説明

炎症性障害の治療のためのリグスチリド誘導体

本発明は、哺乳類の炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための薬剤としての式(I)の化合物の使用に関し、式中、点線(clotted line)は任意の結合であり、Rは、Rがヒドロキシルの場合にはブチルまたはブチリルであるが、Rが水素の場合にはブチルであり、あるいはRおよびRは一緒に1−ブチリデンであり、任意で、ヒドロキシル、メチル、または3−(α,β−ジメチルアクリリルオキシ)−ペンチリデニルにより置換される。Xは、X1、X2、X3、X4、およびX5からなる群から選択される残基であり、式(I)中の点線が不在であればXはX2、X3またはX5であり、点線が上記式(I)中の結合を表す場合にはXはX1、X4またはX5であり、Rはヒドロキシルまたはブチリルであり、nは1または2である。もう1つの態様では、本発明は、炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための薬物/組成物の製造における活性成分としての式(I)の化合物の使用に関する。上記で定義したような式(I)の化合物は、痛み、発熱および損傷、特にスポーツ損傷への対応のため(の組成物の製造のため)にも有用であり得る。さらに、上記で定義したような式(I)の化合物は、関節軟骨の維持および再生のため(の組成物の製造のため)にも有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、哺乳類の炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための薬剤としての式(I)の化合物の使用に関する。もう1つの態様では、本発明は、炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための薬物の製造における活性成分としての式(I)の化合物の使用に関する。
【0002】
本発明によると、特定の化合物は、エイコサノイド(プロスタグランジン、ロイコトリエン)、サイトカイン、ケモカインおよび一酸化窒素などの炎症性メディエーターの生合成を調節することが分かった。そのため、このような化合物は、炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するために有用である。炎症を制御する能力は、健康のために不可欠である。炎症の制御の欠如、あるいは過度の制御されない炎症は多数の疾患をもたらし、その多くは一般的な疾患および状態である。
【0003】
従って、1つの態様では、本発明は、炎症性障害の治療および予防のための、式(I)
【化1】


で表される化合物の使用に関し、
式中、点線は任意の結合であり、
は、Rがヒドロキシルの場合にはブチルまたはブチリルであるが、Rが水素の場合にはブチルであり、あるいはRおよびRは一緒に1−ブチリデンであり、任意で、ヒドロキシル、メチル、または3−(α,β−ジメチルアクリリルオキシ)−ペンチリデニルにより置換される。
Xは、X1、X2、X3、X4、およびX5
【化2】


からなる群から選択される残基であり、点線が不在であればXはX2、X3またはX5であり、点線が結合を表す場合にはXはX1、X4またはX5であり、
はヒドロキシルまたはブチリルであり、そして
nは1または2である。
【0004】
もう1つの態様では、本発明は、炎症の調節を必要とする状態の予防、制御および治療のため、特に炎症性障害の治療および予防のための薬物の製造における、上記で定義したような式Iの化合物の使用に関する。
【0005】
本発明において使用するための式(I)の好ましい化合物は、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、センキュノリドB、3−ブチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−3,6,7−トリヒドロキシ−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチル−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、チュアンキシノール(chuangxinol)、リグスチリジオール(ligustilidiol)、センキュノリドF、3−ヒドロキシ−センキュノリドA、アンゲロイルセンキュノリドF、センキュノリドM、3−ヒドロキシ−8−オキソ−センキュノリドA、リグスチリド、6,7−ジヒドロ−(6S,7R)−ジヒドロキシリグスチリド、3a,4−ジヒドロ−3−(3−メチルブチリデン)−1(3H)−イソベンゾフラノン、セダノリド、およびクニジリド(cnidilide)からなる群から選択される。最も好ましく使用される化合物は、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、リグスチリド、セダノリド、および3−ブチリデンフタリド、特にリグスチリドからなる群から選択される。好ましい実施形態は、以下の表0に記載される。
【0006】
【表1】

【0007】
【表2】

【0008】
【表3】

【0009】
【表4】

【0010】
本発明の特に好ましい実施形態では、式(I)の化合物はリグスチリドである。「リグスチリド」という用語は、本発明との関連では、Z−リグスチリドおよびE−リグスチリドならびにこれらの混合物、特に、混合物の総重量を基準として90重量%以上のZ−リグスチリドと、10重量%以下のE−リグスチリドとの混合物を包含する。Z−リグスチリドが特に好ましい。
【0011】
本発明において使用するために、式(I)の化合物は、当該技術分野において既知の方法(例えば、ベック(Beck)J.J.およびステルミッツ(Stermitz)F.R.のJ.Natural Products、第58巻、第7号、1047−1055頁、1995年を参照)によって、アンジェリカ・グラウカ(Angelica glauca)、アンジェリカ・アクチロバ(Angelica acutiloba)、アンジェリカ・シネンシス(Angelica sinensis)、アンジェリカエ・ダヒュリカエ(Angelicae dahuricae)、リグスチクム・アクチロブム(Ligusticum acutilobum)、リグスチクム・オフィシナレ(Ligusticum officinale)、リグスチクム・シネンセ(Ligusticum sinense)、リグスチクム・ワリチー(Ligusticum wallichii)、クニジウム・オフィシナレ(Cnidium officinale)、リゾーマ・チュアンクション(Rhizoma Chuanxiong)、プレウロスペルマム・ホオケリ(Pleurospermum hookeri)、トラチスペルマム・ロクスブルギアヌム(Trachyspermum roxburghianum)、メウム・アサマンチクム(Meum athamanticum)、ロマチウム・トレイ(Lomatium torreyi)、スクテラリア・バイカレンシス(Scutellaria baicalensis)、オポパナックス・チロニウム(Opopanax chironium)、セノロフィウム・デヌダタム(Cenolophium denudatum)、コリアンドラム・サチヴウム(Coriandrum sativuum)、シラウム・シラウス(Silaum silaus)などの種々の植物から単離され得る。本明細書において使用される化合物は、合成的な起源であってもよい。
【0012】
本発明のさらに特に好ましい実施形態では、リグスチリドは、例えばリグスチクム種、特にL.ワリチーから、欧州特許出願第05002333.2号明細書およびそれに基づくPCT出願第PCT/EP2006/000648号明細書(その内容は参照によって本明細書中に援用される)において開示される方法によって得ることができるような、少なくとも約50重量%のリグスチリド、ならびに10重量%以下の脂肪酸およびトリグリセリドを含む精製植物抽出物の形で使用される。
【0013】
PCT特許出願第PCT/EP2006/000648号明細書に開示される発明の態様によると、50重量%未満のリグスチリドならびに5重量%よりも多い脂肪酸およびグリセリドを含有するリグスチクム種の抽出物は精留を受ける。精留は、130℃〜400℃の範囲の温度および0.1mbar〜25mbarの範囲の圧力で適切に実行される。好ましい実施形態では、精留は、200℃〜230℃の範囲の加熱温度および0.1mbar〜3mbarの範囲の精留塔の最高圧力で実行される。適切には、この方法で出発材料として使用される抽出物は、リグスチクム種の根、特にL.ワリチーの乾燥した根からの抽出物であり、例えば二酸化炭素を用いる超臨界流体抽出によって得られる。好ましい実施形態では、抽出物は、精留の前に、脱気装置において脱気を受ける。脱気装置は、加熱および減圧を付与することによって抽出物からの水の除去を可能にするどんな蒸発システムでもよい。脱気は、10〜50mbarにおいて120〜180℃の範囲の温度で実行されるのが好都合である。
【0014】
この方法によって、リグスチリド、およびセンキュノリド、3−n−ブチルフタリド、セダノリド、3−ブチリデンフタリドのような式(I)の他の化合物は、得られる留出物中で、留出物の重量を基準として90%を超えて濃縮され得る。出発材料とは対照的に、この方法で得られる留出物は快い匂いがあり、淡黄色を示す。グリセリドおよび遊離脂肪酸は、蒸留残渣中に濃縮される。
【0015】
精留は、全ての種類の蒸発装置のタイプと共に実施することができるが、好ましい装置は、滞留時間が短く、好ましくは3分以下であり、圧力降下が小さいワイプ型薄膜エバポレータ(wiped thin film evaporator)である。
【0016】
精留塔には、トレイ、ランダムまたは構造化パッキングのような全ての種類の異なるカラム内在物を備えることができるが、好ましい内在物は、圧力降下が小さく、液体の残留が少ない構造化パッキングである。これは、より高い温度およびより長い滞留時間における式(I)の化合物の分解を防止する。
【0017】
上記の方法に従う好ましい精留塔設備には、カラムの精留セクションに液体サイドドロー(side draw)が備えられる。得られる精製リグスチクム抽出物が、液体サイドドローとして精留塔から取り出される場合、フタリドと比べてその他の低沸点成分を留出物ストリームと分離することができるので、より高いフタリド濃度がもたらされる。精留に分離壁カラムが備えられている場合には、同じ効果を達成することができる。この場合も、得られる精製リグスチクム抽出物は、サイドドローとしてカラムから取り出される。
【0018】
フタリドが熱的に不安定であるため、この方法はバッチ式、好ましくは連続モードで実行され得る。この方法によって得られる精製抽出物は、従来の技法によって固体製剤に変化させることができる。
【0019】
PCT出願第PCT/EP2006/000648号明細書に開示される方法の好ましい例は、実施例11および12に記載されている。
【0020】
式(I)の化合物、特にリグスチリドまたはリグスチリドを含有する植物抽出物は、栄養補助組成物、すなわち食品組成物(すなわち、食料または飲料)の補足として、あるいは、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤、崩壊剤およびフラボラント(flavorant)を含むがこれらに限定されない薬学的に許容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤をさらに含むことができる医薬品組成物、例えば、錠剤またはカプセルなどの単位剤形における組成物として使用されてもよい。
【0021】
医薬品または食品組成物は、強化食料または飼料、飲料、錠剤、顆粒、カプセル、ペースト、および発泡製剤からなる群から選択される形態でよい。ペーストは、硬または軟ゼラチンカプセルに充填されてもよい。
【0022】
式(I)によって表される化合物は、好ましくは、ヒトを含む動物に少なくとも0.005mg/kg体重/日が投与されるような濃度で使用される。
【0023】
好ましくは、本発明に従う使用のために、ヒトを含む動物に対する式(I)の化合物、特にリグスチリドの有効用量は、式(I)の純粋な化合物の重量を基準として、0.01〜50mg/kg体重/日の範囲であり、より好ましくは0.1〜25mg/kg体重/日の範囲、さらにより好ましくは0.1〜10mg/kg体重/日の範囲、最も好ましくは0.1〜5mg/kg体重/日の範囲である。
【0024】
上記のように、式(I)の化合物は、炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するために有用である。これらは、炎症が伴われる様々な疾患および障害の治療のための補助剤としても使用することができる。
【0025】
炎症の調節を必要とする状態には、関節リュウマチを含む関節炎、変形性関節症、痛風および強直性脊椎炎を含む変性関節疾患、腱炎、滑液包炎、骨粗鬆症などの骨障害、乾癬、湿疹、熱傷および皮膚炎などの皮膚関連状態、アレルギー、喘息、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎および呼吸窮迫症候群などの呼吸器疾患、全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、炎症性神経障害(ギラン・バレー、炎症性多発神経障害)、血管炎、炎症性腸疾患、クローン病、胃炎、過敏性腸症候群および潰瘍性大腸炎などの消化管炎症、癌、腫瘍成長および正常組織の癌性浸潤などの腫瘍学的疾患、アテローム硬化症などの炎症性要素を有するその他の慢性疾患、心疾患、パーキンソン病、運動緩徐、筋硬直、多発性硬化症、うつ病、記憶障害、アルツハイマー病およびその前段階(軽度認知機能障害、特に年齢に関連する記憶障害など)などの中枢神経系障害のような急性および慢性の炎症性疾患が含まれる。また化合物は鎮痛特性も有し、スポーツ損傷などの痛み、発熱、損傷に対応するために使用することもできる。
【0026】
従って、本発明は特に、炎症の調節を必要とする状態、特に上記のような状態を予防、制御および治療するための(薬物/組成物の製造における)上記で定義したような式(I)の化合物の使用に関する。
【0027】
本発明のさらなる目的は、次のとおりである。
・ 炎症の調節を必要とする状態の予防、制御および治療において使用するための、有効量の上記で定義した式(I)の化合物を含む医薬品または食品組成物。この組成物は好ましくは、上記で定義した状態の予防、制御および治療において使用される。
・ 哺乳類の炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための方法であって、有効量の上記で定義した式(I)の化合物を、特に上記のような状態の治療を必要としている哺乳類に投与することを含む方法。
・ 上記で定義した式(I)の化合物の鎮痛薬としての使用。
・ 痛み、発熱および損傷に対応するための(組成物の製造のための)上記で定義した式(I)の化合物の使用。このような損傷は、特にスポーツ損傷である。
・ 哺乳類の痛み、発熱および損傷(特に、スポーツ損傷)に対応するための方法であって、前記対応を必要としている哺乳類に、有効量の上記で定義した式(I)の化合物を投与することを含む方法。
・ 上記で定義した式(I)の化合物の軟骨再生および維持剤としての使用。
・ 関節軟骨の維持および再生のための(組成物の製造のための)上記で定義した式(I)の化合物の使用。
・ 哺乳類の(関節)軟骨を再生および/または維持するための方法であって、前記再生および/または維持を必要としている哺乳類に、有効量の上記で定義した式(I)の化合物を投与することを含む方法。
【0028】
最後に、式(I)の化合物は、式(I)の化合物の投与の前、同時、または後に投与することによって、炎症性障害の治療または予防のために当業者に既知の他の栄養補助組成物または治療薬と組み合わせて使用されてもよい。
【0029】
以下の実施例は実例であるが、本発明を限定するものではない。
【0030】
[実施例]
[実施例1:軟ゼラチンカプセル]
軟ゼラチンカプセルを従来の手順によって調製し、100mgのリグスチリド/リグスチリド抽出物の用量を提供する。
他の成分:グリセロール、水、ゼラチン、植物油。
【0031】
[実施例2:硬ゼラチンカプセル]
硬ゼラチンカプセルを従来の手順によって調製し、200mgのリグスチリド/リグスチリド抽出物の用量を提供する。
他の成分:
充填剤:ラクトースまたはセルロースまたはセルロース誘導体 適量
潤滑剤:必要であればステアリン酸マグネシウム(magnesium sterate)(0.5%)
【0032】
[実施例3:錠剤]
錠剤を従来の手順によって調製し、活性成分として錠剤あたり50mgのリグスチリドと、賦形剤として200mgまでの、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素(silicone dioxide)(SiO2)、ステアリン酸マグネシウム、クロスカルメロースナトリウムとを提供する。
【0033】
[実施例4:ソフトドリンク]
リグスチリドまたはリグスチリド抽出物を含有するソフトドリンクは、以下のように調製することができる。
I.ソフトドリンク化合物を以下の成分から調製する。
【0034】
【表5】

【0035】
空気を取り込まないように果実ジュース濃縮物および水溶性フレーバーを混合する。色を脱イオン水中に溶解させる。アスコルビン酸およびクエン酸を水に溶解させる。安息香酸ナトリウムを水に溶解させる。ペクチンを攪拌しながら添加し、沸騰させながら溶解させる。溶液を冷却する。オレンジ油および油溶性フレーバーを予め混合する。1.6で示されるような活性成分を果実ジュース濃縮混合物(1.1)中に攪拌する。
【0036】
ソフトドリンク化合物を調製するために、3.1.1〜3.1.6の全ての部分を一緒に混合してから、ツラックス(Turrax)、そして次に高圧ホモジナイザー(p=200bar、p=50bar)を用いて均質化する。
【0037】
[実施例5:炎症性メディエーターの阻害]
一酸化窒素および/またはPGEの合成の阻害を決定することによって、活性化マクロファージにおける化合物の抗炎症性効果を評価した。インビトロの「炎症反応」を誘発するために、マウスのマクロファージRAW264.7をリポ多糖(LPS)で刺激した(段階的な量の試験物質を用いずに、あるいは用いて)。マウスのマクロファージRAW264.7細胞は、かなりの量のプロスタグランジンE(PGE)および一酸化窒素(NO)の放出によってLPS刺激に対して反応し、これは抗炎症性化合物によって損なわれる。プロスタグランジンPGEは炎症過程において重要な役割を果たし、一酸化窒素は、関節炎のような状態の炎症の特徴である。従って、PGEおよびNOの産生に対する化合物の効果を評価した。
【0038】
10%のウシ胎仔血清(FCS)、50単位/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン、L−グルタミン酸および非必須アミノ酸(NEAA、ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies)、No.11140)を追加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、RAW264.7細胞を培養した。10〜50継代の間のRAW細胞を用いた。実験のために、細胞を6ウェル、12ウェルまたは96ウェルプレートにそれぞれ、ウェルあたり2、1および0.05mio細胞で播種し、前培養の1または2日後に使用した。処理の前に、0.25%のFCSを含有する完全DMEM培地中で、細胞を18時間飢餓状態にした。0.25%のFCSを含有するフェノールフリーのDMEM中、LPS(1μg/ml)で24時間細胞を刺激した。試験すべき物質をDMSO中に溶解し(通常、10mM)、刺激と同時に培地に添加した。適切な場合には、0.5%を超えない媒体濃度を調整するために、DMSOを細胞培養液に添加した。24時間後、グリース(Griess)反応によって培養液の上澄みの亜硝酸塩濃度を測定し、非刺激およびLPS刺激RAW264.7細胞において分泌されたPGEを酵素免疫測定法(EIA)によって決定した。異なる濃度の化合物を同時に試験して、用量反応曲線を得た。PGEまたはNOの産生の50%阻害を引き起こす濃度を決定することによって効力を評価し、これはIC50として報告される。リグスチリドは、一酸化窒素(NO)の産生を強力に低減し、IC50は12.2±3.1μMであった。マウスのマクロファージ細胞株RAW264.7におけるPGE2の産生に対する式(I)の化合物の効果も測定した(表1)。
【0039】
【表6】

【0040】
[実施例6:炎症性遺伝子の発現レベルの調節]
10%のFCS、50単位/mlのペニシリン、50mg/mlのストレプトマイシン、NEAAおよび2×10−5Mのβ−メルカプトエタノールが追加されたRPMI1640倍地中で、THP−1細胞、ヒト単球/組織球細胞株を培養した。細胞を50nMのホルボールミリステートアセテートで3日間処理した。処理の前に、0.25%FCSを含有する培地中で、細胞を一晩飢餓状態にした。0.25%のFCSを含有するフェノールフリーのRPMI中、LPS(1μg/ml)で4時間細胞を刺激した。リグスチリド(25μM)を刺激と同時に培地に添加した。DMSOをコントロール細胞培養液に添加して、0.5%を超えない媒体濃度を調整した。LPS刺激は、炎症性経路のものを含む多様な遺伝子の発現を誘発した。刺激の4時間後、定量的リアルタイムRT−PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)技法を用いて炎症性遺伝子の発現に対するリグスチリドの影響を評価した(表2)。
【0041】
【表7】

【0042】
表2のデータは、リグスチリドが、炎症反応の調節に関与する多数の遺伝子を下方制御することを示す。サイトカインTNF−α、IL−1α、IL−6、IL−8は、急性および慢性の炎症性疾患および骨粗鬆症に関係している。
【0043】
[実施例7:カラギナン誘発性のラットの足浮腫に対するリグスチリドの効果]
カラギナン誘発性の足浮腫ラットモデルにおいて、化合物の抗炎症活性をインビボで評価した。このモデルは、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などのプロスタグランジンを阻害する薬剤の抗炎症特性を評価するために使用されている。モデルは、ラットの足の足底下表面へのカラギナン投与の後、時間依存性の浮腫の形成を引き起こす。
【0044】
20匹の130〜146gの重さのオスのスプラーグドーリーラットを2つのグループにランダム化した。これらを温度(19.5〜24.5℃)および相対湿度(45〜65%)が制御された部屋の中に12時間の明/暗サイクルで収容し、研究の間中、ろ過した水道水および標準的なペレット状飼料を自由に利用できるようにした。これらを1つのケージにつき5匹収容し、試験の前に5〜6日間の順化期間を観察した。動物は、尾で個々に識別した。一晩の絶食の後、1%のメチルセルロース(10mL/kgの体積)中に懸濁されたリグスチリド(100mg/kg)または媒体のみを、コード化されたランダムな順に経口経路で投与した。1時間後、右足への2%カラギナン懸濁液の足底下注射によって炎症が誘発される。カラギナンの注射後の以下の時点:0時間後、1.5時間後、3時間後、および4.5時間後に各ラットの足の体積(ml)を測定した。それぞれの時点で各ラットの足浮腫の体積を初期値からの変化として表した。処置グループの浮腫体積に対する抗炎症効果を、%阻害[(媒体処置グループの足浮腫体積の平均−処置グループの足浮腫体積の平均)/媒体処置グループの足浮腫体積の平均)×100]で表した。
【0045】
【表8】

【0046】
足浮腫体積の全てのデータは、各グループの10匹のラットの平均としてmlで表される。
媒体処置グループに対する%阻害
リグスチリド(100mg/kg)は、媒体で処置されたコントロールグループと比べて、カラギナン注射の1.5時間後、3時間後および4.5時間後に、平均足浮腫体積を阻害した。
【0047】
[実施例8:カオリン誘発性のラットの関節炎におけるリグスチリドの効果]
この研究には、20匹の103〜132gの重さのオスのスプラーグドーリーラットが含まれた。これらを温度(19.5〜24.5℃)および相対湿度(45〜65%)が制御された部屋の中に12時間の明/暗サイクルで収容し、研究の間中、ろ過した水道水および標準的なペレット状飼料を自由に利用できるようにした。動物施設から受け取ったら、これらを1つのケージにつき5匹収容し、試験の前に5日間の順化期間を観察した。動物は、尾で個々に識別した。ラット右側後足の膝関節への10%カオリン懸濁液の注射によって、関節炎が誘発される。媒体処置されたグループでは、ラット右側後足の膝関節へのカオリン懸濁液の注射は、歩行スコア(0〜3のスコア)の上昇で評価される歩行の機能障害を誘発した。動物の歩行は、自発性の痛みを伴う挙動を測定するために使用される。カオリン注射の30分後に、1%のメチルセルロース(10mL/kgの体積)中に懸濁されたリグスチリド(100mg/kg)または媒体のみを、コード化されたランダムな順に経口経路で投与した。薬の投与の1.5時間後〜5.5時間後まで毎時間、スコア挙動の評価をモニターした。それぞれの時間における個々の値から平均歩行スコアを計算した。コントロールグループの平均値と比較して、投薬の1.5、2.5、3.5、4.5時間後および5.5時間後に、平均歩行スコアの阻害の割合を計算した。
【0048】
【表9】

【0049】
結果は、1グループにつき10匹の動物の歩行スコアの平均としてグループごとに表される。
【0050】
リグスチリドは、コントロールグループと比較して、関節炎の誘発後に歩行スコアの改善を誘発した。コントロールグループと比較して、投薬の3.5、4.5および5.5時間後に著しい鎮痛効果を観察した。
【0051】
[実施例9:軟骨細胞に対するリグスチリドの効果]
関節組織、すなわち関節は軟骨細胞を含有する。これらの生理学的な劣化は、関節組織成分の侵食をもたらし、それに従って、例えば変形性関節症がもたらされる。軟骨細胞における異化現象に対するリグスチリドの効果を評価した。SW1353軟骨肉腫細胞または正常なヒト軟骨細胞(膝に由来)を、段階的な量の試験化合物の存在下でインターロイキン−1βにより4時間活性化した。次にこれらの細胞からRNAを抽出物し、逆転写した。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のような異化現象のためのマーカー遺伝子の発現は、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって決定した。表5に示されるように、リグスチリドは、細胞外マトリックスの破壊に決定的に関与するいくつかのMMPの発現レベルに影響を与えた。リグスチリドはその発現を低減し、それに従って、骨関節炎疾患における組織侵食を防止するはずである。対照的に、コラーゲンmRNAレベルが上昇され、これは、細胞外マトリックスの再構成に寄与する現象に有利であることを示唆する。
【0052】
【表10】

【0053】
[実施例10:内皮細胞への細胞接着に対するリグスチリドの効果]
アテローム硬化性(artherosclerotic)の病変は、内皮障害の結果として発生し得る。これは、単球の内皮層への接着の変化、すなわち増大に反映される。U937単球細胞株のヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)への接着に対するリグスチリドの効果を評価した。リグスチリド(25または50μmol/L)の不在または存在下でHUVECをTNF−αで20時間刺激し、カールッチョ(Carluccio)ら(Arterioscler Thromb Vase Biol 2003年、23、622−629頁)に従って、U937の接着性を決定した。表6に示されるように、接着性は、濃度に依存した形でリグスチリドによって著しく妨害された。単球の内皮層への接着は、細胞間接着分子1(ICAM−1)の発現によって仲介される。そのためさらに、定量的RT−PCRによってHUVEC中のICAM−1mRNAのレベルに対するリグスチリドの効果を分析した。これらの細胞におけるICAM−1遺伝子発現の用量依存性の低下が観察された(表7)。これにより、細胞接着現象に対するリグスチリドの分子効果が明らかにされる。ICAM発現の低下による単球の接着の低下は、内皮の恒常性を再建し、従って、アテローム形成の防止に寄与する。
【0054】
【表11】

【0055】
【表12】

【0056】
[実施例11]
粗製リグスチクム抽出物、例えば、29重量%の総フタリド濃度(8.2重量%のセンキュノリド、0.5重量%の3−n−ブチルフタリド、1.2重量%のセダノリド、18.3のリグスチリド、0.6重量%の3−ブチリデンフタリド)を有するリグスチクムの根から二酸化炭素による超臨界抽出によって得られたままの抽出物を連続真空精留によって精製し、総フタリド濃度を90重量%(26.4重量%のセンキュノリド、1.6重量%の3−n−ブチルフタリド、3.7重量%のセダノリド、56.3重量%のリグスチリド、2.0重量%の3−ブチリデンフタリド)にした。
【0057】
初めに、粗製抽出物から水を分離するために粗製リグスチクムを脱気した。25mbarの減圧および約160℃の加熱温度で、供給量の1.0%を蒸発させた。残渣は、ほとんど水のない粗製リグスチクム抽出物を含む。得られるカラムの留出物ストリーム中のフタリドを濃縮するために、この材料を精留設備(0.05m2の加熱面積を有するワイプ型薄膜エバポレータ、1mの高さの構造化パッキングを有する蒸留塔)に連続的に供給した(図1を参照、液体サイドドローは動作していない)。0.5mbarの最高カラム減圧力および230℃の加熱温度の条件では、留出物/供給物の比は0.33:1であった。留出物ストリームの還流比は約1であった。蒸留残渣には、グリセリドおよび遊離脂肪酸が濃縮されている。留出物ストリームは、90重量%の総フタリド濃度で上記のフタリド全てを含有する。最終の精製リグスチクム抽出物の色は、ガードナー(Gardner)スケールで4.7であった。
【0058】
[実施例12]
粗製リグスチクム抽出物、例えば、36重量%の総フタリド濃度(11.4重量%のセンキュノリド、1.1重量%の3−n−ブチルフタリド、1.6重量%のセダノリド、20.4のリグスチリド、1.3重量%の3−ブチリデンフタリド)を有するリグスチクムの根から二酸化炭素による超臨界抽出によって得られたままの抽出物を、以下のようにして液体サイドドローを有する連続真空精留によって精製し、総フタリド濃度を94重量%(29.3重量%のセンキュノリド、3.3重量%の3−n−ブチルフタリド、3.9重量%のセダノリド、53.5重量%のリグスチリド、3.9重量%の3−ブチリデンフタリド)にした。
【0059】
初めに、粗製抽出物から水を分離するために粗製リグスチクムを脱気した。25mbarの減圧および約160℃の加熱温度で、供給量の1.0%を蒸発させた。残渣は、ほとんど水のない粗製リグスチクム抽出物を含む。得られる液体サイドストリーム中のフタリドを濃縮するために、この材料を精留設備(0.05m2の加熱面積を有するワイプ型薄膜エバポレータ、1.5mの高さの構造化パッキングを有する蒸留塔、下から1mのカラム高さにおける液体サイドドロー)に連続的に供給した(図1を参照、液体サイドドローは動作している)。
【0060】
1mbarの減圧および230℃の加熱温度において、供給物ストリームを以下のように、36%の液体サイドストリーム、62%の残渣および2%の留出物に分離した。留出物の還流比は約10であり、サイドストリームの還流比は約1であった。蒸留残基にはグリセリドおよび遊離脂肪酸が濃縮されており、留出物中には、低沸点成分が濃縮されている。所望のフタリドは、液体サイドストリーム中に94%の濃度で濃縮されている。最終の精製リグスチクム抽出物の色は、ガードナースケールで4.6であった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】精留設備。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための薬剤としての、式(I)
【化1】


(式中、点線は任意の結合であり、
は、Rがヒドロキシルの場合にはブチルまたはブチリルであるが、Rが水素の場合にはブチルであり、あるいはRおよびRは一緒に1−ブチリデンであり、任意で、ヒドロキシル、メチル、または3−(α,β−ジメチルアクリリルオキシ)−ペンチリデニルにより置換され、
Xは、X1、X2、X3、X4、およびX5
【化2】


からなる群から選択される残基であり、式(I)中の点線が不在であればXはX2、X3またはX5であり、点線が上記式(I)中の結合を表す場合にはXはX1、X4またはX5であり、
はヒドロキシルまたはブチリルであり、そして
nは1または2である)によって表される化合物の使用。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、センキュノリドB、3−ブチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−3,6,7−トリヒドロキシ−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチル−1(3H)−イソベンゾフラノン、3−ブチルフタリド、3−ブチリデンフタリド、チュアンキシノール(chuangxinol)、リグスチリジオール、センキュノリドF、3−ヒドロキシ−センキュノリドA、アンゲロイルセンキュノリドF、センキュノリドM、3−ヒドロキシ−8−オキソ−センキュノリドA、リグスチリド、6,7−ジヒドロ−(6S,7R)−ジヒドロキシリグスチリド、3a,4−ジヒドロ−3−(3−メチルブチリデン)−1(3H)−イソベンゾフラノン、セダノリド、およびクニジリドからなる群から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記式(I)の化合物が、(E)−センキュノリドE、センキュノリドC、リグスチリド、セダノリドおよび3−ブチリデンフタリドからなる群から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記式(I)の化合物がリグスチリドである請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が、精製植物抽出物の形である請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記精製植物抽出物が、欧州特許出願第05002333.2号明細書に開示される方法によって得ることができるL.ワリチー(wallichii)からの抽出物である請求項5に記載の使用。
【請求項7】
炎症の調節を必要とする前記状態が、関節リュウマチを含む関節炎、変形性関節症、痛風および強直性脊椎炎を含む変性関節疾患、腱炎(tendinits)、滑液包炎、骨粗鬆症などの骨障害、乾癬、湿疹、熱傷および皮膚炎などの皮膚関連状態、アレルギー、喘息、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎および呼吸窮迫症候群などの呼吸器疾患、全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、炎症性神経障害(ギラン・バレー、炎症性多発神経障害)、血管炎、炎症性腸疾患、クローン病、胃炎、過敏性腸症候群および潰瘍性大腸炎などの消化管炎症、癌、腫瘍成長および正常組織の癌性浸潤などの腫瘍学的疾患、アテローム硬化症などの炎症性要素を有するその他の慢性疾患、心疾患、パーキンソン病、運動緩徐、筋硬直、多発性硬化症、うつ病、記憶障害、アルツハイマー病およびその前段階(軽度認知機能障害、特に年齢に関連する記憶障害など)などの中枢神経系障害から選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための薬物の製造における、請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項9】
炎症の調節を必要とする前記状態が、請求項7に記載される状態である請求項8に記載の使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の有効量の式(I)の化合物を含む、炎症の調節を必要とする状態の予防、制御および治療において使用するための医薬品または食品組成物。
【請求項11】
請求項7に記載される状態の予防、制御および治療において使用するための請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
哺乳類の炎症の調節を必要とする状態を予防、制御および治療するための方法であって、前記治療を必要としている哺乳類に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有効量の式(I)の化合物を投与することを含む方法。
【請求項13】
請求項7に記載の状態を予防、制御および治療するための請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の鎮痛薬としての使用。
【請求項15】
痛み、発熱および損傷に対応するための請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項16】
痛み、発熱および損傷への対応のための組成物を製造するための請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項17】
前記損傷がスポーツ損傷である請求項15または16に記載の使用。
【請求項18】
哺乳類の痛み、発熱および損傷に対応するための方法であって、前記対応を必要としている哺乳類に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有効量の式(I)の化合物を投与することを含む方法。
【請求項19】
前記損傷がスポーツ損傷である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の軟骨再生および維持剤としての使用。
【請求項21】
関節軟骨を維持および再生するための請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項22】
関節軟骨の維持および再生のための組成物を製造するための請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項23】
哺乳類の(関節)軟骨を再生および/または維持するための方法であって、前記再生および/または維持を必要としている哺乳類に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有効量の式(I)の化合物を投与することを含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−542226(P2008−542226A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512773(P2008−512773)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005005
【国際公開番号】WO2006/125651
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】