説明

炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬

【課題】炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬の提供
【解決手段】アシルカルニチンを有効成分として含む医薬。該医薬は炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の発症後の投与でも炎症性サイトカインの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬及び炎症性サイトカインの抑制剤に関する。より詳しくは、本発明は有効成分としてアシルカルニチンを含む炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬並びに有効成分としてアシルカルニチンを含む炎症性サイトカインの抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、High mobility group box 1(HMGB-1)などの炎症性サイトカインは、炎症反応に深く関与しているサイトカインである。 Lipopolysaccharide(LPS)はグラム陰性菌の毒性因子(エンドトキシン)であり、強力な炎症性サイトカインを産生させる作用を有する。早期のLPSによる致死や臓器障害にはTNF-αが大きく関わっていることが知られており(非特許文献1:Science, 234,470,1986)、また、LPS刺激によりマクロファージから分泌されるHMGB-1が敗血症の致死や臓器障害に大きく関わる晩期のメディエーターであることが報告されている(非特許文献2:Science, 285,248,1999)。
【0003】
LPSのような細菌性毒物だけでなく手術、外傷、自己の免疫性物質又ウイルス感染などの要因によって炎症性サイトカインが過度に産生されると、全身性炎症反応症候群(SIRS)、多臓器不全、肝障害、肺障害などのさまざまな疾患が引き起こされる。このような炎症性疾患を治療する薬剤としては、ステロイド、炎症性サイトカイン抗体、及び炎症性サイトカイン拮抗薬などが知られているが、これらの薬剤は、臨床治験での有意な効果はほとんど認められていない(非特許文献3:Lancet, 363,1721, 2004)。この理由としては、このような炎症性疾患が、単一の炎症性サイトカインだけでなく複数の炎症性サイトカインが複雑に関連している疾患であることが挙げられる。また、炎症性サイトカイン産生刺激が起こった後に上記の薬剤を投与しても効果が弱い事が問題となっていた(非特許文献3;非特許文献4:CHEST, 123,482S, 2003;非特許文献5:Science, 23,232(4753),977,1986)。さらに、血中や組織での炎症性サイトカインや活性酸素が増加した状態では、細胞内ミトコンドリアでのエネルギー代謝が障害され、代謝低下が起こることも知られていた(非特許文献6:Lancet,364,545, 2004; 非特許文献7: N.Engl. J.Med. ,348,2,138,2003; 非特許文献8:Lancet, 360,219,2002)。したがって、炎症性サイトカイン産生の刺激後に投与しても、種々の炎症性サイトカイン産生を抑制し、かつ細胞内エネルギー代謝を低下させない薬剤の開発が望まれていた。
【0004】
アシルカルニチンはヒト細胞のエネルギー代謝と関連していくつかの重要な働きを担っている化合物である。炎症時は、活性酸素等によりピルビン酸脱水素酵素群は活性が低下することが知られており、ピルビン酸からアセチルCoAへ代謝が起こりにくくなってピルビン酸の代謝物である乳酸が血液中に増加する。しかし、アセチルカルニチンを初めとしたアシルカルニチンはピルビン酸脱水素酵素群を介さずにアセチルCoAをTCA回路に提供することができるため、組織のエネルギー代謝を改善することが知られている(非特許文献9:Journal of Neuroscience Research, 79,240,2005)。したがって、炎症部位において又はショックの時には、例えばアセチルカルニチンはピルビン酸よりもエネルギー基質としてより有効である。このような代謝改善作用を有するアセチルカルニチンは、アルツハイマー病、うつ病、糖尿病性神経症の治療薬として有効であり(非特許文献10:Neurology, 41,1726, 1991;非特許文献11:Curr. Med. Res. Opin.,11,638-647. 1990;非特許文献12:Drugs Exp. Clin. Res., 13,417, 1987;非特許文献13:Clin. Immunol., 92,10,1999;非特許文献14:Int. J. Clin. Pharm. Res.,15,9,1995;非特許文献15:Metabolism, 44,677,1995)、米国では臨床使用されている。さらに、アセチルカルニチンについては、免疫調整活性(特許文献1:特公平02−022730号公報)、抗菌活性(特許文献2:特開平5−339218号公報)、抗真菌活性(特許文献3:特開平5−339219号公報)、及び抗腫瘍活性(特許文献4:特表2002−525316号公報)が報告されており、アセチルカルニチンは、ショック状態の治療のための医薬組成物(特許文献5:特公平7−80765号公報)としても知られているが、アシルカルニチンの炎症性サイトカイン産生抑制効果については今まで報告がない。
【特許文献1】特公平02−022730号公報
【特許文献2】特開平5−339218号公報
【特許文献3】特開平5−339219号公報
【特許文献4】特表2002−525316号公報
【特許文献5】特公平7−80765号公報
【非特許文献1】Science, 234,470,1986
【非特許文献2】Science, 285,248,1999
【非特許文献3】Lancet., 363,1721, 2004
【非特許文献4】CHEST, 123,482S, 2003
【非特許文献5】Science, 23,232(4753),977, 1986
【非特許文献6】Lancet, 364,545, 2004
【非特許文献7】N.Engl.J.Med. ,348,2,138,2003
【非特許文献8】Lancet, 360,219, 2002
【非特許文献9】Journal of Neuroscience Research, 79,240,2005
【非特許文献10】Neurology, 41,1726, 1991
【非特許文献11】Curr. Med. Res. Opin., 11,638-647. 1990
【非特許文献12】Drugs Exp. Clin. Res., 13,417, 1987
【非特許文献13】Clin. Immunol., 92,10,1999
【非特許文献14】Int. J. Clin. Pharm. Res.,15,9,1995
【非特許文献15】Metabolism, 44,677,1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬、より具体的には、炎症性サイトカインの産生後でも効果があり、かつ細胞内エネルギー代謝を低下させない該医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、炎症性サイトカイン産生の情報伝達が起こった後においてもアシルカルニチンが炎症性サイトカインの産生を抑制することを見出し、さらにアシルカルニチンが細菌性毒物のみならず生体構成成分による炎症性サイトカイン産生をも抑制することを見出しこの知見を基に本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬であって、アシルカルニチンを有効成分として含む医薬を提供するものである。本発明の好ましい態様によれば、アシルカルニチンがアセチルカルニチンである該医薬が提供される。本発明の別の好ましい態様によれば、炎症性サイトカインの産生が関与する疾患が全身性炎症反応症候群(SIRS)、ショック、成人呼吸促迫症候群、熱傷、急性膵炎、過敏性肺炎、間質性肺炎、珪肺、塵肺、肺繊維症、多発性骨髄腫、Castleman病、全身性ループスエリテマトーシス(SLE)、嚢胞性繊維症、喘息、気管支炎、サルコイドーシス、禁断症状、住血吸虫症、多臓器不全、敗血症、慢性関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、痛風関節炎、骨関節炎、骨粗鬆症、肩関節炎、後天性免疫症候群、多発性硬化症、らい病、マラリヤ、全身性脈管炎、細菌性骨髄炎、悪液質、皮膚炎、乾癬、糖尿病、感染または自己免疫疾患に伴う神経障害、神経因性疼痛、虚血再環流障害、脳炎、ギラン・バレー症候群、パーキンソン病、動脈硬化症、肥満、代謝症候群(メタボリックシンドローム)、慢性疲労症候群、結核、ウイルス疾患、エイズ関連疾患(ARC),寄生虫疾患、心不全、心筋症、心筋梗塞、脳梗塞、肝障害、腎障害、クローン病、癌転移、癌増殖、移植片体宿主疾患及び移植拒絶反応からなる群から選択される疾患である上記いずれかの医薬;上記いずれかの医薬を含む人工心肺液又は臓器保護液;上記いずれかの医薬であって、炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の治療のための医薬が提供される。
【0008】
本発明の別の観点からは、アシルカルニチン、好ましくはアセチルカルニチンを有効成分として含む炎症性サイトカインの抑制剤が提供される。
本発明のさらに別の観点からは、本発明は炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療方法であって、アシルカルニチンの予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法並びに炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬を製造するためのアシルカルニチンの使用が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医薬は炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の発症後の投与でもサイトカインの発生を抑制することができ、かつ細胞内代謝改善作用を有するため、炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のため医薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において「炎症性サイトカインの産生」とは、炎症性サイトカインの細胞内もしくは組織内濃度又は血中もしくは体液中濃度の増加などを意味し、例えば非炎症時と比較して炎症性サイトカインの細胞内もしくは組織内濃度又は血中もしくは体液中濃度が増加している状態などを意味する。炎症性サイトカインとしては、例えば、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、及び腫瘍壊死因子(TNF-α)、High mobility group box 1(HMGB-1)などが挙げられる。炎症性サイトカインの産生が関与する疾患としては、例えば、全身性炎症反応症候群(SIRS)、ショック、成人呼吸促迫症候群、熱傷、急性膵炎、過敏性肺炎、間質性肺炎、珪肺、塵肺、肺繊維症、多発性骨髄腫、Castleman病、全身性ループスエリテマトーシス(SLE)、嚢胞性繊維症、喘息、気管支炎、サルコイドーシス、禁断症状、住血吸虫症、多臓器不全、敗血症、慢性関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、痛風関節炎、骨関節炎、骨粗鬆症、肩関節炎、後天性免疫症候群、多発性硬化症、らい病、マラリヤ、全身性脈管炎、細菌性骨髄炎、悪液質、皮膚炎、乾癬、糖尿病、感染または自己免疫疾患に伴う神経障害、神経因性疼痛、虚血再環流障害、脳炎、ギラン・バレー症候群、パーキンソン病、動脈硬化症、肥満、代謝症候群(メタボリックシンドローム)、慢性疲労症候群、結核、ウイルス疾患、エイズ関連疾患(ARC),寄生虫疾患、心不全、心筋症、心筋梗塞、脳梗塞、肝障害、腎障害、クローン病、癌転移、癌増殖、移植片体宿主疾患及び移植拒絶反応を挙げることができ、その他、組織や血液及び体液中の炎症性サイトカイン値の上昇を伴う疾患を挙げることができる。本発明の医薬は炎症性サイトカインの産生を抑制することから、人工心肺液の成分として、又は臓器保護の目的で用いることも可能である。
【0011】
アシルカルニチンは生体内においては、アシルCoA(脂肪酸由来のカルボキシル基を有する)とカルニチンが結合して産生する化合物である。すなわち、アシルCoAはカルニチンと結合してアシルカルニチンになることによりミトコンドリアの内膜を通過して、ミトコンドリア内のマトリックスでβ酸化される。
本発明の医薬で用いられるアシルカルニチンにおけるカルニチンは生体内に存在するカルニチンと同様にL型であるのが好ましい。
【0012】
本発明者らの研究により、アシルカルニチンは炎症性サイトカインの産生を抑制する効果があることが分かった。さらに、アシルカルニチンは従来の炎症性疾患の治療薬と異なり、炎症性サイトカイン産生の情報伝達が起こった後でも炎症性サイトカインの産生を抑制する効果があることが分かった。炎症性サイトカインの産生が関与する炎症性疾患が発症した後でもアシルカルチニンの投与によって炎症性サイトカインの産生を抑制することができ、炎症性疾患を効果的に治療できる。また、炎症性疾患が発症する前の投与により該疾患の予防のための医薬として用いることができる。アシルカルニチンは既に細胞内代謝改善作用を有することが知られているため、炎症性サイトカイン抑制効果との相乗または相加作用にも期待できる。さらにアシルカルニチン自体もともと生体内に存在し副作用もほとんど無いうえに、安価に市場に供給が可能である。
【0013】
本発明の医薬で用いられるアシルカルニチンとしては炭素数が10〜1のアルキルカルボニルカルニチンが好ましく、炭素数が5〜1のアルキルカルボニルカルニチンがより好ましく、アセチルカルニチンがさらに好ましい。本発明の医薬で用いられるアシルカルニチンは、アシル基の種類により、さらに1個又は2個の不斉炭素を有する場合がある。これらの不斉炭素に基づく光学的に純粋な任意の光学異性体、上記の光学異性体の任意の混合物、ラセミ体、2個の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体、上記ジアステレオ異性体の任意の混合物などは、いずれも本発明の範囲に包含される。さらに、アシルカルニチンクロライドなどのアシルカルニチンの生理的に許容される酸付加塩も本発明の範囲に包含される。また、アシルカルニチン及びその塩に加えてそれらの水和物又は溶媒和物も本発明の範囲に包含される。
アシルカルニチンとしては、市販のアシルカルニチン等を用いることができ、例えば、アセチルカルニチンはSigma Tau社(イタリア)などから入手可能である。アセチルカルニチンは公知の物質であり、その製造法はたとえばE,ストラック等(Chem. Berg.,86,525, 1953)により報告されており、容易に製造できる。
【0014】
本発明の医薬としては、アシルカルニチン自体を投与してもよいが、有効成分としてアシルカルニチンと1又は2以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態の医薬を投与することが望ましい。本発明の医薬の有効成分としては、アシルカルニチンの2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記医薬組成物には、炎症性疾患などの治療のための他の医薬の有効成分を配合することも可能である。
【0015】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれの投与経路であってもよい。経口投与のための医薬組成物は、固形又は液体のいずれであってもよい。経口用の固形医薬組成物は、例えば、有効成分であるアシルカルニチンに賦形剤を加え、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、又は矯味剤などの製剤用添加物を加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤として調製することができる。製剤用添加物としては、当該分野で一般的に使用されているものを用いることができる。経口用の液体医薬組成物は、有効成分である上記の物質に矯味剤、安定化剤、又は保存剤など製剤用添加物の1種又は2種以上を加え、常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等として調製することができる。製剤用添加物としては、当該分野で一般的に使用されているものを用いることができる。
【0016】
非経口投与のための医薬組成物の製剤形態としては、例えば、注射剤、点滴剤、輸液剤、坐剤、外用剤、吸入剤、経皮又は経粘膜吸収剤などを例示することができる。注射剤は、有効成分であるアシルカルニチンに安定化剤又は等張化剤等などの製剤用添加物の1種又は2種以上を添加し、常法により皮下、筋肉、又は静脈内投与用の注射剤として製造することができるが、このうち、静脈内投与用の注射剤、点滴剤及び輸液剤とすることが好ましい。製剤用添加物としては当該分野で一般的に使用されているものを用いることができる。
【0017】
坐薬は、有効成分である上記の物質に担体及び界面活性剤などの製剤用添加物を加えて常法により製造することができる。製剤用添加物としては、当該分野で一般的に使用されているものを用いることができる。
外用剤は、有効成分である上記の物質に基剤、水溶性高分子、溶媒、界面活性剤、又は保存剤等などの製剤用添加物の1種又は2種以上を加えて、常法により粉末、液剤、貼付剤、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤、スプレー剤等として製造することができる。製剤用添加物としては、当該分野で一般的に使用されているものを用いることができる。
さらに、本発明の医薬は、所望の成分と混合し食品又は飲料として提供することもできる。
【0018】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、患者の年齢、体重、及び症状、投与形態、投与経路、及び投与回数などによって適宜選択可能である。通常は、有効成分であるアシルカルニチンの質量として成人1日あたり1〜3gを投与することができる。本発明の医薬は1日1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与することができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(例1):アセチル−L−カルニチンがLPS刺激によるサイトカイン産生に及ぼす効果
Lipopolysaccharide(LPS)はグラム陰性菌の毒性因子(エンドトキシン)であり、強力な炎症性サイトカインを産生させる作用を有する。マウスマクロファージ継代細胞RAW264細胞を培養液(10%子牛血清加RPMI-1640)で1×105/mlに調整し、1mlずつ24穴プレートに加え、37℃、CO2インキュベーターで24時間培養した。細胞をPBSにて2回洗浄した後、新しい培養液(10%子牛血清加RPMI-1640)を1ml加えた。その後LPS を最終濃度が10 ng/mlになるように加えた。細胞培養液中にアセチル−L−カルニチン(最終濃度0、5、10、又は20 mM)をLPS刺激30分前又は刺激後30分後に加えて、37℃、CO2インキュベーターで24時間培養した。細胞培養液上清の、腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン6(IL-6)を酵素免疫測定法で測定した。LPS刺激30分後の結果を図1及び図2に示す。
同様に、マウスマクロファージ継代細胞RAW264細胞を培養液(10%子牛血清加RPMI-1640)で1×105/mlに調整し、1mlずつ24穴プレートに加え、37℃、CO2インキュベーターで24時間培養した。細胞をPBSにて2回洗浄した後、新しい培養液(10%子牛血清加RPMI-1640)を1ml加えた。その後LPS を最終濃度が100 ng/mlになるように加えた。細胞培養液中にアセチル−L−カルニチン(最終濃度0、5、10、又は20 mM)をLPS刺激30分前又はLPS刺激後30分後に加えて、37℃、CO2インキュベーターで24時間培養した。細胞培養液上清の、HMGB-1を酵素免疫測定法で測定した。LPS刺激30分後の結果を図3に示す。
【0020】
図1、図2、及び図3からわかるように、アセチル−L−カルニチンはLPS刺激後に加えても、有意に炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6、及びHMGB-1の産生を抑制した。同様にアセチル−L−カルニチンはLPS刺激前に加えてもTNF-α、IL-6及びHMGB-1の産生を有意に抑制した。また、抑制効果があるアシルカルニチンの濃度範囲では、細胞毒性は認められなかった。
【0021】
(例2): アセチル−L−カルニチン前投与のLPS致死率に及ぼす効果
エンドトキシン(LPS)に感受性があるC3H/HeNマウス(6〜7週齢)を三群に分け、それぞれの群別にアセチル−L−カルニチン(4 mg/kg又は 40 mg/kg) 又は生食(コントロール)のいずれかを腹腔内に注射し、30分後に致死量のLPS(30 mg/kg)を腹腔内に注射した。その後96時間まで生死を観察した。結果を図4に示す。
【0022】
図4からわかるように、コントロール群に比べて、アセチル−L−カルニチン投与群では、有意にLPS致死率を改善した結果が得られ、アセチル−L−カルニチンに致死率を改善する効果があることがわかった。
【0023】
(例3):アセチル−L−カルニチン後投与のLPS致死率に及ぼす効果
エンドトキシン(LPS)に感受性があるC3H/HeNマウス(6〜7週齢)を三群に分け、致死量のLPS(30 mg/kg)を腹腔内に注射した30分後、それぞれの群別にアセチル−L−カルニチン(4 mg/kg又は 40 mg/kg) 又は生食(コントロール)を腹腔内に注射し、LPS投与96時間後まで生死を観察した。結果を図5に示す。
【0024】
図5から分かるように、コントロール群に比べて、アセチル−L−カルニチン投与群では、LPS投与後でも、有意に致死率を改善した結果が得られ、LPS投与後でも、アセチル−L−カルニチンは、LPSによる致死率を改善する効果があった。
【0025】
(例4)アセチル−L−カルニチンのLPS投与による血中サイトカイン値に及ぼす効果
腫瘍壊死因子(TNF-α)は、早期のLPSによる致死に大きく関わるサイトカインであるが、High mobility group box 1(HMGB-1)は晩期のLPSによる致死に大きく関わるサイトカインであることが報告されている。エンドトキシン(LPS)感受性があるC3H/HeNマウス(6〜7週齢)を二群に分け、致死量のLPS
30 mg/kgを腹腔内に注射した30分後に、それぞれの群にアセチル−L−カルニチン(40 mg/kg) または生食(コントロール)を腹腔内に注射し、LPS投与の2時間後及び24時間後にそれぞれ採血した。血清を分離した後、酵素免疫測定法でそれぞれTNF-α、HMGB-1を測定した。結果を図6及び図7に示す。
【0026】
図6からわかるように、コントロール群に比べてアセチル−L−カルニチン投与群では、LPS投与2時間後の血中TNF-α値が有意に低かった。また、図7からわかるように、LPS投与24時間後の血中HMGB-1値も有意に低かった。このことにより、アセチル−L−カルニチン投与が、LPSによる致死に関与する早期及び晩期のサイトカインの産生を抑制することが分かった。
【0027】
(例5)アセチル−L−カルニチンが細胞構成成分によるTNF-α産生に及ぼす効果
ヘパラン硫酸は生体の細胞構成成分であり、LPSとは異なり毒性は低いが、全身性炎症反応症候群(SIRS)に似た病態をおこすことが報告されている(Immunol. 172(1):20-4.2004)。マウスマクロファージ継代細胞RAW264細胞を培養液(10%子牛血清加RPMI-1640)で1×105/mlに調整し、1mlずつ24穴プレートに加え、37℃、CO2インキュベーターで24時間培養した。細胞をPBSにて2回洗浄した後、新しい培養液(10%子牛血清加RPMI-1640)を1ml加えた。その後, ヘパラン硫酸(10μg/ml)を加えた。細胞培養液中にアセチル−L−カルニチン(最終濃度20 mM)をヘパラン硫酸刺激30分後に加えて、37℃、CO2インキュベーターで24時間培養した。上清を分離して酵素免疫測定法で、腫瘍壊死因子(TNF-α)を測定した。結果を図8に示す。
【0028】
図8からわかるように、ヘパラン硫酸刺激後のアセチル−L−カルニチンの添加によってTNF-α産生が有意に抑制された。このことにより、アセチル−L−カルニチンは、LPSだけでなく生体の細胞構成成分による炎症性サイトカインの産生を抑制することがわかり、毒物だけでなく生体の細胞構成成分による炎症にも有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】LPS刺激後に加えられたアセチル−L−カルニチン(ALC)の量と細胞培養液上清中のTNF-αの量との関係を示すグラフである。
【図2】LPS刺激後に加えられたアセチル−L−カルニチン(ALC)の量と細胞培養液上清中のIL-6の量との関係を示すグラフである。
【図3】LPS刺激後に加えられたアセチル−L−カルニチン(ALC)の量と細胞培養液上清中のHMGB-1の量との関係を示すグラフである。
【図4】アセチル−L−カルニチン(ALC)前投与のLPSによる致死率を示すグラフである。
【図5】アセチル−L−カルニチン(ALC)後投与のLPSによる致死率を示すグラフである。
【図6】アセチル−L−カルニチン(ALC)がLPS投与2時間後の血中TNF-α値に与える影響を示すグラフである。
【図7】アセチル−L−カルニチン(ALC)がLPS投与24時間後の血中HMGB-1値に与える影響を示すグラフである。
【図8】ヘパラン硫酸刺激後のアセチル−L−カルニチン(ALC)の添加がTNF-α産生に与える影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の予防及び/又は治療のための医薬であって、アシルカルニチンを有効成分として含む医薬。
【請求項2】
アシルカルニチンがアセチルカルニチンである請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
炎症性サイトカインの産生が関与する疾患が全身性炎症反応症候群(SIRS)、ショック、成人呼吸促迫症候群、熱傷、急性膵炎、過敏性肺炎、間質性肺炎、珪肺、塵肺、肺繊維症、多発性骨髄腫、Castleman病、全身性ループスエリテマトーシス(SLE)、嚢胞性繊維症、喘息、気管支炎、サルコイドーシス、禁断症状、住血吸虫症、多臓器不全、敗血症、慢性関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、痛風関節炎、骨関節炎、骨粗鬆症、肩関節炎、後天性免疫症候群、多発性硬化症、らい病、マラリヤ、全身性脈管炎、細菌性骨髄炎、悪液質、皮膚炎、乾癬、糖尿病、感染または自己免疫疾患に伴う神経障害、神経因性疼痛、虚血再環流障害、脳炎、ギラン・バレー症候群、パーキンソン病、動脈硬化症、肥満、代謝症候群(メタボリックシンドローム)、慢性疲労症候群、結核、ウイルス疾患、エイズ関連疾患(ARC),寄生虫疾患、心不全、心筋症、心筋梗塞、脳梗塞、肝障害、腎障害、クローン病、癌転移、癌増殖、移植片体宿主疾患及び移植拒絶反応からなる群から選択される疾患である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の医薬を含む人工心肺液又は臓器保護液。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の医薬であって、炎症性サイトカインの産生が関与する疾患の治療のための医薬。
【請求項6】
アシルカルニチンを有効成分として含む炎症性サイトカインの抑制剤。
【請求項7】
アセチルカルニチンを有効成分として含む炎症性サイトカインの抑制剤。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−347935(P2006−347935A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174818(P2005−174818)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(301052548)
【出願人】(505226116)
【Fターム(参考)】