説明

炊飯器

【課題】炊飯工程での浸漬時の吸水性を向上させ、かつ蒸らし時の高火力化を図ることで、糊化も促進させ、炊飯時間の短縮とご飯のおいしさを損なわないということを両立させる。
【解決手段】米収納容器8を鍋から上昇させて高温の蒸気をあてた後、米収納容器8を下方に駆動して水に浸漬し、短時間で米の含水率を十分な状態にする。その後100℃で炊き上げて、蒸らし工程に入る。蒸らし工程では米収納容器8を鍋肌から浮かすように上方移動させ、高温高火力により焦がさず、短時間で余分の水分を蒸発させ、糊化を促進させる。このように炊飯の浸水工程での含水率を短時間で上昇させることと、蒸らし工程の高火力化を実現して炊飯全体の時間を短縮させておいしさを向上させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸気を用いて短時間で炊飯を行う炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な炊飯器では、図4に示すように鍋底の温度をもとに浸水工程(A)、炊き上げ工程(B)、蒸らし工程(C)の3つの工程で炊飯を行う方法を用いている。浸水工程(A)では米の内部まで水を吸水させている。
【0003】
水分を十分に含んだ米に一定時間熱を与えると、米は糊化され、ご飯になる。この一定時間熱を与える工程が図4の炊き上げ工程(B)から蒸らし工程(C)となる。この熱を与える工程までに米に約30%以上の水を吸水させておくことが必要とされている。よって、米一粒がムラなく糊化してふっくらと炊き上がるには、米粒の表面から内部まで十分吸水させることが重要である。
【0004】
ここで、浸水工程における米の含水率の変化を図3に示す。米の含水率は浸漬する水の温度と浸漬する時間の影響を受けて、含水率が変わる。一般的には米を浸水する水温は高いほど、急速に吸水される。
【0005】
しかし、米の糊化温度である60℃以上に浸漬すると、米表面が糊化して内部への吸水を妨げる。よって、現在の炊飯器では、少しでも炊飯時間を短縮させるために、吸水を早くする目的で、米が糊化しない範囲の最高温度(たとえば55℃〜58℃)で一定時間保持するような浸漬工程を設定している。
【0006】
図3に示すように、20℃の水よりも55℃の水温で浸水する方が、米への吸水は早くなるが、30分以上浸漬しても吸水率30%付近で一定になり、それ以上吸水されない。よって、55℃から58℃で20分くらいかけて浸水工程を行い、この後、炊き上げから蒸らし工程を経て、さらに米は吸水して炊飯終了時には含水率63%付近に達し、ご飯になる。
【0007】
この浸水工程における米への吸水を促進させる炊飯器として、例えば、蒸気発生手段を備えた炊飯器がある。浸水工程の際に鍋の上方から蒸気を供給し、熱量を増加させる方法により、炊飯初期の水の温度を糊化が起こらない温度に短時間で上昇させ、水温の立ち上がり時間を早めることによって、米の吸水速度を速くしている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、蒸らし工程において加熱のための電力を制御しながらも可能な範囲で投入することで、水分蒸発と米への熱供給を促すような加熱方法をとって蒸らし工程の時間を短縮している。
【特許文献1】特開2003−144308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の炊飯器のように、炊飯初期の水の温度を糊化が起こらない温度に短時間で上昇させ、米の吸水速度を速くしても、浸水工程時の米への吸水が十分とは言えなかった。
【0010】
また、蒸らし工程での熱供給を促すために可能な限りの電力を投入すると、鍋と接している部分のご飯には焦げが生じてしまい、焦げが生じない程度に電力制御することを余儀なくされ、十分な短時間化はできなかった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決したもので、浸水工程時の米への吸水が短時間に十分に行われ、また、蒸らし工程も短縮することにより、おいしい米が短時間で炊ける炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、浸水工程の後、炊き上げ工程、次いで蒸らし工程を有する炊飯器の鍋内に米収納容器を設けて、浸水工程の前と蒸らし工程時に米収納容器が鍋底面よりも上方に駆動する構成とした。
【0013】
米収納容器が浸水工程の前に鍋底面よりも上方向に駆動することによって、浸水工程前に米のみに蒸気が供給されて米表面には凝縮水が付着し、米表面自体も高温になる。その後の浸水工程では、下方に米収納容器が駆動し、米表面は急激な温度変化によって微少の空隙が生じて水を吸収しやすい状態になり、短時間で米の含水率が上がる。
【0014】
さらに、蒸らし工程時に米収納用器が上方に駆動することによって、蒸らし時に鍋肌からご飯が離れた状態となるので、高電力を投入してもご飯が焦げることなく、短時間でご飯の余剰水分の蒸発と加熱が進む。
【0015】
これらの結果、浸水工程終了時に米の含水率は十分となり、蒸らし時の加熱も促進されるとともに浸水工程と蒸らし工程の両方の時間が短縮されて、おいしい米を短時間で炊くことができる。
【発明の効果】
【0016】
浸水工程の後、炊き上げ工程、次いで蒸らし工程を有する炊飯器の鍋内に設けた米収納容器を浸水工程の前と蒸らし工程時に鍋底面よりも上方に駆動させて、浸水工程開始前に米の含水率を増加させ、また、蒸らし時に高火力で加熱して水分蒸発と加熱を促進させることにより、浸水工程終了時の米の含水率と蒸らし後の加熱が短時間で十分になり、短時間でおいしい米を炊くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
第1の発明は、鍋内の米収納容器が鍋底の温度検知信号をもとに上下駆動して、炊飯の加熱工程に応じて鍋底から米を離すことにより、特に蒸らし工程時に焦げないようにして水分蒸発を短時間で行うことができる。
【0018】
第2の発明は、蒸気供給手段を有し、炊飯工程に適した蒸気を投入することで、米粒に蒸気の熱と保湿作用を与えて、さらに米をおいしく早く炊くことができる。
【0019】
第3の発明は、米収納容器は米粒よりも小さい空間を有することによって、米収納容器が駆動する時に米粒が落ちることを防止できる。
【0020】
第4の発明は、前記鍋と前記加熱室の間が中空で、鍋全体を高温の雰囲気で包んだ状態にして加熱するので、米に十分に熱が伝わり、おいしく米を炊くことができる。
【0021】
第5の発明は、米収納容器を炊飯開始時に上方に駆動して米を液体に浸漬する前に蒸気を供給し、浸水工程前に米が吸水しやすい状態にすることによって、浸漬工程終了時に米の含水率が十分になり、浸漬工程の時間を短縮でき、かつおいしく米を炊くことができる。
【0022】
第6の発明は、温度検知手段によって鍋内に水がなくなったことを検知した時点で米収納容器を上方に駆動し、蒸らし工程時に鍋底から米を離すことにより、高電力で加熱しても米を焦がすことなく、水分蒸発を促進することができるので、蒸らし工程の時間も短縮して炊飯時間全体を短時間にすることができる。
【0023】
以下、その実施の形態を図面を参照して説明する。
【0024】
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態について図1を参照にしながら説明する。図1において、本体1内の加熱室2には着脱自在の鍋3を内装する。さらに、鍋3の上面を覆う蓋4が開閉自在に設置されている。また、加熱室2と鍋3には一定の空間が設けられており、その空間にシーズヒータやミラクロンヒータ、ハロゲンヒータなどの加熱手段5を設ける。さらに、加熱室2内あるいは鍋3の一部分に鍋の温度を検知する温度検知手段6、例えば、サーミスターを配置する。蓋4には着脱自在のタンク7を内装しており、タンク7からの水は鍋3の上方に設置された加熱手段5に滴下して100℃の蒸気になる。なお、タンク7の設置場所は本体1内でもよく、加熱手段5に滴下できる構成であればよい。
【0025】
また、鍋3内には着脱自在でザルやスノコのような形状で米を入れる米収納容器8が設けられ、挿入部9に設置されている。挿入部9はモータ10によって上下駆動し、米収納容器8もその駆動に伴って加熱室2内を上下動する。なお、米収納容器8は300℃の雰囲気下でも耐久性のあるアルミやステンレスのような金属やセラミックから成り、金属では錆防止のフッ素コートなどの加工を施したものでもよい。また、形状も米粒よりも小さく蒸気を通過できる孔あるいは、空間を有すればよく、板状で数か所に米粒が通過できない大きさの孔を有したものであっても良い。
【0026】
さらに、本体1内部には鍋の温度検知手段6の出力をもとに加熱手段5、タンク7の水の滴下を制御する制御手段11を有するものである。また、蓋4の開口部には蒸気孔12を設け、鍋3内の過剰な蒸気を外部へ逃がす。
【0027】
上記構成の動作について図2の炊飯工程のシーケンス図を用いて説明する。浸水工程前の米を米収納容器8にいれ、その米収納容器8を鍋3内に内装する。次に、本体1に設けられたタンク7内に所定の水量をいれ、鍋3にも炊飯する米量に合わせた所定の水量を入れて、炊飯スイッチ(図示せず)を使用者が選択する。
【0028】
まず、モータ10が駆動して米が収納された米収納容器8が鍋3の水量よりも高い位置の上方に移動する。その後、鍋3の上方の加熱手段5がONしてタンク7の水が滴下されて100℃の蒸気が発生し、米が蒸気にさらされる。なお、この浸水工程前の蒸気の供給は、浸水前の米に蒸気を間欠的に供給して良い。そうすることで、米表面が瞬間的に100℃以上になることはあっても、浸水前に米表面が高温になりすぎることがなく、浸水工程前の糊化を防止するため、糊化によって吸水が妨げられることを防ぐことができる。
【0029】
また、この浸水前の蒸気は鍋3の上方から底部に到達する勢いを有する程度の流速になるように、制御手段11では加熱手段5の電力量とタンク7の滴下量を制御する。米収納容器8は鍋3内を浮いている状態であるので、蒸気は米の上面から米粒同士の隙間を通って下方に流れ、米全体にムラなく触れる。そして、制御手段11は鍋3内に蒸気を供給してから所定の時間、例えば5分間経過したことを検知して、蒸気の投入を停止するとともに、モータ10により米収納容器8を下方に駆動させて、鍋底まで移動させる。その後、鍋3内の水の温度を米が糊化しない最大温度(60℃未満)、例えば58℃まで上昇させるように加熱手段5をONして、一定時間保持する。このように、浸水前に蒸気を米に与えた場合、図3に示すように、米に50%の含水が短時間でおこる。なお、通常の浸水工程では15分以上かけても含水率は30%にしか到達せず、炊き上げ工程時に吸水と糊化が同時に進行していき、含水率は炊飯終了までにやっと約63%にまで高まる。しかし、浸水前に蒸気を米に与えておくと、炊き上げ工程開始時までに十分な含水率となるので、炊き上げ時の加熱中の糊化も進み、炊き上げ時間も少なくて済む。炊き上げ時には、鍋3の水温が100℃になるように制御手段11によって加熱手段5の制御を行う。そして、温度検知手段6で検知している加熱室2内の温度あるいは鍋3の底の温度上昇速度が一定以上の速さになったことを検知して、鍋3内の水がなくなったことを検知し、制御手段11は加熱室2内を例えば250℃になるように加熱手段5の電力制御をするとともに、モータ10で米収納容器8を鍋底から浮かすように上方に駆動する。このようにすることで、加熱のための電力量を上げても、鍋底に米が付着していないので焦げずに済み、蒸らし工程での水分蒸発を早めて最後のご飯の糊化も進めることができ、結果として蒸らし工程の時間短縮ができ、高火力によっておいしく米を炊くことができる。
【0030】
以上のように、浸水工程の前に蒸気を米に与えた後に米収納容器を水に浸漬させるように移動させることで、従来の浸漬時間20分を5分にまで短縮し、含水率も従来の30%を50%にまで上昇させることができる。よって、浸水工程で十分な含水率となった米は、炊き上げ工程で糊化しやすく、糊化に要する時間も短縮できる。さらに、蒸らし工程で再び鍋肌から米を浮かすように米収納容器を駆動させるので、これまでの炊飯器ではないオーブンのような高火力で加熱しても焦げずに余分な水分蒸発と糊化の進行を短時間で行うことになり、炊飯工程全体が短縮するとともにおいしく米を炊くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように、本発明にかかる炊飯器は、浸水工程の後、炊き上げ工程、次いで蒸らし工程を有する炊飯において、鍋内に網状の米収納容器を設け、米浸水工程前には蒸気のみを与えてその後浸水するように駆動させ、また、蒸らし工程では鍋肌から浮かせて焦げないようすることで高温高火力の加熱を行うことで、米をおいしく短時間で炊くことができ、家庭用の炊飯器の短時間炊飯機能に適用できるほかに、業務用炊飯器などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1における炊飯器の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における炊飯工程のシーケンス図
【図3】米の浸漬条件による吸水率のグラフ
【図4】炊飯器の鍋底温度と炊飯工程のグラフ
【符号の説明】
【0033】
1 本体
2 加熱室
3 鍋
4 蓋
5 加熱手段
6 温度検知手段
7 タンク
8 米収納容器
9 挿入部
10 モータ
11 制御手段
12 蒸気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が中空の加熱室と、前記加熱室に着脱自在に装着しうる鍋と、前記加熱室の上面開口部を開閉自在に覆う蓋と、前記加熱室内に設けられて前記鍋を加熱するヒータと、前記鍋内に設けられて着脱自在の米収納容器と、前記米収納容器を駆動する駆動手段と、前記鍋内の温度を検知する温度検知手段を有し、前記温度検知手段の信号をもとに前記米収納容器を上下動することを特徴とした炊飯器。
【請求項2】
前記加熱室内に蒸気を供給する蒸気供給手段を有し、米を液体に浸漬する前に蒸気を供給することを特徴とした請求項1記載の炊飯器。
【請求項3】
前記米収納容器は米粒よりも小さい空間を有したことを特徴とする請求項1および2記載の炊飯器。
【請求項4】
前記鍋と前記加熱室の間は中空になっていることを特徴とした請求項1または2、3記載の炊飯器。
【請求項5】
前記駆動手段は炊飯開始時に米収納容器を上方に駆動することを特徴とする請求項2から4記載の炊飯器。
【請求項6】
前記駆動手段は温度検知手段によって鍋内に水がなくなったことを検知した時点で米収納容器を上方に駆動することを特徴とする請求項1から5記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−255250(P2006−255250A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78872(P2005−78872)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】