説明

炭素含有耐火物及び溶融金属用容器

【課題】 耐熱衝撃性に優れ、かつ耐食性や強度の点でも優れ、各種溶融金属用容器の内張りレンガに好適な炭素含有耐火物を提供する。
【解決手段】 本発明の炭素含有耐火物は、炭素質原料と酸化物とを含む炭素含有耐火物において、下記の(1)式で定義される復元率Rが、40%以上150%以下である弾力性黒鉛を、前記炭素質原料のうちの少なくとも一部に含有し、かつ前記弾力性黒鉛の前記炭素含有耐火物に占める割合が1.5質量%以上であることを特徴とする。但し、(1)式において、h0は粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮している間の圧縮方向の試料長さ(mm)、hrは粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮後に圧力を除いた後の圧縮方向の試料長さ(mm)である。
復元率R(%)=100(hr/h0−1)…(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車、高炉鍋、転炉、溶鋼鍋、真空脱ガス炉などの各種溶融金属用容器の内張りレンガに好適な、耐熱衝撃性に優れた炭素含有耐火物及びこの炭素含有耐火物を内張りレンガとする溶融金属用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
各種黒鉛及びカーボンブラックなどの炭素質原料と酸化物などからなる複合耐火物である炭素含有耐火物は、酸化物系耐火物と比較して、スラグ浸潤による構造スポーリングを起こし難い、熱伝導率が高く耐熱衝撃性に優れる、強酸化性環境以外では耐食性に優れるなどの特徴を有している。これらの特徴から、各種炭素含有耐火物は、溶銑、溶鋼の各種精錬容器及び搬送容器(以下、これらを単に「溶融金属用容器」と称する)の内張りレンガや、連続鋳造用の浸漬ノズルやロングノズル、スライディングノズルプレートなどの各種機能性部材として幅広く使用されている。
【0003】
各種炭素含有耐火物中の炭素質原料の含有量は3〜25質量%程度の範囲で、内張りレンガや機能性部材に要求される耐熱衝撃性のレベルや共存する酸化物の特性、許容される炭素溶出量のレベルなどに応じて決められているのが現状である。一方、近年地球温暖化防止の観点から、製鉄業においても二酸化炭素の排出量を削減することが急務となっており、使用エネルギー総量を削減するために、各種高温プロセス装置に熱伝導率の低い耐火物を使用して放熱ロスを低減することが望まれている。溶融金属用容器の内張りレンガに使用される各種炭素含有耐火物においても、熱伝導率の高い炭素の含有量を低減することにより、熱伝導率を低減させることが望まれる。しかし炭素量を低減すると、熱伝導率の低下や弾性率の増大に伴って、一般的に耐熱衝撃性が低下することが問題となる。
【0004】
そこで、炭素量を低減しつつ耐熱衝撃性を向上させることを目的として、特許文献1及び特許文献2には、炭素質原料として膨張黒鉛を使用した耐火物が提案されている。膨張黒鉛は、鱗状黒鉛を酸処理後に加熱して体積を50〜100倍膨張させ、これを粉砕して厚さ約10μm以下の超薄片にしたものであり、嵩密度が小さく可縮性に優れた炭素質原料である。これを炭素含有耐火物に配合して弾性率を低下することにより、酸化物粒子の大きな熱膨張を吸収させて耐熱衝撃性を向上することが可能である。
【0005】
また、特許文献3には、マグネシアを90〜99質量%とカーボン原料1〜5質量%とを含み、前記カーボン原料中に圧力を加えるとC軸方向に10〜50%収縮し、圧力を解放すると原寸の90%以上まで復元する弾性力を有する人造黒鉛を0.5〜1質量%含む高耐用マグネシア・カーボンレンガが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−100484号公報
【特許文献2】特開平8−81256号公報
【特許文献3】特開平8−295555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記従来技術には以下の問題点がある。
【0008】
すなわち、特許文献1及び特許文献2では、膨張黒鉛の使用により耐熱衝撃性は改善されるが、組織の緻密性が悪くなるので強度や耐食性が低下するなどの問題がある。特に膨張黒鉛の配合量が大きくなるほど顕著となることから配合量を制限せざるを得ず、特性改善効果にも限界があった。
【0009】
また、特許文献3では、弾性力を有する人造黒鉛の使用により、耐スラグ侵入性に優れ、構造スポーリングを起こし難く、二次精錬炉の内張りレンガとして耐久性が高く好適であるが、混銑車、高炉鍋、転炉、溶鋼鍋、真空脱ガス炉などにおいて、内張りレンガとして更に厳しい耐熱衝撃性が要求される場合には、特許文献3では十分に対応することができない。
【0010】
更に、炭素含有耐火物中の酸化物粒子と、炭素質原料などからなるマトリックスとでは、熱膨張及び収縮の特性が異なることから、大きな温度変化に繰り返し曝されると熱膨張の大きい酸化物粒子の周囲に空隙が生じ、緻密な組織が緩んで耐食性に悪影響を及ぼすことが知られている。このような組織劣化は、耐火物の強度や疲労特性、耐熱衝撃性などにも悪影響を及ぼし、寿命を制約する要因の一つになると考えられている。製鋼プロセスで使用される内張りレンガや各種機能性部材は、一般的に大きな温度変化に繰り返し曝されるが、特に炭素量を低減した炭素含有耐火物の場合には、炭素の占める容積が減少することにより、熱膨張差による影響が一層顕著となり、繰り返し熱負荷による組織劣化が耐火物寿命に及ぼす悪影響も大きくなることが懸念される。膨張黒鉛を使用した場合にも、繰り返し熱負荷による組織劣化の問題は同様にあり、耐食性や強度、疲労特性を劣化させる要因となる。
【0011】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、耐熱衝撃性に優れ、つまり繰り返し熱負荷を受けても組織劣化の影響が小さく耐久性に優れ、かつ、耐食性や強度の点でも優れ、混銑車、高炉鍋、転炉、溶鋼鍋、真空脱ガス炉などの各種溶融金属用容器の内張りレンガに好適な炭素含有耐火物を提供することであり、また、この炭素含有耐火物を各種製鋼プロセスへ適用することで、放熱によるエネルギーロスの低減を可能とする溶融金属容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、炭素含有耐火物において、耐熱衝撃性を改善するための炭素質原料の特性について種々検討した結果、炭素質原料として弾力性黒鉛を使用することにより、緻密性を良好に維持しつつ耐熱衝撃性を向上させることが可能なことを見出した。ここで弾力性黒鉛とは、炭素素材に1900℃〜2700℃の高温処理を行って不純物を除去するとともに、黒鉛化を制御してミクロ構造を調整した高純度炭素質原料であり、圧縮変形後に除荷した際の復元性が大きいことが特徴である。
【0013】
本発明は、上記の弾力性黒鉛の特性に着目してなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]炭素質原料と酸化物とを含む炭素含有耐火物において、下記の(1)式で定義される復元率Rが、40%以上150%以下である弾力性黒鉛を、前記炭素質原料のうちの少なくとも一部に含有し、かつ前記弾力性黒鉛の前記炭素含有耐火物に占める割合が1.5質量%以上であることを特徴とする炭素含有耐火物。
復元率R(%)=100(hr/h0−1)…(1)
但し、(1)式において、h0は粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮している間の圧縮方向の試料長さ(mm)、hrは粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮後に圧力を除いた後の圧縮方向の試料長さ(mm)である。
[2]前記弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める割合が20質量%以上であることを特徴とする、上記[1]に記載の炭素含有耐火物。
[3]前記弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める割合が50質量%以上であることを特徴とする、上記[2]に記載の炭素含有耐火物。
[4]前記炭素質原料の炭素含有耐火物中における含有量が3〜15質量%であることを特徴とする、上記[1]ないし上記[3]のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物。
[5]前記酸化物が、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、ドロマイト、スピネル、ジルコン、アルミナ−シリカ質酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、上記[1]ないし上記[4]のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物。
[6]前記炭素含有耐火物は、更に、金属粉末、炭化物粉末、ガラス粉末のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]ないし上記[5]のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物。
[7]上記[1]ないし上記[6]のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物を内張りレンガとすることを特徴とする溶融金属用容器。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素含有耐火物の炭素質原料として弾力性黒鉛を使用するので、耐食性や強度を犠牲にすることなく耐熱衝撃性に優れた炭素含有耐火物を製造することができる。この炭素含有耐火物は繰り返し熱負荷を受けても組織劣化の影響が小さく、繰り返し温度変化のある使用環境下においても優れた耐久性を発現する。また、比較的少量の黒鉛添加で優れた耐熱衝撃性が得られることから、従来に比較して熱伝導率の低い炭素含有耐火物を作製することができる。この低熱伝導率の炭素含有耐火物を溶融金属用容器の内張りレンガに使用することで、炉壁や開口部からの放熱ロスが小さくなり、総エネルギー消費が低減されて粗鋼生産量当たりの二酸化炭素の排出量を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】炭素質原料の復元率Rの測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
本発明に係る炭素含有耐火物は、炭素質原料と酸化物とを含む炭素含有耐火物において、下記の(1)式で定義される復元率Rが、40%以上150%以下である弾力性黒鉛を、前記炭素質原料のうちの少なくとも一部に含有し、かつ前記弾力性黒鉛の前記炭素含有耐火物に占める割合が1.5質量%以上であることを特徴とする。
復元率R(%)=100(hr/h0−1)…(1)
但し、(1)式において、h0は粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮している間の圧縮方向の試料長さ(mm)、hrは粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮後に圧力を除いた後の圧縮方向の試料長さ(mm)である。
【0018】
図1に、弾力性黒鉛あるいはその他の炭素質原料の復元率Rの測定方法を模式的に示す。円柱形の金型1に炭素質原料の粉体試料2を充填した後、ピストン3を下降して所定の一軸圧縮圧力4を掛け、ピストン3の移動ストロークを測定して所定の圧縮圧力4を掛けている間の試料高さh0を計算する。その後、ピストン3を上昇して圧縮圧力4を除いた後の試料高さhrを測定する。復元率Rは、圧縮圧力を掛けている間の試料高さh0と、圧縮圧力を除いた後の試料高さhrを用いて上記(1)式で定義される。
【0019】
35MPaの圧縮圧力を掛けた場合の復元率Rが40%以上かつ150%以下、望ましくは60%以上かつ100%以下、更に望ましくは60%以上90%以下、特に望ましくは60%以上80%以下の弾力性黒鉛を、炭素含有耐火物の炭素質原料に配合することで、炭素含有耐火物の耐熱衝撃性を効果的に向上させることができる。復元率Rが上記の範囲よりも小さいと耐熱衝撃性の改善効果が小さく、復元率Rが上記の範囲よりも大きいと弾力性黒鉛を多量に配合した場合のプレス成形性に問題を生じる場合がある。なお、従来使用されている各種炭素質原料の復元率Rについて一例を例示すると、最も広く使われている鱗状黒鉛では約8%、比較的復元性の高い人造黒鉛では25%程度、膨張黒鉛では18%程度である。
【0020】
前記弾力性黒鉛は、炭素含有耐火物に占めるその割合が1.5質量%以上であることが必要である。望ましくは、3〜15質量%の範囲内とすることが好ましい。1.5質量%未満では、耐熱衝撃性が向上する効果を得られない。また、3質量%以上であれば、高い耐熱衝撃性を安定して得ることができる。一方、15質量%以下であれば、炭素含有耐火物の熱伝導率が高くならず、かつ、プレス成形性に問題を生じることがない。
【0021】
また、弾力性黒鉛を全炭素質原料の20質量%以上、望ましくは50質量%以上配合することにより、耐熱衝撃性の向上に効果がある。弾力性黒鉛の粒子形状は比較的アスペクト比が小さいことから、配合量を増しても膨張黒鉛を使用した場合に比べて充填性が良好で緻密な耐火物組織が得られるため、強度や耐食性も良好であり、混練、成型などの作業性も膨張黒鉛を使用した場合よりも格段に良好である。
【0022】
本発明において、炭素質原料とは、弾力性黒鉛、鱗状黒鉛、膨張黒鉛、それ以外の人造黒鉛などの黒鉛系炭素原料である。尚、加熱により縮合反応し炭素として炭素含有耐火物に含まれることになるフェノール樹脂などは炭素質原料には含まないものとする。
【0023】
耐熱衝撃性は、熱処理後の試料を電気炉で高温に加熱した後に水中急冷する操作を1回または複数回実施し、前後の動弾性率の変化を測定することで判定できる。前後の動弾性率の変化が小さいほど、耐熱衝撃性に優れると判定される。弾力性黒鉛を使用した場合には動弾性率の低下が小さい傾向であるが、特に加熱/急冷の繰り返し回数を増してもその影響が小さく、熱衝撃を繰り返し受けても組織劣化が比較的軽微であると考えられる。これは、弾力性黒鉛が膨張率の高い酸化物粒子の膨張を吸収するとともに、弾力性黒鉛の復元性が高いために組織の緩みが軽減されているものと考えられる。同様に繰り返し熱負荷を与えた場合にも組織の緩みが小さく、繰り返し熱負荷後の耐食性や強度の低下は比較的軽微なものとなる。
【0024】
このような特性は、熱伝導率を低減するなどを目的として、炭素質原料の含有量を3〜15質量%に低減した炭素含有耐火物において特に有効であり、課題であった耐熱衝撃性の低下や、繰り返し熱負荷後の組織劣化による耐食性などの低下を補うことができる。また炭素質原料含有量が15質量%以下の範囲では、炭素質原料に占める弾力性黒鉛の質量比率が高くても良好な成形性を保つことができる。弾力性黒鉛の含有量が3質量%以上であれば、良好な耐熱衝撃性が得られるとともに、黒鉛自体の特性によるスラグ浸潤を抑制する効果が得られる。
【0025】
炭素含有耐火物中の酸化物原料としては、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、ドロマイト、スピネル、ジルコン、アルミナ−シリカ質酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の混合物を使用することができ、いずれの場合においても、本発明は有効であるが、熱膨張率の高いマグネシアの配合率が高い場合には特に効果が高い。また、炭素の酸化防止のために一般的に配合されるSiC、B4Cなどの炭化物粉末や、Al、Siなどの金属粉末、あるいはNa及び/またはKを含むガラスなどのガラス粉末を耐火物の用途に応じて、これら金属粉末、炭化物粉末、ガラス粉末のうちの1種または2種以上を配合することは、本発明の炭素含有耐火物においても有効である。
【0026】
耐熱衝撃性を従来品と同等としつつ炭素含有量を低減して低熱伝導率とした、本発明に係る炭素含有耐火物からなるレンガを、混銑車、高炉鍋、転炉、溶鋼鍋、真空脱ガス炉などの各種溶融金属用容器の内張りレンガとして使用することにより、放熱によるエネルギーロスを低減することが可能となる。内張りレンガは一般に永久張りレンガよりもかなり大きな厚みとなっているため、熱伝導率を低減すると、溶融金属用容器鉄皮への伝導伝熱の熱抵抗を増大する効果が大きくなる。また、高炉鍋のように相対的に開口部の大きい容器では、空鍋時に内張りレンガ表面から輻射によって外部に逃げる熱量も大きくなるが、内張りレンガの熱伝導率を低減することで、開口部からの輻射による放熱ロスを低減する効果も大きくなる。
【0027】
また、連続鋳造用の浸漬ノズルやロングノズル、スライディングノズルプレートなどの耐熱衝撃性を要求される各種機能性部材に本発明の炭素含有耐火物を適用することも有効であり、使用回数の増加によるコスト低減や、スポーリングによるトラブルを防止して鉄鋼製品のコスト低減及び安定生産に寄与することができる。
【0028】
このように、本発明によれば、炭素含有耐火物の炭素質原料として弾力性黒鉛を使用するので、耐食性や強度を犠牲にすることなく耐熱衝撃性に優れた炭素含有耐火物を製造することが実現される。
【実施例1】
【0029】
本発明をAl23−SiC−Cレンガに適用した。弾力性黒鉛としては、工業用原料として入手した35MPaの圧縮圧力に対する復元率Rが約75%、見掛け比重が約1.6g/cc、粒度が1−0.125mmの粉状製品を用いた。電融アルミナ、炭化珪素、弾力性黒鉛、鱗状黒鉛、膨張黒鉛及びフェノール樹脂を、表1に示す配合で混練し、並型(65mm×114mm×230mm)にプレス成形した後、200℃にて10時間熱処理して硬化させ、レンガ試料を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
各条件で作製したレンガ試料から30mm×30mm×30mmのサンプルを切り出し、コークスブリーズ中で1000℃で3時間の熱処理を実施した後、900℃にて熱間圧縮試験による静弾性率を測定した。強度及び熱伝導率が同等の同系統の材質では、定性的に静弾性率が低い方が耐熱衝撃性は高い傾向となる。
【0032】
また、40mm×40mm×160mm及び50mm×50mm×50mmのサンプルを切り出し、コークスブリーズ中で1400℃で3時間の熱処理を施した後、40mm×40mm×160mmのサンプルでは、JIS R2205−1992「耐火レンガの見掛け気孔率・吸水率・比重測定方法」の真空法に準じて見掛け気孔率を測定し、50mm×50mm×50mmのサンプルでは、JIS R2206−2「耐火レンガの圧縮強さの試験方法」に準じて圧縮強度を測定した。同じ材料を成形した耐火物では、見掛け気孔率が大きい方が耐食性は劣る傾向となる。
【0033】
見掛け気孔率測定後のサンプルを乾燥して動弾性率を測定した後、アルゴンガスを5NL/分流しつつ1200℃に加熱した電気炉内で30分間保持してから水中急冷し、乾燥後に動弾性率を測定して、水中急冷前後の動弾性率比(水中急冷後の動弾性率×100/水中急冷前の動弾性率)を求め、スポーリング指数とした。スポーリング指数が大きいほど耐熱衝撃性は良好となる傾向である。
【0034】
また、並型レンガを65mm×114mm×112mmの2個に切断した後、コークスブリーズ中で1000℃で3時間の熱処理を施した試料を用いて、室温下で熱線法により熱伝導率を測定した。
【0035】
レンガ試料の耐食性は、回転ドラム侵食法によりスラグ侵食指数を求めて評価した。すなわち、表1に示した各レンガ試料から台形断面の柱状試料を切り出した後、コークスブリーズ中で1400℃で3時間の熱処理を施したものを回転ドラム炉の内壁に張り分け、ドラム炉を回転させながら、プロパンバーナーで酸素:プロパン=4:1の気体体積流量比の火炎を吹き込んで1500℃に加熱し、塩基度(CaO質量/SiO2質量)=1.5、T.Fe濃度=10質量%のスラグを侵食剤として用い、この侵食剤による損耗量を測定した。30分毎にスラグを交換して、合計5回のスラグ投入による損耗量を、柱状試料の中央縦断面で測定される侵食面積で評価し、比較例2における侵食面積を100とする指数(「スラグ侵食指数」と言う)で表した。スラグ侵食指数が大きいほど耐食性は劣ることを示している。なお、T.Feとはスラグ中の全ての鉄酸化物中の鉄分である。各試験結果を表1に併せて示す。
【0036】
本発明例1は、弾力性黒鉛を同質量の膨張黒鉛で置き換えた比較例1と比較して、低気孔率で耐食性が良好であり、900℃静弾性率とスポーリング指数とから判定すると、同程度以上の耐熱衝撃性を有していると評価される。また、圧縮強度も比較例1の30MPaに対し、本発明例1は60MPaと大きい。本発明例2〜4は、弾力性黒鉛及び全炭素質原料が10質量%以下であるにもかかわらず、鱗状黒鉛が15質量%の比較例2と比較して同等以上の耐熱衝撃性を有し、圧縮強度も優れていると評価される。また、本発明例5は弾力性黒鉛が15質量%であるにもかかわらず、鱗状黒鉛が20質量%の比較例3と比較して同等以上の耐熱衝撃性を有し、圧縮強度も優れていると評価される。
【0037】
全炭素質原料の含有量が同一である、本発明例5と比較例2、あるいは、本発明例2と比較例4とを比較すると、本発明例5及び本発明例2は、鱗状黒鉛を用いた比較例2及び比較例4に比べて、全炭素質原料の含有量が同一であるにもかかわらず、より優れた耐熱衝撃性が得られている。また、耐熱衝撃性が同等である、本発明例2〜4と比較例2、あるいは、本発明例5と比較例3との比較から、本発明例2〜4及び本発明例5では、鱗状黒鉛を使用した場合に比べて少ない全炭素質原料の配合量で同等の耐熱衝撃性を得ることができ、つまり、同等の耐熱衝撃性を得るために必要な全炭素質原料の含有量を少なくすることができ、これにより低熱伝導率となることから、耐久性を犠牲にせずに熱伝導率を低減可能であると言える。
【0038】
弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める比率を20質量%とした本発明例6では、全炭素質原料の含有量が10質量%であるにもかかわらず、鱗状黒鉛が15質量%の比較例2に近い耐熱衝撃性であり、圧縮強度は比較例2より優れることから、弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める割合が20質量%でも耐熱衝撃性並びに強度の改善効果は顕著と言える。
【0039】
また、比較例5では、弾力性黒鉛が本発明の範囲よりも少ない1質量%であるので、全炭素量が5質量%であるにもかかわらず、本発明例1の弾力性黒鉛3質量%のときと比較して900℃静弾性率が大きく、スポーリング指数も小さく、耐熱衝撃性が劣る。
【実施例2】
【0040】
表2に、本発明をMgO−Cレンガに適用した場合の本発明例及び比較例を示す。本実施例では、弾力性黒鉛として、工業用原料として入手した、見掛け比重が約1.6g/cc、粒度が1−0.125mmであり、35MPaの圧縮圧力に対する復元率Rが約35%、40%、60%、75%、80%、90%、100%、150%、155%である9種類の粉状製品を用いた。使用した弾力性黒鉛及び原料配合以外、サンプル作製方法及び特性の評価方法は、回転ドラム侵食法の試験条件を除いて、実施例1のAl23−SiC−Cレンガの場合と同様である。本実施例における回転ドラム侵食法では、試験温度を1750℃、スラグ組成を塩基度(CaO質量/SiO2質量)=3.5、T.Fe濃度=20質量%として、比較例12における侵食面積を100として評価した。
【0041】
【表2】

【0042】
本発明例11は、弾力性黒鉛を同質量の膨張黒鉛で置き換えた比較例11と比較して、低気孔率で耐食性が良好であり、900℃静弾性率とスポーリング指数とから判定して、同程度の耐熱衝撃性を有していると評価される。また、圧縮強度も比較例11の44MPaに対し、本発明例11は60MPaと大きい。本発明例12、13は、弾力性黒鉛が10質量%以下で、かつ全炭素質原料が10質量%以下であるにもかかわらず、鱗状黒鉛が15質量%の比較例12と比較して同等の耐熱衝撃性を有し、圧縮強度も優れていると評価される。また、本発明例14、15は、全炭素質原料が15質量%であるにもかかわらず、鱗状黒鉛が20質量%の比較例13と比較して同等以上の耐熱衝撃性を有し、圧縮強度も優れていると評価される。
【0043】
全炭素質原料の含有量が同一である、本発明例14、15と比較例12、あるいは、本発明例12と比較例14、あるいは、本発明例16と比較例13とを比較すると、本発明例14、15、あるいは本発明例12、あるいは本発明例16は、鱗状黒鉛を用いた比較例12あるいは比較例14あるいは比較例13に比べて、全炭素質原料の含有量が同等であるにもかかわらず、より優れた耐熱衝撃性が得られている。また、耐熱衝撃性が同等である、本発明例12、13と比較例12、あるいは、本発明例14、15と比較例13との比較より、本発明例12、13及び本発明例14、15では同等の耐熱衝撃性を得るのに必要な全炭素質原料含有量が少なく、低熱伝導率となっていることから、耐久性を犠牲にせずに熱伝導率を低減可能であると言える。
【0044】
弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める質量比率を20%とした本発明例13では、全炭素質原料の含有量が10質量%であるにもかかわらず、鱗状黒鉛が15質量%の比較例12に近い耐熱衝撃性となり、圧縮強度は比較例2より優れていることから、弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める割合が20質量%でも耐熱衝撃性並びに強度の改善効果は顕著と言える。
【0045】
本発明例17、18では復元率Rが90%の弾力性黒鉛を用い、本発明例19、20では復元率Rが60%の弾力性黒鉛を用いた。
【0046】
本発明例17及び本発明例19は、本発明例13に比較して、全炭素質原料の含有量を同一として弾力性黒鉛の配合量を増加させたものであり、弾力性黒鉛の配合量を増加させることで、全炭素質原料の含有量が同一であっても耐熱衝撃性が更に向上することがわかる。
【0047】
本発明例16、本発明例18及び本発明例20は、全炭素質原料の含有量を20質量%としており、900℃静弾性率及びスポーリング指数から判定して高い耐熱衝撃性が得られることがわかる。特に、全炭素質原料に占める質量比率を100%とした本発明例16では高い耐熱衝撃性が得られている。但し、全炭素質原料の含有量を20質量%まで高めることで、熱伝導率が上昇して耐食性は若干低下する。
【0048】
また、本発明例21〜26では、それぞれ復元率Rが40%〜150%の弾力性黒鉛を用いた。本発明例21〜26では、全炭素質原料の含有量及び弾力性黒鉛の含有量を同一としたが、復元率Rが60〜90%の弾力性黒鉛を使用した本発明例22、23、24はスポーリング指数が高く、特に高い熱衝撃性が得られている。
【0049】
比較例15は、弾力性黒鉛を含有するものの、弾力性黒鉛の配合量が1質量%であり、本発明例11と比較して全炭素質原料の含有量は多いものの、本発明例11よりも熱伝導率が高く耐食性に劣り、更に、900℃静弾性率及びスポーリング指数から判定して耐熱衝撃性も劣り、圧縮強度も劣ることがわかる。
【0050】
比較例16は、弾力性黒鉛を含有するものの、用いた弾力性黒鉛の復元率Rが本願発明の範囲外となる35%であり、本発明例11よりも耐熱衝撃性が劣ることがわかる。更に、比較例17は、弾力性黒鉛を含有するものの、用いた弾力性黒鉛の復元率Rが本願発明の範囲外となる155%であり、プレス成形ができず、レンガ試料を作製することができなかった。
【実施例3】
【0051】
溶銑容量200トンの高炉鍋の内張りレンガとして、従来使用していた実施例1に示す比較例3の材質のレンガに代えて、実施例1に示す本発明例2の材質のレンガを使用した。高炉で溶銑を受銑し、脱珪、脱硫の溶銑予備処理を行った後、製鋼工場で溶銑を払い出す一連の工程を、1鍋当たり1日に平均2.8回実施した。側壁部のレンガ厚みは150〜180mmで、スラグライン部の溶損や銑浴部のスポーリングによる損傷でレンガ残厚が小さくなって内張りレンガが脱落すると、内張りレンガを全て交換する修理を行っている。
【0052】
修理までの鍋の受銑回数は、従来は平均280回であったが、本発明例2の材質のレンガを使用した鍋では340回と寿命が向上し、銑浴部のスポーリングは観察されなかった。また高炉出銑から製鋼工場での溶銑払い出しまでの溶銑温度降下量を比較すると、本発明例2のレンガを使用した高炉鍋では溶銑温度降下量が平均約8℃減少した。
【0053】
本発明に係るレンガを全ての高炉鍋に使用すれば、転炉に装入する溶銑温度が上昇することから、転炉での鉄スクラップあるいは鉄鉱石の使用量が増大し、単位溶銑量当たりの溶鋼生産量が増大する。従って、粗鋼生産量当たりで言えば、高炉での二酸化炭素排出量が低減されることになる。
【符号の説明】
【0054】
1 金型
2 粉体炭素質原料
3 ピストン
4 圧縮圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質原料と酸化物とを含む炭素含有耐火物において、下記の(1)式で定義される復元率Rが、40%以上150%以下である弾力性黒鉛を、前記炭素質原料のうちの少なくとも一部に含有し、かつ前記弾力性黒鉛の前記炭素含有耐火物に占める割合が1.5質量%以上であることを特徴とする炭素含有耐火物。
復元率R(%)=100(hr/h0−1)…(1)
但し、(1)式において、h0は粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮している間の圧縮方向の試料長さ(mm)、hrは粉体試料を35MPaの圧力で一軸圧縮後に圧力を除いた後の圧縮方向の試料長さ(mm)である。
【請求項2】
前記弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める割合が20質量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の炭素含有耐火物。
【請求項3】
前記弾力性黒鉛の全炭素質原料に占める割合が50質量%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の炭素含有耐火物。
【請求項4】
前記炭素質原料の炭素含有耐火物中における含有量が3〜15質量%であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物。
【請求項5】
前記酸化物が、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、ドロマイト、スピネル、ジルコン、アルミナ−シリカ質酸化物のうちから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物。
【請求項6】
前記炭素含有耐火物は、更に、金属粉末、炭化物粉末、ガラス粉末のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物。
【請求項7】
前記請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の炭素含有耐火物を内張りレンガとすることを特徴とする溶融金属用容器。

【図1】
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【公開番号】特開2013−10682(P2013−10682A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46000(P2012−46000)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】