説明

炭化タングステン粉末、炭化タングステン粉末の製造方法

【課題】 超硬合金の高硬度と高強度(抗折力)を両立可能な炭化タングステン粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の炭化タングステン粉末は、レーザー回折・散乱法にて粒度測定した際に得られる粒度分布の累積パーセント径、D10%、D50%、D90%のそれぞれの値をX、Y、Zμmとしたとき、0.35≦X/Y、Z/Y≦2.85、0.20≦Y≦1.20である。
本発明の炭化タングステン粉末は、金属タングステン粉末またはタングステン酸化物粉末のいずれかと炭素源粉末との混合物を原料として、加熱処理にて得られた炭化タングステン粉末を、気流式粉砕機にて、粉砕ガス圧力0.4〜0.7MPaで粉砕し、その後、遠心分級機にて、分級風量4.0〜6.0m/分、分級機周速2200〜3500m/分で分級して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化タングステン粉末および炭化タングステン粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタル機器の発展には目覚しいものがあり、それらの加工に用いられる切削工具、金型、精密ドリル等の加工器具には、さらなる軽量化、小型化、高硬度化、高強度化が要求されている。
【0003】
そのため、これらの器具となる材料である超微粒超硬合金の原料としては、炭化タングステン等を主として用い、これを焼結して形成されることが多い。
【0004】
しかし、超硬合金の硬度と強度(抗折力)には、一方の特性を向上させると他方の特性が低下するという二律背反する関係があり、硬度と強度を両立させ得る炭化タングステン粉末およびその製造方法が求められている。
【0005】
硬度と強度を両立させた超硬合金を得る技術としては、炭化タングステン粒子の結晶粒を微細化する技術が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、炭化タングステン粒子内にクロム化合物を分散させることにより、結晶粒を微細化し、強度と硬度の優れた超硬合金が得られた旨が記載されている(特許文献1)。
【0007】
また、特許文献2にはW系炭化物粉末を、V、Cr、Ta、およびTiの炭化物粉末および酸化物粉末と混合して還元処理を行い、その後、炭化処理を施すことにより炭化タングステン粒子の平均粒径を0.5μm以下に微細化した旨が記載されている(特許文献2)。
【0008】
また、非特許文献1には、WOとCとの混合物を窒素気流中に続いて水素気流中で加熱することによって、最も微細なものはBET法で0.11μm、SEM法で0.14μmの超微細WC粉末が得られた旨が記載されている(非特許文献1)。
【0009】
一方、特許文献3には、メタタングステン酸アンモニウムまたはタングステン酸アンモニウム水溶液に、C粉末を混合して、スラリーとし、スラリーを乾燥して、原料粉末を調製し、前記原料粉末に、窒素雰囲気中、加熱還元処理を施して、組成式でWCを主体とし、残りがWCと金属Wからなる還元反応生成物を形成し、ついで、上記還元反応生成物に99.9質量%以上の純度の炭素C粉末を、混合し、還元反応生成物に、水素雰囲気中、炭化処理を施して、粉砕工程を必要とすることなく高純度微粒炭化タングステン粉末を製造する技術が記載されている(特許文献3)。
【0010】
さらに、特許文献4には、酸化コバルト、炭素、酸化タングステンからなる混合粉末に、非酸化性ガス気流中で還元−炭化反応処理を行い、その後、水素含有ガス気流中、800〜1100℃の温度に所定時間保持する加熱処理を施すことにより平均粒径で1μm以下の微細なCo−W−C系化合物粉末を製造することが記載されている(特許文献4)。
【0011】
一方、結晶粒の微細化の技術としては、タングステン酸化物又はその塩を炭素粉または炭化水素などのガスと反応させて直接、超微細なWC粉末を得る技術も知られている。
【0012】
例えば、非特許文献2には、分子レベルで混合したタングステンとコバルトの水溶液をスプレーで極端に微細な混合粉末としてのプレカーサーを作り、流動反応床で加熱することによって得るナノ粒径のWC−Co混合組成粉末製造法が記載されている(非特許文献2)。
【0013】
また、非特許文献3には、炭素還元法(Carbothermal reduction)により、タングステン酸化物を原料にしてWC粉末を製造し、その粒径はBET法で0.2μmと0.4μmであることが記載されている。
【0014】
【特許文献1】特開平6−330220号公報
【特許文献2】特開平5ー147916号公報
【特許文献3】特開平2003ー112916号公報
【特許文献4】特開平6ー145726号公報
【非特許文献1】Y. Yamamoto, A. Matsumoto, Y. Doi “Properties of Ultrafine Tungsten Carbide And Cemented Carbide by Direct Carburization”, Proceeding of the 14th International Plansee Seminor, 2 (1997) pp 596-608.
【非特許文献2】L. E. McCandlish, B. H. Kear and J. Bhatia: Spray Conversion Process for the Production of Nanophase Composite Powders, U. S. Pat. App. S. N. 432,742.
【非特許文献3】Cynthia L. Conner: “Meeting the Needs Of The End-User Through Ultrafine Powder Technology”Proceedings of the 7 th International Tungsten Symposium, pp. 171-179.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記文献に記載された技術は、近年の切削工具の高硬度・高強度化、切削加工の省力・高速・低コスト化の要求に対して、いずれの特許文献、非特許文献も炭化タングステン粉末の微粒化から改善を試みた技術である。
【0016】
しかしながら、これらの技術には以下のような問題点があった。
【0017】
まず、特許文献1記載の技術では金属タングステン粉末を原料とするために、得られる炭化タングステン粉末の粒径には限界があり、得られる炭化タングステン粉末はせいぜい1.1〜1.2μm程度であった。
【0018】
また、特許文献2および非特許文献1記載の技術では、出発原料の形骸が炭化後も炭化タングステン粉末に残り、衝撃粉砕機やボールミル粉砕機では得られた炭化タングステン粉末の凝集粒子の解砕が充分行われないために、炭化タングステン粉末のボリュームが高くなる可能性があった。
【0019】
一方、特許文献3記載の技術では、メタタングステン酸アンモニウムまたはタングステン酸アンモニウム水溶液とC粉末を混合することが記載されているが、親水性である水溶液と親油性物質を均一に混合することは、基本的に困難である。そのため、均一な炭化反応が進まず、微細で均一な組成の炭化タングステン粉末が得られない可能性があった。
【0020】
特許文献4記載の技術では、水素中で過剰の炭素をCHとして処理することは難しく大量の遊離炭素が残る可能性があり、遊離炭素が多く残った場合、これを原料として得られる超硬合金は製造時のC調整が難しく、超硬合金の特性悪化の可能性が大きいという問題があった。
【0021】
非特許文献2記載の技術では、WC相が超微細である一方、市場が求めるまでの高硬度化がされていない。
【0022】
非特許文献3はその粉末を用いたWC−0.6%VC−6%Co合金の硬度はHv硬度で2130と0.2μmWC粉末としてはそれほど硬度が高いものではない。
【0023】
このように、上記した従来技術は、結晶粒の微細化が不十分であるか、また、結晶粒を微細化したものであっても、硬度が不十分であった。
【0024】
即ち、炭化タングステン粉末の高硬度・高強度化は単に炭化タングステン粉末の結晶粒を微粒化するだけでは達成できないという問題があった。
【0025】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その技術的課題は、超硬合金の高硬度と高強度(抗折力)を両立可能な炭化タングステン粉末およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記した課題を解決するために、本発明者は鋭意検討の結果、炭化タングステン粉末の結晶粒径(BET換算粒径)に着目するだけではなく、その粒度分布にも着目することにより、超硬合金の高硬度と高強度(抗折力)を両立可能な炭化タングステン粉末が得られることを見出し、本発明に至った。
【0027】
即ち、第1の発明は、炭化タングステン粉末をレーザー回折・散乱法にて粒度測定した際に得られる粒度分布の累積パーセント径、D10%、D50%、D90%のそれぞれの値をX、Y、Zμmとしたとき、0.35≦X/Y、Z/Y≦2.85、0.20≦Y≦1.20であることを特徴した炭化タングステン粉末である。
【0028】
第2の発明は、金属タングステン粉末またはタングステン酸化物粉末のいずれかと炭素源粉末との混合物を原料として、加熱処理にて得られた炭化タングステン粉末を、気流式粉砕機にて、粉砕ガス圧力0.4〜0.7MPaで粉砕し、その後、遠心分級機にて、分級風量4.0〜6.0m/分、分級機周速2200〜3500m/分で分級して、第1の発明記載の炭化タングステン粉末を得ることを特徴とする炭化タングステン粉末の製造方法である。
【0029】
第3の発明は、第1の発明記載の炭化タングステン粉末を焼結する工程を有することを特徴とする超硬合金の製造方法である。
【0030】
第4の発明は、第1の発明記載の炭化タングステン粉末を真空焼結する工程を有することを特徴とする超硬合金の製造方法である。
【0031】
第5の発明は、第1の発明記載の炭化タングステン粉末を原料とすることを特徴とする加工器具である。
【0032】
第6の発明は、第1の発明記載の炭化タングステン粉末を原料とすることを特徴とする切削工具である。
【0033】
第7の発明は第1の発明記載の炭化タングステン粉末を原料とすることを特徴とする金型である。
【発明の効果】
【0034】
本発明においては、超硬合金の高硬度と高強度(抗折力)を両立可能な炭化タングステン粉末およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0036】
本発明の炭化タングステン粉末は、レーザー回折・散乱法にて粒度測定した際に得られる粒度分布の累積パーセント径、D10%、D50%、D90%のそれぞれの値をX、Y、Zμmとしたとき、0.35≦X/Y、Z/Y≦2.85、0.20≦Y≦1.20である。
【0037】
まず、粒度分布(および粒径)を上記数値に限定した理由について説明する。
【0038】
(1)0.35≦X/Y
炭化タングステン粉末において、その粒度分布における累積パーセント径、D10%、D50%のそれぞれの値をX、Yμmとしたとき、0.35≦X/Yとしたのは、X/Yの値が0.35未満では炭化タングステン粉末中の微粒子が多くなり、この炭化タングステン粉末を用いて超硬合金を焼結すると、焼結中に微粒炭化タングステンがコバルトの液相中に溶解しオストワルド成長により粗大WCが成長し易くなるためである。
【0039】
よって、炭化タングステン粉末において、その粒度分布の累積パーセント径におけるD10%、D50%のそれぞれの値をX、Yμmとした時、0.35≦X/Yとした。
【0040】
(2)Z/Y≦2.85
炭化タングステン粉末において、その粒度分布における累積パーセント径、D50%、D90%のそれぞれの値をY、Zμmとしたとき、Z/Yの値が2.85を超えると、炭化タングステンの粗粒子が多くなることを意味する。
【0041】
粗大粒子が多く存在する炭化タングステン粉末を原料として超硬合金を焼結すると、それらが異常粒成長を起す核となり易くなるため均一な粒径の炭化タングステンを有する組織には好ましくない。
【0042】
よって、炭化タングステン粉末において、その粒度分布の累積パーセント径におけるD50%、D90%のそれぞれの値をY、Zμmとした時、Z/Y≦2.85とした。
【0043】
このように粒度分布の累積パーセント径、即ちD10%とD50%の値およびD50%とD90%の値が近いとき、粒度分布は狭いことを意味し、このような炭化タングステン粉末を用いて超硬合金を焼結するとき、均一な合金組織を得られる特徴がある。
【0044】
ここで、本発明では、粒度分布測定は、レーザー回折・散乱法で測定するのが望ましい。
【0045】
測定は例えば粒子屈折率1.90、分散溶媒として水、溶媒屈折率1.33を採用して測定する。
【0046】
(3)0.20≦Y≦1.20
炭化タングステン粉末において、その粒度分布における累積パーセント径、D50%の値をYμmとした時、Yが0.20未満になると従来技術での焼結条件では粒成長を抑えて焼結することは非常に難しい。Yが1.20を超えると炭化タングステンの粒径が大きくなり、高硬度、高強度を有する超微粒超硬合金を製造することは困難になる。よって炭化タングステン粉において、その粒度分布の累積パーセント径におけるD50%の値をYμmとした時、0.20≦Y≦1.20とした。
【0047】
次に、本発明の炭化タングステン粉末の、上記粒度分布以外の望ましい条件について、説明する。
【0048】
(1)炭化クロムの含有量:2.0質量%以下
本発明の炭化タングステン粉末は炭化クロムを含有してもよい。炭化クロムを含有することにより、炭化タングステンの結晶粒が微細化する。また、炭化クロムが合金焼結時に結合相に固溶することによって強度が向上するからである。
【0049】
ただし、炭化クロムを含有する場合、含有量は2.0質量%以下であることが望ましい。
【0050】
これは、炭化クロムの含有量が2.0質量%を超えると、焼結時に合金中の炭素量によっては炭化クロムの第3相の生じる恐れがあり、強度低下を招くからである。よって、炭化クロム含有量を2.0質量%以下とした。
【0051】
炭化クロムの添加方法は、炭化処理される原料粉末中にCr源として酸化クロム粉末として加え、さらにこれをCrとするために必要な炭素粉末も加えることがよい。金属Crとして加える方法もあるが、生成された炭化物が粗大な粒子となるため好ましくない。またCr含有溶液は、環境・安全上6価クロムを避けるという観点から使用しない方が好ましい。
【0052】
また、炭化タングステン粉末に炭化クロムが含有されていない場合は、超硬合金作製時に添加量を2.0質量%以下に相当する炭化クロム粉末を加えることが好ましい。
【0053】
(2)BET(Brunauer,Emmett and Teller)値換算粒径:0.4μm以下
BET値換算粒径とは、BET法から求めた粉末の比表面積値より、粒子を球体と仮定し、その直径を計算して得られた平均粒径である。
【0054】
炭化タングステン粉末の比表面積BET値の換算粒径は0.4μm以下であるのが望ましい。
【0055】
これは、0.4μmを超えると高硬度、高強度を有する超微粒超硬合金を製造することが難しくなるためである。
【0056】
よって、炭化タングステン粉末のBET換算粒径は0.4μm以下であるのが望ましい。
【0057】
次に、本実施形態に係る炭化タングステン粉末の製造方法について説明する。
【0058】
本実施形態に係る炭化タングステン粉末は、例えば、金属タングステン粉末またはタングステン酸化物粉末のいずれかと炭素源粉末との混合物を原料として、加熱処理にて得られた炭化タングステン粉末に、高圧のガスを供給して粉砕する気流式粉砕機で粉砕し、この粉砕された粉末を気流式遠心分級機を用いて遠心分離にて分級を行い、凝集粒子を解砕、除去することにより製造される。
【0059】
なお、これらの操作は別々の操作でも構わないが、同時操作の方がより効率が良い。
【0060】
以下に、上記製造方法における望ましい製造条件について、詳細に説明する。
【0061】
(1)粉砕ガス圧力:0.4〜0.7MPa
気流式粉砕機における粉砕ガス圧力は0.4〜0.7MPaであるのが望ましい。
【0062】
これは、0.4MPa未満では、粉砕力が十分でなく凝集粒子が十分に解砕されないからである。また0.7MPaを越えると、凝集の解砕は十分だが、一次粒子まで粉砕され、粒度分布が広くなってしまうからである。この粉砕された一次粒子は超硬合金の異常粒成長粒子の原因であり、過粉砕は好ましくない。
【0063】
なお、粉砕に用いるガスは、空気の他、窒素、アルゴンなどの不活性ガスのいずれを用いても構わないが、製造コストの観点から空気を用いることがより望ましい。
【0064】
(2)気流式遠心分級機風量:4.0〜6.0m/分
気流式遠心分級機における分級風量は4.0〜6.0m/分であるのが望ましい。
【0065】
これは、分級風量6.0m/分を超えると解砕されていない凝集粒子が製品に混入する可能性があり本願発明の粒度分布の累積パーセントを満足する炭化タングステン粉末が得られないからである。
【0066】
また、分級風量4.0m/分未満では、風量が少なすぎ、生産性が極端に悪くなり、コストアップとなるため好ましくない。
【0067】
(3)気流式遠心分級機周速:2200〜3500m/分
気流式遠心分級機における分級機周速は2200〜3500m/分であるのが望ましい。
【0068】
これは、分級機周速が2200m/分未満では製品中に10μm以上の凝集粒子が混入する可能性があり、本願発明の粒度分布の累積パーセントを満足する炭化タングステン粉末が得られないからである。
【0069】
分級機周速が3500m/分以上では生産性が極端に悪くなり、コストアップとなるため好ましくないからである。
【0070】
(4)その他:
本発明の粉砕、分級により得られる炭化タングステン粉末は、粉砕前の熱処理物として、タングステン原料として金属タングステン粉末またはタングステン酸化物粉末のいずれを用いた場合でも、また熱処理方法も回転炉または炭素質容器を用いた炉のいずれを用いた場合でも適用できる。
【0071】
次に、得られた炭化タングステン粉末を用いた加工器具の製造方法について簡単に説明する。
【0072】
本発明の炭化タングステン粉末は、切削工具、金型、精密ドリル等の加工器具の原料として用いることが可能である。
【0073】
本発明の炭化タングステン粉末を用いてこれらの加工器具を製造する場合、所望の合金組成が得られるように本発明の炭化タングステン粉末と、例えばVC、Cr、Coを混合し、例えばアトライタ−を用いてアルコール中で湿式混合を行う。
【0074】
その後、混合物を乾燥させ、プレス成形等により、所望の形状に成形する。
【0075】
次に、成形したものを焼結(例えば真空焼結)した後、必要に応じてHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を施す。
【0076】
以上の工程により、超硬合金の加工器具が作製される。
【0077】
このように、本実施形態によれば、炭化タングステン粉末がレーザー回折・散乱法にて粒度測定した際に得られる粒度分布の累積パーセント径、D10%、D50%、D90%のそれぞれの値をX、Y、Zμmとしたとき、0.35≦X/Y、Z/Y≦2.85、0.20≦Y≦1.20である。
【0078】
そのため、上記炭化タングステン粉末を原料として製造された加工器具も高硬度と高強度(抗折力)を両立可能である。
【実施例】
【0079】
次に、具体的な実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0080】
[実施例1]
本実施形態における望ましい製造条件の範囲にて製造した8つのサンプル(本発明品1〜8)と望ましい製造条件の範囲外にて製造した8つのサンプルの粒度分布を比較した。
【0081】
まず、本発明品1〜6を下記に示す方法で作製した。
【0082】
炭化タングステン中の炭素含有量が6.16質量%となるように、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒径2.5μmの酸化タングステンWO2.90粉末100.0kgに対し、BET値9.0m/gの炭素粉末を18.80kg配合する。
【0083】
なお、熱処理にて得られる炭化タングステン中に炭化クロムを含有させる場合、FSSS平均粒径0.5μmの酸化クロム粉末と、この酸化クロム粉末を炭化クロム(Cr)とするために必要な炭素粉末を原料粉末にさらに加えることとした。酸化クロムの添加量は生成されるタングステン炭化物中の炭化クロムCr含有量が2.0質量%以下となるようにした。
【0084】
これらの原料粉末をヘンシェルミキサにて乾式で攪拌・混合し、均一に混合された原料粉末を作製した。この混合原料粉末に純水と水溶性有機バインダーを加え直径1〜2mm、長さ2〜5mmの造粒体に整粒後、乾燥し原料造粒体とした。なお、水溶性有機バインダーとしては、寒天、PVA(ポリビニルアルコール)、でんぷん、デキストリン等が挙げられるが、ここではデキストリンを使用した。
【0085】
この原料造粒体を、回転炉で、窒素気流中1200〜1400℃で加熱処理し、続いて水素気流中1300〜1600℃で加熱処理せしめた。この加熱処理で得られた炭化物造粒体を、気流式粉砕機および遠心分離機を用い、粉砕・分級の同時処理を行った。
【0086】
粉砕、分級に用いるガスは空気とした。粉砕ガス圧力0.4〜0.7MPa、分級風量4.0〜6.0m/分、分級機周速2,200〜3,500m/分の範囲で処理し、本発明品1〜6の炭化タングステン粉末を得た。
【0087】
次に、本発明品7,8を下記に示す方法で作製した。
【0088】
炭化タングステン中の炭素含有量が6.16質量%となるように、FSSS平均粒径0.7μmの金属タングステン粉末100.0kgに対し、BET値9.0m/gの炭素粉末を6.56kg配合した。
【0089】
なお、炭化タングステン中に炭化クロムを含有させる場合、上述の本発明品1〜6と同様に行った。
【0090】
これらの原料粉末をヘンシェルミキサにて乾式で攪拌・混合し、均一に混合された原料粉末を作製した。混合粉末を真空雰囲気で1500℃、1時間、炭素質容器内で加熱した。この加熱処理で得られた炭化物造粒体は本発明品1〜6の条件と同様に粉砕・分級の同時処理を行い、炭化タングステン粉末を得た。
【0091】
次に、比較品9〜16を、上記2通りの方法により炭化タングステン粉末を作製し、気流式粉砕・分級機を使用し、表1に示す条件にて粉砕および分級を施した。
【0092】
なお、比較品9〜12はタングステン源原料として金属タングステン粉末を使用し、比較品13〜16はタングステン源原料として酸化タングステンWO2.90粉末を使用した。
【0093】
また表1の粉砕機の種類で「衝撃式」と記載ある比較品16は衝撃粉砕機(商品名:アトマイザー粉砕機FIIW−7.5型)を用い、固定されたステンレス製スクリーンと8000rpmで回転させるステンレス製のハンマ−との間で粉末を粉砕するタイプの粉砕機で処理されたものである。
【0094】
最後に、本発明品1〜8および比較品9〜16のタングステン粉末の粒度分布およびBET(Brunauer,Emmett and Teller)値換算粒径を測定した。
【0095】
なお、粒度分布測定には、レーザー回折・散乱法で測定する日機装株式会社MT3300EX IIを使用し、粒子屈折率1.90、分散溶媒として水、溶媒屈折率1.33を採用して測定した。
【0096】
表1に得られた本発明品1〜8および比較品9〜16の特性、製造条件を記す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1から明らかなように、本発明品1〜8は、本発明で定めた粒度分布の条件を満たしていることが分かった。
【0099】
一方、比較品9〜16は、本発明で定めた粒度分布の条件を満たしていないことが分かった。
【0100】
[実施例2]
実施例1における本発明品3と比較品16の表面を株式会社日立製作所製電解放射型走査電子顕微鏡S−4200型を用い、加速電圧15kV、真空度1×10-2Paの条件下で撮影した。
【0101】
撮影した写真を図1に示す。この写真からも分かるように、本発明品3においては、凝集が解砕されていることが分かった。
【0102】
一方、比較例16では凝集が解砕されておらず、残っていることが分かった。
【0103】
[実施例3]
実施例1における本発明品2、3、5及び比較品16を用いて、超硬合金を作製し、本発明の超硬合金に及ぼす効果を調べた。
【0104】
合金組成で0.5質量%VC、0.9質量%Cr、8質量%Coとなるように、FSSS平均粒径0.7μmのVC粉末、FSSS平均粒径1.1μmのCr粉末、FSSS平均粒径1.3μmのCo粉末を本発明品2、3、5および比較品16の炭化タングステン粉末に配合した。また焼結後の合金炭素量は中炭素合金になるように炭素粉を少量加え、上記粉末を三井鉱山株式会社製のアトライタ−を用い15時間アルコール中湿式混合を行った。その後、真空雰囲気13Pa、90℃で乾燥した。その後、試験片10×5×30mmに成形するために、一軸油圧プレス機を使用して、プレス圧力100MPaにて成形した。成形体を1380℃で1時間、真空焼結した後、アルゴンガス雰囲気中100MPa、1350℃で1時間HIP処理を施し、超硬合金の試験片を作製した。
【0105】
得られた超硬合金の試験片の特性を表2に、抗折力の累積相対度数グラフを図2に示す。抗折力測定は超硬工具協会規格CIS026B−2007にて行った。
【0106】
なお、表2に示す「比重」はメトラ−・トレド株式会社製自動比重測定装置SGM−6を用い、水(純水)中の質量と空気中の質量の差から求めた比重を示す。
【0107】
また、表2に示す「硬度」は、有限会社明成硬機製ロックウエル硬さ試験機(モデルARD−A)にて、ダイヤモンド圧子としてA級(円すい角:120°±30‘、先端半径:0.2±0.02mm)を使用して測定したロックウエル硬度を示す。
【0108】
さらに、表2中の異常粒成長粒子個数は、平面研削盤で試験片を研削後、ダイヤモンドペースト#1500、3000でラッピング後、村上試薬(赤血塩のアルカリ溶液)でエッチングして、光学顕微鏡で1000倍の倍率で1cm中の2μm以上の粒子を計数した結果である。
【0109】
【表2】

【0110】
表2および図2より明らかなように、本発明品2、3、5を用いて作製した超硬合金は比重と硬度が比較品を用いて作製した超硬合金と同程度である一方、比較品16を用いて作製した超硬合金に比べて抗折力(TRS)が高く、凝集粒子の少ない高硬度で高強度の超硬合金であることが分かった。
【0111】
[実施例4]
合金組成で0.5質量%VC、0.8質量%Cr、12質量%Coとなるように、FSSS平均粒径0.7μmのVC粉末、FSSS平均粒径1.1μmのCr粉末、FSSS平均粒径1.3μmのCo粉末を本発明品4および比較品14の炭化タングステン粉末に配合した。
【0112】
これを実施例3と同等の条件で、湿式混合、乾燥、成形、真空焼結、HIP処理を施し、超硬合金を作製した。
【0113】
得られた超硬合金の特性を表3に、抗折力の累積相対度数グラフを図3に示す。抗折力測定及び異常粒成長粒子個数は実施例3と同じ条件で測定した。
【0114】
【表3】

【0115】
表3および図3より明らかなように、本発明品4を用いて作製した超硬合金は比重と硬度が比較品14を用いて作製した超硬合金と同程度である一方、比較品14を用いて作製した超硬合金に比べて抗折力(TRS)が高く、凝集粒子の少ない高硬度で高強度の超硬合金であることが分かった。
【0116】
また、比較品16(図2および表2参照)と比べても同様の傾向があることが分かった。
【0117】
[実施例5]
合金組成で1.5質量%TaC、0.8質量%Cr、13質量%Coとなるように、FSSS平均粒径1.0μmのTaC粉末、FSSS平均粒径1.1μmのCr粉末、FSSS平均粒径1.3μmのCo粉末を本発明品7および比較品9の炭化タングステン粉末に配合した。
【0118】
これを実施例3と同等の条件で、湿式混合、乾燥、成形、真空焼結、HIP処理を施し、超硬合金を作製した。
【0119】
得られた超硬合金の特性を表4に、抗折力の累積相対度数グラフを図4に示す。抗折力測定及び異常粒成長粒子個数は実施例3と同じ条件で測定した。
【0120】
【表4】

【0121】
表4および図4より明らかなように、本発明品7を用いて作製した超硬合金は比重と硬度が比較品9を用いて作製した超硬合金と同程度である一方、比較品9を用いて作製した超硬合金に比べて抗折力(TRS)が高く、凝集粒子の少ない高硬度で高強度の超硬合金であることが分かった。
【0122】
また、比較品16、14(図2、3および表2、3参照)と比べても同様の傾向があることが分かった。
【0123】
[実施例6]
合金組成で0.5質量%TaC、1.6質量%Cr、13質量%Coとなるように、FSSS平均粒径1.0μmのTaC粉末、FSSS平均粒径1.1μmのCr粉末、FSSS平均粒径1.3μmのCo粉末を本発明品8の炭化タングステン粉末に配合した。
【0124】
これを実施例3と同等の条件で、湿式混合、乾燥、成形、真空焼結、HIP処理を施し、超硬合金を作製した。
【0125】
得られた超硬合金の特性を表5に、抗折力の累積相対度数グラフを図5に示す。抗折力測定及び異常粒成長粒子個数は実施例3と同じ条件で測定した。
【0126】
【表5】

【0127】
表5および図5より明らかなように、本発明品8を用いて作製した超硬合金は比重と硬度が比較品(図2〜4および表2〜4参照)を用いて作製した超硬合金と同程度である一方、比較品を用いて作製した超硬合金に比べて抗折力(TRS)が高く、凝集粒子の少ない高硬度で高強度の超硬合金であることが分かった。
【0128】
即ち、比較品16、14、9(図2〜4および表2〜4参照)と比べても同様の傾向があることが分かった。
【0129】
以上の実施例に示すように、本発明の炭化タングステン粉末は、粒度分布を調整したことにより、超硬合金の高硬度と高強度(抗折力)を両立できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
上記した実施形態では、本発明の炭化タングステン粉末を、切削工具や金型等の加工器具に適用した場合について説明したが、本発明は、何等、これに限定されることなく、高硬度と高強度を両立する必要があるすべての装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】実施例2における、本発明品3と比較品16の表面を走査電子顕微鏡にて撮影した写真である。
【図2】実施例3における、本発明品2、3、5と比較品16の抗折力の累積相対度数グラフである。
【図3】実施例4における、本発明品4と比較品14の抗折力の累積相対度数グラフである。
【図4】実施例5における、本発明品7と比較品9の抗折力の累積相対度数グラフである。
【図5】実施例6における、本発明品8の抗折力の累積相対度数グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン粉末をレーザー回折・散乱法にて粒度測定した際に得られる粒度分布の累積パーセント径、D10%、D50%、D90%のそれぞれの値をX、Y、Zμmとしたとき、
0.35≦X/Y、Z/Y≦2.85、0.20≦Y≦1.20であることを特徴した炭化タングステン粉末。
【請求項2】
請求項1記載の炭化タングステン粉末において、炭化クロムを2.0質量%以下(0は含まない)含有することを特徴とする炭化タングステン粉末。
【請求項3】
請求項1乃至2記載の炭化タングステン粉末において、比表面積BET(Brunauer,Emmett and Teller)値の換算粒径が0.4μm以下であることを特徴とする炭化タングステン粉末。
【請求項4】
金属タングステン粉末またはタングステン酸化物粉末のいずれかと炭素源粉末との混合物を原料として、加熱処理にて得られた炭化タングステン粉末を、気流式粉砕機にて、粉砕ガス圧力0.4〜0.7MPaで粉砕し、その後、遠心分級機にて、分級風量4.0〜6.0m/分、分級機周速2200〜3500m/分で分級して、請求項1乃至3記載の炭化タングステン粉末を得ることを特徴とする炭化タングステン粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3記載の炭化タングステン粉末を焼結する工程を有することを特徴とする超硬合金の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3記載の炭化タングステン粉末を真空焼結する工程を有することを特徴とする超硬合金の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3記載の炭化タングステン粉末を原料とすることを特徴とする加工器具。
【請求項8】
請求項1〜3記載の炭化タングステン粉末を原料とすることを特徴とする切削工具。
【請求項9】
請求項1〜3記載の炭化タングステン粉末を原料とすることを特徴とする金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−242181(P2009−242181A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91774(P2008−91774)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】