説明

無機エレクトロルミネッセンス

【課題】高輝度の青色発光が可能な酸化物系の発色体層を備えた無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)を容易に提供すること。
【解決手段】青色発光する発光体層12(無機蛍光体層)を備えた無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)。発光体層が、母体材料(ホスト材)をZn2-XM(II)xSi1-YGeY4(但し、M(II):第3周期金属元素、X,Y:1以下)とし、ドーピング(賦活)金属をIn(III)とする。ドーピング量はホスト材の2mol%前後が望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光体層(無機蛍光体層)を備えた無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)及びその作成方法に関する。
【0002】
以下の説明で、配合単位を示す「%」、「部」は、特に断らない限り、それぞれ、「質量%」、「質量部」を意味する。
【背景技術】
【0003】
近年、高度道路交通システム(Intelligent Transport System:ITS)の開発と普及が盛んに行われているが、視覚から得られる情報のサポートを特に重要視しなくてはならない。そこで、カーナビゲーション表示装置や電光掲示板などのディスプレイが注目されている。そのディスプレイの多くは液晶ディスプレイ(Liquid crystal display:LCD)が使われている。
【0004】
また、ITSに準じた更なる交通安全に対する支援として、LCDに代わる次世代ディスプレイの研究が近年盛んに行われているが、そのひとつとしてエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence:EL)を用いた無機ELディスプレイの存在がある。
【0005】
無機ELは、自発光で非常に薄いためディスプレイの作製や加工が安易であるといった利点があり、非常に期待されている。
【0006】
特に、無機ELの中における従来のZnSに代表される硫化物発光体層に代わって無機酸化物発光体層が着目され種々提案されている(特許文献1、非特許文献1等参照)。硫化物は、湿度、酸化などに対して一般的に安定性が低く、隣接する絶縁層を形成する酸化物(通常、SiO2)により徐々に酸化するおそれがあるとされている(特許文献1段落0003)。
【0007】
そして、特許文献1・非特許文献1では、発光体層を形成する酸化物がZnSiO4:Mnであり、絶縁層を形成する酸化物がSiO2である無機ELが提案されている。該無機ELは、低電圧で駆動でき、発光体層を形成するSiO2:Mnを熱処理することにより発光輝度が大幅に向上する旨記載されている(段落0007)。また、非特許文献1には、Zn2SiO4が、多くの希土類や遷移金属の母体材料(host matrix)として発光効率の見地から好適である旨記載されている(136頁緒論)。
【0008】
そして、昨今、特に、効率的に青色発色する金属酸化物を母材とする発光体層を備えた無機ELの出現が望まれている。即ち、青色発色させる発光体層を作成する技術は、特許文献1でも存在するが、特殊な金属(例えば、Eu)をドーピング材とする必要があると共に、製造方法も相対的に面倒であった。
【0009】
なお、青色発光する無機ELとして特許文献2・3があるが、これらは、いずれも母体材料が、本発明の酸化物と異なり、硫化物である。
【特許文献1】特開平7−122365号公報(段落0003・0007等参照)
【特許文献2】特開平10−199676号公報(請求項2等参照)
【特許文献3】特開2006−199794号公報(要約等参照)
【非特許文献1】セロムリヤ(R.Selomulya)他“ゾルゲル法によるZn2SiO4:Mn2+薄膜のルミネセンス性(Luminescence properties of Zn2SiO4:Mn2+ thin-films by a sol-gel process)"2003,材料科学と工学(Materials Science and Engineering)B100(2003)),p136-141
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記にかんがみて、高輝度の青色発光が可能な酸化物系の発色体層を備えた無機ELを容易に提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、母体材料(ホスト材)としてZn2SiO4に着目して、鋭意、開発に努力をする過程で、ドーピング金属をIn(III)とすればよいことを知見して、下記構成の無機ELに想到した。
【0012】
青色発光する発光体層(無機蛍光体層)を備えた無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)において、
前記発光体層が、母体材料をZn2−XM(II)xSi1-YGeY4(但し、M(II):第3周期金属元素)とし、ドーピング(賦活)金属をIn(III)とするものであることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
無機EL(EL発光素子)の層構成の概略断面図の一例を図1に示す。
【0014】
該無機ELは、発光体層(本実施形態では青色)12の片面に透明電極層(誘電体基板電極)14が形成され、発光体層12の他面に誘電体層を介して裏面電極層(背面電極)18が形成されているものである。図例では、絶縁体である無機ガラス20で挟持された構造であるが、必然的ではない。
【0015】
当然、青色以外の赤色や緑色の発光体層を組み合わせてハイブリッド型の無機EL構造とすることも可能である。
【0016】
本実施形態の無機ELは、発光体層12の母体材料を、Zn2-XM(II)xSi1-YGeY4(但し、M(II):第3周期金属元素、X,Y:1以下)とし、ドーピング(賦活)金属をIn(III)とするものである。
【0017】
ここで、M(II)を第3周期金属元素とするのは、Zn(II)とイオン半径(II)が類似してZnの一部と置換容易なためである。特に、Ca,Mn,Fe,Co,Ni及びCuの群から1種以上を選択することが好ましい。
【0018】
そして、ドーピング金属のドーピング比(物質量比:モル比)は、母体材料1mol当たり、1〜101mol%、望ましくは1.5〜2.5mol%、最も望ましくは約2mol%である。後述の試験例で示す如く、約2mol%で一番発光輝度が高くなる。
【0019】
発光体層は、ゾルゲル法、R.F.電磁スパッタリング(r.f.magnetoron sputtering),電荷液クラスタービーム(charge liquid cluster beam)、パルスレーザ沈着法(pulsed laser deposition)等の汎用のセラミック粉末処理法を用いて形成することができる。これらの内で、ゾルゲル法が特別な装置を必要とせず手法も簡単で好ましい。
【0020】
本発明で使用する透明電極は、例えば透明誘電体基材(通常、無機ガラス)の片面にIn23:SnやIn23:F等の酸化インジウム系の透明導電膜を成膜(通常、スパッタ等の蒸着)させた、いわゆるITO(Indium Tin Oxide)やFTO(fluorine Tin Oxide)とする。なお、酸化亜鉛(ZnO)系、二酸化チタン(TiO2)系、二酸化錫(SnO2)系、C12A7(12CaO・7Al2O3)系の透明導電膜を板状透明誘電体基材に成膜させたものでも使用可能である。
【0021】
また、誘電体層(絶縁層)は、常温で比誘電率が高く、絶縁性の高い誘電体であれば特に限定されない。例えば、Ca、W、Ba、Si、Sr、Mg、Y、V、Ga、La、Zr、Mn、Ti、Al、Ta、Bi等の金属酸化物およびそれらの複酸化物を挙げることができる。例えば、汎用のチタン酸系、特に、BaO・TiO2系を好適に使用できる。
【0022】
背面電極は、電気伝導率の高い金属箔シート、例えば、Al,Cu,Ag、Au等の金属箔シートで形成する。
【0023】
こうして構成したEL発光素子は、主として屋外における表示システム、サイン、コマーシャルグラフィックス等の種々の用途が考えられる。
【実施例】
【0024】
実施例のEL発光素子は、図1に示す如く、絶縁のために、ガラス20で挟んで、試作EL基板とした。
【0025】
透明電極層14は、無機ガラスにIn23:Snを蒸着させたITO(Indium tin oxide)ガラスで形成した酸化インジウム系のものを使用した。
【0026】
(1)誘電体層12は、下記の如く作成した(図2参照)。
【0027】
市販のBaTiO3粉末に、まず、バインダーとしてPVA(polyvinyl alcohol)5質量%を添加して造粒し、100Mpaで1軸加圧をして調整したペレット(Diameter:15mm)を用いて、板状体(板厚:約1mmt)を成形後、該成形体を1200〜1300℃、10h大気中にて本焼結した。該焼結体を鏡面研磨して、0.2〜0.4mmtの絶縁体基板とした。絶縁体の結晶相の同定には、粉末X線回折装置(XRPD)を用いて評価した。
【0028】
(2)発光体層12は、下記の如く作成した(図3参照)。
【0029】
出発原料として、Zn(NO3)2・6H2O(純度99.9%)とSi(OC25)4(純度99.9%)、In(NO3)2・6H2O(純度99.5%)を用いて、下記の如く、ゾルゲル法によりZn2SiO4:Inを作製した。
【0030】
まず、Zn(NO3)2・6H2Oを蒸留エタノール(純度99.9%)と脱イオン水(純度100%)に溶解させ攪拌した。次にSi(OC25)4を加え、触媒としてHNO3(純度69%)を加えた。最後に発光中心としてIn(NO3)2・6H2Oを加え、窒素中、室温にて24h攪拌した。尚、それらの混合比は、脱イオン水/蒸留エタノール/HNO3/Si(OC25)4=1/4/10/0.6のモル比となるように調整した。
【0031】
発光中心であるインジウム(In)の賦活剤濃度は1〜7mol%で変化させた。撹拌後、得られたコーティング溶液を絶縁体上にスピンコーティングにより製膜した。スピナーの回転速度は2000〜5000rpmで変化させ、回転時間は予備的実験により30秒に統一した。発光層をコーティングした後、200℃、30分乾燥させ、コーティングを重ねる場合これを繰り返す。コーティング後は窒素中にて900℃、1h本焼結し、発光体膜を作製した。発光体膜の結晶相の同定には、粉末X線回折装置(XRPD)を用いて評価した。また、膜の微構造の観察には、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて評価した。発光輝度及び色度は色差計を用いて測定した。
【0032】
(3)結果と考察
固相反応法により作製したBaTiO3基板をXPRD(X-Ray Powder Diffraction粉末X線回折装置)を用いて測定したXPRDパターンを図4に示す。
【0033】
これらのピークをJCPDSカードで検索した結果、BaCO3相であると同定され、1200〜1300℃の範囲ではすべて単相であることが確認された。以下の試験に使用した基板はすべて1250℃で焼成して作成した。
【0034】
Inのドーピング量による発光輝度は、図5に示されるようにドーピング量2mol%で最大となった。ドーピング量2mol%で統一し、コーティング回転数を変化させ膜の表面の評価をした。その結果、3000rpmでの表面が最も亀裂が少なく滑らかであった。
【0035】
コーティング回数を変化させた場合の発光輝度との関係を図6に示す。最高輝度が得られる条件である、Inドーピング量2mol%、コーティング回数2回の薄膜の断面微構造を、FE-SEM(Field-Emission Scanning electric microscope:走査型電子顕微鏡)で観察した結果を、図7に示す。表面微構造は比較的滑らかであり、電圧の損失が少ないものと推察される。
【0036】
また、最高輝度が得られた薄膜の発光輝度と電圧との関係を計測した結果を図8に示す。付加電圧が440V以上となると薄膜は絶縁破壊をした。
【0037】
また、図9に色差計により確認された色度をCIE座標に示す。青色に緑色が混ざっている発光色であり、文献に示されているものより色純度は低かった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】無機ELの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施例における誘電体層作成の流れ図である。
【図3】同じく発光体層作成の流れ図である。
【図4】同じく誘電体層のXRPDパターン図である。
【図5】同じくInのドーピング量と発光輝度との関係を示すグラフ図である。
【図6】同じくコーティング回数と発光輝度との関係を示すグラフ図である。
【図7】同じくコーティング回数2回における発光層の断面微構造のFE-SEM写真である。
【図8】同じく最高発光輝度が得られた実施例における電圧と発光輝度との関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例の色差系により確認した色度をリン酸バリウム系の発色層の色度とともに示したCIE座標図である。
【符号の説明】
【0039】
12 発光体層
14 透明電極層
16 誘電体層
18 背面電極層
20 ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色発光する発光体層(無機蛍光体層)を備えた無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)において、
前記発光体層が、母体材料(ホスト材)をZn2-XM(II)xSi1-YGeY4(但し、M(II):第3周期金属元素、X、Y:1以下)とし、ドーピング(賦活)金属をIn(III)とするものであることを特徴とする無機EL。
【請求項2】
前記第3周期金属元素が、Ca、Mn,Fe,Co,Ni及びCuの群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1記載の無機EL。
【請求項3】
前記Zn2-XM(II)xSi1-YGeY4におけるX及びYの双方が0であることを特徴とする請求項1又は2記載の無機EL。
【請求項4】
前記ドーピング金属のドーピング比(物質量比)が、前記母体材料1molに対して、1〜10mol%であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機EL。
【請求項5】
前記ドーピング金属のドーピング比(物質量比)が、前記母体材料1molに対して、約2mol%であるとともに、前記発光体層が0.2〜2μmに単層成膜乃至複層成膜されていることを特徴とする請求項4記載の無機EL。
【請求項6】
前記無機ELが、前記発光体層の片面に透明電極層(透明誘電体基板電極)が形成され、前記発光体層の他面に誘電体層を介して裏面電極層が形成されているものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の無機EL。
【請求項7】
前記透明電極層が、酸化インジウム系薄膜であることを特徴とする請求項6記載の無機EL。
【請求項8】
請求項4記載の無機ELにおける発光体層の形成方法であって、
硝酸亜鉛及びテトラアルコキシシランを混合後、触媒としての硝酸を添加し、さらに、硝酸インジウム(III)及び/又は有機酸インジウム(III)を、前記母体材料1molに対して1〜10mol%となるように添加混合して、調製した組成液を用いてゾルゲル法により形成することを特徴とする無機ELにおける発光体層の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−73309(P2010−73309A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215894(P2008−215894)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000159021)株式会社キクテック (42)
【Fターム(参考)】