説明

無機系極細繊維シート及びその製造方法

【課題】 嵩高かつ各種用途に適用できる取り扱い強度を有する無機系極細繊維シートを提供すること、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の無機系極細繊維シートは見掛密度が0.1g/cm以下、かつ少なくとも一方向における単位目付あたりの引張り強さが0.5gf/5mm幅以上のものである。この無機系極細繊維シートは、ゾル溶液に電界を作用させて形成した無機系ゲル状極細繊維を飛翔させ、この飛翔する無機系ゲル状極細繊維に対して、イオンを照射して飛翔力を失わせて集積し、次いで乾燥した後に水流で絡合し、そして焼結することによって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機系極細繊維シート及びその製造方法に関する。より具体的には、嵩高かつ取り扱い性に優れているため、断熱材、繊維強化プラスチック用基材、或いはプリント配線板基材等として好適に使用することができる無機系極細繊維シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電紡糸法による繊維集合体の製造は、紡糸溶液を紡糸空間へ供給すると同時に電界を作用させ、紡糸溶液中の溶媒を揮発させ、凝固させて繊維を形成し、一定距離離れたドラムやコンベアなどの集積体に集積させていた。このように製造された繊維集合体は掻き取り装置等により回収している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように製造した繊維集合体は、集積体上に電界の作用で引き付けられて集積するため、嵩のないペーパー状のものであった。このような繊維集合体は、例えば、断熱材として使用しようとしても嵩がないため、断熱性の点で劣るものであった。このように、従来の静電紡糸法により製造した繊維集合体は嵩高性を必要とする用途には適用できないものであった。
【0004】
そのため、本願出願人は「紡糸するポリマー溶液を紡糸空間へ供給するステップと、前記供給して形成した繊維に、前記繊維とは反対極性のイオンを照射するステップと、及び紡糸した繊維を回収するステップとを含む静電紡糸方法。」(特許文献2)、及び「紡糸するポリマー溶液を紡糸空間へ供給するステップと、前記ポリマー溶液を供給する方向に第1の気流を供給するステップと、前記供給して形成した繊維に、前記繊維とは反対極性のイオンを照射するステップと、前記ポリマー溶液を供給する方向と交差する方向であって紡糸した繊維を回収する方向に第2の気流を供給しながら、該繊維を回収するステップとを含む静電紡糸法による繊維集合体の製造方法。」(特許文献3)を提案した。
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,048,651号明細書(第2−3頁、第2図)
【特許文献2】特開2004−238749号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2005−264374号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような本願出願人が提案した方法によれば、静電紡糸法により嵩高な繊維集合体を製造することができた。しかしながら、強度がほとんどないため、断熱材など各種用途に適用することが困難なものであった。
【0007】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたもので、嵩高かつ各種用途に適用できる取り扱い強度を有する無機系極細繊維シートを提供すること、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、「平均繊維径が2μm以下の無機系極細繊維を主体とし、前記無機系極細繊維の繊維径のCV値が0.6以下である無機系極細繊維シートであり、前記無機系極細繊維シートの見掛密度が0.1g/cm以下、かつ少なくとも一方向における単位目付あたりの引張り強さが0.5gf/5mm幅以上であることを特徴とする、無機系極細繊維シート。」である。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、「無機系極細繊維のみからなることを特徴とする、請求項1記載の無機系極細繊維シート。」である。
【0010】
本発明の請求項3にかかる発明は、「(1)無機成分を主体とするゾル溶液を形成する工程、(2)前記ゾル溶液を紡糸空間へ供給する工程、(3)前記供給したゾル溶液に電界を作用させることにより、ゲル化及び繊維化させた無機系ゲル状極細繊維を飛翔させる工程、(4)前記飛翔する無機系ゲル状極細繊維に対して、無機系ゲル状極細繊維とは反対極性のイオンを照射する工程、(5)前記イオンの照射により飛翔力を失った無機系ゲル状極細繊維を集積させる工程、(6)前記集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を乾燥して、無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体とする工程、(7)前記無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体に対して流体流を噴出して絡合し、シート化する工程、(8)前記絡合した無機系乾燥ゲル状極細繊維シートを焼結して、無機系極細繊維シートとする工程、とを含むことを特徴とする、無機系極細繊維シートの製造方法。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1にかかる発明は、見掛密度が0.1g/cm以下と嵩高、かつ少なくとも一方向における単位目付あたりの引張り強さが0.5gf/5mm幅以上の取り扱い強度を有する無機系極細繊維シートである。
【0012】
本発明の請求項2にかかる発明は、無機系極細繊維のみからなるため、耐熱性や電気特性等に優れている。
【0013】
本発明の請求項3にかかる発明は、無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体とした後に流体流により絡合し、次いで焼結しているため、引張り強さが0.5gf/5mm幅以上の取り扱い強度を有する無機系極細繊維シートを製造しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の無機系極細繊維シートは、平均繊維径が2μm以下の無機系極細繊維を主体としているため、柔軟性に優れており、また、表面積が広いことによって各種機能(例えば、濾過性能、機能性物質による機能発揮性能など)が優れている。より好ましい平均繊維径は1μm以下であり、更に好ましい平均繊維径は0.5μm以下である。他方、無機系極細繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μmが適当である。
【0015】
なお、本発明における平均繊維径は、無機系極細繊維シートの厚さ方向断面における電子顕微鏡写真をもとに100ヶ所の繊維径を測定し、その繊維径を算術平均した値をいう。なお、繊維の横断面形状が非円形である場合には、横断面積と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とみなす。
【0016】
本発明の無機系極細繊維は連続繊維であっても良いし、不連続の短繊維であっても良いが、連続繊維である方が、繊維の脱落が生じにくいため好適である。
【0017】
本発明の無機系極細繊維は無機成分を主体としているため、耐熱性や電気特性等に優れている。この「無機成分を主体とする」とは、無機成分が50mass%以上を占めていることを意味し、好ましくは60mass%以上、より好ましくは75mass%以上を占めている。
【0018】
この無機成分を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0019】
無機成分としては、例えば、前記元素の酸化物を挙げることができ、具体的には、SiO、Al、B、TiO、ZrO、CeO、FeO、Fe、Fe、VO、V、SnO、CdO、LiO、WO、Nb、Ta、In、GeO、PbTi、LiNbO、BaTiO、PbZrO、KTaO、Li、NiFe、SrTiOなどを挙げることができる。前記の無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていてもよい。例えば、SiO−Alのニ成分から構成することができる。
【0020】
本発明の無機系極細繊維は、上述のような無機成分以外に、有機成分を含んでいることができる。例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物などの有機成分を含んでいることができる。また、無機系極細繊維内に、無機系又は有機系の微粒子を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の無機系極細繊維シートは上述のような無機系極細繊維を主体とするものである。つまり、無機系極細繊維は無機系極細繊維シートの50mass%以上を占め、好ましくは60mass%以上を占め、より好ましくは70mass%以上を占め、更に好ましくは80mass%以上を占め、更に好ましくは90mass%以上を占め、最も好ましくは100mass%、つまり無機系極細繊維のみからなる。無機系極細繊維以外に無機系極細繊維シートを構成することのできる繊維としては、例えば、有機系繊維、平均繊維径が2μmを超える無機系繊維などを挙げることができる。このような繊維が混在していることによって、無機系極細繊維シートの強度や成形性などの各種特性が向上し、広範な用途に適用しやすくなる。
【0022】
本発明の無機系極細繊維シートを構成する無機系極細繊維の繊維径のCV値は0.6以下と、無機系極細繊維の繊維径が揃っているため、樹脂等の含浸性、電気特性の均一性に優れる等の特長がある。このCV値が小さければ小さい程、無機系極細繊維の繊維径が揃っており、前記特性に優れているため、CV値は0.5以下であるのが好ましく、0.4以下であるのが更に好ましい。なお、無機系極細繊維の繊維径が全部同じであれば、標準偏差が0になるため、理想的なCV値は0である。
【0023】
このCV値は、無機系極細繊維の繊維径の標準偏差値を、無機系極細繊維の平均繊維径で除した値をいう。なお、標準偏差値は無機系極細繊維100本の繊維径の標準偏差値をいい、次の式により算出される値をいう。
標準偏差={(nΣX−(ΣX))/n(n−1)}1/2
n:測定数(100本)、X:それぞれの無機系極細繊維の繊維径(μm)
【0024】
本発明の無機系極細繊維シートは嵩高であり、例えば断熱性、樹脂等の含浸性に優れているように、見掛密度が0.1g/cm以下である。見掛密度が小さければ小さい程、嵩高な状態であることができるため、好ましい見掛密度は0.09g/cm以下であり、更に好ましい見掛密度は0.085g/cm以下である。他方で、見掛密度が低すぎると強度的に劣り、取り扱い性が悪くなる傾向があるため、0.05g/cm以上であるのが好ましい。なお、「見掛密度」は目付(g/cm)を厚さ(cm)で除した値を意味し、目付は10cm角の重量を1m角に換算した重量をいい、厚さは10kPa荷重時の値をいう。
【0025】
本発明の無機系極細繊維シートは上述のような見掛密度の嵩高なものであるにもかかわらず、少なくとも一方向における単位目付あたりの引張り強さが0.5gf/5mm以上の取り扱い性の優れるものである。この引張り強さが強ければ強い程、取り扱い性に優れているため、0.9gf/5mm以上であるのが好ましく、1gf/5mm以上であるのがより好ましく、1.5gf/5mm以上であるのが更に好ましい。この引張り強さの上限は特に限定するものではないが、5gf/5mmであるのが好ましい。なお、このような引張り強さを示す方向は特に限定するものではないが、一般的に無機系極細繊維シートは長手方向に力を加えて加工又は使用するため、長手方向における単位目付あたりの引張り強さが0.5gf/5mm以上であるのが好ましい。また、単位目付あたりの引張り強さは、幅5mm、長さ40mmに切断した試験片を、小型引張試験機(サーチ社製、品番:TSM01)により、引張り速度1mm/sec.で測定した引張り強さを、目付で除した値をいう。
【0026】
なお、本発明の無機系極細繊維シートは接着剤によることなく、無機系極細繊維の絡合のみによってその形態を維持しているのが好ましい。接着剤を含んでいないことによって、汚染物質の発生を抑えることができたり、耐熱性により優れているなど、付加的な効果があるためである。
【0027】
また、本発明の無機系極細繊維シートは前述のような見掛密度、単位目付あたりの引張り強さであれば良く、目付は特に限定するものではないが、5〜200g/mであるのが好ましく、20〜50g/mであるのがより好ましい。更に、無機系極細繊維シートの厚さも特に限定するものではないが、50〜1000μmであるのが好ましく、200〜500μmであるのがより好ましい。
【0028】
以上のように、本発明の無機系極細繊維シートは、嵩高かつ取り扱い性に優れているため、断熱材、繊維強化プラスチック用基材、或いはプリント配線板基材等として好適に使用することができる。
【0029】
このような本発明の無機系極細繊維シートは、例えば、(1)無機成分を主体とするゾル溶液を形成する工程、(2)前記ゾル溶液を紡糸空間へ供給する工程、(3)前記供給したゾル溶液に電界を作用させることにより、ゲル化及び繊維化させた無機系ゲル状極細繊維を飛翔させる工程、(4)前記飛翔する無機系ゲル状極細繊維に対して、無機系ゲル状極細繊維とは反対極性のイオンを照射する工程、(5)前記イオンの照射により飛翔力を失った無機系ゲル状極細繊維を集積させる工程、(6)前記集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を乾燥して、無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体とする工程、(7)前記無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体に対して流体流を噴出して絡合し、シート化する工程、(8)前記絡合した無機系乾燥ゲル状極細繊維シートを焼結して、無機系極細繊維シートとする工程、によって製造することができる。
【0030】
まず、(1)無機成分を主体とするゾル溶液を形成する工程を実施する。このゾル溶液は、前述のような無機系極細繊維を構成する元素を含む化合物を含む原料溶液を、約100℃以下の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができ、主として無機成分からなる。すなわち、無機成分が50mass%以上を占めており、好ましくは60mass%以上、より好ましくは75mass%以上を占めている。
【0031】
前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒、例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド、又は水を挙げることができる。この原料溶液には、化合物を加水分解するための水、及び加水分解反応を円滑に進行させる触媒(例えば、塩酸、硝酸など)を含んでいることができる。また、前記原料溶液に含まれる化合物を安定化させるキレート剤、前記化合物の安定化のためのシランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善、柔軟性、硬度(もろさ)調整のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。更には、原料溶液は無機系又は有機系の微粒子を含んでいてもよい。なお、これらの添加剤や微粒子は、加水分解を行う前、加水分解を行う際、あるいは加水分解後に添加することができる。なお、加水分解させる温度は、使用溶媒の沸点以下であればよいが、低い方が適度に反応速度が遅く、曳糸性のゾル溶液を形成しやすい。あまり低すぎても反応が進行しにくいため、10℃以上であるのが好ましい。
【0032】
なお、化合物を構成する元素は、前述の無機成分を構成する元素と全く同じであることができ、化合物としては、前述の無機成分である前述の元素の酸化物と全く同じであることができ、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていてもよい。また、ゾル溶液は紡糸空間へ供給でき、平均繊維径が2μm以下の無機系極細繊維を紡糸可能な粘度であれば良く、特に限定するものではないが、好ましくは、0.1〜100ポイズ、より好ましくは0.5〜20ポイズ、特に好ましくは1〜10ポイズ、最も好ましくは1〜5ポイズである。
【0033】
次いで、(2)前記ゾル溶液を紡糸空間へ供給する工程を実施する。このゾル溶液を紡糸空間へ供給するには、例えば、ノズルからゾル溶液を吐出する方法、ゾル溶液を収容した容器中に回転するノコギリ状歯車を浸漬させ、ノコギリ状歯車の先端部にゾル溶液を付着させる方法、など、従来から公知に方法によりゾル溶液を紡糸空間へ供給することができる。これらの中でもノズルからゾル溶液を吐出する方法であると、吐出量を均一にでき、繊維径の揃った無機系極細繊維を紡糸しやすい、つまり繊維径のCV値が0.6以下の無機系極細繊維シートを製造しやすいため好適である。この好適であるノズルにより吐出する場合、ノズルの直径は平均繊維径が2μm以下の無機系極細繊維を製造しやすいように、0.1〜3mmであるのが好ましい。なお、ノズルから紡糸空間へのゾル溶液の供給を連続的に実施すれば連続した無機系ゲル状極細繊維を形成することができ、ノズルから紡糸空間へのゾル溶液の供給を断続的に実施すれば不連続の、つまり短繊維の無機系ゲル状極細繊維を形成することができる。また、紡糸空間とはゾル溶液をゲル化及び繊維化させる空間で、通常、空気などの気体からなる空間をいう。このように、ゾル溶液を紡糸空間へ供給する場合、後述のイオンの照射によって、ゾル溶液又は無機系ゲル状極細繊維がゾル溶液供給体(例えば、ノズル)に付着して連続生産を妨げることがないように、ゾル溶液供給体から紡糸空間へのゾル溶液供給方向と同じ方向に気体を供給するのが好ましい。
【0034】
次いで、(3)前記供給したゾル溶液に電界を作用させることにより、ゲル化及び繊維化させた無機系ゲル状極細繊維を飛翔させる工程を実施する。つまり、ゾル溶液に電界を作用させることによって、ゾル溶液中の溶媒が揮発してゲル化するとともに、電気的に引張られて繊維化した無機系ゲル状極細繊維が飛翔する。この電界は無機系極細繊維の平均繊維径、ゾル溶液の溶媒、ゾル溶液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、空気の絶縁破壊を生じさせることなく、平均繊維径が2μm以下の無機系ゲル状極細繊維を形成しやすいように、0.5〜5kV/cmであるのが好ましい。このような電界は、例えば、ゾル溶液供給体(例えば、ノズル)と、ゾル溶液供給体に対向して位置する対向電極との間に電位差を設けることによって、作用させることができる。なお、対向電極としては、コロナ放電用ニードル、コロナ放電用ワイヤ、交流放電素子(例えば、沿面放電素子など)、導電性ネットなどが使用できる。或いは、対向電極として、ゾル溶液供給体と同様のゾル溶液供給体を使用し、つまり、ゾル溶液供給体同士を対向させて使用することもできる。この場合、ゾル溶液の紡糸空間への供給量を倍にすることができる。なお、ゾル溶液供給体がノズルの場合、ノズルが導電性(例えば、金属)の場合にはノズル自体を電極として作用させることができ、ノズルが非導電性の場合にはノズル内部又はゾル溶液供給管内に電極を配置して、ゾル溶液に電界を作用させることができる。
【0035】
次いで、(4)前記飛翔する無機系ゲル状極細繊維に対して、無機系ゲル状極細繊維とは反対極性のイオンを照射する工程を実施する。この工程によって無機系ゲル状極細繊維は電気的な飛翔力を失う。この無機系ゲル状極細繊維とは反対極性のイオンを照射する手段として、例えば、コロナ放電用ニードル、コロナ放電用ワイヤ、交流放電素子(例えば、沿面放電素子など)などを挙げることができる。これらのイオン照射手段は前述のように、対向電極としても作用する。また、イオンを照射する手段として、電離放射線源を使用することもできる。イオン照射手段として、沿面放電素子又は電離放射線源を使用すると、ゾル溶液供給体と対向電極との間の電位差の形成とは独立してイオンを発生させ、照射することができるため、イオンの照射量の制御が容易である。更に、イオン照射手段として、ゾル溶液供給体と同様のゾル溶液供給体を使用することができる。この場合、前述のような効果を奏する。
【0036】
次いで、(5)前記イオンの照射により飛翔力を失った無機系ゲル状極細繊維を集積させる工程を実施する。この工程によって、無機系ゲル状極細繊維の集合体を製造することができるが、飛翔力を失った無機系ゲル状極細繊維を集積させており、電界の作用で引き付けられて集積する訳ではないため、嵩高な状態で集積させることができる。この工程は、例えば、ゾル溶液供給体と対向電極との間に配置した集積体上に、無機系ゲル状極細繊維を集積させる。なお、集積体は無機系ゲル状極細繊維を集積させることができるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、容器、コンベア、ドラムなどであることができる。また、イオンの照射によって飛翔力を失っているとはいえ、無機系ゲル状極細繊維は惰性で対向電極方向へ飛翔する可能性があるため、集積体と対向する位置に送風機を配置し、確実に無機系ゲル状極細繊維を集積体上に集積させるのが好ましい。また、集積体よりも下流側に配置した吸引装置によって気体を吸引し、無機系ゲル状極細繊維を確実に集積体上に集積させることもできる。このように送風機及び/又は吸引装置を使用する場合には、気体の作用によって無機系ゲル状極細繊維同士が密着してしまい、嵩のないペーパー状となることがないように、適宜、送風又は吸引条件を確認する必要がある。なお、上述の送風機等によって、有機系繊維、平均繊維径が2μmを超える無機系繊維などを供給し、無機系ゲル状極細繊維と混合することもできる。
【0037】
次いで、(6)前記集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を乾燥して、無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体とする工程、を実施する。この乾燥工程における乾燥温度は、次の流体流の噴出工程によって、無機系ゲル状極細繊維が溶解しない温度であれば良く、適宜実験することによって設定できる。一般的には、温度50℃〜300℃で乾燥するのが好ましい。この乾燥は、オーブンやヒーターなどで加熱することによって実施することができるし、凍結乾燥あるいは超臨界乾燥によっても実施することができる。
【0038】
次いで、(7)前記無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体に対して流体流を噴出して絡合し、シート化する工程、を実施する。このように、本発明においては、焼結する前のまだ柔軟性のある無機系乾燥ゲル状極細繊維の段階で流体流を噴出して絡合しているため、無機系乾燥ゲル状極細繊維同士を十分に絡合させることができ、結果として、単位目付あたりの引張り強さがあり、取り扱い性に優れる無機系極細繊維シートを製造することができる。この流体流としては、特に限定するものではないが、製造上、取り扱いやすい水流であるのが好ましい。また、流体流の噴出条件は無機系極細繊維シートの見掛密度を0.1g/cmを超える緻密な構造とならない条件であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、直径0.05〜0.3mm、ピッチ0.2〜3mmで、一列又は二列以上にノズルを配置したノズルプレートから、圧力が0.1MPa〜50MPaの流体流を無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体に対して噴出すれば良い。このような流体流は1回以上噴出すれば良い。
【0039】
次いで、(8)前記絡合した無機系乾燥ゲル状極細繊維シートを焼結して、無機系極細繊維シートとする工程、を実施して本発明の無機系極細繊維シートを製造することができる。このように本発明においては、無機系乾燥ゲル状極細繊維同士が十分に絡合した状態で焼結しているため、嵩高であるにもかかわらず、取り扱い強度のある無機系極細繊維シートを製造することができる。この工程における焼結温度は無機系乾燥ゲル状極細繊維を構成する無機成分によって変化するため、特に限定するものではないが、一般的には500℃以上で焼結するのが好ましい。なお、無機系乾燥ゲル状極細繊維シートをいきなり焼結温度で焼結すると、無機系乾燥ゲル状極細繊維が急激に収縮して損傷する場合があるため、焼結温度まで徐々に昇温して焼結するのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で、15時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去した後、温度60℃に加温して、粘度が約2ポイズのゾル溶液を形成した。
【0042】
次いで、内径が0.4mmのステンレス製ノズルを5cm間隔で一列に配置したノズル群に、ポンプによりノズル1本あたり1mL/時間でゾル溶液を供給し、各ノズルからゾル溶液を連続的に押し出すとともに、押し出し方向と同じ方向に風速10cm/sec.の空気を供給した。同時に、各ノズルに電圧(−15kV)を印加するとともに、ノズルの先端と150mmだけ離れた場所に位置する、対向電極かつイオン照射手段である沿面放電素子に周波数50Hz、電圧5kVピークの交流電圧を印加し、前記押し出したゾル溶液に電界(1kV/cm)を作用させることによって、ゲル化及び繊維化させ、飛翔する無機系ゲル状極細繊維にイオンを照射して、無機系ゲル状極細繊維の飛翔力を喪失させた。そして、ノズルと沿面放電素子との間に、無機系ゲル状極細繊維の飛翔方向に対して直角方向から、風速10cm/sec.の空気を供給し、沿面放電素子の下方に位置する吸引ボックス(間口:たて15cm、よこ50cm)により風速10cm/sec.で吸引するとともに、吸引ボックス上に配置したメッシュコンベアを移動させ、メッシュコンベア上に無機系ゲル状極細繊維を集積させた。なお、沿面放電素子としては、ガラス管(外径:10mm、内径:8mm、長さ:700mm)の内壁面に導電加工を施すとともに、放電電極としてステンレスワイヤー(直径:30μm、長さ:650mm)を、ガラス管の外壁面に、ガラス管の長手方向に沿って1本設置したものを使用し、内壁面側に交流電圧を印加し、外壁面側の放電電極をアースした。また、ノズル群は沿面放電素子の長手方向とノズルの配置方向とが一致するように配置した。
【0043】
次いで、集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を、温度300℃に設定したオーブンにより1時間乾燥して、無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体を製造した。
【0044】
次いで、この無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体を80メッシュの平織ネット上に載置し、5m/min.で搬送しながら、直径が0.13mmのノズルを0.6mmピッチで2列配置したノズルプレート(平織ネットとの離間距離:20mm)から圧力980kPaの水流を無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体の片面に、1回噴出して絡合させた。
【0045】
そして、絡合させた無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体を室温から昇温速度200℃/時間で昇温させ、温度800℃で2時間焼結し、完全にガラス化させて、石英ガラス極細繊維のみからなり、絡合のみによって形態を維持した無機系極細繊維シートを製造した。この無機系極細繊維シートの物性は表1に示す通りであった。
【0046】
【表1】

#:長手方向における単位目付あたりの引張り強さ
【0047】
(実施例2)
水流の圧力を1.47MPaとしたこと以外は実施例1と全く同様にして、石英ガラス極細繊維のみからなり、絡合のみによって形態を維持した無機系極細繊維シートを製造した。この無機系極細繊維シートの物性は表1に示す通りであった。
【0048】
(実施例3)
水流の圧力を2.94MPaとしたこと以外は実施例1と全く同様にして、石英ガラス極細繊維のみからなり、絡合のみによって形態を維持した無機系極細繊維シートを製造した。この無機系極細繊維シートの物性は表1に示す通りであった。
【0049】
(実施例4)
水流の圧力を490kPaとしたこと以外は実施例1と全く同様にして、石英ガラス極細繊維のみからなり、絡合のみによって形態を維持した無機系極細繊維シートを製造した。この無機系極細繊維シートの物性は表1に示す通りであった。
【0050】
(比較例1)
実施例1と全く同様にして製造した集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を、室温から昇温速度200℃/時間で昇温させ、温度800℃で2時間焼結し、完全にガラス化させて、石英ガラス極細繊維のみからなる無機系極細繊維シートを製造した。この無機系極細繊維シートの物性は表1に示す通りであった。
【0051】
(比較例2)
実施例1と全く同様にしてゾル溶液を形成した。
【0052】
次いで、内径が0.4mmのステンレス製ノズル(1本)に、ポンプにより1mL/時間でゾル溶液を供給し、ノズルからゾル溶液を連続的に押し出した。同時に、ノズルに電圧(−20kV)を印加するとともに、ノズルの先端と100mmだけ離れた位置に位置する、対向電極であるステンレス製ドラムをアースし、前記押し出したゾル溶液に電界(2kV/cm)を作用させることによって、ゲル化及び繊維化させ、無機系ゲル状極細繊維をステンレス製ドラムへ向かって飛翔させ、ステンレス製ドラム上に無機系ゲル状極細繊維を集積させた。なお、ノズルはゾル溶液を押し出すとともに、ドラムの軸方向と同じ方向に20cmの幅で往復移動させた。
【0053】
次いで、集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を、室温から昇温速度200℃/時間で昇温させ、温度800℃で2時間焼結し、完全にガラス化させて、石英ガラス極細繊維のみからなる無機系極細繊維シートを製造した。この無機系極細繊維シートの物性は表1に示す通りであった。
【0054】
表1から明らかなように、本発明の無機系極細繊維シートは見掛密度が0.084g/cm以下と嵩高であるにもかかわらず、単位目付あたりの引張り強さが0.82gf/5mm幅以上の取り扱い性に優れるものであった。そのため、本発明の無機系極細繊維シートは断熱材、繊維強化プラスチック用基材等として好適なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が2μm以下の無機系極細繊維を主体とし、前記無機系極細繊維の繊維径のCV値が0.6以下である無機系極細繊維シートであり、前記無機系極細繊維シートの見掛密度が0.1g/cm以下、かつ少なくとも一方向における単位目付あたりの引張り強さが0.5gf/5mm幅以上であることを特徴とする、無機系極細繊維シート。
【請求項2】
無機系極細繊維のみからなることを特徴とする、請求項1記載の無機系極細繊維シート。
【請求項3】
(1)無機成分を主体とするゾル溶液を形成する工程、
(2)前記ゾル溶液を紡糸空間へ供給する工程、
(3)前記供給したゾル溶液に電界を作用させることにより、ゲル化及び繊維化させた無機系ゲル状極細繊維を飛翔させる工程、
(4)前記飛翔する無機系ゲル状極細繊維に対して、無機系ゲル状極細繊維とは反対極性のイオンを照射する工程、
(5)前記イオンの照射により飛翔力を失った無機系ゲル状極細繊維を集積させる工程、
(6)前記集積させた無機系ゲル状極細繊維の集合体を乾燥して、無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体とする工程、
(7)前記無機系乾燥ゲル状極細繊維集合体に対して流体流を噴出して絡合し、シート化する工程、
(8)前記絡合した無機系乾燥ゲル状極細繊維シートを焼結して、無機系極細繊維シートとする工程、
とを含むことを特徴とする、無機系極細繊維シートの製造方法。

【公開番号】特開2007−217836(P2007−217836A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41550(P2006−41550)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】