説明

炭化ケイ素焼結体の製造方法及び炭化ケイ素焼結体

【課題】低温〜高温の広い温度域ですぐれた抵抗値特性を有する炭化ケイ素を製造することができる炭化ケイ素焼結体の製造方法及び炭化ケイ素焼結体を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素焼結体の製造方法は、炭化ケイ素と、チタンを含むチタン原料と、炭素を含む炭素原料と、が混合した原料粉末を調製する原料混合工程と、原料粉末を焼結する焼結工程と、酸化性雰囲気下で炭素を酸化して除去する酸化工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の製造方法及び炭化ケイ素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、良導電性の半導体化合物であり、材質的に優れた熱的および化学的な安定性を備えていることから、発熱体として用いられている。一般に、炭化ケイ素よりなる発熱体は、炭化ケイ素原料粉末に有機バインダーを混合し、所定形状に成形したのちに、焼結処理することで、組織を再結晶SiCに転化させることにより製造されている。そして、炭化ケイ素は、バンドギャップが約3eVと広い関係から、電気抵抗を通電可能なレベルにまで引き下げる必要がある。このためには、炭化ケイ素中に3価の元素や5価の元素を固溶させる手段が有効とされている。
【0003】
炭化ケイ素は、3価の元素を固溶させるとp型半導体となり、また5価の元素を固溶させた場合にはn型半導体となる。このうちp型半導体のキャリアはホールであり、n型半導体のキャリアは電子であるが、電子はホールに比べて一般に移動度が速いため、5価の元素を固溶させてn型半導体とした方が比抵抗を下げるためには有効である。炭化ケイ素に固溶可能な5価の元素としては、窒素、リン、ヒ素、アンチモンまたはビスマスのような窒素族の元素や、バナジウム、ニオブ、タングステンが挙げられるが、これらの中では窒素が最も固溶し易く、固溶限界も高い。このため、炭化ケイ素の電気抵抗を下げる目的で組織中に窒素を固溶させる試みが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には炭化ケイ素を窒素雰囲気中で焼結する方法が示され、同様に特許文献2には炭化ケイ素を窒素雰囲気中でホットプレス焼結する方法が開示されている。しかし、単に窒素ガス中で焼結するだけでは窒素の固溶化は円滑に進まず、比抵抗を十分に低減させることはできなかった。特許文献3では窒素の固溶度合を増大させるため、炭化ケイ素焼結時の窒素ガス圧を80〜500気圧まで高め、窒素を強制的に固溶させる方法が記載されている。この方法によれば窒素固溶量が増大するため炭化ケイ素の電気比抵抗を効果的に低下させることが可能となるが、前記条件の窒素ガス圧を確保するには例えば熱間静水圧プレス(HIP)のような高価な装置を適用しなければならず、設備やコストなどの面で工業的手段としての難点があった。
【0005】
さらに、特許文献4では、炭化ケイ素に対する窒素固溶度合を高めるための簡便な手段として、発熱体の製造時に炭化ケイ素原料粉末に特定量の窒化物と炭素の粉末を混合し、更に特定された条件で焼結処理をおこなうと、特別な装置設備を必要とせずに窒素固溶量を効果的に増大することができ、材質強度を損ねることなしに炭化ケイ素発熱体の比抵抗低下を図ることができることが記載されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法で炭化ケイ素発熱体を製造しようとすると、初期(低温時)の抵抗値が高すぎて、加熱が始まらないという問題があった。また、各種元素をドープして初期の抵抗値を低くすると、高温下では抵抗が更に下がるという半導体の特性により、発熱体の熱により抵抗が下がりすぎて、十分な発熱ができない(発熱体と成らない)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭57−18682号公報
【特許文献2】特関昭52−110499号公報
【特許文献3】特公昭64−4312号公報
【特許文献4】特開平6−92733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、低温〜高温の広い温度域ですぐれた抵抗値特性を有する(抵抗値が通電時に発熱可能な値となる)炭化ケイ素を製造することができる炭化ケイ素焼結体の製造方法及び炭化ケイ素焼結体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者は炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、炭化ケイ素と、チタンを含むチタン原料と、炭素を含む炭素原料と、が混合した原料粉末を調製する原料混合工程と、原料粉末を焼結する焼結工程と、酸化性雰囲気下で炭素を酸化して除去する酸化工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の炭化ケイ素焼結体は、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法を施してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、炭化ケイ素(SiC)を、チタン原料及び炭素原料とともに焼成した後に酸化(脱炭)している。これらの工程を施すことで、すぐれた抵抗値の特性を有する炭化ケイ素焼結体が製造できる。
【0013】
また、本発明の炭化ケイ素焼結体は、上記した製造方法により製造されたものであり、上記の製造方法と同様な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例及び比較例の炭化ケイ素焼結体のX線回折ピークを示したグラフである。
【図2】実施例3の炭化ケイ素焼結体のSEM写真である。
【図3】比較例1の炭化ケイ素焼結体のSEM写真である。
【図4】比較例4の炭化ケイ素焼結体のSEM写真である。
【図5】比較例7の炭化ケイ素焼結体のSEM写真である。
【図6】比較例10の炭化ケイ素焼結体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(炭化ケイ素焼結体の製造方法)
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、原料混合工程、焼結工程、酸化工程、を有する。
【0016】
本発明の製造方法は、原料混合工程において、製造される炭化ケイ素焼結体を形成するための炭化ケイ素だけでなく、チタン原料、炭素原料を含む原料粉末を調製している。そして、焼結工程においてこの原料粉末を焼成すると、SiCが焼結して焼結体を形成するだけでなく、チタン原料、炭素原料に含まれるチタン及び炭素から生成した炭化チタン(TiC)が含まれた焼結体となる。そして、その後の酸化工程において、TiCが酸化されて炭素が除去される(脱炭する)。このようにして製造された炭化ケイ素焼結体は、その原理が明らかではないが、SiC焼結体の結晶性等の構造を変化することなく、低温〜高温の広い温度域で良好な抵抗値を有することとなる。
【0017】
原料混合工程は、炭化ケイ素と、チタンを含むチタン原料と、炭素を含む炭素原料と、が混合した原料粉末を調製する工程である。この工程では、本発明の製造方法により製造される炭化ケイ素焼結体を製造するための材料を混合して原料粉末を調製する。
【0018】
原料混合工程において調製される原料粉末は、その後に焼結,酸化工程を施すことで炭化ケイ素焼結体を製造できる原料を調製する工程であり、焼成して炭化ケイ素焼結体を形成できる粉末であればよい。
【0019】
原料粉末は、炭化ケイ素を炭化ケイ素粒子の粉末として含む(炭化ケイ素粒子粉末を混合してなる)ことが好ましい。炭化ケイ素粉末を焼成することで、炭化ケイ素粒子が焼結して、炭化ケイ素焼結体を形成できる。
【0020】
炭化ケイ素粉末は、その粒径が限定されるものではなく、平均粒径が0.1〜3.0μmの微細粒子と、平均粒径が5〜20μmの粗大粒子と、の混合粉末であることが好ましい。微細粒子と粗大粒子の混合割合(混合比)は、特に限定されるものではなく、製造される焼結体に求められる特性により調節できる。炭化ケイ素粉末が、異なる粒径を有する粉末の混合物よりなることで、混合粉末を成形したときの充填率が向上し、製造される炭化ケイ素焼結体の細孔を調節できる。
【0021】
チタン原料及び炭素原料は、焼結工程を施した後にTiCが存在するように含まれる原料であり、焼結(焼成)後の状態でTiCが存在できる状態で原料粉末に含まれる。焼結(焼成)後の状態でTiCが存在できる状態とは、具体的には、焼結(焼成)時にTiCを生成する形態、焼結前からTiCを含ませておく形態、をあげることができる。すなわち、原料粉末は、チタン原料の粒子と炭素原料の粒子とが混合した状態,チタン原料と炭素原料とが化合物を形成して混合した状態、の少なくとも一方であることが好ましい。
【0022】
原料粉末が、チタン原料の粒子と炭素原料の粒子とが混合した状態である場合には、焼結(焼成)時にTiCが生成される。この場合、チタン原料は、TiO,ルチル,アナターゼであることが好ましく、TiOであることがより好ましい。また、炭素原料は、グラファイトであることが好ましい。
【0023】
チタン原料の粒子及び炭素原料の粒子は、TiCを生成できる粒径であれば、その粒径が限定されるものではない。たとえば、チタン原料の粒子の平均粒径が0.1〜10μm、炭素原料の粒子の平均粒径が1〜30μmであることが好ましい。
【0024】
原料粉末が、チタン原料と炭素原料とが化合物を形成して混合した状態である場合には、焼結(焼成)前から混合粉末がTiCを含むこととなる。この場合、チタン原料と炭素原料とが形成する化合物は、TiCである。
【0025】
TiCの粒子の粒径は、限定されるものではない。たとえば、平均粒径が0.1〜10μmであることが好ましい。
【0026】
チタン原料及び炭素原料は、焼結(焼成)後の状態でTiCが存在できる状態となるように、各原料が含まれることが好ましい。すなわち、チタン原料に含まれるチタンは、原料粉末に含まれる炭素と等モル以下で含まれることが好ましい。チタンが炭素に対して等モル以上で含まれると、製造される炭化ケイ素焼結体には、TiCに由来しないチタンが含まれることとなる。このチタンは、抵抗値の特性の向上に寄与しない。
【0027】
原料混合工程において調製される原料粉末は、その後の焼結,酸化工程を施すことで炭化ケイ素焼結体を製造できる原料を調製する工程であり、製造される炭化ケイ素焼結体を形成するための添加成分の粉末が混合していてもよい。このような成分としては、たとえば、窒化ケイ素,バインダ、分散剤等の添加材(焼結助剤)をあげることができる。
【0028】
焼結工程は、原料粉末を焼結する。焼結工程は、原料粉末を焼結させるために焼成する工程であり、これにより炭化ケイ素粉末が焼結する。また、原料の構成によっては、焼結工程中に、チタン原料のチタンと炭素原料の炭素とが反応してTiCを生成する。
【0029】
焼結工程は、原料粉末を焼結させるために焼成する工程であり、原料粉末の粒子(特にSiC粒子)が焼結できる温度、時間等の焼結(焼成)条件は、限定されるものではない。たとえば、1800〜2400℃で加熱することが好ましく、特に2000〜2200℃がより好ましい。昇温パターン、焼成時間としては、製造される焼結体が十分な強度を持つことができれば特に限定されないが、2000℃以上で焼成する場合には、30分以上保持することが好ましい。
【0030】
焼結工程は、不活性ガス雰囲気下で施されることが好ましい。焼結工程が不活性ガス雰囲気下で施されることで、焼結工程が施されているときに炭素原料の炭素が酸化(脱炭)することが抑えられる。つまり、原料粉末中の炭素がTiCの生成のみに使用されることとなり、TiCの生成量の減少が抑えられる。不活性ガスは、窒素ガス、アルゴンガスをあげることができ、アルゴンガスであることがより好ましい。
【0031】
酸化工程は、酸化性雰囲気下で炭素を酸化して除去する工程である。酸化工程において炭素を酸化して除去することで、過剰に残存している炭素分が除去されるとともに、表面を酸化して安定した物質とすることができる。
【0032】
酸化工程は、酸化性雰囲気下で加熱する工程であることが好ましい。酸化性雰囲気下での加熱によると、焼結工程よりも低い温度で炭素を除去できる。すなわち、酸化工程は、焼結工程の焼結温度よりも低い温度で加熱することが好ましい。具体的には、熱衝撃で亀裂を生じさせない範囲であれば良く、600〜1500℃であることが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、焼結工程が施される原料粉末は、炭化ケイ素焼結体の所定の形状に成形されていることが好ましい。所定の形状に成形した状態で焼結工程を施すことで、所定の形状(製品形状をした)の焼結体を得られる。原料粉末を成形する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の成形方法を用いることができる。成形方法としては、原料粉末を粘土状とし、押出し成形で成形する方法を用いることが好ましい。押出し成形には、成形体が加熱によりクラックなどが発生することを抑制するために、真空混練成形機を使用することが好ましい。押出し成形した成形体は、保形性が低い場合には、マイクロ乾燥器による乾燥や、円筒形の場合には、回転式乾燥機などを使用することが好ましい。また、乾燥時に温風や熱風で乾燥したり、あるいは他の乾燥方法と組み合わせてもよい。
【0034】
本発明の製造方法において、焼結工程が施される原料粉末(成形体)は、脱脂工程が施されていることが好ましい。脱脂工程を施すことで、製造の効率の向上や、焼結を行う焼成炉がダメージを受けることが抑えられる。脱脂工程は、特に限定されるものではなく、不活性雰囲気下で加熱する工程であることが好ましい。不活性ガスは、窒素ガス、アルゴンガスをあげることができ、アルゴンガスであることがより好ましい。また、加熱温度は、250〜600℃であることが好ましく、300〜500℃であることがより好ましい。さらに、脱脂量としても同様に特に指定は無いが、半分以上脱脂した方が良い。
【0035】
(炭化ケイ素焼結体)
本発明の炭化ケイ素焼結体は、上記の製造方法により製造された焼結体である。本発明の炭化ケイ素焼結体は、上記の製造方法で製造された焼結体であり、低温〜高温の広い温度域で、良好な抵抗値を得られる。つまり、低温(常温)〜高温(数百度)にわたってすぐれた抵抗値を有する。
【0036】
本発明の炭化ケイ素焼結体は、SiCのモル数を100%としたときに、TiOを10.0mol%以下で含むことが好ましい。SiCに対するTiOのモル比が10.0mol%以下となることで、抵抗値の特性が優れたものとなる。なお、SiCに対するTiOのモル比は、原料粉末におけるSiCに含まれるSiとTiとのモル比で算出してもよい。
【0037】
上記したように、本発明の炭化ケイ素焼結体は、低温(常温)〜高温(数百度)にわたってすぐれた抵抗値を有している。つまり、本発明の炭化ケイ素焼結体に電圧を印加したときに、低温(室温)〜高温(数百度)のいずれの温度においても、焼結体が発熱する。このことから、本発明の炭化ケイ素焼結体は、揮発性有機化合物(VOC)等の被浄化成分が含まれる気体等の汚染ガスの浄化に用いることが好ましい。この場合、本発明の炭化ケイ素焼結体に電圧を印加して発熱させた状態で汚染ガスを接触(近接)させて、被浄化成分を分解除去する。汚染ガスとしては、さらに、燃料を燃焼してエネルギーを取り出す熱機関から排出されるガスを例示できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0039】
実施例として、炭化ケイ素焼結体を製造した。製造にあたって、原料には表1に記載の製品が用いられた。
【0040】
【表1】

【0041】
(炭化ケイ素焼結体の製造)
【0042】
【表2】

【0043】
まず、表1に記載の原料を、表2に記載の質量比で秤量した。秤量されたSiC(粗大粒子),SiC(微細粒子),Si,グラファイト,TiO,TiC,TiSi,Tiのそれぞれを、加圧型ニーダー(森山製作所製、DS1−5GHH−E)で15分間混合した。
【0044】
その後、混合物に、表1の分散剤(A)と分散剤(B)の等量混合物よりなる分散剤,バインダ,水を加えて、10分間混練して粘土状とした。
【0045】
得られた粘土状の原料粉末を、押出し成形でパイプ状に成形した。押出し成形は、卓上型真空混練成形機(ユニバース株式会社製、UNIX)を用い、押出し時の温度:18〜22℃,押出し速度:50〜350mm/min(粘土の硬さにより決定)で調整して行った。得られた成形体は、外径:6mm,内径:4mm,長さ:150mmのパイプ状であった。
【0046】
次に、成形体を、MIX−ROTAR(イウチ製、VMR−5)で回転させながら、室温で3時間乾燥し、更に80℃で8時間保持して乾燥した。
【0047】
乾燥した成形体を、不活性ガス雰囲気(窒素ガス雰囲気)下で310℃で保持して脱脂した。
【0048】
その後、不活性ガス雰囲気(アルゴンガス雰囲気)下で2100℃で5時間保持して焼結させた(焼成した)。
【0049】
焼結体を、酸化性ガス雰囲気(空気)下で1100℃で2時間加熱して、脱炭した。
【0050】
脱炭後、放冷して実施例(及び比較例)の炭化ケイ素焼結体が製造された。
【0051】
(評価)
実施例及び比較例の炭化ケイ素焼結体の評価として、低温(室温)及び高温(400℃)における抵抗値を測定した。測定結果を表3に示した。
【0052】
抵抗値の測定は、次のようにして行われた。まず、パイプ状の焼結体の両端部の外周面に、10cmの間隔を隔てた状態で銀ペーストを塗布して電極端子とした。一対の電極端子間に、大容量直流電源装置(高砂製作所製、HX0300−50)で電圧を印加し、そのときの電流値を測定し、抵抗値を算出した。抵抗値の測定は、室温(約25℃)と高温(400℃)で行われた。
【0053】
【表3】

【0054】
表3に示したように、TiCを酸化して脱炭した各実施例の炭化ケイ素焼結体は、低温及び高温のいずれにおいても適度な大きさの抵抗値を有していることが確認できた。これに対し、各比較例の焼結体は、低温において適度な大きさの抵抗値を有していても、高温では抵抗値が大きく低下している。また、高温時の抵抗値を調節する(適度な大きさとなるように)調節した比較例6では、低温時の抵抗値の値が大きくなりすぎている。さらに、比較例7,10では、10000以上と表3に記載しているが、抵抗値の測定ができなかった。
【0055】
実施例及び比較例の炭化ケイ素焼結体の評価として、更に、圧縮強度試験を施して、圧縮強度及びヤング率を測定し、表3に合わせて示した。
【0056】
圧縮強度試験は、次のようにして行われた。まず、パイプ状の焼結体を軸方向の長さが30mmとなるように切断した。ここで、パイプ状の両端面は、軸方向に垂直な平面上に位置するように試験片が切り出された。
【0057】
切り出された試験片に、電子式万能材料試験機(高砂製作所製、CATY)を用いて、軸方向の圧縮試験を施した。試験条件は、速度:0.1mm/min、スケール500kgf、試験数n=6で行われた。そして、試験結果のうち、最大と最小の二つを除いた4つの試験結果の平均値から最大破壊強度(圧縮強度)を算出した。また、変位から、ヤング率も算出した。
【0058】
表3に示したように、各実施例及び各比較例の炭化ケイ素焼結体の圧縮強度及びヤング率は、ほぼ同程度となっている。つまり、各実施例の炭化ケイ素焼結体は、圧縮強度及びヤング率は従来程度に維持しながら、抵抗値のみを調節できたことが確認できた。
【0059】
さらに、実施例及び比較例の炭化ケイ素焼結体の評価として、それぞれの焼結体の結晶性(結晶構造)を確認した。具体的には、X線回折及びSEMによる観察を行った。
【0060】
X線回折は、粉末X線回折装置(リガク製、RINT2000)で実施例1,3,5,7及び比較例1,4,7,10の焼結体の結晶相を同定することで行われた。得られた回折ピークを図1に示した。
【0061】
表2に示したように、比較例1は、Tiが添加されていない焼結体である。つまり、図1において示される比較例1の回折パターンは、SiCのみを示すものであり、SiC以外のピークを示していない。そして、この比較例1以外の回折パターンを確認したところ、27.5°付近に回折ピークを持つことが確認できた(図1中の矢印で示した回折ピーク)。このピークは、チタニアのルチルであることがわかる。つまり、比較例1以外の焼結体は、チタニア相を含んだSiC相であることが確認できた。
【0062】
SEMによる観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JXA−840)を用いて、実施例3及び比較例1,4,7,10の焼結体のSEM写真を撮影し、観察した。SEM写真を図2〜6に示した。なお、図2〜6において、(a)は各焼結体の端面を20倍で、(b)は(a)において囲まれた範囲を200倍で、(c)は(b)において囲まれた範囲を500倍で、それぞれ撮影したSEM写真である。
【0063】
図2〜6に示したように、いずれも同じ程度の焼結体であることが確認できた。
【0064】
図1〜6に示したように、各実施例及び各比較例の炭化ケイ素焼結体は、ほぼ同じ結晶特性(結晶性及び焼結体構造)を有していることが確認できた。そして、各実施例及び各比較例の炭化ケイ素焼結体は、チタニア相を含むことで抵抗値の特性を向上させていることが確認できた。
【0065】
その上で、各実施例及び各比較例の焼結体は、回折ピークからSiCとTiOを有していることが分かるが、TiCから生成されたTiOを有する各実施例の焼結体のみが、抵抗値の特性を向上させている。すなわち、TiCから生成されたTiOを有するように製造されることで、炭化ケイ素焼結体が抵抗値の特性を向上させることが確認できた。
【0066】
上記の結果から、TiCを得るために原料粉末に混合されるチタン原料の種類や配合割合を調節して焼結体を製造することで、所望の抵抗値の特性をもつ焼結体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素と、チタンを含むチタン原料と、炭素を含む炭素原料と、が混合した原料粉末を調製する原料混合工程と、
前記原料粉末を焼結する焼結工程と、
酸化性雰囲気下で炭素を酸化して除去する酸化工程と、
を有することを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記酸化工程は、前記焼結工程の焼結温度よりも低い温度で加熱する請求項1記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程は、不活性ガス雰囲気下で施される請求項1〜2のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記原料粉末は、前記チタン原料の粒子と前記炭素原料の粒子とが混合した状態,前記チタン原料と前記炭素原料とが化合物を形成して混合した状態、の少なくとも一方である請求項1〜3のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記チタン原料に含まれるチタンは、前記原料粉末に含まれる炭素と等モル以下で含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記チタン原料がTiOである請求項4〜5のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記チタン原料と前記炭素原料の化合物が、TiCである請求項4〜5のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法を施してなることを特徴とする炭化ケイ素焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−41214(P2012−41214A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181993(P2010−181993)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】