炭化珪素基板の製造方法
【課題】炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素基板の製造方法は、単結晶炭化珪素からなるSiC基板20を準備する工程と、SiC基板20の一方の主面20Bに面するように炭化珪素源10を配置する工程と、炭化珪素源10を加熱することにより、SiC基板20の一方の主面20Bに接触するように炭化珪素からなるベース層を形成する工程とを備え、ベース層を形成する工程では、窒素を含む雰囲気中において炭化珪素源10が加熱される。
【解決手段】炭化珪素基板の製造方法は、単結晶炭化珪素からなるSiC基板20を準備する工程と、SiC基板20の一方の主面20Bに面するように炭化珪素源10を配置する工程と、炭化珪素源10を加熱することにより、SiC基板20の一方の主面20Bに接触するように炭化珪素からなるベース層を形成する工程とを備え、ベース層を形成する工程では、窒素を含む雰囲気中において炭化珪素源10が加熱される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法に関し、より特定的には、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高耐圧化、低損失化、高温環境下での使用などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素(SiC)の採用が進められつつある。炭化珪素は、従来から半導体装置を構成する材料として広く使用されている珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体である。そのため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素を採用することにより、半導体装置の高耐圧化、オン抵抗の低減などを達成することができる。また、炭化珪素を材料として採用した半導体装置は、珪素を材料として採用した半導体装置に比べて、高温環境下で使用された場合の特性の低下が小さいという利点も有している。
【0003】
このような状況の下、半導体装置の製造に用いられる炭化珪素結晶および炭化珪素基板の製造方法については、種々の検討がなされ、様々なアイデアが提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Nakabayashi, et al.、“Growth of Crack‐free 100mm−diameter 4H‐SiC Crystals with Low Micropipe Densities、Mater. Sci. Forum,vols.600‐603、2009年、p.3−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭化珪素は常圧で液相を持たない。また、結晶成長温度が2000℃以上と非常に高く、成長条件の制御や、その安定化が困難である。そのため、炭化珪素単結晶は、高品質を維持しつつ大口径化することが困難であり、大口径の高品質な炭化珪素基板を得ることは容易ではない。そして、大口径の炭化珪素基板の作製が困難であることに起因して、炭化珪素基板の製造コストが上昇するだけでなく、当該炭化珪素基板を用いて半導体装置を製造するに際しては、1バッチあたりの生産個数が少なくなり、半導体装置の製造コストが高くなるという問題があった。また、製造コストの高い炭化珪素単結晶を基板として有効に利用することにより、半導体装置の製造コストを低減できるものと考えられる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った炭化珪素基板の製造方法は、単結晶炭化珪素からなるSiC基板を準備する工程と、SiC基板の一方の主面に面するように炭化珪素源を配置する工程と、炭化珪素源を加熱することにより、SiC基板の一方の主面に接触するように炭化珪素からなるベース層を形成する工程とを備えている。そして、ベース層を形成する工程では、窒素を含む雰囲気中において上記炭化珪素源が加熱される。
【0008】
上述のように、高品質な炭化珪素単結晶は、大口径化が困難である。一方、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造プロセスにおいて効率よく製造を行なうためには、所定の形状および大きさに統一された基板が必要である。そのため、高品質な炭化珪素単結晶(たとえば欠陥密度が小さい炭化珪素単結晶)が得られた場合でも、切断等によって所定の形状等に加工できない領域は、有効に利用されない可能性がある。
【0009】
これに対し、本発明の炭化珪素基板の製造方法では、単結晶炭化珪素からなるSiC基板の一方の主面に接触するようにベース層が形成される。そのため、たとえば高品質であるものの所望の形状等が実現されていない炭化珪素単結晶をSiC基板として採用しつつ、安価であるものの欠陥密度が大きく、低品質な炭化珪素結晶からなるベース層を上記所定の形状および大きさになるように形成することができる。このようなプロセスで製造される炭化珪素基板は、所定の形状および大きさに統一されているため、半導体装置の製造の効率化に寄与することができる。また、このようなプロセスで製造される炭化珪素基板では、従来所望の形状等に加工できないため利用されていなかった高品質な炭化珪素単結晶からなるSiC基板を利用して半導体装置を製造することが可能であるため、炭化珪素単結晶を有効に利用することができる。
【0010】
以上のように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供することができる。
【0011】
さらに、ベース層を形成する工程では、上記炭化珪素源が加熱されてベース層が形成される際に、ベース層において多数キャリアを生成すべき不純物が炭化珪素源から離脱し、ベース層とSiC基板との接合領域あるいはベース層全体において不純物密度が低くなるおそれがある。この場合、基板の厚み方向における抵抗率が上昇し、得られた炭化珪素基板が縦型の半導体装置など、基板の厚み方向に電流が流れる半導体装置の製造に使用されると、当該半導体装置のオン抵抗上昇の原因となる。これに対し、本発明の炭化珪素基板の製造方法では、窒素を含む雰囲気中において上記炭化珪素源が加熱される。そのため、雰囲気中の窒素がベース層に不純物として取り込まれ、上記不純物密度の低下が抑制される。その結果、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板を製造することができる。
【0012】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記SiC基板を準備する工程では、複数のSiC基板が準備され、炭化珪素源を配置する工程では、複数のSiC基板が平面的に見て並べて配置された状態で炭化珪素源が配置され、ベース層を形成する工程では、複数のSiC基板の一方の主面同士が接続されるようにベース層が形成されてもよい。
【0013】
上述のように、高品質な炭化珪素単結晶は、大口径化が困難である。これに対し、高品質な炭化珪素単結晶から採取した複数のSiC基板を平面的に複数並べて配置したうえで、当該複数のSiC基板の一方の主面同士が接続されるようにベース層を形成することにより、高品質なSiC層を有する大口径な基板として取り扱うことが可能な炭化珪素基板を得ることができる。そして、この炭化珪素基板を用いることにより、半導体装置の製造プロセスを効率化することができる。なお、半導体装置の製造プロセスを効率化するためには、上記複数のSiC基板のうち互いに隣り合うSiC基板は、互いに接触して配置されていることが好ましい。より具体的には、たとえば上記複数のSiC基板は、平面的に見てマトリックス状に敷き詰められていることが好ましい。
【0014】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記炭化珪素源を配置する工程では、炭化珪素源として炭化珪素からなるベース基板が、ベース基板の一方の主面とSiC基板の一方の主面とが接触して対向するように配置され、ベース層を形成する工程では、ベース基板が加熱されることによりベース基板がSiC基板に接合されて上記ベース層を形成してもよい。
【0015】
また、上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記炭化珪素源を配置する工程では、炭化珪素源として炭化珪素からなる原料基板が、原料基板の一方の主面とSiC基板の一方の主面とが間隔をおいて対向するように配置され、ベース層を形成する工程では、当該原料基板が加熱されることにより原料基板を構成する炭化珪素が昇華して上記ベース層を形成してもよい。
【0016】
このように炭化珪素源として炭化珪素からなるベース基板や原料基板を採用することにより、容易にベース層を形成することができる。
【0017】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記ベース基板は単結晶炭化珪素からなり、炭化珪素源を配置する工程では、互いに対向するSiC基板の主面の面方位とベース基板の主面の面方位とが一致するように、SiC基板とベース基板とが配置されてもよい。
【0018】
単結晶炭化珪素の熱膨張係数は、結晶面による異方性を有している。そのため、熱膨張係数が大きく異なる結晶面同士を接合した場合、当該熱膨張係数の違いに起因した応力がベース層とSiC基板との間に作用する。この応力は、炭化珪素基板の製造および当該炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造プロセスにおいて、炭化珪素基板の歪や割れの原因となるおそれがある。これに対し、ベース基板の一方の主面とSiC基板の一方の主面とが接触して配置される場合において、上述のように接合される面を構成する炭化珪素単結晶の面方位が一致するようにしておくことにより、上記応力を緩和することができる。なお、「SiC基板の主面の面方位とベース基板の主面の面方位とが一致する」状態とは、当該面方位同士が厳密な意味で一致することまでは必要なく、実質的に一致していればよい。より具体的には、ベース基板の主面を構成する結晶面とSiC基板の主面を構成する結晶面とのなす角が1°以下であれば、ベース基板の主面の面方位とSiC基板の主面の面方位とは実質的に一致しているといえる。
【0019】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板と炭化珪素源とが少なくともその一部がグラファイトからなる容器内において加熱される。
【0020】
グラファイトは高温で安定であるだけでなく、加工が比較的容易である。そのため、このような容器を採用して上記炭化珪素基板の製造方法を実施することにより、炭化珪素基板の製造コストを低減することができる。
【0021】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面の、{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0022】
六方晶の単結晶炭化珪素は、<0001>方向に成長させることにより、高品質な単結晶を効率よく作製することができる。そして、<0001>方向に成長させた炭化珪素単結晶からは、{0001}面を主面とする炭化珪素基板を効率よく採取することができる。一方、面方位{0001}に対するオフ角が50°以上65°以下である主面を有する炭化珪素基板を用いることにより、高性能な半導体装置を製造できる場合がある。
【0023】
具体的には、たとえばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;酸化膜電界効果トランジスタ)の作製に用いられる炭化珪素基板は、面方位{0001}に対するオフ角が8°程度である主面を有していることが一般的である。そして、当該主面上にエピタキシャル成長層が形成されるとともに、当該エピタキシャル成長層上に酸化膜、電極などが形成され、MOSFETが得られる。このMOSFETにおいては、エピタキシャル成長層と酸化膜との界面を含む領域にチャネル領域が形成される。しかし、このような構造を有するMOSFETにおいては、基板の主面の{0001}面に対するオフ角が8°程度であることに起因して、チャネル領域が形成されるエピタキシャル成長層と酸化膜との界面付近において多くの界面準位が形成され、キャリアの走行の妨げとなって、チャネル移動度が低下する。
【0024】
これに対し、上記ベース層を形成する工程において、SiC基板のベース層とは反対側の主面の、{0001}面に対するオフ角を50°以上65°以下とすることにより、製造される炭化珪素基板の主面の{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となるため、上記界面準位の形成が低減され、オン抵抗が低減されたMOSFETを作製することができる。
【0025】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面のオフ方位と<1−100>方向とのなす角が5°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0026】
<1−100>方向は、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを5°以下とすることにより、炭化珪素基板上へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【0027】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面の、<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角が−3°以上5°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0028】
これにより、炭化珪素基板を用いてMOSFETを作製した場合におけるチャネル移動度を、より一層向上させることができる。ここで、面方位{03−38}に対するオフ角を−3°以上+5°以下としたのは、チャネル移動度と当該オフ角との関係を調査した結果、この範囲内で特に高いチャネル移動度が得られたことに基づいている。
【0029】
また、「<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角」とは、<1−100>方向および<0001>方向の張る平面への上記主面の法線の正射影と、{03−38}面の法線とのなす角度であり、その符号は、上記正射影が<1−100>方向に対して平行に近づく場合が正であり、上記正射影が<0001>方向に対して平行に近づく場合が負である。
【0030】
なお、上記主面の面方位は、実質的に{03−38}であることがより好ましく、上記主面の面方位は{03−38}であることがさらに好ましい。ここで、主面の面方位が実質的に{03−38}であるとは、基板の加工精度などを考慮して実質的に面方位が{03−38}とみなせるオフ角の範囲に基板の主面の面方位が含まれていることを意味し、この場合のオフ角の範囲はたとえば{03−38}に対してオフ角が±2°の範囲である。これにより、上述したチャネル移動度をより一層向上させることができる。
【0031】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面のオフ方位と<11−20>方向とのなす角が5°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0032】
<11−20>方向は、上記<1−100>方向と同様に、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを±5°とすることにより、SiC基板上へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図2】実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図3】実施の形態1における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
【図4】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図6】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図7】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図8】実施の形態2における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
【図9】実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図10】実施の形態3における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
【図11】縦型MOSFETの構造を示す概略断面図である。
【図12】縦型MOSFETの製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図13】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【図14】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【図15】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【図16】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0036】
(実施の形態1)
まず、図1〜図3を参照して、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法においては、まず、工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、図2を参照して、たとえば単結晶炭化珪素からなるベース基板10および単結晶炭化珪素からなるSiC基板20が準備される。
【0037】
このとき、SiC基板20の主面20Aは、この製造方法により得られる炭化珪素基板の主面となることから(後述の図3参照)、所望の主面の面方位に合わせてSiC基板20の主面20Aの面方位を選択する。ここでは、たとえば主面が{03−38}面であるSiC基板20が準備される。また、ベース基板10としては、たとえば不純物密度が2×1019cm−3よりも大きい基板が採用されてもよい。そして、SiC基板20としては、たとえば不純物密度が5×1018cm−3よりも大きく2×1019cm−3よりも小さい基板が採用される。なお、ベース基板10としては単結晶からなるものに限られず、多結晶、アモルファスあるいは焼結体からなるものが準備されてもよい。
【0038】
次に、工程(S20)として基板平坦化工程が実施される。この工程(S20)では、図2を参照して、後述する工程(S30)において互いに接触すべきベース基板10の主面10AおよびSiC基板20の主面20B(接合面)が、たとえば研磨により平坦化される。なお、この工程(S20)は必須の工程ではなく、省略することができる。
【0039】
次に、工程(S30)として、積層工程が実施される。この工程(S30)では、図2を参照して、ベース基板10の主面10A上に接触するようにSiC基板20が載置されて、積層基板2が作製される。
【0040】
次に、工程(S40)として、接合工程が実施される。この工程(S40)では、上記積層基板2が加熱容器80内において加熱されることにより、ベース基板10とSiC基板20とが接合される。これにより、図3を参照して、ベース基板10をベース層10として備える炭化珪素基板1が完成する。
【0041】
ここで、上記プロセスによれば、炭化珪素基板1は、ベース基板10の形状等の選択により所望の形状および大きさとすることができるため、半導体装置の製造の効率化に寄与することができる。また、このようなプロセスで製造される炭化珪素基板1では、従来所望の形状等に加工できないため利用されていなかった高品質な炭化珪素単結晶からなるSiC基板20を利用して半導体装置を製造することが可能であるため、炭化珪素単結晶を有効に利用することができる。その結果、本実施の形態における炭化珪素基板1の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板1を製造することができる。
【0042】
さらに、図2を参照して、上記積層基板2の加熱は、加熱容器80の内部が窒素を含む雰囲気とされた状態で実施される。そのため、図3を参照して、雰囲気中の窒素がベース層10とSiC基板20との接合領域30に不純物として取り込まれ、接合領域30における不純物密度の低下が抑制される。その結果、本実施の形態におけるの炭化珪素基板の製造方法によって製造された炭化珪素基板1は、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板となっている。
【0043】
なお、窒素を含む雰囲気としては、たとえば窒素とアルゴンとの混合雰囲気のほか、窒素とヘリウムとの混合雰囲気、窒素、アルゴン、およびヘリウムの混合雰囲気、窒素雰囲気などの雰囲気を採用することができる。
【0044】
ここで、上述のように単結晶炭化珪素からなるベース基板10を採用する場合、工程(S30)では、図2を参照して、互いに対向するSiC基板20の主面20Bの面方位とベース基板10の主面10Aの面方位とが実質的に一致するように、SiC基板20とベース基板10とが配置されることが好ましい。これにより、図3を参照して、結晶面による熱膨張係数の異方性に起因してベース層10とSiC基板20との間に作用する応力を低減し、炭化珪素基板1における歪や割れの発生を抑制することができる。
【0045】
また、工程(S40)においては、少なくともその一部がグラファイトからなる加熱容器80が採用されることが好ましい。高温で安定であり、かつ加工が比較的容易なグラファイトを加熱容器の素材として採用することにより、炭化珪素基板1の製造コストを低減することができる。
【0046】
また、SiC基板20の主面20Aは、{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となっていてもよい。これにより、製造される炭化珪素基板1を用いてMOSFETを作製すると、チャネル領域における界面準位の形成が低減され、オン抵抗が低減されたMOSFETを得ることができる。一方、製造の容易性を考慮して、SiC基板20の主面20Aは、{0001}面であってもよい。
【0047】
また、SiC基板20の主面20Aのオフ方位と<1−100>方向とのなす角は5°以下となっていてもよい。<1−100>方向は、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを5°以下とすることにより、炭化珪素基板1上(主面20A上)へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【0048】
さらに、上記炭化珪素基板1においては、SiC基板20の主面20Aの、<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角は−3°以上5°以下とすることが好ましい。これにより、製造される炭化珪素基板1を用いてMOSFETを作製した場合におけるチャネル移動度を、より一層向上させることができる。
【0049】
一方、SiC基板20の主面20Aのオフ方位と<11−20>方向とのなす角は5°以下となっていてもよい。
【0050】
<11−20>も、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを±5°とすることにより、本実施の形態の炭化珪素基板の製造方法により製造される炭化珪素基板1上(主面20A上)へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【0051】
なお、半導体装置の製造効率を上昇させる観点から、上記ベース基板10(ベース層10)の口径は2インチ以上であることが好ましく、6インチ以上であることがより好ましい。また、炭化珪素基板がMOSFETなどのパワーデバイスの製造に使用される場合、SiC基板20を構成する炭化珪素のポリタイプは4H型であることが好ましい。さらに、ベース基板10として単結晶炭化珪素を採用する場合、ベース基板10とSiC基板20とは結晶構造が同一であることが好ましい。
【0052】
また、ベース層10とSiC基板20との熱膨張係数(線膨張係数)の差は、炭化珪素基板1が半導体装置の製造に用いられた場合におけるプロセス中に亀裂を生じない程度に小さいことが望ましい。ベース基板10およびSiC基板20の厚みのばらつきは小さいことが好ましく、より具体的にはベース基板10およびSiC基板20の基板中における厚みの最大値と最小値との差は、それぞれ10μm以下であることが好ましい。また、ベース層10の電気抵抗率は小さいことが好ましい。具体的にはベース層10の電気抵抗率は50mΩcm未満であることが好ましく、10mΩcm未満であることがより好ましい。さらに、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造効率を向上させる観点から、炭化珪素基板1において、SiC基板20のベース層10とは反対側の主面のうち100μm2以上の領域が単結晶炭化珪素からなっていることが好ましい。
【0053】
また、自立基板としての取り扱いを容易にする観点から、炭化珪素基板1の厚みは300μm以上であることが好ましい。さらに、上記工程(S40)における加熱容器の加熱方法としては、抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、ランプアニール法などを採用することができる。また、完成した炭化珪素基板1において、ベース層10の一部は昇華することなくベース基板10の状態を保っていてもよい。
【0054】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について図4〜図8を参照して説明する。実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法は、基本的には上記実施の形態1の場合と同様に実施される。しかし、実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法は、ベース層の形成プロセスにおいて実施の形態1の場合とは異なっている。
【0055】
図4を参照して、実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法では、まず工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、実施の形態1の場合と同様にSiC基板20が準備されるとともに、炭化珪素からなる原料基板11が準備される。この原料基板11は単結晶炭化珪素からなっていてもよいし、多結晶炭化珪素からなっていてもよく、炭化珪素の焼結体であってもよい。また、原料基板11に代えて炭化珪素からなる原料粉末を採用することもできる。
【0056】
次に、工程(S50)として近接配置工程が実施される。この工程(S50)では、図5を参照して、互いに対向するように加熱容器80内に配置された第1ヒータ81および第2ヒータ82により、それぞれSiC基板20および原料基板11が保持される。このとき、SiC基板20と原料基板11とは、1μm以上1cm以下の間隔、たとえば1mm程度の間隔をおいてそれぞれの主面である主面20Bおよび主面11Aが対向するように近接して配置される。
【0057】
次に、工程(S60)として昇華工程が実施される。この工程(S60)では、第1ヒータ81によってSiC基板20が所定の基板温度まで加熱される。また、第2ヒータ82によって原料基板11が所定の原料温度まで加熱される。このとき、原料基板11が原料温度まで加熱されることによって、原料基板の表面からSiCが昇華する。一方、基板温度は原料温度よりも低く設定される。具体的には、たとえば基板温度は原料温度よりも1℃以上100℃以下程度低く設定される。基板温度は、たとえば1800°以上2500℃以下である。これにより、図6に示すように、原料基板11から昇華して気体となったSiCは、SiC基板20の表面に到達して固体となり、ベース層10を形成する。そして、この状態を維持することにより、図7に示すように原料基板11を構成するSiCが全て昇華してSiC基板20の表面上に移動する。これにより、工程(S60)が完了し、図8に示す炭化珪素基板1が完成する。
【0058】
ここで、実施の形態2における炭化珪素基板1の製造方法では、工程(S60)において、原料基板11を構成する炭化珪素が一旦昇華した後ベース層10を形成する。そのため、原料基板11に含まれていた多数キャリアを生成すべき不純物が昇華時に離脱し、ベース層10全体において不純物密度が低くなるおそれがある。これに対し、工程(S60)における原料基板11およびSiC基板20の加熱は、実施の形態1の場合と同様に、加熱容器80の内部が窒素を含む雰囲気とされた状態で実施される。これにより、図8を参照して、雰囲気中の窒素がベース層10全体に不純物として取り込まれ、ベース層10における不純物密度の低下が抑制される。その結果、本実施の形態におけるの炭化珪素基板の製造方法によって製造された炭化珪素基板1は、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板となっている。
【0059】
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法は、基本的には実施の形態1の場合と同様に実施される。しかし、実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法は、SiC基板の配置において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0060】
実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法では、図1を参照して、実施の形態1の場合と同様に、まず工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、ベース基板10およびSiC基板20が準備される。このとき、本実施の形態においては、SiC基板20が複数準備される。
【0061】
次に、必要に応じて工程(S20)として基板平坦化工程を実施した後、工程(S30)として積層工程が実施される。この工程(S30)では、図9を参照して、工程(S10)において準備された複数のSiC基板20が平面的に見て並べて配置された状態で、ベース基板10の主面10Aに接触して配置される。このとき、複数のSiC基板20は、ベース基板10上において隣接するSiC基板20同士が互いに接触するように、マトリックス状に配置されることが好ましい。
【0062】
そして、実施の形態1の場合と同様に、工程(S40)として接合工程が実施され、積層基板2が窒素を含む雰囲気中で加熱される。これにより、ベース基板10によって複数のSiC基板20の一方の主面20B同士が接続されて、図10に示す炭化珪素基板1が完成する。この炭化珪素基板1は、複数のSiC基板が用いられることにより大口径化が容易であるため、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストが一層低減される。また、ベース基板10とSiC基板20との接合のための加熱が窒素を含む雰囲気中において実施されるため、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板1が得られる。
【0063】
(実施の形態4)
次に、上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された本発明の炭化珪素基板を用いて作製される半導体装置の一例を実施の形態4として説明する。図11を参照して、本発明による半導体装置101は、縦型DiMOSFET(Double Implanted MOSFET)であって、基板102、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111および上部ソース電極127、ゲート電極110および基板102の裏面側に形成されたドレイン電極112を備える。具体的には、導電型がn型の炭化珪素からなる基板102の表面上に、炭化珪素からなるバッファ層121が形成されている。基板102としては、上記実施の形態1〜3において説明した炭化珪素基板1を含む本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された炭化珪素基板が採用される。そして、上記実施の形態1〜3の炭化珪素基板1が採用される場合、バッファ層121は、炭化珪素基板1のSiC基板20上に形成される。バッファ層121は導電型がn型であり、その厚みはたとえば0.5μmである。また、バッファ層121におけるn型の導電性不純物の密度はたとえば5×1017cm−3とすることができる。このバッファ層121上には耐圧保持層122が形成されている。この耐圧保持層122は、導電型がn型の炭化珪素からなり、たとえばその厚みは10μmである。また、耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の密度としては、たとえば5×1015cm−3という値を用いることができる。
【0064】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型であるp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部においては、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように、酸化膜126が形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。そして、基板102において、バッファ層121が形成された側の表面とは反対側の面である裏面にドレイン電極112が形成されている。
【0065】
本実施の形態における半導体装置101においては、基板102として上記実施の形態1〜3において説明した炭化珪素基板1などの本発明の炭化珪素基板が採用される。ここで、上述のように、本発明の炭化珪素基板は、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストを低減可能であるとともに、厚み方向における抵抗率を低減可能な炭化珪素基板の製造方法により製造されている。そのため、半導体装置101は、製造コストが低減されるとともに、オン抵抗が低減された半導体装置となっている。
【0066】
次に、図12〜図16を参照して、図11に示した半導体装置101の製造方法を説明する。図12を参照して、まず、基板準備工程(S110)を実施する。ここでは、たとえば(03−38)面が主面となった炭化珪素からなる基板102(図13参照)を準備する。この基板102としては、上記実施の形態1〜3において説明した製造方法により製造された炭化珪素基板1を含む上記本発明の炭化珪素基板が準備される。
【0067】
また、この基板102(図13参照)としては、たとえば導電型がn型であり、基板抵抗が0.02Ωcmといった基板を用いてもよい。
【0068】
次に、図12に示すように、エピタキシャル層形成工程(S120)を実施する。具体的には、基板102の表面上にバッファ層121を形成する。このバッファ層121は、基板102として採用される炭化珪素基板1のSiC基板20の主面20A上(図3、図8、図10参照)に形成される。バッファ層121としては、導電型がn型の炭化珪素からなり、たとえばその厚みが0.5μmのエピタキシャル層を形成する。バッファ層121における導電型不純物の密度は、たとえば5×1017cm−3といった値を用いることができる。そして、このバッファ層121上に、図13に示すように耐圧保持層122を形成する。この耐圧保持層122としては、導電型がn型の炭化珪素からなる層をエピタキシャル成長法によって形成する。この耐圧保持層122の厚みとしては、たとえば10μmといった値を用いることができる。また、この耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の密度としては、たとえば5×1015cm−3といった値を用いることができる。
【0069】
次に、図12に示すように注入工程(S130)を実施する。具体的には、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成した酸化膜をマスクとして用いて、導電型がp型の不純物を耐圧保持層122に注入することにより、図14に示すようにp領域123を形成する。また、用いた酸化膜を除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜を、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成する。そして、当該酸化膜をマスクとして、n型の導電性不純物を所定の領域に注入することにより、n+領域124を形成する。また、同様の手法により、導電型がp型の導電性不純物を注入することにより、p+領域125を形成する。その結果、図14に示すような構造を得る。
【0070】
このような注入工程の後、活性化アニール処理を行なう。この活性化アニール処理としては、たとえばアルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1700℃、加熱時間30分といった条件を用いることができる。
【0071】
次に、図12に示すようにゲート絶縁膜形成工程(S140)を実施する。具体的には、図15に示すように、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125上を覆うように酸化膜126を形成する。この酸化膜126を形成するための条件としては、たとえばドライ酸化(熱酸化)を行なってもよい。このドライ酸化の条件としては、加熱温度を1200℃、加熱時間を30分といった条件を用いることができる。
【0072】
その後、図12に示すように窒素アニール工程(S150)を実施する。具体的には、雰囲気ガスを一酸化窒素(NO)として、アニール処理を行なう。アニール処理の温度条件としては、たとえば加熱温度を1100℃、加熱時間を120分とする。この結果、酸化膜126と下層の耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125との間の界面近傍に窒素原子が導入される。また、この一酸化窒素を雰囲気ガスとして用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニールを行なってもよい。具体的には、アルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度を1100℃、加熱時間を60分といった条件を用いてもよい。
【0073】
次に、図12に示すように電極形成工程(S160)を実施する。具体的には、酸化膜126上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜を形成する。当該レジスト膜をマスクとして用いて、n+領域124およびp+領域125上に位置する酸化膜の部分をエッチングにより除去する。この後、レジスト膜上および当該酸化膜126において形成された開口部内部においてn+領域124およびp+領域125と接触するように、金属などの導電体膜を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。ここで、導電体としては、たとえばニッケル(Ni)を用いることができる。この結果、図16に示すように、ソース電極111およびドレイン電極112を得ることができる。なお、ここでアロイ化のための熱処理を行なうことが好ましい。具体的には、たとえば雰囲気ガスとして不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用い、加熱温度を950℃、加熱時間を2分といった熱処理(アロイ化処理)を行なう。
【0074】
その後、ソース電極111上に上部ソース電極127(図11参照)を形成する。また、基板102の裏面上にドレイン電極112(図11参照)を形成する。このようにして、図11に示す半導体装置101を得ることができる。
【0075】
なお、上記実施の形態4においては、本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された炭化珪素基板を用いて作製可能な半導体装置の一例として、縦型MOSFETに関して説明したが、作製可能な半導体装置はこれに限られない。たとえばJFET(Junction Field Effect Transistor;接合型電界効果トランジスタ)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、ショットキーバリアダイオードなど、種々の半導体装置が本発明の炭化珪素基板を用いて作製可能である。また、上記実施の形態4においては、(03−38)面を主面とする炭化珪素基板上に活性層として機能するエピタキシャル層を形成して半導体装置が作製される場合について説明したが、上記主面として採用可能な結晶面はこれに限られず、(0001)面を含めて用途に応じた任意の結晶面を上記主面として採用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例について説明する。上記実施の形態3と同様の炭化珪素基板の製造方法において、接合工程における加熱容器内の加熱温度、雰囲気の組成および雰囲気の圧力を変化させて炭化珪素基板を作製した。そして、当該炭化珪素基板における接合領域の不純物密度を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0077】
まず、ベース基板として直径φ2インチ、厚み300μmの円盤形状を有し、主面の面方位が(03−38)面、ポリタイプが4H−SiC、n型不純物の密度が2×1019cm−3、マイクロパイプ密度が1×104cm−2、積層欠陥密度が1×105cm−1の炭化珪素からなる基板を準備した。また、SiC基板として、平面形状が一辺20mmの正方形であり、厚みが300μmの形状を有し、主面の面方位が(03−38)面、ポリタイプが4H−SiC、n型不純物の密度が1×1019cm−3、マイクロパイプ密度が0.2cm−2、積層欠陥密度が1cm−1未満の炭化珪素からなる基板を準備した。そして、ベース基板上にSiC基板を平面的見て2枚並べて配置し積層基板を作製した。
【0078】
次に、当該積層基板をグラファイトからなる加熱容器内に装入した。そして、加熱温度2000℃、雰囲気の圧力1Torrの条件(条件A)、加熱温度1800℃、雰囲気の圧力1Torrの条件(条件B)、加熱温度2000℃、雰囲気の圧力10Torrの条件(条件C)の3通りの条件で、加熱容器内の雰囲気を窒素とアルゴンとの混合雰囲気として加熱容器内で積層基板を加熱し、炭化珪素基板を作製した。雰囲気中の窒素濃度は0%(アルゴン雰囲気)、1%、5%、10%、20%、50%および100%(窒素雰囲気)の7水準とした。そして、得られた炭化珪素基板の接合領域における不純物密度を調査した。実験結果を表1〜3に示す。なお、表1、表2および表3は、それぞれ上記条件A、条件Bおよび条件Cの実験結果を示している。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表1を参照して、窒素を含まない雰囲気中において加熱した場合(窒素濃度0%の場合)に比べて、窒素を含む雰囲気中において加熱して炭化珪素基板を作製することにより、接合領域における不純物密度が高くなることが分かる。また、雰囲気中における窒素濃度の上昇に伴って、接合領域における不純物密度は上昇している。さらに、表1と表2とを比較すると、加熱温度が低くなると、反応層の不純物密度が低下することが分かる。これは、加熱温度が低くなることにより窒素の反応性が低くなるためであると考えられる。また、表1と表3とを比較すると、雰囲気の圧力を上げることにより、窒素濃度が低い場合(具体的には10%未満の場合)、反応層の不純物密度が低下している。これは、ベース基板の昇華速度が低下したためであると考えられる。
【0083】
(付記)
上述のように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板を製造することができる。すなわち、本発明に従った炭化珪素基板は、上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造されている。また、上記実施の形態4において説明したように、本発明の炭化珪素基板を用いて半導体装置を作製することができる。すなわち、本発明の半導体装置は、上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された炭化珪素基板上に活性層としてのエピタキシャル成長層が形成されている。別の観点から説明すると、本発明の半導体装置は、上記本発明の炭化珪素基板上に活性層としてのエピタキシャル成長層が形成されている。より具体的には、本発明の半導体装置は、上記本発明の炭化珪素基板と、当該炭化珪素基板上に形成されたエピタキシャル成長層と、当該エピタキシャル成長層上に形成された電極とを備えている。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、半導体装置の製造に使用することにより半導体装置の製造効率を向上させることが求められる炭化珪素基板の製造方法に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0086】
1 炭化珪素基板、2 積層基板、10 ベース層(ベース基板)、10A 主面、11 原料基板、11A 主面、20 SiC基板、20A,20B 主面、30 接合領域、80 加熱容器、81 第1ヒータ、82 第2ヒータ、101 半導体装置、102 基板、110 ゲート電極、111 ソース電極、112 ドレイン電極、121 バッファ層、122 耐圧保持層、123 p領域、124 n+領域、125 p+領域、126 酸化膜、127 上部ソース電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板の製造方法に関し、より特定的には、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高耐圧化、低損失化、高温環境下での使用などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素(SiC)の採用が進められつつある。炭化珪素は、従来から半導体装置を構成する材料として広く使用されている珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体である。そのため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素を採用することにより、半導体装置の高耐圧化、オン抵抗の低減などを達成することができる。また、炭化珪素を材料として採用した半導体装置は、珪素を材料として採用した半導体装置に比べて、高温環境下で使用された場合の特性の低下が小さいという利点も有している。
【0003】
このような状況の下、半導体装置の製造に用いられる炭化珪素結晶および炭化珪素基板の製造方法については、種々の検討がなされ、様々なアイデアが提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Nakabayashi, et al.、“Growth of Crack‐free 100mm−diameter 4H‐SiC Crystals with Low Micropipe Densities、Mater. Sci. Forum,vols.600‐603、2009年、p.3−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭化珪素は常圧で液相を持たない。また、結晶成長温度が2000℃以上と非常に高く、成長条件の制御や、その安定化が困難である。そのため、炭化珪素単結晶は、高品質を維持しつつ大口径化することが困難であり、大口径の高品質な炭化珪素基板を得ることは容易ではない。そして、大口径の炭化珪素基板の作製が困難であることに起因して、炭化珪素基板の製造コストが上昇するだけでなく、当該炭化珪素基板を用いて半導体装置を製造するに際しては、1バッチあたりの生産個数が少なくなり、半導体装置の製造コストが高くなるという問題があった。また、製造コストの高い炭化珪素単結晶を基板として有効に利用することにより、半導体装置の製造コストを低減できるものと考えられる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った炭化珪素基板の製造方法は、単結晶炭化珪素からなるSiC基板を準備する工程と、SiC基板の一方の主面に面するように炭化珪素源を配置する工程と、炭化珪素源を加熱することにより、SiC基板の一方の主面に接触するように炭化珪素からなるベース層を形成する工程とを備えている。そして、ベース層を形成する工程では、窒素を含む雰囲気中において上記炭化珪素源が加熱される。
【0008】
上述のように、高品質な炭化珪素単結晶は、大口径化が困難である。一方、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造プロセスにおいて効率よく製造を行なうためには、所定の形状および大きさに統一された基板が必要である。そのため、高品質な炭化珪素単結晶(たとえば欠陥密度が小さい炭化珪素単結晶)が得られた場合でも、切断等によって所定の形状等に加工できない領域は、有効に利用されない可能性がある。
【0009】
これに対し、本発明の炭化珪素基板の製造方法では、単結晶炭化珪素からなるSiC基板の一方の主面に接触するようにベース層が形成される。そのため、たとえば高品質であるものの所望の形状等が実現されていない炭化珪素単結晶をSiC基板として採用しつつ、安価であるものの欠陥密度が大きく、低品質な炭化珪素結晶からなるベース層を上記所定の形状および大きさになるように形成することができる。このようなプロセスで製造される炭化珪素基板は、所定の形状および大きさに統一されているため、半導体装置の製造の効率化に寄与することができる。また、このようなプロセスで製造される炭化珪素基板では、従来所望の形状等に加工できないため利用されていなかった高品質な炭化珪素単結晶からなるSiC基板を利用して半導体装置を製造することが可能であるため、炭化珪素単結晶を有効に利用することができる。
【0010】
以上のように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供することができる。
【0011】
さらに、ベース層を形成する工程では、上記炭化珪素源が加熱されてベース層が形成される際に、ベース層において多数キャリアを生成すべき不純物が炭化珪素源から離脱し、ベース層とSiC基板との接合領域あるいはベース層全体において不純物密度が低くなるおそれがある。この場合、基板の厚み方向における抵抗率が上昇し、得られた炭化珪素基板が縦型の半導体装置など、基板の厚み方向に電流が流れる半導体装置の製造に使用されると、当該半導体装置のオン抵抗上昇の原因となる。これに対し、本発明の炭化珪素基板の製造方法では、窒素を含む雰囲気中において上記炭化珪素源が加熱される。そのため、雰囲気中の窒素がベース層に不純物として取り込まれ、上記不純物密度の低下が抑制される。その結果、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板を製造することができる。
【0012】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記SiC基板を準備する工程では、複数のSiC基板が準備され、炭化珪素源を配置する工程では、複数のSiC基板が平面的に見て並べて配置された状態で炭化珪素源が配置され、ベース層を形成する工程では、複数のSiC基板の一方の主面同士が接続されるようにベース層が形成されてもよい。
【0013】
上述のように、高品質な炭化珪素単結晶は、大口径化が困難である。これに対し、高品質な炭化珪素単結晶から採取した複数のSiC基板を平面的に複数並べて配置したうえで、当該複数のSiC基板の一方の主面同士が接続されるようにベース層を形成することにより、高品質なSiC層を有する大口径な基板として取り扱うことが可能な炭化珪素基板を得ることができる。そして、この炭化珪素基板を用いることにより、半導体装置の製造プロセスを効率化することができる。なお、半導体装置の製造プロセスを効率化するためには、上記複数のSiC基板のうち互いに隣り合うSiC基板は、互いに接触して配置されていることが好ましい。より具体的には、たとえば上記複数のSiC基板は、平面的に見てマトリックス状に敷き詰められていることが好ましい。
【0014】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記炭化珪素源を配置する工程では、炭化珪素源として炭化珪素からなるベース基板が、ベース基板の一方の主面とSiC基板の一方の主面とが接触して対向するように配置され、ベース層を形成する工程では、ベース基板が加熱されることによりベース基板がSiC基板に接合されて上記ベース層を形成してもよい。
【0015】
また、上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記炭化珪素源を配置する工程では、炭化珪素源として炭化珪素からなる原料基板が、原料基板の一方の主面とSiC基板の一方の主面とが間隔をおいて対向するように配置され、ベース層を形成する工程では、当該原料基板が加熱されることにより原料基板を構成する炭化珪素が昇華して上記ベース層を形成してもよい。
【0016】
このように炭化珪素源として炭化珪素からなるベース基板や原料基板を採用することにより、容易にベース層を形成することができる。
【0017】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記ベース基板は単結晶炭化珪素からなり、炭化珪素源を配置する工程では、互いに対向するSiC基板の主面の面方位とベース基板の主面の面方位とが一致するように、SiC基板とベース基板とが配置されてもよい。
【0018】
単結晶炭化珪素の熱膨張係数は、結晶面による異方性を有している。そのため、熱膨張係数が大きく異なる結晶面同士を接合した場合、当該熱膨張係数の違いに起因した応力がベース層とSiC基板との間に作用する。この応力は、炭化珪素基板の製造および当該炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造プロセスにおいて、炭化珪素基板の歪や割れの原因となるおそれがある。これに対し、ベース基板の一方の主面とSiC基板の一方の主面とが接触して配置される場合において、上述のように接合される面を構成する炭化珪素単結晶の面方位が一致するようにしておくことにより、上記応力を緩和することができる。なお、「SiC基板の主面の面方位とベース基板の主面の面方位とが一致する」状態とは、当該面方位同士が厳密な意味で一致することまでは必要なく、実質的に一致していればよい。より具体的には、ベース基板の主面を構成する結晶面とSiC基板の主面を構成する結晶面とのなす角が1°以下であれば、ベース基板の主面の面方位とSiC基板の主面の面方位とは実質的に一致しているといえる。
【0019】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板と炭化珪素源とが少なくともその一部がグラファイトからなる容器内において加熱される。
【0020】
グラファイトは高温で安定であるだけでなく、加工が比較的容易である。そのため、このような容器を採用して上記炭化珪素基板の製造方法を実施することにより、炭化珪素基板の製造コストを低減することができる。
【0021】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面の、{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0022】
六方晶の単結晶炭化珪素は、<0001>方向に成長させることにより、高品質な単結晶を効率よく作製することができる。そして、<0001>方向に成長させた炭化珪素単結晶からは、{0001}面を主面とする炭化珪素基板を効率よく採取することができる。一方、面方位{0001}に対するオフ角が50°以上65°以下である主面を有する炭化珪素基板を用いることにより、高性能な半導体装置を製造できる場合がある。
【0023】
具体的には、たとえばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;酸化膜電界効果トランジスタ)の作製に用いられる炭化珪素基板は、面方位{0001}に対するオフ角が8°程度である主面を有していることが一般的である。そして、当該主面上にエピタキシャル成長層が形成されるとともに、当該エピタキシャル成長層上に酸化膜、電極などが形成され、MOSFETが得られる。このMOSFETにおいては、エピタキシャル成長層と酸化膜との界面を含む領域にチャネル領域が形成される。しかし、このような構造を有するMOSFETにおいては、基板の主面の{0001}面に対するオフ角が8°程度であることに起因して、チャネル領域が形成されるエピタキシャル成長層と酸化膜との界面付近において多くの界面準位が形成され、キャリアの走行の妨げとなって、チャネル移動度が低下する。
【0024】
これに対し、上記ベース層を形成する工程において、SiC基板のベース層とは反対側の主面の、{0001}面に対するオフ角を50°以上65°以下とすることにより、製造される炭化珪素基板の主面の{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となるため、上記界面準位の形成が低減され、オン抵抗が低減されたMOSFETを作製することができる。
【0025】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面のオフ方位と<1−100>方向とのなす角が5°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0026】
<1−100>方向は、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを5°以下とすることにより、炭化珪素基板上へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【0027】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面の、<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角が−3°以上5°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0028】
これにより、炭化珪素基板を用いてMOSFETを作製した場合におけるチャネル移動度を、より一層向上させることができる。ここで、面方位{03−38}に対するオフ角を−3°以上+5°以下としたのは、チャネル移動度と当該オフ角との関係を調査した結果、この範囲内で特に高いチャネル移動度が得られたことに基づいている。
【0029】
また、「<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角」とは、<1−100>方向および<0001>方向の張る平面への上記主面の法線の正射影と、{03−38}面の法線とのなす角度であり、その符号は、上記正射影が<1−100>方向に対して平行に近づく場合が正であり、上記正射影が<0001>方向に対して平行に近づく場合が負である。
【0030】
なお、上記主面の面方位は、実質的に{03−38}であることがより好ましく、上記主面の面方位は{03−38}であることがさらに好ましい。ここで、主面の面方位が実質的に{03−38}であるとは、基板の加工精度などを考慮して実質的に面方位が{03−38}とみなせるオフ角の範囲に基板の主面の面方位が含まれていることを意味し、この場合のオフ角の範囲はたとえば{03−38}に対してオフ角が±2°の範囲である。これにより、上述したチャネル移動度をより一層向上させることができる。
【0031】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、ベース層を形成する工程では、SiC基板のベース層とは反対側の主面のオフ方位と<11−20>方向とのなす角が5°以下となるようにベース層が形成されてもよい。
【0032】
<11−20>方向は、上記<1−100>方向と同様に、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを±5°とすることにより、SiC基板上へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【発明の効果】
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図2】実施の形態1における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図3】実施の形態1における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
【図4】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図6】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図7】実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図8】実施の形態2における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
【図9】実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法を説明するための概略断面図である。
【図10】実施の形態3における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
【図11】縦型MOSFETの構造を示す概略断面図である。
【図12】縦型MOSFETの製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図13】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【図14】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【図15】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【図16】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0036】
(実施の形態1)
まず、図1〜図3を参照して、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法においては、まず、工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、図2を参照して、たとえば単結晶炭化珪素からなるベース基板10および単結晶炭化珪素からなるSiC基板20が準備される。
【0037】
このとき、SiC基板20の主面20Aは、この製造方法により得られる炭化珪素基板の主面となることから(後述の図3参照)、所望の主面の面方位に合わせてSiC基板20の主面20Aの面方位を選択する。ここでは、たとえば主面が{03−38}面であるSiC基板20が準備される。また、ベース基板10としては、たとえば不純物密度が2×1019cm−3よりも大きい基板が採用されてもよい。そして、SiC基板20としては、たとえば不純物密度が5×1018cm−3よりも大きく2×1019cm−3よりも小さい基板が採用される。なお、ベース基板10としては単結晶からなるものに限られず、多結晶、アモルファスあるいは焼結体からなるものが準備されてもよい。
【0038】
次に、工程(S20)として基板平坦化工程が実施される。この工程(S20)では、図2を参照して、後述する工程(S30)において互いに接触すべきベース基板10の主面10AおよびSiC基板20の主面20B(接合面)が、たとえば研磨により平坦化される。なお、この工程(S20)は必須の工程ではなく、省略することができる。
【0039】
次に、工程(S30)として、積層工程が実施される。この工程(S30)では、図2を参照して、ベース基板10の主面10A上に接触するようにSiC基板20が載置されて、積層基板2が作製される。
【0040】
次に、工程(S40)として、接合工程が実施される。この工程(S40)では、上記積層基板2が加熱容器80内において加熱されることにより、ベース基板10とSiC基板20とが接合される。これにより、図3を参照して、ベース基板10をベース層10として備える炭化珪素基板1が完成する。
【0041】
ここで、上記プロセスによれば、炭化珪素基板1は、ベース基板10の形状等の選択により所望の形状および大きさとすることができるため、半導体装置の製造の効率化に寄与することができる。また、このようなプロセスで製造される炭化珪素基板1では、従来所望の形状等に加工できないため利用されていなかった高品質な炭化珪素単結晶からなるSiC基板20を利用して半導体装置を製造することが可能であるため、炭化珪素単結晶を有効に利用することができる。その結果、本実施の形態における炭化珪素基板1の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板1を製造することができる。
【0042】
さらに、図2を参照して、上記積層基板2の加熱は、加熱容器80の内部が窒素を含む雰囲気とされた状態で実施される。そのため、図3を参照して、雰囲気中の窒素がベース層10とSiC基板20との接合領域30に不純物として取り込まれ、接合領域30における不純物密度の低下が抑制される。その結果、本実施の形態におけるの炭化珪素基板の製造方法によって製造された炭化珪素基板1は、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板となっている。
【0043】
なお、窒素を含む雰囲気としては、たとえば窒素とアルゴンとの混合雰囲気のほか、窒素とヘリウムとの混合雰囲気、窒素、アルゴン、およびヘリウムの混合雰囲気、窒素雰囲気などの雰囲気を採用することができる。
【0044】
ここで、上述のように単結晶炭化珪素からなるベース基板10を採用する場合、工程(S30)では、図2を参照して、互いに対向するSiC基板20の主面20Bの面方位とベース基板10の主面10Aの面方位とが実質的に一致するように、SiC基板20とベース基板10とが配置されることが好ましい。これにより、図3を参照して、結晶面による熱膨張係数の異方性に起因してベース層10とSiC基板20との間に作用する応力を低減し、炭化珪素基板1における歪や割れの発生を抑制することができる。
【0045】
また、工程(S40)においては、少なくともその一部がグラファイトからなる加熱容器80が採用されることが好ましい。高温で安定であり、かつ加工が比較的容易なグラファイトを加熱容器の素材として採用することにより、炭化珪素基板1の製造コストを低減することができる。
【0046】
また、SiC基板20の主面20Aは、{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となっていてもよい。これにより、製造される炭化珪素基板1を用いてMOSFETを作製すると、チャネル領域における界面準位の形成が低減され、オン抵抗が低減されたMOSFETを得ることができる。一方、製造の容易性を考慮して、SiC基板20の主面20Aは、{0001}面であってもよい。
【0047】
また、SiC基板20の主面20Aのオフ方位と<1−100>方向とのなす角は5°以下となっていてもよい。<1−100>方向は、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを5°以下とすることにより、炭化珪素基板1上(主面20A上)へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【0048】
さらに、上記炭化珪素基板1においては、SiC基板20の主面20Aの、<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角は−3°以上5°以下とすることが好ましい。これにより、製造される炭化珪素基板1を用いてMOSFETを作製した場合におけるチャネル移動度を、より一層向上させることができる。
【0049】
一方、SiC基板20の主面20Aのオフ方位と<11−20>方向とのなす角は5°以下となっていてもよい。
【0050】
<11−20>も、炭化珪素基板における代表的なオフ方位である。そして、基板の製造工程におけるスライス加工のばらつき等に起因したオフ方位のばらつきを±5°とすることにより、本実施の形態の炭化珪素基板の製造方法により製造される炭化珪素基板1上(主面20A上)へのエピタキシャル成長層の形成などを容易にすることができる。
【0051】
なお、半導体装置の製造効率を上昇させる観点から、上記ベース基板10(ベース層10)の口径は2インチ以上であることが好ましく、6インチ以上であることがより好ましい。また、炭化珪素基板がMOSFETなどのパワーデバイスの製造に使用される場合、SiC基板20を構成する炭化珪素のポリタイプは4H型であることが好ましい。さらに、ベース基板10として単結晶炭化珪素を採用する場合、ベース基板10とSiC基板20とは結晶構造が同一であることが好ましい。
【0052】
また、ベース層10とSiC基板20との熱膨張係数(線膨張係数)の差は、炭化珪素基板1が半導体装置の製造に用いられた場合におけるプロセス中に亀裂を生じない程度に小さいことが望ましい。ベース基板10およびSiC基板20の厚みのばらつきは小さいことが好ましく、より具体的にはベース基板10およびSiC基板20の基板中における厚みの最大値と最小値との差は、それぞれ10μm以下であることが好ましい。また、ベース層10の電気抵抗率は小さいことが好ましい。具体的にはベース層10の電気抵抗率は50mΩcm未満であることが好ましく、10mΩcm未満であることがより好ましい。さらに、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造効率を向上させる観点から、炭化珪素基板1において、SiC基板20のベース層10とは反対側の主面のうち100μm2以上の領域が単結晶炭化珪素からなっていることが好ましい。
【0053】
また、自立基板としての取り扱いを容易にする観点から、炭化珪素基板1の厚みは300μm以上であることが好ましい。さらに、上記工程(S40)における加熱容器の加熱方法としては、抵抗加熱法、高周波誘導加熱法、ランプアニール法などを採用することができる。また、完成した炭化珪素基板1において、ベース層10の一部は昇華することなくベース基板10の状態を保っていてもよい。
【0054】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について図4〜図8を参照して説明する。実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法は、基本的には上記実施の形態1の場合と同様に実施される。しかし、実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法は、ベース層の形成プロセスにおいて実施の形態1の場合とは異なっている。
【0055】
図4を参照して、実施の形態2における炭化珪素基板の製造方法では、まず工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、実施の形態1の場合と同様にSiC基板20が準備されるとともに、炭化珪素からなる原料基板11が準備される。この原料基板11は単結晶炭化珪素からなっていてもよいし、多結晶炭化珪素からなっていてもよく、炭化珪素の焼結体であってもよい。また、原料基板11に代えて炭化珪素からなる原料粉末を採用することもできる。
【0056】
次に、工程(S50)として近接配置工程が実施される。この工程(S50)では、図5を参照して、互いに対向するように加熱容器80内に配置された第1ヒータ81および第2ヒータ82により、それぞれSiC基板20および原料基板11が保持される。このとき、SiC基板20と原料基板11とは、1μm以上1cm以下の間隔、たとえば1mm程度の間隔をおいてそれぞれの主面である主面20Bおよび主面11Aが対向するように近接して配置される。
【0057】
次に、工程(S60)として昇華工程が実施される。この工程(S60)では、第1ヒータ81によってSiC基板20が所定の基板温度まで加熱される。また、第2ヒータ82によって原料基板11が所定の原料温度まで加熱される。このとき、原料基板11が原料温度まで加熱されることによって、原料基板の表面からSiCが昇華する。一方、基板温度は原料温度よりも低く設定される。具体的には、たとえば基板温度は原料温度よりも1℃以上100℃以下程度低く設定される。基板温度は、たとえば1800°以上2500℃以下である。これにより、図6に示すように、原料基板11から昇華して気体となったSiCは、SiC基板20の表面に到達して固体となり、ベース層10を形成する。そして、この状態を維持することにより、図7に示すように原料基板11を構成するSiCが全て昇華してSiC基板20の表面上に移動する。これにより、工程(S60)が完了し、図8に示す炭化珪素基板1が完成する。
【0058】
ここで、実施の形態2における炭化珪素基板1の製造方法では、工程(S60)において、原料基板11を構成する炭化珪素が一旦昇華した後ベース層10を形成する。そのため、原料基板11に含まれていた多数キャリアを生成すべき不純物が昇華時に離脱し、ベース層10全体において不純物密度が低くなるおそれがある。これに対し、工程(S60)における原料基板11およびSiC基板20の加熱は、実施の形態1の場合と同様に、加熱容器80の内部が窒素を含む雰囲気とされた状態で実施される。これにより、図8を参照して、雰囲気中の窒素がベース層10全体に不純物として取り込まれ、ベース層10における不純物密度の低下が抑制される。その結果、本実施の形態におけるの炭化珪素基板の製造方法によって製造された炭化珪素基板1は、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板となっている。
【0059】
(実施の形態3)
次に、本発明のさらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法は、基本的には実施の形態1の場合と同様に実施される。しかし、実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法は、SiC基板の配置において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0060】
実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法では、図1を参照して、実施の形態1の場合と同様に、まず工程(S10)として基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、ベース基板10およびSiC基板20が準備される。このとき、本実施の形態においては、SiC基板20が複数準備される。
【0061】
次に、必要に応じて工程(S20)として基板平坦化工程を実施した後、工程(S30)として積層工程が実施される。この工程(S30)では、図9を参照して、工程(S10)において準備された複数のSiC基板20が平面的に見て並べて配置された状態で、ベース基板10の主面10Aに接触して配置される。このとき、複数のSiC基板20は、ベース基板10上において隣接するSiC基板20同士が互いに接触するように、マトリックス状に配置されることが好ましい。
【0062】
そして、実施の形態1の場合と同様に、工程(S40)として接合工程が実施され、積層基板2が窒素を含む雰囲気中で加熱される。これにより、ベース基板10によって複数のSiC基板20の一方の主面20B同士が接続されて、図10に示す炭化珪素基板1が完成する。この炭化珪素基板1は、複数のSiC基板が用いられることにより大口径化が容易であるため、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストが一層低減される。また、ベース基板10とSiC基板20との接合のための加熱が窒素を含む雰囲気中において実施されるため、厚み方向における抵抗率の上昇が抑制された炭化珪素基板1が得られる。
【0063】
(実施の形態4)
次に、上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された本発明の炭化珪素基板を用いて作製される半導体装置の一例を実施の形態4として説明する。図11を参照して、本発明による半導体装置101は、縦型DiMOSFET(Double Implanted MOSFET)であって、基板102、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125、酸化膜126、ソース電極111および上部ソース電極127、ゲート電極110および基板102の裏面側に形成されたドレイン電極112を備える。具体的には、導電型がn型の炭化珪素からなる基板102の表面上に、炭化珪素からなるバッファ層121が形成されている。基板102としては、上記実施の形態1〜3において説明した炭化珪素基板1を含む本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された炭化珪素基板が採用される。そして、上記実施の形態1〜3の炭化珪素基板1が採用される場合、バッファ層121は、炭化珪素基板1のSiC基板20上に形成される。バッファ層121は導電型がn型であり、その厚みはたとえば0.5μmである。また、バッファ層121におけるn型の導電性不純物の密度はたとえば5×1017cm−3とすることができる。このバッファ層121上には耐圧保持層122が形成されている。この耐圧保持層122は、導電型がn型の炭化珪素からなり、たとえばその厚みは10μmである。また、耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の密度としては、たとえば5×1015cm−3という値を用いることができる。
【0064】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型であるp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部においては、p領域123の表面層にn+領域124が形成されている。また、このn+領域124に隣接する位置には、p+領域125が形成されている。一方のp領域123におけるn+領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn+領域124上にまで延在するように、酸化膜126が形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n+領域124およびp+領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。そして、基板102において、バッファ層121が形成された側の表面とは反対側の面である裏面にドレイン電極112が形成されている。
【0065】
本実施の形態における半導体装置101においては、基板102として上記実施の形態1〜3において説明した炭化珪素基板1などの本発明の炭化珪素基板が採用される。ここで、上述のように、本発明の炭化珪素基板は、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストを低減可能であるとともに、厚み方向における抵抗率を低減可能な炭化珪素基板の製造方法により製造されている。そのため、半導体装置101は、製造コストが低減されるとともに、オン抵抗が低減された半導体装置となっている。
【0066】
次に、図12〜図16を参照して、図11に示した半導体装置101の製造方法を説明する。図12を参照して、まず、基板準備工程(S110)を実施する。ここでは、たとえば(03−38)面が主面となった炭化珪素からなる基板102(図13参照)を準備する。この基板102としては、上記実施の形態1〜3において説明した製造方法により製造された炭化珪素基板1を含む上記本発明の炭化珪素基板が準備される。
【0067】
また、この基板102(図13参照)としては、たとえば導電型がn型であり、基板抵抗が0.02Ωcmといった基板を用いてもよい。
【0068】
次に、図12に示すように、エピタキシャル層形成工程(S120)を実施する。具体的には、基板102の表面上にバッファ層121を形成する。このバッファ層121は、基板102として採用される炭化珪素基板1のSiC基板20の主面20A上(図3、図8、図10参照)に形成される。バッファ層121としては、導電型がn型の炭化珪素からなり、たとえばその厚みが0.5μmのエピタキシャル層を形成する。バッファ層121における導電型不純物の密度は、たとえば5×1017cm−3といった値を用いることができる。そして、このバッファ層121上に、図13に示すように耐圧保持層122を形成する。この耐圧保持層122としては、導電型がn型の炭化珪素からなる層をエピタキシャル成長法によって形成する。この耐圧保持層122の厚みとしては、たとえば10μmといった値を用いることができる。また、この耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の密度としては、たとえば5×1015cm−3といった値を用いることができる。
【0069】
次に、図12に示すように注入工程(S130)を実施する。具体的には、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成した酸化膜をマスクとして用いて、導電型がp型の不純物を耐圧保持層122に注入することにより、図14に示すようにp領域123を形成する。また、用いた酸化膜を除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜を、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成する。そして、当該酸化膜をマスクとして、n型の導電性不純物を所定の領域に注入することにより、n+領域124を形成する。また、同様の手法により、導電型がp型の導電性不純物を注入することにより、p+領域125を形成する。その結果、図14に示すような構造を得る。
【0070】
このような注入工程の後、活性化アニール処理を行なう。この活性化アニール処理としては、たとえばアルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1700℃、加熱時間30分といった条件を用いることができる。
【0071】
次に、図12に示すようにゲート絶縁膜形成工程(S140)を実施する。具体的には、図15に示すように、耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125上を覆うように酸化膜126を形成する。この酸化膜126を形成するための条件としては、たとえばドライ酸化(熱酸化)を行なってもよい。このドライ酸化の条件としては、加熱温度を1200℃、加熱時間を30分といった条件を用いることができる。
【0072】
その後、図12に示すように窒素アニール工程(S150)を実施する。具体的には、雰囲気ガスを一酸化窒素(NO)として、アニール処理を行なう。アニール処理の温度条件としては、たとえば加熱温度を1100℃、加熱時間を120分とする。この結果、酸化膜126と下層の耐圧保持層122、p領域123、n+領域124、p+領域125との間の界面近傍に窒素原子が導入される。また、この一酸化窒素を雰囲気ガスとして用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニールを行なってもよい。具体的には、アルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度を1100℃、加熱時間を60分といった条件を用いてもよい。
【0073】
次に、図12に示すように電極形成工程(S160)を実施する。具体的には、酸化膜126上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜を形成する。当該レジスト膜をマスクとして用いて、n+領域124およびp+領域125上に位置する酸化膜の部分をエッチングにより除去する。この後、レジスト膜上および当該酸化膜126において形成された開口部内部においてn+領域124およびp+領域125と接触するように、金属などの導電体膜を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。ここで、導電体としては、たとえばニッケル(Ni)を用いることができる。この結果、図16に示すように、ソース電極111およびドレイン電極112を得ることができる。なお、ここでアロイ化のための熱処理を行なうことが好ましい。具体的には、たとえば雰囲気ガスとして不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用い、加熱温度を950℃、加熱時間を2分といった熱処理(アロイ化処理)を行なう。
【0074】
その後、ソース電極111上に上部ソース電極127(図11参照)を形成する。また、基板102の裏面上にドレイン電極112(図11参照)を形成する。このようにして、図11に示す半導体装置101を得ることができる。
【0075】
なお、上記実施の形態4においては、本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された炭化珪素基板を用いて作製可能な半導体装置の一例として、縦型MOSFETに関して説明したが、作製可能な半導体装置はこれに限られない。たとえばJFET(Junction Field Effect Transistor;接合型電界効果トランジスタ)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、ショットキーバリアダイオードなど、種々の半導体装置が本発明の炭化珪素基板を用いて作製可能である。また、上記実施の形態4においては、(03−38)面を主面とする炭化珪素基板上に活性層として機能するエピタキシャル層を形成して半導体装置が作製される場合について説明したが、上記主面として採用可能な結晶面はこれに限られず、(0001)面を含めて用途に応じた任意の結晶面を上記主面として採用することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例について説明する。上記実施の形態3と同様の炭化珪素基板の製造方法において、接合工程における加熱容器内の加熱温度、雰囲気の組成および雰囲気の圧力を変化させて炭化珪素基板を作製した。そして、当該炭化珪素基板における接合領域の不純物密度を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0077】
まず、ベース基板として直径φ2インチ、厚み300μmの円盤形状を有し、主面の面方位が(03−38)面、ポリタイプが4H−SiC、n型不純物の密度が2×1019cm−3、マイクロパイプ密度が1×104cm−2、積層欠陥密度が1×105cm−1の炭化珪素からなる基板を準備した。また、SiC基板として、平面形状が一辺20mmの正方形であり、厚みが300μmの形状を有し、主面の面方位が(03−38)面、ポリタイプが4H−SiC、n型不純物の密度が1×1019cm−3、マイクロパイプ密度が0.2cm−2、積層欠陥密度が1cm−1未満の炭化珪素からなる基板を準備した。そして、ベース基板上にSiC基板を平面的見て2枚並べて配置し積層基板を作製した。
【0078】
次に、当該積層基板をグラファイトからなる加熱容器内に装入した。そして、加熱温度2000℃、雰囲気の圧力1Torrの条件(条件A)、加熱温度1800℃、雰囲気の圧力1Torrの条件(条件B)、加熱温度2000℃、雰囲気の圧力10Torrの条件(条件C)の3通りの条件で、加熱容器内の雰囲気を窒素とアルゴンとの混合雰囲気として加熱容器内で積層基板を加熱し、炭化珪素基板を作製した。雰囲気中の窒素濃度は0%(アルゴン雰囲気)、1%、5%、10%、20%、50%および100%(窒素雰囲気)の7水準とした。そして、得られた炭化珪素基板の接合領域における不純物密度を調査した。実験結果を表1〜3に示す。なお、表1、表2および表3は、それぞれ上記条件A、条件Bおよび条件Cの実験結果を示している。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表1を参照して、窒素を含まない雰囲気中において加熱した場合(窒素濃度0%の場合)に比べて、窒素を含む雰囲気中において加熱して炭化珪素基板を作製することにより、接合領域における不純物密度が高くなることが分かる。また、雰囲気中における窒素濃度の上昇に伴って、接合領域における不純物密度は上昇している。さらに、表1と表2とを比較すると、加熱温度が低くなると、反応層の不純物密度が低下することが分かる。これは、加熱温度が低くなることにより窒素の反応性が低くなるためであると考えられる。また、表1と表3とを比較すると、雰囲気の圧力を上げることにより、窒素濃度が低い場合(具体的には10%未満の場合)、反応層の不純物密度が低下している。これは、ベース基板の昇華速度が低下したためであると考えられる。
【0083】
(付記)
上述のように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造コストの低減を可能とする炭化珪素基板を製造することができる。すなわち、本発明に従った炭化珪素基板は、上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造されている。また、上記実施の形態4において説明したように、本発明の炭化珪素基板を用いて半導体装置を作製することができる。すなわち、本発明の半導体装置は、上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により製造された炭化珪素基板上に活性層としてのエピタキシャル成長層が形成されている。別の観点から説明すると、本発明の半導体装置は、上記本発明の炭化珪素基板上に活性層としてのエピタキシャル成長層が形成されている。より具体的には、本発明の半導体装置は、上記本発明の炭化珪素基板と、当該炭化珪素基板上に形成されたエピタキシャル成長層と、当該エピタキシャル成長層上に形成された電極とを備えている。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の炭化珪素基板の製造方法は、半導体装置の製造に使用することにより半導体装置の製造効率を向上させることが求められる炭化珪素基板の製造方法に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0086】
1 炭化珪素基板、2 積層基板、10 ベース層(ベース基板)、10A 主面、11 原料基板、11A 主面、20 SiC基板、20A,20B 主面、30 接合領域、80 加熱容器、81 第1ヒータ、82 第2ヒータ、101 半導体装置、102 基板、110 ゲート電極、111 ソース電極、112 ドレイン電極、121 バッファ層、122 耐圧保持層、123 p領域、124 n+領域、125 p+領域、126 酸化膜、127 上部ソース電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶炭化珪素からなるSiC基板を準備する工程と、
前記SiC基板の一方の主面に面するように炭化珪素源を配置する工程と、
前記炭化珪素源を加熱することにより、前記SiC基板の一方の主面に接触するように炭化珪素からなるベース層を形成する工程とを備え、
前記ベース層を形成する工程では、窒素を含む雰囲気中において前記炭化珪素源が加熱される、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記SiC基板を準備する工程では、複数の前記SiC基板が準備され、
前記炭化珪素源を配置する工程では、複数の前記SiC基板が平面的に見て並べて配置された状態で前記炭化珪素源が配置され、
前記ベース層を形成する工程では、複数の前記SiC基板の一方の主面同士が接続されるように前記ベース層が形成される、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素源を配置する工程では、前記炭化珪素源として炭化珪素からなるベース基板が、前記ベース基板の一方の主面と前記SiC基板の一方の主面とが接触して対向するように配置され、
前記ベース層を形成する工程では、前記ベース基板が加熱されることにより前記ベース基板が前記SiC基板に接合されて前記ベース層を形成する、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記ベース基板は単結晶炭化珪素からなり、
前記炭化珪素源を配置する工程では、互いに対向する前記SiC基板の主面の面方位と前記ベース基板の主面の面方位とが一致するように、前記SiC基板と前記ベース基板とが配置される、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素源を配置する工程では、前記炭化珪素源として炭化珪素からなる原料基板が、前記原料基板の一方の主面と前記SiC基板の一方の主面とが間隔をおいて対向するように配置され、
前記ベース層を形成する工程では、前記原料基板が加熱されることにより前記原料基板を構成する炭化珪素が昇華して前記ベース層を形成する、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板と前記炭化珪素源とが少なくともその一部がグラファイトからなる容器内において加熱される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面の、{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面のオフ方位と<1−100>方向とのなす角が5°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項7に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項9】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面の、<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角が−3°以上5°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項8に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項10】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面のオフ方位と<11−20>方向とのなす角が5°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項7に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項1】
単結晶炭化珪素からなるSiC基板を準備する工程と、
前記SiC基板の一方の主面に面するように炭化珪素源を配置する工程と、
前記炭化珪素源を加熱することにより、前記SiC基板の一方の主面に接触するように炭化珪素からなるベース層を形成する工程とを備え、
前記ベース層を形成する工程では、窒素を含む雰囲気中において前記炭化珪素源が加熱される、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記SiC基板を準備する工程では、複数の前記SiC基板が準備され、
前記炭化珪素源を配置する工程では、複数の前記SiC基板が平面的に見て並べて配置された状態で前記炭化珪素源が配置され、
前記ベース層を形成する工程では、複数の前記SiC基板の一方の主面同士が接続されるように前記ベース層が形成される、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素源を配置する工程では、前記炭化珪素源として炭化珪素からなるベース基板が、前記ベース基板の一方の主面と前記SiC基板の一方の主面とが接触して対向するように配置され、
前記ベース層を形成する工程では、前記ベース基板が加熱されることにより前記ベース基板が前記SiC基板に接合されて前記ベース層を形成する、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記ベース基板は単結晶炭化珪素からなり、
前記炭化珪素源を配置する工程では、互いに対向する前記SiC基板の主面の面方位と前記ベース基板の主面の面方位とが一致するように、前記SiC基板と前記ベース基板とが配置される、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素源を配置する工程では、前記炭化珪素源として炭化珪素からなる原料基板が、前記原料基板の一方の主面と前記SiC基板の一方の主面とが間隔をおいて対向するように配置され、
前記ベース層を形成する工程では、前記原料基板が加熱されることにより前記原料基板を構成する炭化珪素が昇華して前記ベース層を形成する、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板と前記炭化珪素源とが少なくともその一部がグラファイトからなる容器内において加熱される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面の、{0001}面に対するオフ角が50°以上65°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面のオフ方位と<1−100>方向とのなす角が5°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項7に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項9】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面の、<1−100>方向における{03−38}面に対するオフ角が−3°以上5°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項8に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項10】
前記ベース層を形成する工程では、前記SiC基板の前記ベース層とは反対側の主面のオフ方位と<11−20>方向とのなす角が5°以下となるように前記ベース層が形成される、請求項7に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−62263(P2013−62263A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6777(P2010−6777)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
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