説明

無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートとその製造方法、浮力材及び救命胴衣

【課題】浮力性と物理強度(引張強度)を併せ持つ無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを得ること。
【解決手段】厚みが2.0mm〜6.0mmの範囲内であり、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内であり、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上であり、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下であることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート。この発泡シートにおいて、原料のポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが0.28g/10min以下であり、発泡シートを脱泡して得られる樹脂のメルトインデックスが0.4g/min以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、救命胴衣用内包材などの浮力材として好適に用いられる無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエチレン系樹脂発泡シートは、押出機内にポリエチレン系樹脂を発泡剤、気泡調整剤などとともに入れ、高温、高圧条件下で混練したのち、押出機の先端部に接続したサーキュラーダイ出口から円筒状に押し出し、発泡させて冷却する押出発泡法によって製造される。ダイから押し出された溶融軟化した樹脂は、大気中でエアー冷却されて発泡抑制されながら、冷却マンドレルに到達する。ここで冷却された発泡シートは、カッターにてカットされ、平面体の一枚のシートとして紙管などに巻き取られ、発泡シートとして製造されている。
これらの発泡シートは、発泡倍数が30倍以上であり、軽量で柔軟性があり、緩衝材として使用されているだけでなく、軽量で高い浮力を得られることから、救命胴衣内包材などの浮力材としても使用されている。
【0003】
一方、救命胴衣はその製品の特性上、浮力性だけでなく、強度として特に高い引張強度を有することで、製品そのものが長期に水中及び軽油中でも破壊されずにその性能を維持することが必要である。
これまでは救命胴衣そのものに物理強度があれば十分であったが、より安全性を高めるとの社会的ニーズがあり、内包材として使用されている浮力材に対しても十分な物理強度を有すること、さらにはその耐久性が求められるようになった。
発泡性と物理強度の両立は、これまで架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートでは容易に得ることができていたが、架橋ポリエチレンはリサイクル性などの環境対応が困難であり、昨今の社会情勢に適応しにくくなってきた。従って、今後は無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを浮力材として用いることが必要になる。
【0004】
従来、ポリエチレン系樹脂発泡シートの強度に着目した技術として、例えば、特許文献1〜3に開示された技術が提案されている。
特許文献1には、樹脂温度130℃、溶融降下速度20mm/分の条件で、引張速度を毎分20mの割合で増加させながら測定される溶融時最高引取速度が5〜30m/分である無架橋のポリエチレン系樹脂によって形成され、密度が0.01〜0.1g/cm、厚みが0.5〜20mm、平均気泡径が0.2〜5.0mmで、かつ独立気泡率が50〜95%であることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの少なくとも片面に延伸フィルムが積層されたポリオレフィン系樹脂積層発泡シートであって、該ポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの長尺巻回状態における長手方向であるMD方向の引裂強度がそれと直交するTD方向の引裂強度よりも小さいことを特徴とするポリオレフィン系樹脂積層発泡シートが開示されている。
【0006】
特許文献3には、四価の遷移金属を含むメタロセン化合物を重合触媒として得られたブロッキング性を有する低密度ポリオレフィン系樹脂に、収縮防止剤を添加し高倍率発泡させてシート状に成形して構成されることを特徴とした無架橋ポリオレフィン系ノンスリップ発泡樹脂シートが開示されている。また、この引用文献3の実施例には、MFR7.5g/10minと4.0g/10minとのポリエチレン樹脂を材料として発泡シートを作製し、その発泡シートの引張強度、伸び、引裂強度、摩擦係数を測定した結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−36338号公報
【特許文献2】特開2005−131952号公報
【特許文献3】特開平11−60781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した従来技術には、次のような問題があった。
特許文献1に開示された無架橋ポリエチレン計樹脂発泡体は、熱成形を目的としたポリエチレン系樹脂発泡シートであり、樹脂に温度を加えて軟化させたときの溶融張力は考慮されているが、軟化前の常温での強度については考慮されていない。また密度範囲が広く浮力性については考慮がされていない。
【0009】
特許文献2には、フィルムを積層することで発泡シートの裂ける方向性とは異なる引き裂きの方向性を保たれたポリエチレン系発泡シートが開示されている。この従来技術ではフィルムの積層が不可欠であり、その結果、全体密度が重くなり、浮力性の低下が発生するために、浮力材としては不向きである。また易引き裂き性のシートであることから、浮力材として実用上十分な引裂強度を保つことはできない。
【0010】
特許文献3に開示された無架橋ポリオレフィン系ノンスリップ発泡樹脂シートは、シート自体の物理強度については測定結果が記載されているものの、浮力材として重要な要求性能である、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下については考慮されておらず、浮力材として好適に使用できるかどうかは不明である。さらに、後述する実施例中の[比較例5]において実証している通り、MI(MFR)が高いポリエチレン樹脂を用いた場合には、前記曝露試験後の強度低下が大きくなって、浮力材として好ましくないことが判明したことから、特許文献3の実施例で用いているMFRが7.5g/10minと4.0g/10minとのポリエチレン樹脂を用いたシートは、曝露試験後の強度低下が大きくなって、浮力材として好ましくないものと推測される。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、浮力性と物理強度(引張強度)を併せ持つ無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、厚みが2.0mm〜6.0mmの範囲内であり、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内であり、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上であり、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下であることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを提供する。
【0013】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートにおいて、原料のポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが0.28g/10min以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートにおいて、前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のメルトインデックスが0.4g/min以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートにおいて、原料のポリエチレン系樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステルを1.0質量部以上含有することが好ましい。
【0016】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートにおいて、引裂強度がTD方向及びMD方向の両方で13N/cm以上であることが好ましい。
【0017】
また本発明は、メルトインデックスが0.28以下であるポリエチレン系樹脂100質量部と、発泡剤13〜20質量部とを押出機に供給し、該押出機内で溶融混練したのち、105〜115℃の樹脂温度まで冷却し、押出機先端部のダイスを通して押し出し発泡させることによって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法を提供する。
【0018】
また本発明は、本発明に係る前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを有することを特徴とする浮力材を提供する。
【0019】
また本発明は、本発明に係る前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを浮力材として内包したことを特徴とする救命胴衣を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートは、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内であり、浮力材として十分な浮力性を維持しながら、TD方向及びMD方向の両方で250kPa以上の引張強度を有するものなので、浮力性と強度を同時に保ち、また軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下と小さいものなので、救命胴衣の内包材などの浮力材として好適なものとなる。
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートは、無架橋ポリエチレン系樹脂を材料としたものなので、架橋ポリエチレン系樹脂を用いたシートと比べ、使用後の樹脂のリサイクル性に優れたものとなる。
また、原料のポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが0.28g/10min以下であり、さらに前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のメルトインデックスが0.4g/min以下である低フロー樹脂を用いたことによって、得られた発泡シートの強度を向上させることができる。
さらに、原料のポリエチレン系樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステルを1.0質量部以上含有することで、低フロー樹脂を用いて発泡シートを製造する際に押出時の発熱が抑えられ、より低温で発泡シートを得ることで発泡シートの強度をより向上させることができる。また浮力材、例えば救命胴衣の内包材として外部部材と縫い合わせて救命胴衣を作製する際に、脂肪酸エステルを添加することによって発泡シートが滑り難くなり、縫い合わせ作業が容易になる。
また、本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートは、引張強度と共に、引裂強度がTD方向及びMD方向の両方で13N/cm以上に向上できるので、亀裂などに抗する強度を保持することができ、より物理強度に優れた無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る救命胴衣を例示し、(a)は救命胴衣の斜視図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート(以下、発泡シートと略記する)は、厚みが2.0mm〜6.0mmの範囲内であり、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内であり、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上であり、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下であることを特徴とする。
なお、MD方向とは、発泡シートを製造する際に、連続して押出発泡されて巻き取られる長尺の発泡シートの長手方向(機械方向)のことを指し、またMD方向に対して直交する方向をTD方向(巾方向ともいう)と言う。
【0023】
発泡シートの厚みは、2.0mm〜6.0mm、好ましくは2.0mm〜4.5mmの範囲内であれば、押出発泡成形法によって気泡径や密度が均一な状態の発泡シートを製造することができるので、安価に高品質の発泡シートを提供できる利点がある。厚みが前記範囲を外れた発泡シートは、引っ張り強度などの機械強度が不十分になるおそれがある。
【0024】
発泡シートの密度は、0.015g/cm〜0.030g/cm、好ましくは0.018g/cm〜0.025g/cmの範囲内であれば、浮力材として十分な浮力性が得られると共に、TD方向及びMD方向の両方で250kPa以上の引張強度が得られるようになる。発泡シートの密度が0.015g/cm未満であると、十分な機械強度が得られ難くなり、発泡シートの密度が0.030g/cmを超えると、浮力材として十分な浮力性が得られ難くなる。
【0025】
発泡シートの引張強度は、JIS K6767「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」記載の方法に準じて測定される。この発泡シートにおいて、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上、好ましくは280kPa以上あれば、この発泡シートを救命胴衣の内包材などの浮力材として用いる場合に、十分な強度が得られる。この引張強度が250kPa未満であると、この発泡シートを救命胴衣の内包材などの浮力材として用いる場合に、十分な強度が得られ難くなる。
【0026】
発泡シートの曝露試験は、JIS K2204:2007に規定する軽油2号を用いて、発泡シート切片を23℃の軽油槽に深さ40mmに浸漬し、浮かないように上部から蓋形状の部材で発泡シートを軽油中に沈めて、70時間放置した。強度低下率は、曝露試験後の発泡シート表面を濾紙でふき取って前記引張強度の測定方法と同方法にて測定をおこった。
強度低下率は、1−(暴露試験後の引張強度/暴露試験前の引張強度)×100(%)とした。軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下、好ましくは20%以下であれば、この発泡シートを救命胴衣の内包材などの浮力材として用いる場合に、十分な機械強度の耐久性を得ることができる。この強度低下が25%を超えると、浮力材として用いる場合の耐久性が劣るものとなる。
【0027】
本発明の発泡シートは、JIS K6767「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」記載の方法に準じて測定される引裂強度が、TD方向及びMD方向の両方で13N/cm以上であることが好ましい。この引裂強度が13N/cm以上、好ましくは14N/cm以上であれば、亀裂などに抗する強度を保持することができ、この発泡シートを救命胴衣の内包材などの浮力材として用いる場合に、安全性を高めることができる。
【0028】
本発明の発泡シートには、原料のポリエチレン系樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステルを1.0質量部以上含有させることが好ましい。脂肪酸エステルを1.0質量部以上含有させることによって、発泡シートを押出発泡法によって製造する際の樹脂の摩擦による温度上昇を緩和できると共に、得られた発泡シート表面の滑りを抑え、発泡シートを多数枚積み重ねて救命胴衣の外皮材と縫い合わせる際などの取り扱い性を向上させることができる。この脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノパルミテートなどが挙げられる。
【0029】
本発明の発泡シートの樹脂材料であるポリエチレン系樹脂としては、例えばエチレンの単独重合体が挙げられる他、エチレンと他の単量体との共重合体などが、単独で或いは2種以上混合して、使用できる。エチレンの単独重合体としては、例えば低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。また、エチレンと共重合体を形成する他の単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピレン、α‐オレフィン(1−ブテンなど)、スチレン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル等が挙げられる。共重合体としては、上記他の単量体成分の割合が30質量%以下のものが、好適に使用される。またポリエチレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の樹脂を混合しても良い。当該他の樹脂としては、例えばポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、α−オレフィン共重合ポリエチレン、アクリル酸エステル等が挙げられる。他の樹脂は、樹脂の総量中、30質量%以下の割合で混合するのが好ましい。
【0030】
本発明の発泡シートは、樹脂材料であるポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが0.28g/10min以下であり、さらに前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のメルトインデックスが0.4g/min以下である低フロー樹脂を用いることが好ましい。
本発明において、ポリエチレン系樹脂のメルトインデックスは、樹脂材料であるポリエチレン系樹脂のペレット、又は無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のペレットを作製した後、JIS K7210の試験方法B法記載の方法により測定した。すなわち測定装置(東洋精機製作所社製のセミオートメルトインデクサー)のシリンダーに試料3〜8gを充填し、充填棒を用いて材料を圧縮する。試験温度は190℃、試験荷重は規定荷重(21.18N)にて測定を行った。
樹脂材料であるポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが0.28g/10minを超える場合、又は前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のメルトインデックスが0.4g/minを超える場合、得られる発泡シートの引張強度及び引裂強度が十分に得られなくなると共に、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%を超えて、浮力材として不適となる。
【0031】
この樹脂材料であるポリエチレン系樹脂には、発泡性や得られる発泡シートの機械強度に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて発泡助剤、滑剤、収縮防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、着色剤、無機気泡核剤、無機充填剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0032】
本発明の発泡シートは、メルトインデックスが0.28g/10min以下のポリエチレン系樹脂100質量部と、発泡剤13〜20質量部とを押出機に供給し、該押出機内で溶融混練したのち、105〜115℃の樹脂温度まで冷却し、押出機先端部のダイスを通して押し出し発泡させる押出発泡法によって得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法に用いる押出機としては、単軸押出機や二軸押出機、あるいはこれらの押出機が複数個連結された押出機を用いることができる。何れの押出機においてもバレルの途中に発泡剤の圧入口を設けておき、揮発性発泡剤を使用する場合はこれを圧入口から圧入して無架橋ポリエチレン系樹脂と混練することが望ましい。押出機の先端に付設されるダイスとしては、サーキュラーダイ、およびTダイのいずれも使用できるが、幅方向の肉厚均一性を考えるとサーキュラーダイを用いた工程を採用するのが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、まずポリオレフィン系樹脂と発泡剤とを押出機に供給し、溶融混練したのち、上記サーキュラーダイを通して筒状に押し出して発泡させる。次にこの筒状発泡体を円環状のマンドレルの外周に沿わせて引き取って冷却する。本発明の製造方法では、押出機内で樹脂材料を溶融混練したのち、105〜115℃の樹脂温度まで冷却してから、押出機先端部のダイスを通して押出発泡させることを特徴としている。このように、押出発泡する樹脂材料を105〜115℃の樹脂温度まで冷却することで、前述したように低いメルトインデックスのポリエチレン系樹脂を用いた場合であっても、外観が良好で機械強度に優れた発泡シートを製造することができる。この樹脂温度が105℃未満であると、押出発泡がスムーズに行われず、シートに亀裂が生じ易くなり、外観が良好で機械強度に優れた発泡シートを製造することができなくなる。また、樹脂温度が115℃を超えると、発泡シートに十分な厚みが得られにくくなり、外観にしわが発生しやすくなる。
【0035】
上記ポリオレフィン系樹脂を発泡させるための発泡剤としては、揮発性発泡剤、分解型発泡剤のいずれを使用してもよい。揮発性発泡剤としては、例えば不活性ガス、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、ケトン等の多岐にわたり、このうち不活性ガスとしては、例えば炭酸ガス、窒素等が挙げられる。また脂肪族炭化水素としては、例えばプロパン、ブタン(ノルマルブタン、イソブタン)、ペンタン(ノルマルペンタン、イソペンタンなど)等が挙げられ、脂環族炭化水素としては、例えばシクロペンタン、シクロへキサン等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素としては、例えばトリクロロフルオロメタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、クロロジフルオロエタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素などの1種または2種以上が挙げられる。さらにエーテルとしては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル等が挙げられ、ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
また分解型発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アジド化合物、ホウ水素化ナトリウムなどの無機系発泡剤、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウム、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどの有機系発泡剤が挙げられる。
上記発泡剤は、単独で用いても良く、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
前述したような条件で材料樹脂を押出発泡成形することで、厚みが2.0mm〜6.0mmの範囲内であり、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内であり、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上であり、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下である本発明の発泡シートを効率よく製造することができる。
【0037】
本発明の発泡シートは、救命胴衣の内包材などの浮力材として十分な浮力性を有しており、また高い引張強度及び引裂強度を有しており、さらに軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下である、優れた物理的性能を有するものなので、救命胴衣の内包材などの浮力材として用いた場合に、該浮力材の強度を向上させることができ、安全性を向上させることができる。
【0038】
図1は、本発明の発泡シートを救命胴衣内包材として適用した例を示す図であり、(a)は救命胴衣の斜視図、(b)は側面図である。
この救命胴衣1は、本発明の発泡シートを多数枚重ね合わせた内包材(図示せず)を外皮材2で包み、これらを縫い合わせた構造になっている。内包材の厚みは、救命胴衣のサイズや各部により適宜設定される。
【0039】
この救命胴衣1は、内包材として、前述した本発明の発泡シートを用いたものなので、救命胴衣の内包材の機械強度を向上させることによって、救命胴衣の強度とその耐久性を向上させることができ、安全性を高めることができる。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
発泡シートの樹脂材料である無架橋ポリエチレン系樹脂として、低密度ポリエチレン(日本ユニカー社製のDFDJ6776(メルトインデックス(以下、MIと記す)=0.22、密度0.922g/cm))を用い、該樹脂100質量部(以下、質量部は単に「部」と記す)に発泡核剤として三協化成社製のセルマルクC−2を0.05部混合した原料を、口径90φと180φとを接続した単軸押出機に入れ、最高温度設定を210℃になるようにして押出機内で加熱溶融混練し、途中でグリセリンモノステアレート1.5部と揮発性発泡剤(イソブタン/ノルマルブタン=50/50)16部を圧入したのち、樹脂温度を112℃まで冷却し、金型口径125φ、ダイのスリットクリアランス0.36mmのサーキュラーダイから押出発泡させた後、440mmφの冷却マンドレルで冷却し、冷却して得られた円筒状シートを切り開いて平面状の発泡シートとした。
冷却マンドレル通過後、収縮は少なく、巻取り装置の巻取り速度53.0m/minにてロール状に巻き取った。約2週間の熟成期間を経過させた後、発泡シートとした。
得られた発泡シートについて、以下の試験を行った。結果を表1に記す。
【0041】
<発泡シートの厚み>
発泡シートの厚みは、テクロック社製のPG-12に100gの分銅を加重として10cm間隔で測定した平均値を厚み(単位はmm)とした。
【0042】
<発泡シートの密度>
発泡シートの密度は、10cm×100cmの発泡シート切片を作製し、その質量を計量し、前記の通り測定した厚みより体積を求め、質量と体積とから密度(単位はg/cm)を算出した。
【0043】
<引張強度・引裂強度>
発泡シートの引張強度の測定は、JIS K6767:1999「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」記載の方法に準じて測定した。すなわち、標準温湿度(温度23℃±2℃、湿度50±5%)環境下に16時間以上放置した後、テンシロン万能試験機 UCT−10T((株)オリエンテック製)を用い、つかみ間隔を100mmに設定し引張速度500mm/minで測定した。なお、打ち抜き試料についてはダンベル状1号形に規定された打ち抜き型を使用する。
引張強度は次式により算出する。
T=F/W t T : 引張強度(MPa)
F : 切断にいたるまでの最大荷重(N)
W : 試験片の幅(mm)
t : 試験片の厚さ(mm)
発泡シートの引裂強度の測定は、JIS K6767:1999「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」により、(株)オリエンテック製テンシロン万能試験機UCT−10Tを使って測定した。試験速度は500mm/min、チャック間隔を50mmとした。打ち抜き試料については、JIS K6767:1999の図2に示された試験片形状に規定された打ち抜き型を使用する。
引裂強度は次式により算出した。
引裂き強度(N/cm)=最大荷重(N)/試験片厚さ(cm)
【0044】
<曝露試験後の強度低下率>
暴露試験は、JIS K2204:2007に規定する軽油2号を用いて、発泡シート切片を23℃の軽油槽に深さ40mmに浸漬し、浮かないように上部から蓋形状の部材で発泡シートを軽油中に沈めて、70時間放置した。
強度低下率は、曝露試験後の発泡シート表面を濾紙でふき取って前記引張強度の測定方法と同方法にて測定をおこった。
低下率は、1−(暴露試験後の引張強度/暴露試験前の引張強度)×100(%)によって算出した。
【0045】
<メルトインデックス>
ポリエチレン系樹脂のメルトインデックスは、樹脂材料であるポリエチレン系樹脂のペレット、又は無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のペレットを作製した後、JIS K7210の試験方法B法記載の方法により測定した。すなわち測定装置(東洋精機製作所社製のセミオートメルトインデクサー)のシリンダーに試料3〜8gを充填し、充填棒を用いて材料を圧縮する。試験温度は190℃、試験荷重は規定荷重(21.18N)にて測定を行った。
【0046】
[実施例2]
押出機先端に取り付けたダイのスリットクリアランスを0.55mmとし、巻取り速度を29.0m/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にして発泡シートを作製し、得られた発泡シートについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に記す。
【0047】
[実施例3]
揮発性発泡剤の添加部数を16部から12部に変更し、巻取り速度を21m/minに変更したこと以外は、実施例2と同様にして発泡シートを作製し、得られた発泡シートについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に記す。
【0048】
[実施例4]
グリセリンモノステアレートを添加しなかったこと、及び揮発性発泡剤の圧入量を15.5部としたこと以外は、実施例1と同様にして発泡シートを作製し、得られた発泡シートについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に記す。
【0049】
[比較例1]
ポリエチレン系樹脂として、MIの異なる低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製のLB−280(MI=0.5、密度0.926g/cm))を用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡シートを作製し、得られた発泡シートについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に記す。
【0050】
[比較例2]
比較例1と同じ低密度ポリエチレンを用いたこと以外は、実施例2と同様にして発泡シートを作製し、得られた発泡シートについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に記す。
【0051】
[比較例3]
押出前の樹脂温度を100℃まで下げ、それ以外は実施例2と同様にして発泡シートの製造を試みた。しかし、発泡シートの表面に亀裂が発生し、外観良好な発泡シートを得ることができなかった。
【0052】
[比較例4]
押出前の樹脂温度を125℃に高め、それ以外は実施例2と同様にして発泡シートの製造を試みた。しかし、厚みが4mm以下の発泡シートしか得ることができず、得られた発泡シートは外観にしわが発生し、良好な発泡シートを得ることができなかった。
【0053】
[比較例5]
ポリエチレン系樹脂としてMIが高い低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製のLC−561(MI=3.0、密度0.929g/cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして発泡シートを作製し、得られた発泡シートについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に記す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に記したように、本発明に係る実施例1〜4の発泡シートは、厚みが2.0mm〜6.0mm、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内で製造した場合に、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上であり、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下と小さく、浮力材として優れた性能を有している。
【0056】
一方、実施例1〜4で用いたポリエチレン樹脂よりも、MIが高いポリエチレン樹脂を用いた比較例1〜2の発泡シートは、引張強度・引裂強度が実施例1〜4の発泡シートよりも低かった。また、曝露試験後の強度低下率も25%を超えており、比較例1〜2の発泡シートは浮力材として不適であった。
【0057】
また、比較例3は、実施例1〜4で用いたものと同じポリエチレン樹脂を用いているが、押出時の樹脂冷却温度を100℃と実施例1〜4の場合(112℃)よりも低くしたことによって、外観良好な発泡シートを得ることができなかった。
一方、比較例4は、実施例1〜4で用いたものと同じポリエチレン樹脂を用いているが、押出時の樹脂冷却温度を125℃と実施例1〜4の場合(112℃)よりも高くしたことによって、やはり良品を製造することができなかった。
【0058】
さらに、MI=3.0とMIが高いポリエチレン樹脂を用いた比較例5の発泡シートは、引張強度・引裂強度が実施例1〜4の発泡シートよりも低かった。また、曝露試験後の強度低下率も25%を超えており、比較例5の発泡シートは浮力材として不適であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートは、引張強度・引裂強度が高く、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下と小さい特性を有するものなので、梱包材、緩衝材、等の従来の発泡シートの用途に加え、高い機械強度と耐久性が要求される救命胴衣の内包材などの浮力材として好適である。
【符号の説明】
【0060】
1…救命胴衣、2…外皮材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが2.0mm〜6.0mmの範囲内であり、密度が0.015g/cm〜0.030g/cmの範囲内であり、引張強度がTD方向及びMD方向の両方で250kPa以上であり、軽油中に70時間放置する曝露試験後の強度低下が25%以下であることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
原料のポリエチレン系樹脂のメルトインデックスが0.28g/10min以下であることを特徴とする請求項1に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを脱泡して得られる樹脂のメルトインデックスが0.4g/min以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
原料のポリエチレン系樹脂100質量部に対して、脂肪酸エステルを1.0質量部以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項5】
引裂強度がTD方向及びMD方向の両方で13N/cm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シート。
【請求項6】
メルトインデックスが0.28以下であるポリエチレン系樹脂100質量部と、発泡剤13〜20質量部とを押出機に供給し、該押出機内で溶融混練したのち、105〜115℃の樹脂温度まで冷却し、押出機先端部のダイスを通して押し出し発泡させることによって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを得ることを特徴とする無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを有することを特徴とする浮力材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無架橋ポリエチレン系樹脂発泡シートを浮力材として内包したことを特徴とする救命胴衣。

【図1】
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【公開番号】特開2010−174194(P2010−174194A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20798(P2009−20798)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】