説明

無方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼素材,特に1250℃以下の加熱温度に加熱されて粗圧延されたスラブ,直接鋳造鋼帯あるいは薄スラブが、C≦0.06wt%,0.03wt%≦Si≦2.5wt%,Al≦0.4wt%,0.05wt%≦Mn≦1.0wt%,S≦0.02wt%並びに必要に応じて更なる添加合金元素及び残部として鉄並びに通常の付随成分を含有する。この鋼素材が、1100℃以下の入口温度で仕上げ圧延スタンドに導入されて、最終圧延温度(TET)≧770℃の下で、厚さ<3.5mmの熱延鋼帯に圧延され、最終圧延温度の関数としての巻取温度(THT)で巻取られ、酸洗後に、多数回のパスによって総圧下率≦85%の下で、厚さ0.2〜1mmの冷延鋼帯に冷間圧延され仕上げ処理が施される。この方法により優れた磁気特性を有する広範囲の高品質無方向性電磁鋼板の製造が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。本発明に関して、“無方向性電磁鋼板”とは、その集合組織のいかんにかかわらず DIN EN 10106 に述べられた鋼板に該当し、その損失異方性が DIN EN 10106 に規定された最高値以下であるような鋼板 あるいは 鋼帯であるとする。その限りにおいて、本願では“電磁鋼板”と“電磁鋼帯”とは同義語とする。
【背景技術】
【0002】
以下において、“J2500”および“J5000”は、2500 A/m および 5000 A/m の磁場の下における磁化を表す。“P 1.5”とは、1.5 T の磁化 及び 50 Hz の周波数の下での磁気損失を意味する。
【0003】
加工工業界からは、従来の鋼板に比べて磁性のより高い鋼板を入手したいとの要望がある。誘導電場が重要な役割を演じる適用分野において特にそうである。磁性の向上によって、必要磁界が減少する。それに伴って、電気機械の運転の際に生じる損失の主要部分である銅損も減少する。したがって、透磁率の高い無方向性電磁鋼板の経済的価値は大きい。
【0004】
この高透磁率無方向性電磁鋼板品種への要求は、高損失級 (P1.5 ≧ 5 ~6 w/kg) 無方向性電磁鋼板に関してのみならず、中損失級(3.5 w/kg ≦ P1.5 ≦ 5.5 w/kg) 無方向性電磁鋼板 及び 低損失級 (P1.5 ≦ 3.5 w/kg) 無方向性電磁鋼板に関しても提起されている。したがって、低,中 及び高硅素電磁鋼種のすべてについて、その磁気特性を改善するための努力がなされている。この場合に、シリコン含有量が 2.5 wt % までの電磁鋼板品種が その市場勢力の観点から、特に 重視されている。
【0005】
J2500ないしはJ5000 値の高い高透磁性電磁鋼板品種を製造することのできるさまざまな従来方式が知られている。即ち、例えば EP 0 431 502 A2 により公知の方法を用いて、無方向性電磁鋼板が製造され、その場合には、C ≦ 0.025 wt%,Mn ≦ 0.1 wt%,0.1 wt% ≦ Si ≦ 4.4 wt% 及び 0.1 wt% ≦ Al ≦ 4.4 wt% を含有する鋼素材が まず 厚さ 3.5 mm 未満に熱間圧延される。そのようにして得られた熱延鋼帯は 次に 中間再結晶焼鈍なしで 86 % 以上の圧下率で 冷間圧延され また 焼鈍処理される。
【0006】
この公知の方法に準拠して製造された鋼帯は、特殊な立方晶集合組織,2500 A/m での磁場強度 J2500 の下で 1.7 T を上回る 特に高い磁化 及び 低い磁気損失を示す。もちろん この成果は上記の特殊な化学組成と関係がある。特に その Mn含有量と関係があり、驚くべきことに、これが所要の立方晶集合組織の調整に必要である。同様に、この公知の方法によれば、Si含有量とAl含有量との間にある一定の関係が保たれて、それによって、当該電磁鋼板の性質が決定的に影響される。この要求条件は ここで関心を持たれているすべての製品品目において満たされているわけではないので、このEP 0 431 502 A2 に記述された方法は、特に高度の要求を課せられた鋼板に対してのみ、個別に 適合する。
【0007】
上に説明した方法のほかにも、専門的文献から、電磁鋼板の特性改善のための更なる可能性が公知である。即ち 例えば 中間焼鈍によって、高透磁性電磁鋼品種の熱延鋼帯を製造することが提案されている (EP 0 469 980 B1,DE 40 05 807 C2)。
【0008】
これらの公知のすべての方法は共通して、それぞれ固有の化学組成の素材を前提とし、また 操業パラメータの厳密な遵守を要求している。そのために、これらの公知の方法は、広範な特性品目の高級電磁鋼板を統一的な製造工程で処理するには適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上に総括した技術の現状から脱却して、改良された磁気特性を有する高性能の無方向性電磁鋼板の広範な品目を製造することの可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この課題は当初に述べた種類の方法によって解決される。即ち、この方法においては、1250℃ 以下の加熱温度に加熱されて 粗圧延されたスラブ,直接連続鋳造鋼帯 あるいは 直接連続鋳造薄スラブのような鋼素材として、C ≦ 0.06 wt%,0.03 wt% ≦ Si ≦ 2.5 wt%,Al ≦ 0.4 wt%,0.05 wt% ≦ Mn≦ 0.1 wt%,S ≦ 0.02 wt% 並びに 必要に応じて 更なる 添加合金元素 及び 残部として 鉄 並びに 通常の不可避成分を含有する鋼素材が、1100℃以下の入口温度で 仕上げ圧延スタンドに導入されて、最終圧延温度 (TET) ≧ 770℃ の下で、厚さ < 3.5 mm の熱延鋼帯に圧延され、この熱延鋼帯は巻取温度 (THT) で巻取られる。この巻取温度は下式で決定され、その最大偏差は ± 10℃ である。
【0011】
THT [℃] = 154 − 1.8 α t + 0.577 TET + 111 d/d0
ここで、d0 : 熱延鋼帯の規準厚さ (mm)
d : 熱延鋼帯の実際の厚さ (mm)
t : 熱延終了と巻取りとの間の時間 (s)
α : 冷却ファクター (s-1)
次いで 熱延鋼帯は酸洗され、酸洗後に 多数回のパスによって 総圧下率 ≦ 85 % の下で、厚さ 0.2〜1 mm の冷延鋼帯に冷間圧延される。また この冷延鋼帯には最終処理が施される。冷却ファクターは 好ましくは 1 s-1 ± 0.3 s-1 の範囲内にある。この場合の冷却には、空気 あるいはまた 補助として 水が用いられる。規準厚さ d0 とは、標準品の厚さとし、そのそれぞれについて、冷却ファクターが求められている。
【0012】
本発明の成果の更なる改善が、以下の方式によって達成可能である:即ち、粗圧延されたスラブとしての鋼素材が存在するときに、このスラブを 析出組織の改善のために 1250℃ の温度まで加熱する。この場合に、好ましくは 加熱温度を下式で決定される加熱目標温度の ± 20℃ 以内とする。
TZBR [℃] = 1195℃ + 12.716 × (GSi+ 2GAl)
ここで、TZBR : スラブ加熱目標温度
GSi : Si含有量 wt %
GAl : Al含有量 wt %
さらに、鋼素材としてスラブを用いる場合には、仕上げ圧延前に スラブを多数回パスで、20〜65 mm の厚さに粗圧延するのが妥当である。このようにすると、続く 鋼帯厚さ < 3.5 mm への仕上げ圧延時の圧下率が小さくて、それが 当該電磁鋼板の卓越した磁気特性の形成に好都合である。さらに この関係で、スラブの粗圧延の各パスの圧下率は 25 % 以下であることが好ましい。このことも特に良好な磁気特性を有する電磁鋼板の製造に好都合である。この場合に、粗圧延を少なくとも四パスで行うことによって、さらに改善効果を得ることができる。この処置によって、所要の高い磁化に好ましい組織の出現がさらに促進される。
【0013】
本発明に準拠する措置によって得られる成果は、熱間圧延の際の最終圧延温度が、最大偏差 ± 20℃ の下で、下式で決定される最終圧延目標温度 (TZET)より低くならないようにすることによって、さらに 改善される。
【0014】
TZET [℃]= 790℃ + 40 × (GSi + 2GAl)
ここで、TZET : スラブ最終圧延目標温度
GSi : Si含有量 wt %
GAl : Al含有量 wt %
さらに、磁気特性に好ましい組織にするという観点から、仕上げ圧延を多数回パスで行い、かつ 圧下率を 50 % から 5 % へと、後段パスほど小さくするのが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、グループA及びBの製造の際に実施される製造工程の流れ図を示す。
【図2】図2には、グループCに属する電磁鋼板品種の製造の際に実施される工程の流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、磁気特性に応じて意図的に個々の工程を調整することによって、コストの高い工程の追加を必要としないで、改善された電磁鋼板を製造することができる。即ち、本発明の方式によれば、通常の組成の鋼材料から出発して、一つの操業工程で、磁気特性に課せられた高度の要求を満足する電磁鋼板を製造することができる。さらに、同じ方法に基づいて、特殊な組成から出発して、最適特性を有する電磁鋼板を製造することができる。最後に、補完された処理工程を適用することによって、特別に選定された組成を用いて、本発明により 透磁率が最高で、それにより 最も厳しい要求条件も満足する電磁鋼板を製造することができる。
【0017】
本発明の核心部分は巻取温度の選定であって、この温度は本発明に準拠して、この目的のために予定された条件に従って求められる。このようにして求められた巻取温度を守ることによって、それぞれの最終圧延温度に適合して材料組織の均一化が達成される。その効果として、本発明に準拠して製造された電磁鋼板の磁気損失 及び 磁化の特性が改善される。この関係で、前述の 最終圧延目標温度範囲算定式も特に重要である。この最終圧延目標温度がこの式に記述された範囲内に入るように選定された場合には、巻取温度と最終圧延温度が相互に最適状態に調整される。この最適調整により得られた鋼帯では、次工程において、有利な磁気的集合組織が顕著に現われる。
【0018】
グラフ1に さまざまな電磁鋼板品種について、磁化 J2500 と 磁気損失 P 1.5 との関係を示す。同図において、点線 A は従来方式によって製造された電磁鋼板の磁気特性を示し、これらの鋼板を第一グループA とする。これらの線 A の正方形で表された角点 EA1,...EA5,EA6,...,EA9,...,EAn は それぞれ グループA の所定の電磁鋼板のそれぞれの磁気損失に対応する磁化についてのものである。即ち 例えば 角点 EA5,EA6,EA9 は従来の方式で製造された電磁鋼板 BA5H,BA6H ないし BA9H についてのものである。これらの鋼板は、それぞれ 所定の中硅素合金 L5,L6 ないし L9 に基づいて製造されている。
【0019】
領域 ZA5 は 電磁鋼板 BA5E が示す特性の範囲を包括し、この鋼板は従来の鋼板 BA5H を製造するのに用いられる合金 L5に基づいて製造され、かつ 本発明に準拠する方法が適用されている。領域 ZA6 は 電磁鋼板 BA6E が示す特性の範囲を包括し、この鋼板は従来の鋼板 BA6H を製造するのに用いられる合金 L6に基づいて製造され、かつ 同様に 本発明に準拠する方法が適用されている。全く同様に、領域 ZA9は 電磁鋼板 BA9E が示す特性の範囲を包括し、この鋼板は従来の鋼板 BA9H を製造するのに用いられる合金 L9に基づいて製造され、かつ 本発明に準拠する方法が適用されている。最後に、領域 ZA10 は、グループ Aに属するが 低硅素合金 L10 を用い、本発明に準拠する方法が適用された電磁鋼板 BA10E が示す特性の範囲を包括している。
【0020】
明らかに認められるように、本発明に準拠して製造された電磁鋼板 BA5E ,BA6E ,BA9E ,BA10E は すべて 同じ合金に基づいているが 従来の方法を適用して製造された同じグループ A の電磁鋼板に比べて、より改善された磁気特性を示している。即ち、どの場合にも 磁化が明らかに上昇している。このようにして、本発明に準拠する方法の実施によって、従来の方法で製造された同種の電磁鋼板に比べて磁性がより高い電磁鋼板を、工程追加 あるいは 合金組成の変更なしで、製造することができる。
【0021】
グラフ1に 破線で示した 線 B によって、第二グループ B に属し 特殊な化学組成の鋼素材に基づいて 従来の方法で製造された電磁鋼板の磁気特性を示す。ここに示された高い磁性は、従来の方法の場合には、当該鋼素材から圧延された熱延鋼帯に焼鈍を施すことを前提にしている。角点 EB1,….,EBn は やはり それぞれ 所定の合金組成に基づいて 従来の方法で製造された電磁鋼板のそれぞれの磁気特性を示す。
【0022】
本発明によれば、このグループ B に属する電磁鋼板を製造するのに用いられる鋼素材の適切な化学組成は:C ≦ 0.015 wt%,0.1 wt% ≦ Si ≦ 1.1 wt%,0.05 wt% ≦ Al ≦ 0.3 wt%,0.08 wt% ≦ Mn ≦ 0.5 wt%,S ≦ 0.02 wt%,0.08 wt% ≦ P ≦ 0.25 wt%,必要とあれば 更なる添加合金元素 並びに 極く少量の 通常の付随元素 及び 不可避的不純物 及び 残部の鉄である。
【0023】
グラフ1 に記入された領域 ZB は、適切な化学組成の 低珪素系の 本発明の方法を適用された電磁鋼板が示す磁気特性の範囲を包括している。指摘すべきことは、これらの電磁鋼帯には熱延鋼帯焼鈍を全く施していないということである。このようにして、本発明に準拠して製造された特殊化学組成の鋼帯は、従来の方式においては コストのかかる熱延鋼帯焼鈍を施した場合にしか得られないような磁気特性を有する。
【0024】
C ≦ 0.006 wt%,0.15 wt% ≦ Si ≦ 0.5 wt%, Al ≦ 0.3 wt%,0.05 wt% < Mn ≦ 1.2 wt%,S ≦ 0.005 wt%,0.03 wt% ≦ P ≦ 0.15 wt%,必要とあれば 更なる添加合金元素 並びに 極く少量の 通常の付随元素 及び 不可避的不純物 及び 残部の鉄 を含有する鋼素材を使用することによって、透磁性をさらに改善した電磁鋼板を製造することができる。グラフ1 において領域 ZC で包括された領域は、このような特殊な組成の電磁鋼板を本発明の方式で製造し、その際に 熱延鋼帯を冷間圧延前に焼鈍した場合に得られる磁気特性に対応する。このように その製造の際に 本発明の諸工程に加えて熱延鋼帯焼鈍を施された電磁鋼板は、従来の製法による鋼板に熱延鋼帯焼鈍を施した場合に比べてさえも、ずっと優れた磁気特性を示す。このようにして 本発明の手法と また 特別に選定した合金に基づく追加工程を適用することによって、グラフ1が示すように、4.5〜5.5 W/kg という磁気損失P 1.5 の下で、2500 A/m での磁場強度 J2500 により、> 1.7 T なる磁化が得られ、これは従来の鋼板を上回っている。
【0025】
例えば P,Sn,Sb,Zr,V,Ti,N あるいはまた B のような 他の添加合金元素の wt % は最高 1.5 に限定するのが望ましい。
【0026】
熱延鋼帯焼鈍が実施される限りは、本発明の特に好ましい形態の特徴は、ベル内で焼鈍を行うことである。この場合には、ベル焼鈍の間に 熱延鋼帯を最高温度650〜850℃ の下で、3〜10 時間 保持することが望ましい。
【0027】
代案として、熱延鋼帯を連続炉で焼きなますこともできる。この場合には、熱延鋼帯を最高温度750〜1050℃ の下で、≦ 1 分間 保持するべきである。この場合には、連続炉を焼鈍・酸洗組み合わせの形態とすることによって、設備コスト 及び 処理時間を軽減することができる。
【0028】
いわゆる “fully-finished (完全仕上げ)” 電磁鋼板を製造しようとするときは、本発明の方法の最後に実施される仕上げ処理には、連続炉で行われる仕上げ焼鈍が含まれる。この際には、780℃ より高い温度で仕上げ焼鈍を行うのが妥当である。この仕上げ焼鈍温度は 1100 ℃ 以下であるべきで、下式のように Si及び Al含有量の和の関数として決定することができる:
y = GSi + GAl
y ≦ 1.2:TA [℃] ≧ 780
y > 1.2:TA [℃] ≧ 780 + 120 (y − 1.2)
ここで TA :仕上げ焼鈍温度
GSi:Si含有量 wt %
GAl:Al含有量 wt %。
【0029】
Si含有量 ≧ 1 % の場合には、仕上げ焼鈍温度は下式のように Si及び Al含有量の和の関数として決定すべきである。
y = GSi + GAl
y ≦ 1.2:TA [℃] ≧ 810
y > 1.2:TA [℃] ≧ 810 + 120 (y − 1.2)
ここで TA :仕上げ焼鈍温度
GSi:Si含有量 wt %
GAl:Al含有量 wt %
さらに、最高仕上げ焼鈍温度における保持時間は、≦ 30 秒 とするのが望ましい。
【0030】
一方、いわゆる “semi-finished (半仕上げ)” 電磁鋼板を製造しようとするときは、その仕上げ処理に、バッチ炉 あるいは 連続炉における再結晶化焼鈍を含めることができる。バッチ炉を用いる場合には、再結晶化焼鈍の間の最高焼鈍温度は580℃〜780℃,その保持時間は 1〜10 時間 とするのが望ましい。
【0031】
さらに この再結晶化焼鈍は 純粋ガス,好ましくは H2中で、あるいは 非脱炭性混合ガス中で行うのが望ましい。しかし 代案として この再結晶化焼鈍を、脱炭性の混合ガスで構成された雰囲気中で行うこともできる。
【0032】
一方、この再結晶化焼鈍を連続炉で行う場合には、冷延鋼帯に対して、最高焼鈍温度は 750℃〜1050℃,その保持時間は30秒以下とするのが望ましい。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を その実施例を用いて さらに詳しく説明する。
【0034】
グループA 及び Bに属する電磁鋼板品種の製造の際には、まず それぞれ 所定の化学組成の鋼のスラブが製造される。それらの化学組成を、品種 A の電磁鋼板の例については 表1 に、また 品種 B の電磁鋼板の例については 表2 に示す。
【0035】
次に、これらのスラブは 1250℃ 以下の加熱温度 TZBR に加熱される。この場合の加熱温度は、最大偏差 ± 20℃ の下で、各合金鋼の Si及びAl含有量 Gsi,GAl の関数として、下式によって決定される。
【0036】
TZBR [℃]= 1195℃ + 12.716 × (GSi + 2GAl)
このように加熱されたスラブは、多数回のパスによって 20〜65 mm の厚さに粗圧延されて、1100℃ 以下の入口温度 TATで仕上げ圧延スタンドに導入される。なお 上記の各パスの圧下率は 25 % 以下とする。仕上げ圧延においては、多数回パスによって、厚さ < 3.5 mm の熱延鋼帯に圧延されるが、その圧下率は 50 % から 5 % まで、パスの後段ほど 小さくする。
【0037】
仕上げ圧延された熱延鋼帯は 次に 巻取られる。各鋼帯が熱間圧延後に巻取られるときの温度は、最大偏差 ± 10℃ の下で、下式によって決定される。
【0038】
THT [℃] = 154 − 1.8 α t + 0.577 TET + 111 d/d0
この例の場合には、熱延鋼帯の規準厚さは 3 mm であるが、熱延鋼帯の実際の厚さは2.75 mm から 3.1 mm までの範囲内で変動していた。冷却ファクターは、0.7 s-1〜1.3 s-1 の範囲内にあった。熱間圧延終了と巻取りとの間の時間t は、10〜25 ないし 8〜30 秒 の間であった。個々の例について、それぞれの 仕上げ圧延スタンド末端における圧延終了温度 TET 及び 実際の巻取り温度 THT を 表 1 及び 2 に示す。
【0039】
巻取り終了後は、熱延鋼帯は 熱延鋼帯焼鈍を施されることなく 酸洗され、その後に 多数回のパスで 厚さ 0.2〜1 mm の冷延鋼帯に冷間圧延される。その際の全圧下率は 85 % 以下である。
【0040】
仕上げ焼鈍された電磁鋼板の製造にあたっては、鋼帯は 最後に実施される仕上げ処理の枠内で 連続炉において 仕上げ焼鈍を施される。その際の到達最高温度 TSGも 表1 及び 2 に示す。
【0041】
表1 及び 2 には、個々の例について さらに その磁気特性も付記してある。
【0042】
表3 には、Cグループに属する電磁鋼板の例について、同様のデータ 並びに 最良の磁気特性を示す。図2から分かるように、これらの鋼板は熱延鋼帯として 酸洗後に熱延鋼帯焼鈍を施される。これが連続炉で行われる場合は、焼鈍 / 酸洗組み合わせ設備で実施することができる。
【0043】
しかし ここに示された例の場合には、熱延鋼帯焼鈍はバッチ炉焼鈍で実施された。この場合の保持時間は 3〜10 時間 であった。このバッチ炉焼鈍の際の到達最高温度 THGMax も 表3 に示す。
【0044】
仕上げ焼鈍の代案として、鋼帯に再結晶焼鈍処理を施し、続いて 後変形加工を施すこともできる。この際の最高変形加工度は 15 % である (この代案を 図1 ないし 2 に点線で示す)。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
1250℃以下の加熱温度に加熱されて粗圧延されたスラブ、直接連続鋳造鋼帯または直接連続鋳造薄スラブのような鋼素材として、
C : ≦ 0.06 wt%
Si: 0.03〜2.5 wt%
Al: ≦ 0.4 wt%
Mn: 0.05〜1.0 wt%
S : ≦ 0.02 wt%
並びに必要に応じて更なる添加合金元素、及び
残部として鉄並びに通常の付随成分
を含有する鋼素材を、
1100℃以下の入口温度で仕上げ圧延スタンドに導入して、最終圧延温度 (TET) ≧ 770℃ の下で、厚さ < 3.5 mm の熱延鋼帯に圧延し、
この熱延鋼帯を巻取温度 (THT) で巻き取り、その巻取温度は下式で決定され、その最大偏差は± 10℃であり、
THT [℃] = 154 − 1.8 α t + 0.577 TET + 111 d/d0
ここで、d0 : 熱延鋼帯の規準厚さ (mm)
d : 熱延鋼帯の実際の厚さ (mm)
t : 熱延終了と巻取りとの間の時間 (s)
α : 冷却ファクター (s-1)
次いで 熱延鋼帯を酸洗し、酸洗後に、多数回のパスによって総圧下率85%以下で厚さ0.2〜1mmの冷延鋼帯に冷間圧延し、そして
この冷延鋼帯に仕上げ処理を施す方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、鋼素材がスラブであって、かつ 加熱温度が下式:
TZBR [℃]= 1195℃ + 12.716 × (GSi + 2GAl)
ここで、TZBR : スラブ加熱目標温度
GSi : Si含有量 wt%
GAl : Al含有量 wt%
で決定される加熱目標温度 (TZBR)の±20℃以内であることを特徴とする方法。
【請求項3】
先行する請求項の1項記載の方法において、鋼素材がスラブであって、かつ 仕上げ圧延前にスラブを多数回パスで20〜65 mm の厚さに粗圧延することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、スラブの粗圧延の各パスの圧下率が 25 % 以下であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の方法において、粗圧延を少なくとも 4パスで行うことを特徴とする方法。
【請求項6】
先行する請求項の1項記載の方法において、熱間圧延の際の最終圧延温度が、最大偏差 ± 20℃ の下で、下式:
TZET [℃]=790℃ + 40 × (GSi + 2GAl)
ここで、TZET : 最終圧延目標温度
GSi : Si含有量 wt %
GAl : Al含有量 wt %
で決定される最終圧延目標温度 (TZET) に合致することを特徴とする方法。
【請求項7】
先行する請求項の1項記載の方法において、仕上げ圧延を多数回パスで行い、かつ 圧下率を50%から5%へと、後段パスほど小さくすることを特徴とする方法。
【請求項8】
先行する請求項の1項記載の方法において、鋼素材の化学組成が、
C : ≦ 0.015 wt%
Si: 0.1〜1.1 wt%
Al: 0.05〜0.3 wt%
Mn: 0.08〜0.5 wt%
S : ≦ 0.02 wt%
P : 0.08〜0.25 wt%
必要とあれば 更なる添加合金元素
並びに 極く少量の 更なる付随元素 及び 不可避的不純物 及び
残部の鉄、
であることを特徴とする方法。
【請求項9】
先行する請求項の1項記載の方法において、鋼素材の化学組成が、
C : ≦ 0.006 wt%
Si: 0.15〜0.5 wt%
Al: ≦ 0.3 wt%
Mn: >0.05〜1.2 wt%
S : ≦ 0.005 wt%
P : 0.03〜0.15 wt%
必要とあれば 更なる添加合金元素
並びに極く少量の更なる付随元素、及び
不可避的不純物及び残部の鉄、
であることを特徴とする方法。
【請求項10】
先行する請求項の1項記載の方法において、鋼素材が添加合金元素としてP、Sn、Sb、Zr、V、Ti、Nおよび/またはBを含有し、かつ、それらの総量が1.5wt % 以下であることを特徴とする方法。
【請求項11】
先行する請求項の1項記載の方法において、熱延鋼帯を冷間圧延の前に焼鈍することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法において、焼鈍をバッチ炉内で行うことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、熱延鋼帯をバッチ炉内焼鈍において最高温度650〜850℃に3〜10時間保持することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項11記載の方法において、焼鈍を連続炉内で行うことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、熱延鋼帯を最高焼鈍温度750〜1050℃に1分以下保持することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14または15記載の方法において、連続炉が焼鈍と酸洗とを組み合わせた構成になっていることを特徴とする方法。
【請求項17】
先行する請求項の1項記載の方法において、仕上げ処理が連続炉中で行う仕上げ焼鈍を含み、その仕上げ焼鈍は仕上げ焼鈍温度(TA) ≧780℃で行うことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、仕上げ焼鈍温度(TA)が 最高で1100℃であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16から18までの1項記載の方法において、仕上げ焼鈍温度(TA)がSi及びAlの含有量の和の関数として、下式:
y = GSi+ GAl
y ≦ 1.2:TA [℃] ≧ 780
y > 1.2:TA [℃] ≧ 780 + 120 (y − 1.2)
ここで TA :仕上げ焼鈍温度
GSi:Si含有量 wt %
GAl:Al含有量 wt %
によって決定されることを特徴とする方法:
【請求項20】
請求項17または18記載の方法において、電磁鋼板が少なくとも1wt %のSiを含有し、かつ仕上げ焼鈍温度(TA) がSi及びAlの含有量の和の関数として、下式:
y = GSi+ GAl
y ≦ 1.2:TA [℃] ≧ 810
y > 1.2:TA [℃] ≧ 810 + 120 (y − 1.2)
ここで TA :仕上げ焼鈍温度、
GSi:Si含有量 wt %、
GAl:Al含有量 wt %、
によって決定されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17から20までの1項記載の方法において、最高仕上げ焼鈍温度 (TA) における保持時間が30秒以下であることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1から16までの1項記載の方法において、仕上げ処理がバッチ炉中における再結晶焼鈍を含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、再結晶焼鈍に続いて、最高15%までの後変形加工を行うことを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項22または23記載の方法において、再結晶焼鈍の間の最高焼鈍温度が580℃〜780℃であり、かつ、この最高焼鈍温度における保持時間が1〜10時間であることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項22から24までの1項記載の方法において、再結晶焼鈍を純粋ガス下で行うことを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法において、ガスがH2であることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項22から24までの1項記載の方法において、再結晶焼鈍を非脱炭性混合ガス下で行うことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項21または22記載の方法において、再結晶焼鈍を、混合ガスから成る脱炭性雰囲気中で行うことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1から15までの1項記載の方法において、仕上げ処理が連続炉中における再結晶焼鈍を含むことを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29記載の方法において、再結晶焼鈍に続いて最高15%までの後変形加工を行うことを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項29または30記載の方法において、冷延鋼帯を750℃〜1050℃の最高焼鈍温度に30秒以下保持することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−185386(P2009−185386A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45730(P2009−45730)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【分割の表示】特願2000−613837(P2000−613837)の分割
【原出願日】平成12年4月19日(2000.4.19)
【出願人】(500169782)ティッセンクルップ スチール アクチェンゲゼルシャフト (45)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel AG
【Fターム(参考)】