説明

火花点火式内燃機関の制御システム

【課題】異常燃焼の発生を回避するとともに機関出力を確保しつつ幾何学的圧縮比を高くすることのできる火花点火式内燃機関の制御システムを提供する。
【解決手段】内燃機関本体の幾何学的圧縮比が11以上に設定されており、吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、α≧−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815となるように吸気弁の閉時期を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火式内燃機関に関し、特に内燃機関本体の幾何学的圧縮比が高いものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の幾何学的圧縮比を高めると、膨張比が高まり、これにより混合気の燃焼により発生した熱量をより多くピストンの下降運動に変換することができ、機関運転効率が向上することが知られている。また、一方で、幾何学的圧縮比を高めると、混合気が着火する圧縮上死点付近においてシリンダ内の温度が高まる結果混合気が異常燃焼しやすくなることが知られている。
【0003】
前記のような異常燃焼を回避するためには、シリンダ内に充填される空気量すなわち気筒充填量を低減する必要がある。例えば、特許文献1には、この異常燃焼を回避すべく、吸気弁閉時期を吸気下死点よりも遅角させることで気筒充填量を低下させる方法が開示されている。この方法によれば、気筒充填量を低下させるためにスロットル弁を絞る方法に比べて、吸気管の圧力ひいては吸気行程中の燃焼室内の圧力を低下させる必要がないので、ポンプ損失を抑制することができ、機関運転効率を低下させることなく気筒充填量を低下させることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−242709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような異常燃焼は、機関速度が低く、機関温度が高く、吸気温度が高く、そして吸気湿度が低いほど起きやすい。そのため、このような運転条件下では、吸気弁の閉時期をより遅角側にすることが好ましい。一方、機関速度が高く、機関温度が低く、吸気温度が低いといった運転条件下では、前記のような異常燃焼は起きにくい。そのため、このような運転条件下では、機関出力を確保するべく気筒充填量を高くすることが好ましく、吸気弁の閉時期を吸気下死点付近に設定する必要がある。このように、異常燃焼を回避しつつ機関出力を確保するためには吸気弁の閉時期を広範囲にわたって変更する必要がある。しかしながら、従来では、吸気弁の閉時期の可変範囲を広くすることで機関負荷の低負荷から高負荷への移行時等に吸気弁が十分に応答できない場合を考慮して、吸気弁の閉時期の可変範囲が十分な範囲に設定されていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、異常燃焼の発生を回避するとともに機関出力を確保しつつ幾何学的圧縮比を高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明者等は、幾何学的圧縮比が異なる複数の火花点火式内燃機関において、吸気弁の閉時期を種々に変更して異常燃焼の発生を回避可能な吸気弁の閉時期の限界について鋭意研究した結果、有効圧縮比が所定値以下となるように吸気弁の閉時期を設定すれば幾何学的圧縮比が高い場合にも異常燃焼を回避することができることを見出した。具体的には、オクタン価88RONの燃料では異常燃焼の発生を回避するために有効圧縮比を6.1以下に設定すればよいことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、シリンダと、当該シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドと、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記シリンダ内へ導入される空気が通過する吸気通路と、当該吸気通路から前記シリンダ内への空気の流入を遮断可能な吸気弁と、当該吸気弁の閉時期を可変とする吸気弁閉時期可変機構とを有する火花点火式内燃機関の制御システムであって、前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比が11以上に設定されており、前記吸気弁閉時期可変機構の作動を制御する制御手段を有し、前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、α≧−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815となるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システムである(請求項1)。
【0009】
このシステムによれば、内燃機関本体の幾何学的圧縮比を11以上として高い熱効率ひいては高い燃費性能を実現しつつ、吸気弁の閉時期を適切な値とすることで吸気弁の閉時期の可変範囲が過剰に広くなるのを回避して異常燃焼の発生の抑制と機関出力の確保とを両立することができる。
【0010】
ここで、前記関数−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815は、有効圧縮比が6.1となる際の吸気弁の閉時期の吸気下死点からの最大遅角量である。従って、この吸気弁の閉時期の吸気下死点からの最大遅角量を−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815より大きく設定して吸気弁の閉時期を十分に遅角側にすることで、有効圧縮比を6.1以下とし、オクタン価88RON以上の燃料に関して異常燃焼の発生を抑制しつつ内燃機関本体の幾何学的圧縮比を高圧縮比とすることができる。
【0011】
そして、機関速度が高いときに吸気弁の閉時期を早くすれば、機関速度が高い場合において気筒充填量が高くなるので、これにより機関出力を高めることができる。
【0012】
前記システムにおいて、制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も進角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度が45度よりも小さくなるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御するのが好ましい(請求項2)。
【0013】
このようにすれば、機関速度が高い運転条件等において気筒充填量を十分に確保することができ、機関出力をより確実に高めることができる。
【0014】
また、本発明者等は、オクタン価95RONの燃料では異常燃焼の発生を回避するために有効圧縮比を9.9以下に設定する必要があることを見出した。
【0015】
この観点によれば、本発明は、幾何学的圧縮比をε0とした場合における有効圧縮比が9.9となる際の吸気弁の閉時期の吸気下死点からの最大遅角量の式−0.5343×ε0+20.969×ε0−106.18を用いて、シリンダと、当該シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドと、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記シリンダ内へ導入される空気が通過する吸気通路と、当該吸気通路から前記シリンダ内への空気の流入を遮断可能な吸気弁と、当該吸気弁の閉時期を可変とする吸気弁閉時期可変機構とを有する火花点火式内燃機関の制御システムであって、前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比が14以上に設定されており、前記吸気弁閉時期可変機構の作動を制御する制御手段を有し、前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、α≧−0.5343×ε0+20.969×ε0−106.18となるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システムを提供する(請求項3)。
【0016】
このシステムによれば、オクタン価95RON以上の燃料において、内燃機関本体の幾何学的圧縮比を14以上として高い熱効率ひいては高い燃費性能を実現しつつ、異常燃焼の発生の抑制と機関出力の確保とを両立することができる。
【0017】
このシステムにおいて、前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も進角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度が45度よりも小さくなるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御するのが好ましい(請求項4)。
【0018】
このようにすれば、機関速度が高い運転条件等において気筒充填量を十分に確保することができ、機関出力をより確実に高めることができる。
【0019】
また、本発明者等は、オクタン価91RONの燃料では異常燃焼の発生を回避するために有効圧縮比を7.7以下に設定する必要があることを見出した。
【0020】
この観点によれば、本発明は、幾何学的圧縮比をε0とした場合における有効圧縮比が7.7となる際の吸気弁の閉時期の吸気下死点からの最大遅角量の式−0.3591×ε0+14.292×ε0−29.28を用いて、シリンダと、当該シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドと、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記シリンダ内へ導入される空気が通過する吸気通路と、当該吸気通路から前記シリンダ内への空気の流入を遮断可能な吸気弁と、当該吸気弁の閉時期を可変とする吸気弁閉時期可変機構とを有する火花点火式内燃機関の制御システムであって、前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比が12以上に設定されており、前記吸気弁閉時期可変機構の作動を制御する制御手段を有し、前記制御手段は、前記内燃機関の機関速度が高いほど前記吸気弁の閉時期が遅くなるように、かつ、前記吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、α≧−0.3591×ε0+14.292×ε0−29.28となるように、かつ、前記吸気弁の閉時期の最も進角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度が45度よりも小さくなるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システムである(請求項5)。
【0021】
このシステムによれば、オクタン価91RON以上の燃料において、内燃機関本体の幾何学的圧縮比を12以上として高い熱効率ひいては高い燃費性能を実現しつつ、異常燃焼の発生の抑制と機関出力の確保とを両立することができる。
【0022】
また、本発明において、前記制御手段は、前記火花点火式内燃機関の機関始動時において、当該火花点火式内燃機関の燃焼室内の温度が高いほど前記吸気弁の閉時期を遅角するように前記吸気弁閉時期可変機構を制御するのが好ましい(請求項6)。
【0023】
このようにすれば、シリンダ内の吸気の温度が上昇しにくく異常燃焼の発生の懸念が小さい冷間始動時において気筒充填量を高め始動トルクを確保することができるとともに、シリンダ内の吸気の温度が上昇しやすい熱間始動時において気筒充填量を小さく抑えて異常燃焼の発生を抑制することができる。
【0024】
本発明において、前記吸気弁閉時期可変機構は、電動モータにより駆動されることで前記吸気弁の閉時期を変更するのが好ましい(請求項7)。
【0025】
このようにすれば、吸気弁の閉時期を広範囲にわたって容易に変更することができる。
【0026】
また、本発明において、前記吸気弁駆動機構は、前記ピストンに接続されたクランクシャフトにより駆動されて前記吸気弁を駆動する吸気カムシャフトと、前記クランクシャフトに対する前記吸気カムシャフトの位相を変化させる位相可変機構とを備え、前記火花点火式内燃機関は、前記シリンダ内から排出される排気が通過する排気通路と、前記シリンダ内から前記排気通路への排気の流出を遮断可能な排気弁と、前記ピストンに接続されたクランクシャフトにより駆動されて前記排気弁を駆動する排気カムシャフトと、前記燃料噴射弁に燃料を供給する燃料ポンプとを備え、前記燃料ポンプは、前記排気カムシャフトに接続されて当該排気カムシャフトにより駆動されるのが好ましい(請求項8)。
【0027】
このようにすれば、吸気弁の閉時期を広範囲にわたって変更しつつ、燃料ポンプを安定して駆動することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、異常燃焼の発生を回避するとともに機関出力を確保しつつ幾何学的圧縮比を高くすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る火花点火式内燃機関の制御システムの全体構造の概略図である。
【図2】吸気カムシャフト位相可変機構の概略断面図である。
【図3】高圧燃料ポンプと排気カムシャフトとの連結を説明するための図である。
【図4】エンジン制御器における各種アクチュエータの制御手順を説明するためのフローチャートである。
【図5】吸気バルブのバルブリフトおよびバルブ速度を示す図である。
【図6】吸気バルブの閉タイミングと空気充填量との関係を説明するための図である。
【図7】オクタン価88RONの燃料における幾何学的圧縮比と吸気バルブの閉タイミングの関係を示す図である。
【図8】オクタン価91RONの燃料における幾何学的圧縮比と吸気バルブの閉タイミングの関係を示す図である。
【図9】オクタン価95RONの燃料における幾何学的圧縮比と吸気バルブの閉タイミングの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は本発明に係るエンジンシステム(火花点火式内燃機関の制御システム)の全体構造を概略的に示したものである。このエンジンシステムは、エンジン本体(火花点火式内燃機関)1と、このエンジン本体1に付随する様々なアクチュエータを制御するためのエンジン制御器(制御手段)100とを有している。
【0032】
前記エンジン本体1は、自動車等の車両に搭載される4サイクルの火花点火式内燃機関であって、前記車両を推進すべく、その出力軸は変速機を介して駆動輪に連結されている。このエンジン本体1は、シリンダーブロック12とその上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。このシリンダーブロック12とシリンダヘッド13との内部には複数のシリンダ(気筒)11が形成されている。これらシリンダ11の数は特に限定されるものではないが、例えば4つのシリンダ11が形成されている。また、前記シリンダーブロック11には、ジャーナル、ベアリングなどによってクランクシャフト14が回転自在に支持されている。
【0033】
前記各シリンダ11内にはピストン15がそれぞれ摺動自在に嵌挿されており、各ピストン15の上方には前記シリンダヘッド13との間でそれぞれ燃焼室17が区画されている。
【0034】
ここで、本実施形態では、エンジン本体1の幾何学的圧縮比ε0が、機関熱効率を高め燃費性能を向上するべく11以上に設定されている。幾何学的圧縮比ε0とは、周知の通り、前記ピストン15が上死点に位置するときの燃焼室17の容積と、ピストン15が下死点に位置するときの燃焼室17の容積との比であり、ピストン15が上死点(TDC)にあるときの燃焼室17の容積をV1、排気量(行程容積)をV0として、(V0+V1)/V1と表される。
【0035】
前記シリンダヘッド13には、各燃焼室17に連通する2つの吸気ポート18と2つの排気ポート19とが形成されている。また、前記シリンダヘッド13には、各吸気ポート18をそれぞれ前記燃焼室17から遮断するための吸気バルブ(吸気弁)21と、各排気ポート19をそれぞれ前記燃焼室17から遮断するための排気バルブ(排気弁)22とが設けられている。前記吸気バルブ21は後述する吸気弁駆動機構(吸気弁閉時期可変機構)30により駆動されることで、所定のタイミング(時期)で各吸気ポート18を開閉する。一方、前記排気バルブ22は後述する排気弁駆動機構40により駆動されることで、前記各排気ポート19を開閉する。
【0036】
前記吸気弁駆動機構30および前記排気弁駆動機構40は、それぞれ吸気カムシャフト31と排気カムシャフト41とを有している。この吸気カムシャフト31および排気カムシャフト41は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフト14に連結されている。前記動力伝達機構は、前記クランクシャフト14が2回転する間に、カムシャフト31、41が1回転するように構成されている。
【0037】
また、前記吸気弁駆動機構30には、前記動力伝達機構と前記吸気カムシャフト31との間に吸気カムシャフト位相可変機構(位相可変機構)32が設けられている。
【0038】
前記吸気カムシャフト位相可変機構32は、クランクシャフト14に対する吸気カムシャフト31の回転位相を変更することで吸気バルブ21の開閉時期を可変とするものであって、該回転位相変更のための回転力を、電動モータ151(図2参照)により発生させるように構成されている。
【0039】
具体的には、吸気カムシャフト位相可変機構32は、図2に示すように前記電動モータ151と、電動モータ151の出力軸151aに連結シャフト152を介して回転一体に連結されたロータ153と、ロータ153にギヤ結合されたスプロケット本体154と、同じくロータ153にギヤ結合されたカム一体ギヤ155とを有している。
【0040】
電動モータ151は、その回転軸心が吸気カムシャフト31の回転軸心に一致するように配設されている。
【0041】
前記カム一体ギヤ155は、吸気カムシャフト31の一端部にこれと同軸で、不図示のノックピンを介して回転一体に結合された円板状部材からなる。カム一体ギヤ155における該カムシャフト31とは反対側の面には、円筒状凹部が形成されており、この円筒状凹部の内周面には、ロータボス部162のギヤ部162aに噛合するギヤ部155aが形成されている。
【0042】
スプロケット本体154は、その外周面に、前記チェーン(図示省略)と噛合するスプロケットギヤ部154aを有する円筒状をなしており、スプロケット本体154の軸心は、電動モータ151の回転軸心(吸気カムシャフト31の軸心)に一致している。スプロケット本体154の内周面には、ロータ本体161のギヤ部161aに噛合するギヤ部154bが形成されている。
【0043】
連結シャフト152は、モータ出力軸151aと同軸に回転一体で連結された段付シャフトからなるものであって、大径部152aと小径部152bとで構成されている。
【0044】
連結シャフト152の小径部152bの外周面には、ロータ153のスプライン凹部153cと噛合するスプライン歯部152cが形成されている。
【0045】
ロータ153は、外周面にギヤ部161aを有するロータ本体161と、外周面にギヤ部162aを有するロータボス部162とで構成されており、ロータ153の内周面には、前記スプライン凹部153cが形成されている。そして、ロータ153は、該スプライン凹部153cと前記スプライン歯部152cとのスプライン結合によって連結シャフト152と一体で回転するように構成されている。
【0046】
ロータ153の軸心(ロータ本体161及びロータボス部162の軸心)は、電動モータ151の回転軸心(電動モータ151の出力軸151aの軸心)に対して所定距離だけ偏心している(この偏心量は僅かであるため図示はされていない)。ロータ本体161のギヤ部161aの歯数は、ギヤ部154bの歯数よりも一歯少なくなっている。同様に、ロータボス部162のギヤ部162aの歯数は、ギヤ部155aの歯数よりも一歯少なくなっている。このことで、ロータ153(ロータ本体161及びロータボス部162)と、スプロケット本体154及びカム一体ギヤ155と、の間で偏心遊星歯車機構が構成されることとなる。
【0047】
そして、電動モータ151をスプロケット本体154の回転方向(クランクシャフト14の回転方向に一致する方向)と同方向に回転させると、この回転量に応じて、カム一体ギヤ155が同方向に回転して吸気カムシャフト31の回転位相がスプロケット本体154(クランクシャフト14)に対して進角し、電動モータ151をスプロケット本体154の回転方向とは逆向きに回転させると、この回転量に応じて、吸気カムシャフト31の回転位相がクランクシャフト14に対して遅角することとなる。吸気カムシャフト31の位相角は、カム位相センサ39により検出され、その信号θIVC_Aはエンジン制御手段100に送信される。
【0048】
後述するように、本エンジンシステムでは、吸気バルブ21のバルブタイミング(開閉時期)が非常に広範囲にわたって設定されている。これに対して、前述のように、本実施形態では、電動モータ151により吸気カムシャフト31の位相が変更され吸気バルブ21のバルブタイミングが変更されることで、このバルブタイミングをすばやく、かつ、大きく容易に変更することができる。
【0049】
前記排気弁駆動機構40にも、前記動力伝達機構と前記排気カムシャフト41との間に排気カムシャフト位相可変機構42が設けられている。この排気カムシャフト位相可変機構42は、排気バルブ22のバルブタイミングを変更するためのものであり、前記排気カムシャフト41と同軸に配置されてクランクシャフト14により直接駆動される被駆動軸と排気カムシャフト41との間の位相差を変更することで、前記クランクシャフト14と前記排気カムシャフト41との間の位相差を変更して排気バルブ22の開閉時期を可変とする。
【0050】
この排気カムシャフト位相可変機構42は、例えば、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に周方向に並ぶ複数の液室を有し、これら液室間に圧力差を設けることで前記位相差を変更する液圧式機構や、前記被駆動軸と前記排気カムシャフト41との間に設けられた電磁石を有し、前記電磁石に電力を付与することで前記位相差を変更する電磁式機構等が挙げられる。この排気カムシャフト位相可変機構42は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて作動制御される。
【0051】
前記排気カムシャフト41には、後述する燃料噴射弁53に燃料を供給するための高圧燃料ポンプ(燃料ポンプ)170(図3参照)が連結されている。この高圧燃料ポンプ170は、往復移動するプランジャにより燃料を加圧してその燃料をインジェクタに供給するものであり、排気カムシャフトの回転によりプランジャが駆動される。本実施形態では、吸気バルブ21のバルブタイミングに比べて排気バルブ22のバルブタイミングの可変範囲が小さく設定されている。そのため、吸気カムシャフト31よりも排気カムシャフトの方が位相変化量が小さく、この排気カムシャフト41側に高圧燃料ポンプ170を連結することでこの高圧燃料ポンプ170安定して駆動することができる。
【0052】
前記吸気ポート18は、吸気マニホールド55を介してサージタンク55aに連通している。このサージタンク55aの上流の吸気通路にはスロットルボデー56が設けられている。このスロットルボデー56の内部には、外部から前記サージタンク55aに向かう吸気流量を調整するためのスロットル弁57が枢動自在に設けられている。このスロットル弁57は、スロットルアクチュエータ58により駆動されて、前記吸気通路の流路面積を変更して吸気流量を変更する。このスロットルアクチュエータ58は、前記スロットル弁57の開度が後述するエンジン制御器100で算出されたスロットル開度TVOとなるようにこのスロットル弁57を駆動する。
【0053】
前記排気ポート19は、排気マニホールド60を介して排気管に連通している。この排気管には排ガス浄化システムが配置されている。この排ガス浄化システムの具体的構成は特に限定されるものではないが、例えば三元触媒、リーンNOx触媒、酸化触媒等の触媒コンバータ61を有するものが挙げられる。
【0054】
前記吸気マニホールド55と前記排気マニホールド60とはEGRパイプ62によって連通しており、排ガスの一部が吸気側に循環するよう構成されている。前記EGRパイプ62には、EGRバルブアクチュエータ64により駆動されて、このEGRパイプ62を通って吸気側に循環するEGRガスの流量を調整するためのEGRバルブ63が設けられる。このEGRバルブアクチュエータ64は、前記EGRバルブ63の開度が後述するエンジン制御器100で算出されたEGR開度EGRopenとなるようにこのEGRバルブ63を駆動し、これにより前記EGRガスの流量を適切な値に調整する。
【0055】
前記シリンダヘッド13には、先端が前記燃焼室17に臨むように点火プラグ51が取り付けられている。この点火プラグ51は、点火システム52により後述するエンジン制御器100で算出された点火時期SAに基づいて通電されると、前記燃焼室17内に火花を発生させる。
【0056】
前記シリンダヘッド13には、燃料を燃焼室17内に直接噴射するための燃料噴射弁53がその先端が前記燃焼室17に臨むように取り付けられている。より詳細には、この燃料噴射弁53は、その先端が、上下方向において前記2つの吸気ポート18の下方に位置するよう、かつ、水平方向において前記2つの吸気ポート18の中間に位置するように配置されている。この燃料噴射弁53は、その内部に設けられたソレノイドが、燃料システム54により後述するエンジン制御器100で算出された燃料噴射量FPに基づいて所定期間だけ通電されることで、前記燃焼室17内に所定量の燃料を噴射する。
【0057】
前記エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行するためのCPUと、RAMやROMからなりプログラム及びデータを格納するメモリと、各種信号の入出力を行なうI/Oバスとを備えている。
【0058】
前記エンジン制御器100には、前記I/Oバスを介して、水温センサ77で検出されたエンジン冷却水の温度(機関温度)TENG、吸気温度センサー78で検出されたスロットル弁57上流の吸入空気の温度TINT、エアフローメーター71により検出された吸入空気量AF、吸気圧センサ72により検出された吸気マニホールド55内の空気圧力MAP、クランクアングルセンサ73により検出されたクランク角パルス信号、酸素濃度センサ74により検出された排ガスの酸素濃度EGO、アクセル開度センサ75により検出された自動車のドライバーによるアクセルペダルの踏み込み量ACP、車速センサ76により検出された車速VSPといった各種の情報が入力される。
【0059】
そして、このエンジン制御器100は、前記各入力情報に基づいて、シリンダ11内の空気充填量や点火時期等が運転条件に応じて適切な値になるように、各種アクチュエータに対する指令値を計算する。例えば、スロットル開度TVO、燃料噴射量FP、点火時期SA、EGR開度EGRopen、吸気バルブ21のバルブタイミングおよび排気バルブ22のバルブタイミングの指令値を計算し、それらを、燃料システム54、点火システム52、EGRバルブアクチュエータ64、前記スロットルアクチュエータ58、吸気カムシャフト位相可変機構32の電動モータ151および排気カムシャフト位相可変機構42等に出力する。
【0060】
前記エンジン制御器100における具体的な演算手順を図4のフローチャートを用いて説明する。
【0061】
まず、前記アクセルペダルの踏み込み量ACP等の各種信号を読み込む(ステップS1)。
【0062】
次に、前記アクセルペダルの踏み込み量ACP、前記クランク角パルス信号から算出されるエンジン本体1の回転数(機関速度)NENGおよび車速VSPに基づき目標トルクTQを算出する(ステップS2)。
【0063】
次に、前記ステップS2で算出された目標トルクTQおよび回転数NENGに基づき、燃料噴射量FP、目標空気充填量(シリンダ11内の空気充填量CEの目標値)CEおよび点火時期SAを算出する(ステップS3)。
【0064】
そして、前記ステップS3で算出された目標空気充填量CEと回転数NENGとに基づき、吸気バルブ21のバルブタイミング、すなわち、吸気バルブ21の開タイミング(開時期)θIVO_Dおよび吸気バルブ21の閉タイミング(閉時期)θIVC_Dを算出する。ここで、本実施形態では吸気バルブ21の開弁期間は一定に保たれており、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの算出に伴って吸気バルブ21の開タイミングθIVO_Dも算出される。また、前記目標空気充填量CEと回転数NENGとに基づき、前記排気バルブ22のバルブタイミング、すなわち、排気バルブ22の開タイミング(開時期)θEVO_Dおよび閉タイミングθEVC_D(閉時期)を算出する(ステップS4)。
【0065】
なお、前記吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの算出方法の詳細については後述する。
【0066】
さらに、前記目標空気充填量CEと回転数NENGとに基づき、前記スロットル弁57の開度の指令値TVOを算出する(ステップS5)。
【0067】
その後、算出された燃料噴射量FP、点火時期SA、吸気バルブ21の開タイミングθIVO_D、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_D、排気バルブ22の開タイミングθEVO_D、排気バルブ22の閉タイミングθEVC_D、スロットル開度TVOに基づき、これらの指令値が満足されるように各アクチュエータを駆動する(ステップS6)。
【0068】
具体的には、信号θIVO_DおよびθIVC_Dは吸気カムシャフト位相可変機構32(電動モータ151)に出力される。そして、吸気カムシャフト31のクランクシャフト14に対する位相がθIVO_DおよびθIVC_Dに対応した値となるように、前記吸気カムシャフト位相可変機構32が作動する。
【0069】
信号θEVO_DおよびθEVC_Dは排気カムシャフト位相可変機構42に出力される。そして、排気カムシャフト41のクランクシャフト14に対する位相がθEVO_DおよびθEVC_Dに対応した値となるように、この排気カムシャフト位相可変機構42が作動する。
【0070】
信号TVOはスロットルアクチュエータ58に出力される。そして、スロットル弁57の開度がTVOに対応した値となるように、前記スロットルアクチュエータ58が作動する。
【0071】
信号FPは、燃料システム54に出力される。1気筒サイクル当りFPに対応した量の燃料が燃料噴射弁53から噴射される。
【0072】
そして、信号SAは、点火システム52に出力される。気筒サイクル中のSAに対応した時期に、点火プラグ51が発火して、燃焼室17内の混合気を着火する。これにより、必要とされる量の空気、燃料からなる混合気を、適切な時期に着火して燃焼させることで、主に前記アクセルペダルの踏み込み量ACPから求められる目標トルクがエンジン本体1から発生される。
【0073】
次に、前記ステップS4における吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの算出方法すなわち吸気バルブ21の具体的な制御方法について説明する。なお、以下の説明の中で吸気バルブ21の閉タイミングについての時期を表す数値はクランク角によるものであり、図5に示すように、吸気バルブ21のリフト量が0.2mmとなりバルブ速度が緩やかになる角度である。図5はクランク角に対する吸気バルブ21のリフト量およびバルブ速度を示したものである。
【0074】
吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dは、BDC(吸気下死点)よりも遅角側において、最も遅角側に設定された後述する最遅角角度と最も進角側に設定された後述する最進角角度との間で、エンジンの回転数NENGの増加とともに進角するよう制御される。また、この吸気バルブの閉タイミングθIVC_Dは、エンジン本体1の始動時には、前記水温センサ77で検出されたエンジン冷却水の温度TENG及び吸気温度センサー78で検出された吸気温度TINTから演算される燃焼室17内の温度が高いほど遅角するように制御される。
【0075】
シリンダ11内の空気充填量CEは、図6に示すように、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DがBDCよりも遅角側において最も大きくなる。そして、この空気充填量CEは、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dがこの空気充填量CEが最大となる角度よりも遅角するほどシリンダ11内の空気が吸気通路側へ吹き返すことで減少する。そこで、本エンジンシステムでは、前述のように吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DをBDCよりも遅角側とし、その遅角量を変更することでシリンダ11から吸気通路側への空気の吹き返し量を変更して、シリンダ11内の空気充填量CEを運転条件に応じた値に制御する。このように吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの変更により空気充填量CEを変更することで、スロットル弁57によって空気充填量CEを変更する場合に比べてポンプ損失が抑制される。 前記吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの最遅角角度は、そのBDCからの遅角量αがエンジン本体1の幾何学的圧縮比ε0としてα≧−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815を満足する値に設定されている。すなわち、図7において、遅角量αは二次曲線L1よりも上方に設定されている。このように最遅角角度を設定したのは、以下に述べる検討結果に基づく。
【0076】
前述のように、本エンジンシステムでは、エンジン本体1の圧縮比が少なくとも11以上の高圧縮比に設定されており、混合気が着火する圧縮上死点付近においてシリンダ11内の温度が高まることで異常燃焼しやすい。そのため、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dを十分に遅角側にし、空気充填量CEを十分に抑える必要がある。
【0077】
これについて、本発明者等は、幾何学的圧縮比ε0が異なる複数の火花点火式内燃機関において吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dを種々に変更し、異常燃焼が生じる吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの限界角度を実験により計測した。具体的には、幾何学的圧縮比ε0が11、13、15のエンジンに対してこの実験を行った。ここで、異常燃焼は、エンジン回転数NENGが低く、吸気の温度およびエンジン冷却水の温度が高く、かつ、湿度が低い条件において最も発生しやすい。そこで、エンジン回転数を500rpmとし、吸気ポートにおける吸気の温度を70℃、湿度を3〜12g/m、エンジン水温を105℃として実験を行った。
【0078】
オクタン価が88RONの燃料を用いて、幾何学的圧縮比ε0が11、13、15のエンジンに対して前記実験を行った結果、吸気ポートにおける吸気の温度が100℃、湿度が0g/m、エンジン水温が115℃の最も異常燃焼が発生しやすい条件において、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DのBDCからの遅角量αを図7のP1、P2、P3で示す値よりも小さくすなわち進角側にすると異常燃焼が発生することが判明した。すなわち、この各点P1,P2、P3の角度が異常燃焼を発生させないための限界角度であることがわかった。そして、これら限界角度における有効圧縮比はいずれも6.1であり、有効圧縮比を6.1以下に抑えれば異常燃焼を回避することが可能であることがわかった。
【0079】
前記有効圧縮比εは、ピストン15が上死点に位置するときの燃焼室17の容積をV2とし、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dにおける燃焼室17(シリンダ11のうちピストン15の上方に区画される部分)の容積をVIVCとすると、ε=1+VIVC/V2で表される。
【0080】
前記吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dにおける容積VIVCは、コンロッドの長さlとクランク半径rとの比k=l/rとすると、排気量V0を用いて、VIVC=(k+1−√(k−sinθIVC_D)+cosθIVC_D)×V0/2とかける。
【0081】
ここで、前記燃焼室17の容積V2は、エンジンの運転に伴って、燃焼室17の壁面にデポジットが付着する結果、幾何学的圧縮比ε0を算出する際に用いられる初期の燃焼室17の容積V1よりも小さくなることがわかっている。そして、この燃焼室17の容積V2は、幾何学的圧縮比ε0と排気量V0とを用いてV0/V2≦ε0+0.4で表されることがわかっている。そこで、確実に前記有効圧縮比εを6.1以下にするために、この燃焼室17の容積V2をV0/(ε0+0.4)とすると、前記吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dにおける有効圧縮比εはε=1+(k+1−√(k−sinθIVC_D)+cosθIVC_D)×(ε0+0.4)/2となる。
【0082】
前記コンロッドの長さlとクランク半径rとの比kは3.5〜3.9にあることがわかっており、この値を用いるとともに一部式を簡略化すると、有効圧縮比ε≦6.1となる吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DのBDCからの遅角量αはα≧−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815となる。
【0083】
従って、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dを幾何学的圧縮比ε0の二次関数f1=−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815で算出される角度よりもより遅角側に制御することで、有効圧縮比εを6.1以下とすることができ、少なくともオクタン価が88RON以上の燃料において幾何学的圧縮比を高めつつ異常燃焼の発生を回避することができる。
【0084】
同様に、オクタン価が91RONの燃料を用いて、幾何学的圧縮比ε0が12、14、16のエンジンに対して前記実験を行ったところ、この燃料では、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DのBDCからの遅角量αを図8のP11、P12、P13で示す値よりも小さくして有効圧縮比を7.7以下とし、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DのBDCからの遅角量αをα≧−0.3591×ε0+14.292×ε0−29.28を満足する値すなわち図8に示すラインL2よりも上方の値に設定することで異常燃焼の発生を回避することが判明した。従って、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dをこの幾何学的圧縮比ε0の二次関数f2=−0.3591×ε0+14.292×ε0−29.28で算出される角度よりもより遅角側に制御することで、オクタン価が91RON以上の燃料において幾何学的圧縮比を高めつつ異常燃焼の発生を回避することができる。
【0085】
ここで、91RONの燃料は異常燃焼を発生しにくい燃料である。従って、この91RONの燃料を用いる場合には、前記吸気弁の閉時期の範囲設定は、特に幾何学的圧縮比が12以上において有効である。
【0086】
また、オクタン価が95RONの燃料を用いて、幾何学的圧縮比ε0が21、22、23のエンジンに対して前記実験を行ったところ、この燃料では、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DのBDCからの遅角量αを図9のP21、P22、P23で示す値よりも小さくして有効圧縮比を9.9以下とし、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DのBDCからの遅角量αをα≧−0.5343×ε0+20.969×ε0−106.18を満足する値すなわち図9に示すラインL3よりも上方の値に設定することで異常燃焼の発生を回避することが判明した。従って、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dをこの幾何学的圧縮比ε0の二次関数f3=−0.5343×ε0+20.969×ε0−106.18で算出される角度よりもより遅角側に制御することで、オクタン価が95RON以上の燃料において幾何学的圧縮比を高めつつ異常燃焼の発生を回避することができる。
【0087】
ここで、この95RONの燃料は前記91RONの燃料よりもさらに異常燃焼を発生しにくい燃料である。従って、この95RONの燃料を用いる場合には、前記吸気弁の閉時期の範囲設定は、特に幾何学的圧縮比が14以上において有効である。
【0088】
なお、図7および図8の三角印で表した複数のデータは日本国内で一般的に使用されている自動車のエンジンにおける幾何学的圧縮比と吸気バルブ21の閉タイミングである。また、図9の四角印で表した複数のデータは95RONの燃料が主に使用されるヨーロッパで一般的に使用されている自動車のエンジンにおける幾何学的圧縮比と吸気バルブ21の閉タイミングである。
【0089】
一方、前記吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの最進角角度は、そのBDCからの遅角量が45℃A以下に設定されている。
【0090】
前述のように、空気充填量CEが最大となる吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_DはBDCより遅角側である。本発明者等は、種々のエンジンにおいてこの空気充填量CEが最大となる吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dを計測したところ、ABDC35℃〜45℃Aであることを見出した。従って、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの最進角角度を少なくともABDC45℃Aより進角側、すなわち、BDCからの遅角量を45℃A以下に設定することで、十分な空気充填量CEを確保することができる。
【0091】
以上のように、本エンジンシステムでは、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの最遅角角度を前記各関数f1、f2、f3より算出される値より遅角側にすることで、エンジン本体1の幾何学的圧縮比を高圧縮比としつつ、異常燃焼を回避することができる。そして、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dの最進角角度をABDC45℃A以下とすることで、空気充填量CEを確保して機関出力を高めることができる。また、吸気バルブ21の閉タイミングθIVC_Dをこのように最適な範囲とすることで、吸気バルブ21の可変範囲が過剰になるのを抑制することができる。
【0092】
ここで、吸気バルブ21のバルブタイミングを変更するために吸気カムシャフト31を回転させる具体的手段は前記電動モータに限らない。例えば、前記排気カムシャフト位相可変機構32と同様に、吸気カムシャフト位相可変機構32を液圧式機構や電磁式機構等として、液圧や電磁石により吸気カムシャフト31を回転させてもよい。ただし、電動モータを用いれば、より容易に吸気バルブ21のバルブタイミングを広範囲にわたって変更することができる。
【0093】
また、本発明に係る火花点火式内燃機関の構成は前記実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えばエンジン本体1は、4気筒でなく6気筒であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン本体
11 シリンダ
14 クランクシャフト
17 燃焼室
21 吸気バルブ(吸気弁)
22 排気バルブ(排気弁)
30 吸気弁駆動機構(吸気弁閉時期可変機構)
31 吸気カムシャフト
32 吸気カムシャフト位相可変機構(位相可変機構)
41 排気カムシャフト
100 エンジン制御器(制御手段)
151 電動モータ
170 高圧燃料ポンプ(燃料ポンプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、当該シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドと、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記シリンダ内へ導入される空気が通過する吸気通路と、当該吸気通路から前記シリンダ内への空気の流入を遮断可能な吸気弁と、当該吸気弁の閉時期を可変とする吸気弁閉時期可変機構とを有する火花点火式内燃機関の制御システムであって、
前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比が11以上に設定されており、
前記吸気弁閉時期可変機構の作動を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、
α≧−0.2685×ε0+10.723×ε0+15.815
となるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の火花点火式内燃機関の制御システムにおいて、
前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も進角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度が45度よりも小さくなるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項3】
シリンダと、当該シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドと、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記シリンダ内へ導入される空気が通過する吸気通路と、当該吸気通路から前記シリンダ内への空気の流入を遮断可能な吸気弁と、当該吸気弁の閉時期を可変とする吸気弁閉時期可変機構とを有する火花点火式内燃機関の制御システムであって、
前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比が14以上に設定されており、
前記吸気弁閉時期可変機構の作動を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、
α≧−0.5343×ε0+20.969×ε0−106.18
となるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の火花点火式内燃機関の制御システムにおいて、
前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も進角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度が45度よりも小さくなるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項5】
シリンダと、当該シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダ上に設けられて前記ピストンの上面との間で燃焼室を形成するシリンダヘッドと、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、前記シリンダ内へ導入される空気が通過する吸気通路と、当該吸気通路から前記シリンダ内への空気の流入を遮断可能な吸気弁と、当該吸気弁の閉時期を可変とする吸気弁閉時期可変機構とを有する火花点火式内燃機関の制御システムであって、
前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比が12以上に設定されており、
前記吸気弁閉時期可変機構の作動を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記吸気弁の閉時期の最も遅角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度αが前記内燃機関本体の幾何学的圧縮比をε0として、
α≧−0.3591×ε0+14.292×ε0−29.28
となるように、かつ、前記吸気弁の閉時期の最も進角側の角度が、吸気下死点よりも遅角側であってこの吸気下死点からの遅角角度が45度よりも小さくなるように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の火花点火式内燃機関の制御システムにおいて、
前記制御手段は、前記火花点火式内燃機関の機関始動時において、当該火花点火式内燃機関の前記燃焼室内の空気の温度が高いほど前記吸気弁の閉時期を遅角するように前記吸気弁閉時期可変機構を制御することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の火花点火式内燃機関の制御システムにおいて、
前記吸気弁閉時期可変機構は、電動モータにより駆動されることで前記吸気弁の閉時期を変更することを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の火花点火式内燃機関の制御システムにおいて、
前記吸気弁駆動機構は、前記ピストンに接続されたクランクシャフトにより駆動されて前記吸気弁を駆動する吸気カムシャフトと、前記クランクシャフトに対する前記吸気カムシャフトの位相を変化させる位相可変機構とを備え、
前記火花点火式内燃機関は、前記シリンダ内から排出される排気が通過する排気通路と、前記シリンダ内から前記排気通路への排気の流出を遮断可能な排気弁と、前記ピストンに接続されたクランクシャフトにより駆動されて前記排気弁を駆動する排気カムシャフトと、前記燃料噴射弁に燃料を供給する燃料ポンプとを備え、
前記燃料ポンプは、前記排気カムシャフトに接続されて当該排気カムシャフトにより駆動されることを特徴とする火花点火式内燃機関の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−43092(P2011−43092A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190880(P2009−190880)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】