いるようにしてもよく、たとえば図8に示すように筒体8の内部空間を長手方向の中央部に設けた隔壁8bによって監視空間Sp1と基準空間Sp2とに2等分するようにしてもよい。この筒体8は、監視空間Sp1側に煙粒子を含む浮遊粒子が通過する大きさに形成され監視空間Sp1の内外を連通させる連通孔8aを有し、監視音源部1と基準音源部10とが、長手方向の各端面にそれぞれ配置されている。筒体8のうち基準空間Sp2を形成する部分は遮断壁を兼ねており、浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔(図示せず)が多数形成されているフィルタ(たとえば多孔質セラミックフィルタ)を少なくとも一部に有している。
【0057】
次に、本実施形態で用いる差動型受波素子9の一例として静電容量型のマイクロホンを例示する。差動型受波素子9を構成する静電容量型のマイクロホンは、図9に示すように、それぞれシリコン基板に厚み方向に貫通する窓孔91aを設けることで形成された矩形枠状の一対のフレーム91と、両フレーム91の間に挟みこまれた導電性材料からなる固定板93と、各フレーム91の固定板93とは反対の一表面側においてそれぞれ前記窓孔91aを閉塞する形に形成された導電性材料からなる一対の可動板92とを備える。固定板93は窓孔91a内に固定電極93bを有し、各可動板92は固定電極93bとの対向部位にそれぞれ可動電極92bを有する。ここで、可動板92における可動電極92bの周囲には、フレーム91の厚み方向に可動電極92bが振動可能となるように可動電極92bを保持する可撓部92cが形成されている。さらに、両可動電極92bは、固定電極93bに設けた透孔93cを通して導電性材料からなる連結片92dで互いに連結されており一体に動作する。各可動板92はそれぞれ窓孔91aの周囲に形成されたパッド92aに電気的に接続されており、固定板93は一方のフレーム91の一表面に形成されたパッド93aに対してフレーム91に形成した貫通孔配線93dによって電気的に接続されている。図9では図示を省略するが、フレーム91は少なくとも固定板93と可動板92と各パッド92a,93aと貫通孔配線93dとの接触部位には絶縁膜を有する。なお、図9の例では可動板92と固定板93とをそれぞれ金属薄膜から形成しているが、可動板92および固定板93は金属薄膜に限るものではない。また、可撓部92cはたとえばコルゲート構造であってもよい。
【0058】
図9に示した構成の静電容量型のマイクロホンからなる差動型受波素子9では、固定電極93bと両可動電極92bとを電極とするコンデンサが形成されるから、各可動電極92bがそれぞれ受圧部として機能し疎密波の圧力を受けることにより固定電極93bと各可動電極92bとの間の距離が変化し、固定電極93bと各可動電極92bとの間の静電容量が変化する。ここで、両可動電極92bは一体に動作するので、固定電極93bと両可動電極92bとの間の静電容量は、一方の可動電極92bで受けた音圧と他方の可動電極92bで受けた音圧との差分に応じて変化する。したがって、固定電極93bに電気的に接続したパッド93aと、各可動電極92bにそれぞれ電気的に接続したパッド92a,92aとの間に直流バイアス電圧を印加しておけば、パッド92a,92aとパッド93aの間には超音波の音圧に応じて微小な電圧変化が生じるから、超音波の音圧を電気信号に変換することができる。ここでは、両パッド92a,92aは連結片92dを介して電気的に接続されているので、直流バイアス電圧はいずれか一方のパッド92aとパッド93aとの間に印加すればよい。また、連結片92dを絶縁体材料から形成することで両可動電極92bが電気的に分離された構成とし、固定電極93bといずれか一方の可動電極92bとの間の静電容量の変化を計測するようにしてもよい。
【0059】
このように構成される差動型受波素子9は、監視空間Sp1と基準空間Sp2とを隔てる隔壁に対して、一方の可動板92を監視空間Sp1に向け他方の可動板92を基準空間Sp2に向けるように配設されることにより、監視空間Sp1で監視音源部1から受けた超音波の音圧と基準空間Sp2で基準音源部10から受けた超音波の音圧との差を出力する。この構成によれば、差動型受波素子9は平坦な周波数特性を有し、また、出力における残響成分の発生期間が短いという利点がある。
【0060】
ところで、本実施形態の信号処理部4は、制御部2が基準音源部10を上記非同期モードで制御し基準音源部10のみから超音波を送波させた状態での差動型受波素子9の出力を参照値として計測し、当該参照値の初期値からの変化量に基づいて前記差動出力を補正する出力補正手段(図示せず)を有する。すなわち、出力補正手段は、差動型受波素子9から参照値を受け、当該参照値の初期値からの変化率に基づく補正係数を保持し、この補正係数を使用して補正した差動出力を後段の煙濃度推定手段41に出力する。ここで、参照値の初期値は、火災感知器に経時変化(たとえば、経年劣化)が生じていないとき(たとえば、出荷前)に検出された参照値であって、あらかじめ出力補正手段に保持される。また、このように検出した参照値を初期値とするのではなく、設計段階で同等の初期値を設定(プログラム上で設定)するようにしてもよい。ここで、制御部2および信号処理部4は、監視音源部1および基準音源部10を駆動して監視空間Sp1の煙濃度を検出する前に毎回、基準音源部10を駆動して参照値を計測し補正係数を算出するように構成されており、したがって、補正係数は監視空間Sp1における煙濃度の検出の度に更新される。
【0061】
ここに、参照値の初期値からの変化率は、監視音源部1および基準音源部10や差動型受波素子9の経時変化(たとえば、経年劣化)に応じて決まることとなり、この変化率に基づく補正係数を用いて差動出力を補正すれば、上記経時変化の影響を除いた差動出力が得られる。したがって、煙濃度推定手段41で用いられる補正後の差動出力の初期値からの変化量においては経時変化の影響は除去され、監視空間Sp1における煙濃度の推定の精度が向上する。
【0062】
以下に、本実施形態の火災感知器の動作例を図10のフローチャートを基準して説明する。まず、たとえば火災感知器の出荷前において基準音源部10を非同期モードで駆動して参照値の初期値を取得し、当該初期値を出力補正手段に保持させる(ステップS1)。そして、火災感知器の設置後において、監視音源部1および基準音源部10を同期モードで駆動する前に基準音源部10を非同期モードで駆動して参照値を計測し、この参照値の初期値からの変化率に基づいて補正係数を算出する(ステップS2)。その後、監視音源部1および基準音源部10を同期モードで同時に駆動して差動出力を取得し、この差動出力を出力補正手段において上記補正係数を使用して補正することにより、差動出力から経時変化の影響を除去する(ステップS3)。そして、補正後の差動出力を用いて、煙濃度推定手段41で監視空間Sp1の煙濃度を推定し、煙式判断手段42で火災の有無を判断する(ステップS4)。ステップS4が終了すれば、補正係数を算出するステップS2に戻り、上述したステップS2〜S4の動作を定期的に繰り返す。
【0063】
ここにおいて、たとえば差動型受波素子9に経時変化によりMsensという量(0≦Msens≦1)の感度低下が生じたと仮定した場合に、基準音源部10のみから超音波を送波させたときの差動型受波素子9の出力(つまり、参照値)をPref、Prefの初期値をPref0、監視音源部1のみから超音波を送波させたときの差動型受波素子9の出力をPmes、Pmesの初期値をPmes0とすれば、出力補正手段は、
Pref=(1−Msens)×Pref0
の式から補正係数(1−Msens)を算出することができ、この補正係数を用いて、
Pmes0−Pref0=(1/(1−Msens))×(Pmes−Pref)
より差動出力(Pmes−Pref)を補正することができる。
【0064】
なお、本実施形態では監視空間Sp1の煙濃度を推定する前に毎回、基準音源部10のみから超音波を送波させて参照値を計測し補正係数を算出する例を示したが、監視空間Sp1の煙濃度を複数回推定するごとに補正係数の算出を1回行う構成であってもよく、たとえば補正係数が変動することの少ない環境においては、補正係数の算出(つまり更新)の頻度を少なくすることによって低消費電力化を図ることも可能である。
【0065】
以上説明した本実施形態の火災感知器では、定期的に、出力補正手段で差動出力を補正することにより、監視音源部1および基準音源部10や差動型受波素子9の経時変化(たとえば、経年劣化)に応じた差動出力の変動を除去することができ、長期的な信頼性が高くなる。また、実施形態1で説明したように監視受波素子3と基準受波素子30とを別々に設けて両者の出力の差を差動増幅部7でとり差分出力とする場合には、監視受波素子3と基準受波素子30とで個別に生じたノイズが差分出力にそれぞれ重畳する可能性があるが、本実施形態では、監視受波素子3と基準受波素子30とを単一の差動型受波素子9としたので、差動出力に含まれるノイズを低減することができSN比が向上するという効果がある。
【0066】
(実施形態3)
本実施形態の火災感知器は、基本構成が実施形態1と略同じであり、図11に示すように制御部2および信号処理部4の構成が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0067】
ところで、本願発明者らは、監視音源部1と監視受波素子3との間の監視空間Sp1の浮遊粒子の種別に応じて図12に示すように監視音源部1の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係が異なるという知見を得た。ここで、監視空間Sp1に浮遊粒子が存在しない状態で監視受波素子3にて受波される音圧(以下、基準音圧という)をI、減光式煙濃度計(減光式煙感知器)での評価でx%/mとなる濃度の浮遊粒子が監視空間Sp1に存在する状態で監視受波素子3にて受波される音圧をIとしたときに、(I−I)/Iで表される値を音圧の減衰率と定義し、特にx=1のときの減衰率を単位減衰率と定義する。ここにおいて、基準音圧Iと音圧Iとは、監視空間Sp1における浮遊粒子の有無を除いては同一の条件で検出されるものとする。図12中の「イ」は浮遊粒子が黒煙の煙粒子である場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒丸が測定データ)、「ロ」は浮遊粒子が白煙の煙粒子である場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒四角が測定データ)、「ハ」は浮遊粒子が湯気の粒子である場合の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す近似曲線(黒三角が測定データ)であり、ここに示す単位減衰率は、監視音源部1と監視受波素子3との間の距離を30cmに設定したときの各出力周波数ごとのデータである。また、図12における右端の各データは、出力周波数が82kHzのときのデータであり、出力周波数が82kHzのときのデータを1として各出力周波数の単位減衰率を規格化した結果を図13に示す。要するに、図13は、横軸が出力周波数、縦軸が相対的単位減衰率となっている。また、白煙の煙粒子のサイズは800nm程度、黒煙の煙粒子のサイズは200nm程度、湯気の粒子のサイズは数μm〜20μm程度である。ここで、監視空間Sp1に浮遊粒子が存在する状態で監視受波素子3にて受波される音圧Iの基準音圧Iに対する減衰量(I−I)は、上述した差動出力の初期値からの変化量に相当するので、(I−I)/Iで表される音圧の減衰率は、差動出力の初期値からの変化量を基準受波素子30の出力(基準音圧Iに相当)で除した値(以下、差動出力の変化率という)に相当する。特に、単位減衰率に相当する差動出力の変化率を単位変化率と定義し、出力周波数が82kHzのときの単位変化率を1として各出力周波数の単位変化率を規格化した結果を相対的単位変化率とする。
【0068】
上述の知見に基づいて、本実施形態では、制御部2が、監視音源部1と基準音源部10とのそれぞれから周波数の異なる複数種の超音波が順次送波されるように監視音源部1および基準音源部10を同期モードで制御するようにし、信号処理部4は、少なくとも基準受波素子30の出力、上記監視空間Sp1に存在する浮遊粒子の種別および浮遊粒子濃度に応じた監視音源部1の出力周波数と差動出力の相対的単位変化率(監視受波素子3の出力の相対的単位減衰率に相当)との関係データ(上述の図13より抽出されるデータに相当)、煙粒子に関して特定周波数(たとえば、82kHz)における差動出力の単位変化率(上述の図12より抽出されるデータに相当)を記憶した記憶手段48と、監視音源部1から送波された各周波数の超音波ごとの差動出力と記憶手段48に記憶されている関係データとを用いて上記監視空間Sp1に浮遊している粒子の種別を推定する粒子種別推定手段46と、粒子種別推定手段46にて推定された粒子が煙粒子のときに特定周波数(たとえば、82kHz)の超音波に対する差動出力の初期値からの変化量に基づいて上記監視空間Sp1の煙濃度を推定する煙濃度推定手段47と、煙濃度推定手段47にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段42とを有するようにしてある。
【0069】
以下に、本実施形態の火災感知器の動作例を図14のフローチャートを参照して説明する。まず、監視音源部1と基準音源部10とのそれぞれから複数種の超音波を順次送波させ各超音波に対する監視受波素子3および基準受波素子30の出力の差に相当する差動出力を信号処理部4で計測する(ステップS11)。粒子種別推定手段46は、各出力周波数ごとに差動出力と記憶手段48に記憶されている基準受波素子30の出力とから差動出力の変化率を求め(ステップS12)、出力周波数が82kHzでの差動出力の変化率に対する20kHzでの差動出力の変化率の比を算出する(ステップS13)。記憶手段48には、監視音源部1の出力周波数と差動出力の相対的単位変化率との上記関係データとして、出力周波数が82kHzでの相対的単位変化率に対する20kHzでの相対的単位変化率の比(図13の場合、白煙が0、黒煙が0.2、湯気が0.5となる)が記憶されており、粒子種別推定手段46は、算出した差動出力の変化率の比を記憶手段48に記憶されている関係データと比較し、関係データの中で変化率の比が最も近い種別の粒子を監視空間Sp1に浮遊している粒子と推定する(ステップS14)。ここで、推定された粒子が煙粒子であれば煙濃度推定手段47での処理に移行する(ステップS15)。ここにおいて、白煙の場合には図15に示すように減光式煙濃度計で計測される煙濃度と音圧の減衰率(差動出力の変化率に相当)との関係は直線で示すことのできるデータであり、他の粒子においても同様であるから、煙濃度推定手段47は、推定された粒子種別について特定周波数(たとえば、82kHz)の超音波に対する差動出力の変化率の記憶手段48に記憶されている差動出力の単位変化率に対する比を算出し、その比の値がyの場合に監視空間Sp1の煙濃度が減光式煙濃度計での評価における煙濃度y%/mに相当すると推定する(ステップS16)。煙式判断手段42は、ステップS16で推定された煙濃度と所定の閾値(たとえば、減光式煙濃度計での評価で10%/mとなる煙濃度)とを比較し、推定された煙濃度が上記閾値未満の場合には「火災無し」と判断する一方で、上記閾値以上の場合には「火災有り」と判断して火災感知信号を制御部2へ出力する。
【0070】
上述の例では、粒子種別推定手段46は出力周波数が82kHzのときの変化率と20kHzのときの変化率とを用いているが、これらの出力周波数の組み合わせに限定するものではなく、異なる組み合わせの出力周波数を用いてもよい。さらに、より多くの出力周波数に対する変化率を用いてもよく、その場合は粒子種別の推定の確度を向上させることができる。また、本実施形態では、煙濃度推定手段47が特定周波数として1周波数を対象としているが、特定周波数として複数の周波数を対象とし、各特定周波数ごとに推定した煙濃度の平均値を求めるようにしてもよく、この場合、煙濃度の推定の確度が向上する。なお、信号処理部4は、マイクロコンピュータにより構成されており、粒子種別推定手段46、煙濃度推定手段47、煙式判断手段42は、上記マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより実現されている。また、信号処理部4は、差動増幅部7の出力信号をアナログ−ディジタル変換するA/D変換器などが設けられている。
【0071】
ここで、監視音源部1と基準音源部10とのそれぞれには実施形態1にて説明した音波発生素子を各1つずつ用いており、上述の制御部2は、監視音源部1および基準音源部10へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、監視音源部1および基準音源部10から周波数の異なる複数種の超音波を順次送波させる。ここにおいて、制御部2は、監視音源部1から送波させる超音波の周波数を所定の周波数範囲(たとえば、20kHz〜82kHz)の下限周波数(たとえば、20kHz)から上限周波数(たとえば、82kHz)まで変化させるとともに、基準音源部10から送波させる超音波の周波数を、監視音源部1から送波させる超音波と同期して下限周波数(たとえば、20kHz)から上限周波数(たとえば、82kHz)まで変化させる。なお、本実施形態では、監視音源部1および基準音源部10の各々からそれぞれ周波数の異なる4種類の超音波が順次送波されるように制御部2が監視音源部1および基準音源部10を制御するように構成してあるが、監視音源部1および基準音源部10から送波させる超音波の周波数は4種類に限らず複数種類であればよく、たとえば、2種類とすれば、3種類以上の超音波を順次送波させる場合に比べて、制御部2および信号処理部4の負担を軽減できるとともに制御部2および信号処理部4の簡略化を図れる。本実施形態では、上述のように監視音源部1および基準音源部10のそれぞれに実施形態1にて説明した音波発生素子を用いることで、順次送波する超音波をそれぞれ周波数の異なる超音波とすることができるので、監視音源部1および基準音源部10のそれぞれに共振周波数の異なる複数の圧電素子を用いて各圧電素子から連続波の超音波を送波させる場合に比べて低コスト化を図れる。
【0072】
なお、本実施形態では、監視音源部1の出力周波数と差動出力の相対的単位変化率との関係データを記憶手段48に記憶した例を示したが、そもそも監視空間Sp1に存在する浮遊粒子の種別に応じて監視音源部1の出力周波数ごとに変化するのは差動出力の初期値からの変化量であるから、記憶手段48に記憶する上記関係データは、監視音源部1の出力周波数と差動出力の初期値からの変化量との関係を示すデータであればよく、上述の相対的単位変化率に代えて、たとえば、差動出力の初期値からの変化量や、差動出力の初期値からの変化量を基準受波素子30の出力で除しただけの変化率、あるいは単位変化率を採用した関係データを記憶手段48に記憶するようにしてもよい。
【0073】
以上説明した本実施形態の火災感知器では、粒子種別推定手段46において、監視音源部1から送波された各周波数の超音波ごとの差動出力と記憶手段48に記憶されている関係データとを用いて上記監視空間Sp1に浮遊している粒子の種別を推定し、粒子種別推定手段46にて推定された粒子が煙粒子のときに、煙濃度推定手段47において、特定周波数の超音波に対する差動出力の初期値からの変化量に基づいて上記監視空間Sp1の煙濃度を推定し、煙式判断手段42において、煙濃度推定手段47にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断するので、散乱光式煙感知器や減光式煙感知器のような光電式の火災感知器で問題となるバックグランド光の影響をなくすことができ、散乱光式煙感知器に必要なラビリンス体を不要とすることができて散乱光式煙感知器に比べて応答性を向上でき、また、減光式煙感知器に比べて非火災報の低減が可能になる。しかも、粒子種別推定手段46において上記監視空間Sp1に浮遊している粒子の種別を推定することで煙粒子と湯気とを識別可能となるから、散乱光式煙感知器および減光式煙感知器に比べて湯気に起因した非火災報を低減することが可能となり、台所や浴室での使用にも適する。また、粒子種別推定手段46において白煙の煙粒子と黒煙の煙粒子とを識別可能となるから、火災の性状の識別に役立てることも可能となる。また、火災感知器を設置している室内の掃除や天井裏の電気工事などの際に浮遊する粉塵と煙粒子との識別も可能になるから、粉塵などに起因した非火災報を低減することも可能となる。
【0074】
ところで、本実施形態では監視音源部1および基準音源部10をそれぞれ単一の音波発生素子により構成し、制御部2が監視音源部1および基準音源部10の各々へ与える駆動入力波形の周波数を順次変化させることにより、監視音源部1および基準音源部10の各々から周波数の異なる複数種の超音波を順次送波させるようにしているが、互いに出力周波数の異なる複数の音波発生素子で監視音源部1および基準音源部10をそれぞれ構成してもよい。この場合には、各音波発生素子として圧電素子のように機械的振動により超音波を発生する素子を用い、各音波発生素子をそれぞれの共振周波数で駆動することにより、監視音源部1および基準音源部10の各々から送波される超音波の音圧を高めてSN比の向上に寄与することができる。また、各音波発生素子を順次駆動して複数種の超音波を順次送波させるだけでなく、複数の音波発生素子を一斉に駆動して複数種の超音波を同時に送波させることも可能になる。
【0075】
また、各音波発生素子に対してそれぞれ個別の監視受波素子3および基準受波素子30を設けるようにしてもよく、この場合には、監視受波素子3および基準受波素子30のそれぞれに共振特性のQ値が比較的大きな圧電素子などを用い、各監視受波素子3および各基準受波素子30をそれぞれの共振周波数の超音波の受波に用いることにより、監視受波素子3および基準受波素子30の感度を向上させることができる。さらに、複数の音波発生素子を一斉に駆動して複数種の超音波を同時に送波させれば、複数種の超音波の音圧の減衰量を同時に検出することができ、監視空間Sp1の短期的な経時変化(たとえば浮遊粒子の濃度変化)の影響を受けることなく複数種の超音波について音圧の減衰量を検出して、浮遊粒子の種別や煙濃度を精度よく推定することができる。また、監視音源部1を構成する音波発生素子を監視受波素子3に兼用するとともに、基準音源部10を構成する音波発生素子を基準受波素子30に兼用することも考えられ、この場合、各音波発生素子から送波される超音波をそれぞれ当該音波発生素子に向けて反射する反射面が必要であるものの、素子数の低減による低コスト化を図ることができる。
【0076】
なお、その他の構成および機能は実施形態1と同様であり、たとえば本実施形態の火災感知器においても、図1に示した実施形態1と同様、信号処理部4に、音速検出手段43、温度推定手段44、熱式判断手段45を設けてもよい。
【0077】
また、上記各実施形態において、制御部2が、監視音源部1から防虫効果のある周波数の超音波を送波させるようにすれば、上記監視空間Sp1に虫が侵入するのを防止することができ、虫に起因した非火災報を低減できる。ここで、制御部2は、煙濃度を推定するために監視音源部1から送波させる周波数の超音波とは別に、制御部2が非同期モードで監視音源部1を制御して防虫効果のある周波数の超音波を定期的に送波させるようにしてもよいし、煙濃度を推定するために制御部2が同期モードで監視音源部1および基準音源部10を制御し監視音源部1から送波させる超音波の周波数を防虫効果のある周波数に設定するようにしてもよい。また、監視音源部1や基準音源部10は上述の図3に示した構成の音波発生素子に限らず、たとえば、アルミニウム製の薄板を発熱体部として当該発熱体部への通電に伴う発熱体部の急激な温度変化による熱衝撃によって音波を発生させるものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施形態1の構成を示すブロック図である。
【図2】同上の構成を示す概略下面図である。
【図3】同上に用いる音波発生素子を示す概略断面図である。
【図4】同上に用いる監視受波素子を示し、(a)は一部破断した概略斜面図、(b)は概略断面図である。
【図5】同上の動作説明図である。
【図6】本発明の実施形態2の構成を示すブロック図である。
【図7】同上の要部を示す概略斜視図である。
【図8】同上の他の例の要部を示す概略斜視図である。
【図9】同上に用いる差動型受波素子を示し、(a)は概略断面図、(b)は概略平面図である。
【図10】同上の動作例を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態4の構成を示すブロック図である。
【図12】同上の監視音源部の出力周波数と音圧の単位減衰率との関係を示す説明図である。
【図13】同上の監視音源部の出力周波数と相対的単位減衰率との関係を示す説明図である。
【図14】同上の動作例を示すフローチャートである。
【図15】同上の煙濃度と特定周波数の超音波の減衰率との関係を示す説明図である。
【図16】従来例を示し、(a)は概略下面図、(b)は概略側面図である。
【図17】同上の動作説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 監視音源部
2 制御部
3 監視受波素子
4 信号処理部
7 差動増幅部
8b 隔壁
9 差動型受波素子
10 基準音源部
11 ベース基板
12 熱絶縁層
13 発熱体層(発熱体部)
30 基準受波素子
41 煙濃度推定手段
42 煙式判断手段
46 粒子種別推定手段
47 煙濃度推定手段
48 記憶手段
92b 可動電極(受圧部)
93b 固定電極
Sp1 監視空間
Sp2 基準空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部空間に連通し外部空間から煙粒子を含む浮遊粒子が侵入可能な監視空間に対して超音波を送波可能な監視音源部と、煙粒子を含む浮遊粒子の侵入が遮断された基準空間に対して超音波を送波可能な基準音源部と、監視音源部および基準音源部を制御する制御部と、監視音源部から送波された超音波の音圧を検出する監視受波素子と、基準音源部から送波された超音波の音圧を検出する基準受波素子と、監視受波素子および基準受波素子の出力が同一周波数且つ同一位相となるように制御部が監視音源部および基準音源部を同期させて制御したときの監視受波素子および基準受波素子の出力の差に相当する差動出力に基づいて火災の有無を判断する信号処理部とを備え、信号処理部は、前記差動出力の初期値からの変化量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定する煙濃度推定手段と、煙濃度推定手段にて推定された煙濃度と所定の閾値とを比較して火災の有無を判断する煙式判断手段とを有することを特徴とする火災感知器。
【請求項2】
前記監視音源部と前記基準音源部とは周波数の異なる複数種の超音波をそれぞれから送波可能であって、前記信号処理部は、前記監視空間に存在する浮遊粒子の種別および煙濃度に応じた前記監視音源部の出力周波数と前記差動出力の初期値からの変化量との関係データを記憶した記憶手段と、前記監視音源部から送波された各周波数の超音波ごとの前記差動出力と記憶手段に記憶されている関係データとを用いて前記監視空間に浮遊している粒子の種別を推定する粒子種別推定手段とを有し、前記煙濃度推定手段は、粒子種別推定手段にて推定された粒子が煙粒子のときに特定周波数の超音波に対する前記差動出力の初期値からの変化量に基づいて前記監視空間の煙濃度を推定することを特徴とする請求項1記載の火災感知器。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記関係データとして前記音源部の出力周波数と前記差動出力の初期値からの変化量を前記基準受波素子の出力で除した変化率との関係データを記憶していることを特徴とする請求項2記載の火災感知器。
【請求項4】
前記監視音源部と前記基準音源部とはそれぞれ前記複数種の超音波を送波可能な単一の音波発生素子からなり、前記制御部は各音波発生素子からそれぞれ複数種の超音波が順次送波されるように前記監視音源部および前記基準音源部を制御することを特徴とする請求項2または請求項3記載の火災感知器。
【請求項5】
前記監視音源部および前記基準音源部は、発熱体部への通電に伴う発熱体部の温度変化により空気に熱衝撃を与えることで超音波を発生するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の火災感知器。
【請求項6】
前記監視音源部および前記基準音源部は、ベース基板の一表面側に前記発熱体部が形成されるとともに、ベース基板の前記一表面側で前記発熱体部とベース基板との間に設けられて前記発熱体部とベース基板とを熱絶縁する多孔質層からなる熱絶縁層を有してなることを特徴とする請求項5記載の火災感知器。
【請求項7】
前記監視空間と前記基準空間とは隔壁を隔てて隣接しており、前記監視受波素子と前記基準受波素子とは、隔壁に配設されるとともに前記監視空間側と前記基準空間側とのそれぞれに音圧を受ける受圧部が形成されており、前記制御部が前記監視音源部および前記基準音源部を同期させて制御したときに両受圧部で受けた音圧の差を前記差動出力として検出する単一の差動型受波素子からなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の火災感知器。
【請求項8】
前記信号処理部は、前記制御部で前記基準音源部を制御し前記基準音源部のみから超音波を送波させた状態での前記差動型受波素子の出力を参照値として計測し、当該参照値の初期値からの変化量に基づいて前記差動出力を補正する出力補正手段を有することを特徴とする請求項7記載の火災感知器。
【請求項9】
前記差動型受波素子は、互いに対向配置された固定電極と可動電極とを有し、前記両受圧部で受けた音圧の差に応じて固定電極と可動電極との間の距離が変化し固定電極と可動電極との間の静電容量が変化する静電容量型のマイクロホンからなることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の火災感知器。
【請求項10】
前記基準空間は煙粒子を含む浮遊粒子を遮断する遮断壁によって包囲されており、遮断壁は前記浮遊粒子を通過させない大きさの微細孔を有し、当該微細孔によって前記基準空間と前記外部空間とを連通させていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の火災感知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−234020(P2008−234020A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69091(P2007−69091)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】