説明

炭素繊維複合金属材料及びその製造方法

【課題】 カーボンナノファイバーが均一に分散されると共に、剛性を向上させた、炭素繊維複合金属材料及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 炭素繊維複合金属材料の製造方法は、エラストマー30と、補強用フィラー50と、カーボンナノファイバー40と、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、炭素繊維複合材料のエラストマーを、金属材料と置換する工程(b)と、を含み、補強用フィラー50は、少なくとも金属材料の剛性を向上させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合金属材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノファイバーを用いた複合材料が注目されている。このような複合材料は、カーボンナノファイバーを含むことで、機械的強度などの向上が期待されている。しかしながら、カーボンナノファイバーは相互に強い凝集性を有するため、複合材料の基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることが非常に困難とされている。そのため、現状では、所望の特性を有するカーボンナノファイバーの複合材料を得ることが難しく、また、高価なカーボンナノファイバーを効率よく利用することができない。
【0003】
また、金属の複合材料の鋳造方法として、酸化物系セラミックスからなる多孔質成形体内にマグネシウム蒸気を浸透、分散させ、同時に窒素ガスを導入することで、多孔質成形体内に金属溶湯を浸透させるようにした鋳造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、従来の酸化物系セラミックスからなる多孔質成形体に金属溶湯を浸透させる鋳造方法は、複雑な処理を行うため、工業上の生産は困難である。
【特許文献1】特開平10−183269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノファイバーが均一に分散されると共に、剛性を向上させた、炭素繊維複合金属材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる炭素繊維複合金属材料は、金属材料と、少なくとも該金属材料の剛性を向上させる補強用フィラーと、カーボンナノファイバーとからなることを特徴とする。
【0006】
また、本発明にかかる炭素繊維複合金属材料の製造方法は、エラストマーと、補強用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、
前記炭素繊維複合材料の前記エラストマーを、金属材料と置換する工程(b)と、
を含み、
前記補強用フィラーは、少なくとも前記金属材料の剛性を向上させることを特徴としている。
【0007】
本発明の炭素繊維複合材料においては、後述する理由によって基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーがさらに均一に分散されたものとなる。特に分散されにくいとされていた直径が約30nm以下のカーボンナノファイバーや、湾曲繊維状のカーボンナノファイバーであっても、エラストマー中に均一に分散されたものとなる。したがって、カーボンナノファイバーが均一に分散された炭素繊維複合材料を用いて得られた炭素繊維複合金属材料は、同様にカーボンナノファイバーが均一に分散されたものとなる。
【0008】
また、比較的少量のカーボンナノファイバーを含むことによって金属材料の強度は大きく向上させ、剛性については、金属材料の剛性を向上させる補強用フィラーをカーボンナノファイバーと共に混合させることにより、強度と共に剛性をも向上させることができる。金属材料の剛性を向上させる補強用フィラーは、比較的安価で入手可能であるため、剛性を向上させるためにカーボンナノファイバーを大量に用いることなく所望の剛性を有する炭素繊維複合金属材料を得ることができる。
【0009】
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよい。原料エラストマーとしては、ゴム系エラストマーの場合、未架橋体が用いられる。熱可塑性エラストマーの内、特にエチレンプロピレンゴム(EPDM)は、カーボンナノファイバーが分散されにくいが、本発明においては、補強用フィラーによるカーボンナノファイバーの分散効果によって均一に分散させることができる。
【0010】
本発明の製造方法によれば、エラストマーの不飽和結合または基が、カーボンナノファイバーの活性な部分、特にカーボンナノファイバーの末端のラジカルと結合することにより、カーボンナノファイバーの凝集力を弱め、その分散性を高めることができる。さらに、粒子状の補強用フィラーを含むエラストマーを用いることで、カーボンナノファイバーを剪断力で分散させる際に、補強用フィラーのまわりにエラストマーの乱流状態の流動が発生する。この流動によって、本発明の炭素繊維複合材料は、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーがさらに均一に分散されたものとなる。特に分散されにくいとされていた直径が約30nm以下のカーボンナノファイバーや、湾曲繊維状のカーボンナノファイバーであっても、エラストマー中に均一に分散されたものとなる。
【0011】
前記エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程(a)は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いて行うことができる。
【0012】
前記炭素繊維複合材料の前記エラストマーを、金属材料と置換する工程(b)は、
(b-1)前記炭素繊維複合材料の粒子と前記金属材料の粒子とを混合した後、粉末成形する方法、
(b-2)前記炭素繊維複合材料と流体状態の前記金属材料とを混合した後、固化する方法、
(b-3)前記炭素繊維複合材料に、前記金属材料の溶湯を浸透させて前記エラストマーを前記金属材料の溶湯と置換する方法、などを用いて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合金属材料は、金属材料と、少なくとも該金属材料の剛性を向上させる補強用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を含む。
【0015】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合金属材料の製造方法は、エラストマーと、補強用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、前記炭素繊維複合材料の前記エラストマーを、金属材料と置換する工程(b)と、を含み、前記補強用フィラーは、少なくとも前記金属材料の剛性を向上させるものである。
【0016】
エラストマーは、例えば、カーボンナノファイバーと親和性が高いことの他に、分子長がある程度の長さを有すること、柔軟性を有すること、などの特徴を有することが望ましい。また、エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、できるだけ高い剪断力で混練されることが望ましい。
【0017】
(A)まず、エラストマーについて説明する。
【0018】
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0019】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバー相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0020】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0021】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0022】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかる炭素繊維複合材料は中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0023】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバー、特にその末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0024】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。
【0025】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特にエチレンプロピレンゴム(EPDM)においてカーボンナノファイバーを分散させにくいことが本発明者によって確認されている。
【0026】
(B)次に、補強用フィラーについて説明する。
【0027】
補強用フィラーは、少なくとも金属材料の剛性を向上させるものである。
【0028】
また、補強用フィラーは、エラストマー中に混合し、分散させておいて、カーボンナノファイバーを混合させるときにカーボンナノファイバーをさらに良好に分散させるものである。
【0029】
本実施の形態の炭素繊維複合金属材料は、補強用フィラーを10〜40体積%含むことが好ましい。補強用フィラーが10体積%未満であると、金属材料の剛性の向上という効果が得られない。また、補強用フィラーが40体積%を超えると、加工が困難となる。
【0030】
補強用フィラーとしては、粒子状の補強用フィラーと繊維状の補強用フィラーがある。粒子状の補強用フィラーの場合、特に工程(a)における混合の際に補強用フィラーの周りに生じる複雑な流動により、カーボンナノファイバーをエラストマー中により均一に分散させることができる。上述したEPDMのように、比較的カーボンナノファイバーの分散性の低いものでも粒子状の補強用フィラーによって均一に分散させることができる。粒子状の補強用フィラーは、使用するカーボンナノファイバーの平均直径よりも大きい平均粒径であることが好ましい。また、粒子状の補強用フィラーの平均粒径は500μm以下、好ましくは1〜300μmである。また、粒子状の補強用フィラーの形状は、球形粒状に限らず、混合時に補強用フィラーのまわりに乱流状の流動が発生する形状であれば平板状、りん片状であってもよい。
【0031】
粒子状の補強用フィラーとしては、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの酸化物、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン、炭化ホウ素(BC)などの炭化物、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの窒化物を含むセラミックス粉、モンモリロナイト、マイカ、ウスタイト、マグネタイト、非晶質ケイ酸塩などの鉱物塩、炭素、ガラスなどの無機粉体、クロム、銅、ニッケル、モリブデン、タングステンなどの金属粉、及びこれらの混合物などを用いることができる。
【0032】
繊維状の補強用フィラーとしては、アルミナ、マグネシア、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの酸化物の繊維、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン、炭化ホウ素(BC)などの炭化物の繊維、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの窒化物を含むセラミックス繊維、炭素、ガラスなどの無機繊維、クロム、銅、ニッケル、モリブデン、タングステンなどの金属繊維、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭素、チタン酸カリウム、酸化チタン、アルミナなどのウィスカー、及びこれらの混合物などを用いることができる。
【0033】
補強用フィラーが例えば酸化物である場合、アルミニウム溶湯を浸透させたときに、エラストマーが熱分解されて発生したラジカルなどによって表面にある酸化物を還元して補強用フィラーと金属材料の溶湯の濡れ性が改善して結合力を強固にすることができる。このように補強用フィラーが表面に酸化物を有する場合には、上述のような好ましい効果を有する。
【0034】
(C)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
【0035】
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましいく、炭素繊維複合金属材料の強度を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
【0036】
カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できる。本実施の形態の炭素繊維複合材料は、金属の複合材料の原料として用いられる。本実施の形態の炭素繊維複合材料を金属の複合材料の原料として用いるときは、カーボンナノファイバーを0.01〜50重量%の割合で含むことができる。かかる金属の複合材料の原料は、金属にカーボンナノファイバーを混合する際に、カーボンナノファイバーの供給源としてのいわゆるマスターバッチとして用いる。
【0037】
また、例えば、マトリクスとなる金属材料をアルミニウムとし、窒素雰囲気中において非加圧浸透法によって炭素繊維複合材料のエラストマーをアルミニウムと置換した(工程(b))場合、カーボンナノファイバーの周囲にはアルミニウムの窒化物が生成される。この窒化物の生成量は、カーボンナノファイバーの量に比例する。カーボンナノファイバーが炭素繊維複合金属材料の6体積%を越えると、金属材料が全て窒化物となってしまうため、補強用フィラーを入れても剛性を向上させる効果が得られない。したがって、このように金属材料が工程(b)の間に窒化される場合は、カーボンナノファイバーの配合量を6体積%以下とすることが好ましい。
【0038】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0039】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0040】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0041】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0042】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0043】
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0044】
(D)次に、エラストマーにカーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させる工程について説明する。
【0045】
本実施の形態では、エラストマーに補強用フィラー及びカーボンナノファイバーを混合させる工程として、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いた例について述べる。
【0046】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内に補強用フィラー50を加えて、さらに第1,第2のロール10,20を回転させることにより、エラストマー30と、補強用フィラー50と、を混合する工程が行われる。ついで、このエラストマー30と補強用フィラー50とが混合されたバンク32内にカーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させる。さらに、第1,第2ロール10,20の間隔を狭めて前述した間隔dとし、この状態で第1,第2ロール10,20を所定の表面速度比で回転させる。これにより、エラストマー30に高い剪断力が作用し、この剪断力によって凝集していたカーボンナノファイバーが1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。さらに、粒子状の補強用フィラーを用いた場合、ロールによる剪断力はエラストマー内に分散された補強用フィラーのまわりに乱流状の流動を発生させる。この複雑な流動によってカーボンナノファイバーはさらにエラストマー30に分散される。なお、補強用フィラー50の混合前に、エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを先に混合すると、カーボンナノファイバー40にエラストマー30の動きが拘束されてしまうため、補強用フィラー50を混合することが難しくなる。したがって、エラストマー30にカーボンナノファイバー40を加える前もしくはカーボンナノファイバーと同時に補強用フィラー50を混合する工程を行うことが好ましい。
【0047】
また、この工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。オープンロール法を用いた場合には、ロールの温度を上記の温度に設定することが望ましい。第1,第2ロール10,20の間隔dは、もっとも狭めた状態においても補強用フィラー50の平均粒径よりも広く設定することで、エラストマー30中のカーボンナノファイバー40の分散を良好に行うことができる。
【0048】
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0049】
また、エラストマー中に所定量の粒子状の補強用フィラーが含まれていることで、補強用フィラーのまわりに発生するエラストマーの乱流のような幾通りもの複雑な流動によって、個々のカーボンナノファイバー同士を引き離す方向にも剪断力が働くことになる。したがって、直径が約30nm以下のカーボンナノファイバーや湾曲繊維状のカーボンナノファイバーであっても、個々に化学的相互作用によって結合したエラストマー分子のそれぞれの流動方向へ移動するため、エラストマー中により均一に分散されることになる。
【0050】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。
【0051】
上述したエラストマーに補強用フィラーとカーボンナノファイバーとを分散させて両者を混合させる工程(混合・分散工程)によって得られた炭素繊維複合材料は、架橋剤によって架橋させて成形するか、もしくは架橋させずに成形することができる。このときの成形方法は、例えば圧縮成形工程や押出成形工程などを行って炭素繊維複合材料を用いた成形品を得ることができる。圧縮成形工程は、例えば補強用フィラーとカーボンナノファイバーとが分散した炭素繊維複合材料を、所定温度(例えば175℃)に設定された所望形状を有する成形金型内で所定時間(例えば20分)加圧状態で成形する工程を有する。
【0052】
エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。また、補強用フィラーと同時にもしくは別途、金属材料をあらかじめエラストマーと混合しておいて混練された炭素繊維複合材料を、例えば金属材料の融点以上に加熱された金型内で圧縮していわゆる焼結(粉末成形)することによって、炭素繊維複合金属材料を得ることもできる。この場合、焼結の際にエラストマーが気化すると共に、エラストマーと金属材料が置換される。
【0053】
(E)次に、上記方法によって得られた炭素繊維複合材料について述べる。
【0054】
本実施の形態の炭素繊維複合材料は、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。特に、補強用フィラーを含むエラストマーにカーボンナノファイバーを混合した場合には、カーボンナノファイバーを含むエラストマーの場合より、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)が短くなる。
【0055】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。特に、補強用フィラーを含むエラストマーにカーボンナノファイバーを混合した場合には、カーボンナノファイバーを含むエラストマーの場合より、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は小さくなる。
【0056】
以上のことから、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0057】
すなわち、未架橋体の炭素繊維複合材料において、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0058】
本実施の形態の炭素繊維複合材料は、既述したように、エラストマー系材料として用いることができ、金属などの複合材料の原料として用いることができる。カーボンナノファイバーは、通常、相互に絡み合って媒体に分散しにくい性質を有する。しかし、本実施の形態の炭素繊維複合材料を金属の複合材料の原料として用いると、カーボンナノファイバーがエラストマーに既に分散した状態で存在するので、この原料と金属などの媒体とを混合することでカーボンナノファイバーを媒体に容易に分散することができる。
【0059】
(F)次に、炭素繊維複合金属材料の製造工程(b)について説明する。
【0060】
(粉末成形方法)
炭素繊維複合金属材料の製造工程(b)は、上記実施の形態で得られた炭素繊維複合材料の粒子と金属材料の粒子とを混合した後、粉末成形する工程(b−1)によって実施することができる。具体的には、例えば上記実施の形態で得られた炭素繊維複合材料の粒子と金属材料の粒子とを混合した後、その混合物を型内で圧縮し、金属材料の焼結温度(例えば金属粒子がアルミニウムの場合550℃)で焼成して炭素繊維複合金属材料を得ることができる。なお、この粉末成形工程において、炭素繊維複合材料のエラストマーは、焼結温度で分解され、除去され、金属材料と置換される。
【0061】
本実施の形態における粉末成形は、金属の成形加工における粉末成形と同様であり、いわゆる粉末冶金を含む。なお、焼結法としては、一般的な焼結法の他、プラズマ焼結装置を用いた放電プラズマ焼結法(SPS)などを採用することができる。
【0062】
また、炭素繊維複合材料と金属材料の粒子との混合は、ドライブレンド、湿式混合などを採用できる。湿式混合の場合、溶剤中の金属材料の粒子に対して、炭素繊維複合材料を混ぜる(湿式混合)ことが望ましい。炭素繊維複合材料は、混合に際してあらかじめ冷凍粉砕などによって粒子状に粉砕しておくことが望ましい。
【0063】
このような粉末成形によって製造された炭素繊維複合金属材料は、カーボンナノファイバーをマトリクスとなる金属材料中に分散させた状態で得られる。炭素繊維複合材料と金属材料の粒子との配合割合を調整することで、望ましい物性を有する炭素繊維複合金属材料を製造することができる。
【0064】
(鋳造方法)
炭素繊維複合金属材料の製造工程(b)は、上記実施の形態で得られた炭素繊維複合材料と流体状態の金属材料とを混合した後、固化する鋳造工程(b−2)によって実施することができる。鋳造工程は、例えば鋼製の鋳型内に金属溶湯を注湯して行う金型鋳造法、ダイカスト法、低圧鋳造法を採用することができる。またその他特殊鋳造法に分類される、高圧化で凝固させる高圧鋳造法、溶湯を攪拌するチクソカスティング、遠心力で溶湯を鋳型内へ鋳込む遠心鋳造法などを採用することができる。これらの鋳造法においては、金属溶湯の中に炭素繊維複合材料を混合させたまま鋳型内で凝固させ、炭素繊維複合金属材料を成形する。なお、この鋳造工程において、炭素繊維複合材料のエラストマーは、金属溶湯の熱によって分解され、除去され、金属材料と置換される。
【0065】
鋳造工程に用いる金属溶湯は、通常の鋳造加工に用いられる金属例えば鉄及びその合金、アルミニウム及びその合金、マグネシウム及びその合金、銅及びその合金、亜鉛及びその合金などから用途に合わせて単独でもしくは組み合わせて適宜選択することができる。また、金属溶湯に用いられる金属材料は、炭素繊維複合材料にあらかじめ混合された補強用フィラーによって剛性の向上するものであり、製品である炭素繊維複合金属材料における強度を向上させることができる。
【0066】
(浸透法)
炭素繊維複合金属材料の製造工程(b)は、上記実施の形態で得られた炭素繊維複合材料に、金属材料の溶湯を浸透させて前記エラストマーを金属材料の溶湯と置換する浸透法(b−3)によって実施することができる。本実施の形態では、炭素繊維複合材料に溶湯を浸透させるいわゆる非加圧浸透法を用いて鋳造する工程について、図2及び図3を用いて詳細に説明する。
【0067】
図2及び図3は、非加圧浸透法によって炭素繊維複合金属材料を製造する装置の概略構成図である。上記実施の形態で得られた炭素繊維複合材料は、例えば最終製品の形状を有する成形金型内であらかじめ圧縮成形された炭素繊維複合材料4を使用することができる。炭素繊維複合材料4は、架橋されていないことが好ましい。架橋されていないことで、金属溶湯の浸透速度が速くなるためである。図2において、密閉された容器1内には、あらかじめ成形された炭素繊維複合材料4(例えば架橋されていないエラストマー30に補強用フィラー例えばアルミナ粒子50及びカーボンナノファイバー40を混入)が入れられる。その炭素繊維複合材料4の上方に金属塊例えばアルミニウム塊5を配置される。次に、容器1に内蔵された図示せぬ加熱手段によって、容器1内に配置された炭素繊維複合材料4及びアルミニウム塊5をアルミニウムの融点以上に加熱する。加熱されたアルミニウム塊5は、溶融してアルミニウム溶湯(金属溶湯)となる。また、アルミニウム溶湯に接触した炭素繊維複合材料4中のエラストマー30は、分解されて気化し、エラストマー30が分解されてできた空所にアルミニウム溶湯(金属溶湯)が浸透する。
【0068】
本実施の態様の炭素繊維複合材料4としては、エラストマー30が分解されてできた空所が毛細管現象によってアルミニウム溶湯をより早く全体に浸透させることができる。アルミニウム溶湯は、還元されることで濡れ性の改善されたアルミナ粒子50間に毛細管現象によって浸透し炭素繊維複合材料の内部まで完全にアルミニウム溶湯が満たされる。そして、容器1の加熱手段による加熱を停止させ、混合材料4中に浸透した金属溶湯を冷却・凝固させ、図3に示すようなカーボンナノファイバー40が均一に分散された炭素繊維複合金属材料6を製造することができる。鋳造工程に用いられる炭素繊維複合材料4は、あらかじめ鋳造工程で使用される金属溶湯と同じ金属の補強用フィラーを用いて成形されていることが好ましい。このようにすることで、金属溶湯と補強用フィラーとが混ざりやすく均質な金属を得られる。
【0069】
また、容器1を加熱する前に、容器1の室内を容器1に接続された減圧手段2例えば真空ポンプによって脱気してもよい。さらに、容器1に接続された不活性ガス注入手段3例えば窒素ガスボンベから窒素ガスを容器1内に導入してもよい。
【0070】
補強用フィラーとして例えば酸化物のアルミナ粒子42は、アルミニウム溶湯との濡れ性がよくないことが知られているが、本実施の形態においては、両者の濡れ性は良好なものとなる。それは、アルミニウム溶湯を浸透させたときに、熱分解されたエラストマーの分子先端はラジカルになり、そのラジカルによってアルミニウム塊5及びアルミナ粒子42の表面を還元されると考えられる。したがって、本実施の形態においては、炭素繊維複合材料に含まれるエラストマーの分解によって内部まで還元雰囲気を生成させることができるので、従来のように還元雰囲気の処理室を用意しなくても非加圧浸透法による鋳造を実施できる。このように、還元されたアルミナ粒子の表面と、浸透したアルミニウム溶湯の濡れ性は改善され、より均質に一体化した金属材料もしくはその金属材料を用いた成形品を得ることができる。また、アルミニウム溶湯の浸透による流動がカーボンナノファイバーをアルミナ粒子内まで侵入させることになる。さらに、分解されたエラストマー分子のラジカルによってカーボンナノファイバーの表面が活性化して、アルミニウム溶湯との濡れ性が向上する。このようにして得られた炭素繊維複合金属材料は、アルミニウムのマトリックス内に均一に分散したカーボンナノファイバーを有する。なお、この鋳造工程を不活性雰囲気中で行うことで、アルミニウム溶湯の酸化が防止され、よりアルミナ粒子との濡れ性がよくなる。
【0071】
鋳造工程(浸透法)を窒素雰囲気下で行う場合には、カーボンナノファイバーの周囲の金属材料が窒化されることが本発明者の研究で判明している。このような窒化物は、カーボンナノファイバーの混合量に比例し、炭素繊維複合金属材料中のカーボンナノファイバーが6体積%を超えると、金属材料の全てが窒化物になる。金属材料の全てが窒化されてしまうと、補強用フィラーによる剛性の向上は得られない。したがって、このように鋳造工程(浸透法)を窒素雰囲気下で行う場合には、カーボンナノファイバーの量は、炭素繊維複合金属材料中6体積%以下が好ましい。
【0072】
以上のようにして得られた炭素繊維複合金属材料は、カーボンナノファイバーが均一に分散されることで強度が向上し、補強用フィラーによって剛性も向上させることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
(実施例1〜10、比較例1〜3)
(1)サンプルの作製
(a)炭素繊維複合材料の作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す所定量(体積%)の天然ゴム(NR)を投入して、ロールに巻き付かせた。
【0075】
第2の工程:NRに対して表1に示す量(体積%)の補強用フィラーをNRに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。なお、投入した補強用フィラーの種類については後述する。
【0076】
第3の工程:次に、補強用フィラーを含むNRに対して表1に示す量(体積%)のカーボンナノファイバー(表1では「CNT」と記載する)をNRに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0077】
第4の工程:カーボンナノファイバーを投入し終わったら、NRとカーボンナノファイバーとの混合物をロールから取り出した。
【0078】
第5の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0079】
第6の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
【0080】
このようにして、実施例1〜10の炭素繊維複合材料(未架橋サンプル)を得た。また、第2の工程を省いて、比較例1,3の炭素繊維複合材料(未架橋サンプル)を得た。
【0081】
(b)炭素繊維複合金属材料の作製
前述の工程(a)の実施例1〜10で得られた炭素繊維複合材料を容器(炉)内に配置させ、アルミニウム塊(地金)をその上に置き、不活性ガス(窒素)雰囲気中でアルミニウムの融点まで加熱した。アルミニウム塊は溶融し、アルミニウム溶湯となり、未架橋サンプルのNRと置換するように金属溶湯が浸透した。アルミニウムの溶湯を浸透させた後、これを自然放冷して凝固させ、炭素繊維複合金属材料を得た。
【0082】
また、比較例2として、アルミニウム単体のサンプルを用いた。
【0083】
なお、実施例1〜10において、カーボンナノファイバーは平均直径(繊維径)が約13nmのものを用い、アルミニウム塊はAC3C合金を用いた。また、補強用フィラーは、平均粒径28nmのカーボンブラック、平均粒径30μmのアルミナ粒子、平均粒径10μmの炭化ケイ素粒子、平均粒径13μmのタングステン粒子、平均直径28μmの炭素繊維、平均直径250μmのアルミナ短繊維、平均直径100μmの炭化ケイ素短繊維、平均直径10μmのステンレス繊維、平均直径200nmのボロンウィスカー、平均直径150nmの炭化ケイ素ウイスカーを用いた。
【0084】
(2)パルス法NMRを用いた測定
各未架橋サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は150℃であった。この測定によって、原料エラストマー単体、複合材料の未架橋サンプルの第1スピン−スピン緩和時間(T2n)と、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)と、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)と、を求めた。なお、原料エラストマー単体については、測定温度が30℃の場合における原料エラストマー単体の第1スピン−スピン緩和時間(T2n)についても求めた。測定結果を表1に示す。実施例1〜10における第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は、検出されなかった。従って、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、0(ゼロ)であった。
【0085】
(3)引張強度、圧縮耐力、弾性係数の測定
実施例1〜10及び比較例1〜3のサンプルについて、引張強度(MPa)、弾性係数(GPa)をJIS Z 2241に従って測定した。また、圧縮耐力(MPa)は、10×10×5(厚さ)mmの試料を0.5mm/secの速度で加圧して、0.2耐力(σ0.2)を測定した。これらの結果を表1及び表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1から、本発明の実施例1〜10によれば、以下のことが確認された。すなわち、補強用フィラー及びカーボンナノファイバーを含む炭素繊維複合材料における150℃での第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)は、補強用フィラー及びカーボンナノファイバーを含まない原料エラストマーの場合に比べて短い。また、補強用フィラー及びカーボンナノファイバーを含む炭素繊維複合材料における150℃での第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn/150℃)は存在せず、成分分率(fnn/150℃)は補強用フィラー及びカーボンナノファイバーを含まない原料エラストマーの場合に比べて小さい。これらのことから、実施例にかかる炭素繊維複合材料では、カーボンナノファイバーが良く分散されていることがわかる。
【0089】
アルミニウム塊そのものである比較例2と、カーボンナノファイバーを加えた比較例1,3を比べると、比較例1,3の引張強度及び圧縮耐力は向上するものの、弾性係数はあまり向上していない。しかしながら、実施例1〜10の炭素繊維複合金属材料の弾性係数が大きく向上していることから、カーボンナノファイバーによる強度の向上に加え、補強用フィラーによる剛性の向上が得られたことがわかる。
【0090】
図4は、実施例2の炭素繊維複合金属材料の破断面を撮影したSEM像である。図4における細い繊維状の部分が、直径約13nmであってかつ湾曲繊維状のカーボンナノファイバーである。図4に見られるカーボンナノファイバーは、その実際の直径よりも太くなっており、アルミニウムの窒化物がカーボンナノファイバーの表面を覆っていることがわかる。さらに、アルミニウムに覆われた無数のカーボンナノファイバーは、マトリックスであるアルミニウム中に分散され、ほとんど絡み合っていないことがわかる。この撮影条件は、加速電圧が7.0kVで、倍率が20.0kであった。
【0091】
以上のことから、本発明によれば、一般に基材への分散が非常に難しいカーボンナノファイバーがエラストマーに均一に分散されることが明かとなった。また、補強用フィラーをエラストマーに混合させることで、カーボンナノファイバー特に30nm以下の細いカーボンナノファイバーや湾曲して絡みやすいカーボンナノファイバーにおいても、十分に分散させることができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】非加圧浸透法によって炭素繊維複合金属材料を製造する装置の概略構成図である。
【図3】非加圧浸透法によって炭素繊維複合金属材料を製造する装置の概略構成図である。
【図4】本実施例で得られた炭素繊維複合金属材料のSEM像を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1 容器
2 減圧手段
3 注入手段
4 炭素繊維複合材料
5 アルミニウム塊
6 炭素繊維複合金属材料
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
50 補強用フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、補強用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、
前記炭素繊維複合材料の前記エラストマーを、金属材料と置換する工程(b)と、
を含み、
前記補強用フィラーは、少なくとも前記金属材料の剛性を向上させる、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記補強用フィラーを10〜40体積%含む、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記補強用フィラーは、アルミナである、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかおいて、
前記補強用フィラーは、粒子状であって、前記カーボンナノファイバーの平均直径よりも大きな平均粒径を有する、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記補強用フィラーの平均直径は500μm以下である、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、分子量が5000ないし500万である、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択されるカーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を少なくともひとつを有する、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒である、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いて行われる、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記オープンロール法は、2本のロールの表面速度比が1.05ないし3.00である、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、0ないし50℃で行われる、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
前記工程(b)は、前記炭素繊維複合材料の粒子と前記金属材料の粒子とを混合した後、粉末成形する、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
前記工程(b)は、前記炭素繊維複合材料と流体状態の前記金属材料とを混合した後、固化する、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
前記工程(b)は、前記炭素繊維複合材料に、前記金属材料の溶湯を浸透させて前記エラストマーを前記金属材料の溶湯と置換する、炭素繊維複合金属材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかの製造方法によって得られた、炭素繊維複合金属材料。
【請求項18】
金属材料と、少なくとも該金属材料の剛性を向上させる補強用フィラーと、カーボンナノファイバーとからなる、炭素繊維複合金属材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28587(P2006−28587A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209589(P2004−209589)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】