説明

炭素材用フェノール樹脂組成物、炭素材、及び、その製造方法

【課題】 表面に形成される細孔の量や細孔径を制御できる炭素材が得られる炭素材用フェノール樹脂組成物、及び、炭素材と、これを賦活処理することなく製造するのに適用できる製造方法を提供する。
【解決手段】 フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有することを特徴とする炭素材用フェノール樹脂組成物と、これを硬化処理した後、炭化処理してなることを特徴とする炭素材、及び、(a)フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有する炭素材用フェノール樹脂組成物を調製する工程と、(b)上記炭素材用フェノール樹脂組成物を硬化処理してフェノール樹脂硬化物を得る工程と、(c)上記フェノール樹脂硬化物を炭化処理して炭素材を得る工程と、を有することを特徴とする、炭素材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材用フェノール樹脂組成物、炭素材、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な多孔質炭素材である活性炭は、やし殻、石炭、石油ピッチ、フェノール樹脂等を原料として、水蒸気や薬品を用い賦活処理を行い製造されている。これらの原料の中でも、フェノール樹脂を原料とした活性炭は、含有される不純物が少なく、また、活性炭表面の細孔径分布も他原料を用いた活性炭に比べてシャープであるため、吸着性能が高く、注目されている(例えば、特許文献1ないし4参照)。
【0003】
近年、活性炭を上下水の処理等に用いる場合の吸着特性や、電気二重層コンデンサーに代表される活性炭電極に用いる場合の電気的特性の高性能化を図る上で、活性炭表面の細孔径の制御が重要な技術となってきている。
このため、活性炭の賦活処理時に用いる水蒸気や薬品の量、賦活時間の調整などの試みが行われており、このような方法により、活性炭表面の比表面積の大きさをある程度制御することができる。
しかし、水蒸気や薬品による賦活は、炭素材の表面を削る反応であるため細孔の制御が難しく、活性炭の高性能化が充分に図れないという問題があった。このため、表面に形成される細孔の量や細孔径を制御できる活性炭や、これを賦活処理なしで製造する方法の開発が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平05−43345号公報
【特許文献2】特開平11−1314号公報
【特許文献3】2004−193570号公報
【特許文献4】2004−221332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表面に形成される細孔の量や細孔径を制御できる炭素材が得られる炭素材用フェノール樹脂組成物、及び、炭素材と、これを賦活処理することなく製造するのに適用できる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(8)に記載の本発明により達成される。
(1)フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有することを特徴とする炭素材用フェノール樹脂組成物。
(2)上記フェノール樹脂に対して、上記化合物10〜100重量%を含有する上記(1)に記載の炭素材用フェノール樹脂組成物。
(3)上記(1)又は(2)に記載の炭素材用フェノール樹脂組成物を硬化処理した後、炭化処理してなることを特徴とする炭素材。
(4)上記炭素材は、該炭素材表面に形成された細孔のうち、ミクロ孔(細孔径0.4nm以上1nm未満)の容積が0.1〜2ml/gである上記(3)に記載の炭素材。
(5)上記炭素材は、該炭素材表面に形成された細孔のうち、メソ孔(細孔径1nm以上25nm以下)の容積が0.1〜2ml/gである上記(3)又は(4)に記載の炭素材。
(6)上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の炭素材の製造方法であって、
(a)フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有する炭素材用フェノール樹脂組成物を調製する工程と、
(b)上記炭素材用フェノール樹脂組成物を硬化処理してフェノール樹脂硬化物を得る工程と、
(c)上記フェノール樹脂硬化物を炭化処理して炭素材を得る工程と、
を有することを特徴とする、炭素材の製造方法。
(7)上記(b)工程における硬化処理は、上記化合物の沸点よりも低い温度で熱処理を行うものである上記(6)に記載の炭素材の製造方法。
(8)上記(c)工程における炭化処理は、500℃以上で熱処理を行うものである上記(6)又は(7)に記載の炭素材。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有することを特徴とする炭素材用フェノール樹脂組成物と、これを硬化処理した後、炭化処理してなる炭素材とその製造方法であり、表面に形成される細孔の量や細孔径を制御できる炭素材を得ることができる。そして、このような炭素材を賦活処理なしで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の炭素材用フェノール樹脂組成物、炭素材、及び、その製造方法ついて、詳細に説明する。
本発明の炭素材用フェノール樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ということがある)は、フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有することを特徴とする。
また、本発明の炭素材は、上記本発明の樹脂組成物を硬化処理した後、炭化処理してなることを特徴とする。
そして、本発明の炭素材の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)は、上記本発明の炭素材の製造方法であって、
(a)フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有する炭素材用フェノール樹脂組成物を調製する工程と、
(b)上記炭素材用フェノール樹脂組成物を硬化処理してフェノール樹脂硬化物を得る工程と、
(c)上記フェノール樹脂硬化物を炭化処理して炭素材を得る工程と、
を有することを特徴とする。
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。
【0009】
はじめに、本発明の樹脂組成物に用いられるフェノール樹脂について説明する。
本発明の樹脂組成物に用いられるフェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、アルカリ性、又は、酸性触媒の存在下で反応させて得られるものである。
【0010】
ここで用いられるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0011】
また、アルデヒド類としては特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0012】
上記フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法としては特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0013】
本発明の樹脂組成物で用いられるフェノール樹脂の形態としては特に限定されないが、例えば、固形、粉末状、溶液状、液状などが挙げられ、いずれの形態でも用いることができる。
【0014】
本発明の樹脂組成物に用いられる、沸点が800℃以下である化合物(以下、単に「添加化合物」ということがある)としては特に限定されないが、例えば、水、メタノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネード、トリアセチン、ブチルラクトン、トルエン、キシレン、石油芳香族系炭化水素等の有機溶剤、フェノール、クレゾール、アニリン等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、沸点が100℃以上のエチレングリコール、グリセリン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の有機溶剤やフェノール、クレゾール、アニリンが好ましい。これらはフェノール樹脂との相溶性に優れ、均一性の高い樹脂組成物を簡易に得ることができる。また、沸点が100℃以上であるため、フェノール樹脂との混合に好適な温度域においても、添加化合物の揮発を抑えることができ、樹脂組成物中に添加化合物を無駄なく分散包含することが容易となる。
【0015】
本発明の樹脂組成物には、上記添加化合物として沸点が800℃以下であるものを用いることができるが、特に、沸点が500℃以下であるものを用いることが好ましい。
これにより、炭素材の細孔径および細孔容積の制御をより効率的に行うことができる。
添加化合物の沸点が800℃を超えると、炭化処理時の環縮合以前に添加化合物が昇華しにくくなり、炭素材の構造を破壊するなどして細孔生成の制御が困難になる。
【0016】
また、上記添加化合物の残炭率は30重量%以下であることが好ましい、より好ましくは20重量%以下である。残炭率が上記上限値より大きいと、炭化処理時に炭化物となって残存する成分が多くなり、細孔生成に寄与する割合が小さくなるため、場合によっては細孔制御が難しくなることがある。
なお、上記残炭率は、添加化合物を800℃で0.5時間熱処理した際の、処理前に対する処理後の残重量の比率を算出したものである。
【0017】
本発明の組成物において、上記フェノール樹脂と添加化合物との配合割合としては特に限定されないが、フェノール樹脂に対して、添加化合物10〜100重量%を含有することが好ましい。さらに好ましくは10〜70重量%である。これにより、炭素材製造時に充分な細孔生成を行うことができる。
添加化合物の量が上記下限値より少ないと、フェノール樹脂中への添加化合物の分散性が低下するようになり、また、炭化処理時に生成できる細孔が少なくなる。一方、上記上限値より多いと、フェノール樹脂の硬化反応を妨げたり、添加化合物を包含した樹脂硬化物を生成することが難しくなったりすることがある。このような場合には、炭素材を製造する際、生成する細孔の量を制御することが難しくなることがある。
【0018】
次に、本発明の炭素材及びその製造方法について説明する。
本発明の炭素材は、上記本発明の樹脂組成物を硬化処理した後、炭化処理してなるものであり、具体的には、
(a)上記樹脂組成物を調製する工程と、
(b)上記樹脂組成物を硬化処理してフェノール樹脂硬化物を得る工程と、
(c)上記フェノール樹脂硬化物を炭化処理して炭素材を得る工程と、
を有する、本発明の製造方法により得ることができる。
【0019】
まず、上記(a)工程について説明する。
本発明の樹脂組成物を調製する方法としては特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂と添加化合物とを単純混合する方法、溶融混合する方法、あるいは、溶剤溶解して混合する方法、などが挙げられる。また、これらの手法により混合した後、後述する硬化処理前に加温する方法によっても行うことができる。なお、混合時に溶剤を用いた場合は、通常、硬化処理前にこれを除去することにより本発明の樹脂組成物として用いることができる。
【0020】
次に、上記(b)工程について説明する。
本発明の樹脂組成物を硬化処理する方法としては特に限定されないが、フェノール樹脂としてレゾール型フェノール樹脂を用いた場合は、添加化合物とともに混合し、加熱により硬化させることができる。
また、フェノール樹脂としてノボラック型フェノール樹脂を用いた場合は、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加化合物とともに混合し、加熱して硬化させる方法、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂を添加化合物とともに混合し、常温または加熱により硬化させる方法、あるいは、パラトルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の酸類を添加化合物とともに混合し、常温又は加熱により硬化させる方法などが挙げられる。
【0021】
上記(b)工程における硬化処理温度としては特に限定されないが、常温、あるいは、加熱して硬化させる場合は100〜300℃で行うことができる。
特に、用いた添加化合物の沸点よりも低い温度で硬化処理を行うことが好ましい。これにより、用いた添加化合物をフェノール樹脂硬化物内部に多く包含させることができ、(c)工程において細孔生成の制御をしやすくすることができる。
【0022】
次に、上記(c)工程について説明する。
本発明の製造方法において、上記(c)工程は、一酸化炭素、窒素、ヘリウムなどを用いて、実質的に不活性な雰囲気下で行う。
【0023】
上記フェノール樹脂硬化物を炭化処理して炭素材を得る場合の炭化処理温度(最高温度)としては特に限定されないが、500℃以上で実施することが好ましい。上記下限値未満であると、炭素材中に水素、酸素等、炭素以外の元素が多量に残存するようになるため、炭素材の特性、特に、初期吸着性能等からの繰り返し使用時に、長時間使用による吸着性能の劣化が大きくなることがある。
【0024】
これ以外の炭化処理の条件としては特に限定されないが、例えば、炭化処理時間は通常、0.1〜15時間で行うことができる。また、昇温速度は特に限定されないが、通常、5〜200℃/時で昇温を行うことができる。また、冷却速度についても特に限定されないが、不活性ガスを開放する温度は室温〜100℃とすることができる。
【0025】
本発明の炭素材表面に形成される細孔は、ミクロ孔(細孔径0.4nm以上1nm未満)の容積が0.1〜2ml/gであることが好ましい。さらに好ましくは0.4〜1.5ml/gである。
また、同様にメソ孔(細孔径1nm以上25nm以下)の容積が0.1〜2ml/gであることが好ましい。さらに好ましくは0.3〜1.2ml/gである。
これにより、吸着特性に優れた炭素材とすることができる。また、このように細孔径を制御することにより、上記細孔径に適合した大きさを有する被吸着物質を選択的に吸着することができ、吸着効率が高い多孔質炭素材とすることができる。
ミクロ孔の容積が上記下限値未満の場合、有効な細孔が少なく、吸着特性など多孔質炭素材として特性が充分ではないことがある。また、上記上限値より大きいと、炭素材のかさ密度が小さくなり、炭素材の容積あたりの特性が低下することがある。
また、メソ孔の容積が上記下限値未満の場合、同様に、吸着特性など多孔質炭素材として特性が充分ではないことがある。また、上記上限値より大きいと、炭素材の機械的強度が低くなり、使用時に割れ等が発生することがある。
【0026】
なお、本発明の炭素材において、上記ミクロ孔及びメソ孔は、島津製作所社製・「細孔分布測定装置 ASAP2010」を用い、窒素ガスをプローブガスとして得られた吸着等温線を基に、ミクロ孔はMP法(Micro Pore Method)、メソ孔の測定はDH法(Dollimore & Heal Method)により算出したものである。
【0027】
本発明において、このような細孔容積を有する炭素材を得る方法としては、本発明の樹脂組成物を用い、好ましくは、樹脂組成物中の添加化合物の沸点温度以下で硬化処理を行った後、500℃以上の最高温度で炭化処理することにより行うことができる。
【0028】
本発明の製造方法によれば、本発明の樹脂組成物を硬化、炭化処理することにより、ミクロ孔、及び、メソ孔の量が制御された多孔質である炭素材を得ることができる。この理由は明確ではないが、以下のように考えられる。
本発明の製造方法においては、フェノール樹脂と、添加化合物とを含有する樹脂組成物を用いる。そして、この樹脂組成物を、好ましくは添加化合物の沸点以下の温度で硬化処理することにより、配合した添加化合物を多く包含したフェノール樹脂硬化物を得ることができる。
そして、この硬化物を炭化処理する工程において、上記添加化合物の揮発、あるいは、添加化合物がフェノール樹脂の硬化を阻害した場合には、阻害された部分のフェノール樹脂ユニットの揮発も起こると考えられる。そして、これらが揮発する際に、炭素材表面に比較的大きな上記細孔径を有する細孔を好適量生成し、これにより、多孔質である炭素材を得ることができると考えられる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により説明する。しかし、本発明は実施例に限定されるものではない。また、実施例、比較例で示される「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0030】
(実施例1)
市販のレゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−50087」)100部にエチレングリコール40部を添加混合し、150℃の乾燥装置で24時間熱処理して、エチレングリコールを包含したフェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を窒素雰囲気下にて100℃/hで昇温して、800℃到達後30分間維持して炭化処理を行った後粉砕し、炭素材を得た。
【0031】
(実施例2)
市販のレゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−50087」)100部にグリセリン40部を添加混合し、200℃の乾燥装置で10時間熱処理して、グリセリンを包含したフェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を窒素雰囲気下にて200℃/hで昇温して、900℃到達後10分間維持して炭化処理を行った後粉砕し、炭素材を得た。
【0032】
(実施例3)
市販のレゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−HR−45」)100部に水10部を添加混合した後、更にフェノールスルホン酸63%水溶液を15部添加混合し、60℃の乾燥装置で20分間熱処理して、水を包含したフェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を実施例1と同様の方法で炭化処理し多孔質炭素材を得た。
【0033】
(実施例4)
市販のノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−50731」)100部に、フェノール50部、ヘキサメチレンテトラミン10部を加圧ニーダーにて混合した後、160℃の乾燥装置にて20時間熱処理して、フェノールを包含したフェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を実施例2と同様の方法で炭化処理し多孔質炭素材を得た。
【0034】
(実施例5)
市販のレゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−51402」)50部に、キシレン40部、イソシアネート(住友ベークライト株式会社製「HP−21」)50部を混合した後、60℃の乾燥装置にて30分間熱処理して、キシレンを包含したフェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を実施例1と同様の方法で炭化処理を行い、炭素材を得た。
【0035】
(比較例1)
市販のレゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−50087」)100部を200℃の乾燥装置にて10時間熱処理して、フェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を、窒素雰囲気中で100℃/h昇温にて500℃到達後、1時間保持し冷却後、粉砕し炭化物を得た。
得られた炭化物を窒素雰囲気中900℃にて水蒸気賦活を行い、炭素材を得た。
【0036】
(比較例2)
市販のレゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「PR−50087」)100部を150℃の乾燥装置で24時間熱処理して、フェノール樹脂硬化物を得た。
得られた硬化物を窒素雰囲気下にて100℃/hで昇温して、800℃到達後30分間維持して炭化処理を行った後粉砕し、炭素材を得た。
【0037】
(添加化合物の残単
(多孔質炭素材の評価)
1.比表面積
窒素ガス、BET3点法で測定した。
【0038】
2.細孔分布
ミクロ孔及びメソ孔は、島津製作所社製「細孔分布測定装置 ASAP2010」を用い、窒素ガスをプローブガスとして得られた吸着等温線を基に、ミクロ孔はMP法(Micro Pore Method)、メソ孔の測定はDH法(Dollimore & Heal Method)により算出した。
【0039】
3.炭素材収率
揮発成分を包含した硬化物もしくは通常の硬化物重量をもとに、これらから得られた多孔質炭素材重量の収率より炭素材収率を測定した。
【0040】
以上の評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜5はいずれも、フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有する本発明の炭素材用フェノール樹脂組成物を用い、これを硬化処理した後、炭化処理してなる本発明の炭素材であり、表面に形成されるミクロ孔、メソ孔の量を好適な水準とした炭素材を賦活処理なしで製造することができた。
比較例1は、実施例1、2と同じ樹脂を用い、沸点が800℃以下である化合物を添加せず、賦活処理により炭素材を得たが、実施例1、2と比べて炭素材収率が低下した。
また、比較例2は、比較例1と同じ樹脂を用い、沸点が800℃以下である化合物を添加せず、硬化処理した後、炭化処理して炭素材を得たが、ミクロ孔、メソ孔とも、形成された細孔の量が大きく減少した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有することを特徴とする炭素材用フェノール樹脂組成物と、これを硬化処理した後、炭化処理してなる炭素材とその製造方法であり、表面に形成される細孔の量や細孔径を制御できる炭素材を得ることができる。そして、このような炭素材を賦活処理することなく高い収率で製造することができる。
本発明の炭素材は、上下水の処理等に用いる場合の多孔質炭素材や、電気二重層コンデンサーに代表される活性炭電極に用いる多孔質炭素材として好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有することを特徴とする炭素材用フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂に対して、前記化合物10〜100重量%を含有する請求項1に記載の炭素材用フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭素材用フェノール樹脂組成物を硬化処理した後、炭化処理してなることを特徴とする炭素材。
【請求項4】
前記炭素材は、該炭素材表面に形成された細孔のうち、ミクロ孔(細孔径0.4nm以上1nm未満)の容積が0.1〜2ml/gである請求項3に記載の炭素材。
【請求項5】
前記炭素材は、該炭素材表面に形成された細孔のうち、メソ孔(細孔径1nm以上25nm以下)の容積が0.1〜2ml/gである請求項3又は4に記載の炭素材。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかに記載の炭素材の製造方法であって、
(a)フェノール樹脂と、沸点が800℃以下である化合物とを含有する炭素材用フェノール樹脂組成物を調製する工程と、
(b)前記炭素材用フェノール樹脂組成物を硬化処理してフェノール樹脂硬化物を得る工程と、
(c)前記フェノール樹脂硬化物を炭化処理して炭素材を得る工程と、
を有することを特徴とする、炭素材の製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程における硬化処理は、前記化合物の沸点よりも低い温度で熱処理を行うものである請求項6に記載の炭素材の製造方法。
【請求項8】
前記(c)工程における炭化処理は、500℃以上で熱処理を行うものである請求項6又は7に記載の炭素材。

【公開番号】特開2006−96780(P2006−96780A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280882(P2004−280882)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】