説明

炭化珪素炉発熱体

従来の管状発熱体に比べて、体積に対する放射表面積の比が大きいストリップの形態の炭化珪素炉発熱体が提供される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素炉発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素炉発熱体は、従来、中実棒(solid rod)又は円筒管の形態で製造され、直径は通常3mm〜110mmである。正方形又は長方形の管等、他の断面も可能であるが、一般的には用いられていない。
【0003】
管状断面を有する炭化珪素炉発熱体は、中実の炭化珪素炉発熱体に比べて、使用する炭化珪素の量が少ないため、生産がより経済的であり、工業炉で用いられる炭化珪素炉発熱体のほとんどは管状の構成を特徴とする。
【0004】
炭化珪素炉発熱体は、可燃性物質に点火するために熱を迅速に増減させるように設計される電気点火装置とは区別すべきである。点火装置は、このような迅速な発熱及び冷却を行うために小型である必要がある。炭化珪素炉発熱体は、高温で長期間(例えば温度で数年間)電熱(electrical heat)を提供する必要がある。したがって、炭化珪素炉発熱体及び電気点火装置の設計基準は非常に異なる。
【0005】
任意の放射発熱体の発熱能力利用度(power availability)は、その放射表面積の関数であり、任意のタイプの発熱体の能力は通常、その放射表面の単位平方センチメートルあたりのワット数で表される。
【0006】
管状の炭化珪素炉発熱体の場合、管の内表面から周囲への放射伝熱がないため、外表面の面積のみが有効放射面であるとみなされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化珪素は、特に高温電熱体の製造に用いられるグレードの比較的高価なセラミック材料であるため、使用する材料が少なければコスト利益が非常に高くなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発熱体の有効放射面の面積と断面積との比を大きくすれば、従来の管状又は中実の発熱体と同様の断面積を有する発熱体からさらなる発熱能力が提供され得るか、又は代替的に、より小さな質量の炭化珪素を用いてより小さく軽い発熱体から同様の発熱能力が提供され得ることを、本出願人は認識した。
【0009】
したがって、本発明は、ストリップの形態の炭化珪素炉発熱体を提供する。
【0010】
好ましくは、炭化珪素炉発熱体は非中空形状である。
【0011】
好ましくは、炭化珪素炉発熱体は、3:1よりも大きな、より好ましくは5:1よりも大きな、さらにより好ましくは10:1よりも大きな断面のアスペクト比を有する。
【0012】
アスペクト比とは、ストリップの形態の炭化珪素炉発熱体の幅対厚さの比を意味する。
【0013】
本発明のさらなる特徴は、以下の例示的な説明に鑑みて、且つ図面を参照して、特許請求の範囲において明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1において、従来の管状発熱体1は、直径D及び壁厚Wを有する。放射可能な表面積は、管状発熱体1の全周πDにより規定される。管状発熱体1の断面積はπDWと近似できる。
【0015】
図2において、管状発熱体は、長さπD及び厚さWを有するストリップ2を形成するように広げて示されている。ここでも、管状発熱体の断面積はπDWに近似できるが、放射可能な表面積は、発熱体の全周2π(D+W)により得られる。管状発熱体を広げると、放射面は事実上2倍になるが、発熱体の断面積は変わらないままである。
【0016】
さらに、管状発熱体1の総面積(overall area)はπD/4であるが、ストリップ2の総面積はπDWである。したがって、ストリップ対管の面積比は4W/Dである。直径40mmで肉厚5mmの管の場合、ストリップ対管の面積比は0.5となる。発熱体の総面積を減らすことにより、炉壁の穴を小さくすることを検討できる。
【0017】
この発熱体は平坦であってもよいが、多くの用途では、発熱体は1回又は複数回、特にストリップの平面外に曲げられて、種々のタイプの装置、特に間接電気抵抗炉に取り付けるのに適するようになると予想される。
【0018】
図3及び図4は、発熱体の1つの可能な形状(U形状)を示す。図3において、3部構成(3-part)の発熱体は、単純なU字形のストリップ3を備え、ストリップ3は、高抵抗率の高温領域(high resistivity hot zone)を提供し、且つ従来の形態の低抵抗「冷端部(cold ends)」4,5に接続される。冷端部の抵抗率は、高温領域の抵抗率よりも小さく、及び/又はより大きな断面積を有する。終端6,7は、電源に電気的に接続する役割を果たしている。
【0019】
図4は、高抵抗率の高温領域であるU字形状の本体8と、低抵抗率の冷端部9,10及び終端11,12である脚とを有する単純なU字形ストリップを備えた一体型(single piece)の発熱体を示している。抵抗率の異なる領域を提供するために、このような方法で炭化珪素を改変することは、既知の技術である。
【0020】
1つ以上の高温領域を嵌め込む装置の形状に合わせるために、及び/又は単相電源又は三相電源のいずれかに都合のよい接続を提供するために、1つ以上の高温領域が2つ以上の曲げ部分を有するような形状にされ得る他の形状の発熱体も想定される。例えば、W字形状の発熱体を容易に作ることができる。三相発熱体の場合、3つのストリップを接合して星形又は他の構成を形成してもよい。
【0021】
図5において、ほぼU字形状の発熱体13は、直線状の脚14と正弦波状の脚15とを備え、直線状の脚が2つある発熱体が提供する場合よりも大きな放射面を、発熱体の長さに対して提供する。
【0022】
図6において、ストリップ16は、その長さに沿ってさらに剛性を与えるために、その長さの少なくとも一部が平坦ではなく湾曲している。ストリップがU字形状を形成するように曲げられる場合、ストリップは曲げられた場所ではなく直線状の場所のみを湾曲させることが好ましい。
【0023】
実質的にU字形状の炭化珪素炉発熱体が知られており、これまで円筒状又は円柱状(solid cylindrical)の高温領域を用いて製造されていた。曲げ部は、U字形状の鋳型で鋳造することにより、例えば鋳込み成形により形成してもよいが、鋳込み成形は、炭化珪素炉発熱体の製造方法としては好ましくなく、比較的高価である。
【0024】
鋳造技術は、従来製造に用いることができる炭化珪素材料の粒径を制限し、粗粒材料が必要とされる場合、鋳造は実用的な製造方法とはみなされない。また、高密度の反応結合グレード(reaction-bonded grade)の材料で発熱体を製造することが望まれる場合も同様に、鋳込み成形は好ましくない製造工程(route of manufacture)である。これは、鋳造材料、すなわちスリップ(slip)が炭化珪素及び炭素の両方を含まなければならず、制御された方法又は再現可能な方法でこのような物体を鋳造することは容易ではないからである。
【0025】
炭化珪素炉発熱体の大量生産が必要な場合、好ましい製造方法は押し出し成形である。この方法では、炭化珪素粒子、又は炭化珪素と炭素との混合物が結合剤及び可塑剤とともに混合され、適当なダイ、又はダイ及びピンのセットにより押し出されて中空部分ができる。[ストリップが中空である(必要な材料が少なく、より軽量であり、3ピースの場合は結合がより容易であり、熱衝撃の可能性が低い)ことが有利となる用途があり、本発明は中空ストリップを意図している。]押し出し成形は、緻密に制御された再現可能なプロセスであり、高品質の炭化珪素で電気発熱体を大量生産するのに適している。
【0026】
押し出し成形を行うためには、押し出し材料はプラスチックでなければならないため、押し出し成形が行われた後であるが乾燥及び焼成の前に、曲げ又は整形により形状を変えることが可能である。炭化珪素炉発熱体が通常作られ得る従来の棒又は管を、曲げ又は整形することが検討されたが、この方法には固有の主な欠点がある。すなわち、形状を曲げることにより、曲げ部の外周の長さが伸び、内周の長さが縮まってしまう。その結果、湾曲部の外側の材料は引き伸ばされてその密度が小さくなり、その面の内側の材料は圧縮されて密度が大きくなるか、又は材料に皺ができる。
【0027】
高温領域がほぼ層状であれば、断面の厚さはかなり薄くすることができ、したがって湾曲部の内周長と外周長との差が最小になり、材料密度の変化、及び押し出し材料の歪み又は破壊が最小になる。有利には、ストリップの平面外にのみ曲げる(そしてストリップの平面内では曲げない)ことにより、押し出し材料の歪み又は破壊を最小にすることができる。
【0028】
試験のために、本出願人は、押し出し成形により、厚さ5mmで幅45mm(アスペクト比9:1)の断面を有する炭化珪素炉発熱体と、厚さ3mmで幅36mm(アスペクト比12:1)の断面を有する炭化珪素炉発熱体とを作製した。
【0029】
成形後、ストリップの形態の炭化珪素炉発熱体には、炭化珪素炉発熱体の通常の処理工程、例えば、含浸、グレージング、末端の金属被覆のいずれを施すこともできる。
【0030】
本発明では、従来の管状発熱体に比べて体積に対する放射表面積の比が大きいストリップの形態の炭化珪素炉発熱体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の管状発熱体の断面図を示す。
【図2】本発明によるストリップの形態の発熱体を形成するように広げた管状発熱体を示す。
【図3】本発明によるU字形状の3部構成の発熱体を示す。
【図4】本発明によるU字形状の1部構成の発熱体を示す。
【図5】本発明による正弦波状の発熱体を示す。
【図6】本発明による湾曲状のストリップ形態の発熱体の断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップの形態の炭化珪素炉発熱体。
【請求項2】
非中空形状である、請求項1に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項3】
断面のアスペクト比が3:1よりも大きい、請求項1又は2に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項4】
前記アスペクト比が5:1よりも大きい、請求項3に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項5】
前記アスペクト比が10:1よりも大きい、請求項4に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項6】
非ストリップの形態の冷端部を備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項7】
前記ストリップの一部は、低い抵抗率を有すると共に冷端部を形成する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項8】
前記ストリップは、該ストリップの平面外に曲げられる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項9】
ほぼU字形状である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項10】
前記ストリップは、該ストリップの長さの少なくとも一部の断面が湾曲される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項11】
再結晶された自己結合炭化珪素材料から成る、請求項1〜10のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項12】
反応結合炭化珪素又は反応焼結炭化珪素から成る、請求項1〜10のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体。
【請求項13】
ストリップの予備成形体が、押し出し成形により作製され、
押し出し成形後に、前記予備成形体が曲げ成形される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の炭化珪素炉発熱体を作製する方法。
【請求項14】
冷端部は、前記炭化珪素炉発熱体とは別個に作製され、
その後、前記炭化珪素炉発熱体に接合される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
冷端部は、前記炭化珪素炉発熱体と一体形成される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記炭化珪素炉発熱体は、自己結合炭化珪素材料を形成するために再結晶される、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
押し出し成形された前記予備成形体の材料は、最終製品が反応結合炭化珪素又は反応焼結炭化珪素から成るものである、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−535782(P2007−535782A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520015(P2006−520015)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003106
【国際公開番号】WO2005/009081
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(502204104)カンサル・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】KANTHAL LIMITED
【住所又は居所原語表記】Inveralmond, Perth, Scotland PH1 3ED, Great Britain
【Fターム(参考)】