説明

炭素触媒及び炭素触媒の製造方法、燃料電池、蓄電装置、炭素触媒の使用方法

【課題】充分に高い触媒活性を有し、性能の高い触媒を実現する炭素触媒を提供する。
【解決手段】酸素が導入されている炭素触媒であって、表面の酸素原子の含有量が、表面の炭素原子に対して、原子比で0.02以上0.4以下である炭素触媒を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素触媒及び炭素触媒の製造方法に係わる。
また、本発明は、炭素触媒を使用した燃料電池、蓄電装置、並びに、炭素触媒の使用方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
白金等の貴金属系触媒は、現在、産業活動に大量に使用されている。
特に、燃料電池においては、多量の白金触媒を必要とするが、その白金触媒が高コストとなり、その普及の足かせとなっている。
そのため、白金を使用せずに触媒を形成する技術の開発が進められている。
【0003】
燃料電池に使用する触媒のうち、酸素還元活性に関しては、古くより窒素を含む炭素素材が研究されている(例えば、特許文献1〜特許文献4を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭47−21388号公報
【特許文献2】特開2004−330181号公報
【特許文献3】特開2006−331846号公報
【特許文献4】特開2007−207662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1〜特許文献4においては、窒素を含む炭素素材が酸素還元活性を有することが開示されているが、その素材の実用化のためには、高い触媒活性を有することが必要となる。
そのため、窒素含有量についても検討されているが、充分に高い触媒活性を有する所までには至っていない。
【0006】
また、前記特許文献2においては、1s軌道の電子の結合エネルギーが398.5±0.5eVである窒素原子と、1s軌道の電子の結合エネルギーが401±0.5eVである窒素原子の存在に言及しているものの、その存在比を特定していないため、性能の高い触媒を得ることができない。
【0007】
従って、炭素素材を用いて、高い触媒性能を実現する構成が要望されている。
【0008】
上述した問題の解決のために、本発明においては、充分に高い触媒活性を有し、性能の高い触媒を実現する、炭素触媒及び炭素触媒の製造方法を提供するものである。
また、この炭素触媒を使用した燃料電池、蓄電装置、並びに、炭素触媒の使用方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の炭素触媒は、酸素が導入されている炭素触媒であって、表面の酸素原子の含有量が、表面の炭素原子に対して、原子比で0.02以上0.4以下であるものである。
【0010】
上述の本発明の炭素触媒において、金属又は金属の化合物が含まれている構成とすることや、遷移金属又は遷移金属の化合物が含まれている構成とすることも可能である。
【0011】
本発明の一の炭素触媒の製造方法は、酸素を含有する炭素前駆体高分子を調製する工程と、炭素前駆体高分子を炭素化する工程とを有する。
【0012】
本発明の他の炭素触媒の製造方法は、炭素前駆体高分子を調製する工程と、炭素前駆体高分子を炭素化する工程と、炭素化した炭素前駆体高分子に酸素を付加する工程とを有する。
【0013】
上述した、本発明の一の炭素触媒の製造方法、及び、本発明の他の炭素触媒の製造方法において、さらに、炭素前駆体高分子を調製する工程で、金属原子を含む炭素前駆体高分子を調製することも可能である。
また、炭素前駆体高分子を調製する工程の後に、炭素前駆体高分子に金属又は金属の化合物を混合する工程を行い、金属又は金属の化合物と炭素前駆体高分子との混合物を炭素化することも可能である。
また、炭素前駆体高分子を調製する工程の後に、炭素前駆体高分子に遷移金属又は遷移金属の化合物を混合する工程を行い、遷移金属又は遷移金属の化合物と炭素前駆体高分子との混合物を炭素化することも可能である。
さらにまた、炭素化を300℃以上1500℃以下で行うことも可能である。
【0014】
本発明の燃料電池は、固体電解質と、この固体電解質を挟んで対向配置された電極とを含み、この電極の少なくとも一方に、上述した本発明の炭素触媒を有するものである。
本発明の蓄電装置は、電極材と、電解質とを含み、電極材が、上述した本発明の炭素触媒を備えているものである。
本発明の炭素触媒の使用方法は、上述した本発明の炭素触媒を使用して、炭素触媒の触媒作用によって化学反応を促進させる。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明の炭素触媒によれば、表面の酸素原子の含有量が、表面の炭素原子に対して、原子比で0.02以上0.4以下であることにより、高い活性を有する炭素触媒を実現することができる。
【0016】
上述の本発明の一の炭素触媒の製造方法によれば、酸素を含有する炭素前駆体高分子を調製し、この炭素前駆体高分子を炭素化するので、酸素が導入された、高い活性を有する炭素触媒を製造することができる。
上述の本発明の他の炭素触媒の製造方法によれば、炭素化した炭素前駆体高分子に酸素を付加する工程を有するので、酸素が導入された、高い活性を有する炭素触媒を製造することができる。
【0017】
そして、本発明の炭素触媒によれば、高い活性を有する炭素触媒を実現することができるため、資源量に限界のある白金等の高価な貴金属系触媒を用いることなく、資源量の豊富な低コストの炭素触媒によって、酸化還元反応等の化学反応を促進することが可能になる。
また、劣質石化資源を利用・活用することが可能になる。例えば、産出した石炭のうち、価値の低いものでも、本発明を適用して酸素を導入することにより、炭素触媒として活用することが可能になる。
【0018】
本発明の燃料電池又は本発明の蓄電装置によれば、電極用の触媒や電極材料として本発明の炭素触媒を使用するので、高性能を有する燃料電池や蓄電装置を、比較的低いコストで実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の炭素触媒は、酸素が導入されている炭素触媒である。
さらに、導入されている酸素について、表面の酸素原子の含有量が、表面の炭素原子に対して、原子比で0.02以上0.4以下であるものである。
【0020】
表面の酸素原子の含有量が表面の炭素原子に対して、0.02未満だと触媒活性が低くなる。一方、0.4超では炭素触媒の構造を維持することが困難になる。そのため、触媒活性も低くなると考えられる。
【0021】
このことについて、以下に補足説明する。
低活性型炭素触媒の場合(従来提案されている、窒素原子を導入した炭素触媒)と、高活性型炭素触媒の場合(本発明の炭素触媒)について、表面の酸素原子の表面の炭素原子に対する原子比の一例を、それぞれ表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1からわかるように、低活性型炭素触媒の場合には、酸素原子の原子比が0.016と小さいが、高活性型炭素触媒の場合には、酸素原子の原子比が0.111と、低活性型炭素触媒の7倍程度に大きくなっている。
【0024】
次に、これら表1に示した各炭素触媒について、それぞれ酸素還元活性を測定した結果を、図1に示す。図1の縦軸は電流密度を示し、図1の横軸は標準水素電極(NHE)に対する電圧Vを示している。
図1より、高活性型は、低活性型と比較して、電圧の変化による電流密度の変化が大きく、酸素還元活性が大きいことがわかる。
【0025】
本発明の炭素触媒には、金属又は金属の化合物が含まれていても良い。金属は炭素触媒の活性を阻害しない限り種類が限定されるものではないが、より好ましくは遷移金属であり、更に好ましくは、周期律表の3族から12族の第4周期に属する元素が挙げられる。このような遷移金属としてコバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)等が挙げられる。
なお、本発明においては、前記範囲内であれば、遷移金属以外の元素(例えば、ホウ素B等)が含まれていても良い。
【0026】
本発明の炭素触媒は、酸素を導入すること、並びに、炭素前駆体高分子を炭素化することにより、製造することができる。
酸素を導入する方法としては、酸素原子を構成元素として含む炭素前駆体高分子を用いても良いし、酸素原子を構成元素として含む炭素前駆体化合物を酸素を含まない炭素前駆体化合物に加えても良いし、炭素化後に酸素原子を導入しても良い。
また、これらの酸素を導入する方法の複数種類を組み合わせて行っても良い。
【0027】
上述のようにして炭素触媒を製造することにより、高い濃度で酸素原子を含有する炭素触媒が得られる。
形成された炭素触媒中の表面酸素原子の含有量は、前述したように、表面の炭素原子に対して、原子比で0.02以上0.4以下であることが好ましい。0.02未満だと触媒活性が低くなる。一方、0.4超では炭素触媒の構造を維持することが困難になる。そのため、触媒活性も低くなると考えられる。
ここで、表面の原子含有率を測定する方法として、XPS(X線光電子分光観察)等が挙げられる。
【0028】
次に、本発明の炭素触媒の製造方法について、以下に詳細に説明する。
【0029】
まず、炭素触媒を製造するための炭素前駆体高分子については、熱硬化によって炭素化が可能な高分子材料であれば、特に限定されるものではない。
例えば、ポリアクリロニトリル、キレート樹脂、セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリフルフリルアルコール、フラン樹脂、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリイミダゾール、メラミン樹脂、ピッチ、褐炭、ポリ塩化ビニリデン、ポリカルボジイミド、リグニン、石炭、バイオマス、タンパク質、フミン酸、ポリイミド、ポリアニリン、ポリピロール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。
【0030】
なお、炭素前駆体高分子には、熱硬化によって炭素化可能な高分子材料であれば、金属原子を含んでいても良い。
例えば、含酸素配位子重合物や、金属配位化合物等が挙げられる。
また、炭素化に不適な高分子材料であっても、架橋を促す高分子材料を混合又は共重合させることにより、本発明の炭素触媒の製造に適した炭素前駆体高分子を調製することができる。
【0031】
また、酸素原子を構成元素として含む炭素前駆体化合物を加えても良く、このような炭素前駆体化合物は、炭素化可能な化合物であれば、限定されるものではない。
例えば、ビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、フラン、フルフラール、フルフリルアルコール、フェノール、ピラン、オキサゾール、モルホリン、サレン、アセチルアセトン等を用いることができる。
【0032】
さらにまた、炭素前駆体高分子に金属又は金属の化合物を混合してもよい。金属は、炭素触媒の活性を阻害しない限り限定するものではないが、より好ましくは遷移金属であり、更に好ましくは周期律表の3族〜12族の第4周期に属する元素が挙げられる。このような遷移金属としてコバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)等が挙げられる。
また、金属の化合物としては、金属塩、水酸化物、酸化物、窒化物、硫化物、炭素化物、錯体等を用いることができ、より好ましくは塩化物、酸化物、錯体である。
【0033】
炭素前駆体高分子、又は炭素前駆体高分子−金属間化合物の形状は、炭素触媒の活性を有する限り特に限定はされない。
例えば、シート状、繊維状、ブロック状、粒子状等が挙げられる。
【0034】
次に、炭素前駆体として、熱硬化性に乏しい高分子材料を用いる場合、不融化を行うことができる。
この不融化の操作により、炭素前駆体の融点又は軟化点以上の温度であっても、樹脂の構造を維持することができる。不融化の処理は、公知の方法により行うことができる。
【0035】
炭素前駆体は、300℃以上1500℃以下、好ましくは400℃以上1200℃以下において、5分から180分、好ましくは20分から120分間保持して炭素化する。
このとき、窒素等の不活性ガス流通下で炭素化しても良い。炭素化温度が300℃未満であると炭素前駆体高分子の炭素化が不充分であり、また、1500℃を超えると炭素化が進み触媒活性が著しく低下する。
また、保持時間が5分未満では、炭素前駆体を均一に熱処理することができない。また、保持時間が180分を超えると、触媒活性が著しく低下する。
【0036】
また、炭素化後に酸素原子を導入することもできる。
このとき、酸素原子を導入する方法としては、液相ドープ法、気相ドープ法、又は、気相−液相ドープ法を用いて行うことができる。例えば、炭素触媒に酸素源である二酸化炭素ガス雰囲気下で200℃以上800℃以下、5分以上180分以下保持することにより、熱処理して、炭素触媒の表面に酸素原子を導入することができる。
【0037】
炭素触媒に金属が含まれている場合、必要に応じて酸又は電解処理等によって除去することもできる。
炭素化後、金属は不要となる場合がある。そのような場合、必要に応じて炭素触媒を酸又は電解処理等によって除去する。特に、燃料電池用アノード触媒として用いる場合、金属が溶出し、酸素還元活性の低下と固体高分子膜を劣化させるため、使用前に除去する必要がある。
【0038】
このようにして作られた炭素触媒は、0.65Vvs.NHE(電流密度−10μA/cmのとき)以上の触媒活性を有する。
【0039】
本発明の炭素触媒は、様々な用途に使用することが可能である。
例えば、燃料電池や蓄電装置(電池、電気二重層キャパシタ等)を構成したり、化学反応一般用の触媒として使用したりすることが可能である。
【0040】
本発明の炭素触媒を使用して、燃料電池を構成する場合には、固体電解質と、その固体電解質を挟んで対向配置された2つ(一対)の電極触媒とから燃料電池を構成して、2つ(一対)の電極触媒のうち少なくとも一方に本発明の炭素触媒を使用する。
【0041】
本発明の炭素触媒を使用して、蓄電装置を構成する場合には、電極材と電解質とを含んで蓄電装置を構成して、電極材に本発明の炭素触媒を使用する。
【0042】
ここで、本発明の炭素触媒を使用した燃料電池の一実施の形態の概略構成図を、図2に示す。
この燃料電池10は、固体高分子電解質1を挟むように、対向配置された一対の電極触媒層2,3を有し、これら電極触媒層2,3のさらに外側に、それぞれ電極触媒層2,3を支持するための支持体4,5を有している。所謂、固体高分子形燃料電池(PFEC)と呼ばれている構成である。
図中左側の電極触媒層2は、アノード電極触媒層(燃料極)である。
図中右側の電極触媒層3は、カソード電極触媒層(酸化剤極)である。
【0043】
これら一対の電極触媒層2,3のうち、いずれか一方又は両方に、本発明の炭素触媒を使用して、燃料電池10を構成することができる。
【0044】
固体高分子電解質1としては、パーフルオロスルホン酸樹脂膜を代表とするフッ素系陽イオン交換樹脂膜を用いることができる。
【0045】
支持体4,5は、アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3を支持すると共に、燃料ガスHや酸化剤ガスO等の反応ガスの供給・排出を行うものである。
【0046】
なお、支持体4,5は、通常、外側のセパレータ及び内側(電解質側)のガス拡散層により構成されるが、炭素触媒の性状によっては、ガス拡散層を不要としてセパレータのみにより支持体を構成することが可能になる。例えば、比表面積が大きく、さらに、気体の拡散性が高い炭素触媒を電極触媒層に使用することにより、触媒層がガス拡散層の機能をも兼ねるため、ガス拡散層を省略することが可能になる。
セパレータは、例えば、反応ガスを通すための溝を形成した樹脂により、構成することができる。
ガス拡散層は、例えば、多孔質のシート(例えば、カーボンペーパー)により、構成することができる。このガス拡散層は、集電体としての機能も有している。
【0047】
本実施の形態の燃料電池10は、上述のように構成されているので、以下に説明するように動作する。
アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3にそれぞれ反応ガス(燃料ガスH、酸化剤ガスO)が供給されると、両電極触媒層2,3に備えられた炭素触媒と固体高分子電解質1との境界において、気相(反応ガス)、液相(固体高分子電解質膜)、固相(両電極が持つ触媒)の三相界面が形成される。
このとき、電気化学反応を生じさせることによって、直流電力が発生する。
【0048】
上記電気化学反応において、
アノード側:H→2H++2e
カソード側:O+4H++4e→2H2
の反応が起こり、アノード側で生成されたH+イオンは固体高分子電解質1中をカソード側に向かって移動し、e(電子)は外部の負荷を通ってカソード側に移動する。
一方、カソード側では酸化剤ガス中に含まれる酸素と、アノード側から移動してきたH+イオン及びeとが反応して水が生成される。
この結果、燃料電池10は、水素と酸素とから直流電力を発生し、水を生成することになる。
【0049】
本実施の形態の燃料電池10は、従来公知の固体高分子形燃料電池(PFEC)と同様にして、製造することができる。
例えば、本発明の炭素触媒を、アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3として固体高分子電解質1の両主面に形成して、固体高分子電解質1の両主面にホットプレスにより密着させることにより、MEA(Membrane Electrode Assembly)として一体化させることが可能である。
【0050】
上述の実施の形態の燃料電池10の構成によれば、アノード電極触媒層2及びカソード電極触媒層3の少なくとも一方に、高い活性を有する本発明の炭素触媒を使用するので、高い性能を有する燃料電池10を、白金触媒を使用した場合よりも充分に安いコストで実現することが可能になる。
【0051】
上述の実施の形態の燃料電池10は、本発明の燃料電池を固体高分子形燃料電池(PFEC)に適用した場合であった。
本発明の燃料電池は、炭素触媒を使用することが可能な燃料電池であれば、固体高分子形燃料電池(PFEC)に限らず、その他の種類の燃料電池にも適用することが可能である。
【0052】
次に、本発明の炭素触媒を使用した蓄電装置の一実施の形態として、電気二重層キャパシタの概略構成図を、図3に示す。
この電気二重層キャパシタ20は、セパレータ23を介して、分極性電極である第1の電極21及び第2の電極22が対向し、外装蓋24aと外装ケース24bの中に収容されて成る。
第1の電極21及び第2の電極22は、それぞれ集電体25を介して、外装蓋24aと外装ケース24bに接続されている。
また、セパレータ23には、電解液が含浸されている。
そして、ガスケット26を介して電気的に絶縁させた状態で、外装蓋24aと外装ケース24bとがかしめられることによって、内部が密封されている。
【0053】
本実施の形態の電気二重層キャパシタ20において、本発明の炭素触媒を、第1の電極21及び/又は第2の電極22に適用することができる。そして、電極材に炭素触媒が適用された電気二重層キャパシタを構成することができる。
【0054】
本発明の炭素触媒は、電解液に対して電気化学的に不活性であり、適度な電気導電性を有する。
このため、キャパシタの電極として適用することにより、電極の単位体積当たりの静電容量を向上させることができる。
【0055】
また、上述の実施の形態の電気二重層キャパシタ20と同様に、例えば、リチウムイオン二次電池の負極材等のように、炭素材料から構成される電極材として、本発明の炭素触媒を使用することができる。
【0056】
次に、本発明の炭素触媒を、白金等の貴金属を含む環境触媒の代替品として使用する場合について、説明する。
汚染空気に含まれる汚染物質を(主にガス状物質)等を分解処理により除去するための排ガス浄化用触媒として、白金等の貴金属系の材料が単独又は複合化物とされて構成された触媒材料による環境触媒が用いられている。
これらの白金等の貴金属を含む排ガス浄化用触媒の代替品として、本発明の炭素触媒を使用することができる。
これにより、白金等の高価な貴金属類を使用する必要がないため、低コストの環境触媒を提供することができる。また、比表面積が大きいことにより、単位体積あたりの被処理物質を分解する処理面積を大きくすることができ、単位体積当たりの分解機能が優れた環境触媒を構成できる。
【0057】
なお、本発明の炭素触媒を担体として、従来の環境触媒に使用されている白金等の貴金属系の材料が単独又は複合化物を担持させることにより、より分解機能等の触媒作用に優れた環境触媒を構成することができる。
なお、本発明の炭素触媒を備える環境触媒は、上述の排ガス浄化用触媒だけでなく、水処理用の浄化触媒として用いることもできる。
【0058】
本発明の炭素触媒は、広く一般の化学反応用の触媒としても使用することができる。
特に、白金等の貴金属を含む、化学工業用の一般的なプロセス触媒の代替品としても使用することができる。
【0059】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【0060】
<実施例>
酸素が導入された炭素触媒を、実際に作製して、その特性を調べた。
【0061】
(実施例1)
〔窒素化合物及びコバルト化合物添加ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体(PAN−co−PMA)の調製〕
ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体(以下、PAN−co−PMAとする)1.5gを、ジメチルホルムアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物1.5gと、アセチルアセトン1.5gとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを得た。
【0062】
〔不融化処理〕
次に、不融化処理を行った。
まず、得られた窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを、強制循環式乾燥機内にセットした。
そして、空気雰囲気下で、30分間で室温から150℃まで昇温し、続いて2時間かけて150℃から220℃まで昇温した。その後、200℃でそのまま3時間保持した。
このようにして、不融化処理を行った。
【0063】
〔炭素化処理〕
次に、炭素化処理を行った。
まず、不融化処理した窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素パージし、1.5時間かけて室温から900℃まで昇温した。
その後、900℃で1時間保持した。
このようにして、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAの炭素化処理を行った。
【0064】
〔粉砕処理〕
炭素化処理を行った後に、粉砕処理を行った。
まず、炭素化処理を行った窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを、遊星ボールミル(フリッチュ製;P−7)内に1.5mmΦのジルコニアボールと共にセットした。
そして、回転速度800rpmで、5分間粉砕処理を行った。
その後、遊星ボールミルから取り出して、目開き105μmの篩にかけた。この篩を通過したものを、実施例1の試料とした。
【0065】
(実施例2)
PAN−co−PMAとする1.5gを、ジメチルホルムアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物0.75gと、アセチルアセトン0.75gとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを得た。
得られた窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAに対して、不融化処理以降の工程を実施例1と同様に行い、炭素触媒を得て、実施例2の試料とした。
【0066】
(実施例3)
PAN−co−PMAとする1.5gを、ジメチルホルムアミド20gに溶解させた。その後、塩化コバルト六水和物1.5gと、アセチルアセトン0.75gとを加え、2時間攪拌して青色溶液を得た。
次に、この青色溶液を60℃で真空乾燥して、窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAを得た。
得られた窒素化合物及びコバルト化合物添加PAN−co−PMAに対して、不融化処理以降の工程を実施例1と同様に行い、炭素触媒を得て、実施例3の試料とした。
【0067】
(比較例1)
フルフリルアルコール(和光純薬工業(株)製)10gにメタノール(和光純薬工業(株)製)100mlを混合して混合溶液を調製し、この混合溶液に、コバルトフタロシアニン錯体(和光純薬工業(株)製)2.090gと、メラミン(和光純薬工業(株)製)7.499g加え、常温下でマグネチックスターラを用いて1時間撹拌した。
この混合物に、超音波を照射しながらロータリエバポレータを用いて60℃で溶媒を除去した。
その後、シャーレに移して、圧力0.1MPa及び温度80℃の窒素ガス雰囲気中に24時間保持して重合反応させて、コバルトフタロシアニン錯体及びメラミンを含有するポリフルフリルアルコール(炭素前駆体高分子)を合成した。
得られた炭素前駆体高分子に対して、炭素化処理以降の工程を実施例1と同様に行い、炭素触媒を得て、比較例1の試料とした。
【0068】
(比較例2)
導電性の高い炭素材料である、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)を用いて、これを比較例2の試料とした。
【0069】
(比較例3)
ケッチェンブラックEC600JD(ライオン社製)を用いて、アンモオキシデーション法により窒素を導入した。この操作により、炭素材料表面には微量ながら酸素も導入されている(表2参照)。
即ち、ケッチェンブラックEC600JDを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素ガスをパージし、20分間かけて室温から600℃まで昇温した後、アンモニアガス:Airガス=7:3の混合ガスに置換し600℃でそのまま2時間保持した。
このようにして、比較例3の試料を作製した。
【0070】
(比較例4)
導電性の高い炭素材料である、バルカンXC−72R(エレクトロケム社製)を用いて、これを比較例4の試料とした。
【0071】
(比較例5)
バルカンXC−72R(エレクトロケム社製)を用いて、アンモオキシデーション法により窒素を導入した。この操作により、炭素材料表面には微量ながら酸素も導入されている(表2参照)。
即ち、バルカンXC−72Rを石英管に入れ、楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉にて、20分間窒素ガスをパージし、20分間かけて室温から600℃まで昇温した後、アンモニアガス:Airガス=7:3の混合ガスに置換し600℃でそのまま2時間保持した。
このようにして、比較例5の試料を作製した。
【0072】
<特性の評価>
作製した各実施例及び各比較例の試料について、以下に説明するようにして、特性の測定を行った。
【0073】
(X線光電子分光観察(XPS))
Perkin Elmer社製ESCA5600を用いて、各試料についてXPS測定を行った。
【0074】
(表面の酸素原子の炭素原子に対する原子比)
XPS測定により得られたスペクトルの各ピークの面積と検出感度係数から、窒素、炭素、酸素の表面元素濃度を求めて、これにより、表面の酸素原子の炭素原子に対する比(酸素/炭素)の比の値を算出した。
【0075】
(酸素還元に関する電極活性試験)
酸素還元に関する電極活性を、3極回転電極セルを用いて測定した。
さらに、測定して得られた電極活性から、ボルタモグラム(図1に示したような、電圧と電流密度の関係)を作成した。
そして、このボルタモグラムから、電流密度が−10−2mA/cmの電圧を求めて、この電圧をEo2とし、電圧が0.7Vvs.NHEのときの還元電流密度を求めて、この還元電流密度を酸素還元活性値とした。
【0076】
各試料の測定結果として、Eo2、酸素還元活性値、表面の酸素原子と炭素原子との原子比を、それぞれ表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
図1からもわかるように、高活性型炭素触媒は、低活性型炭素触媒と比較して、Eo2が大きく、また、酸素還元活性値(ある電圧における電流密度の絶対値)も大きくなる。
【0079】
表2より、実施例1〜実施例3の試料は、各比較例の試料よりも、Eo2及び酸素還元活性値が大きくなっており、活性が高いことがわかる。
そして、表2より、実施例1〜実施例3の試料は、表面の酸素原子と炭素原子との比が、各比較例の試料よりも充分に大きくなっている。
【0080】
一方、各比較例の結果から、各実施例のような高い活性は得られていないことがわかる。
従って、各実施例の試料のように、表面の酸素原子と炭素原子との比が大きい構成とすることにより、高い活性が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】各炭素触媒の酸素還元活性を比較して示す図である。
【図2】本発明の燃料電池の一実施の形態の概略構成図である。
【図3】本発明の蓄電装置の一実施の形態の電気二重層キャパシタの概略構成図である。
【符号の説明】
【0082】
1 固体高分子電解質、2 アノード電極触媒層(燃料極)、3 カソード電極触媒層(酸化剤極)、4,5 支持体、10 燃料電池、20 電気二重層キャパシタ、21 第1の電極、22 第2の電極、23 セパレータ、24a 外装蓋、24b 外装ケース、25 集電体、26 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素が導入されている炭素触媒であって、
表面の酸素原子の含有量が、表面の炭素原子に対して、原子比で0.02以上0.4以下である
炭素触媒。
【請求項2】
金属又は金属の化合物が含まれている、請求項1に記載の炭素触媒。
【請求項3】
遷移金属又は遷移金属の化合物が含まれている、請求項2に記載の炭素触媒。
【請求項4】
酸素を含有する炭素前駆体高分子を調製する工程と、
前記炭素前駆体高分子を炭素化する工程とを有する
炭素触媒の製造方法。
【請求項5】
前記炭素前駆体高分子を調製する工程において、金属原子を含む炭素前駆体高分子を調製する、請求項4に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項6】
前記炭素前駆体高分子を調製する工程の後に、前記炭素前駆体高分子に金属又は金属の化合物を混合する工程を行い、前記金属又は前記金属の化合物と前記炭素前駆体高分子との混合物を炭素化する、請求項4又は請求項5に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項7】
前記炭素前駆体高分子を調製する工程の後に、前記炭素前駆体高分子に遷移金属又は遷移金属の化合物を混合する工程を行い、前記遷移金属又は前記遷移金属の化合物と前記炭素前駆体高分子との混合物を炭素化する、請求項4又は請求項5に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項8】
前記炭素化を300℃以上1500℃以下で行う、請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項9】
炭素前駆体高分子を調製する工程と、
前記炭素前駆体高分子を炭素化する工程と、
炭素化した前記炭素前駆体高分子に、酸素を付加する工程とを有する
炭素触媒の製造方法。
【請求項10】
前記炭素前駆体高分子を調製する工程において、金属原子を含む炭素前駆体高分子を調製する、請求項9に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項11】
前記炭素前駆体高分子を調製する工程の後に、前記炭素前駆体高分子に金属又は金属の化合物を混合する工程を行い、前記金属又は前記金属の化合物と前記炭素前駆体高分子との混合物を炭素化する、請求項9又は請求項10に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項12】
前記炭素前駆体高分子を調製する工程の後に、前記炭素前駆体高分子に遷移金属又は遷移金属の化合物を混合する工程を行い、前記遷移金属又は前記遷移金属の化合物と前記炭素前駆体高分子との混合物を炭素化する、請求項9又は請求項10に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項13】
前記炭素化を300℃以上1500℃以下で行う、請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の炭素触媒の製造方法。
【請求項14】
固体電解質と、
前記固体電解質を挟んで対向配置された電極とを含み、
前記電極の少なくとも一方に、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の炭素触媒を有する
燃料電池。
【請求項15】
電極材と、
電解質とを含み、
前記電極材が、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の炭素触媒を備えている
蓄電装置。
【請求項16】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の炭素触媒を使用して、
前記炭素触媒の触媒作用によって化学反応を促進させる、
炭素触媒の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−291707(P2009−291707A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147402(P2008−147402)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(591004733)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】