点滴用容器セット
【課題】混合用の液体を充填した液室を押し潰したか否かを液室の外観形状から容易に知ることができ、ヒューマンエラーの発生を従来のものよりも低減できる点滴用容器を提供する。
【解決手段】内部に液体を充填した状態での厚みが互いに異なる2つの液室1、2と、隣接する液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部3とを具備し、前記厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室に圧縮力を加えた場合に、その押圧変形用の液室内の液体又は気体によって、前記間仕切り部3の少なくとも一部に通液部3Tが形成されるようにした。
【解決手段】内部に液体を充填した状態での厚みが互いに異なる2つの液室1、2と、隣接する液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部3とを具備し、前記厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室に圧縮力を加えた場合に、その押圧変形用の液室内の液体又は気体によって、前記間仕切り部3の少なくとも一部に通液部3Tが形成されるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液室を備え、点滴時に各液室内の液体を混合して使用するタイプの点滴用容器セットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる種類の液体を、混じり合わない状態で長期安定保存できるようにした点滴用容器が知られている。
【0003】
具体的にこの種の点滴用容器は、例えば、2枚の可撓性フィルムを熱プレス等により形成して成るものであって、隔壁により液密に区切られた上液室と下液室とを備え、これら各室に異なる液体をそれぞれ充填させている。そして、点滴を行うに際し、テーブルの天面などの平らな場所に点滴用容器を載置し、上液室または下液室に両手を置いて押し潰す圧縮力を加えることで、隔壁を開通させ、両室内の液体同士を良く混ぜ合わせることができるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−151173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが従来の点滴用容器は、2枚の可撓性フィルムを熱プレス等により形成しているため、テーブルの天面等に載置すると、ほぼ平らな状態となる。このため、室を押し潰したとしても、外観形状は押し潰す前とほとんど変わらず、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から行うことが困難である。
【0005】
そこで、押し潰せたか否かの確認を、例えば、「開通確認シール」によるチェックや、複数の看護師などによるチェック(ダブルチェックと呼ばれる)により行うようにしているが、開通確認シールでは貼り間違え等の問題が生じたり、ダブルチェックではこれを行えないとき等に問題が生じたりするなど、ヒューマンエラーの発生を確実に防止できるものではない。
【0006】
また、点滴用容器を吊架器に吊り下げた場合、押し潰したか否かにかかわらず両フィルム間の間隔(すなわち点滴用容器の厚み)は大幅に変わらない。
【0007】
このため、チェックミス等により押し潰していない状態のまま、点滴用容器を吊架器に吊り下げて点滴を開始した場合にも、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から行うことが困難である。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、混合用の液体を充填した液室を押し潰したか否かを液室の外観形状から容易に知ることができ、点滴前のチェックミスを減らし、ヒューマンエラーの発生を従来のものよりも確実に低減できるといった、優れた点滴用容器セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明にかかる点滴用容器セットは、内部に液体を充填した状態での厚みが互いに異なる2つの液室、隣接する液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部、及び前記厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室に圧縮力を加えた場合に、前記間仕切り部の少なくとも一部に形成される通液部と、を備え、吊り下げ状態において、前記押圧変形用の液室の内部に液体を充填した状態での重心が、前記他の液室の内部に液体を充填した状態での重心に対して、厚み方向にずれている点滴用容器と、前記押圧変形用の液室が押圧変形した場合にのみ、前記押圧変形用の液室を被覆可能な被覆部材を有することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、例えば、点滴用容器を平面上に載置するだけで、厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室を、容易に見分けることでき、また、押圧変形用の液室に簡単にアクセスしてこれを押圧することができる。
【0011】
そして、押圧変形用の液室に、圧縮力を加えて押し潰せば、その押圧変形用の液室内の液体又は気体によって、間仕切り部の少なくとも一部に通液部が形成され、この通液部を利用して、各液室内の液体を好適に混合することができる。
【0012】
そして、混ぜ合わせた液体を他の液室に全て移動させれば、押圧変形用の液室の外観形状は、混ぜ合わせた液体により復元することなく押し潰されたままの形状となる。
【0013】
また、押し潰した後の押圧変形用の液室の外観形状は、押し潰す前の外観形状と大きく異なるので、例えば一瞥しただけでその外観形状から押圧変形用の液室を押し潰したか否かを知ることができる。
【0014】
さらに、点滴用容器を吊架器に吊り下げた場合、押圧変形用の液室を押し潰したときの外観形状と、押し潰さないときの外観形状とが、厚みにおいて異なる。このため、チェックミス等により押し潰していない状態のまま、点滴用容器を吊架器に吊り下げて点滴を開始した場合であっても、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から容易に行える。
【0015】
加えて、例えば間仕切り部を持って点滴容器を吊り下げようとすると厚みの方向へ簡単に折れ曲がろうとしてしまい、極めて不安定である。このことが、押圧変形用の液室を押し潰したか否かの確認の契機となる。
【0016】
さらに加えて、被覆部材は、押圧変形用の液室が押圧変形した場合には、押圧変形用の液室を被覆することができ、一方で、押圧変形していない場合には、押圧変形用の液室を被覆することができない。これにより、被覆部材が押圧変形用の液室に被覆可能か否かを試すことで前記押圧変形用の液室を押し潰したか否かを容易に判断できる。従って、例えば、押圧変形用の液室を押し潰した後、被覆部材を押圧変形用の液室全体に被せてから点滴を行うという取り決め(ルール)があれば、点滴開始時における押し潰せたか否かの確認が一層容易となり、チェックミスを減らすことができる。
【0017】
このように、押し潰せたか否かの確認を外観形状により専ら行えしかも看護師などによる確認精度も向上する。このため、従来の開通確認シールは例えば注意喚起程度に留まらせることができ、また、ダブルチェックできない場合のチェックミスの低減に繋がる。なお、ダブルチェックを行った場合のチェックミスも、従来のものより少なくなるのはもちろんである。このように、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【0018】
本発明の被覆部材の望ましい形状としては、押圧変形前においては、前記押圧変形用の液室に引っ掛かることにより被覆を妨げる一方、押圧変形後においては、前記押圧変形用の液室を挿通する引っ掛かり部を有するものがよい。
【0019】
このようなものであれば、引っ掛かり部が、前記押圧変形用液室に引っ掛かるか否かにより、前記押圧変形用の液室を押し潰したか否かの判断することができ、ヒューマンエラーの発生を一層確実に低減することができる。
【0020】
引っ掛かり部の具体的な実施の態様としては、引っ掛かり部の挿通方向に直交する内周の長さが、押圧変形前における前記押圧変形用の液室の挿通方向に直交する外周の長さの最大値より小さく、押圧変形後における前記押圧変形用の液室を被覆することができる長さの最小値よりも大きい長さであることが望ましい。
【0021】
本発明の押圧変形用の液室の望ましい外観形状としては、立方体、直方体、円錐体、円柱体、多角錐体、多角形体、球体、自由曲面を含む立体又はそれらの二以上の組み合わせた形状が挙げられる。
【0022】
このうち、外観形状が、例えば、立方体、直方体、三角錐体、四角錐体の場合には、その一つの底辺を間仕切り部に設定すれば、押圧変形用の液室と隣接する液室との物理的取付強度を該間仕切り部により確保できる。また、通液部をその間仕切り部のほぼ全部に設定すれば、両液室内の液体を、十分混ぜ合わせることができる。
【0023】
また、外観形状が、例えば、立方体、直方体、円錐体、円柱体、多角錐体の場合は、平らな場所に置きやすく上から潰し易い。
【0024】
また、外観形状が、例えば、球体で且つその大きさが人が握れる程度(例えば、野球ボール)の場合は、握り潰し易い。
【0025】
なお、前記押圧変形用の液室を、上端側に配していることが望ましい。
【0026】
この場合の点滴用容器の重心を、押圧変形用の液室を押し潰していない状態と
押し潰した状態とで比較すると、押し潰していない状態での重心の方が高くなり、しかも、その重心は、押圧変形用の液室が他の液室よりも飛び出している方向にずれる。
【0027】
このため、押圧変形用の液室を押し潰していない状態のまま、点滴用容器を吊架器に吊り下げようとすると、非常に不安定で吊り下げ難い。この吊り下げ難いことが、押し潰したか否かの確認の契機となり、チェックミスが従来のものより少なくなる。
【発明の効果】
【0028】
このように本発明に係る点滴用容器は、以下の効果を奏する。
【0029】
押し潰した後の押圧変形用の液室の外観形状は、押し潰す前の外観形状と大きく異なるので、例えば一瞥しただけでその外観形状から押圧変形用の液室を押し潰したか否かを知ることができる。
【0030】
このため、押し潰せたか否かの確認を外観形状により専ら行えしかも看護師などによる確認精度も向上する。
【0031】
したがって、従来の開通確認シールは例えば注意喚起程度に留まらせることができ、また、ダブルチェックできない場合のチェックミスも低減でき、さらに、ダブルチェックを行った場合のチェックミスも、従来のものより少なくなる。
【0032】
すなわち、混合用の液体を充填した液室を押し潰したか否かを液室の外観形状から容易に知ることができ、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0034】
本実施形態に係る点滴容器セット100は、点滴用容器A及び被覆部材Bを備えている。
【0035】
点滴用容器Aは、図1、図2、図3に示すように、吊架器(図示せず)等に吊り下げた状態で上下に配される押圧変形用の液室である上液室1および下液室2と、これら液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部3とを具備して成る。以下、各部を具体的に説明する。
【0036】
上液室1は、外観視略三角錐形状(いわゆる三角パック形状)を成し、内部に図示しない上液室用液体を充填可能な内部充填空間110を有するように構成した上液室本体11と、この上液室本体11の液密状態を確保するための縁部12とを具備するものであって、これら各部を可撓性フィルムを立体加工することにより形成して成る。そして、この上液室本体11に圧縮力を加えれば、原形(略三角錐形状)をとどめない程度に押し潰すことができる(図4参照)。また、本実施形態では、吊り下げた状態で最も上に位置付けられる縁部12の頂点部分に、厚み方向に貫通させた吊架孔121(丸孔形状)を設けている。そして、この吊架孔121を利用して、点滴用容器Aを吊架器のフック(図示せず)に吊り下げられるようにしている。なお、この内部充填空間110には、上液室用液体(アミノ酸、電解質液)を500mL充填しているが、該液体の成分はこれに限られるものではない。また、充填する液量も適宜変更可能である。
【0037】
下液室2は、外観視扁平直方体形状を成し、内部に図示しない下液室用液体を充填可能な内部充填空間210を有するように構成した下液室本体21と、この下液室本体21の液密状態を確保するための縁部22とを具備するものであって、これら各部を可撓性フィルムを加工することにより形成して成る。そして、本実施形態では、この下液室本体21の下辺側の縁部22の略中央には弾性栓体S(例えばゴム栓)が取り付けてあり、この弾性栓体Sに点滴注射針(図示せず)などを差し込むことで、内部の液体を点滴用管(図示せず)に導出できるようにしている。なお、この内部充填空間210には、下液室用液体(ビタミン、糖、電解質液)を500mL充填するようにしているが、該液体の成分はこれに限られるものではない。また、充填する液量も適宜変更可能である。加えて本実施形態では、下液室本体21には、内部に残る液体量計測の目安となる液量表示目盛りMを設けている(数字(値)は図示せず)。この液量表示目盛りMを下液室本体21に設けたのは、上液室1に比べ、点滴前後における外観形状の変化が少なく、製造時に目盛りを正確に振りやすく、また、使用時には読みやすいからである。
【0038】
また、吊り下げ状態においては、上液室1の内部に液体を充填した状態での重心が、下液室2の内部に液体を充填した状態での重心に対して、上液室1の厚みの方向、つまり吊り下げ状態における三角錐の底面から頂点へ向かう方向にずれている。
【0039】
間仕切り部3は、2枚の可撓性フィルムの内側面同士を、熱溶着することにより形成したものである。そして、本実施形態では、上液室本体11に圧縮力を加わえない場合には、この間仕切り部3が各液室をそれぞれ液密状態に保つ一方、上液室本体11に圧縮力を加えた場合には、その上液室本体11内の液体又は気体によって、該間仕切り部3のほぼ全領域に亘って通液部3Tが形成されるようにしている。すなわち、熱溶着した2枚のフィルムの溶着部分が剥がれることで、2枚のフィルム間に各液体が行き来できる隙間が形成され、これが通液部3Tとなる。そして、このようにして形成された通液部3Tを利用して、各液室内の液体を好適に混合することができる。
【0040】
なお、上液室1、下液室2及び間仕切り部3は、一体的に形成したものであってもよいし、別々に形成したものを、接着等により繋ぎ合わせたものであってもよい。
【0041】
被覆部材Bは、図1に示すように、上液室1全体を被覆することができる袋形状のものであり、かつ、上液室本体11が押圧変形した場合にのみ、上液室1を被覆可能な形状を有するものである。本実施形態の被覆部材Bは、正面視における上液室1の形状と略相似な略三角形状の包装袋である。
【0042】
被覆部材Bは、押圧変形前においては、上液室本体11に引っ掛かることにより被覆を妨げる一方、押圧変形後においては、上液室本体11に引っ掛かることなく上液室1を挿通する引っ掛かり部41を有する。本実施形態の引っ掛かり部41は、被覆部材Bの開口部の内周部である。
【0043】
具体的には、引っ掛かり部41の挿通方向に直交する内周の長さ、つまり開口部の内周部の長さは、上液室本体11を押し潰す前において点滴用容器Aを平面に載置した状態、又は点滴用容器Aを吊り下げた状態における上液室1の挿通方向に直交する外周の長さの最大値よりも小さく、押圧変形後における上液室1を被覆することができる長さの最小値よりも大きい長さである。つまり、引っ掛かり部41の形状は、押圧変形前においては、上液室本体11の厚みに支え上液室1全体を被覆できず、押圧変形後においては、上液室本体11の厚みに支えることなく上液室1を挿通し、上液室1全体を被覆可能とする形状である。なお、挿通方向とは、図5、図6に示すように、引っ掛かり部41が上液室1を挿通する向きである。
【0044】
また、被覆部材Bには、被覆部材Bが上液室1を被覆した状態において吊架孔121と重なるような吊架孔42が設けられている。
【0045】
以上のように構成される点滴用容器セット100について、その使用方法の一例を以下に述べる。
【0046】
(1)液体混合時のチェック
【0047】
まず、点滴用容器Aを例えば平面上に載置する。すると、上液室本体11の厚みT1は、下液室本体21の厚みT2よりも厚いので、押圧変形すべき液室である上液室1を容易に見分けることでき、これに簡単にアクセスして押圧することができる。なお、このように点滴用容器Aを平面上に載置したときには、平面からの最大高さも各液室で異なるので、平面からの最大高さを尺度として、押圧変形すべき液室である上液室1を見分けることもできる。
【0048】
そして、上液室本体11に、圧縮力を加えて押し潰せば、この上液室本体11内の上液室用液体又は気体によって、間仕切り部3に通液部3Tが形成され、この通液部3Tを利用して、上液室用液体と下液室用液体とを好適に混合することができる。
【0049】
そして、混ぜ合わせた液体(以下、「混合液体」と呼ぶ)を下液室本体21に全て移動させれば、上液室本体11の外観形状は、混合液体により復元することなく押し潰されたままの形状となる(図4参照)。
【0050】
このようにして押し潰した後の上液室本体11の外観形状(図4参照)は、押し潰す前の外観形状(図3参照)と大きく異なるので、例えば一瞥しただけでその外観形状から上液室本体11を押し潰したか否かを知ることができる。
【0051】
このように、押し潰せたか否かの確認を外観形状により専ら行えしかも看護師などによる確認精度も向上する。このため、従来の開通確認シールは例えば注意喚起程度に留まらせることができ、また、ダブルチェックできない場合のチェックミスの低減に繋がる。なお、ダブルチェックを行った場合のチェックミスも、従来のものより少なくなるのはもちろんである。このように、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【0052】
このように、液体混合時に、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0053】
(2)容器吊り下げ時のチェック
【0054】
吊り下げ状態にしたときの点滴用容器Aの重心を、上液室本体11を押し潰していない状態と押し潰した状態とで比較すると、押し潰していない状態での重心の方が高くなり、しかも、その重心は、上液室本体11が下液室本体21よりも飛び出している方向である三角錐の頂点11x方向(厚みの方向)にずれる。
【0055】
このため、上液室本体11を押し潰していない状態のまま、点滴用容器Aを吊架器に吊り下げようとすると、非常に不安定で吊り下げ難い。特に、間仕切り部3から下側を持って吊り下げる場合には、極めて不安定になる。この吊り下げ難いことが、押し潰したか否かの確認の契機となり、チェックミスが従来のものより少なくなる。
【0056】
このように、容器吊り下げ時に、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0057】
(3)点滴開始時のチェック
【0058】
被覆部材Bが上液室本体11を覆った状態(図5参照)と覆っていない状態(図6参照)とを比較すると、上液室本体11の見え方や被覆部材4の点滴用容器A全体に対する位置などの外観形状が明らかに異なる。
【0059】
また、被覆部材Bは、押圧変形した場合にのみ上液室1を覆うことができる。これにより、例えば、上液室本体11を押し潰した後、被覆部材Bを上液室1全体に被せた状態で点滴を開始するという取り決めがあれば、もし上液室本体11を押し潰していない場合には、点滴開始時に引っ掛かり部41が上液室本体11に支えて上液室1を覆うことができない。このことにより、被覆部材Bを上液室1に被せる段階で押し潰したか否かを確認することができる。
【0060】
このように、点滴開始時において被覆部財Bを被せる段階で、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0061】
(4)点滴中のチェック
【0062】
さらに、点滴用容器Aを吊架器に吊り下げた場合、上液室本体11を押し潰したときの外観形状(図4参照)と、押し潰さないときの外観形状(図3参照)とが、特に厚みにおいて大きく異なる。このため、チェックミス等により押し潰していない状態のまま、点滴用容器Aを吊架器に吊り下げて点滴を開始した場合であっても、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から容易に行える。具体的には、例えば、首を傾げるなどして、点滴容器を見る角度を振ったときに、原形(三角錐形状)が現れれば押し潰せていなく、表れなければ押し潰せていることが、遠目からでも容易にわかる。
【0063】
このように、点滴中に、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0064】
<本実施形態の効果>
以上のように本実施形態にかかる点滴用容器セット100によれば、押圧変形用の液室である上液室本体11を押し潰したか否かをその外観形状から容易に知ることができる上、被覆部材Bを上液室1に被せることにより上液室本体11を潰したか否かをチェックすることができるので、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【0065】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0066】
例えば、上液室本体11の外観形状を、略三角錐形状としているが、図7、図8に示すように略四角錐形状としても良いし、図9、図10に示すように、略円筒形状としても良い。このように、平らな底面を持つものであれば、平らな場所に底面を置いて上から潰し易い。
【0067】
また、図11に示すように、略球体形状とすることもできる。このように、球体の片側半分が該点滴用容器Aの前方側に現れ、もう片側半分が後方側に現れる場合には、該点滴用容器Aのいずれの方向からでも押し潰せているか否かを知ることができる。
【0068】
さらには、図示はしないが、立方体、直方体、円錐体、多角錐体、多角形体、自由曲面を含む立体(例えば、ドリップ式のコーヒー用フィルタのような形状)とすることもできるし、前述の各形状を適宜組み合わせた形状としてもよい。
【0069】
また、上液室1と下液室2との2室を備えるようにしているが、3つ以上の液室を備えるようにしてもよい。
【0070】
また、各液室が、縁部12、22を備えるようにしているが、縁部の無い構成とすることもできる。
【0071】
また、吊架孔の個数、位置、大きさなどは、実施態様に応じて適宜変更可能である。
【0072】
また、図12に示すように、前記実施形態の上液室1被覆用の被覆部材Bの開口部に下液室2被覆用の被覆部材Cを設けて点滴用容器カバーとしてもよい。点滴用容器カバーの形状としては、例えば、正面視における点滴用容器Aに略相似な形状である。この場合においては、引っ掛かり部41は、上液室1被覆用の被覆部材Bの挿通方向下端部(被覆部材Bの開口部)に形成される。また、点滴用容器カバーが、遮光効果を有する材質から形成することにより点滴用容器A内の液体の劣化を防ぐことができる。
【0073】
また、前記実施形態では被覆部材Bは、上液室1に略相似な形状であるが、上液室1を被覆するに際し、引っ掛かかる部分(引っ掛かり部41)があれば相似な形状でなくてもよい。
【0074】
さらに、被覆部材Bは、袋形状でなくてもよく、例えば環状のものであってもよい。
【0075】
また、前記実施形態では被覆部材Bを点滴開始時に上液室1へ被覆しているが、上液室1を押し潰した直後又は吊り下げ時に被覆するものであってもよい。
【0076】
さらに、前記実施形態では、引っ掛かり部41は、被覆部材Bの開口部であるが、上液室本体11を潰した後に上液室1を挿通するのであれば被覆部材Bの中腹部などに形成されてもよい。
【0077】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態における点滴用容器を示す全体斜視図。
【図2】同正面図。
【図3】同側面図(押し潰し前)。
【図4】同側面図(押し潰し後)。
【図5】本発明の一実施形態における点滴用容器セットを示す側面図(押し潰し前)。
【図6】同側面図(押し潰し後)。
【図7】本発明の他の実施形態における点滴用容器を示す正面図。
【図8】同側面図(押し潰し前)。
【図9】本発明の他の実施形態における点滴用容器を示す正面図。
【図10】同側面図(押し潰し前)。
【図11】本発明の他の実施形態における点滴用容器を示す側面図(押し潰し前)。
【図12】本発明の他の実施形態における点滴用容器カバーを示す正面図。
【符号の説明】
【0079】
A・・・・点滴用容器
B・・・・被覆部材
1・・・・押圧変形用の液室(上液室)
2・・・・他の液室(下液室)
3・・・・間仕切り部
3T・・・通液部
T1・・・押圧変形用の液室の厚み
T2・・・他の液室の厚み
41・・・引っ掛かり部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液室を備え、点滴時に各液室内の液体を混合して使用するタイプの点滴用容器セットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる種類の液体を、混じり合わない状態で長期安定保存できるようにした点滴用容器が知られている。
【0003】
具体的にこの種の点滴用容器は、例えば、2枚の可撓性フィルムを熱プレス等により形成して成るものであって、隔壁により液密に区切られた上液室と下液室とを備え、これら各室に異なる液体をそれぞれ充填させている。そして、点滴を行うに際し、テーブルの天面などの平らな場所に点滴用容器を載置し、上液室または下液室に両手を置いて押し潰す圧縮力を加えることで、隔壁を開通させ、両室内の液体同士を良く混ぜ合わせることができるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−151173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが従来の点滴用容器は、2枚の可撓性フィルムを熱プレス等により形成しているため、テーブルの天面等に載置すると、ほぼ平らな状態となる。このため、室を押し潰したとしても、外観形状は押し潰す前とほとんど変わらず、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から行うことが困難である。
【0005】
そこで、押し潰せたか否かの確認を、例えば、「開通確認シール」によるチェックや、複数の看護師などによるチェック(ダブルチェックと呼ばれる)により行うようにしているが、開通確認シールでは貼り間違え等の問題が生じたり、ダブルチェックではこれを行えないとき等に問題が生じたりするなど、ヒューマンエラーの発生を確実に防止できるものではない。
【0006】
また、点滴用容器を吊架器に吊り下げた場合、押し潰したか否かにかかわらず両フィルム間の間隔(すなわち点滴用容器の厚み)は大幅に変わらない。
【0007】
このため、チェックミス等により押し潰していない状態のまま、点滴用容器を吊架器に吊り下げて点滴を開始した場合にも、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から行うことが困難である。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、混合用の液体を充填した液室を押し潰したか否かを液室の外観形状から容易に知ることができ、点滴前のチェックミスを減らし、ヒューマンエラーの発生を従来のものよりも確実に低減できるといった、優れた点滴用容器セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明にかかる点滴用容器セットは、内部に液体を充填した状態での厚みが互いに異なる2つの液室、隣接する液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部、及び前記厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室に圧縮力を加えた場合に、前記間仕切り部の少なくとも一部に形成される通液部と、を備え、吊り下げ状態において、前記押圧変形用の液室の内部に液体を充填した状態での重心が、前記他の液室の内部に液体を充填した状態での重心に対して、厚み方向にずれている点滴用容器と、前記押圧変形用の液室が押圧変形した場合にのみ、前記押圧変形用の液室を被覆可能な被覆部材を有することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、例えば、点滴用容器を平面上に載置するだけで、厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室を、容易に見分けることでき、また、押圧変形用の液室に簡単にアクセスしてこれを押圧することができる。
【0011】
そして、押圧変形用の液室に、圧縮力を加えて押し潰せば、その押圧変形用の液室内の液体又は気体によって、間仕切り部の少なくとも一部に通液部が形成され、この通液部を利用して、各液室内の液体を好適に混合することができる。
【0012】
そして、混ぜ合わせた液体を他の液室に全て移動させれば、押圧変形用の液室の外観形状は、混ぜ合わせた液体により復元することなく押し潰されたままの形状となる。
【0013】
また、押し潰した後の押圧変形用の液室の外観形状は、押し潰す前の外観形状と大きく異なるので、例えば一瞥しただけでその外観形状から押圧変形用の液室を押し潰したか否かを知ることができる。
【0014】
さらに、点滴用容器を吊架器に吊り下げた場合、押圧変形用の液室を押し潰したときの外観形状と、押し潰さないときの外観形状とが、厚みにおいて異なる。このため、チェックミス等により押し潰していない状態のまま、点滴用容器を吊架器に吊り下げて点滴を開始した場合であっても、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から容易に行える。
【0015】
加えて、例えば間仕切り部を持って点滴容器を吊り下げようとすると厚みの方向へ簡単に折れ曲がろうとしてしまい、極めて不安定である。このことが、押圧変形用の液室を押し潰したか否かの確認の契機となる。
【0016】
さらに加えて、被覆部材は、押圧変形用の液室が押圧変形した場合には、押圧変形用の液室を被覆することができ、一方で、押圧変形していない場合には、押圧変形用の液室を被覆することができない。これにより、被覆部材が押圧変形用の液室に被覆可能か否かを試すことで前記押圧変形用の液室を押し潰したか否かを容易に判断できる。従って、例えば、押圧変形用の液室を押し潰した後、被覆部材を押圧変形用の液室全体に被せてから点滴を行うという取り決め(ルール)があれば、点滴開始時における押し潰せたか否かの確認が一層容易となり、チェックミスを減らすことができる。
【0017】
このように、押し潰せたか否かの確認を外観形状により専ら行えしかも看護師などによる確認精度も向上する。このため、従来の開通確認シールは例えば注意喚起程度に留まらせることができ、また、ダブルチェックできない場合のチェックミスの低減に繋がる。なお、ダブルチェックを行った場合のチェックミスも、従来のものより少なくなるのはもちろんである。このように、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【0018】
本発明の被覆部材の望ましい形状としては、押圧変形前においては、前記押圧変形用の液室に引っ掛かることにより被覆を妨げる一方、押圧変形後においては、前記押圧変形用の液室を挿通する引っ掛かり部を有するものがよい。
【0019】
このようなものであれば、引っ掛かり部が、前記押圧変形用液室に引っ掛かるか否かにより、前記押圧変形用の液室を押し潰したか否かの判断することができ、ヒューマンエラーの発生を一層確実に低減することができる。
【0020】
引っ掛かり部の具体的な実施の態様としては、引っ掛かり部の挿通方向に直交する内周の長さが、押圧変形前における前記押圧変形用の液室の挿通方向に直交する外周の長さの最大値より小さく、押圧変形後における前記押圧変形用の液室を被覆することができる長さの最小値よりも大きい長さであることが望ましい。
【0021】
本発明の押圧変形用の液室の望ましい外観形状としては、立方体、直方体、円錐体、円柱体、多角錐体、多角形体、球体、自由曲面を含む立体又はそれらの二以上の組み合わせた形状が挙げられる。
【0022】
このうち、外観形状が、例えば、立方体、直方体、三角錐体、四角錐体の場合には、その一つの底辺を間仕切り部に設定すれば、押圧変形用の液室と隣接する液室との物理的取付強度を該間仕切り部により確保できる。また、通液部をその間仕切り部のほぼ全部に設定すれば、両液室内の液体を、十分混ぜ合わせることができる。
【0023】
また、外観形状が、例えば、立方体、直方体、円錐体、円柱体、多角錐体の場合は、平らな場所に置きやすく上から潰し易い。
【0024】
また、外観形状が、例えば、球体で且つその大きさが人が握れる程度(例えば、野球ボール)の場合は、握り潰し易い。
【0025】
なお、前記押圧変形用の液室を、上端側に配していることが望ましい。
【0026】
この場合の点滴用容器の重心を、押圧変形用の液室を押し潰していない状態と
押し潰した状態とで比較すると、押し潰していない状態での重心の方が高くなり、しかも、その重心は、押圧変形用の液室が他の液室よりも飛び出している方向にずれる。
【0027】
このため、押圧変形用の液室を押し潰していない状態のまま、点滴用容器を吊架器に吊り下げようとすると、非常に不安定で吊り下げ難い。この吊り下げ難いことが、押し潰したか否かの確認の契機となり、チェックミスが従来のものより少なくなる。
【発明の効果】
【0028】
このように本発明に係る点滴用容器は、以下の効果を奏する。
【0029】
押し潰した後の押圧変形用の液室の外観形状は、押し潰す前の外観形状と大きく異なるので、例えば一瞥しただけでその外観形状から押圧変形用の液室を押し潰したか否かを知ることができる。
【0030】
このため、押し潰せたか否かの確認を外観形状により専ら行えしかも看護師などによる確認精度も向上する。
【0031】
したがって、従来の開通確認シールは例えば注意喚起程度に留まらせることができ、また、ダブルチェックできない場合のチェックミスも低減でき、さらに、ダブルチェックを行った場合のチェックミスも、従来のものより少なくなる。
【0032】
すなわち、混合用の液体を充填した液室を押し潰したか否かを液室の外観形状から容易に知ることができ、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0034】
本実施形態に係る点滴容器セット100は、点滴用容器A及び被覆部材Bを備えている。
【0035】
点滴用容器Aは、図1、図2、図3に示すように、吊架器(図示せず)等に吊り下げた状態で上下に配される押圧変形用の液室である上液室1および下液室2と、これら液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部3とを具備して成る。以下、各部を具体的に説明する。
【0036】
上液室1は、外観視略三角錐形状(いわゆる三角パック形状)を成し、内部に図示しない上液室用液体を充填可能な内部充填空間110を有するように構成した上液室本体11と、この上液室本体11の液密状態を確保するための縁部12とを具備するものであって、これら各部を可撓性フィルムを立体加工することにより形成して成る。そして、この上液室本体11に圧縮力を加えれば、原形(略三角錐形状)をとどめない程度に押し潰すことができる(図4参照)。また、本実施形態では、吊り下げた状態で最も上に位置付けられる縁部12の頂点部分に、厚み方向に貫通させた吊架孔121(丸孔形状)を設けている。そして、この吊架孔121を利用して、点滴用容器Aを吊架器のフック(図示せず)に吊り下げられるようにしている。なお、この内部充填空間110には、上液室用液体(アミノ酸、電解質液)を500mL充填しているが、該液体の成分はこれに限られるものではない。また、充填する液量も適宜変更可能である。
【0037】
下液室2は、外観視扁平直方体形状を成し、内部に図示しない下液室用液体を充填可能な内部充填空間210を有するように構成した下液室本体21と、この下液室本体21の液密状態を確保するための縁部22とを具備するものであって、これら各部を可撓性フィルムを加工することにより形成して成る。そして、本実施形態では、この下液室本体21の下辺側の縁部22の略中央には弾性栓体S(例えばゴム栓)が取り付けてあり、この弾性栓体Sに点滴注射針(図示せず)などを差し込むことで、内部の液体を点滴用管(図示せず)に導出できるようにしている。なお、この内部充填空間210には、下液室用液体(ビタミン、糖、電解質液)を500mL充填するようにしているが、該液体の成分はこれに限られるものではない。また、充填する液量も適宜変更可能である。加えて本実施形態では、下液室本体21には、内部に残る液体量計測の目安となる液量表示目盛りMを設けている(数字(値)は図示せず)。この液量表示目盛りMを下液室本体21に設けたのは、上液室1に比べ、点滴前後における外観形状の変化が少なく、製造時に目盛りを正確に振りやすく、また、使用時には読みやすいからである。
【0038】
また、吊り下げ状態においては、上液室1の内部に液体を充填した状態での重心が、下液室2の内部に液体を充填した状態での重心に対して、上液室1の厚みの方向、つまり吊り下げ状態における三角錐の底面から頂点へ向かう方向にずれている。
【0039】
間仕切り部3は、2枚の可撓性フィルムの内側面同士を、熱溶着することにより形成したものである。そして、本実施形態では、上液室本体11に圧縮力を加わえない場合には、この間仕切り部3が各液室をそれぞれ液密状態に保つ一方、上液室本体11に圧縮力を加えた場合には、その上液室本体11内の液体又は気体によって、該間仕切り部3のほぼ全領域に亘って通液部3Tが形成されるようにしている。すなわち、熱溶着した2枚のフィルムの溶着部分が剥がれることで、2枚のフィルム間に各液体が行き来できる隙間が形成され、これが通液部3Tとなる。そして、このようにして形成された通液部3Tを利用して、各液室内の液体を好適に混合することができる。
【0040】
なお、上液室1、下液室2及び間仕切り部3は、一体的に形成したものであってもよいし、別々に形成したものを、接着等により繋ぎ合わせたものであってもよい。
【0041】
被覆部材Bは、図1に示すように、上液室1全体を被覆することができる袋形状のものであり、かつ、上液室本体11が押圧変形した場合にのみ、上液室1を被覆可能な形状を有するものである。本実施形態の被覆部材Bは、正面視における上液室1の形状と略相似な略三角形状の包装袋である。
【0042】
被覆部材Bは、押圧変形前においては、上液室本体11に引っ掛かることにより被覆を妨げる一方、押圧変形後においては、上液室本体11に引っ掛かることなく上液室1を挿通する引っ掛かり部41を有する。本実施形態の引っ掛かり部41は、被覆部材Bの開口部の内周部である。
【0043】
具体的には、引っ掛かり部41の挿通方向に直交する内周の長さ、つまり開口部の内周部の長さは、上液室本体11を押し潰す前において点滴用容器Aを平面に載置した状態、又は点滴用容器Aを吊り下げた状態における上液室1の挿通方向に直交する外周の長さの最大値よりも小さく、押圧変形後における上液室1を被覆することができる長さの最小値よりも大きい長さである。つまり、引っ掛かり部41の形状は、押圧変形前においては、上液室本体11の厚みに支え上液室1全体を被覆できず、押圧変形後においては、上液室本体11の厚みに支えることなく上液室1を挿通し、上液室1全体を被覆可能とする形状である。なお、挿通方向とは、図5、図6に示すように、引っ掛かり部41が上液室1を挿通する向きである。
【0044】
また、被覆部材Bには、被覆部材Bが上液室1を被覆した状態において吊架孔121と重なるような吊架孔42が設けられている。
【0045】
以上のように構成される点滴用容器セット100について、その使用方法の一例を以下に述べる。
【0046】
(1)液体混合時のチェック
【0047】
まず、点滴用容器Aを例えば平面上に載置する。すると、上液室本体11の厚みT1は、下液室本体21の厚みT2よりも厚いので、押圧変形すべき液室である上液室1を容易に見分けることでき、これに簡単にアクセスして押圧することができる。なお、このように点滴用容器Aを平面上に載置したときには、平面からの最大高さも各液室で異なるので、平面からの最大高さを尺度として、押圧変形すべき液室である上液室1を見分けることもできる。
【0048】
そして、上液室本体11に、圧縮力を加えて押し潰せば、この上液室本体11内の上液室用液体又は気体によって、間仕切り部3に通液部3Tが形成され、この通液部3Tを利用して、上液室用液体と下液室用液体とを好適に混合することができる。
【0049】
そして、混ぜ合わせた液体(以下、「混合液体」と呼ぶ)を下液室本体21に全て移動させれば、上液室本体11の外観形状は、混合液体により復元することなく押し潰されたままの形状となる(図4参照)。
【0050】
このようにして押し潰した後の上液室本体11の外観形状(図4参照)は、押し潰す前の外観形状(図3参照)と大きく異なるので、例えば一瞥しただけでその外観形状から上液室本体11を押し潰したか否かを知ることができる。
【0051】
このように、押し潰せたか否かの確認を外観形状により専ら行えしかも看護師などによる確認精度も向上する。このため、従来の開通確認シールは例えば注意喚起程度に留まらせることができ、また、ダブルチェックできない場合のチェックミスの低減に繋がる。なお、ダブルチェックを行った場合のチェックミスも、従来のものより少なくなるのはもちろんである。このように、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【0052】
このように、液体混合時に、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0053】
(2)容器吊り下げ時のチェック
【0054】
吊り下げ状態にしたときの点滴用容器Aの重心を、上液室本体11を押し潰していない状態と押し潰した状態とで比較すると、押し潰していない状態での重心の方が高くなり、しかも、その重心は、上液室本体11が下液室本体21よりも飛び出している方向である三角錐の頂点11x方向(厚みの方向)にずれる。
【0055】
このため、上液室本体11を押し潰していない状態のまま、点滴用容器Aを吊架器に吊り下げようとすると、非常に不安定で吊り下げ難い。特に、間仕切り部3から下側を持って吊り下げる場合には、極めて不安定になる。この吊り下げ難いことが、押し潰したか否かの確認の契機となり、チェックミスが従来のものより少なくなる。
【0056】
このように、容器吊り下げ時に、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0057】
(3)点滴開始時のチェック
【0058】
被覆部材Bが上液室本体11を覆った状態(図5参照)と覆っていない状態(図6参照)とを比較すると、上液室本体11の見え方や被覆部材4の点滴用容器A全体に対する位置などの外観形状が明らかに異なる。
【0059】
また、被覆部材Bは、押圧変形した場合にのみ上液室1を覆うことができる。これにより、例えば、上液室本体11を押し潰した後、被覆部材Bを上液室1全体に被せた状態で点滴を開始するという取り決めがあれば、もし上液室本体11を押し潰していない場合には、点滴開始時に引っ掛かり部41が上液室本体11に支えて上液室1を覆うことができない。このことにより、被覆部材Bを上液室1に被せる段階で押し潰したか否かを確認することができる。
【0060】
このように、点滴開始時において被覆部財Bを被せる段階で、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0061】
(4)点滴中のチェック
【0062】
さらに、点滴用容器Aを吊架器に吊り下げた場合、上液室本体11を押し潰したときの外観形状(図4参照)と、押し潰さないときの外観形状(図3参照)とが、特に厚みにおいて大きく異なる。このため、チェックミス等により押し潰していない状態のまま、点滴用容器Aを吊架器に吊り下げて点滴を開始した場合であっても、押し潰せたか否かの確認を、外観形状から容易に行える。具体的には、例えば、首を傾げるなどして、点滴容器を見る角度を振ったときに、原形(三角錐形状)が現れれば押し潰せていなく、表れなければ押し潰せていることが、遠目からでも容易にわかる。
【0063】
このように、点滴中に、押し潰せたか否かの確認を好適に行うことができる。
【0064】
<本実施形態の効果>
以上のように本実施形態にかかる点滴用容器セット100によれば、押圧変形用の液室である上液室本体11を押し潰したか否かをその外観形状から容易に知ることができる上、被覆部材Bを上液室1に被せることにより上液室本体11を潰したか否かをチェックすることができるので、ヒューマンエラーの発生を確実に低減することができる。
【0065】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0066】
例えば、上液室本体11の外観形状を、略三角錐形状としているが、図7、図8に示すように略四角錐形状としても良いし、図9、図10に示すように、略円筒形状としても良い。このように、平らな底面を持つものであれば、平らな場所に底面を置いて上から潰し易い。
【0067】
また、図11に示すように、略球体形状とすることもできる。このように、球体の片側半分が該点滴用容器Aの前方側に現れ、もう片側半分が後方側に現れる場合には、該点滴用容器Aのいずれの方向からでも押し潰せているか否かを知ることができる。
【0068】
さらには、図示はしないが、立方体、直方体、円錐体、多角錐体、多角形体、自由曲面を含む立体(例えば、ドリップ式のコーヒー用フィルタのような形状)とすることもできるし、前述の各形状を適宜組み合わせた形状としてもよい。
【0069】
また、上液室1と下液室2との2室を備えるようにしているが、3つ以上の液室を備えるようにしてもよい。
【0070】
また、各液室が、縁部12、22を備えるようにしているが、縁部の無い構成とすることもできる。
【0071】
また、吊架孔の個数、位置、大きさなどは、実施態様に応じて適宜変更可能である。
【0072】
また、図12に示すように、前記実施形態の上液室1被覆用の被覆部材Bの開口部に下液室2被覆用の被覆部材Cを設けて点滴用容器カバーとしてもよい。点滴用容器カバーの形状としては、例えば、正面視における点滴用容器Aに略相似な形状である。この場合においては、引っ掛かり部41は、上液室1被覆用の被覆部材Bの挿通方向下端部(被覆部材Bの開口部)に形成される。また、点滴用容器カバーが、遮光効果を有する材質から形成することにより点滴用容器A内の液体の劣化を防ぐことができる。
【0073】
また、前記実施形態では被覆部材Bは、上液室1に略相似な形状であるが、上液室1を被覆するに際し、引っ掛かかる部分(引っ掛かり部41)があれば相似な形状でなくてもよい。
【0074】
さらに、被覆部材Bは、袋形状でなくてもよく、例えば環状のものであってもよい。
【0075】
また、前記実施形態では被覆部材Bを点滴開始時に上液室1へ被覆しているが、上液室1を押し潰した直後又は吊り下げ時に被覆するものであってもよい。
【0076】
さらに、前記実施形態では、引っ掛かり部41は、被覆部材Bの開口部であるが、上液室本体11を潰した後に上液室1を挿通するのであれば被覆部材Bの中腹部などに形成されてもよい。
【0077】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態における点滴用容器を示す全体斜視図。
【図2】同正面図。
【図3】同側面図(押し潰し前)。
【図4】同側面図(押し潰し後)。
【図5】本発明の一実施形態における点滴用容器セットを示す側面図(押し潰し前)。
【図6】同側面図(押し潰し後)。
【図7】本発明の他の実施形態における点滴用容器を示す正面図。
【図8】同側面図(押し潰し前)。
【図9】本発明の他の実施形態における点滴用容器を示す正面図。
【図10】同側面図(押し潰し前)。
【図11】本発明の他の実施形態における点滴用容器を示す側面図(押し潰し前)。
【図12】本発明の他の実施形態における点滴用容器カバーを示す正面図。
【符号の説明】
【0079】
A・・・・点滴用容器
B・・・・被覆部材
1・・・・押圧変形用の液室(上液室)
2・・・・他の液室(下液室)
3・・・・間仕切り部
3T・・・通液部
T1・・・押圧変形用の液室の厚み
T2・・・他の液室の厚み
41・・・引っ掛かり部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を充填した状態での厚みが互いに異なる2つの液室、隣接する液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部、及び前記厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室に圧縮力を加えた場合に、前記間仕切り部の少なくとも一部に形成される通液部を備え、吊り下げ状態において、前記押圧変形用の液室の内部に液体を充填した状態での重心が、他の液室の内部に液体を充填した状態での重心に対して、前記押圧変形用の液室の厚みの方向にずれている点滴用容器と、
前記押圧変形用の液室が押圧変形した場合にのみ、前記押圧変形用の液室を被覆可能な被覆部材と、を有する点滴用容器セット。
【請求項2】
前記被覆部材が、押圧変形前においては、前記押圧変形用の液室に引っ掛かることにより被覆を妨げる一方、押圧変形後においては、前記押圧変形用の液室を挿通する引っ掛かり部を有するものである請求項1記載の点滴用容器セット。
【請求項3】
前記引っ掛かり部の挿通方向に直交する内周の長さが、押圧変形前における前記押圧変形用の液室の挿通方向に直交する外周の長さの最大値より小さく、押圧変形後における前記押圧変形用の液室を被覆することができる長さの最小値よりも大きい請求項2記載の点滴用容器セット。
【請求項4】
前記押圧変形用の液室の外観形状が、立方体、直方体、円錐体、円柱体、多角錐体、多角形体、球体、自由曲面を含む立体又はそれらの二以上の組み合わせた形状であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の点滴用容器セット。
【請求項5】
前記押圧変形用の液室を、上端側に配していることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の点滴用容器セット。
【請求項1】
内部に液体を充填した状態での厚みが互いに異なる2つの液室、隣接する液室間を液密状態で間仕切る間仕切り部、及び前記厚みが他の液室よりも厚い押圧変形用の液室に圧縮力を加えた場合に、前記間仕切り部の少なくとも一部に形成される通液部を備え、吊り下げ状態において、前記押圧変形用の液室の内部に液体を充填した状態での重心が、他の液室の内部に液体を充填した状態での重心に対して、前記押圧変形用の液室の厚みの方向にずれている点滴用容器と、
前記押圧変形用の液室が押圧変形した場合にのみ、前記押圧変形用の液室を被覆可能な被覆部材と、を有する点滴用容器セット。
【請求項2】
前記被覆部材が、押圧変形前においては、前記押圧変形用の液室に引っ掛かることにより被覆を妨げる一方、押圧変形後においては、前記押圧変形用の液室を挿通する引っ掛かり部を有するものである請求項1記載の点滴用容器セット。
【請求項3】
前記引っ掛かり部の挿通方向に直交する内周の長さが、押圧変形前における前記押圧変形用の液室の挿通方向に直交する外周の長さの最大値より小さく、押圧変形後における前記押圧変形用の液室を被覆することができる長さの最小値よりも大きい請求項2記載の点滴用容器セット。
【請求項4】
前記押圧変形用の液室の外観形状が、立方体、直方体、円錐体、円柱体、多角錐体、多角形体、球体、自由曲面を含む立体又はそれらの二以上の組み合わせた形状であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の点滴用容器セット。
【請求項5】
前記押圧変形用の液室を、上端側に配していることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の点滴用容器セット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−125513(P2009−125513A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306653(P2007−306653)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(507390734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(507390734)
【Fターム(参考)】
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