説明

炭酸カルシウムスラリーの製造方法

【課題】塗工用顔料及び抄紙用填料に使用される苛性化炭酸カルシウムスラリーにおいて、少なくとも特定の2種の分散剤を添加することにより、苛性化炭酸カルシウムに含有される未燃カーボン由来の黒色浮遊物を分散させ、且つ炭酸カルシウムの分散にも優れた炭酸カルシウムスラリーを提供する。
【解決手段】クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を苛性化する際に生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムスラリーを製造する方法において、少なくとも2種類の分散剤使用を特徴とした炭酸カルシウムスラリーの製造方法。また、該分散剤が少なくともカルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤1種、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル有機酸系のノニオン性界面活性剤、またはポリカルボン酸アンモニウム塩系のアニオン性界面活性剤の中から1種選択されたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を苛性化した際に生成する石灰スラッジから、塗工紙用顔料あるいは抄紙用填料として使用可能な炭酸カルシウムスラリーを製造する方法に関する。より詳しくは、不純物が極めて少なく、且つ分散性の良い高濃度の炭酸カルシウムスラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、塗工紙用顔料として、あるいは抄紙用填料として、従来から広く使用されている。この種の炭酸カルシウムは、化学的に合成して得られる軽質炭酸カルシウムと、天然より産出する石灰石を湿式粉砕した重質炭酸カルシウムとに大別することができる。軽質炭酸カルシウムは、炭酸ガス法によって製造するのが一般的であり、反応条件を変化させることによって、粒子径や形状をコントロールできる利点があるものの、重質炭酸カルシウムに比較して高価である。一方、重質炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムより安価であるばかりでなく、塗工組成物に高配合してもその塗工作業に支障をきたさないため、塗工紙用顔料として多用されている。
【0003】
ところで、炭酸ガス法を代表例とする合成法や天然鉱物に頼らない炭酸カルシウム源としては、クラフト法によるパルプ製造工程で副生される緑液を苛性化した際に生成する石灰スラッジがある。苛性化は、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液によって行われる。この石灰スラッジは、不定形の炭酸カルシウム粒子が凝集した塊状物であり、その主成分は炭酸カルシウムであるが、夾雑物や不純物を多く含んでいる。このため、石灰スラッジをそのまま粉砕して、塗工紙用顔料、あるいは抄紙用填料として使用すると夾雑物由来の欠点が発生し、その商品価値を著しく損なう。
【0004】
緑液を苛性化した際に生成する石灰スラッジに、夾雑物を持ち込まないようにする従来の技術としては、緑液の苛性化に先立ち、当該緑液中に空気を吹込み、夾雑する遊離カーボンなどの黒色浮遊物を凝集させて緑液を清澄化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、空気吹込みによって凝集させ得る成分は、緑液中の夾雑物の一部でしかないため、この方法では、高品質の炭酸カルシウムを回収する上で、一定の限界がある。
【0005】
また、抄紙用填料に使用できる炭酸カルシウムを石灰スラッジから製造する方法として、石灰スラッジに夾雑するシリカ及び不溶解物質含有量を所定量以下とした後、石灰スラッジを粉砕する方法が開示されている(例えば、特許文献2)。そして、シリカや不溶解物質の少ない石灰スラッジを取得する方法として、静置またはろ過手段による緑液の清澄化が記載されている。しかしながら、緑液の清澄化をどの程度進めれば、着色夾雑物が少ない高品質の炭酸カルシウムからなる石灰スラッジが得られるかを具体的に示していない。
【0006】
さらに、緑液200gを孔径1μmのガラス繊維製ろ紙に通過させ、ろ紙上に残るろ過残渣乾燥物を分光白色度測色計で測定した明度が50以上に保持されるように清澄化処理する工程と、小粒子化された石灰スラッジのスラリーをアルカリ成分の除去を目的とする水洗工程に供給し、排出されるろ液のpHが11.0以下になるまで洗浄し且つ脱水する工程とを組み合わせて、塗工紙用顔料を精製しようとする方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、苛性化工程は複雑であり、以降の工程からも不純分が混入してくるため、この方法によっても塗工紙用顔料として必要とされる白色度に到達することは困難である。
【0007】
さらに、緑液を65℃以上の温度でろ過して、緑液に含まれる固形不純物を予め除去した後、ろ液に生石灰を加えて消和を行って未反応物質を除去した後、液中の炭酸カルシウムを粉砕または粉砕することなく回収し、これを80℃以上の温水で洗浄した後、粉砕処理と酸化剤による漂白処理とを施すことからなる炭酸カルシウムの回収方法が記載されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この方法では、回収する炭酸カルシウムの粒度が微細すぎて、苛性化本来の目的である白液製造に大きな難点が生じてしまうという欠点がある。このようなことから、その実用化は困難である。
【0008】
一方、緑液を苛性化して生成する石灰スラッジの不純物をフローテーションによって分離する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、フローテーション工程を設けることによって設備コストが増加するという課題がある。
【0009】
これらの従来技術によって得られた炭酸カルシウムを塗工紙用顔料として適用する場合は、適当な粒子径まで粉砕処理を行うが、微粒子化するに伴い、苛性化反応由来のソーダ分等のアルカリ成分が溶出して、スラリーの増粘の問題を引き起こすことがある。よって、粉砕作業に支障をきたすことから、湿式粉砕する際に、顔料分散液のpHが8.0〜12.0となるように炭酸ガスを直接吹込むことで、少ない分散剤添加量で顔料分散液の粘度が低く、粉砕負荷の低い軽質炭酸カルシウムの湿式粉砕方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、パルプ製造工程の苛性化反応を利用した炭酸カルシウムのように、そのpHが13を超える炭酸カルシウム分散液の場合には、炭酸ガスの吹込みによってpHが12を下回るまで中和するのに、長い滞留時間と多量の炭酸ガスを必要とし、効率が悪く、経済的にも不利である。
【0010】
このように、緑液を苛性化して生成する石灰スラッジから得られた炭酸カルシウムを塗工紙用顔料及び抄紙用填料に使用するために、夾雑物や不純物を除去する方法、並びに不純物由来の欠点を軽減する方法、及び分散スラリーの増粘を抑制する方法は種々提案されているが、未だ工夫の余地があり、よって不純物が極めて少なく、且つ分散性に優れた高濃度な炭酸カルシウムスラリーの開発が強く望まれてきていた。
【特許文献1】特開昭61−53112号公報
【特許文献2】特開昭61−179398号公報
【特許文献3】特開2004−26639号公報
【特許文献4】特開昭61−183120号公報
【特許文献5】特開2008−115052号公報
【特許文献6】特開2000−239017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を苛性化する際に生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムスラリーを製造する方法において、塗工紙用顔料または抄紙用填料として使用可能な、不純物が極めて少なく、且つ分散性に優れた高濃度な炭酸カルシウムスラリーを容易に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記手段を見出した。すなわち、本発明は、クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を苛性化する際に生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムスラリーを製造する方法において、少なくとも2種類の分散剤を使用することを特徴とした炭酸カルシウムスラリーの製造方法である。そして、該分散剤が、ポリカルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤からなる分散剤Aと、分散剤のもう一つが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル有機酸系のノニオン性界面活性剤、またはポリカルボン酸アンモニウム塩系のアニオン性界面活性剤から1種選択された分散剤Bであるものが好ましい。さらに、2種類の分散剤の添加順が、分散剤Aから分散剤Bであるものが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
クラフト法によるパルプ製造工程において、緑液に生石灰または消和液を加えて生成される石灰スラッジは、通常、パルプ製造工程に使用される白液(水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を主成分として含む)から分離され、次いで弱液(アルカリ成分)の回収を目的として、1段の希釈脱水洗浄工程に付されるのが通常である。本発明の炭酸カルシウムスラリーの製造方法では、白液回収工程と弱液回収工程を経た後、石灰スラッジを採取し、これに水と分散剤を加えてスラリー化し、次いで湿式粉砕工程を経て炭酸カルシウムスラリーとなるが、この工程の中で少なくとも2種の分散剤を使用することにより、未燃カーボン等の不純分を見かけ上の消失でき、ひいては白色度の振れの少ない安定した炭酸カルシウムが得られ、且つ、分散性に優れた高濃度の炭酸カルシウムスラリーを、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係わるパルプ製造工程を概説する。クラフト法によるパルプ製造工程では、苛性ソーダと硫化ソーダを主成分とする蒸解薬液を収めた蒸解釜中で、木材チップが高温・高圧下にて蒸煮される。この蒸煮によって、木材に含まれるリグニンなどの成分は蒸解薬液中に溶出され、目的物であるパルプは、この薬液に分散した状態で蒸解釜から取り出される。これを固液分離することにより、紙の素材となるパルプが得られる。そして、固液分離によりパルプから分離された黒液と呼ばれるパルプ廃液は、薬品回収及び熱回収の目的で、多重効用缶などで濃縮され、黒液回収ボイラーで燃焼せしめられる。
【0015】
濃縮黒液の燃焼で生成するスメルト(炭酸ナトリウム及び硫化ナトリウムを主成分とする無機溶融物)を、後述する弱液に溶解させたものが緑液である。通常のパルプ製造工程では、この緑液に含まれるドレッグス(不溶性夾雑物)を沈降分離する。ドレッグスが分離除去された緑液は、苛性化工程に供される。苛性化工程では、生石灰または生石灰を水酸化ナトリウム含有液と反応させて得た消和液を使用し、消和反応と苛性化反応により、石灰スラッジを含むスラリー(石灰乳)が得られる。通常の工程では、消和反応と苛性化反応は同時に行われる。
【0016】
次に、この石灰乳を固液分離し、その液状成分に含まれる水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムは、白液として木材チップの蒸解に再利用される。一方、液状成分から分離された石灰スラッジは、ロータリーキルン、カルサイナーなどで焼成されて生石灰に転化し、その生石灰は緑液の苛性化工程に循環使用される。分離されたドレッグスや石灰スラッジを洗浄した際に得られる液状成分は弱液として、上記したスメルトの溶解に使用される。
【0017】
連続操業されている通常のパルプ製造工程では、蒸解工程で消失するナトリウム分及び硫黄分を補う目的で、例えば、硫酸ナトリウムを添加することと、緑液の苛性化に使用する生石灰が不足している場合には、これを系外から補充することを除いて、蒸解に必要な薬品は、緑液の苛性化工程で回収される白液で賄い、緑液の苛性化に必要な生石灰は、当該苛性化工程で生成される石灰スラッジの焼成物で賄うのが一般的である。
【0018】
石灰スラッジから塗工紙用顔料あるいは抄紙用填料を製造する場合、石灰スラッジに残存しているドレッグス成分である有色(黒色)の未燃カーボン等が問題となる。これらの不溶性夾雑物は、炭酸カルシウムの白色度に大きく影響、ひいては該炭酸カルシウムの使用により製造される塗工紙や原紙にも悪影響を及ぼす。石灰スラッジよりこのドレッグス成分を洗浄などの方法で分離精選して、炭酸カルシウムとして再生する提案がなされているが、ドレッグス成分は基本的に不溶性であり、希釈洗浄や置換洗浄などの方法はドレッグス成分の分離精選には効果がない。本発明では、特定の2種の分散剤を使用することにより、この石灰スラッジに含まれるドレッグス成分を見かけ上消失化させ、同時に石灰スラッジを効率的に分散せしめて、塗被紙用顔料、あるいは製紙用填料として使用可能な炭酸カルシウムスラリーを得ることができる。
【0019】
本発明に係わる、ポリカルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤からなる分散剤Aとしては、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸−マレイン酸共重合物の塩等のカルボン酸単量体の単独または少なくとも2つ以上からなる共重合物またはその塩、ビニル化合物とカルボン酸系単量体との共重合物またはその塩、カルボキシメチルセルロース等が例示できるが、より具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム等のアクリル酸アルカリ金属塩;アクリル酸アンモニウム;アクリル酸有機アミン塩等が好適に用いられる。これら分散剤Aの使用量は、顔料に対して0.1〜0.6質量%が好ましい。0.1質量%未満であっても、0.6質量%を超えても分散効率が低下する恐れがある。また、分散剤Aの添加位置は、石灰スラッジをスラリー化する時点での添加が望ましい。
【0020】
本発明に係わる、分散剤Bとしては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系、及び、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル有機酸系のノニオン性界面活性剤、またはポリカルボン酸アンモニウム塩系のアニオン性界面活性剤から1種選択されたものが好ましい。これら分散剤Bの使用量は、顔料に対して10〜500ppmが好ましい。10ppm未満では、分散効率が低下し、500ppm以上であると効果が頭打ちとなり、同時にコストも増加する。より好ましくは、40〜80ppmである。
【0021】
また、分散剤Bは、特に、未燃カーボンを分散させる効果に優れており、故に石灰スラッジの分散処理(スラリー化)から湿式粉砕処理への工程中、どの段階で添加しても効果は認められるが、望ましい添加位置・順序としては、石灰スラッジのスラリー化の時点で先ず分散剤Aを添加し、その後に分散剤Bを添加する方法が最も効果が期待される。
【0022】
上記理由としては、以下のように考察できる。先ず、石灰スラッジのスラリー化の時点で添加される分散剤Aが、炭酸カルシウム粒子を親水化し、該炭酸カルシウム粒子に付着していた未燃カーボンを遊離させ、同時に炭酸カルシウム粒子の良好な分散安定的に寄与する。次いで添加される分散剤Bによって、未燃カーボンの疎水性を調節し、水との親和性を高め、再度、該スラリー中に分散することができると推測される。仮に、石灰スラッジスラリー中で、本発明の未燃カーボンの分離・分散という不純物の制御が行われないとすると、炭酸カルシウム粒子に付着した未燃カーボンは、塗工用顔料や抄紙用填料として使用される過程で剪断や衝撃が加わる度に不規則に出現する可能性があり、取り扱いが極めて困難となる。
【0023】
一方、分散剤Bは、分散剤Aと共に炭酸カルシウム自身の分散性にも寄与するが、これは、水中において顔料表面の濡れ性を改良し、流動性を高める効果によるものである。
【0024】
本発明における炭酸カルシウムスラリーの固形分濃度としては、65質量%以上であることが好ましい。固形分濃度が65質量%未満の炭酸カルシウムスラリーを用いて塗工液を調整した場合、最終的な塗工液の濃度が低下しすぎる場合が多く、このことは高速塗工時に乾燥の負荷が増大するだけでなく、製造された印刷用塗工紙が目標とする印刷適性を有していない場合が多い。固形分濃度が65質量%以上の炭酸カルシウムスラリーを主体として塗工液を調整することにより、最終的な塗工液の濃度も高くなり、印刷用塗工紙を製造したときに、原紙上に塗工された塗工液が不動化する時間が短縮され、原紙への塗工液の染み込みが少なくなる。このことによって、より厚みを持ち、均一でかつ空隙率の高い構造の塗工層が形成される。均一でかつ空隙率の高い構造の塗工層が形成されることにより、印刷されたときには、印刷インキがセットされるまでの時間が長くなり、これは印刷面の平滑化に繋がり印刷光沢が良好になる。また、空隙率の高い構造の塗工層は、印刷後の乾燥工程における原紙水分の透気性が良好になり、耐ブリスター性が良好になる。また、塗工層が均一な構造であることは、印刷後にムラのない印刷面感を与える。すなわち、固形分濃度が65質量%以上の炭酸カルシウムスラリーを用いて原紙上に塗工層を設けることで、良好な原紙被覆性、印刷光沢、耐ブリスター性、ムラのない印刷面感を有する印刷用塗工紙が得られる。加えて、塗工層が均一に形成されることで、軽質炭酸カルシウムが本来持つ白色度、不透明度、インキ受理性の優位性がさらに顕著に発現される。
【0025】
本発明に係わる、石灰スラッジの湿式粉砕前に使用する分散装置としては、コーレスミキサー、ニーダー、ボールミル、アトライター等から選ばれる1種が用いられる。
【0026】
石灰スラリーは目的の平均粒子径にするために、湿式粉砕を行うが、それに先立って濃縮を行う場合がある。70〜75質量%程度に濃縮するのが好ましい。濃縮機は、遠心分離、シックナーなど一般に濃縮に利用される汎用的な機器が適用される。
【0027】
本発明の製造方法によって炭酸カルシウムを製造する場合、粒子径、粒子形状を制御することを目的として、石灰スラッジの湿式粉砕工程を設けることができる。一般に、緑液の苛性化によって生成される石灰スラッジは、不定形粒子の塊状物であって、その平均粒子径は25〜35μmの範囲にある。このため、塗工用顔料及び製紙用填料に使用するには平均粒子径を約0.8〜3.0μmに粉砕する必要がある。これには縦型サンドミル、横型サンドミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター、振動ミルなどの各種湿式粉砕装置を用いることができる。また、メディアとしてはガラス、セラミック、アルミナ、ジルコニア等の硬質原料で製造された球状のボールが挙げられ、メディア径は0.1〜10mmであることが好ましい。メディアの充填率は高い方が好ましいが、充填率が高すぎると粉砕室内でのメディアの動きが悪くなり、粉砕効率を低下させる場合もあり、使用する粉砕機により適宜調整する必要がある。
【0028】
また、湿式粉砕工程では、粉砕工程の増粘を防止する目的、及び石灰スラッジ分散液のpHを調節する目的で、粉砕処理前後にスルファミン酸、酢酸などの有機酸、リン酸、ポリリン酸、硫酸などの無機酸、ポリアクリル酸などの酸性型分散剤、二酸化炭素ガス、及び二酸化炭素含有ガスなどの酸性物質を該分散液へ添加することも可能である。
【0029】
以上のような状況に鑑み、本発明の課題は上記のごとき問題を解決し、不純物による汚れが極めて軽微であり、且つ分散性に優れた炭酸カルシウムスラリーを効率よく製造することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0031】
同様に実施例において示す「平均粒子径」とは、マイクロトラック粒度分析計(モデルMT3300、日機装社製)を使用して、分散粒子の平均粒子径(d50%値)を測定した値を示す。
【0032】
(実施例1)
クラフト法によるパルプ製造工程で得られた緑液を苛性化した際に生成された石灰スラッジを粉砕した苛性化炭酸カルシウムを固形分70%になるようにタービン翼型攪拌機を用いて水中に分散させ、これにカルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤(分散剤A)アロンT50(東亜合成株式会社)を固形分換算で0.5%加え、次いでポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤(分散剤B)トリミンPS25(ミヨシ油脂株式会社)を固形分換算で80ppm加え、スラリー化した。次に該炭酸カルシウムスラリーを、粉砕メディアとして粒子径が0.5mmのガラスビーズを80容量%となるように充填したベッセル容量0.6Lの横型サンドミル(ダイノーミルKDL)に供給し、回転数4500RPM、吐出量毎分300mLの運転条件のもと、湿式粉砕処理を行い、平均粒子径が1.0μmの炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0033】
(実施例2)
実施例1において、分散剤Bをポリオキシアルキレンアルキルエーテル有機酸系のノニオン性界面活性剤であるトリミンPS25A(ミヨシ油脂株式会社)に変更した以外は実施例1と全て同様にして実施例2の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0034】
(実施例3)
実施例1において、分散剤Bをカルボン酸アンモニウム塩系のアニオン性界面活性剤であるSNディスパーサント5029(サンノプコ株式会社)に変更した以外は実施例1と全て同様にして実施例3の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0035】
(実施例4)
実施例1において、カルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤(分散剤A)であるアロンT50とポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤(分散剤B)であるトリミンPS25(ミヨシ油脂)の添加順を逆にした以外は実施例1と全て同様にして実施例4の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0036】
(実施例5)
実施例1において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤(分散剤B)であるトリミンPS25(ミヨシ油脂)の添加位置を湿式粉砕処理後に変更した以外は実施例1と全て同様にして実施例5の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、カルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤(分散剤A)であるアロンT50のみを使用し、分散剤Bを不使用にした以外は実施例1と全て同様にして比較例1の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤(分散剤B)であるトリミンPS25(ミヨシ油脂)のみを使用し、分散剤Aを不使用にした以外は実施例1と全て同様にして比較例2の炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0039】
実施例1〜4及び比較例1〜2の炭酸カルシウムスラリーの評価結果を表1に示す。尚、表1中の評価項目は以下の方法で評価した。
【0040】
<炭酸カルシウムスラリーの黒色浮遊物汚れの評価>
炭酸カルシウムスラリーの液面を観察し、黒色浮遊物による汚れの状態を以下の基準で目視評価した。
A:液面に黒色浮遊物がほとんど見られないか、僅かの量が散見される状態。
B:液面の局所部分に黒色浮遊物が少量見られる状態。
C:液面の所々に黒色浮遊物が広がり、容器壁面にも汚れが見られる状態。
D:液面全体に黒色浮遊物が広がり、容器壁面全周にも汚れが見られる状態。
ただし、本発明においてはB以上を発明の対象とした。
【0041】
<炭酸カルシウムスラリーの分散性の評価>
炭酸カルシウム粉末に水と分散剤を混合・撹拌してスラリー化した時点での炭酸カルシウム粉末の分散状況を観察し、以下の基準で目視評価した。
A:全く問題なし。
B:ほとんど問題なし。
C:分散が困難。
D:分散が非常に困難。
ただし、本発明においてはB以上を発明の対象とした。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から、苛性化炭酸カルシウムの分散に、分散剤Aとしてカルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤を使用し、分散剤Bとしてポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤を使用した実施例1、分散剤Aは実施例1と同様であるが分散剤Bとしてポリオキシアルキレンアルキルエーテル有機酸系のノニオン性界面活性剤を使用した実施例2、及び分散剤Aは実施例1と同様であるが分散剤Bとしてポリカルボン酸アンモニウム塩系のアニオン性界面活性剤を使用した実施例3は、その炭酸カルシウムスラリー中に黒色浮遊物の汚れは見られず、分散性にも優れていた。実施例4は、スラリー化の時点で分散剤Aと分散剤Bの添加順序を変えたが、不純物の遊離が未達なためか、黒色浮遊物汚れの評価はやや不十分であった。また、実施例5は、分散剤Bを湿式粉砕処理後に添加したものであるが、黒色浮遊物汚れの評価は良好な一方、スラリー分散時に分散剤Bが未添加であったため、分散剤Aとの相互作用による分散効率の向上は十分ではなかった。
【0044】
一方、比較例1は、分散剤Aのみの使用であったために、黒色浮遊物の汚れがあり、製紙用炭酸カルシウムとしての品質を大きく損なうこととなった。また、比較例2は、分散剤Bのみの使用であったが、黒色浮遊物の汚れが生じ、分散性にも問題があった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により得られた炭酸カルシウムスラリーは、特定の2種の分散剤を含有せしめた効果として、苛性化炭酸カルシウムに多く含まれる不純物、特に未燃カーボン由来の黒い不純物を分散させ、且つ、炭酸カルシウム自身の分散も優れているという特徴を有しており、塗工用顔料及び抄紙用填料に問題なく適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフト法によるパルプ製造工程で得られる緑液を苛性化した際に生成する石灰スラッジから炭酸カルシウムスラリーを製造する方法において、少なくとも2種類の分散剤を使用する炭酸カルシウムスラリーの製造方法。
【請求項2】
分散剤が、ポリカルボン酸塩系のアニオン性界面活性剤からなる分散剤Aと、分散剤のもう一つが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系のノニオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル有機酸系のノニオン性界面活性剤、またはポリカルボン酸アンモニウム塩系のアニオン性界面活性剤から1種選択された分散剤Bである、請求項1記載の炭酸カルシウムスラリーの製造方法。
【請求項3】
分散剤の添加順が、分散剤Aから分散剤Bである、請求項2記載の炭酸カルシウムスラリーの製造方法。

【公開番号】特開2010−84279(P2010−84279A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255359(P2008−255359)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】