説明

無機EL素子および無機EL素子の製造方法

【課題】 製造工程数を減らすとともに誘電体層の信頼性を高めることが可能な無機EL素子および無機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 無機EL素子10は、透明電極22が設けられた基板20、発光層24、および背面電極26を備える。基板20は、透明樹脂または透明ガラスからなっており、第1の面に透明電極22が設けられる。発光層24は、基板20の第2の面上に重ねて設けられる。発光層24は、その第1の面が基板20の第2の面に接するように配置される。背面電極26は、発光層24の第2の面上に重ねて設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛍光体を含む発光層を電界発光させるように構成された無機EL素子およびこの無機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスプレイのバックライトの用途に無機EL素子が広く用いられてきた。従来の無機EL素子100は、図1に示すように、ガラスまたは透明樹脂フィルム等の基板120上に透明電極122、発光層124、誘電体(絶縁)層125、背面電極126をこの順に形成して構成されるものが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。この構成において、無機EL素子100に接続された交流電源50から交流電圧が印加されることにより、発光層124が電界発光し、透明電極122および基板120を介して外部に光が放出される。
【0003】
このような従来の無機EL素子100は、透明電極122が形成された基板120における電極形成面に、発光層124および誘電体層125をスクリーン印刷等の手法で形成した後、背面電極126を蒸着等の手法で形成することによって製造されることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−020909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述の無機EL素子100では、発光層124および誘電体(絶縁)層125を形成する際に、基板120に対して印刷処理および乾燥処理を複数回行う必要が生じるなど工程数が多くなってしまう。
【0006】
また、誘電体(絶縁)層125については、樹脂にチタン酸バリウムなどの高誘電性材料の粉末を混合してペースト化したものを印刷処理等によって基板120上に形成することから、誘電体(絶縁)層125にピンホールなどが生じる虞があり、その結果、絶縁破壊が発生する虞がある。
【0007】
この発明の目的は、製造工程数を減らすとともに誘電体層の信頼性を高めることが可能な無機EL素子および無機EL素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る無機EL素子は、第1の電極が設けられた基板、発光層、および第2の電極を備える。基板は、透明樹脂または透明ガラスからなっており、第1の面に第1の電極が設けられる。透明樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0009】
発光層は、基板の第2の面上に重ねて設けられる。発光層は、その第1の面が基板の第2の面に接するように配置される。発光層の形成例として、蛍光体を樹脂の中で分散してペースト化したものを、印刷または塗布し乾燥させることが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0010】
第2の電極は、発光層の第2の面上に重ねて設けられる。さらに、第1の電極または第2の電極の少なくとも一方には透明電極が採用される。
【0011】
この構成においては、基板自体を従来の誘電体層と同様に用いることが可能になるため、従来はペーストを塗布していた誘電体層の形成工程が省略される。また、別途、誘電体層を設ける材料が不要となるため、無機EL素子の生産に必要となる材料を削減できる。
【0012】
また、透明樹脂または透明ガラスからなる基板を誘電体層として利用するため、誘電体層内の空気層や残留物が原因とする誘電損失の増大や誘電率の変化等の問題の発生を防止することが可能になる。
【0013】
上述の構成において、第1の電極または第2の電極のいずれか一方が透明電極である一方で、他方が金属電極であることが好ましい。その理由は、光取り出し効率がさらに向上するからである。従来の誘電体層は、光の一部を反射せずに吸収する素材で形成されることがあったが、光取り出し面とは逆側を光の反射率が高い金属電極で構成することにより、このような光の吸収ロスが発生しにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、製造工程数を減らすとともに誘電体層の信頼性を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の無機EL素子の概略を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る無機EL素子の概略を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る無機EL素子の概略を示す図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態に係る無機EL素子の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2(A)および図2(B)を用いて、本願発明の一実施形態に係る無機EL素子10および無機EL素子12を説明する。無機EL素子10は、透明樹脂(例えば、PETフィルム)または透明ガラスからなる基板20を備える。ここでは、基板20として、その第1の面に、酸化インジウムスズ(ITO)からなる透明電極22がスパッタリングまたは塗布等の手法によって予め成膜されたものを用いている。
【0017】
ここで、透明電極22として、ITOに代えて、酸化スズ系の材料、PEDOTなど高分子系の透明導電材料、またはこれらの透明導電膜と金属メッシュもしくは金属バスラインを組み合わせたものを使用することも可能である。特に、透明電極22として、印刷または塗布された透明導電性インクおよび金属メッシュ等を組み合わせてなるものを使用することにより、低抵抗化とコスト削減の両立を図れ、また、透明電極の膜厚不均一性または透明電極の抵抗値の不均一性が問題にならなくなる等のメリットがある。
【0018】
一方で、基板20の第1の面の反対側の第2の面上には、蛍光体を含む発光層24が形成される。この実施形態では、発光層24は、ZnS蛍光体(オスラムシルバニア社製)、熱可塑性フッ素樹脂、および溶媒等を混合してなる蛍光体ペーストを、基板20の第2の面上にスクリーン印刷または塗布することによって構成される。また、このとき、蛍光体とフッ素樹脂の重量比が4:1〜7:1になるように蛍光体ペーストを構成することが好ましい。なお、ここで説明した発光層24の構成はあくまで一例であり、他の構成を採用することも可能である。
【0019】
上述の発光層24における基板20と接する面(第1の面)の反対側の面(第2の面)には、背面電極26が設けられる。ここでは、背面電極26として、アルミ等の金属ペーストを塗布することによって構成される金属電極を採用している。ただし、背面電極26も透明電極で構成することも可能である。なお、この実施形態では、上述の透明電極22が本発明の第1の電極に対応し、背面電極26が本発明の第2の電極に対応する。
【0020】
以上のようにして構成された無機EL素子10は、必要に応じて、透明保護シート等によってシールされる。そして、無機EL素子10に接続された交流電源50から交流電圧が印加されることにより、発光層24が電界発光し、透明電極22および基板20を介して外部に光が放出されるようになる。
【0021】
以上の構成においては、基板20の第1の面ではなく第2の面に発光層24を形成するため、基板20の基材が誘電体層として機能する。この結果、従来はペーストを塗布していた誘電体層(図1の誘電体層125参照。)の形成工程が省略されるため、形成工程が簡略化する。また、別途、誘電体層を設ける材料が不要となるため、無機EL素子10の生産に必要となる材料を削減できる。
【0022】
さらには、印刷または塗布の工程および乾燥工程を経て形成された誘電体層には空気層や残留物が含まれる可能性があり、動作中に誘電損失の増大や誘電率の変化等の問題が発生する虞があるが、基板20の基材を誘電体として使用することでこのような不具合が発生しにくくなる。また、基板20の基材を誘電体として使用することで誘電体層の膜厚がばらつくといった従来の問題が解消する。
【0023】
このため、分散型の無機EL素子10誘電体層の信頼性を高めることが可能になる。その結果、従来に比較して高電圧を印加することが可能となり、輝度の向上を図ることが可能になる。
【0024】
また、従来の誘電体層に比較すると金属電極からなる背面電極26は光の反射率が高いため、従来の誘電体層に比較して光吸収のロスを減らすことが可能となり、光取り出し効率がさらに向上させることが可能になる。
【0025】
なお、図2(A)に示すように、従来と同様の透明電極22付き基板20を用いた場合に無機EL素子10の輝度が低下する場合には、図2(B)の無機EL素子12のように、薄型化された基板200を採用することにより十分な輝度を得ることが可能となる。図2(B)に示す実施形態では、厚さ5〜25μmのPETフィルムを基板20として使用することにより、耐電圧を低下させることを防止しつつ十分な輝度(240〜300cd/m2 )が得られている。
【0026】
続いて、図3を用いて、本発明の他の実施形態に係る無機EL素子14を説明する。この実施形態では、厚さ25μmのPETフィルムからなる基板200の第1の面に、予めアルミを蒸着することによって金属電極23が形成されている。
【0027】
基板200の第2の面には、蛍光体ペーストを印刷または塗布することによって発光層24が形成され、乾燥させられる。このとき、乾燥後の発光層24の厚みが、40〜100μmになるようにされる。
【0028】
さらに、発光層24上には、透明導電性ペーストからなる透明電極220が形成される。この透明電極220は、導電性樹脂であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)をペースト化したものを印刷または塗布し、その後乾燥させることによって形成されている。ただし、透明電極220を、ITO粉末、または金属ナノワイヤもしくはカーボンナノチューブなどをペースト化したものによって構成することも可能である。
【0029】
図3に示す無機EL素子14の構成においても、上述の無機EL素子10および無機EL素子12と同様の顕著な作用効果を奏する。
【0030】
さらに、図4(A)および図4(B)を用いて、本発明のさらに他の実施形態に係る無機EL素子16および無機EL素子18を説明する。
【0031】
図4(A)では、図3で示す無機EL素子14の透明電極220に代えて、透明電極22が予め形成された透明樹脂フィルムからなる基板200を採用している。図4(A)に示す無機EL素子16では、発光層24が形成された後に、この発光層24上に、透明電極22が発光層24に接するように基板200を貼り合わせている。このとき、必要に応じて、基板200の透明電極22上に、貼り合わせを容易にするために熱可塑性樹脂層などを薄く形成しても良い。
【0032】
このように図4(A)に示す無機EL素子16では、発光層24を形成するとき以外には、ペーストを印刷または塗布する工程が必要にならないため、加工工程をさらに簡略化することが可能になる。
【0033】
また、図4(A)に示す無機EL素子16のバリエーションとして、図4(B)に示すように透明電極22および金属電極23の位置を入れ換えた無機EL素子18が挙げられる。この無機EL素子18では、図2(B)で示す無機EL素子12の背面電極26に換えて、金属電極23が予め成膜された基板200が貼り合わされている。図4(B)に示す無機EL素子18においても、図4(A)に示す無機EL素子16と同様の作用効果が生じている。
【0034】
以上のとおり、上述の実施形態によれば、無機EL素子の製造に必要な工程および材料が削減されるとともに、真空工程を経ることなく高信頼性および高品質の無機EL素子を提供することが可能となる。
【0035】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0036】
10、12、14、16、18−無機EL素子
20−基板
22−透明電極
23−金属電極
24−発光層
26−背面電極
50−交流電源
200−基板
220−透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面に第1の電極が設けられた透明樹脂または透明ガラスからなる基板と、
前記基板の第2の面上に重ねて設けられた発光層であって、その第1の面が前記基板の第2の面に接するように配置された発光層と、
前記発光層の第2の面上に重ねて設けられた第2の電極と、
を備え、
前記第1の電極または前記第2の電極の少なくとも一方が透明電極である無機EL素子。
【請求項2】
前記第1の電極または前記第2の電極のいずれか一方が透明電極である一方で、他方が金属電極である請求項1に記載の無機EL素子。
【請求項3】
第2の電極は、前記発光層の第2の面に貼り合わされた透明樹脂からなる基板の、貼り合わせ面に形成された請求項1または2に記載の無機EL素子。
【請求項4】
第1の面に第1の電極が設けられた透明樹脂または透明ガラスからなる基板の第2の面上に発光層を形成するステップと、
前記発光層の上にさらに第2の電極を形成するステップと、
を含み、
前記第1の電極または前記第2の電極の少なくとも一方が透明電極である無機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−253635(P2011−253635A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124829(P2010−124829)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000108753)タツモ株式会社 (73)
【Fターム(参考)】