説明

無機微粒子分散ペースト

【課題】表面平滑性に優れた焼結層を形成することのできる無機微粒子分散ペーストを提供する。
【解決手段】エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種と、有機化合物と、無機微粒子と、有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペーストであって、前記有機化合物は、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である無機微粒子分散ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面平滑性に優れた焼結層を形成することのできる無機微粒子分散ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させた無機微粒子分散ペーストが、様々な形状の焼結体を得るために用いられている。特に、無機微粒子として蛍光体をバインダー樹脂に分散させた蛍光体ペーストや、低融点ガラスを分散させたガラスペーストは、プラズマディスプレイパネル等に用いられ、近年需要が高まりつつある。
また、無機微粒子としてチタン酸バリウムやアルミナをバインダー樹脂に分散させたセラミックペーストは、グリーンシートに成形され、積層型の電子部品、例えば、積層セラミックコンデンサに用いられている。
更に、太陽電池パネルの裏面電極は、通常、アルミニウム粉を分散させたペーストをスクリーン印刷等によって塗布し、乾燥した後、焼成することにより形成されている。
【0003】
例えば、プラズマディスプレイパネルの誘電体層は、ガラス基板上にガラスペーストを印刷した後、炉内を循環排気した送風オーブンにて溶剤を乾燥し、次いで高温のオーブンにて脱脂、焼成を行うことにより形成される。誘電体層を形成するためのガラスペーストとして、例えば、特許文献1には、プラズマディスプレイパネルの誘電体層用組成物であって、少なくともガラス成分を含むガラスフリットと、分散剤と、熱分解バインダーと、溶剤とを含有し、前記分散剤がポリカルボン酸系高分子化合物である誘電体層用組成物、及び、該誘電体層用組成物を支持体上に塗布し、次いで乾燥することにより得られるグリーンシートが開示されている。
【0004】
特許文献1には、同文献に記載された誘電体層用組成物においては、ガラスフリットの分散状態が効果的に向上することが記載されている。
このような無機微粒子の分散性の改善は、均一な焼結層を形成し、焼結層の特性にばらつきを生じさせないために重要である。しかしながら、焼結層は、無機微粒子分散ペーストの印刷、乾燥、脱脂、焼成工程を経てはじめて形成されることから、単にペースト状態における均一性、即ち無機微粒子の分散性を改善しただけでは、最終的に形成される焼結層の均一性を充分に確保することは困難である。
【0005】
また、特許文献1に記載されたグリーンシートのように、無機微粒子分散ペーストを予めシート状に加工し、得られるグリーンシートを用いることで均一な焼結層を形成することも検討されているが、グリーンシートを用いる場合には基板に対するグリーンシートの密着性が不充分であることが問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−002164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表面平滑性に優れた焼結層を形成することのできる無機微粒子分散ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種と、有機化合物と、無機微粒子と、有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペーストであって、前記有機化合物は、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である無機微粒子分散ペーストである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
通常、焼結層を形成するための無機微粒子分散ペーストには、印刷性を確保するために高沸点溶剤が用いられている。更に、高沸点溶剤を効率的に乾燥し、生産性を向上させるために、印刷後の乾燥工程においては送風オーブンが用いられている。本発明者らは、オーブン内での送風が原因となって無機微粒子分散ペーストの塗布層に表面荒れが生じ、その結果、焼結層の表面平滑性が低下し、焼結層の性能が悪化していることを見出した。
【0010】
本発明者らは、エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種と、無機微粒子と、有機溶剤とに加え、更に、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である有機化合物を含有する無機微粒子分散ペーストは、印刷後の乾燥工程において良好に乾燥するとともに、オーブンでの乾燥時には、オーブン内で送風を受けることによる表面荒れが抑制され、また、樹脂の絡み合いに起因する皮張り現象をも起こすことなく均一に乾燥できることを見出した。更に、本発明者らは、該無機微粒子分散ペーストを用いて形成された焼結層は表面平滑性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の無機微粒子分散ペーストは、エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
上記エチルセルロースは特に限定されず、得られる無機微粒子分散ペーストの印刷方法、目的とする焼結層の厚み等に応じて適宜グレードを選択すればよい。なかでも、スクリーン印刷を行う場合には、一般にチキソ性を有するエチルセルロースが好ましいことから、STD45、STD100等のグレードのエチルセルロースが好ましい。また、厚い焼結層を得る場合には、無機微粒子分散ペースト中の無機微粒子の組成比を高める必要があり、無機微粒子分散ペーストの粘度が高くなりやすいことから、STD4、STD10等の低粘度仕様のグレードのエチルセルロースが好ましい。
【0012】
上記(メタ)アクリル樹脂は、350〜400℃程度の低温で分解するものであれば特に限定されないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート及びポリオキシアルキレン構造を有する(メタ)アクリルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種からなる重合体が好ましい。ここで、例えば(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
なかでも、少ない樹脂の量で高い粘度が得られることから、ガラス転移温度(Tg)の高いポリメチルメタクリレート(メタクリレートの重合体、Tg105℃)が好ましい。ポリメタクリレートはまた、低温脱脂性にも優れる。更に、本発明の無機微粒子分散ペーストは後述する有機化合物を含有することから、ブチルメタクリレート又はイソブチルメタクリレートに由来する成分を有する重合体が好ましい。
【0013】
また、上記(メタ)アクリル樹脂は、極性基を有するモノマーからなるセグメントを有してもよい。
上記極性基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等が挙げられる。
【0014】
上記極性基を有するモノマーに由来するセグメントを有する場合、上記極性基を有するモノマーに由来するセグメントの含有量は20重量%以下であることが好ましい。
上記極性基を有するモノマーに由来するセグメントの含有量が20重量%を超えると、低温での熱分解性が損なわれたり、無機微粒子に付着する煤が多くなり、焼結体の残留炭素が多くなったりすることがある。より好ましくは10重量部以下である。
【0015】
上記(メタ)アクリル樹脂は、分子末端に親水性官能基を有することが好ましい。上記親水性官能基は特に限定されないが、カルボニル基、アミノ基、アミド基類であることが好ましい。
一般に、(メタ)アクリル系モノマーのエステル置換基にカルボニル基、アミノ基、アミド基等の相互作用性の高い官能基を導入した(メタ)アクリル樹脂を用いた場合には、無機微粒子分散ペーストの焼成工程において、該(メタ)アクリル樹脂の解重合が阻害されて熱分解終了温度が高くなり、熱分解性が極めて悪化する。
これに対し、分子末端にカルボニル基、アミノ基、アミド基等を有する(メタ)アクリル樹脂を用いた場合には、該(メタ)アクリル樹脂の解重合が阻害されず、熱分解終了温度にはほとんど影響しない。また、ガラス粉末等の無機微粒子はカルボニル基、アミノ基、アミド基等との相互作用性が高いことから、分子末端にカルボニル基、アミノ基、アミド基等を有する(メタ)アクリル樹脂を用いた場合には、該(メタ)アクリル樹脂の一方の分子末端が無機微粒子表面に吸着し、他方は有機溶剤側へ伸びた形態となり、無機微粒子の再凝集を防ぎ、分散安定性を向上させることができる。
【0016】
上記(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は5000、好ましい上限は500000である。上記重量平均分子量が5000未満であると、得られる無機微粒子分散ペーストは、充分な粘度が得られず、スクリーン印刷性が悪くなることがあり、また、印刷後の乾燥工程においてオーブン内で送風を受けることによる表面荒れが増すことにより、焼結層の表面平滑性が低下することがある。上記重量平均分子量が500000を超えると、得られる無機微粒子分散ペーストの粘着力が高くなりすぎ、延糸が発生することがあり、スクリーン印刷性が悪くなることがある。上記重量平均分子量の好ましい上限は100000であり、より好ましい上限は50000である。特に、上記(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量が10000〜50000であると、スクリーン印刷時に鮮明な像が得られるため好ましい。
なお、ポリスチレン換算による重量平均分子量は、カラムとして例えばカラムLF−804(昭和電工社製)を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0017】
上記(メタ)アクリル樹脂を作製する方法は特に限定されず、例えば、カルボニル基、アミノ基、アミド基等を有する重合開始剤のもとで、上述した(メタ)アクリル系モノマーをフリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等の従来公知の方法で共重合する方法や、カルボニル基、アミノ基、アミド基等を有する連鎖移動剤のもとで、上述した(メタ)アクリル系モノマーをフリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等の従来公知の方法で共重合する方法等が挙げられる。これらの方法は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記(メタ)アクリル樹脂を作製する方法においては、ラジカル重合開始剤としてカルボニル基、アミノ基、アミド基等を有する重合開始剤を用いることにより、より多くの分子末端にカルボニル基、アミノ基、アミド基等を導入することができる。なお、上記(メタ)アクリル樹脂の分子末端のみにカルボニル基、アミノ基、アミド基等が導入されたことは、例えば、13C−NMRにより確認することができる。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、後述する有機溶剤との相溶性に優れるものであれば特に限定されないが、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコール樹脂をアセタール化することで得られるものであって、重合度が1000〜4000、アセタール化度が60〜80モル%であることが好ましい。
【0019】
上記ポリビニルアルコールのケン化度は、80モル%以上であることが好ましい。上記ケン化度が80モル%未満であると、ポリビニルアルコールの水への溶解性が悪くなるためアセタール化反応が困難になり、また、水酸基量が少ないとアセタール化反応自体が困難になることがある。
【0020】
上記ポリビニルアルコールの重合度は、1000〜4000であることが好ましい。
上記重合度が1000未満であると、例えば、セラミックグリーンシートの材料として使用した場合に、強度が不充分となることがある。上記重合度が4000を超えると、水への溶解性が低下したり、水溶液の粘度が高くなりすぎたりしてアセタール化が困難となることがある。また、溶液粘度が高くなりすぎて塗工性が低下する。
なお、上記ポリビニルアセタールの重合度は、合成する際の原料であるポリビニルアルコールの重合度を用いる。また、2種以上のポリビニルアルコールを混合する場合には、これらの重合度の平均を用いる。
【0021】
上記ポリビニルアルコールは、ビニルエステルの重合体をケン化することにより得られる。
上記ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが経済的にみて好ましい。
また、上記ポリビニルアルコールは、主鎖にα―オレフィンを含有していることが好ましい。
上記α−オレフィンによってポリビニルアセタール樹脂の水素結合力が弱められるため、粘度の経時安定性を向上させることができたり、スクリーン印刷性を向上させたりすることができる。
【0022】
上記α−オレフィンとしては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。
上記α−オレフィンの含有量としては、1〜20モル%であることが望ましい。
上記α−オレフィンの含有量が1モル%未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂の特性が未変性のポリビニルアセタール樹脂と何ら変わりなくなり、20モル%を超えると、ポリビニルアルコールの水への溶解性が低下するため、アセタール化反応が困難になったり、できあがったポリビニルアセタール樹脂の疎水性が強くなりすぎて有機溶剤への溶解性が低下したりすることがある。
【0023】
上記ポリビニルアルコールは本発明の効果を損なわない範囲で、その他のエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。
このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0024】
上記反応に用いられるアルデヒドは特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシアルデヒド、m−ヒドロキシアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。
これらのアルデヒドは単独で用いても2種以上併用しても良く、アセトアルデヒド及び/又はブチルアルデヒドが好適に用いられる。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂を温水で溶解した後、酸触媒の存在下で所定のアセタール化度となるようにアルデヒドを添加し、反応させた後、水洗、中和、乾燥することで得ることができる。
上記酸触媒としては特に規定されず、有機酸、無機酸いずれも用いることができるが、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。
また、中和に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は60〜80モル%であることが好ましい。上記アセタール化度が60モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂の水素結合性が強くなりすぎて充分なスクリーン印刷性が得られないことがある。
一方、上記アセタール化度が80モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂は一般に工業的には製造が困難である。(P.J.Floryの理論計算によると、最大のアセタール化度は81.6モル%であることが好ましい。J.Am.Chem.Soc.,61,1518(1939))
【0027】
本発明の無機微粒子分散ペーストにおける上記エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は25重量%である。上記エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の含有量が5重量%未満であると、得られる無機微粒子分散ペーストは、充分な粘度が得られず、スクリーン印刷性が悪くなることがあり、また、印刷後の乾燥工程においてオーブン内で送風を受けることによる表面荒れが増すことにより、焼結層の表面平滑性が低下することがある。上記含有量が25重量%を超えると、得られる無機微粒子分散ペーストは、粘度、粘着力が高くなりすぎてスクリーン印刷性が悪くなることがある。
【0028】
本発明の無機微粒子分散ペーストは、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である有機化合物を含有する。
上記有機化合物は、常温で固体である。上記有機化合物が常温で固体であることにより、得られる無機微粒子分散ペーストは、印刷後の乾燥工程においてオーブン内で送風を受けることによる表面荒れが抑制され、焼結層が表面平滑性に優れる。
なお、上記有機化合物は常温で固体であるが、後述する有機溶剤に溶解することにより、ペースト状の無機微粒子分散ペーストを得ることができる。
なお、上記有機化合物は、後述する有機溶剤とは異なるものである。
【0029】
上記水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である有機化合物を添加することで、乾燥性が向上するメカニズムは以下のように考えられる。
無機微粒子分散ペーストに添加される無機微粒子の表面は、非常に高極性な状態であり、高極性な官能基を吸い寄せる働きがある。通常、無機微粒子分散ペーストに、高極性の官能基を有する有機材料が添加されない場合、溶剤の中で微粒子同士が凝集し、沈殿を生じる。
そこで、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である有機化合物を添加することで、無機微粒子分散ペースト中では、有機溶剤と混合することで、液状となるため、優先的に無機微粒子の表面に吸着し、乾燥条件下では無機微粒子の周囲に蒸発可能な層を形成させることができる。
【0030】
一方、エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種バインダー樹脂は、高分子量の重合体であるため、乾燥条件下では無機微粒子分散ペースト表面から、有機溶剤が乾燥していくことによって、表面が皮張りを起こし、薄い樹脂層が形成される。
このような乾燥に伴い形成される表面樹脂層は非常に不均一で、乾燥条件に依存し、送風条件下の強い乾燥条件下ではより不均一な層を形成する。そのため、皮張りした樹脂層の下に存在する有機溶剤は、蒸発しにくくなり、塗膜表面に凹凸が発生しやすくなる。
これに対して、無機微粒子の表面に層を形成した上記有機化合物は乾燥条件下で蒸発し、内部の有機溶剤を蒸発させる窓を形成する。そのため、樹脂の皮張りに起因する有機溶剤の乾燥ムラを低減することができ、更に、乾燥が不充分である場合でも、常温固体であるため、可塑剤として作用しにくく、平滑性を維持しやすくなる。
【0031】
上記有機化合物は、沸点が300℃未満である。上記有機化合物の沸点が300℃以上であると、得られる無機微粒子分散ペーストは、印刷後の乾燥工程における乾燥性が低下し、焼結層の表面平滑性が低下する。上記有機化合物は、沸点が280℃未満であることが好ましく、260℃未満であることがより好ましい。
また、上記有機化合物の沸点の下限は特に限定されないが、沸点が160℃以上であることが好ましい。上記有機化合物の沸点が160℃未満であると、得られる無機微粒子分散ペーストは、印刷中に乾燥しやすく、長時間の連続印刷に用いる場合には不具合が生じることがある。なお、上記沸点は、常圧における沸点を意味する。
【0032】
上記有機化合物は水酸基を1つ以上有する。上記水酸基を1つ以上有することで、得られる無機微粒子分散ペーストの貯蔵安定性を高めることができ、また、水酸基と、樹脂及び有機溶剤との相互作用により、無機微粒子分散ペーストの粘度を高めることができ、スクリーン印刷等に適した粘度とすることができる。
【0033】
上記有機化合物は、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満であれば特に限定されないが、炭素数が5以上20未満の脂肪鎖からなるアルコール系有機化合物が好ましい。
上記アルコール系有機化合物は特に限定されず、例えば、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
中でも、炭素数に対する水酸基の割合の高い、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールは、沸点が200℃程度で、軟化点が120℃以上であるため、スクリーン印刷に使用される無機微粒子分散ペーストとして好適に使用することができる。
【0034】
本発明の無機微粒子分散ペーストにおける上記有機化合物の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記有機化合物の含有量が1重量%未満であると、得られる無機微粒子分散ペーストは、印刷後の乾燥工程において乾燥性が低下したり、オーブン内で送風を受けることによる表面荒れが増したり、樹脂の絡み合いに起因する皮張り現象を起こしたりすることにより、焼結層の表面平滑性が低下することがある。上記有機化合物の含有量が30重量%を超えると、得られる無機微粒子分散ペーストは、貯蔵安定性が悪くなることがある。
【0035】
本発明の無機微粒子分散ペーストは、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤は特に限定されず、例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール、テルピネオール、ターピネアセテート、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の無機微粒子分散ペーストにおける上記有機溶剤の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は60重量%である。上記有機溶剤の含有量が10重量%未満であると、得られる無機微粒子分散ペーストの粘度、粘着力が高くなりすぎてスクリーン印刷性が悪くなることがある。上記有機溶剤の含有量が60重量%を超えると、得られる無機微粒子分散ペーストは、充分な粘度が得られず、スクリーン印刷性が悪くなることがあり、また、印刷後の乾燥工程において乾燥性が低下したり、オーブン内で送風を受けることによる表面荒れが増したりすることにより、焼結層の表面平滑性が低下することがある。
なお、本発明の無機微粒子分散ペーストを焼成する場合は、上記有機溶剤や有機化合物を乾燥した状態で焼成することが好ましい。上記有機溶剤や有機化合物の乾燥が不充分で、 有機溶剤や有機化合物が内部に残留した状態で焼成を行うと、バインダー樹脂の熱分解にて生じた煤が微粒子表面へ吸着しやすくなるため、完全に乾燥を行った場合と比較して、炭素残渣が多くなりやすくなることがある。
【0037】
本発明の無機微粒子分散ペーストは、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子は特に限定されず、例えば、ガラス粉末、セラミックス粉末、蛍光体微粒子、珪素酸化物等、金属微粒子、金属酸化物微粒子等が挙げられる。
【0038】
上記ガラス粉末は特に限定されず、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末や、CaO−Al−SiO系、MgO−Al−SiO系、LiO−Al−SiO系等の各種ケイ素酸化物のガラス粉末等が挙げられる。
また、上記ガラス粉末として、PbO−B−SiO混合物、BaO−ZnO−B−SiO混合物、ZnO−Bi−B−SiO混合物、Bi−B−BaO−CuO混合物、Bi−ZnO−B−Al−SrO混合物、ZnO−Bi−B混合物、Bi−SiO混合物、P−NaO−CaO−BaO−Al−B混合物、P−SnO混合物、P−SnO−B混合物、P−SnO−SiO混合物、CuO−P−RO混合物、SiO−B−ZnO−NaO−LiO−NaF−V混合物、P−ZnO−SnO−RO−RO混合物、B−SiO−ZnO混合物、B−SiO−Al−ZrO混合物、SiO−B−ZnO−RO−RO混合物、SiO−B−Al−RO−RO混合物、SrO−ZnO−P混合物、SrO−ZnO−P混合物、BaO−ZnO−B−SiO混合物等のガラス粉末も用いることができる。なお、Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素である。
特に、PbO−B−SiO混合物のガラス粉末や、鉛を含有しないBaO−ZnO−B−SiO混合物又はZnO−Bi−B−SiO混合物等の無鉛ガラス粉末が好ましい。
【0039】
上記セラミック粉末は特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等が挙げられる。
また、透明電極材料に用いられるナノITOや色素増感太陽電池に用いられるナノ酸化チタン等も好適に用いることができる。
上記蛍光体微粒子は特に限定されず、例えば、BaMgAl1017:Eu、ZnSiO:Mn、(Y、Gd)BO:Eu等が挙げられる。
【0040】
上記金属微粒子は特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、アルミニウム、タングステンやこれらの合金等からなる粉末等が挙げられる。
また、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等との吸着特性が良好で酸化されやすい銅や鉄等の金属も好適に用いることができる。これらの金属粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の無機微粒子分散ペーストにおける上記無機微粒子の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は90重量%である。上記無機微粒子の含有量が20重量%未満であると、得られる無機微粒子分散ペーストは、充分な粘度が得られず、スクリーン印刷性が悪くなることがあり、また、印刷後の乾燥工程においてオーブン内で送風を受けることによる表面荒れが増すことにより、焼結層の表面平滑性が低下することがある。上記無機微粒子の含有量が90重量%を超えると、得られる無機微粒子分散ペーストは、粘度が高くなりすぎてスクリーン印刷性が悪くなることがある。
【0042】
本発明の無機微粒子分散ペーストは、上記有機化合物と他の材料との相溶性を安定化させるために、界面活性剤を含有することが好ましい。上記界面活性剤は特に限定されないが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
本発明の無機微粒子分散ペーストにおける上記ノニオン系界面活性剤の含有量は特に限定されないが、好ましい上限は5重量%である。上記ノニオン系界面活性剤の熱分解性は良好であるものの、含有量が5重量%を超えると、無機微粒子分散ペーストの熱分解性が低下することがある。
【0043】
本発明の無機微粒子分散ペーストを作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種、上記有機化合物、上記有機溶剤、上記無機微粒子及び必要に応じて添加される他の成分を3本ロール等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0044】
本発明の無機微粒子分散ペーストは、印刷後の乾燥工程において良好に乾燥するとともに、オーブン内で送風を受けることによる表面荒れが抑制され、また、乾燥時の皮張り現象の悪影響を防止できることから、表面平滑性に優れた焼結層を形成することができる。そのため、例えば、無機微粒子としてガラス粉末を用いたときのガラスペースト、無機微粒子としてセラミック粉末を用いたときのセラミックペースト、無機微粒子としてアルミ等の金属又は導電性粉末を用いたときの導電ペーストとして好適に用いられる。
なかでも、無機微粒子としてガラス粉末を用いたときのガラスペーストは、プラズマディスプレイパネルの誘電体層等を形成するために好適に用いられる。このようなガラスペーストを用いて製造されるガラス誘電体もまた、本発明の1つである。
【0045】
更に、本発明の無機微粒子分散ペーストは、乾燥時の皮張り現象を防ぎつつ、すばやく乾燥できるという特徴を有する。従って、従来の樹脂ペーストを用いた場合、乾燥時に流動して形状を維持しにくかったような部材にも好適に用いることができる。なお、このようように形状を維持できない状態を「ダレ」ともいう。
例えば、プラズマディスプレイの背面板におけるセル内の蛍光体や、太陽電池セルの表面電極等に従来の樹脂ペーストを用いた場合、乾燥時にダレてしまい印刷後に高さを維持することができなかったが、本発明の無機微粒子分散ペーストを用いることで、乾燥中にダレて低く流れてしまう前に有機溶剤を除去することが可能となり、フラットパネルディスプレイの材料としても好適に使用することができる。
本発明の無機微粒子分散ペーストを用いて製造されるフラットパネルディスプレイもまた本発明の1つである。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、表面平滑性に優れた焼結層を形成することのできる無機微粒子分散ペーストを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0048】
(重合例1)
攪拌機、冷却器、温度計、油浴及び窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、イソブチルメタクリレート(IBMA)100重量部、有機溶剤としてテキサノール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0049】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら油槽が130℃に達するまで昇温した。重合開始剤として2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]をテキサノールで分散させた溶液を加えた。また、重合中に重合開始剤を含むテキサノール溶液を数回添加し、合計でモノマー100重量部に対して1.5重量部の重合開始剤を添加した。
【0050】
重合開始から7時間後、反応液を室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、分子末端にアミド基を有する(メタ)アクリル樹脂(Poly(IBMA))のテキサノール溶液を得た。
得られた重合体について、カラムとしてカラムLF−804(昭和電工社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は4万であった。
【0051】
(重合例2)
攪拌機、冷却器、温度計、油浴及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、ブチルメタクリレートとメチルメタクリレートとの1:1混合液(BMA/MMA)100重量部、有機溶剤としてテキサノール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0052】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら油槽が130℃に達するまで昇温した。重合開始剤として2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]をテキサノールで分散させた溶液を加えた。また、重合中に重合開始剤を含むテキサノール溶液を数回添加し、合計でモノマー100重量部に対して1.5重量部の重合開始剤を添加した。
【0053】
重合開始から7時間後、反応液を室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、分子末端にアミド基を有する(メタ)アクリル樹脂(Poly(BMA/MMA))のテキサノール溶液を得た。
得られた重合体について、カラムとしてカラムLF−804(昭和電工社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は4万であった。
【0054】
(重合例3)
攪拌機、冷却器、温度計、油浴及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、ブチルメタクリレートとヒドロキシエチルメタクリレートとの混合液(BMA/HEMA=9/1)100重量部、有機溶剤としてテルピネオール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0055】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら油槽が130℃に達するまで昇温した。重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルをテルピネオールで分散させた溶液を加えた。また、重合中に重合開始剤を含むテルピネオール溶液を数回添加し、合計でモノマー100重量部に対して0.8重量部の重合開始剤を添加した。
【0056】
重合開始から7時間後、反応液を室温まで冷却し重合を終了させた。イソブチロニトリル基を有する(メタ)アクリル樹脂(Poly(BMA/HEMA))のテルピネオール溶液を得た。
得られた重合体について、カラムとしてカラムLF−804(昭和電工社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は14万であった。
【0057】
(重合例4)
攪拌機、冷却器、温度計、油浴及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、ブチルメタクリレートとメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートとの混合液(BMA/MMA/HEMA=4/4/2)100重量部、有機溶剤としてテルピネオール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0058】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら油槽が130℃に達するまで昇温した。重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルをテルピネオールで分散させた溶液を加えた。また、重合中に重合開始剤を含むテルピネオール溶液を数回添加し、合計でモノマー100重量部に対して1.5重量部の重合開始剤を添加した。
【0059】
重合開始から7時間後、反応液を室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、分子末端にアミド基を有する(メタ)アクリル樹脂(Poly(BMA/MMA/HEMA))のテルピネオール溶液を得た。得られた重合体について、カラムとしてカラムLF−804(昭和電工社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は5万であった。
【0060】
(重合例5)
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、シクロへキシルメタクリレートとメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートとの混合液(CHMA/MMA/HEMA=4/5/1)100重量部、連鎖移動剤としてメルカプトプロパンジオール0.2重量部、有機溶剤としてテルピネオール100重量部を混合し、モノマー混合液を得た。
【0061】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら湯槽が沸騰するまで昇温した。重合開始剤として有機化酸化物重合触媒(パーロイル355、日油社製)を0.1重量部添加し、重合中に重合開始剤を数回添加し、合計でモノマー100重量部に対して合計1.5重量部の重合開始剤を添加した。
【0062】
重合開始から7時間後、反応液を室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、分子末端に水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂(Poly(CHMA/MMA/HEMA))のテルピネオール溶液を得た。得られた重合体について、カラムとしてカラムLF−804(昭和電工社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は5万であった。
【0063】
(重合例6)
重合例5においてテルピネオールに代えて、テキサノールを用い、重合例5と同様にして分子末端に水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂(Poly(CHMA/MMA/HEMA))のテキサノール溶液を得た。得られた重合体について、カラムとしてカラムLF−804(昭和電工社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は8万であった。
【0064】
(実施例1)
エチルセルロースSTD4をテルピネオールに溶解させた。このテルピネオール溶液に対し、表1に示した組成比となるように有機化合物として1,6−ヘキサンジオールを添加し、ビヒクル組成物を得た。
【0065】
得られたビヒクル組成物に対して、ノニオン系界面活性剤としてBL−4.2(日光ケミカル社製)、無機微粒子として平均粒子径2.0μmのガラス微粒子(SiOを32.5%、Bを20.5%、ZnOを18%、Alを10%、BaOを3.5%、LiOを9%、NaOを6%、SnOを0.5%含有)を表1に示した組成比となるように添加した後、高速撹拌装置を用いて充分混練し、3本ロールミルにてなめらかになるまで処理を行い、無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0066】
(実施例2)
エチルセルロースSTD4の代わりにエチルセルロースSTD45を用い、有機化合物として1,6−ヘキサンジオールの代わりにミリスチルアルコールを用い、表1に示す組成比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0067】
(実施例3)
エチルセルロースSTD4のテルピネオール溶液の代わりに重合例1で得られた(メタ)アクリル樹脂(Poly(IBMA))のテキサノール溶液を用い、表1に示す組成比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0068】
(実施例4)
エチルセルロースSTD4のテルピネオール溶液の代わりに重合例2で得られた(メタ)アクリル樹脂(Poly(BMA/MMA))のテキサノール溶液を用い、表1に示す組成比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0069】
(実施例5)
(ポリビニルアセタール樹脂の合成)
重合度1700、ケン化度98モル%のポリビニルアルコール193gを純水2900gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸20gとn−ブチルアルデヒド145gを添加し、液温を15℃に下げてこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。
その後、液温を40℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてアセタール化度を測定したところ、アセタール化度は78モル%であった。
【0070】
得られたポリビニルブチラール樹脂5重量部を、トルエン22重量部とエタノール11重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてジブチルフタレート2重量部、有機化合物として2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを表1に記載した組成比になるように加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(堺化学工業社製「BT−01(平均粒径0.3μm)」)50重量部を加え、ボールミルで48時間混合して無機微粒子分散ペースト組成物を作製した。
【0071】
(実施例6)
重合例3で得られた(メタ)アクリル樹脂(Poly(BMA/HEMA))のテルピネオール溶液に対し、表1に記載した組成比になるようにテルピネオールを添加し、溶解させた。ここに、有機化合物として2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを表1に記載した組成比になるように更に添加し、高速分散機で分散させた。
更に、導電性微粒子としてアルミニウム微粒子(平均粒子径5μm)、ファイヤースルーを可能にする低融点ガラス微粒子(平均粒子径1μm)を表1に記載した組成比になるように添加し、高速撹拌装置を用いて充分混練した後、アルミニウム微粒子が扁平につぶれないように留意しながら3本ロールミルにて処理を行い、導電性微粒子分散ペーストを調製した。
【0072】
(実施例7)
エチルセルロースSTD4をテルピネオールに溶解させた溶液と、重合例4で得られた(メタ)アクリル樹脂(Poly(BMA/MMA/HEMA))のテルピネオール溶液を用い、表1に記載した組成比になるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0073】
(実施例8)
重合例5で得られた(メタ)アクリル樹脂(Poly(CHMA/MMA/HEMA))のテルピネオール溶液と、ロジン化合物(KR85、荒川化学社製)、無機微粒子としてPDP用緑蛍光体(ZnSiO;Mn、日亜化学社製)を用い、表1に記載した組成比になるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0074】
(実施例9)
重合例6で得られた(メタ)アクリル樹脂(Poly(CHMA/MMA/HEMA))のテキサノール溶液と、エチルセルロース(STD7)、無機微粒子として銀粉(粒子径2μm、昭栄化学社製)を用いて表1に記載した組成比になるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0075】
(比較例1)
有機化合物としての1,6−ヘキサンジオールを用いず、表1に示す組成比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0076】
(比較例2)
有機化合物としての1,6−ヘキサンジオールを用いず、表1に示す組成比に変更したこと以外は、実施例3と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0077】
(比較例3)
有機化合物としての2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを用いず、表1に示す組成比に変更したこと以外は、実施例6と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0078】
(比較例4)
有機化合物である2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールに代えて、水酸基を有し、常温固体であるが、沸点が300℃以上であるペンタエリスリトールを用いた以外は実施例5と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0079】
(比較例5)
有機化合物である2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールに代えて、水酸基を有し、常温液体である2−メチル−1,3−プロパンジオールを用いた以外は実施例6と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0080】
(比較例6)
有機化合物である2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールに代えて、水酸基を有し、常温液体である2−メチル−1,3−プロパンジオールを用いた以外は実施例8と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0081】
(比較例7)
有機化合物である2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールに代えて、水酸基を有し、常温液体である2−メチル−1,3−プロパンジオールを用いた以外は実施例9と同様にして無機微粒子分散ペーストを作製した。
【0082】
<評価>
実施例及び比較例で得られた無機微粒子分散ペーストについて以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0083】
(1)焼結性
5ミルに設定したアプリケーターを用いて、無機微粒子分散ペーストをガラス基板上に塗工し、150℃の送風オーブンで30分間乾燥させた後、500℃の電気炉で30分間焼成した。得られた焼結層について、炭素硫黄分析装置(堀場製作所社製)により残留炭素(ppm)を測定し、また、焼き色を目視により確認した。残留炭素が150ppm以下であった場合を「○」と、残留炭素が150ppmを超えた場合を「×」として焼結性を評価した。
【0084】
(2)表面平滑性
5ミルに設定したアプリケーターを用いて、無機微粒子分散ペーストをガラス基板上に塗工し、150℃の送風オーブンで30分間乾燥させた。得られた無機微粒子分散ペースト塗布層について、JIS B 0601に準拠した方法で表面の中心線平均粗さ(Ra)を測定し、Raが1.0μm以下である場合を「○」、1.0μmを超える場合を「×」として表面平滑性を評価した。測定には、触針式粗さ計(東京精密社製、サーフコム1400D)を用いた。
なお、比較例2で得られた無機微粒子分散ペーストは粘度が高く、該無機微粒子分散ペーストを塗工して得られた塗布層は、膜厚に揺らぎが見られた。
【0085】
(3)非ダレ乾燥性
乳剤厚みが20μm、ステンレスメッシュ♯300、乳剤の開口部の線幅100μm、スペース300μmのスリット状スクリーン印刷版を用いて、実施例8、9及び比較例6、7で得られた無機微粒子分散ペーストをガラス基板上に印刷し、120℃に設定した送風式オーブンで20分間乾燥させた。
そして、レーザー顕微鏡を用いて、印刷形状の高さを評価した。
乾燥後の印刷形状の高さが10μm以上である場合を「○」、乾燥中にダレて印刷形状の高さが10μm未満の高さとなった場合を「×」とした。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、表面平滑性に優れた焼結層を形成することのできる無機微粒子分散ペーストを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種と、有機化合物と、無機微粒子と、有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペーストであって、
前記有機化合物は、水酸基を1つ以上有し、かつ、常温固体で沸点が300℃未満である
ことを特徴とする無機微粒子分散ペースト。
【請求項2】
無機微粒子は、無鉛ガラス微粒子、セラミック微粒子及びアルミ微粒子からなる群より選択される少なく1種であることを特徴とする請求項1記載の無機微粒子分散ペースト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無機微粒子分散ペーストを用いて製造されることを特徴とするガラス誘電体。
【請求項4】
請求項1又は2記載の無機微粒子分散ペーストを用いて製造されることを特徴とするセラミックグリーンシート。
【請求項5】
請求項1又は2記載の無機微粒子分散ペーストを用いて製造されることを特徴とする太陽電池セル。
【請求項6】
請求項1又は2記載の無機微粒子分散ペーストを用いて製造されることを特徴とするフラットパネルディスプレイ。

【公開番号】特開2011−213980(P2011−213980A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145037(P2010−145037)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】