説明

炭素繊維プレカーサー用ポリマー

ポリアクリロニトリル成分を50重量%以上有するポリマーからなり、アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖のアイソタクティックトライアド含有割合が該アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖の全トライアド含有割合を基準として35モル%以上とすることで、低温度領域から徐々に耐炎化処理が行え、発熱量も小さい等の耐炎化特性の良好な炭素繊維プレカーサー用ポリマーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、炭素繊維を製造することができる炭素繊維プレカーサー用ポリマー、該ポリマーを紡糸して得られる炭素繊維プレカーサー、並びにこれを熱処理して得られる耐炎化炭素繊維プレカーサーに関する。更に詳しくは本発明は、ポリアクリロニトリルを構成するアクリロニトリル繰り返し単位の立体規則性を制御することにより耐炎化処理温度を低温化し、耐炎化処理に発生するエネルギーと時間を減少することができ、炭素化が進行した場合にも繊維間の融着・熱分解を起こさず、高品質、高性能を有する炭素繊維を得られる炭素繊維プレカーサー用ポリマーおよび炭素繊維プレカーサーに関する。
【背景技術】
一般に、炭素繊維は優れた機械特性、特に高い比強度・比弾性率を有することから、宇宙航空関係、レジャー用品及び工業材料等の各種補強材料の強化材として広く用いられている。また、その優れた機械特性から自動車の軽量化に用途が見込め、深刻化する二酸化炭素削減問題に対する一環として注目を浴びつつある。
この炭素繊維は、前駆体である有機ポリマーから調製した繊維を酸素存在下に耐炎化処理し、焼成、炭素化することで製造される。前駆体としてはセルロース、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、ピッチ、ポリアクリロニトリル(以下、単にPANと略記することがある。)等の何種類かが挙げられるが、特にPAN系繊維から得られる炭素繊維は比強度、比弾性率などの力学特性に優れており、品質、性能を均一かつ安定的に製造できるため、工業的に大量に生産されている。
PAN系繊維を耐炎化して、その後炭素化して炭素繊維を製造する場合、耐炎化処理条件として200〜400℃の高温の酸化性雰囲気中で長時間の加熱処理を必要とするのが通常であった。これは前駆体であるPAN系繊維を一気に500℃以上の温度で短時間に耐炎化しようとすると急激な発熱分解反応の惹起によりポリマーの自己燃焼、分解が起こり、目的とする炭素骨格を形成することができないからである。しかもこの様な高温熱処理を長時間行うことは、多量にエネルギーを消費する、若しくは生産性が悪いなどの経済上の問題のみならず、単繊維間の融着による強度低下などの品質上の問題、更に高温により糸切れが発生しやすいなどのプロセス上の問題等があり工業的に改善が求められてきた。
これらの問題を回避するため、従来から数多くの提案がなされている。例えば、特定量の重合性不飽和カルボン酸アンモニウム塩を共重合したPAN系前駆体を用いること(例えば特許文献1および特許文献2参照。)、または重合性不飽和カルボン酸の長鎖アルキルエステルを共重合したPANを前駆体に用いること(例えば特許文献3参照。)が開示されている。
これらは耐炎化反応の促進に一定の効果を示すが、不飽和カルボン酸の低い共重合性が原因でコポリマーのブロック化が起こる場合がある。また、耐熱性に乏しいカルボン酸成分の含有割合が多くなると、重合工程の後に続く耐炎化工程において、熱分解に伴う収率の低下を招くといった欠点を有している。
一方、アクリロニトリルにα−クロロアクリロニトリルを共重合することにより、耐炎化時間が大幅に短縮でき、低生産性の問題が解決されることが示されている(例えば特許文献4および特許文献5参照。)。しかし十分に耐炎化時間を短縮するには、高価なα−クロロアクリロニトリル成分を多量に共重合する必要があり、生産性の向上とは対照的に経済的に不利である。
また、イタコン酸とアクリルアミド系モノマーをアクリロニトリルに組み込んだ三元コポリマーを用いることで耐炎化特性の改善されることが開示されているが(例えば特許文献6参照。)、三種のモノマーの均質なコポリマーが得られにくいことに加え、イタコン酸が過剰であると発熱反応が過激化して繊維構造にダメージを与え、またアクリルアミドモノマーが過剰であると繊維融着を起こすなど、共重合組成の制御が複雑であり生産性に課題がある。その他、ヒドロキシメチレン基(例えば特許文献7参照。)、不飽和カルボン酸のハロゲン化アルキルエステル(例えば特許文献8参照。)、またはケイ素若しくはフッ素含有不飽和モノマー(例えば特許文献9参照。)を共重合成分に用いることも提案されているが、いずれも価格、性能の両面で満足する効果を示すものではなかった。
一方、PAN系繊維の耐炎化反応に着目した研究も進められている。例えば、PAN系繊維の耐炎化反応は、隣接するニトリル骨格の酸化、環化によって開始されることが知られている(例えば非特許文献1参照。)。
更に、過去の研究よりこれらの熱的に惹起される反応において、ポリマーの微細構造、即ちタクティシティーで示されるポリマー主鎖の立体規則性が反応温度、反応速度に影響を与えうることが報告されていた。例えば、熱によるニトリル基からのイミン骨格の形成は、アイソタクティック連鎖ではアタクティックまたはシンジオタクティック連鎖に比べ低温で優先して進行することが示されている(例えば非特許文献2および非特許文献3参照。)。
しかしながら、これまで炭素繊維プレカーサー用ポリマーおよび炭素繊維プレカーサーとしては、通常のラジカル重合等で得られる立体構造の規制がされていないPAN、すなわちアタクティックPANのコポリマーが用いられてきた。一方、立体構造の規制がされたPANの一種、即ちアイソタクティックPANを耐炎化反応性に優れる炭素繊維プレカーサー用ポリマーおよび炭素繊維プレカーサーとして使用することを検討した文献、報告などはこれまで知られていなかった。
【特許文献1】特開昭48−63029号公報
【特許文献2】特公昭58−48643号公報
【特許文献3】特開昭61−152812号公報
【特許文献4】特公昭49−14404号公報
【特許文献5】特公平6−27368号公報
【特許文献6】特開平11−117123号公報
【特許文献7】特開昭52−53995号公報
【特許文献8】特開昭52−55725号公報
【特許文献9】特開平2−14013号公報
【非特許文献1】ダブリュー ワットら(W.Watt)著、「(プロシーディング オブ ザ インターナショナル カーボン ファイバー カンファレンス ロンドン)Proceeding of the International carbon fiber conference London」,Paper No.4,1971
【非特許文献2】エヌ エイ コバソファら(N.A.Kobasova)著、「ヴィソコモレキュリヤーニィ ソイエディニーニィヤ セリイヤ アー(VYSOKOMOLEKULYARNYE SOEDINENIYA SERIYA A)」,ロシア,13(1),1971,P.162−167
【非特許文献3】エム エイ ガイデリックら(M.A.Geiderikh)著、「ヴィソコモレキュリヤーニィ ソイエディニーニィヤ セリイヤ アー(VYSOKOMOLEKULYARNYE SOEDINENIYA SERIYA A)」,ロシア,15(6),1973,P.1239−1247。
【発明の開示】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題を解決し、高価かつ特殊なモノマーを大量に用いることなく本質的に耐炎化工程を低温化し、繊維間の融着・熱分解を抑制することができる炭素繊維製造用ポリマーおよびプレカーサーを提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の炭素繊維プレカーサー用ポリマーは、アクリロニトリル成分を50重量%以上有するポリマーからなり、アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖のアイソタクティックトライアド含有割合が該アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖の全トライアド含有割合を基準として35モル%以上であることが必要である。
この炭素繊維プレカーサー用ポリマーを用いることにより、従来のアタクティックPAN系ポリマーを用いた炭素繊維製造の場合と比べて、耐炎化処理を低温かつ短時間で行うことが可能となり、その結果、大幅な省エネルギーとなるだけではなく、単繊維間の融着による強度低下などの品質上の問題や糸切れなどプロセス上の問題を解決することができる。
ここで、本発明における炭素繊維プレカーサー用ポリマーとはアクリロニトリル成分を50重量%以上含むポリマーを重合した後、任意の成型を行う前の塊状やペレット状などのいわゆる成型前ポリマーを意味し、本発明における炭素繊維プレカーサーとはアクリロニトリル成分を50重量%以上含むポリマーを重合した後に湿式紡糸、乾−湿式紡糸、あるいは乾式紡糸のような紡糸工程を経て繊維状に成型された状態を指すものである。即ち耐炎化処理、加熱炭化処理を行う前の状態までを表している。
前記の本発明の炭素繊維プレカーサー用ポリマーは、アクリロニトリル成分を50重量%以上有するポリマーからなることが必要であるが、該アクリロニトリル成分が50重量%未満であると、アタクティックPAN系コポリマーを用いた場合と比較した場合、耐炎化特性改善に十分な効果が発現せず、本発明の課題を解決することが困難となる。
前記炭素繊維プレカーサー用ポリマーは、アイソタクティックトライアド含有割合が35モル%以上の立体規則性を有するアイソタクティックPANの単独ポリマーでもよく、該アイソタクティックPANを50重量%以上含む2種類以上のポリマーの混合物でもよく、あるいは該アイソタクティックPANが50重量%以上含むように重合されたコポリマーであってもよい。
本発明の炭素繊維プレカーサー用ポリマーは、アクリロニトリル成分、アクリル酸系化合物成分およびアクリル酸エステル系化合物成分を主たる共重合成分とするコポリマーからなり、前記アクリロニトリル成分がコポリマーを基準として80重量%以上を占め、アクリル酸系化合物成分とアクリル酸エステル系化合物成分の重量%の総和が0%を越えて20%未満であることが好ましい。
ここで、「主たる」とは、上記3成分(アクリロニトリル成分、アクリル酸系化合物成分、およびアクリル酸エステル系化合物成分)の合計量が全共重合成分を基準として80重量%以上、好ましくは90重量%以上を占めることをいう。
上記のコポリマーは、アクリロニトリル成分がコポリマーを基準として80重量%以上を占めることが好ましく、このときには炭素繊維プレカーサーを耐炎化工程に供した時の六角網面層が十分に形成され、製品である炭素繊維の性能も十分なものとなる。該アクリロニトリル成分は好ましくは、90重量%以上である。
また、上記のコポリマーは、アクリル酸系化合物成分とアクリル酸エステル系化合物成分の重量%の総和が0%を越えて20%未満であることが好ましく、該範囲にあるときには、上記と同様に、炭素繊維プレカーサーを耐炎化工程に供した時の六角網面層が十分に形成され、製品である炭素繊維の性能も十分なものとなる。
更に、本発明のポリマーは、13C−NMRにて見積もられるアクリロニトリル由来のピークに関する、アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖のアイソタクティックトライアド含有割合(mmトライアド%)が、該アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖の全トライアド含有割合を基準として35モル%以上であることが必要である。該範囲内に無いと、構成連鎖において隣接するシアノ基同士の距離が遠いため、炭素繊維プレカーサーを耐炎化工程に供した時の六角網面層の形成が困難なものとなり、最終製品として得られる炭素繊維の力学強度が十分なものとならない。該アイソタクティックトライアド含有割合(mmトライアド%)は該アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖の全トライアド含有割合を基準として、65モル%以上であることが好ましい。
ここで、アイソタクティックトライアド含有割合(mmトライアド%)とは、付加重合系ポリマーにおいてポリマー中の連続した3個の繰り返し単位(構成連鎖が三連子)を考えたときに、隣り合うモノマー単位の側鎖がいずれも互いにメソ(mと略記する。)配置の関係にあることを指す。
更に、他のトライアドとしては、ヘテロタクティックトライアド(mr)、シンジオタクティッティクトライアド(rr)がある。ここで、rはラセモ配置の関係を示す。
即ちアイソタクティックトライアド含有割合はmm、mr、rrのトライアドのうちのmmの割合である。
該トライアド含有割合(mm%)が35モル%未満の場合、PANの立体構造に基づく耐炎化特性に十分な効果は発現せず、実質アタクティックであるPANと何ら変わらないものとなる。
本発明においては、本発明の効果を奏する限り、好ましくは、50重量%未満で、他成分を共重合してもよく、この共重合成分としては、共重合可能な不飽和化合物であれば従来公知のものをいずれも用いてよいが、不飽和カルボン酸及び/または不飽和カルボン酸エステル、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸及び/またはこれらのアルキルエステルを用いることが好ましい。
該アルキルエステルとしてはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、t−ブチル基、シクロヘキシルから選ばれる少なくとも1つの基など、炭素数1〜6のアルキル基を有するエステルを特に好ましく用いることができる。
更に他の共重合成分としてアクリロニトリル成分、アクリル酸系化合物、アクリル酸エステル系化合物、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、無水マレイン酸、N−ビニルピロリドンのような極性ビニルモノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールのような芳香族ビニル化合物なども好ましく用いることができる。これらの共重合成分は単独あるいは併用してもよく、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、若しくはこれらのアルキルエステル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、無水マレイン酸、N−ビニルピロリドンのような極性ビニルモノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールのような芳香族ビニル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を好ましく選ぶことが出来るが、特に前記したようにアクリロニトリル成分、アクリル酸系化合物、アクリル酸エステル系化合物を用いることが好ましい。
これらは共重合の結果、アクリロニトリルとランダムな配列となるランダムコポリマー、あるいはアクリロニトリル連鎖と他の共重合成分の連鎖がブロックを形成するブロックコポリマーが得られる。
他の共重合成分の役割としては耐炎化における分子内環化反応に伴う自己発熱を抑え、炭素繊維プレカーサーに与える熱的ダメージを軽減することであるが、その目的で他の共重合成分を過分に共重合することは、炭素繊維の性能低下に繋がることがあり、従ってこのような他の共重合成分は炭素繊維プレカーサー用ポリマー中で20モル%未満である。
本発明の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法としては、アイソタクティックPANを製造できる方法であれば特に限定されるものではないが、有効な方法として例えばD.M.WhiteらによりJ.Am.Chem.Soc.,1960,82,5671に報告された尿素/モノマー包摂錯体を用いた低温(−78℃)での固相光重合法、有機マグネシウム等を反応開始剤に用いたアニオン重合法(Y.Nakanoら、Polym.Int.,1994,35(3).249−55)、または塩化マグネシウム等を分子鋳型兼担体に用いたラジカル重合法(H.Kuwaharaら、Polymer Preprints,2002,43(2),978)などが挙げられるが、特に、アクリロニトリル成分を主とする不飽和共重合成分を鋳型化合物としての結晶状態にある金属化合物に吸収させて錯体とし、これを固相重合反応させることによって高分子量化して得ることが最も好ましい。
ここで、鋳型化合物としては、周期律表IIA族〜IIB族に属する結晶状態の金属化合物を用いることが好ましく、該金属化合物としては、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、チオ硫酸塩、燐酸塩、脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩を挙げることができ、特に、ハロゲン化物を用いることが好ましい。
前記のように、鋳型化合物に吸収させて得た錯体を固相重合反応させると、特に結晶状態にある金属化合物は金属カチオンとこれに対を成す対アニオンとが整然と配列された構造を有し、アクリロニトリル成分および不飽和共重合成分は、カルボキシル基、アミド基、あるいはカルボン酸エステル基に含まれる酸素原子や窒素原子上の不対電子を介して金属カチオンに配位することができる。
その際アクリロニトリル成分および不飽和共重合成分は、金属カチオンと対アニオンの秩序、サイズ、或いはイオン間の距離に応じて配列が規制される。この配列は選択する結晶状態の金属化合物の種類によって異なるものとなるが、周期律表IIA族〜IIB族に属する金属のハロゲン化物がアイソタクティックな立体制御の鋳型化合物として好適に使用される。
このような例としては塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化クロム、無水塩化マグネシウム、無水塩化カルシウム、無水塩化ランタン、無水塩化イットリウム、臭化鉄、臭化コバルト、臭化ニッケル、臭化マンガン、臭化クロム、無水臭化マグネシウム、無水臭化カルシウム、無水臭化ランタン、無水臭化イットリウム、ヨウ化鉄、ヨウ化コバルト、ヨウ化ニッケル、ヨウ化マンガン、ヨウ化クロム、無水ヨウ化マグネシウム、無水ヨウ化カルシウム、無水ヨウ化ランタン、無水ヨウ化イットリウムが挙げられる。これらは二種類以上を混合して使用することも可能であり、単一の結晶系に二つ以上の金属カチオンが存在するミョウバンやハイドロタルサイトのような所謂複塩であっても構わない。
また、前記の金属化合物は、その結晶系が六方晶系及び/又は三方晶系であることが特に好ましい。これら六方晶系及び三方晶系に属する金属化合物は巨視的に考えると層状構造をとっているものが多く、アクリロニトリル成分や不飽和共重合成分は結晶状態の金属化合物の層間に包接され、極性基を同一方向に配向させて規則正しく配列させることができる。このような六方晶系及び/又は三方晶系の金属化合物としては、臭化カルシウム六水和物、ヨウ化カルシウム、ヨウ化カルシウム六水和物、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)六水和物、硝酸セシウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、ヨウ化カドミウム、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、二硫化カリウム、亜硝酸カリウム二水和物、ヨウ化リチウム三水和物、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム六水和物、水酸化マグネシウム、塩化マンガン(II)、臭化マンガン(II)、亜硝酸ナトリウム、塩化ニッケル(II)、硫酸錫二水和物、塩化チタン(II)、塩化チタン(III)、塩化バナジウム(II)、臭化バナジウム(II)、臭化バナジウム(III)、塩化亜鉛を挙げることができるが、好ましくは、塩化鉄(III)、塩化コバルト(II)、塩化マグネシウムであり、特に好ましくは、塩化マグネシウムである。
ここで、アクリロニトリル成分および不飽和共重合成分(以下、両者を併せて単にモノマー成分と略記することがある。)は、鋳型化合物と接触させて錯体とするが、この工程は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、空気のように酸素が存在する混合気体を使用すると、ラジカル成長末端の失活の原因となり、最終的に十分な重合度を有する炭素繊維プレカーサー用ポリマーが得がたいものとなる。
また、モノマー成分と周期律表IIA族〜IIB族に属する結晶状態の金属化合物とのモル比(A/M)は0.1以上5.0未満であることが好ましく、この範囲にあるときには、鋳型化合物に配位するモノマー成分の量が高分子量体を得るのに最適なものであり、余剰モノマー成分による影響を受けることも無いため、得られる炭素繊維プレカーサー用共重合体の立体規則性を更に高めることができる。
結晶状態の金属化合物の粒径もまた重要であり、十分紡糸可能な、粘度平均分子量(以下、単にMvと略記する事がある。)が50,000以上の炭素繊維プレカーサー用ポリマーを得る場合には、該金属化合物の粒径は1μm以上100mm未満、更に好ましくは5mm以上50mm未満であることが好ましい。
該金属化合物の粒径が1μm以下の微紛体を使用した場合、得られる炭素繊維プレカーサー用ポリマーのMvは50,000以下となり、紡糸が極めて困難となる。逆に粒径が100mm以上のものを使用した場合、モノマー成分が該金属化合物の内部まで浸潤し錯体形成が完了するまでの時間が長大になることと、錯体の形成度が不均一となるために好ましくない。
とりわけ後者は後続して行われる固相重合反応においてMvのばらつきの原因となるため避けることが望ましい。
次いで、前記のようにして調製された錯体は不活性ガス雰囲気下の適切な容器に移した後、固相重合反応を行う。
ここで、固相重合反応方法は大別して二種類を採用することができ、一つは熱分解によりラジカル種を発生させることが可能な反応開始剤を共存させる熱固相重合反応、もう一つはラジカル発生可能な電磁波を照射する電磁波固相重合反応である。
熱固相重合反応は前記調整後の錯体に、反応開始剤を少量の有機溶媒に溶かして添加する方法と、予め反応開始剤をモノマー成分に溶かしたものを結晶状態の金属化合物に添加する方法を挙げられるが、反応開始剤の均一分布を考慮すると後者が好適な実施形態と言える。添加に際しては錯体を静置して自発的に吸収させる方法と、錯体に適度な攪拌を与える方法の両方が可能であるが、攪拌は錯体を粉砕するような激しいものであってはならない。
ここで、本発明における反応開始剤とは通常ラジカル重合反応において反応開始剤として使用されるものであれば良く、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオナート)、1,1−(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]に代表されるアゾ化合物、過酸化ベンゾイルに代表される有機過酸化物、ペルオキシ硫酸カリウム/亜硫酸ナトリウムやN,N−ジメチルアニリン/過酸化ベンゾイルの組み合わせに代表される酸化還元型反応開始剤、マンガンアセチルアセトナート(III)、コバルトアセチルアセトナート(II)、およびペンタシアノベンジルコバルテート、硫酸鉄(II)/過酸化水素(フェントン試薬)のように一電子放出し、その結果ラジカル重合を進行させることが可能な遷移金属化合物が好適に使用される。
一方、電磁波固相重合反応では電磁波の照射によりラジカルを発生させるために特に反応開始剤を添加する必要が無いことが利点である。ここで使用される電磁波とは、モノマー分子内にラジカルを発生させるのに十分なエネルギーを持つものであれば良く、紫外線、X線、γ線、単色可視光線、自然光、電子線等が挙げられる。
また固相重合反応に好適な温度条件は−80℃以上150℃未満である。−80℃以下では重合反応速度が極端に低下するばかりか、冷却の為のエネルギー消費量が多くなるといった問題を生じる。逆に150℃以上ではモノマーが結晶状態の金属化合物から気体として解離してしまい十分なMvの炭素繊維プレカーサー用ポリマーを得ることが出来ない。
固相重合反応を完了した錯体は、結晶状態の金属化合物と炭素繊維プレカーサー用モノマーから構成されている。従って該金属化合物を水、メタノール、エタノール等で溶出させた残留物として、最終的に炭素繊維プレカーサー用ポリマーを得ることが可能である。
得られたポリマーの組成、及びポリアクリロニトリル主鎖のタクティシティーはH−NMR及び13C−NMRにより定量同定することができる。
前記の製造方法等によって得られた本発明の炭素繊維プレカーサー用ポリマーは従来公知の技術によって製糸することができる。具体的な製糸方法としては特に制限はないが通常の湿式紡糸法、乾式紡糸法、あるいは乾湿式紡糸法等が用いられる。本発明ではこの時点で得られた炭素繊維プレカーサー用ポリマーの糸を炭素繊維プレカーサーと称する。なお、製糸工程における延伸などの加熱処理によってアイソタクティックリッチPAN単位が部分的に耐炎化が進行する場合があるが、これらの変性した構造を含むものも本発明の炭素繊維プレカーサーの範囲に含まれる。
本発明の炭素繊維プレカーサーは、150以上300℃未満の温度で加熱耐炎化処理、不活性気体雰囲気中で300℃以上2000℃未満の加熱炭化処理、更に2000℃以上2500℃未満の黒鉛成長課程を経て炭素繊維に転換される。耐炎化処理の雰囲気としては、窒素などの不活性気体雰囲気を採用することも可能であるが、空気などの活性気体雰囲気を採用することが耐炎化処理時間を短縮させる意味から、より好ましい。また炭化温度が300℃未満のような低温では、得られる炭素繊維の弾性率が低下する問題がある。なお上記の炭素繊維は、必要に応じて更に表面処理や油剤塗布、サイジング処理を行うことができる。
本発明の炭素繊維プレカーサー用ポリマーおよび炭素繊維プレカーサーにおいて耐炎化処理を低温で速やかに行える理由としては、次の様に推測できる。
即ち前記のとおり、耐炎化反応は構成連鎖において隣接するニトリル基の分子内環化反応を伴うため、ニトリル基同士がメソ配置したアイソタクティック構造では、位置的に隣接ニトリル基が環化するのに有利であり、より小さな活性化エネルギーで反応が進むと考えられる。よってアイソタクティック構造では耐炎化処理が低温で行えるものと考えられる。
また、炭素繊維プレカーサーはアイソタクティシティーに誘起される3/1螺旋構造をとるため、耐炎化工程の際に直線状の縮合ピリジン環、即ちポリナフチリジン骨格を形成する。
このため炭素化および黒鉛化の段階で成長する六角網面層のサイズが従来のアタクティック構造を有する炭素繊維プレカーサーを用いた場合よりも大きくなり、得られる炭素繊維の強度が増す。
【実施例】
以下、本発明を参考例及び実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
また、重合におけるモノマー転化率及び得られたポリマーの組成はH−NMRより、またポリマーの立体規則性(タクティシティー)は13C−NMR測定(270MHz JNR−EX−270 日本電子データム株式会社製、溶媒DMSO−d6使用)により定量し、アイソタクティックトライアド含有割合(mm%)、シンジオタクティッティクトライアド含有割合(rr%)、ヘテロタクティックトライアド含有割合(mr%)を決定した。
【実施例1】
乾燥窒素気流下、鋳型化合物としての粒径が10mm以上30mm未満の六方晶系である無水塩化マグネシウム50gを三口フラスコにとり、これを氷浴で10℃以下に保った。
別に用意した三口フラスコを窒素置換し、アクリロニトリル34.6ml、アクリル酸メチル2.0ml、イタコン酸ジブチル1.2ml、およびアゾビスイソブチロニトリル0.25gを混合してモノマー溶液とした。
これを無水塩化マグネシウムが入った三口フラスコに加え、全て吸収させてA/M=1/1の錯体を調整した。
次いで、この三口フラスコを熱風循環型乾燥機に設置し、70℃にて12時間固相重合を行った。固相重合後、錯体をメタノール中に注ぎ無水塩化マグネシウムを溶解抽出、除去することでメタノールに不溶の炭素繊維プレカーサー用コポリマーを濾別収集し、イオン交換水、アセトンの順に洗浄した後、40℃にて一昼夜減圧乾燥させた。
得られた炭素繊維プレカーサー用コポリマーは18.2g(収率65.4%)であった。
また、H−NMR測定により該コポリマーの組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ94.5%、2.4%、3.1%であった。
また13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=68.3/21.3/10.4であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は2.04であった。
【実施例2】
乾燥窒素気流下、鋳型化合物としての粒径が10mm以上30mm未満の六方晶系である無水塩化マグネシウム50gを三口フラスコにとり、これを氷浴で10℃以下に保った。
別に用意した三口フラスコを窒素置換し、アクリロニトリル34.6ml、アクリル酸メチル2.0ml、イタコン酸ジブチル1.2mlを混合してモノマー溶液とした。これを無水塩化マグネシウムに加え、全て吸収させてA/M=1/1の錯体を調整した。
続いてこの三口フラスコと300mlのねじ口ガラス瓶を窒素置換したグローブボックスに入れ、錯体を三口フラスコからねじ口ガラス瓶に移し変えた。錯体が入ったねじ口ガラス瓶を60Co線源とするγ線照射装置内に設置し、10KGyの線量で電磁波固相重合を行った。得られた炭素繊維プレカーサー用コポリマーは16.6g(収率59.5%)であった。
また、H−NMR測定により該コポリマーの組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ94.5%、2.6%、2.9%であった。また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=68.1/21.5/10.4であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は2.96であった。
【実施例3】
実施例1において、無水塩化マグネシウムに代えて、六方晶系である無水塩化コバルトを用いたこと以外は同様の操作を行った。
固相重合反応終了後、錯体を5重量%の希塩酸中に注ぎ、無水塩化コバルトを抽出・除去することで、希塩酸に不溶の炭素繊維プレカーサー用コポリマーを濾別収集した。更にこれをイオン交換水、アセトンの順に洗浄した後40℃にて一昼夜減圧乾燥させた。
得られた炭素プレカーサー用コポリマーは11.9g(収率42.7%)であった。
また、H−NMR測定により該コポリマーの組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ93.3%、2.8%、3.9%であった。また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=85.1/13.1/1.8であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は1.67であった。
【実施例4】
実施例3において、無水塩化コバルトに代えて、六方晶系である無水塩化鉄を用いたこと以外は同様の操作を行った。
得られた炭素プレカーサー用コポリマーは14.4g(収率51.6%)であった。
また、H−NMR測定により該コポリマーの組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ95.7%、2.6%、1.7%であった。また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=81.3/13.9/4.8であり、高いアイソタクティシティーを有することが確認された。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は1.46であった。
【実施例5】
実施例1において、無水塩化マグネシウムに代えて、斜方晶系である塩化ベリリウムを42g用いたこと以外は同様の操作を行った。
得られた炭素プレカーサー用コポリマーは17.1g(収率61.3%)であった。
また、1H−NMR測定により該共重合体の組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ95.4%、2.9%、1.7%であった。また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=38.0/38.2/23.8であった。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は1.98であった。
【実施例6】
実施例1において、A/M=3/1となるように無水塩化マグネシウムを50g、アクリロニトリル103.8ml、アクリル酸メチル6.0ml、イタコン酸ジブチル3.6ml、およびアゾビスイソブチロニトリル0.75gを混合したこと以外は同様の操作を行った。
得られた炭素プレカーサー用コポリマーは82.2g(収率91.8%)であった。
また、H−NMR測定により該共重合体の組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ95.9%、2.5%、1.6%であった。また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=38.2/38.0/23.8であった。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は2.62であった。
【実施例7】
実施例1において、粒径1μm以下の微粉状塩化マグネシウムを使用したこと以外は同様の操作を行った。
得られた炭素プレカーサー用コポリマーは25.6g(収率91.8%)であった。
また、H−NMR測定により該共重合体の組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ95.5%、2.7%、1.8%であった。また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=67.9/21.6/10.5であった。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は1.95であった。
【実施例8】
実施例1において、アクリル酸メチル、イタコン酸ジブチルを用いることなく、アクリロニトリルのみを原料として用いたこと以外は同様の操作を行った。
得られた炭素プレカーサー用ポリマーは18.8g(収率67.7%)であった。
また、13C−NMR測定を行い、タクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=68.4/24.4/7.2であった。
35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中で測定した固有粘度[η]は1.81であった。
比較例1
実施例1において、鋳型化合物としての無水塩化マグネシウムを添加しなかったこと以外は同様の条件で重合を行った。
得られた炭素プレカーサー用コポリマーは21.9g(収率78.5%)であった。
H−NMR測定により該共重合体の組成を見積もったところ、アクリロニトリル成分、アクリル酸メチル成分、イタコン酸ジブチル成分がそれぞれ95.3%、2.9%、1.8%であった。
また13C−NMR測定を行いトライアドタクティシティーを定量したところ、mm/mr/rr=27.0/50.4/22.6であり、実質アタクティックな炭素繊維プレカーサー用コポリマーが得られたことが確認できた。35℃のN,N’−ジメチルホルムアミド中、ウベローデ型粘度計を用いて得られた固有粘度[η]は1.83であった。
実施例のアイソタクティシティーに富む炭素繊維プレカーサー用コポリマーは、比較例のアタクティック構造の多いものと比べ、耐炎化処理中の環化反応に伴う発熱ピークトップ温度が低温側へシフトし、更にピーク半値幅の増大と発熱量の減少が確認された。
これらの結果より本発明のアイソタクティシティーに富む炭素繊維プレカーサー用ポリマーでは、より低温度領域で耐炎化処理が可能であり、ピーク半値幅が大きく発熱量が小さいことからより緩やかに耐炎化反応が進むと考えられる。
その結果、得られる炭素繊維間の融着や熱分解がなく、耐炎化処理特性に優れた炭素繊維プレカーサー用ポリマーおよび炭素繊維プレカーサーとして効果を有すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル成分を50重量%以上有するポリマーからなり、アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖のアイソタクティックトライアド含有割合が該アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖の全トライアド含有割合を基準として35モル%以上である、炭素繊維プレカーサー用ポリマー。
【請求項2】
アクリロニトリル成分以外に、アクリル酸系化合物成分、およびアクリル酸エステル系化合物成分を主たる共重合成分とするコポリマーからなり、前記アクリロニトリル成分がコポリマーを基準として80重量%以上を占め、アクリル酸系化合物成分とアクリル酸エステル系化合物成分の重量%の総和が0%を越えて20%未満である、請求の範囲1に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマー。
【請求項3】
アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖のアイソタクティックトライアド含有割合が65モル%以上である、請求の範囲1に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマー。
【請求項4】
ポリマーの固有粘度が0.1以上10.0以下である、請求の範囲1に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマー。
【請求項5】
請求の範囲1に記載のポリマーを紡糸して得られる、炭素繊維プレカーサー。
【請求項6】
請求の範囲5に記載の炭素繊維プレカーサーを、酸素存在下、200℃以上300℃未満で熱処理して得られる、耐炎化炭素繊維プレカーサー。
【請求項7】
アクリロニトリル成分を主とする不飽和共重合成分を鋳型化合物としての結晶状態の金属化合物に吸収させて錯体とし、これを固相重合反応させることによって高分子量化させて、アクリロニトリル成分を50重量%以上有するポリマーからなり、アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖のアイソタクティックトライアド含有割合が該アクリロニトリル成分からなるアクリロニトリル構成連鎖の全トライアド含有割合を基準として35モル%以上である、炭素繊維プレカーサー用ポリマーを得る、炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項8】
結晶状態の金属化合物が、周期律表IIA族〜IIB族に属する金属の化合物である、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記金属化合物がハロゲン化物である、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記金属化合物が、六方晶系及び/又は三方晶系に属する金属化合物である、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記金属化合物がヨウ化カドミウム型、塩化カドミウム型及び硫化カドミウム型からなる群から選ばれる少なくとも一種の層状構造を有する、請求の範囲10に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項12】
固相重合反応を、前記錯体にラジカル重合反応開始剤を共存させ、加熱することによって行う、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項13】
固相重合反応を、前記錯体に電磁波を照射することによって行う、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項14】
アクリロニトリルを主とする不飽和共重合成分を主とする不飽和共重合成分と結晶状態の金属化合物のモル比(A/M)が0.1以上5.0未満である、請求の範囲8に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項15】
結晶状態の金属化合物の粒径が1μm以上100mm未満である、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項16】
結晶状態の金属化合物の粒径が5mm以上50mm未満である、請求の範囲7に記載の炭素繊維プレカーサー用ポリマーの製造方法。
【請求項17】
固相重合反応温度を−80℃以上150℃未満とする、請求の範囲7に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/065434
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508076(P2005−508076)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000391
【国際出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】