説明

炭化珪素半導体装置及びその製造方法

【課題】チャネル形成領域でのキャリアの移動度が大きく、低オン抵抗で素子特性に優れた炭化珪素半導体装置及びその製造方法の提供。
【解決手段】ドリフト層30上にはソース電極100とドレイン電極110との間のキャリア流路の一部を構成するチャネル層40が設けられている。チャネル層40は、ドリフト層30上に形成されたGe粒状結晶と該Ge粒状結晶を覆うキャップ層とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)を用いた半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電流の流れ込むソース電極と流れ出るドレイン電極との間にゲート電極を設け、ゲート電極に加える電庄によってソース/ドレイン間の電流(ドレイン電流)を制御する電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor;FET)が提案されている。電界効果トランジスタには、ゲートにMOS構造を持つMOS型(MOSFET)とpn接合又はショットキー接合を用いた接合型とがある。
【0003】
ゲート電極をMOS構造にして設けたMOSFETでは、半導体表面に少数のキャリアによる反転層ができることを利用し,ドレイン電流が流れるチャネル領域の伝導度を制御する。そして、ゲート電圧に変化を与えると電流値が変化するため、電気信号の増幅や電流のオン/オフスイッチとして機能し得る。
上記のように、ゲートにMOS構造を持つ半導体装置については、炭化珪素よりなる半導体を用いた炭化珪素半導体装置(MOSFET)がある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3307184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、炭化珪素(SiC)は一般にキャリアの移動度が小さく、MOS界面特性が不十分でMOSトランジスタのチャネル移動度が小さいため、素子としたときのオン抵抗が高く電流損失が大きくなる問題があった。
【0005】
また、キャリア移動度の向上を目的としてチャネル層としてSi1−xGeC混晶(0<x<1)を用いる場合、Ge濃度を高くすると、炭化珪素層との格子定数差が拡大して格子不整合が生じチャネル層中に転位などの格子欠陥が生じやすくなる。この欠陥はキャリア移動度を低下させるばかりでなく耐圧の低下やリーク電流の増加を引き起こし半導体装置としての信頼性を低下させることがある。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、チャネル形成領域でのキャリアの移動度が大きく、低オン抵抗で素子特性に優れた炭化珪素半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の炭化珪素半導体装置は、ソース領域とドレイン領域との間のキャリアの流れをゲート電圧によって制御する炭化珪素半導体装置であって、炭化珪素基板と、前記炭化珪素基板上に設けられ、前記ソース領域と前記ドレイン領域との間のキャリア流路の少なくとも一部を構成し、Si1−xGeC混晶(0≦x<1)と該混晶よりもGe濃度の高いGe粒状結晶とを含むチャネル層と、を少なくとも備えたものである。
【0008】
本発明の炭化珪素半導体装置においては、ソース領域とドレイン領域との間のキャリア流路の少なくとも一部にSi1−xGeC混晶(0≦x<1)と該混晶よりもGe濃度の高いGe粒状結晶とを含むチャネル層を備える。本発明に係るチャネル層は炭化珪素に比べて移動度、格子定数が大きく禁制帯幅が小さいGe粒状結晶を含むため、チャネル形成領域でのキャリアの移動度が大きく、低オン抵抗で素子特性に優れる。
【0009】
本発明の炭化珪素半導体装置は、前記チャネル層上にコンタクト層をさらに備えていてもよい。本発明の炭化珪素半導体装置にコンタクト層を設けることにより、ソース電極やドレイン電極の接触抵抗を小さくすることができる。
【0010】
本発明の炭化珪素半導体装置は、前記Ge粒状結晶が前記炭化珪素基板と前記コンタクト層とに接していてもよい。本発明の炭化珪素半導体装置をこのような構成とすることにより、炭化珪素半導体基板とコンタクト層とを移動度の大きなGe粒状結晶を通じて接続することができ、実効的にGe濃度の高い半導体層が得られる。その結果としてキャリアの移動度をさらに向上することができる。
【0011】
本発明の炭化珪素半導体装置においては、前記コンタクト層が前記チャネル層表面に形成されたGe粒状結晶であってもよいし、該Ge粒状結晶よりもGe濃度の低いSi1−xGeC混晶(0≦x<1)をさらに含むものであってもよい。コンタクト層をこのような構成とすることにより、ソース電極やドレイン電極の接触抵抗をさらに小さくすることができる。
【0012】
本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した本発明の炭化珪素半導体装置を製造するための方法であって、1400℃以下にて、ゲルマニウム原料を含む混合ガスを炭化珪素基板上又はチャネル層上に供給して前記炭化珪素基板表面又は前記チャネル層表面にGe粒状結晶を成長させるGe粒状結晶形成工程を有するものである。
【0013】
1400℃よりも高温であるとGe粒状結晶が昇華してしまいGe粒状結晶を炭化珪素基板表面又はチャネル層表面に形成することができない。上述したGe粒状結晶形成工程によれば、炭化珪素基板表面又はチャネル層表面にGe粒状結晶を形成することができる。
【0014】
本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法は、前記Ge粒状結晶形成工程におけるGe粒状結晶成長温度以下から1400〜2000℃にまで加熱しながらシリコン原料(例えば、シラン化合物)、炭素原料(例えば、炭化水素化合物)及び必要によりゲルマニウム原料(例えば、有機ゲルマニウム化合物)を含む混合ガスを前記Ge粒状結晶の形成された前記炭化珪素基板上又は前記チャネル層上に供給して前記Ge粒状結晶を覆うSi1−xGeC混晶(0≦x<1)をエピタキシャル成長させて該Si1−xGeC混晶(0≦x<1)からなるキャップ層を前記炭化珪素基板表面又は前記チャネル層表面に形成するキャップ層形成工程をさらに有していてもよい。
【0015】
上述したキャップ層形成工程によれば、Ge粒状結晶が昇華することなくSi1−xGeC混晶(0≦x<1)からなるキャップ層を形成することができる。キャップ層は、高温加熱時のGe粒状結晶の昇華を抑制することができる。
【0016】
キャップ層形成工程においては、例えば、Ge粒状結晶成長温度以下から1400〜2000℃にまで連続的に温度を上げながらキャップ層を形成してもよいし、Ge粒状結晶成長温度以下の温度で所定の膜厚となるまでキャップ層を形成した後、1400〜2000℃にまで温度を上げながらキャップ層をさらに形成してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、チャネル形成領域でのキャリアの移動度が大きく、低オン抵抗で素子特性に優れた炭化珪素半導体装置及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の炭化珪素半導体装置及びその製造方法について説明する。なお、同様の機能を有するものには、全図面を通じて同じ符合を付与し、その説明を省略することがある。
【0019】
図1は、本発明の炭化珪素半導体装置の第一実施形態を示す断面図である。本実施形態の炭化珪素半導体装置は、ゲート電極をMOS構造に構成すると共に、炭化珪素基板の一方の面に設けられたソース電極と、該ソース電極形成面とは反対側の面に設けられたドレイン電極との間で素子内を縦断する縦方向にキャリアが移動する縦型のMOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)に構成したものである。
【0020】
本実施形態のMOSFETは、単結晶炭化珪素基板(SiC基板)10(4H−SiC (0001)8°off toward [11-20] キャリア濃度(N:3×1018cm−3)厚み350μm)上に、厚み1μmのSiCバッファ層20(N;Nドープ、キャリア濃度3×1018cm−3)と、厚み10μmのSiCドリフト層30(N;Nドープ、キャリア濃度5×1015cm−3)と、SiCドリフト層30上に設けられSiC基板10の厚み方向の高さが0.5μmのGe粒状結晶(P;Alドープ、キャリア濃度5×1015cm−3)と該Ge粒状結晶を覆う厚み2μmのキャップ層(P;Alドープ、キャリア濃度5×1015cm−3)とからなる厚み2μmのチャネル層40と、厚み0.5μmのSiCコンタクト層50(N;Nドープ、キャリア濃度3×1018cm−3以上)と、がこの順に積層されている。
【0021】
SiC基板10の厚みは100〜500μmの範囲で適宜選択される。バッファ層20の厚みは0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択される。ドリフト層30の厚みは5〜15μmの範囲で適宜選択される。チャネル層40の厚みは0.5〜5.0μmの範囲で適宜選択される。コンタクト層50の厚みは0.1〜1.0μmの範囲で適宜選択される。
【0022】
SiC基板10のバッファ層20等が積層された側にはコンタクト層50とチャネル層40とを貫通してドリフト層30に達するゲート溝60が形成されている。
【0023】
ゲート溝60の表面にはSiOからなるゲート絶縁膜80が形成されている。ゲート絶縁膜80の厚みは20〜100nmの範囲で適宜選択できる。ゲート絶縁膜80はコンタクト層50の表面の一部を覆うように形成されており、絶縁層82として機能する。絶縁層82の厚みは20〜100nmの範囲で適宜選択できる。
【0024】
ゲート絶縁膜80の表面はゲート電極90により覆われている。コンタクト層50の一部の表面(絶縁層82の設けられていない表面)にはソース電極100が形成されている。また、SiC基板10のバッファ層20等が積層された側とは反対側には、ドレイン電極110が形成されている。また、ドレイン電極110上には、半導体素子のパッケージへの実装用の裏面電極150が設けられている。
【0025】
ゲート電極90及び絶縁層82はSiOからなる層間絶縁膜120により覆われている。層間絶縁膜120の厚みは0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択できる。
【0026】
層間絶縁膜120上には、ソース電極100及びゲート電極層90と接する配線電極130が形成されており、配線電極130を覆うようにしてSiOからなる表面保護層140が形成されている。表面保護層140の厚みは0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択できる。
【0027】
第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の動作原理について説明する。ゲート電極層90に電圧を印加することにより、チャネル層40の導電型が反転してチャネル領域が形成され、ソース電極100とドレイン電極110との間にキャリアが流れる。チャネル層40がチャネル形成領域として作用する。チャネル層40は、キャリアの移動度が大きいGe粒状結晶を含むため、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置は低オン抵抗で素子特性に優れる。
【0028】
以下に、第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程(本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法)を図2乃至図13を用いて説明する。
【0029】
まず、SiC基板10(4H−SiC (0001)8°off toward [11-20] キャリア濃度(N:3×1018cm−3)厚み350μm)を準備し、SiC基板10の表面にバッファ層20(N;Nドープ、キャリア濃度3×1018cm−3、厚み1μm)と、ドリフト層30(N;Nドープ、キャリア濃度5×1015cm−3、厚み10μm)と、をこの順にCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0030】
バッファ層20を形成する前に、H雰囲気下でSiC基板10を1400〜2000℃に加熱して表面を除去することが好ましい。通常、半導体基板表面は研磨時に発生する結晶欠陥を含んでいる。この結晶欠陥はキャリアキラーやリーク電流の通路となる。基板表面を加熱して除去することでこの結晶欠陥を除去することができ、キャリア移動度を向上することができる。除去量としては、0.05〜2μmであることが好ましい。
【0031】
バッファ層20及びドリフト層30は、シリコン原料としてシラン化合物であるSiHを、炭素原料として炭化水素化合物であるCを、N型伝導用原料としてN、AsH、PH等を、キャリアガスとしてHを用い、1400〜2000℃(基板温度)にて形成する。なお、シリコン原料としては、SiHの他に有機シラン(テトラエチルシラン)やSiHCl4−x(0≦x<4)を用いることができる。炭素原料としては、Cの他にCH、C、C、C等を用いることができる。キャリアガスとしては、Hの他にArを用いることができる。
【0032】
ドリフト層30上に、有機ゲルマニウム化合物であるテトラエチルゲルマニウムとP型伝導用原料であるトリメチルアルミニウムとキャリアガスであるHとArとを含む混合ガスを供給して例えば1000℃(基板温度)にてSiC基板10の厚み方向の高さが0.5μmのGe粒状結晶(P;Alドープ、キャリア濃度5×1015cm−3)をCVD法によりエピタキシャル成長する(Ge粒状結晶形成工程)。図2及び3に各々ドリフト層30上に形成されたGe粒状結晶を示す断面写真及び表面写真を示す。なお、ゲルマニウム原料としては、テトラエチルゲルマニウム以外にテトラメチルゲルマニウム、GeF、GeH4−xCl(0≦x≦4)等を用いることができる。
【0033】
Ge粒状結晶の形成温度は、1400℃以下であることが必要であるが、1300℃以下が好ましく、1200℃以下がさらに好ましい。Ge粒状結晶は必要に応じて珪素や炭素を含みSi1−xGeC混晶とされていてもよい。この場合におけるSi1−xGeC混晶のxは0.00005以上が好ましく、0.0001以上がさらに好ましい。Ge粒状結晶中に珪素や炭素を含有させるにはSiHやC等が適宜添加された混合ガスを用いればよい。
【0034】
Ge粒状結晶形成工程に引き続き、有機ゲルマニウム化合物であるテトラエチルゲルマニウムとシラン化合物であるSiHと炭化水素化合物であるCとP型伝導用原料であるトリメチルアルミニウムとキャリアガスであるHとArとを含む混合ガスをGe粒状結晶の形成されたドリフト層30上に供給する。そして、例えば1000℃(基板温度)にてこのGe粒状結晶を覆うSi1−xGeC混晶(x=0.1)をCVD法によりエピタキシャル成長させて該Si1−xGeC混晶からなる膜厚0.1〜1μmのキャップ層(P;Alドープ、キャリア濃度5×1015cm−3)をドリフト層30表面に形成する(キャップ層形成工程)。
【0035】
キャップ層の形成温度は500〜1000℃であることが好ましく、Ge粒状結晶の昇華による消失を防ぐためにGe粒状結晶の形成温度と同じかそれよりも低い温度であることがさらに好ましい。キャップ層を構成するSi1−xGeC混晶におけるxは0.3以下が好ましく、0.2以下がさらに好ましい。
【0036】
キャップ層形成工程により膜厚0.1〜1μmのキャップ層を形成した後、1600℃(好ましくは1400〜2000℃)にまで加熱しながら引き続き混合ガスを供給して層厚が2μmになるまでSi1−xGeC混晶(x=0.0001)をさらにエピタキシャル成長させる。Ge粒状結晶形成温度(1000℃)にて2μmとなるまでSi1−xGeC混晶(x=0.02)をエピタキシャル成長させてもよい。
【0037】
Ge粒状結晶は膜厚0.1〜1μmのキャップ層により覆われているため、1600℃(好ましくは1400〜2000℃)にまで加熱しながらSi1−xGeC混晶(x=0.0001)をエピタキシャル成長させてもGe粒状結晶が昇華により消失することがない。
【0038】
これにより、チャネル層40が形成される。図4は、チャネル層40の断面図を示す。チャネル層40においては、Ge粒状結晶42がドリフト層30表面に形成されると共にキャップ層44で被覆されている。
【0039】
上述したキャップ層形成工程においては、Ge粒状結晶の蒸発を防ぐためにGe粒状結晶成長温度(1000℃)と同じ温度で0.1〜1μm厚のキャップ層を形成した後に1600℃まで加熱しながら引き続きSi1−xGeC混晶をエピタキシャル成長させたが、Ge粒状結晶成長温度よりも高い温度からキャップ層の形成を開始することもできる。
【0040】
チャネル層40上に、シリコン原料としてシラン化合物であるSiH、炭素原料として炭化水素化合物であるC、N型伝導用原料としてN及びキャリアガスとしてHを含む混合ガスを供給して例えば1600℃(基板温度)にてコンタクト層50(N;Nドープ、キャリア濃度3×1018cm−3以上、厚み0.5μm)をCVD法によりエピタキシャル成長する。
【0041】
以上のようにして、SiC基板10上に、バッファ層20と、ドリフト層30と、チャネル層40と、コンタクト層50と、がこの順に積層された図5に示す単結晶炭化珪素半導体基板12を得る。
【0042】
次に、図6に示すようにコンタクト層50上にゲート溝60の形成領域に対応する開口部16が設けられたマスク用SiO層14(厚み0.5μm)を形成する。マスク用SiO層はLPCVD法、プラズマCVD法又はスパッタ法等を用いて形成可能である。また、開口部16はマスク用SiO層14上にフォトリソグラフィーにより開口部16に対応する箇所が開口したフォトレジストを設け、CHFガス等を用いたドライエッチング技術又はバッファードフッ酸等の薬液を用いたウエットエッチング技術によりマスク用SiO層14の開口部16に対応する箇所をコンタクト層50が露出するまでエッチングすることにより形成する。マスク用SiO層14のエッチング終了後、フォトレジストはOプラズマ等を用いたアッシング装置又はレジスト剥離液を用いて除去される。
【0043】
次いで、図7に示すように、開口部16により露出された部分にコンタクト層50とチャネル層40とを貫通してドリフト層30に達する開口部16と同幅のゲート溝60を、SFガス等を用いたドライエッチング技術により形成する。ゲート溝60の深さは、例えば、2.5〜4.0μmとされる。マスク用SiO層14は、CHFガス等を用いたドライエッチング技術又はバッファードフッ酸等の薬液を用いたウエットエッチング技術により除去される。
【0044】
次に、図8に示すように、熱酸化法により厚み20〜100nmのSiOからなる酸化膜22、23を形成する。熱酸化法は単結晶炭化珪素半導体基板12を熱酸化炉にて酸素雰囲気中(酸素濃度99.9%以上)で1000〜1300℃で加熱するものであり、Siを酸化させて単結晶炭化珪素半導体基板12全面に酸化膜を形成することができる。酸素濃度、加熱温度及び加熱時間を適宜選択することによりSiOからなる酸化膜22、23の厚みを調節することができる。酸化膜22が、ゲート絶縁膜80及び絶縁層82として機能する。
【0045】
酸化膜22上に、フォトリソグラフィーによりソース電極形成領域に対応する箇所が開口したフォトレジストを設け、CHFガス等を用いたドライエッチング技術によりフォトレジストが開口した箇所の酸化膜22を除去してソース電極形成領域に対応するコンタクト層50を露出させる。その後、真空蒸着装置によりフォトレジスト上に金属膜を形成する。リフトオフ手法によりレジスト剥離液を用いてフォトレジスト上に形成された不要な金属膜を除去して図9に示すようにソース電極100を所定のパターン状に形成する。ソース電極100の厚みとしては、50〜1000nmの範囲で任意に設定できる。電極の材料としては、例えば、Ni,Ti,TiW,W,Mo等が挙げられる。
【0046】
酸化膜23上にも上述と同様にしてドレイン電極形成領域に対応する箇所が開口したフォトレジストを設け、ドレイン電極形成領域に対応する単結晶炭化珪素基板10を露出させ、ドレイン電極110を図10に示すように所定のパターン状に形成する。或いは、図9における酸化膜23のみをCHFなどを用いたドライエッチング技術にて全部除去し、単結晶炭化珪素基板10を完全に露出した後に全面にわたりドレイン電極110を形成する。ドレイン電極110の厚み及び材料はソース電極100と同様とすることができる。ソース電極100及びドレイン電極110を形成した後、これら電極のオーミック特性を得るためにAr又はH雰囲気下において例えば、1000℃10分間熱処理する。
【0047】
次に、酸化膜22上にゲート電極形成領域に対応する箇所が開口したフォトレジストを設け、真空蒸着装置によりフォトレジスト上に金属膜を形成し、リフトオフ手法によりレジスト剥離液を用いてフォトレジスト上に形成された不要な金属膜を除去して図11に示すようにゲート電極90を所定のパターン状に形成する。
【0048】
次に、図12に示すように単結晶炭化珪素半導体基板12のゲート溝60が形成された側の表面に、ソース電極100及びゲート電極90を露出する開口部を有するSiOからなる層間絶縁膜120をCVD法により形成する。該開口部はフォトリソグラフィーによりソース電極100及びゲート電極90の部分が開口したフォトレジストを層間絶縁膜120上に形成し、CHFガス等を用いたドライエッチング法によりソース電極100及びゲート電極90が露出するまでエッチングを行うことにより形成される。
【0049】
次に、ソース電極100の形成と同様の方法により、図13に示すように配線電極130を形成する。配線電極130の材料としては、例えば、TiとAlとを積層したもの,TiとTiNとAlとを積層したもの等が挙げられる。配線電極130に用いられるTiの層厚としては0.01〜0.5μmの範囲で、Alの層厚としては0.1〜10μmの範囲で、TiNとしては0.01〜0.5μmの範囲で任意に設定できる。
【0050】
次に、配線電極130上にLPCVD法、プラズマCVD法又はスパッタ法等によりSiOからなる表面保護層140を形成後、ソース電極100及びゲート電極90を露出する開口部をフォトリソグラフィー技術とドライエッチング技術を用いて形成する。表面保護層140としては、SiOのほかにSiONを用いることもできる。また、ドレイン電極110上にNi、Ti、Pt、Au等からなる裏面電極150を真空蒸着法により形成する。以上の工程を経て図1に示す炭化珪素半導体装置は完成する。
【0051】
第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置においては、Ge粒状結晶42がドリフト層30とコンタクト層50とに接するようにしてもよい。これにより、キャリアの移動度をさらに向上することができる。
【0052】
Ge粒状結晶42がSiCドリフト層30とコンタクト層50とに接するようにするには、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法において、ドリフト層30上に形成されたキャップ層44を、SFガス等を用いたドライエッチング技術によりGe粒状結晶42が露出するまでエッチングした後にコンタクト層50を形成するようにしてもよいし、キャップ層44を、CVD装置内でHガス雰囲気下1000〜2000℃にてGe粒状結晶42が露出するまでエッチングした後にコンタクト層50を形成するようにしてもよい。CVD装置内でキャップ層をエッチングする場合、例えば1750℃、40Torrの条件にて、0.4μm/時間の速度でキャップ層44をエッチング可能である。
【0053】
上記エッチングにより半導体表面の平滑性を向上させることができる。そのため、所望の膜厚以上の膜厚のキャップ層44を形成した後に上記エッチングによりキャップ層44を所望の膜厚とすることによりキャップ層44(即ちチャネル層40)の表面平滑性を向上させることができる。
【0054】
Ge粒状結晶42が露出した状態でコンタクト層50を形成する場合、Ge粒状結晶42をエピタキシャル成長させた温度と同じ温度からコンタクト層50のエピタキシャル成長を開始し、成長温度を徐々に上げながらコンタクト層50を形成することが好ましい。これにより、Ge粒状結晶42の昇華による消失を防ぐことができる。
【0055】
また、第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置においては、コンタクト層50がGe粒状結晶からなるものであってもよい。コンタクト層50を構成するGe粒状結晶の形成条件、用いられる材料等はGe粒状結晶42の場合と同様である。具体的には、チャネル層40上に、有機ゲルマニウム化合物であるテトラエチルゲルマニウムとN型伝導用原料であるNとキャリアガスであるH或いはArとを含む混合ガスを供給する。次いで、例えば1000℃(基板温度)にてCVD法によりエピタキシャル成長することによりSiC基板10の厚み方向の高さが0.1μmのGe粒状結晶(N;Nドープ、キャリア濃度1×1019cm−3)を形成できる(Ge粒状結晶形成工程)。コンタクト層50をGe粒状結晶で構成することにより、ソース電極100の接触抵抗を小さくすることができる。その結果としてキャリアの移動度を向上することができる。
【0056】
コンタクト層50は、上述したGe粒状結晶と共に該Ge粒状結晶を覆い該Ge粒状結晶よりもGe濃度の低いSi1−xGeC混晶(0≦x<1)をさらに含んでもよい。該Si1−xGeC混晶(0≦x<1)の形成条件、用いられる材料等はキャップ層44の場合と同様である。具体的には、Ge粒状結晶形成工程に引き続き、有機ゲルマニウム化合物であるテトラエチルゲルマニウムとシラン化合物であるSiHと炭化水素化合物であるCとN型伝導用原料であるNとキャリアガスであるH或いはArとを含む混合ガスをGe粒状結晶の形成されたチャネル層40上に供給して例えば1000℃(基板温度)にてこのGe粒状結晶を覆うSi1−xGeC混晶(x=0.02)をCVD法によりエピタキシャル成長させて該混晶からなる膜厚0.01〜0.1μmのキャップ層(N;Nドープ、キャリア濃度1×1019cm−3)をチャネル層40表面に形成する(キャップ層形成工程)。
【0057】
キャップ層形成工程により膜厚0.01〜0.1μmのキャップ層を形成した後、1600℃にて膜厚が2μmになるまで引き続きキャップ層をエピタキシャル成長させる。コンタクト層50を構成するGe粒状結晶をキャップ層で覆うことにより、コンタクト層50の表面を平滑にすることができる。
【0058】
図14は、本発明の炭化珪素半導体装置の第二実施形態を示す断面図である。本実施形態の炭化珪素半導体装置は、ゲート電極をMOS構造に構成すると共に、炭化珪素基板の一方の面に設けられたソース電極とドレイン電極との間で素子内を炭化珪素基板の面方向にキャリアが移動する横型のMOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)に構成したものである。
【0059】
本実施形態のMOSFETは、単結晶炭化珪素基板(SiC基板)210(4H−SiC (0001)8°off toward [11-20] キャリア濃度(P:1×1016cm−3)厚み350μm)上に、厚み1μmのSiCバッファ層220(P;Alドープ、キャリア濃度1×1016cm−3)と、厚み3μmのSiCフィールド層230(P;Alドープ、キャリア濃度1×1017cm−3)と、SiCフィールド層230上に設けられSiC基板210の厚み方向の高さが0.2μmのGe粒状結晶(P;Alドープ、キャリア濃度1×1017cm−3)と該Ge粒状結晶を覆う厚み2.0μmのキャップ層(P;Alドープ、キャリア濃度1×1017cm−3)とからなる厚み2.0〜2.2μmのチャネル層240と、厚み0.2μmのSiCコンタクト層250(N;Nドープ、キャリア濃度3×1018cm−3以上)と、がこの順に積層されている。
【0060】
単結晶炭化珪素基板210の厚みは300〜500μmの範囲で適宜選択される。バッファ層220の厚みは0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択される。フィールド層230の厚みは0.5〜5μmの範囲で適宜選択される。チャネル層240の厚みは0.2〜5μmの範囲で適宜選択される。コンタクト層250の厚みは0.1〜1.0μmの範囲で適宜選択される。
【0061】
単結晶炭化珪素基板210のバッファ層220等が積層された側にはコンタクト層250を貫通してチャネル層240に達するゲート溝260が形成されている。ゲート溝260の深さは、例えば0.3〜5.5μmとされる。
【0062】
ゲート溝260の表面にはSiOからなるゲート絶縁膜280が形成されている。ゲート絶縁膜280の厚みは30〜100nmの範囲で適宜選択できる。ゲート絶縁膜280はコンタクト層250の表面の一部を覆うように形成されており、絶縁層282として機能する。絶縁層282の厚みは30〜100nmの範囲で適宜選択できる。
【0063】
ゲート絶縁膜280の表面はゲート電極290により覆われている。コンタクト層250の一部の表面(絶縁層282の設けられていない表面)にはソース電極300及びドレイン電極310が形成されている。
【0064】
ゲート電極290及び絶縁層282はSiOからなる層間絶縁膜320により覆われている。層間絶縁膜320の厚みは0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択できる。
【0065】
層間絶縁膜320上には、ソース電極300、ドレイン電極310及びゲート電極290と接する配線電極330が形成されており、配線電極330を覆うようにしてSiOからなる表面保護層340が形成されている。表面保護層340の厚みは0.1〜2.0μmの範囲で適宜選択できる。
【0066】
第二実施形態に係る炭化珪素半導体装置の動作原理について説明する。ゲート電極290に電圧を印加することにより、チャネル層240の導電型が反転してチャネル領域が形成され、ソース電極300とドレイン電極310との間にキャリアが流れる。チャネル層240がチャネル形成領域として作用する。チャネル層240は、キャリアの移動度が大きいGe粒状結晶を含むため、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置は低オン抵抗で素子特性に優れる。
【0067】
第二実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程としては、上述した本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法と同様の方法を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】発明の炭化珪素半導体装置の第一実施形態を示す断面図である。
【図2】Ge粒状結晶を示す断面写真である。
【図3】Ge粒状結晶を示す表面写真である。
【図4】チャネル層40の断面図である。
【図5】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図6】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図7】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図8】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図9】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図10】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図11】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図12】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図13】第一実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造工程を説明するための図である。
【図14】発明の炭化珪素半導体装置の第二実施形態を示す断面図である
【符号の説明】
【0069】
10、210 単結晶炭化珪素基板(SiC基板)
12 単結晶炭化珪素半導体基板
20、220 バッファ層
30 ドリフト層
40、240 チャネル層
50、250 コンタクト層
60、260 ゲート溝
80、280 ゲート絶縁膜
90、290 ゲート電極
100、300ソース電極
110、310ドレイン電極
120、320層間絶縁膜
130、330配線電極
140、340表面保護層
150 裏面電極
160 チャネル層
230 フィールド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース領域とドレイン領域との間のキャリアの流れをゲート電圧によって制御する炭化珪素半導体装置であって、
炭化珪素基板と、
前記炭化珪素基板上に設けられ、前記ソース領域と前記ドレイン領域との間のキャリア流路の少なくとも一部を構成し、Si1−xGeC混晶(0≦x<1)と該混晶よりもGe濃度の高いGe粒状結晶とを含むチャネル層と、
を少なくとも備えた炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記チャネル層上にコンタクト層をさらに備えた請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記Ge粒状結晶が前記炭化珪素基板と前記コンタクト層とに接する請求項2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記コンタクト層が、前記チャネル層表面に形成されたGe粒状結晶からなる請求項2又は3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記コンタクト層が、前記Ge粒状結晶よりもGe濃度の低いSi1−xGeC混晶(0≦x<1)をさらに含む請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
1400℃以下にて、ゲルマニウム原料を含む混合ガスを炭化珪素基板上又はチャネル層上に供給して前記炭化珪素基板表面又は前記チャネル層表面にGe粒状結晶を成長させるGe粒状結晶形成工程を有する炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記Ge粒状結晶形成工程におけるGe粒状結晶成長温度以下から1400〜2000℃にまで加熱しながらシリコン原料、炭素原料及び必要によりゲルマニウム原料を含む混合ガスを前記Ge粒状結晶の形成された前記炭化珪素基板上又は前記チャネル層上に供給して前記Ge粒状結晶を覆うSi1−xGeC混晶(0≦x<1)をエピタキシャル成長させて該Si1−xGeC混晶(0≦x<1)からなるキャップ層を前記炭化珪素基板表面又は前記チャネル層表面に形成するキャップ層形成工程をさらに有する請求項6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−42018(P2008−42018A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215999(P2006−215999)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)