説明

炭素材料の精製方法および精製装置、ならびに非水電解質二次電池

【課題】炭素材料に含まれる不可避的不純物である金属粒子を効率良く除去するとともに、電池内に存在していても電池性能に悪影響を及ぼさない形態に変換する。
【解決手段】スラリー調製工程および通電工程を含む方法で、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を精製する。スラリー調製工程では、炭素材料の酸性水性スラリーを調製する。通電工程では、炭素材料の酸性水性スラリーに攪拌下に通電を行う。これにより、金属粒子を効率良く除去できる。また、金属粒子の一部が炭素材料に付着して残存しても、イオン化され、電池の充放電反応に対する活性が著しく減少しているので、電池性能に悪影響を及ぼさない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料の精製方法および精製装置、ならびに非水電解質二次電池に関する。さらに詳しくは、本発明は主に、非水電解質二次電池において負極活物質として利用される炭素材料の精製方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、たとえば、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を含む。正極は、正極活物質を含有する正極活物質層と正極集電体とを含む。正極活物質には、コバルト酸リチウムなどのリチウム含有複合酸化物が使用されている。負極は、負極活物質を含有する負極活物質層と負極集電体とを含む。負極活物質には、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料が用いられている。カーボンブラックは、正極活物質層における導電材としても多用されている。
【0003】
正極を作製する場合、正極合剤ペーストを正極集電体表面に塗布し、乾燥させて正極活物質層を形成するのが一般的である。正極合剤ペーストは、正極活物質、結着材、導電材、有機溶媒などを含んでいる。一方、負極も、負極合剤ペーストを用いる以外は、正極と同様にして形成されている。負極合剤ペーストは、負極活物質、結着材、有機溶媒などを含んでいる。正極合剤ペーストおよび負極合剤ペーストは、不純物を含んでいることがある。
【0004】
不純物には、正極合剤ペーストにおいては、導電材であるカーボンブラックなどの炭素材料に含まれる不可避的不純物がある。また、負極合剤ペーストにおいても、負極活物質である黒鉛などの炭素材料に含まれる不可避的不純物がある。さらに、生産設備から混入する不純物もある。これらの不純物は、主に金属粒子である。金属粒子は、電池の開回路電圧不良などの原因になることが多い。開回路電圧不良とは、電池が機器に接続しない状態で急速に自己放電することであり、電池の出力特性、サイクル特性、電池容量などの低下をもたらす。
【0005】
さらに、正極に不純物である金属粒子が混入すると、正極は電位が高いため、金属粒子がイオン化され、非水電解質中に溶出する。イオン化した金属は、電池の充放電反応に伴って、負極に析出する。負極に析出する金属は、やがてデンドライト状に成長してセパレータを突き抜け、正極に到達する。その結果、内部短絡が発生し、出力特性および電池容量を低下させる。
このため、正極合剤ペーストおよび負極合剤ペースト(以下、必要に応じてこれらを「電極合剤ペースト」と総称する)に含まれる不純物を除去することが必須になっている。
【0006】
従来から、電極合剤ペーストに含まれる不純物について、種々の提案がなされている。たとえば、正極合剤スラリーに含まれる不純物を、磁石により検出する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この方法では、正極合剤スラリーから検査試料を採取し、検査試料中に含まれる不純物を磁石により検出している。すなわち、この方法では、正極合剤スラリー全量について、不純物の検出を行っていない。また、この方法では、ステンレス鋼、銅などの磁化率の低い金属種の検出は困難である。また、磁石に不純物を付着させて回収しようとしても、電極合剤スラリーが粘稠物なので、回収率は低い。
【0007】
また、インピーダンスの変化を測定し、不純物をインピーダンスの乱れとして検出する磁気異物検査装置を用いる方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。この方法では、Li1.0Mn1.88Al0.124などの正極活物質または黒鉛などの負極活物質をガラス基板表面に薄膜状に敷き詰め、この薄膜について、磁気異物検査装置によりインピーダンスの変化を測定している。しかしながら、活物質粒子の粒径は一定ではない。また、活物質が、インピーダンスの極めて小さな反磁性体である場合、測定結果が地磁気のゆらぎの影響を受ける。また、磁気異物検査装置の近傍に電源が存在すると、電源から発生する磁場の乱れが検出される。これらの原因により、この方法では、測定誤差が生じ易い。さらに、特許文献2には、不純物を除去する方法については一切記載がない。
【0008】
また、電極合剤ペーストに含まれる金属粒子を化学的に酸化してイオン化する方法が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。すなわち、この方法では、不純物である金属粒子をイオン化することにより、電池の充放電反応に対する不純物の活性を著しく低下させている。これにより、不純物由来の金属が負極に局所的に析出し、内部短絡などの原因になるのを抑制している。
【0009】
特許文献3には、金属粒子の化学的に酸化してイオン化する方法としては、2つの方法が記載されている。1つは、電極合剤ペーストに酸化剤を添加する方法である。もう1つは、電極合剤ペーストに通電する方法である。この方法は、正極活物質に由来する不純物の不活性化には非常に有効である。しかしながら、この方法は、黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料に由来する不純物の不活性化については、正極活物質に由来する不純物に対するほどの非常に高い効果を有していない。
【0010】
一方、黒鉛などの炭素材料の精製方法としては、たとえば、黒鉛を2400〜3000℃の高温ハロゲンで処理する方法が提案されている(たとえば、特許文献4参照)。しかしながら、この方法は、危険なハロゲンガスを使用するだけでなく、非常に高い温度での処理を必要とする。したがって、現実的な方法ではない。また、黒鉛をフッ酸で処理し、黒鉛中に含まれるシリカを除去する方法が提案されている(たとえば、特許文献5参照)。しかしながら、この方法でも、フッ酸処理後にフッ酸を除去する工程を要する。しかも、フッ酸の除去には、請求項3では400℃以上になっているが、実際には1000〜1500℃という非常に高い温度で加熱する必要がある。したがって、この方法も工業的な規模で炭素材料を精製するという観点から、十分満足できるものではない。
【0011】
【特許文献1】特開2002−358952号公報
【特許文献2】特開2005−183142号公報
【特許文献3】特開2008−181726号公報
【特許文献4】特開2004−002085号公報
【特許文献5】特開2005−353345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、炭素材料に含まれる不可避的不純物を効率良く除去するとともに、電池内に存在していても電池性能に悪影響を及ぼさない形態に変換する炭素材料の精製方法および精製装置、ならびに前記精製方法を施した炭素材料を含む非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究過程で、炭素材料が導電性を有することに着目した。そして、負極合剤ペーストの状態ではなく、炭素材料を水に分散させたスラリーに通電を行う構成を見出した。この構成によれば、炭素材料を変質させることなく、炭素材料に付着した不可避的不純物を、炭素材料から容易に分離できることを見出した。
【0014】
また、本発明者は、炭素材料から分離された不可避的不純物のうち、電池性能に特に大きな影響を及ぼす金属粒子が、イオン化により微細化することを見出した。さらに、金属粒子から生成するイオンは、電池の充放電反応に対する活性が著しく低下し、電池内に存在していても、電池性能に悪影響を及ぼさないことを見出した。その一方で、金属粒子から生成する金属イオンがアニオンと反応し、水などに不溶または難溶な金属塩になり、炭素材料に付着して残存することをも見出した。残存する金属塩は負極で還元され、金属になって負極上に析出し、内部短絡などの原因になるおそれがある。
【0015】
本発明者は、上記知見に基づいてさらに研究を重ねた。その結果、炭素材料を水に分散させたスラリーのpHを酸性域に調整した後に通電を行う構成を見出した。そして、この構成によれば、金属イオンがアニオンと反応することが抑制され、水などに不溶または難溶な金属塩が生成しないことを見出した。
【0016】
すなわち、この構成によれば、金属イオンは水中に存在するので、濾過などにより炭素材料を酸性水性スラリーから分離する際に、容易に除去できることが判明した。また、金属イオンが炭素材料に付着して電池内に封入されたとしても、電池の充放電反応に対する活性が著しく低下しているので、電池に開回路電圧不良などの不都合を引き起こすことがない。また、充放電反応に伴って電極表面に過剰に析出して、内部短絡の原因になることもない。本発明者は、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、スラリー調製工程および通電工程を含み、スラリー調製工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料の酸性水性スラリーを調製し、通電工程では、攪拌下に、スラリー調製工程で得られる酸性水性スラリーに通電を行う炭素材料の精製方法に係る。
酸性水性スラリーのpHは1〜6.5であることが好ましい。
金属粒子の粒径は1μm〜1000μmであることが好ましい。
炭素材料の体積平均粒子径は40nm〜1000μmであることが好ましい。
【0018】
スラリー調製工程は酸処理工程および第1水分散工程を含み、酸処理工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を酸処理し、第1水分散工程では、酸処理工程で酸処理された炭素材料を水に分散させて酸性水性スラリーを得ることが好ましい。
別形態のスラリー調製工程は第2水分散工程およびpH調整工程を含み、第2水分散工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を水に分散させて水性スラリーを調製し、pH調整工程では、第2水分散工程で得られる水性スラリーのpHを酸性域に調整して酸性水性スラリーを得ることが好ましい。
【0019】
炭素材料は、カーボンブラックおよび黒鉛材料から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
通電工程は、炭素材料および不可避的不純物として金属粒子を含有する酸性水性スラリーを金属製容器に収容し、酸性水性スラリー中に不溶性電極を浸漬させ、金属製容器と不溶性電極との間で通電させることにより行われることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、金属製容器と、攪拌手段またはスラリー移動手段と、pH測定手段と、酸添加手段と、不溶性電極と、電力供給手段と、電圧測定手段と、制御手段とを含み、
金属製容器は、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を含む酸性水性スラリーを収容し、
攪拌手段は、酸性水性スラリーを攪拌し、
スラリー移動手段は、酸性水性スラリーを一方向に移動させ、
pH測定手段は、酸性水性スラリーのpHを測定し、
酸添加手段は、酸性水性スラリーに酸を添加し、
不溶性電極は、その少なくとも一部が酸性水性スラリーに浸漬され、
電力供給手段は、金属製容器と不溶性電極との間に電圧を印加し、
電圧測定手段は、金属製容器と不溶性電極との間の電圧を測定し、
制御手段は、酸添加手段による酸の添加および電圧供給手段による電圧の印加を制御する炭素材料の精製装置に係る。
【0021】
また、本発明は、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を含み、正極はリチウムの吸蔵および放出が可能な正極活物質を含有する正極活物質層と正極集電体とを含み、負極は炭素材料および結着材を含有する負極活物質層と負極集電体とを含み、かつ炭素材料は前記の炭素材料の精製方法により精製された炭素材料であり、セパレータは正極と負極との間に介在するように配置され、非水電解質は支持塩と非水溶媒とを含有し、リチウムイオン伝導性を有する非水電解質二次電池に係る。
さらに正極活物質層は、前記の炭素材料の精製方法により精製された炭素材料を導電材として含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の炭素材料の精製方法(以下単に「本発明の方法」とする)によれば、炭素材料に含まれる不可避的不純物である金属粒子を微細化し、電池の充放電反応に不活性な状態に変換することができる。したがって、本発明の方法により処理した炭素材料を用いれば、不可避的な不純物が存在するにも関わらず、電池の開回路電圧不良などの発生が抑制される。また、内部短絡も起こり難くなる。その結果、電池の出力特性、サイクル特性、電池容量などの電池性能を高水準に維持できる。
【0023】
また、本発明の方法によれば、炭素材料に含まれる不可避的不純物がほぼ均一に微細化され、不活性化される。その結果、本発明の方法により処理した炭素材料を用いれば、電池性能のばらつきが非常に少ない電池を量産できる。また、本発明の方法によれば、炭素材料を水に分散させ、pH調整の後、攪拌下に通電するという簡易な構成を採っている。したがって、工業的規模へのスケールアップが容易であり、工業的に有利な方法と言うことができる。さらに、本発明の方法により処理した後に、反応系から炭素材料を分離するのも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の方法は、たとえば、スラリー調製工程および通電工程を含む。
[スラリー調製工程]
本工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を含む酸性水性スラリーを調製する。本工程には、たとえば、第1スラリー調製工程、第2スラリー調製工程などがある。第1スラリー調製工程および第2スラリー調製工程のいずれで酸性水性スラリーを得てもよい。
【0025】
第1スラリー調製工程は、酸処理工程および第1水分散工程を含む。
酸処理工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料(以下、特に断らない限り単に「炭素材料」とする)を酸処理する。
炭素材料は、一般に、不可避的不純物として金属粒子を含有している。金属粒子は、主に、鉄などの遷移金属の粒子である。また、金属粒子の含有量は、通常は、数十ppm〜数百ppmである。
【0026】
炭素材料としては、たとえば、黒鉛類、カーボンブラック類、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、非晶質炭素などが挙げられる。これらの中でも、黒鉛類およびカーボンブラック類が好ましい。黒鉛類には、たとえば、鱗片状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛などがある。カーボンブラック類には、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどがある。炭素材料は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
炭素材料の体積平均粒子径は特に制限されないが、好ましくは40nm〜1000μmである。炭素材料の体積平均粒子径が前記範囲内であれば、炭素材料からの金属粒子の分離および金属粒子の微細化が特に好適に進行する。
また、炭素材料が含有する金属粒子の粒子径も特に制限はないが、好ましくは1μm〜1000μmである。金属粒子の粒子径が前記範囲にあれば、本発明の方法により金属粒子の微細化が好適に進行する。
【0028】
なお、上記したように、炭素材料と金属粒子とがほぼ同じ粒子径を有する場合がある。この場合でも、本発明の方法によれば、炭素材料を変質させることなく、金属粒子のみを選択的に微細化することができる。本発明において、炭素材料が変質しないのは、炭素材料が導電性を有していることによるものと推測される。本発明において、変質とは、炭素材料が化学的に酸化されることを意味する。
【0029】
炭素材料の酸処理は、たとえば、炭素材料を酸水溶液と接触させることにより行われる。具体的には、炭素材料を酸水溶液に浸漬すればよい。炭素材料を酸水溶液で処理することにより、たとえば、炭素材料中に不可避的不純物として含まれるシリカなどの酸化物が除去される。
【0030】
酸水溶液に含まれる酸としては特に制限されず、たとえば、塩酸、硝酸、フッ酸などが挙げられる。これらの中でも、フッ酸が好ましい。酸水溶液における酸濃度も特に制限されないが、10重量%以上、好ましくは20重量%以上である。炭素材料の酸処理は、たとえば、室温〜100℃の温度下にて10〜60分程度行われる。酸処理後、炭素材料は濾過、遠心分離などの一般的な分離手段により酸水溶液から分離される。分離された炭素材料は、そのまま次の第1水分散工程に供される。
【0031】
第1分散工程では、酸処理工程で得られる炭素材料を水に分散させ、炭素材料の水性スラリーを調製する。酸処理工程で得られる炭素材料は酸を含んでいる。したがって、酸処理工程で得られる炭素材料を水に分散させるだけで、炭素材料の酸性水性スラリー(以下、特に断らない限り単に「酸性水性スラリー」とする)が得られる。
【0032】
なお、酸性水性スラリーのpHは、好ましくは1〜6.5である。pHが1未満では、作業の危険性が大きくなり 、使用できる設備も限定される。一方、pHが6.5を超えると、金属粒子から生成する金属イオンの一部が、不溶性の化合物になって炭素材料中に残存するおそれがある。このような不溶性の化合物は、電池性能に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、本工程で得られる酸性水性スラリーのpHが前記範囲から外れている場合には、酸を添加して前記範囲内に入るように調整してもよい。酸としては特に制限されず、塩酸、硝酸、硫酸などが挙げられる。
【0033】
第2スラリー調製工程は、第2水分散工程およびpH調整工程を含む。第2水分散工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を水に分散させて水性スラリーを調製する。pH調整工程では、第2水分散工程で得られる水性スラリーのpHを酸性域に調整して酸性水性スラリーを得る。pH調整は、たとえば、水性スラリーに酸を添加することにより行われる。酸としては特に制限されず、塩酸、硝酸、硫酸などが挙げられる。酸性水性スラリーのpHは、上記と同様に、好ましくは1〜6.5である。
【0034】
第1スラリー調製工程および第2スラリー調製工程で使用する水は、蒸留水、イオン交換水などであることが好ましい。
第1スラリー調製工程または第2スラリー調製工程で得られる酸性水性スラリーは、次の通電工程に供される。
【0035】
[通電工程]
本工程では、スラリー調製工程で得られる酸性水性スラリーに攪拌下に通電を行う。酸性水性スラリーへの通電は、たとえば、図1に示す炭素材料の精製装置1(以下単に「精製装置1」とする)を用いて実施される。図1は、精製装置1の構成を模式的に示す縦断面図である。精製装置1は、金属製容器11、攪拌手段12、pH測定手段13、酸添加手段14、不溶性電極15、電力供給手段16、電圧測定手段17および制御手段18を含む。
【0036】
金属製容器11は、その内部に酸性水性スラリー10を収容する。酸性水性スラリー10は、スラリー調製工程で得られるものである。また、金属製容器11は、アースされている。これにより、金属製容器11と不溶性電極15との間での通電が可能になる。金属製容器11は、耐酸性を有する金属材料で構成される。金属製容器11は、通電時には陰極として機能する。なお、金属製容器11の内部空間で、前工程(スラリー調製工程)を実施してもよい。
【0037】
攪拌手段12は、金属製容器11に収容される酸性水性スラリー10を攪拌する。これにより、酸性水性スラリー10に含まれる炭素材料由来の金属粒子および生産設備由来の金属粒子を均一に微細化し、電池の充放電反応に対して不活性化できる。より具体的には、不溶性電極15の周囲に存在する金属粒子だけでなく、酸性水性スラリー10に含まれる金属粒子を微細化し、不活性化できる。本実施形態では、攪拌手段12には、攪拌羽根を使用する。攪拌羽根は、図示しない駆動手段により回転可能に支持され、駆動手段からの動力により回転する。駆動手段にはたとえばモータを使用できる。なお、攪拌手段12は攪拌羽根に限定されず、たとえば、スターラーなども使用できる。
【0038】
pH測定手段13は、少なくとも一部が金属製容器11に収容される酸性水性スラリー10に浸漬され、酸性水性スラリー10のpHを測定する。pH測定手段13は、所定の時間的間隔でpHを測定する。pH測定手段13は、制御手段18と通信可能に接続されている。この接続は、電気的な接続、光学的な接続などである。pH測定手段13による測定結果は、制御手段18に出力される。pH測定手段13には、たとえば、pHメータなどを使用できる。
【0039】
酸添加手段14は、金属製容器11に収容される酸性水性スラリー10に酸を添加する。酸添加手段14による酸性水性スラリー10への酸の添加は、制御手段18により制御される。酸添加手段14には、たとえば、小型定量ポンプなどを使用できる。
【0040】
不溶性電極15は、少なくとも一部が金属製容器11に収容される酸性水性スラリー10に浸漬される。不溶性電極15は、電力供給手段16に接続され、通電時に電力供給手段16から電圧の印加を受け、正極として機能する。不溶性電極15としては、従来から公知のものを使用できる。
【0041】
電力供給手段16は、不溶性電極15に電圧を印加する。これにより、金属製容器11と不溶性電極15との間で通電し、ひいては酸性水性スラリー10への通電が行われる。金属製容器11と不溶性電極15との間の電圧は、酸性水性スラリー10のpHに応じて適宜選択できるが、好ましくは水が電気分解を開始する電圧よりも低い電圧、さらに好ましくは、500mV〜水の電気分解開始電圧未満の範囲である。これにより、本発明の初期の効果が十分達成される。
【0042】
なお、水が電気分解を開始する電圧よりも高い電圧を印加しても、本発明の効果は得られる。しかしながら、水が電気分解を開始するよりも低い電圧でも初期の効果が得られるので、それよりも高い電圧の印加は電力の無用な消費になる。
電力供給手段16による電圧の印加は、後記するように、制御手段18により制御される。電力供給手段16には、たとえば、一般的な電源を使用できる。本実施形態では定電圧直流電源を使用するのが好ましい。
【0043】
電圧測定手段17は、金属製容器11と不溶性電極15との間の電圧を測定する。電圧測定手段17は、所定の時間的間隔で電圧を測定する。電圧測定手段17は、制御手段18と通信可能に接続されている。この接続は、電気的な接続、光学的な接続などである。電圧測定手段17による測定結果は、制御手段18に出力される。電圧測定手段17には、たとえば、電圧計などを使用できる。
【0044】
制御手段18は、酸添加手段14による酸性水性スラリー10への酸の添加および電力供給手段16による電圧の印加を制御する。具体的な制御は、次の通りである。
制御手段18は、pH測定手段13による測定結果に応じて、酸性水性スラリー10に酸を添加するか否かを判定する。そして、その判定結果に応じて酸添加手段14による酸性水性スラリー10への酸の添加を制御する。すなわち、pH測定手段13による測定結果(酸性水性スラリー10のpH値)が1〜6.5の範囲内であれば、酸添加手段14による酸性水性スラリー10への酸の添加を実施しない。pH測定手段13による測定結果が6.5を超える場合、特にpHがアルカリ域にある場合は、酸添加手段14による酸性水性スラリー10への酸の添加を実施する。
【0045】
なお、酸性水性スラリー10のpHがアルカリ域にある場合は、炭素材料から分離される金属粒子の水酸化物が生成する。この金属水酸化物は水などの溶媒に不溶または難溶であり、炭素材料に付着して残存することが多い。金属水酸化物が付着した炭素材料を用いて負極を作製すると、負極電位下で還元されて金属に戻り、負極上に析出する。これは内部短絡の原因になるおそれがある。したがって、酸性水性スラリー10のpHは、少なくとも酸性領域に調整することが必要である。
【0046】
また、制御手段18は、電圧測定手段17による測定結果に応じて、電力供給手段16による電圧の印加量を増減するかまたは維持するかを判定する。そして、その判定結果に応じて電力供給手段16による電圧の印加を制御する。すなわち、電圧測定手段17による測定結果(金属製容器11と不溶性電極15との間の電圧値)が、水の電気分解開始電圧よりも高いか否かを判定する。高いと判定した場合には、電力供給手段16による電圧の印加量を減少させる。
【0047】
低いと判定した場合には、電力供給手段16による電圧の印加量を維持するかまたは増加させる。電圧測定手段17による測定結果が基準電圧値よりも低い場合は、電圧印加量を増加させる。電圧測定手段17による測定結果が基準電圧値と等しいかまたは高い場合は、測定時の電圧印加量を維持する。ここで、基準電圧値とは、水の電気分解開始電圧よりも低い範囲から、予め設定される。
制御手段18による判定は、酸添加手段14または電力供給手段16から測定結果が入力されるたびに実施される。
【0048】
制御手段18には、マイクロコンピュータ、インターフェイス、メモリ、タイマーなどを含む処理回路を使用できる。メモリとしては、この分野で常用される各種メモリを使用でき、たとえば、リードオンリィメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、半導体メモリ、不揮発性フラッシュメモリなどが挙げられる。
【0049】
本実施形態では、攪拌手段12を使用するが、攪拌手段12に代えてスラリー移動手段を使用してもよい。スラリー移動手段とは酸性水性スラリーを一方向に移動させる手段であり、その具体例としては送液ポンプなどが挙げられる。スラリー移動手段を用いる場合、金属製容器11には金属製パイプを用いる。金属製パイプの長手方向と、不溶性電極の長手方向とが一致するように、不溶性電極を金属製パイプ内に配置し、酸性水性スラリーを送液しながら通電を行う。これにより、精製装置1によるのと同様の効果が得られる。
【0050】
精製装置1を用いて、酸性水性スラリー10に通電を行うことにより、炭素材料に含まれる金属粒子がイオン化により微細化される。通電後の酸性水性スラリー10から炭素材料が分離される。分離手段としては、たとえば、濾過、遠心分離などの一般的な分離手段を利用できる。炭素材料は必要に応じて水洗され、乾燥され、電極の製造に用いられる。
【0051】
なお、金属粒子から生成する金属イオンは、酸性水性スラリー10中ではアニオンと反応して不溶化していない。したがって、酸性水性スラリー10から炭素材料を分離する際に、その大部分が液中に残存して除去される。また、一部が炭素材料に付着していたとしても、該金属イオンは、電池の充放電反応に対する活性が著しく低下している。したがって、該金属イオンが電極中または非水電解質中に存在していても、電池性能に悪影響を及ぼすことは実質的にはない。
【0052】
本実施形態では、不溶性電極15が正極として機能し、金属製容器11が負極として機能するように構成しているが、これに限定されず、2個の不溶性電極を使用する構成としてもよい。この構成では、2個の不溶性電極のうち、一方が正極として、他方が負極として機能する。また、この構成では、電力供給手段16として、交流電源を使用するのが好ましい。
【0053】
[非水電解質二次電池]
本発明の非水電解質二次電池は、負極活物質として使用される炭素材料が、本発明の炭素材料の精製方法により精製された炭素材料である以外は、従来の非水電解質二次電池と同様の構成を有している。
さらに、本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質層に含まれる導電材として炭素材料を用い、この炭素材料が、本発明の炭素材料の精製方法により精製されたものであることが好ましい。
【0054】
本発明の非水電解質二次電池は、たとえば、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を含む。
正極は、正極集電体および正極活物質層を含む。
正極集電体には導電性基板を使用できる。導電性基板には、たとえば、箔、シート、フィルムなどがある。導電性基板の厚みは、通常は1〜500μmの範囲から選択される。導電性基板の材料には、たとえば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどの金属材料を使用できる。
【0055】
正極活物質層は、正極集電体の厚さ方向の一方または両方の表面に設けられる。正極活物質層は正極活物質およびバインダを含有し、さらに導電材を含有してもよい。
正極活物質には、たとえば、リチウム複合金属酸化物を使用できる。リチウム複合金属酸化物としては、たとえば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-y2、LixCoy1-yz、LixNi1-yyz、LixMn24、LixMn2-yy4、LiMePO4、Li2MePO4Fなどが挙げられる。前記各式において、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、SbおよびBよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を示す。また、x=0〜1.2、y=0〜0.9、z=2.0〜2.3である。なお、前記各式において、リチウムのモル比を示すxの値は、正極活物質を作製した直後の値であり、充放電により増減する。
【0056】
バインダとして、たとえば、PVDF、ボリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどを使用できる。
【0057】
導電材としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボンなどのハロゲン化カーボン類などを使用できる。これらの中でも、本発明の方法により精製された黒鉛類およびカーボンブラック類が好ましい。
【0058】
正極活物質層は、たとえば、正極集電体の表面に正極合剤スラリーを塗布し、乾燥し、必要に応じて圧延することにより作製できる。正極合剤スラリーは、正極活物質、バインダおよび有機溶媒を含有し、必要に応じて導電材を含有する。有機溶媒としては、たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノンなどを使用できる。
【0059】
負極は、負極集電体および負極活物質層を含む。
負極集電体には導電性基板を使用できる。導電性基板には、たとえば、箔、シート、フィルムなどがある。導電性基板の厚みは通常は1〜500μmの範囲から選択される。導電性基板の材料には、たとえば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、銅合金などの金属材料を使用できる。
【0060】
負極活物質層は負極活物質を含有し、さらに必要に応じて、バインダ、導電材、増粘剤などを含有する。負極活物質には、本発明の方法で精製された炭素材料を使用する。
バインダおよび導電材としては、正極活物質層に含有されるバインダおよび導電材と同じものをそれぞれ使用できる。さらに、バインダとして、アクリロニトリル変性ゴムなども使用できる。増粘剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0061】
負極活物質層は、たとえば、負極集電体に負極合剤スラリーを塗布し、乾燥し、必要に応じて圧延することにより作製できる。これにより、負極が作製される。負極合剤スラリーは、負極活物質および有機溶媒または水を含有し、さらに必要に応じて、バインダ、増粘剤、導電材などを含有する。有機溶媒は、正極合剤スラリーに含有される有機溶媒と同じものを使用できる。
【0062】
セパレータには、イオン透過性に優れ、機械的強度が高く、かつ絶縁性を有するシート状物を使用できる。シート状物には、微多孔膜、織布、不織布などがある。微多孔膜は、その内部に多数の細孔が形成された膜である。微多孔質膜は、1種の材料からなる単層膜であってもよく、1種または2種以上の材料からなる複合膜または多層膜であってもよい。セパレータの材質としては、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン好ましい。ポリオレフィンは、耐久性に優れかつシャットダウン機能を有しているため、非水系二次電池の安全性の観点から好ましい。
【0063】
セパレータの厚さは、通常は10〜300μm、好ましくは10〜40μm、より好ましくは10〜30μm、さらに好ましくは10〜25μmである。また、セパレータの空孔率は、好ましくは30〜70%、より好ましくは35〜60%である。空孔率とは、セパレータの体積に対するセパレータ内部の細孔の全容積の百分率(%)である。
【0064】
非水電解質は、溶質(支持塩)、非水溶媒などを含有する。溶質には、たとえば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO3、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、ホウ酸塩類、イミド塩類などを使用できる。
【0065】
非水溶媒としては、たとえば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。
【0066】
本発明の非水電解質二次電池は、たとえば、次のようにして作製される。まず、正極および負極を、これらの間にセパレータを介在させて積層または捲回し、電極群を作製する。電極群の正極集電体および負極集電体に正極リードおよび負極リードをそれぞれ溶接した後、これを非水電解質とともに電池ケースに収容する。その後電池ケースを封口部材により封口することにより、本発明の非水電解質二次電池が得られる。
本発明の非水電解質二次電池は、たとえば、円筒型、角型、コイン型、扁平型、ラミネートパック型などの種々の形状の電池を含んでいる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
炭素材料として、体積平均粒子径20μmの人造黒鉛を用いた。この人造黒鉛は、不可避的不純物として鉄などの金属の粒子をおよそ200ppm含んでいた。金属粒子の粒径は20〜100μmの範囲であった。この人造黒鉛500gを、室温下に20重量%のフッ酸水溶液1リットルに添加し、人造黒鉛の酸処理を1時間行った。その後、濾過により、人造黒鉛を分離した。
【0068】
酸処理後の人造黒鉛500gをイオン交換水1リットルに分散し、人造黒鉛を含む水性スラリーを調製した。この水性スラリーのpHは2であり、pHが酸性領域にあることを確認した。この水性スラリーを、攪拌羽根、電圧計、pHメータおよび酸滴下装置を備えた、ステンレス鋼製タンクに投入した。このタンクには、アースが施されている。水性スラリーに不溶性電極(商標名:プラチノード、石福金属工業(株)製)を浸漬し、不溶性電極に定電圧直流電源を接続した。
【0069】
攪拌羽根の回転数を50rpmに設定して、水性スラリーを攪拌した。この状態で、直流電源から不溶性電極に1Vの電圧を印加し、ステンレス鋼製タンクと不溶性電極との間で通電を実施した。ステンレス鋼製タンクと不溶性電極との間の電圧を1Vに維持した。水性スラリーのpHは通電当初から変動がなかったので、酸を水性スラリーに添加することはなかった。通電を3時間実施した後、濾過により人造黒鉛を水性スラリーから分離した。この人造黒鉛をイオン交換水により洗浄した後、60℃で乾燥し、精製された人造黒鉛を得た。
【0070】
(比較例1)
まず、実施例1と同様にして、フッ酸水溶液を用いて人造黒鉛の酸処理を行った。この人造黒鉛を濾過によりフッ酸水溶液から分離し、洗液のpHが5以上になるまでイオン交換水で洗浄し、次いで60℃で乾燥した。
【0071】
(試験例1)
実施例1および比較例1で得られた人造黒鉛について、磁化(emu/g)と磁界の強さ(Oe、エルステッド)との関係を測定した。直径7mm、厚さ5mmのアクリル製試料ホルダーに、実施例1または比較例1の人造黒鉛200mgを充填し、振動試料型磁力計(商品名:VSM−P7、東英工業(株)製)に装填した。
【0072】
まず、5000Oe(エルステッド)の磁界を印加後、5分間かけて磁界を0エルステッドまで減少させた。その後、磁界を反転させて、5分間かけて、5000エルステッドまで直線的に磁界を増加させた。さらに5分間かけて磁界を0エルステッドまで減少させた後、磁界を反転させて、5分間かけて、5000エルステッドまで直線的に磁界を増加させた。結果を図2および図3に示す。図2は、実施例1の人造黒鉛の磁化と磁界の強さとの関係を示すグラフである。図3は、比較例1の人造黒鉛の磁化と磁界の強さとの関係を示すグラフである。
【0073】
次に、図2および図3のグラフにおいて、磁界4000〜5000エルステッドの範囲の線を、最小2乗法により直線(Y=aX+b)に近似し、直線の切片bを求めた。切片bは、各炭素材料の、磁界強さ0エルステッドにおける磁化(emu/g)に相当する。なお、最小2乗法による直線への近似には、エクセル2003(商品名、マイクロソフト社製)を用いた。
【0074】
実施例1の人造黒鉛の磁界強さ0エルステッドにおける磁化は0.002emuであり、比較例1の人造黒鉛の磁界強さ0エルステッドにおける磁化は0.075emuであった。このことから、実施例1では、原料の人造黒鉛に含まれる金属粒子の多くがイオン化により除去され、磁化が顕著に低くなっていることが明らかである。また、比較例1の人造黒鉛は、実施例1の人造黒鉛よりもはるかに多くの金属粒子を含んでいることが明らかである。
【0075】
(実施例2)
実施例1で得られた人造黒鉛を用い、次のようにして本発明の非水電解質二次電池を作製した。
(1)正極の作製
コバルト酸リチウム(正極活物質)100重量部およびアセチレンブラック(導電材)2重量部と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にポリフッ化ビニリデン(PVDF、結着剤)3重量部を溶解した溶液とを混合して、正極合剤スラリーを調製した。厚さ15μmの帯状アルミニウム箔(正極集電体、35mm×400mm)の両面に、正極合剤ペーストを間欠塗布し、乾燥させた後、圧延し、正極を作製した。両面の正極活物質層と集電体との合計厚さは150μmであった。その後、正極を所定の寸法に裁断して、帯状の正極板を得た。
【0076】
(2)負極の作製
実施例1で得られた人造黒鉛100重量部、スチレンブタジエンゴム(結着剤)1重量部およびカルボキシメチルセルロースの1重量%水溶液100重量部を混合して、負極合剤スラリーを調製した。この負極合剤スラリーを厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥させた後、圧延し、負極を作製した。両面の負極活物質層と集電体との合計厚さは155μmとした。その後、負極を所定の寸法に裁断して、帯状の負極板を得た。
【0077】
(3)非水電解質の調製
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:3で混合した混合溶媒に対して、1重量%のビニレンカーボネートを添加して、混合溶液を得た。その後、濃度が1.0mol/LとなるようにLiPF6を混合溶液に溶解して、非水電解質を調製した。
【0078】
(4)円筒型非水電解質二次電池の作製
正極集電体に、アルミニウム製正極リードの一端を取り付けた。負極集電体に、ニッケル製負極リードの一端を取り付けた。正極および負極を、これらの間に厚さ16μmのポリエチレン製多孔質シート(セパレータ、商品名:ハイポア、旭化成ケミカルズ(株)製)を介在させて捲回し、電極群を作製した。この捲回型電極群を円筒型電池ケースに挿入し、電池ケース内部を減圧にした状態で非水電解質を注液した。引き続き正極リードおよび負極リードを外部に導出し、電池ケースの開口に封口板を装着して封口し、本発明の円筒型非水電解質二次電池(定格容量2000mAh)を作製した。
【0079】
(比較例2)
実施例1の人造黒鉛に代えて、比較例1の人造黒鉛を使用する以外は、実施例2と同様にして、円筒型非水電解質二次電池(定格容量2000mAh)を作製した。
【0080】
(試験例2)
実施例2および比較例2の非水電解質二次電池、それぞれ100個について、以下の条件で充放電サイクルを2回繰返した。
定電流充電:400mA(0.2C)、終止電圧4.1V。
定電流放電:400mA(0.2C)、終止電圧2.5V、休止時間20分。
【0081】
次に、各電池を400mA(0.2C)、終止電圧4.1Vの定電流充電により充電した。充電後の電池を室温で1週間放置し、開回路電圧を測定した。開回路電圧が4.0V以上のものを合格品、4.0V未満のものを不良品と判定した。その結果、実施例2の全ての電池は開回路電圧が4.0V以上であり、合格率は100%であった。これに対し、比較例1の電池は、開回路電圧が4.0V未満のものが15個あり、合格率は85%であった。このことから、実施例1の人造黒鉛を用いることにより、電池性能の低下を顕著に抑制できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の方法は、炭素材料の精製に好適に使用される。現在、炭素材料は広範な工業不分野において汎用されている。また、本発明の方法により精製された炭素材料を負極活物質として含有する非水電解質二次電池は、各種電子機器、特に携帯用電子機器の電源として好適に利用できる。携帯用電子機器には、たとえば、携帯電話、携帯情報端末、パーソナルコンピュータ、デジタルスチルカメラなどがある。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態の一つである炭素材料の精製装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図2】実施例1の人造黒鉛の磁化と磁界との関係を示すグラフである。
【図3】比較例1の人造黒鉛の磁化と磁界との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0084】
1 精製装置
10 酸性水性スラリー
11 金属製容器
12 攪拌手段
13 pH測定手段
14 酸添加手段
15 不溶性電極
16 電力供給手段
17 電圧測定手段
18 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー調製工程および通電工程を含み、
スラリー調製工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料の酸性水性スラリーを調製し、
通電工程では、攪拌下に、スラリー調製工程で得られる酸性水性スラリーに通電を行う炭素材料の精製方法。
【請求項2】
スラリー調製工程で得られる酸性水性スラリーのpHが1〜6.5である請求項1に記載の炭素材料の精製方法。
【請求項3】
金属粒子の粒径が1μm〜1000μmである請求項1または2に記載の炭素材料の精製方法。
【請求項4】
炭素材料の体積平均粒子径が40nm〜1000μmである請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法。
【請求項5】
スラリー調製工程が、酸処理工程および第1水分散工程を含み、
酸処理工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を酸処理し、
第1水分散工程では、酸処理工程で酸処理された炭素材料を水に分散させて酸性水性スラリーを調製する請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法。
【請求項6】
スラリー調製工程が、第2水分散工程およびpH調整工程を含み、
第2水分散工程では、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を水に分散させて水性スラリーを調製し、
pH調整工程では、第2水分散工程で得られる水性スラリーのpHを酸性域に調整して酸性水性スラリーを得る請求項1〜4のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法。
【請求項7】
炭素材料がカーボンブラックおよび黒鉛材料から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜6のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法。
【請求項8】
通電工程が、炭素材料および不可避的不純物として金属粒子を含有する酸性水性スラリーを金属製容器に収容し、酸性水性スラリー中に不溶性電極を浸漬させ、金属製容器と不溶性電極との間で通電させることにより行われる請求項1〜7のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法。
【請求項9】
金属製容器と不溶性電極との間の電圧が、水が電気分解を開始する電圧よりも低い請求項8に記載の炭素材料の精製方法。
【請求項10】
金属製容器と、攪拌手段またはスラリー移動手段と、pH測定手段と、酸添加手段と、不溶性電極と、電力供給手段と、電圧測定手段と、制御手段とを含み、
金属製容器は、不可避的不純物として金属粒子を含有する炭素材料を含む酸性水性スラリーを収容し、
攪拌手段は、酸性水性スラリーを攪拌し、
スラリー移動手段は、酸性水性スラリーを一方向に移動させ、
pH測定手段は、酸性水性スラリーのpHを測定し、
酸添加手段は、酸性水性スラリーに酸を添加し、
不溶性電極は、その少なくとも一部が酸性水性スラリーに浸漬され、
電力供給手段は、金属製容器と不溶性電極との間に電圧を印加し、
電圧測定手段は、金属製容器と不溶性電極との間の電圧を測定し、
制御手段は、酸添加手段による酸の添加および電圧供給手段による電圧の印加を制御する炭素材料の精製装置。
【請求項11】
正極、負極、セパレータおよび非水電解質を含み、
正極は、リチウムの吸蔵および放出が可能な正極活物質を含有する正極活物質層と正極集電体とを含み、
負極は、炭素材料および結着材を含有する負極活物質層と負極集電体とを含み、かつ炭素材料は請求項1〜9のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法により精製された炭素材料であり、
セパレータは正極と負極との間に介在するように配置され、
非水電解質は支持塩と非水溶媒とを含有し、リチウムイオン伝導性を有する非水電解質二次電池。
【請求項12】
さらに正極活物質層が、請求項1〜9のいずれか1つに記載の炭素材料の精製方法により精製された炭素材料を導電材として含有する請求項11に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138039(P2010−138039A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316738(P2008−316738)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】