説明

炭化珪素半導体装置

【課題】チャネルが形成されるトレンチの側面がチャネル移動度を高くできる(11−20)面や(1−100)面に近づけられ、高チャネル移動度が得られるようにする。
【解決手段】トレンチ7の両側面のうちの一方の側面、つまり(0001)面に対して成す角度が90°もしくはそれに近い角度になる方の側面に接するようにn+型ソース領域5を形成し、トレンチ7の両側面のうちの一方にのみチャネルが形成されるようにする。このようにすることで、トレンチ7の両側面のうち、高いチャネル移動度が形成される方の側面にのみチャネルが形成されるようにすることができ、高いチャネル移動度を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチゲートを有する炭化珪素(以下、SiCという)半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiC半導体装置において、より大電流を流せるように、チャネル密度を高くできるトレンチゲート構造のMOSFETが採用されている。SiCにて構成されるMOSFETでは、チャネルが形成される面の面方位によって電気特性が劇的に変化し、特に、エッチングによって形成するトレンチの角度によって面方位が変わり、電気特性が変化することから、トレンチゲート構造のMOSFETでは、トレンチの角度が重要となる。具体的には、チャネルが形成されるトレンチ側面がチャネル移動度を高くできる(11−20)面や(1−100)面にできるだけ近い角度となるように、すなわち(0001)面あるいは(000−1)面と直交する面となるようにするのが理想的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−199724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、トレンチ側面がチャネル移動度を高くできる(11−20)面や(1−100)面となるようにするには、垂直性が良く、高精度のエッチングが必要である。一般的に、SiCのエッチングとしては、RIE(Reactive Ion Etching)やICP(Inductively Coupled Plasma)により、SF6やCl2、CF4などをエッチングガスとしてドライエッチングする方法が知られており、理想的にはウェハ表面から垂直にトレンチエッチングが行えるのが望ましい。
【0005】
しかしながら、SiCは化学的に極めて安定な物質であるため、垂直性良く、高精度のエッチングを行うことが困難である。このため、図6に示す理想的なトレンチエッチングと実際のトレンチエッチングの様子を示した断面図のように、トレンチの側面の角度がウェハ表面である(0001)面に対して垂直になるのが理想的であるが、実際にはトレンチの側面が傾斜した状態となる。
【0006】
このため、トレンチの側面がチャネル移動度を高くできる(11−20)面や(1−100)面に対して傾斜した状態となり、高いチャネル移動度が得られなくなる。(11−20)面や(1−100)面に対するトレンチの側面の傾斜角度が小さければ、チャネル移動度の低下が小さいが、ある程度大きくなるとチャネル移動度の低下が大きくなり、所望のチャネル移動度が得られなくなる。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、チャネルが形成されるトレンチの側面がチャネル移動度を高くできる(11−20)面や(1−100)面に近づけられ、高チャネル移動度を得ることができるSiC半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、半導体基板(1)は主表面が(0001)面もしくは(000−1)面に対してオフ角を付けたオフ基板とされ、オフ方向が<11−20>方向でトレンチ(7)の長手方向がオフ方向に対する垂直方向となる<1−100>方向とされているか、もしくは、オフ方向が<1−100>方向でトレンチ(6)の長手方向がオフ方向に対する垂直方向となる<11−20>方向とされ、トレンチ(7)の両側面のうちの一方の側面のみに接するように第1導電型領域(5)が形成されることで該一方の側面のみがチャネル形成面とされ、トレンチ(7)の両側面のうち、(11−20)面もしくは(1−100)面に対して成す鋭角の角度が小さい方の側面がチャネル形成面とされていることを特徴としている。
【0009】
このように、オフ基板にて構成される半導体基板(1)を用いて、トレンチ(7)の両側面のうちの一方の側面、つまり(0001)面もしくは(000−1)面に対して成す角度が90°もしくはそれに近い角度になる方の側面に接するように第1導電型領域(5)を形成し、トレンチ(7)の両側面のうちの一方にのみチャネルが形成されるようにしている。このようにすることで、トレンチ(7)の両側面のうち、高いチャネル移動度が形成される方の側面にのみチャネルが形成されるようにすることができ、高いチャネル移動度を得ることが可能となる。
【0010】
例えば、請求項2に記載したように、主表面に対してチャネル形成面となるトレンチ(7)の一方の側面が成す角度が82〜90°とされていれば、高いチャネル移動度を得ることが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、コンタクト層(6)は、トレンチ(7)のうち第1導電型領域(5)と接するチャネル形成面となる側面とは反対側の側面から離れて配置されていることを特徴としている。
【0012】
このように、トレンチ(7)の側面から離してコンタクト層(6)を配置するようにすれば、アバランシェブレークダウン時にコンタクト層(6)を通じて電流が流れても、ゲート絶縁膜(8)が破損することを抑制でき、アバランシェ耐量を向上することが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、コンタクト層(6)は、トレンチ(7)のうち第1導電型領域(5)と接するチャネル形成面となる側面とは反対側の側面に接するように配置されていることを特徴としている。
【0014】
このように、コンタクト層(6)をトレンチ(7)の側面に接するように配置すれば、隣り合う両トレンチ(7)の間の距離を短くすることが可能となり、トレンチ(7)の両側面のうちの一方のみをチャネル形成面とするようにしても、オン抵抗の増加を抑制することが可能となる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、コンタクト層(6)は、トレンチ(7)よりも深くまで形成されたボディ層であることを特徴としている。
【0016】
このように、コンタクト層(6)をトレンチ(7)よりも深くしたボディ層とすることができる。これにより、ボディ層からドリフト層(3)側に延びる空乏層により、高電界がゲート絶縁膜(8)側に入り込み難くなるようにできる。このため、ゲート絶縁膜(8)内での電界集中を緩和でき、ゲート絶縁膜(8)が破壊されることを抑制できるため、耐圧向上を図ることが可能となる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置の断面図である。
【図2】図1に示すSiC半導体装置を製造したウェハの様子を示した図である。
【図3】SiC半導体装置の断面に(0001)面と平行な線を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置の断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態にかかるトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置の断面図である。
【図6】理想的なトレンチエッチングと実際のトレンチエッチングの様子を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置の断面図である。この図は、縦型MOSFETの2セル分を抽出したものに相当する。本図では縦型MOSFETの2セル分しか記載していないが、図1に示す縦型MOSFETと同様の構造が複数列隣り合うように配置されている。また、図2は、図1に示すSiC半導体装置のデバイス構造を形成したウェハ、つまりチップにダイシングカットする前の様子を示した図である。図1は、図2中のA−A’断面図に相当している。
【0021】
図1に示すSiC半導体装置は、(0001)面に対して例えば4度のオフ角が設けられたオフ基板からなるSiC半導体基板1を用いて製造されている。図2に示すように、オフ基板のオフ方向は<11−20>方向と平行とされている。
【0022】
図1に示すように、SiC半導体基板1には、オフ基板にて構成されたn+型SiC基板2の表面に、n+型SiC基板2よりもリン等のn型不純物濃度が低いn-型ドリフト層3をエピタキシャル成長させたエピ基板が用いられている。
【0023】
+型SiC基板2は、リン等のn型不純物濃度が例えば1.0×1019/cm3、厚さ300μm程度とされている。また、n-型ドリフト層3は、例えば3.0〜7.0×1015/cm3、厚さ10〜15μm程度で形成されている。n-型ドリフト層3の不純物濃度は深さ方向において一定であっても良いが、濃度分布に傾斜を付け、n-型ドリフト層3のうちn+型基板2側の方がn+型基板2から離れる側よりも高濃度となるようにすると好ましい。例えば、n-型ドリフト層3のうちn+型基板2の表面から3〜5μm程度の部分の不純物濃度が2.0×1015/cm3程度他の部分よりも高くなるようにすると良い。このようにすると、n-型ドリフト層3の内部抵抗を低減できるため、オン抵抗を低減することが可能となる。
【0024】
また、n-型ドリフト層3の表層部にはp型ベース領域4が形成されていると共に、このp型ベース領域4の上層部分にn+型ソース領域(第1導電型領域)5およびp+型ボディ層(コンタクト層)6が形成されている。
【0025】
p型ベース領域4は、ボロンもしくはアルミニウム等のp型不純物濃度が例えば5.0×1016〜2.0×1019/cm3、厚さ2.0μm程度で構成されている。n+型ソース領域5は、表層部におけるリン等のn型不純物濃度(表面濃度)が例えば1.0×1021/cm3、厚さ0.3μm程度で構成されている。p+型ボディ層6は、例えば表層部におけるボロンもしくはアルミニウム等のp型不純物濃度(表面濃度)が例えば1.0×1021/cm3、厚さ0.3μm程度で構成されている。n+型ソース領域5は、後述するトレンチゲート構造の片側のみに配置されており、p+型ボディ層6は、n+型ソース領域5を挟んでトレンチゲート構造と反対側に備えられ、本実施形態ではトレンチゲート構造の両側のうちn+型ソース領域5が配置される方と異なる方において、トレンチゲート構造から離間した位置に形成されている。
【0026】
また、p型ベース領域4およびn+型ソース領域5を貫通してn-型ドリフト層3に達するように、例えば幅が1.4〜2.0μm、深さが2.0μm以上(例えば2.5μm)のトレンチ7が形成されている。トレンチ7は、オフ方向と垂直方向となる<1−100>方向、つまり図1の紙面垂直方向を長手方向として形成され、複数本が所定のピッチで等間隔に並べられることでストライプ状に配置されている。
【0027】
さらに、トレンチ7の側面と接するように上述したp型ベース領域4およびn+型ソース領域5が配置されているが、n+型ソース領域5についてはトレンチ7の両側面のうちの片側のみに接するように配置され、もう一方の側面にはn+型ソース領域5が配置されていない構成とされている。トレンチ7の側面は、SiC半導体基板1の表面に対して垂直に形成されているのが理想的であるが、垂直にするのは難しく、上記したように実際にはトレンチ7の側面が傾斜した状態になりがちである。本実施形態の場合、このようなトレンチ7の側面の傾斜を許容しており、SiC半導体基板1の表面と水平な面に対してトレンチ7の側面の成す角度θが82〜90°となれば良いようにしている。
【0028】
さらに、トレンチ7の表面はゲート酸化膜8にて覆われており、ゲート酸化膜8の表面に形成されたドープトPoly−Siにて構成されたゲート電極9により、トレンチ7内が埋め尽くされている。ゲート酸化膜8は、n型チャネル層7の表面を熱酸化することで形成されており、ゲート酸化膜8の厚みはトレンチ7の側面側と底部側共に100nm程度となっている。このような構造により、トレンチゲート構造が構成されている。そして、上述したn+型ソース領域5およびp+型ボディ層6が複数本ストライプ状に並べられたトレンチゲート構造の長手方向に沿って延設されることで、トレンチ7の側面の片側、つまりn+型ソース領域5が接している側にチャネルが形成され、もう一方にはチャネルが形成されない構造とされている。
【0029】
また、n+型ソース領域5およびp+型ボディ層6の表面やゲート電極9の表面には、層間絶縁膜10を介してソース電極(第1電極)11やゲート配線(図示せず)が形成されている。ソース電極11およびゲート配線は、複数の金属(例えばNi/Al等)にて構成されており、少なくともn型SiC(具体的にはn+型ソース領域5やnドープの場合のゲート電極9)と接触する部分はn型SiCとオーミック接触可能な金属で構成され、少なくともp型SiC(具体的にはp+型ボディ層6やpドープの場合のゲート電極9)と接触する部分はp型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。なお、これらソース電極11およびゲート配線は、層間絶縁膜10上において電気的に絶縁されており、層間絶縁膜10に形成されたコンタクトホールを通じてソース電極11はn+型ソース領域5およびp+型ボディ層6と電気的に接触させられ、ゲート配線はゲート電極9と電気的に接触させられている。
【0030】
そして、n+型基板1の裏面側にはn+型基板1と電気的に接続されたドレイン電極(第2電極)12が形成されている。このような構造により、nチャネルタイプの反転型のトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置が構成されている。
【0031】
以上のように構成されたSiC半導体装置では、ゲート電極9に対してゲート電圧を印加すると、トレンチ7の両側面のうちの一方にのみチャネルが形成されることで電流を流す。このように、トレンチ7の両側面のうちの一方にのみがチャネル形成面となるようにしている。これは、SiC半導体基板1としてオフ基板を用いており、そのオフ角の影響によりトレンチ7の両側面の面方位が異なってくるためである。これについて、図3を参照して説明する。
【0032】
図3は、SiC半導体装置の断面に(0001)面と平行な線を示した図である。この図に示されるように、SiC半導体基板1はオフ角を有するオフ基板である。また、トレンチ7の両側面がSiC半導体基板1の表面に対して傾斜した状態となっていることから、トレンチ7の両側面それぞれが(0001)面に対して成す角度は異なった角度となる。
【0033】
具体的に、トレンチ7の両側面それぞれが(0001)面に対して成す角度について検討すると、一方の側面(図中左側の側面)についてはオフ角の影響で90°もしくはそれに近い角度となり、他方の側面(図中右側の側面)についてはオフ角の影響で90°から離れた角度となる。そして、(0001)面に対して垂直な面が、最もチャネル移動度が高くなる(11−20)面であり、この(11−20)面に近いほどチャネル移動度が高くできる。このため、トレンチ7の両側面のうちの一方の側面、つまり(0001)面に対して成す角度が90°もしくはそれに近い角度になる方の側面については、高いチャネル移動度を得ることが可能となる。反対に、トレンチ7の両側面のうちの他方の側面、つまり(0001)面に対して成す角度が90°から離れた角度になる方の側面については、高いチャネル移動度を得られなくなる可能性がある。
【0034】
このため、本実施形態のように、トレンチ7の両側面のうちの一方の側面、つまり(0001)面に対して成す角度が90°もしくはそれに近い角度になる方の側面に接するようにn+型ソース領域5を形成し、トレンチ7の両側面のうちの一方にのみチャネルが形成されるようにしている。換言すれば、トレンチ7の両側面のうち、(11−20)面に対して成す鋭角の角度が小さい方の側面がチャネル形成面とされるようにしている。このようにすることで、トレンチ7の両側面のうち、高いチャネル移動度が形成される方の側面にのみチャネルが形成されるようにすることができ、高いチャネル移動度を得ることが可能となる。
【0035】
また、トレンチ7の両側面にチャネルを形成する場合において、両側面でチャネル移動度が異なっていると、トレンチ7の両側面に流れる電流がアンバランスになる。しかしながら、本実施形態のように片側の側面にのみチャネルが形成されるようにすることで、トレンチ7の両側面にアンバランスに電流が流れることを抑制することも抑制でき、動特性上有利になるという効果も得られる。
【0036】
なお、本実施形態のような構造の縦型MOSFETは、SiC半導体基板1として<11−20>方向をオフ方向とするオフ基板を用いる点と、トレンチ7の長手方向をオフ方向に対して垂直な方向となる<1−100>方向とする点と、n+型ソース領域5やp+型ボディ層6を形成する際のイオン注入用マスクを変更する点以外については、従来と同様の製造方法によって製造可能である。
【0037】
そして、従来と同様の製造方法を用いているものの、トレンチ7の両側面のうちの一方のみにしかチャネルを形成しないようにしていることから、次の効果を得ることができる。すなわち、トレンチ7は、RIEやICPにより、SF6やCl2、CF4などをエッチングガスとして用いたドライエッチングにて形成されるが、トレンチ7の側面をSiC半導体基板1の表面に対して垂直にするのは難しく、エッチング条件の設定が難しい。しかしながら、本実施形態のようにトレンチ7の両側面のうちの一方のみにしかチャネルを形成しない場合、チャネルが形成される方の側面のみが(0001)面に対して垂直に近づけられれば良く、その側面がSiC半導体基板1の表面に対して傾斜していても(0001)面に対して垂直に近づけられる。
【0038】
このため、厳しいエッチング条件を設定せず、トレンチ7の側面の垂直性が悪くても、トレンチ7の両側面のうちチャネルが形成される方の側面を(0001)面に対して垂直に近づけられる。実験によれば、チャネル移動度は(0001)面に垂直な(1−100)面や(11−20)面において最も高くなるが、それに対して若干傾斜していても高い値となり、(0001)面に対して成す角度が86°以上であればある程度高い値とすることができる。さらに、トレンチ7の側面が(0001)面に対して成す角度が90°を超えても、高いチャネル移動度を得ることができる。このように、広い角度範囲において高いチャネル移動度が得られることから、トレンチ7の形成時のエッチングのプロセスマージンを拡げることが可能となる。
【0039】
また、上記したように、(0001)面に対して成す角度が86°以上となれば高いチャネル移動度を得ることができるが、本実施形態のようにSiC半導体基板1としてオフ基板を用いている場合には、そのオフ角分さらにトレンチ7の側面がSiC半導体基板1の表面に対して傾斜していても良いことになる。したがって、本実施形態の場合、SiC半導体基板1の表面と水平な面に対してトレンチ7の側面の成す角度θが82〜90°となれば良い。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してオフ方向における微細化を図ったものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0041】
図4は、本実施形態にかかるトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置の断面図である。この図に示すように、本実施形態では、トレンチ7の両側面のうちチャネルを形成しない側の側面に対してp+型ボディ層6が接するようにしている。トレンチ7の両側面のうちの一方の側面にしかチャネルを形成しない形態とする場合、両側面にチャネルを形成する場合と比較して、単位面積当たりのチャネル数が少なくなるため、オン抵抗が増加する。これに対して、両トレンチ7の間の距離を短くすることで極力オン抵抗の増加を抑制することが可能になるが、本実施形態のように、チャネルを形成しない側の側面にp+型ボディ層6が接する構造にすれば、よりオン抵抗の増加を抑制することが可能となる。
【0042】
ただし、トレンチ7の側面に接するようにp+型ボディ層6を形成する場合、アバランシェブレークダウン時にp+型ボディ層6を通じて電流が流れることで、その接触箇所においてゲート酸化膜8が破損することが懸念される。このため、アバランシェ耐量向上の観点からは、第1実施形態に示すようにトレンチ7の側面から離してp+型ボディ層6を配置するのが好ましい。
【0043】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第2実施形態に対して耐圧向上を図ったものであり、その他に関しては第2実施形態と同様であるため、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0044】
図5は、本実施形態にかかるトレンチゲート構造の縦型MOSFETを有するSiC半導体装置の断面図である。この図に示すように、本実施形態でも、トレンチ7の両側面のうちチャネルを形成しない側の側面に対して、p+型ボディ層6が接するようにしているが、更にp+型ボディ層6がトレンチ7よりも深い位置まで形成されるようにしている。このp+型ボディ層6は、p型ベース領域4と同程度もしくはそれよりも高い不純物濃度とされている。このように、p+型ボディ層6がトレンチ7よりも深い位置まで形成されるようにすることで、逆バイアス時に隣り合うp+型ボディ層6からn-型ドリフト層3側に延びる空乏層により、高電圧がゲート酸化膜8側に入り込み難くなるようにできる。このため、ゲート酸化膜8内での電界集中を緩和でき、ゲート酸化膜8が破壊されることを抑制できるため、耐圧向上を図ることが可能となる。
【0045】
なお、このような構造の縦型MOSFETは、基本的には第1実施形態と同様、従来の製造方法によって形成可能であるが、p+型ボディ層6を深い位置まで形成することが必要になる。SiCの場合、素材が非常に硬いことからイオン注入によって深い位置までp+型ボディ層6を形成することが難しい。このため、例えば次のような方法によってp+型ボディ層6を形成することが好ましい。まず、p型ベース領域4を形成した後、トレンチ7を形成する前に、p+型ボディ層6の形成予定領域に凹部を形成しておき、この凹部を埋め込むようにp+型層をエピタキシャル成長させる。そして、p型ベース領域4が露出するまでp+型層をCMP(Chemical Mechanical Polishing)などによって除去する。このようにすれば、深い位置までp+型ボディ層6を形成することが可能となる。また、p型ベース領域4をエピタキシャル成長させることによって形成する場合には、そのp型ベース領域4の形成途中でp+型ボディ層6の形成予定領域にp型不純物をイオン注入していくという工程を繰り返すことで、p+型ボディ層6を段階的に形成することもできる。
【0046】
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態では、SiC半導体基板1として(0001)面のものに対して本発明を適用する場合について説明したが、(000−1)面のものについても同様に本発明を適用することができる。
【0047】
また、SiC半導体基板1のオフ方向を<11−20>方向とする場合について説明したが、<1−100>方向とする場合にも、本発明を適用することができる。この場合、トレンチ7の長手方向が<11−20>方向とされ、側面のうちチャネルが形成される側面の面方位は、(1−100)面に近づけられることになる。
【0048】
(2)上記各実施形態では、SiC半導体基板1のオフ角を4°とする場合について説明したが、例えば2〜8°の間においてオフ角を変更しても良い。その場合、オフ角に応じてトレンチ7の側面の傾斜角度としてチャネル移動度を高いままにできる角度範囲が異なってくるが、いずれの場合であってもトレンチ7を形成する際のエッチングのプロセスマージンを拡げることが可能となる。
【0049】
(3)上記各実施形態では、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネルタイプのMOSFETを例に挙げて説明したが、各構成要素の導電型を反転させたpチャネルタイプのMOSFETに対しても本発明を適用することができる。また、上記説明では、トレンチゲート構造のMOSFETを例に挙げて説明したが、同様のトレンチゲート構造のIGBTに対しても本発明を適用することができる。IGBTは、上記各実施形態に対してn+型基板2の導電型をn型からp型に変更するだけであり、その他の構造や製造方法に関しては上記各実施形態と同様である。
【0050】
(4)上記各実施形態では、ゲート絶縁膜として熱酸化等によって形成されるゲート酸化膜8を例に挙げて説明したが酸化膜以外の絶縁膜、例えば窒化膜などを含むものであっても構わない。
【0051】
(5)なお、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(−)を付すべきであるが、電子出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書においては、所望の数字の前にバーを付すものとする。
【符号の説明】
【0052】
1 SiC半導体基板
2 n+型基板
3 n-型ドリフト層
4 p型ベース領域
5 n+型ソース領域
6 p+型ボディ層
7 トレンチ
8 ゲート酸化膜
9 ゲート電極
10 層間絶縁膜
11 ソース電極
12 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1または第2導電型の炭化珪素基板(2)の上に第1導電型の炭化珪素からなるドリフト層(3)を備え、主表面がオフ角を有するオフ基板にて構成された半導体基板(1)と、
前記半導体基板(1、2)における前記ドリフト層(2)の上に形成された炭化珪素からなる第2導電型のベース領域(4)と、
前記ベース領域(4)の表面から該ベース領域(4)を貫通して前記ドリフト層(2)に達するように形成され、一方向を長手方向として複数本がストライプ状に配置されたトレンチ(7)と、
前記トレンチ(7)の両側面のうちの一方の側面にのみ接するように形成され、前記ドリフト層(3)よりも高不純物濃度とされた第1導電型領域(5)と、
前記ソース領域(5)を挟んで前記トレンチ(7)の反対側に形成され、前記ベース領域(4)よりも高不純物濃度とされた第2導電型のコンタクト層(6)と、
前記トレンチ(7)内に形成されたゲート絶縁膜(8)と、
前記トレンチ(7)内に前記ゲート絶縁膜(8)を介して形成されたゲート電極(9)と、
前記第1導電型領域(5)および前記コンタクト層(6)に電気的に接続された第1電極(11)と、
前記炭化珪素基板(2)に電気的に接続された第2電極(12)とを有し、
前記トレンチ(7)の側面をチャネル形成面として、前記トレンチ(7)内にゲート絶縁膜(8)を介して形成されたゲート電極(9)に対するゲート電圧の印加に基づいて前記トレンチ(7)の側面を通じて電流を流すように構成されたトレンチゲート構造の縦型半導体素子を有する炭化珪素半導体装置であって、
前記半導体基板(1)は主表面が(0001)面もしくは(000−1)面に対して前記オフ角を付けたオフ基板とされ、前記オフ方向が<11−20>方向で前記トレンチ(7)の長手方向が前記オフ方向に対する垂直方向となる<1−100>方向とされているか、もしくは、前記オフ方向が<1−100>方向で前記トレンチ(6)の長手方向が前記オフ方向に対する垂直方向となる<11−20>方向とされ、
前記トレンチ(7)の両側面のうちの一方の側面のみに接するように前記第1導電型領域(5)が形成されることで該一方の側面のみがチャネル形成面とされ、前記トレンチ(7)の両側面のうち、(11−20)面もしくは(1−100)面に対して成す鋭角の角度が小さい方の側面が前記チャネル形成面とされていることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記主表面に対して前記チャネル形成面となる前記トレンチ(7)の一方の側面が成す角度が82〜90°とされていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記コンタクト層(6)は、前記トレンチ(7)のうち前記第1導電型領域(5)と接するチャネル形成面となる側面とは反対側の側面から離れて配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記コンタクト層(6)は、前記トレンチ(7)のうち前記第1導電型領域(5)と接するチャネル形成面となる側面とは反対側の側面に接するように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記コンタクト層(6)は、前記トレンチ(7)よりも深くまで形成されたボディ層であることを特徴とする請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−12590(P2013−12590A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144320(P2011−144320)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)