説明

炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法

【課題】
本発明は、高い機械的強度を発現し、優れた表面品位を有するとともに、良好な繊維分散性による均一性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得る、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法を提供することにある。
【解決手段】
炭素繊維束に、炭素繊維表面の第1級アミン濃度が0.2%〜2.0%となるよう電解表面処理を行い、分子内にエポキシ基を3〜6個有し、かつ、エポキシ当量が100〜200である脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤を付与した後、ポリアセタール樹脂と複合することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度、成形時の流動・分散性に優れた炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法に関するものである。かかる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料から得られる成形物は、例えば電気・電子部品や自動車部品、その他各種部材の材料として特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的強度、電気特性、化学特性などに優れていることから、自動車、エレクトロニクス、OA機器、機械、家電製品など、幅広い分野で利用されており、特に近年、自動車や自転車、その他各種機械の構造部材としての需要が高まり、従来以上の機械的強度が求められるようになっていることから、炭素繊維と複合した炭素繊維強化ポリアセタール樹脂が求められる様になった。
【0003】
一般に、炭素繊維強化樹脂の機械的強度は繊維と樹脂の界面接着性に大きく左右される、すなわち、繊維と樹脂の接着強度が十分でないと、適正な応力伝達がなされないために、炭素繊維強化樹脂として望ましい力学的性質が得られないということが知られている。
【0004】
ここで、ポリアセタール樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリエチレンテレフタレート樹脂などといった他の汎用エンジニアリングプラスチックと比べ、化学的に不活性であるため、炭素繊維と複合した場合に、炭素繊維とポリアセタール樹脂との接着性が低く、補強効果が得られにくいことが知られている。同時に、炭素単繊維の素抜けによる表面品位の悪化といった問題点がある。
【0005】
また、炭素繊維をポリアセタール樹脂中に均一に分散させることは困難であり、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物中に炭素単繊維の分布ムラが生じ、ソリやヒケが生じ、成形物の強度にもムラが生じるという問題もあった。
【0006】
上記のような機械的強度が十分に得られないという問題については、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂中の炭素繊維含有量を増やすことで相対的に改善方向となることは知られているが、炭素繊維含有量を増やすと炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の粘度が上昇するため、成形が困難になるという問題が生じ、必ずしも、十分な効果を得るにはいたっていない。また、成形物の表面品位や成形物中の炭素単繊維の分布ムラについては依然改善の方法は知られていない。
【0007】
そこで、補強材として用いる炭素繊維について、質量減少率や融解熱が所定の範囲内の値になるように規定した、ポリウレタン樹脂を用いてサイズした炭素繊維(例えば特許文献1)や、発熱量と発熱開始温度が所定の値になるように規定した、ポリアミド樹脂を用いてサイズした炭素繊維(例えば特許文献2)などが提案されている。しかしながら、炭素繊維の集束性やサイズ剤の耐熱性については考慮しているものの、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の強度については十分とは言えない。
【0008】
また、ポリアセタール樹脂、付着量を規定したポリウレタン樹脂をサイズした炭素繊維、及び炭素繊維以外の無機充填剤を特定の比率で配合したポリアセタール樹脂組成物(例えば特許文献3)が提案されている。しかしながら、機械的強度については向上しているものの、成形物の表面品位や外観については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−181833号公報
【特許文献2】特開2004−149725号公報
【特許文献3】特開平1−272656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術では機械的強度の向上と、成形物の表面品位改善や成形物中の炭素単繊維の分布ムラの解消の両立が困難であった背景を鑑み、炭素繊維とポリアセタール樹脂との接着性を向上することで、高い機械的強度を発現し、優れた表面品位を有するとともに、良好な繊維分散性による均一性を兼ね備えた炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得る、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(I)炭素繊維束に、炭素繊維表面の第1級アミン濃度が0.2%〜2.0%となるよう電解表面処理を行い、分子内にエポキシ基を3〜6個有し、かつ、エポキシ当量が100〜200である脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤を付与した後、ポリアセタール樹脂と複合する炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【0012】
(II)第1のサイズ剤を付与した後、さらに被膜伸度が700%〜1700%であるポリウレタン樹脂を含む第2のサイズ剤を付与する(I)に記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【0013】
(III)前記電解表面処理をアンモニウムイオンを含む水溶液中で行う(I)または(II)に記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【0014】
(IV)第1(及び第2)のサイズ剤を付与した後、炭素繊維束を0.1〜10mmに切断した炭素繊維チョップドストランドとし、ポリアセタール樹脂と複合する(I)〜(III)のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【0015】
(V)第1(及び第2)のサイズ剤を付与した炭素繊維束にポリアセタール樹脂を含浸し樹脂含浸ストランドを得た後、1〜50mmの長さに切断しペレット状とする(I)〜(III)のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【0016】
(VI)第1(及び第2)のサイズ剤を付与した炭素繊維束を併行に引き揃えシート状としたうえで溶融したポリアセタール樹脂を含浸、冷却することによりシート状とする(I)〜(III)のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明における炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料によれば、炭素繊維とポリアセタール樹脂との接着性が向上し、良好な表面品位と高い機械的強度を発現することができる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形体を提供することができる。さらに該成形体においては、良好な繊維分散により、優れた物性の均一性や寸法安定性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明に用いる炭素繊維束においては、炭素繊維束を構成する炭素繊維表面に、サイズ剤の一端が結合可能な特定の官能基を生成せしめ、該サイズ剤の他端をマトリックスであるポリアセタール樹脂と結合可能にしている。このように炭素繊維表面とポリアセタール樹脂とをサイズ剤でカップリングし得ることで、炭素繊維表面とポリアセタール樹脂間の接着性を高めることができる。これによって、炭素繊維による補強効果を最大限に発現することが可能となり、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物とした時、機械的強度を向上することができる。炭素繊維表面とポリアセタール樹脂間の接着性が低い場合、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物が破断した際、炭素繊維が素抜けてしまい、繊維が破断せず、十分な補強効果が得られない。
【0020】
そこで、本発明において、ポリアセタール樹脂と複合する炭素繊維束は、炭素繊維表面の第1級アミン濃度が0.2〜2.0%となるように電解表面処理を施すのが好ましい。より好ましくは、0.5〜1.0%である。
【0021】
この時、第1級アミン濃度が0.2%より低いと炭素繊維表面とサイズ剤間の接着性が十分に得られず、成形工程の中で、サイズ剤がポリアセタール樹脂中に拡散してしまう。すると、サイズ剤によるカップリング効果が得られないため、炭素繊維表面とポリアセタール樹脂間の接着性が不足し、機械的強度の向上が望めない。
【0022】
一方、炭素繊維表面の第1級アミン濃度が2.0%よりも高い場合、サイズ剤との反応性、及び反応量が過剰になるだけで、接着性の向上は望めない。同時に、炭素繊維自身の強度も低下し、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂とした時、十分な補強効果が望めないことから好ましくない。
【0023】
炭素繊維表面の第1級アミン濃度を前記した特定の範囲の値とするには、後述の方法により、炭素繊維束の製造工程における、炭素化処理終了後の表面処理条件により調整できる。
なお、本発明で用いる炭素繊維束はアクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の公知の炭素繊維束を適用できる。好ましくは高強度の炭素繊維束が得られやすいアクリル系炭素繊維束がよい。また、炭素繊維を構成するフィラメント数は特に限定されないが、コスト面や、取扱性の点で3,000〜50,000本が好ましく、より好ましくは12,000〜24,000本がよい。炭素繊維束の機械的物性としては、ストランド強度が好ましくは3.5GPa以上、より好ましくは4.0GPa以上、さらに好ましくは4.5GPa以上が望ましく、炭素繊維束のストランド弾性率は220GPa以上が好ましく、240GPa以上がより好ましく、280GPa以上がさらに好ましい。ストランド強度あるいは弾性率が、3.5GPa未満あるいは220GPa未満の場合には、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物(以降、単に「成形物」と記す場合もある)とした際、十分な機械特性が得られない場合がある。
【0024】
本発明において、ポリアセタール樹脂と複合する炭素繊維束は、分子内にエポキシ基を3〜6個有し、かつ、エポキシ当量が100〜200である脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする脂肪族ポリエポキシサイズ剤(後述する第2のサイズ剤との区別を明確にするため以降第1のサイズ剤と記すことにする)が付与されている。
【0025】
該サイズ剤によるカップリング効果によって、炭素繊維表面とポリアセタール樹脂の接着性を向上し、機械的強度を高めることが可能となる。
【0026】
第1のサイズ剤に使用する脂肪族ポリエポキシ樹脂の分子内のエポキシ基が3個より少ない場合、カップリングの効果が低下し、十分な接着性を得られなくなるため、好ましくない。また、分子内のエポキシ基が6個より多い場合、サイズ剤の分子間架橋密度が大きくなり、ポリアセタール樹脂成形体中への炭素単繊維の分散性が低下したり、炭素繊維表面近傍に脆性なサイズ剤層を形成し、結果として炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の機械的強度の低下を引き起こすため、好ましくない。
【0027】
また、第1のサイズ剤に使用する脂肪族ポリエポキシ樹脂のエポキシ当量が200より大きい場合、炭素繊維との接着性が低下し、100より小さいと取扱性が低下するため好ましくない。
【0028】
本発明において「脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする」とは、通常、サイズ剤全量に対して、脂肪族ポリエポキシ樹脂が60〜100%の割合を占めることを意味する。脂肪族ポリエポキシ樹脂が60%より少ない場合、カップリング効果が低下し、炭素繊維とポリアセタール樹脂の接着性が十分に得られないため好ましくない。
【0029】
なお、サイズ剤は、後述するような溶媒(分散させる場合の分散媒含む)に溶解(分散の場合も含む)したサイズ処理液を用いて炭素繊維へ付与する。ここで、前記「サイズ剤全量」とは溶媒中に溶解する、あるいは分散するサイズ剤のみの量のことを指し、溶媒成分を含んだサイズ処理液を指すものではない。
【0030】
本発明において、第1のサイズ剤に使用する脂肪族ポリエポキシ樹脂としては、脂肪族骨格を有するものであれば特に限定されず、典型的には脂肪族骨格を有するジグリシジルエーテル化合物や、ポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられるが、反応性の高いグリシジル基を有するポリグリシジルエーテル化合物であることが好ましい。具体的には、例えば、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製“デナコール”(登録商標)EX−421)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製“デナコール”(登録商標)EX−512、EX−521)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製“デナコール”(登録商標)EX−614B)が好ましく使用できるが、これに限定するものではない。他に、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(PTIジャパン(株)製“ERISYS”(登録商標)GE−30)、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル(PTIジャパン(株)製“ERISYS”(登録商標)GE−31)なども好ましく使用できる。
【0031】
本発明において、電解表面処理を施した炭素繊維束に、前記第1のサイズ剤を付与した後、さらに被膜伸度が700%〜1700%であるポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズ剤を付与するのが好ましい。
【0032】
脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤のみを炭素繊維束に付与した場合に比べ、第1のサイズ剤を付与した後、さらにポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズ剤をすることで、炭素単繊維のポリアセタール樹脂中での分散性が向上し、得られる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物において、炭素単繊維の分布ムラを抑えることができるため好ましい。さらに、ポリエポキシ樹脂に比べ、ポリウレタン樹脂をサイズした場合、炭素繊維束の集束性が向上し、取扱性の面でも優れている点においても好ましい。
【0033】
一方、脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤を付与せず、ポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズ剤のみを炭素繊維束に付与した場合、炭素単繊維のポリアセタール樹脂中での分散性や炭素繊維束の取扱性についてはある程度向上するものの、脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤ほどのカップリング効果は期待できず、炭素繊維とポリアセタール樹脂との接着性向上が不十分であるため、機械的強度の向上効果が小さい、さらに、得られる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の表面において、成形時に溶融状態にあるポリアセタール樹脂が冷却・硬化する際、ポリウレタン樹脂とポリアセタール樹脂間の低接着性に起因して、最表面に存在する炭素単繊維を覆うポリアセタール樹脂が炭素単繊維の周囲に固着されず、炭素単繊維が表面に露出して毛羽立ったかのような質感を呈し、表面品位が悪くなるため、好ましくない。
また、本発明におけるポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズ剤の被膜伸度が700%〜1700%の範囲内であると、ポリアセタール樹脂中での炭素繊維の分散性が良好となるため、好ましい。被膜伸度が700%以上とすることにより、さらに炭素繊維の集束性の向上の図ることができるため、好ましい。なお、上限については、現状入手可能なポリウレタン樹脂の被膜伸度を上限に設定したものであるが、2000%程度までなら同等の効果があるものと考えられる。2000%を超え、被膜伸度が大きすぎる場合、第2のサイズ剤の持つ炭素単繊維の被膜性能が大きくなるため、逆にポリアセタール樹脂中での炭素繊維の分散性が低下したり、肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤の層を覆い、第1のサイズ剤の有する接着性向上の効果を阻害し機械的強度の向上効果が不十分となる場合があるため、好ましくない。
【0034】
なお本発明において、「炭素繊維の集束性」とは、炭素繊維束としての様態を保ち、成形材料を製造する工程において、炭素繊維束のさばけや、単糸切れによる毛羽立ちが抑制される度合いを示している。
【0035】
また、後述のように炭素繊維束を切断し、炭素繊維チョップドストランドに加工した上でポリアセタール樹脂と複合してもよく、この炭素繊維チョップドストランドの集束性は、炭素繊維チョップドストランドとしての形態の保持し易さや、ポリアセタール樹脂との混練時、炭素繊維チョップドストランドがホッパーで詰まりを起こすことがなく、また、投入する炭素繊維チョップドストランドを正確に秤量することができるというような、炭素繊維チョップドストランドの取扱性に関連するもので、炭素繊維チョップドストランドの集束性が高い程、その取扱性に優れる。
【0036】
ここで、「炭素繊維の集束性」と炭素繊維チョップドストランドの集束性には相関関係が成り立ち、「炭素繊維の集束性」が優れるほど、炭素繊維チョップドストランドの集束性も優れる。
【0037】
本発明における「ポリウレタン樹脂を含む」とは、通常、サイズ剤全量に対して、ポリウレタン樹脂が30〜100%の割合を占めることを意味する。ポリウレタン樹脂が30%より少ない場合、分散性の向上効果が望めないため、好ましくない。
【0038】
なお、ここにおいても「サイズ剤全量」とは、前記第1のサイズ剤と同様、サイズ剤の溶媒中に溶解する、あるいは分散する樹脂成分のみの量のことを指す。
【0039】
本発明におけるポリウレタン樹脂の市販品としては、“スーパーフレックス” (登録商標)(登録商標)300、”スーパーフレックス”370、“スーパーフレックス” (登録商標)E2000、“スーパーフレックス” (登録商標)E4800(以上、第一工業製薬(株)製)、”ボンディック” (登録商標)2210(大日本インキ(株)製)などを使用することができる。
【0040】
本発明において、脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤の好ましい付着量は、ポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズを付与しない場合、炭素繊維全重量に対して、0.3〜1.5重量%であり、より好ましくは0.5〜0.9重量%である。0.3重量%より少ない場合、サイズ剤によるカップリング効果が十分でなく炭素繊維とポリアセタール樹脂との接着性向上が不十分となる場合があるため、好ましくない。また、1.5重量%より多い場合、サイズ剤の層が形成され、ポリアセタール樹脂が炭素繊維束内部まで十分に含浸せず、得られる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物においてボイドが生成し易くなり、機械的強度が低下したり、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の品位の低下を招くため、好ましくない。
【0041】
また、本発明の他の好ましい態様としてポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズを付与する場合、脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤の好ましい付着量は、炭素繊維全重量に対して、0.3〜1.0重量%であり、より好ましくは0.5〜0.9重量%である。この場合、第2のサイズ剤の好ましい付着量は、0.5〜2.0重量%であり、より好ましくは0.7〜1.6重量%である。かかる好ましい付着量とすることにより、前記のような、第2のサイズ剤による炭素単繊維の分散性向上効果や、成形物における炭素単繊維の分布ムラの抑制効果、及び炭素繊維束の集束性向上効果がより顕著に得られるためである。ポリウレタン樹脂を主成分とする第2のサイズ剤の付着量が、2.0%より多い場合、脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤と同様、サイズ剤の層が形成され、ポリアセタール樹脂が炭素繊維束内部まで十分に含浸せず、得られる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物においてボイドが生成し易くなる場合があること、かかる場合において肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤の接着性向上の効果を阻害し機械的強度の向上効果が不十分となる場合があるため、好ましくない。
【0042】
本発明において、サイズ剤を炭素繊維束に付与する方法は、特に限定されない。例えばサイズ剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解(分散も含む)したサイズ処理液を調整し、該処理液を炭素繊維束に付与した後に、溶媒を気化させ除去することにより、サイズ剤を炭素繊維束に付与することが一般的に行われる。該処理液を炭素繊維束に付与する方法としては、該処理液中にローラーを介して炭素繊維束を浸漬する方法、サイズ処理液の付着したローラーに炭素繊維束を接する方法、サイズ処理液を霧状にして炭素繊維束に吹き付ける方法などがある。また、バッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維に対するサイズ剤の付着量が前記の適正範囲内で均一に付着するように、サイズ処理液中のサイズ剤濃度、糸条張力、工程速度などをコントロールすることが好ましい。サイズ処理液付与時に炭素繊維を超音波で加振させることはより好ましい。サイズ処理液のサイズ剤濃度を濃くすると付着量は増加し、逆にサイズ剤濃度を薄くすると付着量は減少する。また、糸条張力を大きくすると、炭素繊維束にサイズ処理液が含浸しにくくなる、また、サイズ処理液付着後の工程ローラーなどでサイズ処理液が搾り取られるため、サイズ処理液付着量は減少し、逆に張力を小さくすると、炭素繊維束にサイズ処理液が含浸しやすくなり、工程中で搾り取られる量も少ないため、サイズ処理液付着量は増加する。また、工程速度を早くすると、サイズ処理液に接触する時間が必然的に短くなるため、サイズ処理液付着量は減少し、逆に遅くすると、長時間に渡ってサイズ処理液と接触するため、サイズ処理液付着量は増加する。超音波による加振によっても炭素繊維束が開繊されてサイズ処理液が含浸しやすくなるため、付着量は増加する。
これらを踏まえ、生産性や安全性等を考慮し、サイズ処理液のサイズ剤濃度を、所望の付着量をx重量%とした時、1.0x〜4.0x重量%、工程速度を1〜5m/minの範囲内で設定し、糸条張力、超音波による加振と合わせて条件により付着量を所定の範囲に調整することが出来る。
【0043】
また、サイズ処理液付与後の炭素繊維束の溶媒を気化除去するための乾燥温度と乾燥時間はサイズ剤の種類やサイズ処理液の付着量によって調整すべきであるが、サイズ剤の付与に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイズ剤の熱劣化を防止し、炭素繊維束が固くなって束の拡がり性が悪化するのを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下であることが好ましく、180℃以上250℃以下であることがより好ましい。
【0044】
サイズ剤を付与するときに使用する溶媒(分散させる場合の分散媒含む)は、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、好ましくは、取扱いが容易で防災上の観点から水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイズ剤として用いる場合には乳化剤、界面活性剤等を添加し水分散性にして用いるのが良い。具体的には、乳化剤、界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合物、オレフィン−無水マレイン酸共重合物、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステルのコポリマー、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤などを用いることができるが、エポキシ基との相互作用が小さいノニオン系乳化剤が好ましい。
【0045】
本発明において、炭素繊維表面の第1級アミン濃度を前記した特定の範囲の値とするには、炭素繊維束の製造工程において、炭素化処理終了後、サイジング剤の付与前に表面処理を施すのが好ましい。
【0046】
かかる表面処理は、炭素化処理終了後の炭素繊維束を、第1級アミン濃度の制御の容易さの観点から、アンモニウムイオンを含む水溶液中で電解処理を施すのが好ましい。この電解質として、例えばアンモニアや、アンモニウム塩、またはヒドラジン等の有機化合物等が挙げられ、具体的には炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム塩類などが好ましく用いられる。
【0047】
さらに好ましい態様として、電解液のpHが7〜14、好ましくはpHが8〜14、さらに好ましくはpHが10〜14の強アルカリ水溶液がよい。
【0048】
電解液の濃度としては、0.01〜5mol/L、好ましくは0.1〜1mol/Lがよい。電解液の濃度が0.01mol/Lより低いと炭素繊維表面に官能基を導入するのが困難になり、所望の第1級アミン濃度を満たすことが難しい場合がある。電解液の濃度が濃いほど官能基の導入も容易であり、さらに電解処理電圧を低く設定できるが、臭気が強くなり作業環境が悪化するのでそれらから最適化することが好ましい。
【0049】
また、電解液温度としては0〜100℃、好ましくは10〜40℃がよい。すなわち温度が高いと臭気が強くなり作業環境が悪化するため低温が好ましいので、運転コストとの兼ね合いで最適化することが好ましい。
【0050】
電気量は被処理炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率糸はより大きな電気量が必要である。表層の結晶性の低下を進ませ、生産性を向上させる一方、炭素繊維基質の強度低下を防ぐ観点から、電解処理は小さい電気量で複数回処理を繰り返し行うのが好ましい。具体的には、電解槽1槽当たりの通電電気量は5C/g・槽(炭素繊維1g当たりのクーロン数)以上、100C/g・槽以下が好ましく、より好ましくは10クーロン/g・槽以上、80C/g・槽以下、さらに好ましくは20C/g・槽以上、60C/g・槽以下がよい。
【0051】
また、表層の結晶性の低下を適度な範囲において、第1級アミン濃度が所望の範囲内の濃度になるようにするために、通電処理の総電気量は5〜1000C/gとすることが好ましく、10〜500C/gの範囲とするのがより好ましい。総電気量が5C/gを下回ると、炭素繊維表面の電解反応が進まず、所望の第1級アミン濃度に達することが困難になる。一方、総電気量が1000C/gを超えると、炭素繊維束そのものの強度が低下し、炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物において十分な補強効果が得られなくなる場合がある。なお、電解槽数としては2以上が好ましく、4以上がより好ましい。設備コストの面から10槽以下が好ましく、電気量、電圧、電流密度等から最適化することが好ましい。
【0052】
電流密度としては、炭素繊維表面を有効に酸化し、かつ安全性を損なわない観点から、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2 当たり1.5アンペア/m2 以上1000アンペア/m2 以下、好ましくは3アンペア/m2 以上500アンペア/m2 がよい。処理時間は、数秒から十数分が好ましく、さらには10秒から2分程度が好ましい。
【0053】
電解電圧は安全性の観点から25V以下、さらには0.5〜20Vが好ましい。電解処理時間は電気量、電解質濃度により最適化すべきであるが、生産性の面から数秒〜10分、好ましくは10秒〜2分程度がよい。電解処理方式としてはバッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。通電方法としては、炭素繊維を電極ローラに直接接触させて通電させる直接通電、あるいは炭素繊維と電極の間に電解液等を介して通電させる間接通電のいずれも採用することができるが、電解処理時の毛羽立ち、電気スパーク等が抑えられる間接通電が好ましい。
【0054】
また、電解処理方法は、電解槽を必要槽数並べて1度通糸しても、1槽の電解槽に必要回数通糸してもよい。電解槽の陽極長は5〜100mmが好ましく、陰極長は300〜1000mm、さらには350〜900mmが好ましい。
【0055】
電解処理を行った後、炭素繊維束を水洗および乾燥することが好ましい。この場合、乾燥温度が高すぎると炭素繊維表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが望ましい。
【0056】
本発明における炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料はその形状に限定はない。
【0057】
そこで、ポリアセタール樹脂と複合する炭素繊維束は、第1(及び第2)のサイズ剤を付与した後、炭素繊維束を0.1〜10mmに切断した炭素繊維チョップドストランドとするのが好ましい。
【0058】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物を得る方法として、予め炭素繊維と樹脂を混練(コンパウンド)した材料をペレット形状にした後、成形、特に射出成形等する方法が一般的に行われるが、この混練の際に繊維を容易に、かつ十分に分散させて樹脂中に混練するためには、炭素繊維束を切断したチョップドストランドが好ましく用いられる。中でもほぼ所定の長さに切断し、かつサイズ剤でほぼ一定形状に集束したチョップドストランドは、混練時に扱いが容易であるだけでなく、ペレット化も容易であるので好ましい。
【0059】
ここで本発明において、炭素繊維チョップドストランドにおける炭素繊維長さは特に限定されるものでは無いが、切断された後、チョップドストランドとしての形状を維持し易い点や、混練、及び成形の際に容易に炭素単繊維をポリアセタール樹脂中に分散し、あるいは強い剪断力を受けた場合にもある程度の繊維長を維持し、結果として炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の機械的強度を十分に発現し得る点で、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは2〜7mmに切断するのがよい。
【0060】
また、炭素繊維束にサイズ剤を付与するタイミングについても、特に限定されるものではないが、炭素繊維束を切断する際の取扱性の点から、切断する前にサイズ剤を付与するのが好ましい。
【0061】
また、第1(及び第2)のサイズ剤を付与した炭素繊維束にポリアセタール樹脂を含浸し樹脂含浸ストランドを得た後、1〜50mmの長さに切断してペレット状とするいわゆる長繊維ペレット材料とするのも好ましい。前記の通り、炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形物を得る方法としては炭素繊維と熱可塑性樹脂を混練したペレットを成形に用いるのが一般的であり、この手法で得られるペレットに含有される炭素単繊維の平均繊維長は通常、0.2〜0.6mmであるが、本手法のように、予めポリアセタール樹脂を含浸した、炭素繊維樹脂含浸ストランドを作製した後に切断することで、炭素繊維チョップドストランドを用いてペレット化する場合よりも、ポリアセタール樹脂中での分散性や取扱性の面で、繊維長の長い、ペレット状の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料を遙かに容易に得ることができる。ここで言う「繊維長の長い」とは、ペレットに含有される炭素繊維の繊維長が1mmを越える長さの場合を指す。
【0062】
ここで炭素繊維樹脂含浸ストランドを切断する際の長さは特に限定されるものではないが、成形時の取扱性や機械的強度発現の効果を考慮すると、1〜10mmの長さにするのが好ましい。
【0063】
このようなペレット中の炭素繊維の繊維長が長いもので炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得た場合、一般的に、炭素繊維の補強効果が繊維長の短い場合に比べて強く現れ、機械的強度をより向上させることができる。
【0064】
さらに、第1(及び第2)のサイズ剤を付与した炭素繊維束を併行に引き揃えシート状としたうえで、溶融したポリアセタール樹脂を含浸、冷却することによりシート状とするのも好ましい。ここで溶融したポリアセタール樹脂を含浸するとは、予め不織布やフィルムのようにシート状としたものを併行に引き揃えシート状とした炭素繊維束上に重ね加熱溶融して含浸するようなするようなプロセスも含む。
【0065】
繊維強化熱可塑性樹脂の成形物を得る方法として、前記のペレットを用いた成形方法の他に、プレス成形やスタンピング圧縮成形、オートクレーブ成形等が挙げられ、本手法で得られるシート状の炭素繊維強化ポリアセタール成形材料はこれらの成形法に用いることができる。特に生産性等の点からプレス成形法に用いるのが好ましい。
【0066】
シート状の炭素繊維強化ポリアセタール成形材料を用いて炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得た場合、炭素繊維が連続繊維であるため、一般的に射出成形等で得られた炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物よりも機械的強度が優れているため好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではない。
<炭素繊維表面の第1級アミン濃度測定>
表面の第一アミン濃度(NH/C)は、次の手順に従って気相化学修飾(ラベル化)のX線光電子分光法(XPS)により求めた。先ず、溶媒でサイズ剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、ラベル化試薬としては、第1アミンに対してはペンタフルオロベンズアルデヒド(PFB)を用い、文献*に示される方法でラベル化を行った。(シ゛アミノシ゛フェニルエーテル(DADPE)を用いて、ラベル化の反応率は確認した。)
XPS装置はSSX−100(米国SSI社製)を用いて、励起X線はアルミニウム K α 1、2線(1486.6eV)X線出力10kV 20mV、光電子脱出角度は35°で測定を行い、データ処理は中性炭素(CHx)のC1sピーク位置を284.6eVに合わせた。C1S ピーク面積[C1S ]は、 282〜296 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1S ピーク面積[F1S ]は、 682〜695 eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また上述のようにして求めた面積強度[F1s]、[C1s]を文献*に示される方法により、第一アミン濃度を求めた。
文献*:Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry Vol. 26, 559 - 572(1988).
<炭素繊維束のストランド引張強度、弾性率の測定>
JIS−R−7601(1980年制定)の樹脂含浸ストランド試験法に準じ測定した。樹脂処方としてユニオンカーバイト社製ベークライト(登録商標)ERL4221/3フッ化ホウ素モノエチルアミン/アセトン=100/3/4(重量部)を用い、硬化条件としては常圧、130℃、30分を用いた。ストランド10本を測定し、その平均値を求めた。
<サイズ剤の付着量測定>
サイジング剤を付着した炭素繊維を約5gを採取し、耐熱ガラス製の容器に投入する。
【0068】
次に、この容器を120℃で3時間乾燥し、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した値をW1 (g)とする。
【0069】
次いで、容器ごと、窒素雰囲気中、450℃で15分間加熱後、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却し、秤量した値をW2 (g)とする。
【0070】
以上の処理を経て、化合物の付着量を、次式により求める(測定n数=5)。
【0071】
化合物の付着量=(W1 −W2 )/W2 (単位:重量%)
<炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の機械的強度(曲げ試験、ストランド強度発現率)>
繊維含有重量分率Wf=20%として炭素繊維強化ポリアセタール樹脂を成形、試験片を作成し、ASTM 790−96aに従い、雰囲気温度23℃、相対湿度50%の環境下、曲げ強度を求めた(測定n数=5)。試験片の寸法は、長さ130mm、幅13.0mm、厚さ6.4mmであり、測定条件はスパン間距離100mm、クロスヘッドスピード2.8mm/min、圧子径加圧側10mm、支持側4mmである。本実施例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機5565型を用いた。
【0072】
さらに、炭素繊維の補強効果を現す指標として、前記曲げ強度の値をA、前記手法で測定される炭素繊維のストランド引張強度の値をBとした時、(A/B×100)で求められる値をストランド強度発現率として算出した。
<炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の機械的強度(ノッチなしIzod衝撃値)>
ASTM 256−93aに従い、繊維含有重量分率Wf=20%として炭素繊維強化ポリアセタール樹脂を成形、試験片を作成し、雰囲気温度23℃、相対湿度50%の環境下、ノッチなしIzod衝撃値を求めた(測定n数=5)。試験片の寸法は、長さ62mm、幅12.7mm、厚さ3mmである。本実施例においては、試験機として米倉製作所製のIzod衝撃試験機を用い、本試験機において、使用した振り子重量は2.105kgである(5.5J)。
<炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の品位評価>
炭素繊維含有重量分率Wf=20%として、80mm×80mm×3mmの炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の平板状の成形物を作製し、表面品位、ソリの有無について観察・評価した(測定n数=5)。
【0073】
表面品位については、成形物に凹凸が無く、炭素単繊維の分布が均一であり、平滑な表面が形成されていたら○、凹凸は見られないものの、毛羽立ちのような粗さが存在した場合、または表面外観にわずかな炭素単繊維の分布ムラが観察された場合は△、ヒケ(熱収縮によって凹みや穴が形成された状態)や樹脂溜まりが存在して、炭素単繊維の分布に明らかなムラがある場合を×と評価した。
【0074】
また、ソリについては平板状の成形物を定盤に置いた際、成形物が定盤と全面で接触している場合にはソリ○、成形物と定盤とが全面で接触しておらず、指で成形物を上面から定盤に成形物を押し付けた際、成形物が定盤と全面で接触する場合にはソリ△、指で成形物を上面から定盤に押し付けた際、成形物が定盤と接触していない部分がある場合にはソリ×と評価した。
(実施例1)
アクリロニトリル99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維繊度1デニール,フィラメント数12000のアクリル系繊維束を得た。得られた繊維束を240〜280℃の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、ついで窒素雰囲気中300〜900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行なった後、1300℃まで焼成した。
【0075】
前記工程を経て得られた炭素繊維束を、濃度0.1mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液を電解液として、1槽当たりの通電電気量を20C/g・槽とし、4槽繰り返すことにより該炭素繊維束を総電気量80C/gで処理した。この電解処理を施された炭素繊維束を続いて水洗し、150℃の加熱空気中で乾燥した。この炭素繊維表面の第1級アミン濃度を測定したところ、0.6%であった。
【0076】
前記電解処理工程を経て得られた炭素繊維束について、ストランド引張強度、および弾性率を測定したところ、ストランド引張強度は4.88GPa、弾性率は24.1GPaであった。
【0077】
続いて、第1のサイズ剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製“デナコール”(登録商標)EX−512:エポキシ基数4、エポキシ当量168)を用い、本サイズ剤を水で希釈してサイズ剤濃度が1.0%のサイズ処理液を調製した。これを前記電解処理を施した炭素繊維束に浸漬法によって付与した。その際のサイズ剤付着量は0.6%であった。
【0078】
前記サイズ剤を付与した炭素繊維束をカートリッジカッターを用いて6mm長の長さに切断し、炭素繊維チョップドストランドを得た。
【0079】
本炭素繊維チョップドストランドをJSW製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、ダイス直径5mm、バレル温度200℃、回転数150rpm)を用いて、水分率0.05%以下になるように十分乾燥した後、これをサイドホッパーから投入し、また熱可塑性樹脂としてポリアセタール樹脂(ポリプラスチックス社製“ジュラコン” (登録商標)M90−44)をメインホッパーから投入し、これらを十分混練した状態で不連続の炭素繊維を含有するガットを連続的に押し出し、これを冷却後、ペレタイザーで5mm長に切断して、ペレット状の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料を得た。
【0080】
前記ペレット状成形材料を、80℃にて8時間以上真空中で乾燥させた後、JSW製J150EII−P型射出成形機(スクリュー直径46mm)にてバレル温度200℃、金型温度100℃で成形し、この成形物の機械的強度測定(曲げ強度、ノッチなしIzod衝撃値)、及び成形物の品位評価を実施した。その結果、表1に示すように、僅かながら炭素単繊維の分布のムラが見受けられたものの、優れた機械的強度を発現し、炭素繊維束のストランド引張強度と比較しても、十分な強度発現率であった。
(実施例2、3)
実施例1において、炭素繊維束に施す電解処理を、濃度0.1mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液を電解液として、1槽当たりの通電電気量を2.5C/g・槽とし、4槽繰り返すことにより該炭素繊維束を総電気量10C/gで処理した(実施例2)、あるいは、濃度0.1mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液を電解液として、1槽当たりの通電電気量を40C/g・槽とし、4槽繰り返すことにより該炭素繊維束を総電気量160C/gで処理した(実施例3)以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例1と同じ評価を行った。各炭素繊維表面の第1級アミン濃度は、実施例2では0.2%、実施例3では1.8%であった。その結果、表1に示すように、僅かながら炭素単繊維の分布のムラが見受けられたが問題となるレベルではなく、実施例1と比較すると機械的強度に若干の低下が見られたものの、依然として優れた機械的強度を発現し、炭素繊維束のストランド引張強度と比較しても、十分な強度発現率であった。
(実施例4,5)
実施例1における第1のサイズ剤を用いて調製したサイズ処理液のサイズ剤濃度を変更し、第1のサイズ付着量を0.3%(実施例4)、あるいは1.4%(実施例5)としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例1と同じ評価を行った。その結果、表1に示すように、実施例1と同様、僅かながら炭素単繊維の分布のムラが見受けられ、さらに、実施例4では炭素繊維チョップドストランド集束性がわずかに低く、混練工程にて炭素繊維チョップドストランドの投入に多少時間を要したものの、力学的物性面においては優れた機械的強度を発現し、炭素繊維束のストランド引張強度と比較しても、十分な強度発現率であった。
(実施例6)
実施例1における第1のサイズ剤を炭素繊維に付与した後、第2のサイズ剤として、ポリウレタン樹脂の水分散体(第一工業製薬(株)製“スーパーフレックス” (登録商標)300:被膜伸度1500%)を用い、本サイズ剤を水で希釈してサイズ剤濃度が2.0%のサイズ処理液を調製、付与(サイズ剤付着量1.2%)した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例1と同じ評価を行った。その結果、表1に示すように、優れた機械的強度を発現し、炭素繊維束のストランド引張強度に対しての強度発現率も高く、さらに、ソリや炭素単繊維の分布のムラもない、良好な表面品位の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物が得られた。
(実施例7、8)
実施例6において、第2のサイズ剤として、ポリウレタン樹脂の水分散体(第一工業製薬(株)製“スーパーフレックス” (登録商標)361:被膜伸度1000%)を用いた(実施例7)、あるいは、ポリウレタン樹脂の水分散体(第一工業製薬(株)製“スーパーフレックス” (登録商標)E4800:被膜伸度720%)を用いた(実施例8)以外は、実施例6と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例6と同じ評価を行った。その結果、実施例6と同様、両者ともに優れた機械的強度を発現し、炭素繊維束のストランド引張強度に対しての強度発現率も高く、さらに、ソリや炭素単繊維の分布のムラもない、良好な表面品位の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物が得られた。
(実施例9、10)
実施例6において、第2のサイズ剤を用いて作製したサイズ処理液のサイズ剤濃度を変更し、第2のサイズ剤付着量を0.7%(実施例9)、あるいは1.9%(実施例10)としたこと以外は、実施例6と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例6と同じ評価を行った。その結果、実施例9では平板上の成形物表面にわずかに繊維の毛羽立ちが見られたものの、両者とも優れた機械的強度を発現し、炭素繊維束のストランド引張強度と比較しても、十分な強度発現率であった。
(比較例1、2)
実施例6において、炭素繊維束に施す電解処理を、濃度0.05mol/Lの硫酸水溶液を電解液として、1槽当たりの通電電気量を1C/g・槽とし、4槽繰り返すことにより該炭素繊維束を総電気量4C/gで処理した(比較例1)、あるいは、濃度0.05mol/Lの水酸化テトラエチルアンモニウム(以下、TEAHと称する)水溶液を電解液として、1槽当たりの通電電気量を25C/g・槽とし、4槽繰り返すことにより該炭素繊維束を総電気量100C/gで処理した(比較例2)以外は、実施例6と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例6と同じ評価を行った。各炭素繊維表面の第1級アミン濃度は、比較例1では0.05%、比較例2では2.4%であった。その他の機械的強度や品位の評価結果は、表1に示すように、両者ともソリや炭素単繊維の分布にムラもない、良好な表面品位の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物が得られたものの、比較例1では第1級アミン濃度が低いため、炭素繊維表面とポリアセタール樹脂との間にカップリング効果が十分に発揮されず、機械的強度が減少した。また、比較例2では、過度の電解処理を施したため、炭素繊維そのもの強度が減少したため、結果として炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物の強度が十分に発現されなかった。
(比較例3、4)
実施例6において、炭素繊維束に電解処理した後に付与する第1のサイズ剤をビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“jER”(登録商標)828:エポキシ基数2、エポキシ当量189)を用いた(比較例3)、あるいは、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(吉村油化学(株)“ユカレジン” (登録商標):エポキシ基数3、エポキシ当量475)を用いた(比較例4)以外は、実施例6と同様にして炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物を得、実施例2と同じ評価を行った。その結果、表1に示すように、両者ともソリや炭素単繊維の分布にムラもない、良好な表面品位の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂の成形物が得られたものの、機械的強度が低いものであった。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、機械的強度、成形時の流動・分散性に優れた炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法に関するものであり、かかる炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料から得られる成形物の用途としては、強度や成形性が求められる電気・電子部品や自転車部品、自動車部品、その他種々の機械部品などがある。中でも、ギアや軸受けなどの
構造部材として特に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束に、炭素繊維表面の第1級アミン濃度が0.2%〜2.0%となるよう電解表面処理を行い、分子内にエポキシ基を3〜6個有し、かつ、エポキシ当量が100〜200である脂肪族ポリエポキシ樹脂を主成分とする第1のサイズ剤を付与した後、ポリアセタール樹脂と複合する炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【請求項2】
第1のサイズ剤を付与した後、さらに被膜伸度が700%〜1700%であるポリウレタン樹脂を含む第2のサイズ剤を付与する請求項1に記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記電解表面処理をアンモニウムイオンを含む水溶液中で行う請求項1または2に記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【請求項4】
第1(及び第2)のサイズ剤を付与した後、炭素繊維束を0.1〜10mmに切断した炭素繊維チョップドストランドとし、ポリアセタール樹脂と複合する請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【請求項5】
第1(及び第2)のサイズ剤を付与した炭素繊維束にポリアセタール樹脂を含浸し樹脂含浸ストランドを得た後、1〜50mmの長さに切断しペレット状とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。
【請求項6】
第1(及び第2)のサイズ剤を付与した炭素繊維束を併行に引き揃えシート状としたうえで溶融したポリアセタール樹脂を含浸、冷却することによりシート状とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化ポリアセタール樹脂成形材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−57779(P2011−57779A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206826(P2009−206826)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】