説明

炎監視装置

【課題】炎の検出及び該炎の燃焼状況を的確に分析可能な炎監視装置を提供する。
【解決手段】炎から放射される所定波長域の赤外線を観測して該炎を検出する炎監視装置において、前記所定波長域における赤外線信号強度の変動周波数成分を求めるフーリエ変換手段と、前記求めた各変動周波数成分につき、そのスペクトル強度が所定閾値を超えたものの周波数分布に基づいて炎の大小を判定する判定手段と、を備え、炎の大小に応じた炎の揺れの成分をスペクトル分析することにより、炎の大小を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炎監視装置に関し、更に詳しくは、炎から放射される所定波長域の赤外線を観測して炎を検出する炎監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の炎監視装置では、物体が燃焼した時に発生する炭酸ガス特有の赤外線スペクトルを検出して火災を判定するものがある。従来は、主に炭酸ガス共鳴現象によって生ずる波長4.4μm付近の赤外線強度変化と、主に高温の燃焼残留物によって生ずる波長3.0μm付近の赤外線強度変化との時間のずれ(位相差)を観測し、該ずれのランダム性を検出することにより炎と炎以外の現象とを判別する赤外線式炎検出装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−4023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の炎検出装置では炎の発生を検出できても、炎の規模や燃焼物の種類等、炎の付加的な情報が得られないため、炎の燃焼状況を別途目視や監視カメラで確認するのが常であり、初期消火に手間取る問題があった。
【0005】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、
炎の検出及び該炎の燃焼状況を的確に分析可能な炎監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の第1の態様による炎監視装置は、炎から放射される所定波長域の赤外線を観測して該炎を検出する炎監視装置において、前記所定波長域における赤外線信号強度の変動周波数成分を求めるフーリエ変換手段と、前記求めた各変動周波数成分につき、そのスペクトル強度が所定閾値を超えたものの周波数分布に基づいて炎の大小を判定する判定手段と、を備えるものである。
【0007】
ところで、炎から放射される所定波長域の赤外線の強度変動は、炎(燃焼)の揺らぎとも関係しており、小さい炎では揺らぎも小さく強度変化も速いため、その強度変動をスペクトル分析すると相対的に高い周波数成分が優勢となって現れる。一方、大きい炎では揺らぎが大きくその強度変化も様々な揺らぎが平均化されて遅いため、その強度変動をスペクトル分析すると相対的に低い周波数成分が優勢となって現れる。このことは炎の大小に基づく性質であって、炎の強さや炎から観測点までの距離によらない。
【0008】
本発明では、赤外線信号強度の各変動周波数成分につき、そのスペクトル強度が所定閾値を超えたものの周波数分布に基づいて炎の大小を判定するため、炎の大小を適正に判定できると共に、初期消火に必要な薬剤量や水量等の情報を早期に提供できる。
【0009】
本発明の第2の態様では、前記判定手段は、炎が小さいと判定した場合は、前記所定閾値を超えたスペクトル強度の大きさに基づいて観測点から炎までの距離を更に判定する。
【0010】
本発明によれば、炎が小さい場合は、火元に近いほど大きなスペクトル強度が観測されるため、火元までの距離に関する更に有用な情報を提供できる。
【0011】
本発明の第3の態様では、前記所定波長域の赤外線は、波長4.4μm付近の赤外線である。波長4.4μm付近の赤外線は、物体の燃焼時に発生する炭酸ガス共鳴により特異的に放射される赤外線であるため、この赤外線を観測することで炎の揺らぎを適正に分析できる。
【0012】
また本発明の第4の態様による炎監視装置は、炎から放射される所定波長域の赤外線を観測して該炎を検出する炎監視装置において、異なる所定の波長域における各赤外線信号強度の複素変動周波数成分を求めるフーリエ変換手段と、前記求めた各波長域の複素変動周波数成分について同一変動周波数成分間のクロススペクトルを求めるクロススペクトル演算手段と、前記求めたクロススペクトルの位相差成分に基づいて燃焼物を判定する燃焼物判定手段と、を備えるものである。
【0013】
本発明者等は、特定の物質を燃焼させた場合に、異なる所定の波長域における各赤外線信号強度の複素変動周波数成分間には変動周波数によらず略一定の位相差が生じ易いことを見い出した。本発明では、この位相差を分析することにより燃焼物を特定可能であり、該炎の消火に有効な消火剤の情報等を早期に提供できる。
【0014】
本発明の第5の態様では、前記異なる所定の波長域の赤外線は波長4.4μm付近と波長3.1μm付近の各赤外線である。これら2波長域の赤外線を観測して得られるクロススペクトルに、燃焼物に応じて一定の位相差が生じることを見いだした。
【発明の効果】
【0015】
以上述べた如く本発明によれば、炎の検出及び該炎の燃焼状況を的確に分析可能なため、初期消火に有用な情報を早期に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態による炎監視装置のブロック図である。
【図2】実施の形態による炎監視処理部のブロック図である。
【図3】様々な熱源による赤外線強度分布のグラフ図である。
【図4】炎発生時における赤外線強度の推移を説明する図である。
【図5】実施の形態によるFFT処理部の動作イメージ図(1)である。
【図6】実施の形態によるFFT処理部の動作イメージ図(2)である。
【図7】特定の物質が燃焼した際のクロススペクトルのプロット図である。
【図8】実施の形態による炎監視処理部のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明による実施の形態を詳細に説明する。ここで、図3を参照して様々な熱源による赤外線の強度分布を説明する。物体の燃焼時に発生する炭酸ガス共鳴放射のスペクトルは赤外線から紫外線まで多く存在するが、特に波長4.4μmに大きなピークがあることが知られている。本実施の形態では、この波長4.4μm付近の赤外線を基準とし、もう一つの波長を選択するという手法により多数の燃焼実験を繰り返し、炎の燃焼状況や燃焼物を判定するのに有用なもう一つの波長域として、高温の燃焼残留物が放射する波長3.1μm付近の赤外線を利用することとした。
【0018】
図1は実施の形態による炎監視装置のブロック図である。図において、11a、11bはそれぞれ波長4.4μm付近と波長3.1μm付近の各赤外線を通過させる光学フィルタ、12a、12bはそれぞれ波長4.4μm付近と波長3.1μm付近の各赤外線強度に応じた熱起電力を発生するサーモパイル素子、13a、13bはサーモパイル素子12a、12bの各検出出力を増幅する増幅回路(AMP)、14a、14bはそれぞれ増幅出力の高周波成分を制限するローパスフィルタ(LPF)、15a、15bはA/D変換器、16は炎の監視に関する主制御・処理を行うCPU、17はCPU16が使用する主メモリ(MM)、18は炎の判定結果等を表示するための表示部、19は通信回線20を介して外部装置(警報装置、消火装置等)に接続するための通信インタフェース(CIF)である。
【0019】
係る構成により、炎1から放射される赤外線のうち、波長4.4μm付近の赤外線は光学フィルタ11aを透過してサーモパイル素子12aに入力し、赤外線強度に応じた電圧信号に変換される。一方、波長3.1μm付近の赤外線は光学フィルタ11bを透過してサーモパイル素子12bに入力し、赤外線強度に応じた電圧信号に変換される。これらの電圧信号は、LPF14a、14bでノイズ等の高周波成分が除去され、更にA/D変換器15a15bでA/D変換され、こうして得られた各赤外線データIR4.4、IR3.1がCPU16に入力する。
【0020】
ここで、図4を参照して炎発生時における赤外線強度の推移を説明する。炎発生前の熱源は太陽の反射光や低温物質からの熱放射が主であり、熱源が同一である(あるいは全く関係が無い)ため、赤外線の強度変化は波長4.4μm付近と波長3.1μm付近とで略同相(あるいは無相関)に変化することになる。火災が発生すると 炭酸ガス共鳴放射による4.4μm付近の赤外線がサーモパイル素子12aに到達し、高温の燃焼残留物が放射する3.1μm付近の赤外線がサーモパイル素子12bに到達するが、これらは熱源となる物質が同一であっても熱源の性質(燃焼状態)が異なるため、強度変化に時間的なずれを生じている。そこで、CPU16は、各波長域の赤外線データIR4.4とIR3.1とに基づき、炎を検出すると共に、該炎の燃焼状況を分析して、初期消火に有用な各種の情報を外部に出力する。以下、CPU16による炎監視処理を詳細に説明する。
【0021】
図2は実施の形態による炎監視処理部のブロック図で、CPU16のプログラム実行により実現される各種機能ブロックを示している。図において、21は各波長域の赤外線データIR4.4、IR3.1に前処理を行う前処理部、22は前処理後の各赤外線データIR4.4、IR3.1についてそれぞれに高速フーリエ変換(FFT)を行い、強度変動の複素周波数成分を求めるFFT処理部(FFT)、23は各赤外線データの複素周波数成分に基づき両成分間のクロススペクトル(両複素周波数成分間の振幅の積と位相差)を求めるクロススペクトル演算部、24は前記求められた複素周波数成分やクロススペクトルを分析して炎の燃焼状況(炎の大小、観測点からの距離、燃焼物の種類等)を分析・判定する炎分析部、25は炎分析部24の判定結果を記憶する判定結果記憶部、26は予め炎の分析・判定に使用する各種の判定用閾値情報を記憶している判定用情報記憶部である。
【0022】
この判定用閾値情報には、炎の大小を判定するための炎サイズ判定閾値26aと、炎から観測点までの距離を判定するための距離判定閾値26bと、クロススペクトルの位相角に基づいて燃焼物の種類を判定するための位相角判定閾値26cとが含まれる。
【0023】
係る構成により、まず前処理部21は、図4に示す如く、波長4.4μm付近と波長3.1μm付近の各赤外線データIRR4.4、IR3.1につき各所定時間τ毎の赤外線データを順に切り出して窓関数Wによる重み付け処理を行う。FFT処理部22は、前処理後の各赤外線データIRR4.4、IR3.1をそれぞれ高速フーリエ変換(FFT)し、各離散周波数(例えば、1Hz〜8Hz)についての複素周波数成分X(ω)を求める。
【0024】
この複素周波数成分X(ω)は、その実数成分をXR(ω)、虚数成分をXI(ω)とすると、一般に次式で表される。
【数1】

【0025】
これを波長4.4μm付近と波長3.1μmの各赤外線データに当てはめて具体的に説明する。赤外線データIR4.4について求めた離散周波数1Hzの複素周波数成分をX41とし、その実数成分をXR41、虚数成分をXI41とすると、該X41の大きさ|X41|と位相θ41とは、次式により求められる。
【数2】

【0026】
離散周波数2Hz〜8Hzについても同様に求められる。
【0027】
一方、赤外線データIR3.1について求めた離散周波数1Hzの複素周波数成分をX31とし、その実数成分をXR31、虚数成分をXI31とすると、該X31の大きさ|X31|と位相θ31とは、次式により求められる。
【数3】

【0028】
離散周波数2Hz〜8Hzについても同様に求められる。
【0029】
また、これら複素周波数成分の大きさと位相を用いることで波長4.4μm付近と波長3.1μm付近の各複素周波数成分X41、X31は、次式のようにも表せる。
【数4】

【0030】
ところで、炎から放射される所定波長域の赤外線の強度変動は、炎(燃焼)の揺らぎとも関係しており、小さい炎では揺らぎも小さく強度変化も速いため、その強度変動をスペクトル分析すると相対的に高い周波数成分が優勢となって現れる。一方、大きい炎では揺らぎが大きくその強度変化も様々な揺らぎが平均化されて遅いため、その強度変動をスペクトル分析すると相対的に低い周波数成分が優勢となって現れる。このことは、専ら炎の大小に基づく性質であって、炎から観測点までの距離によらないことが多数の実験により確かめられた。従って、所定閾値THを超えるスペクトル強度の周波数分布を観測することで、炎の大小を判定できる。以下、具体的に説明する。
【0031】
図5は実施の形態によるFFT処理部の動作イメージ図(1)で、小さい炎による出火の場合を示している。縦軸はスペクトル強度、横軸は赤外線強度の変動周波数、奥行は時間である。赤外線強度の離散周波数成分は例えば1Hz〜8Hzについて示した。ある時刻t1では、まだ出火前であり、スペクトル強度は何れの周波数成分も閾値THを超えていない。時刻t2についても同様である。時刻t3は、出火直後であり、この例では相対的に高い周波数成分(5Hz〜8Hz)のスペクトル強度が閾値THを超えており、このスペクトル分布を検出して比較的小さい炎の出火と判定できる。
【0032】
なお、ノイズの影響による誤判定を避けるためには、各スペクトル強度についてそれぞれ時間軸方向に移動平均を取って後、閾値THによる判定を行っても良い。また、この閾値判定は、高い周波数成分(図の例では5Hz〜8Hz)の全てが閾値THを超えている必要は無く、例えば中間の成分(7Hz)のスペクトル強度が閾値THを下回っていても良い。周波数分布の判定は要するに高い周波数成分が低い周波数成分に比べて相対的に優勢であればよい。そして、時刻t4では高い周波数成分(5Hz〜8Hz)のスペクトル強度が更に増しており、炎の勢いが増していることを検出できる。
【0033】
なお、実際上は小さい炎がそのまま維持されるのは稀であり、通常は時間が経てば以下に述べるような大きな炎に移行する。大きな炎に移行すれば、スペクトル強度の周波数分布は低い周波数の側に移行するので、大きい炎を検出できる。
【0034】
但し、大きい炎に移行せずに、スペクトル強度の周波数分布が高い周波数の側に維持される場合もあり得る。この場合は、観測点から炎までの距離に応じてスペクトル強度の大きさに相違があると考えることが可能であり、逆に、スペクトル強度の大きさに応じて観測点から炎までの距離を判定することが可能となる。即ち、炎が小さい場合は、更にスペクトル強度が高ければ炎(火元)までの距離は近く、またスペクトル強度が低ければ炎(火元)までの距離は遠いと判定できる。
【0035】
図6は実施の形態によるFFT処理部の動作イメージ図(2)で、大きい炎による出火の場合を示している。ある時刻t1では、まだ出火前であり、スペクトル強度は何れの周波数成分も閾値THを超えていない。時刻t2についても同様である。時刻t3は、出火直後であり、この例では相対的に低い周波数成分(1Hz〜4Hz)のスペクトル強度が閾値THを超えており、このスペクトル分布を検出して比較的大きい炎の出火と判定できる。時刻t4では低い周波数成分(1Hz〜5Hz)のスペクトル強度が更に増しており、炎の勢い増していることを検出できる。
【0036】
本実施の形態では 予め様々な大きさの炎についての燃焼実験とその観測を多数行い、これらの観測結果を統計的に処理すると共に、炎の大小を判定するための周波数分布を分ける閾値データを求め、これを炎サイズ判定閾値記憶部26aに記憶している。また、小さい炎の燃焼については、更に様々な距離からの炎の観測を行い、その観測結果を統計的に処理すると共に、炎からの距離を判定するためのスペクトル強度の閾値データを求め、これを炎までの距離判定閾値記憶部26bに記憶している。
【0037】
更に、クロススペクトル演算部23は、赤外線データIR4.4について求めた複素スペクトルX41の複素共役X41と、赤外線データIR3.1について求めた複素スペクトルX31とを、同じ周波数成分同志で乗算することにより両周波数成分間のクロススペクトル(振幅の積と位相差)を、次式に従って求める。
【数5】

【0038】
クロススペクトル演算部23は、上記同様にして全離散周波数成分(例えば1Hz〜8Hz)についてのクロススペクトルの演算を行い、これらをグラフにプロットする。
【0039】
図7は特定の物質が燃焼した際のクロススペクトルのプロット図で、図7(A)はノーマルヘプタンが燃焼した際のクロススペクトルを表している。角度はクロススペクトルの位相角、半径方向はクロススペクトルの絶対値の対数スケール表示となっている。一般に白熱電球のような単純な熱源の場合は、波長4.4μmと波長3.1μmの各赤外線の強度変動はほとんど同期するため、変動周波数によらずそのクロススペクトルの位相は略0°に近くなる。
【0040】
本実施の形態では、特定の物質として例えばノーマルへプタンを燃焼させ、そのクロススペクトルを求めたところ、図7(A)に示すような結果を得た。図7(A)では各離散周波数成分のクロススペクトル(X41*X31)〜(X48*X38)が位相平面上にプロットされている。更に、燃焼試験を繰り返すことで得られた複数回分のクロススペクトルが重ねてプロットされている。図に示す如く、クロススペクトルの位相角は各周波数成分について略一定であり、本実施の形態では、クロススペクトルの各プロット座標値について、例えば単回帰分析法により回帰直線を求める方法で位相平面上の位相各θ1を求めた所、ノーマルへプタンでは位相角θ1が略45°になることを見い出した。また、このことは火元からの距離や炎の大きさによらないことが実験により確かめられた。
【0041】
図7(B)は特定の物質の他の例としてガソリンが燃焼した際のクロススペクトルを表している。ガソリンについても複数回の燃焼試験を繰り返し、上記同様の方法でクロススペクトルの位相角を求めた所、ガソリンでは位相角θ2が略25°になることを見い出した。なお、クロススペクトルの大きさについては、上記何れの燃焼実験でも、炎が強いほど大きなスペクトル強度が得られた。
【0042】
本実施の形態では、予め各特定の物質についての燃焼実験とその観測を多数行い、これらのクロススペクトルの観測結果(位相角)を統計的に処理すると共に、燃焼物質を判定するための位相角を分ける位相角判定閾値データを求め、これを位相角判定閾値記憶部26cに記憶している。そして、炎の監視の際には、炎を観測して求めたクロススペクトルの位相角をこの閾値データを使用して判別することにより、燃焼物質の特定が可能となっている。
【0043】
図8は実施の形態による炎監視処理部のフローチャートである。ステップS11では両波長域についてFFT処理に必要な数の赤外線データが貯まるのを待ち、やがて貯まると、ステップS12では前処理部21がFFT処理に必要な赤外線データを切り出し、ステップS13では該切り出した赤外線データに窓関数Wによる重み付けを行う。ステップS14ではFFT処理部22で前処理後の各波長域の赤外線データを同一位相でフーリエ変換し、赤外線強度変動の複素周波数成分を求める。ステップS15ではクロススペクトル演算部23が前記求められた複素周波数成分に基づきクロススペクトルを演算し、両波長帯域の複素周波数成分間の位相差を求める。
【0044】
ステップS16では、炎分析部24が、前記FFT処理部22により求められた所定閾値THを超えるスペクトル強度の周波数分布と、記憶部26の炎サイズ判定閾値26aとを比較することにより炎の大小を判定すると共に、該判定結果の情報を判定結果記憶部25に格納する。ステップS17では、上記ステップS16の処理で炎が小さいと判定された場合に、更に所定閾値THを超えるスペクトル強度の大きさと、記憶部26の炎までの距離判定閾値26bとを比較することにより観測点から炎までの距離を判定すると共に、該判定結果の炎までの距離情報を判定結果記憶部25に格納する。なお、上記ステップS16の処理で炎が大きいと判定された場合はステップS17の処理を行わない。
【0045】
ステップS18では炎分析部24が前記クロススペクトル演算部23により求められたクロススペクトルの位相角と、記憶部26の位相角判定閾値26cとを比較することにより対応する燃焼物を判定すると共に、該判定結果の燃焼物の情報を判定結果記憶部25に格納する。なお、実際の炎では燃焼物を特定できない場合もあるが、この場合は燃焼物を特定しないまま、処理を続ける。ステップS19では判定結果記憶部25の各種判定情報を外部装置に出力し、ステップS11に戻る。以上の処理を繰り返すことにより火災の発生をリアルタイムに監視する。
【0046】
外部装置では、炎監視装置からリアルタイムに得られた監視情報により炎の検出及び該炎の燃焼状況を的確に把握できると共に、これらの監視情報に基づき不図示の消火装置を遠隔制御することで、適切な初期消火を自動的に行うことも可能である。
【0047】
なお、上記実施の形態では離散周波数やスペクトル強度について具体的数値例を伴って説明をしたが、本発明はこれらに限定されない。
【符号の説明】
【0048】
11a、11b 光学フィルタ
12a、12b サーモパイル素子
13a、13b 増幅回路(AMP)
14a、14b ローパスフィルタ(LPF)
15a、15b A/D変換器
16 CPU
17 主メモリ(MM)
18 表示部
19 通信インタフェース(CIF)
21 前処理部
22 FFT処理部(FFT)
23 クロススペクトル演算部
24 炎分析部
25 判定結果記憶部
26 閾値情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎から放射される所定波長域の赤外線を観測して該炎を検出する炎監視装置において、
前記所定波長域における赤外線信号強度の変動周波数成分を求めるフーリエ変換手段と、
前記求めた各変動周波数成分につき、そのスペクトル強度が所定閾値を超えたものの周波数分布に基づいて炎の大小を判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする炎監視装置。
【請求項2】
前記判定手段は、炎が小さいと判定した場合は、前記所定閾値を超えたスペクトル強度の大きさに基づいて観測点から炎までの距離を更に判定することを特徴とする請求項1記載の炎監視装置。
【請求項3】
前記所定波長域の赤外線は波長4.4μm付近の赤外線であることを特徴とする請求項1又は2記載の炎監視装置。
【請求項4】
炎から放射される所定波長域の赤外線を観測して該炎を検出する炎監視装置において、
異なる所定の波長域における各赤外線信号強度の複素変動周波数成分を求めるフーリエ変換手段と、
前記求めた各波長域の複素変動周波数成分について同一変動周波数成分間のクロススペクトルを求めるクロススペクトル演算手段と、
前記求めたクロススペクトルの位相差成分に基づいて燃焼物を判定する燃焼物判定手段と、を備えることを特徴とする炎監視装置。
【請求項5】
前記異なる所定波長域の赤外線は波長4.4μm付近と波長3.1μm付近の各赤外線であることを特徴とする請求項4記載の炎監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−249769(P2010−249769A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101702(P2009−101702)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(591077003)沖電気防災株式会社 (17)
【Fターム(参考)】