説明

無段変速機

【課題】振動や騒音を抑制できる無段変速機を提供する。
【解決手段】入力プーリ(10)と出力プーリ(11)との間に掛け渡されているチェーン(12)を収装すると共に、溝幅の変更により移動するチェーン(12)に、軸(50)を支点として揺動するガイドレール(40)を備え、ガイドレール(40)は、軸(50)を把持する把持部(45)が形成され、把持部(45)と軸(50)との嵌合が、減速比が大きいほどきつくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速を行う無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のベルト又はチェーン式の無段変速機において、プーリの回転に伴ってチェーン等の巻掛動力伝達体が共振等により振動することによって、運転者に不快な騒音や振動を与えることがある。
【0003】
これを防止するために、それぞれ1つの軸方向に変位可能な円すい円板と1つの軸方向で不動の円すい円板とを有している第1の円すい円板対及び第2の円すい円板対と、トルク伝達のためにこれらの円すい円板対の間に配置されている巻掛動力伝達体(巻き掛け手段)とを備えている円すい円板巻き掛け変速機であって、巻掛動力伝達体を少なくとも部分的に受容する受容レールが設けられている変速機が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−304115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の従来技術では、変速に伴って受容レールがスムースに回動するために、また、レールと巻掛動力伝達体とのフリクション増大による燃費悪化や強度の低下を防ぐために、受容レールと受容レールの支柱とは遊びを設けている。
【0006】
しかしながら、この遊びは、受容レールの振動を抑制する効果を低減するものである。特に、最Low付近など減速比が大きい状態では、燃費や強度に対する影響は小さいが、振動による影響度が大きくなる。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、無段変速機において、振動や騒音を抑制できる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様は、駆動力源から出力された動力が入力される入力プーリと車両の駆動系の出力側に接続されるプーリとに巻掛動力伝達体を掛け回し、入力プーリ及び出力プーリの溝幅を変更することで駆動力源の回転速度を無段階に変速して出力する無段変速機に適用される。
【0009】
この無段変速機において、入力プーリと出力プーリとの間に掛け渡されている巻掛動力伝達体を収装すると共に、溝幅の変更により移動する巻掛動力伝達体に、軸を支点として揺動するガイドレールを備える。
【0010】
ガイドレールは、軸を把持する把持部が形成され、把持部と軸との嵌合が、この無段変速機の減速比が大きいほどきつくなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、減速比が大きい最Low付近において、把持部と軸との嵌合をきつくして摩擦を大きくすることにより、ガイドレールが軸に対して振動することを抑制する。この結果、減速比が最Low付近における巻掛動力伝達体の振動を起因とする騒音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の無段変速機を有する車両の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態の無段変速機の説明図である。
【図3】本発明の実施形態のガイドレールの動作の説明図である。
【図4】本発明の実施形態の把持部付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態の無段変速機を説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態の無段変速機を有する車両の概略構成図である。
【0015】
車両1は、エンジン2と、トルクコンバータ3と、前後進切換機構4と、無段変速機5と、コントローラ6とを備える。
【0016】
トルクコンバータ3は、駆動源であるエンジン2と前後進切換機構4との間に設けられる。トルクコンバータ3はエンジン2で発生した回転を前後進切換機構4に伝達する。トルクコンバータ3は、エンジン2から回転が伝達されたポンプインペラが回転し、内部の油を介してタービンランナに回転が伝達される。トルクコンバータ3は、油を介さずにエンジン2の回転を前後進切換機構4に伝達するロックアップ機構を備える。
【0017】
前後進切換機構4は、トルクコンバータ3と無段変速機5との間に設けられる。前後進切換機構4は、遊星歯車4aと、前進クラッチ4bと、後進ブレーキ4cとを備える。
【0018】
前進クラッチ4bは、前進クラッチピストン室(図示せず)に油が供給されると締結し、前進クラッチピストン室から油が排出されると解放する。後進ブレーキ4cは後進ブレーキピストン室(図示せず)に油が供給されると締結し、後進ブレーキピストン室から油が排出されると解放する。
【0019】
車両1の前進時には前進クラッチ4bが締結され、後進ブレーキ4cが解放され、トルクコンバータ3から伝達された回転は、回転方向が変更されずに無段変速機5に伝達される。車両1の後進時には前進クラッチ4bが解放され、後進ブレーキ4cが締結され、トルクコンバータ3から伝達された回転は、回転方向が逆転して無段変速機5に伝達される。前進クラッチ4bおよび後進ブレーキ4cが解放されると、トルクコンバータ3と無段変速機5との連結が解除されるので、無段変速機5へ回転が伝達されなくなる。
【0020】
無段変速機5は、入力プーリ10と、出力プーリ11と、巻掛動力伝達体としてのチェーン12とを備える。
【0021】
入力プーリ10は、固定シーブ10aと可動シーブ10bとが対向配置され、固定シーブ10aのシーブ面と可動シーブ10bのシーブ面との間でV字状のプーリ溝10cを形成する。入力プーリ10には前後進切換機構4から回転が伝達される。
【0022】
可動シーブ10bは、入力プーリ室(図示せず)に油が給排されることで軸方向へ前後進する。これによって入力プーリ10のプーリ溝10cの幅が変更される。
【0023】
出力プーリ11は、固定シーブ11aと可動シーブ11bとが対向配置され、固定シーブ11aのシーブ面と可動シーブ11bのシーブ面との間でV字状のプーリ溝11cを形成する。
【0024】
可動シーブ11bは、出力プーリ室(図示せず)に油が給排されることで軸方向へ前後進する。これによって出力プーリ11のプーリ溝11cの幅が変更される。
【0025】
チェーン12は、入力プーリ10および出力プーリ11に巻き掛けられ、入力プーリ10に伝達された回転を出力プーリ11に伝達する。出力プーリ11に伝達された回転が減速機8及び差動装置9を介して駆動輪7に伝達されて車両1は走行する。
【0026】
無段変速機5は、入力プーリ室および出力プーリ室に給排される油を調整することで、チェーン12と、入力プーリ10および出力プーリ11との接触半径を変更し、連続的に変速比を変更する。
【0027】
コントローラ6は、入力プーリ回転速度センサ20からの信号、出力プーリ回転速度センサ21からの信号、インヒビタスイッチ22からの信号などに基づいて前進クラッチ4b、後進ブレーキ4c、入力プーリ室および出力プーリ室への油の給排を制御する。コントローラ6は、CPU、ROM、RAMなどによって構成され、CPUがROMに格納されたプログラムを読み出すことで、コントローラ6の各機能が発揮される。
【0028】
次に、本実施形態の無段変速機5の構成を説明する。
【0029】
図2は、本実施形態の無段変速機5の説明図である。
【0030】
無段変速機5において、入力プーリ10と出力プーリ11とにチェーン12が巻掛けられている。チェーン12は、これら入力プーリ10と出力プーリ11とに掛け渡されて、回転を伝達する。
【0031】
入力プーリ10は、可動シーブ10bを移動させることによって溝10cの幅を変更してチェーン12の巻掛け径を変更する。出力プーリ11は、可動シーブ11bを移動させることによって溝11cの幅を変更してチェーン12の巻掛け径を変更する。これら可動シーブ10bと可動シーブ11bとの動作は互いに応動しており、一方の溝幅を拡大した場合は他方の溝幅が縮小される。これによりチェーン12の全体の巻掛け長さは変更しない。
【0032】
ここで、チェーン12は、入力プーリ10と出力プーリ11との間に掛け渡される部分(図2における弦部A及び弦部B)は、これらプーリに接触しておらず、回転によってトルクが伝達することにより弦振動が発生する。この弦振動の周波数fは、次のような数式によって算出される。
f=v/2l ただしv=(S/ρ)^0.5・・・(1)
v:振動波の速度
l:弦長
S:弦の張力
ρ:弦の密度
【0033】
チェーン12の弦部の長さと密度とは一定であるので、弦振動周波数fはチェーンの張力Sに依存する。
【0034】
アクセルオン等の加速時では、エンジン2からのトルクが入力プーリ10から出力プーリ11にチェーン12を介して伝達される。このときチェーン12は、これらプーリの回転に伴って弦部Aに引張方向の力が、弦部Bに圧縮方向の力が付加される。このため、これら弦部Aと弦部Bとの弦振動周波数fが異なり、互いに打ち消し合って、振動が小さくなる。また、加速時は、エンジン2を含むパワートレイン全体が騒音を発しており、チェーン12の弦振動による騒音の影響度は小さい。
【0035】
一方、アクセルオフなど、加速から減速となる過渡時には、エンジン2から入力されるトルクが0に近づく。この場合は、チェーン12は、弦部Aと弦部Bとの引張力がそれぞれ0に近づき、弦部Aと弦部Bとの引張力の差が0に近づく。この結果として、弦部A及び弦部Bで発生する弦振動周波数が近づくため、互いに共振し、チェーン12にこの弦振動周波数付近の騒音が発生する。この騒音は、エンジン2のマウント等を介して車両に伝達する。
【0036】
特に、加速から減速となった場合は、エンジン2の回転速度や車速の低下によりパワートレインで発生する暗騒音が低下するので、相対的に無段変速機5で発生する騒音の影響度が大きくなる。
【0037】
このチェーン12の振動に起因する騒音を防ぐために、本実施形態の無段変速機5は、図2に示すガイドレール40をチェーン12に設けた。
【0038】
なお、図2に示す例は、入力プーリ10におけるチェーン12の巻掛け径が小さく、出力プーリ11におけるチェーン12の巻掛け径が大きく設定されており、減速比が最も大きい最Low付近の例を示す。
【0039】
ガイドレール40は、入力プーリ10の溝10c、及び、出力プーリ11の溝11cに挟まれ、これらプーリのシーブ面に干渉しない位置に備えられる。ガイドレール40は、チェーン12の弦部Aを収装する収装部41と、軸50を把持する把持部45とを備え、変速に伴うチェーン12の弦部Aの移動に伴って、軸50を支点として揺動する。
【0040】
収装部41は、上底部42と、下底部43と、上底部42及び下底部43を連結する連結部44とから構成される。
【0041】
上底部42は、弦部Aにおけるチェーン12の外周側を支持する。下底部43は、弦部Aにおけるチェーン12の内周側を支持する。連結部44は、チェーン12を回転軸方向の両側から支持する。
【0042】
把持部45は、下底部43から起立する一組の平面部45a、45bを有しており、平面部45a、45bは、互いに向かい合うと共に所定の間隙を有している。この一組の平面部45a、45bの間に、軸50が嵌合する。
【0043】
軸50は、揺動するガイドレール40の支点となる。軸50は、軸方向に直交する断面が楕円形状を有しており、楕円形状の長半径が、把持部45の平面部45a、45bの間隔と略一致するように形成する。軸50は、後述するように、減速比最Low付近で、楕円形状の長半径が把持部45と嵌合する。
【0044】
次に、ガイドレール40の動作を説明する。
【0045】
図3は、本実施形態のガイドレール40の動作を示す説明図である。また、図4は、ガイドレール40の把持部45付近の拡大図である。
【0046】
図3において、チェーン12は、実線で示す最Low状態と、二点鎖線で示す最Hi状態との間で移動する。ガイドレール40は、弦部Aにおいて、実線で示す最Low状態と、二点鎖線で示す最Hi状態との間を、軸50を支点として揺動する。
【0047】
実線で示す最Low状態において、ガイドレール40の把持部45は、楕円形状の軸50の長半径で接する。一方、二点鎖線で示す最Hi状態において、ガイドレール40の把持部45は、楕円形状の軸50の短半径に近い位置で接する。
【0048】
すなわち、ガイドレール40の把持部45は、減速比がLow側に向かうに従って、軸50の半径が大きくなる部分を把持するようになる。図4(A)は最Low状態での把持部45の拡大図を示す。図4(A)に示すように、最Low状態では、把持部45は、軸50の最も半径が大きい部分を把持する。最Low状態では把持部45と軸50との遊びがなくなる。
【0049】
一方で、ガイドレール40の把持部45は、減速比がHi側に向かうに従って、軸50の半径が小さくなる部分を把持するようになる。図4(B)は最Hi状態での把持部45の拡大図を示す。図4(B)に示すように、最Hi状態では、把持部45は、軸50の半径が最Low状態と比較して小さい部分を把持する。すなわち、最Hi付近では把持部45と軸50との遊びが大きくなる。
【0050】
軸50は、減速比が最Lowになるほど径が太くなる形状を有していので、ガイドレール40の把持部45は、減速比が最Lowになるほど径が太くなる軸50を把持することにより、減速比が最Lowになるほど軸50との遊びが小さくなる。
【0051】
以上のように、本発明の実施形態の無段変速機では、チェーン12の弦部に、チェーン12を収装すると共に、プーリの溝幅の変更により移動するチェーン12に軸50を支点として揺動するガイドレール40を備えた。軸50は、楕円形状を有しており、ガイドレール40の把持部45は、減速比が最Lowになるほど軸50の径が大きくなる部分を把持する。すなわち、把持部45と軸50との嵌め合いが、減速比が大きいほどきつくなる。
【0052】
このように構成することによって、チェーン12の振動による騒音の影響度が大きい減速比が最Low付近において、把持部45と軸50との摩擦を大きくして、ガイドレール40が軸50に対して振動することを抑制する。この結果、減速比が最Low付近におけるチェーン12の振動による騒音の発生を抑制することができる。
【0053】
また、減速比が小さいHi側では、把持部45と軸50との遊びは大きくなる。これにより、変速に伴ってガイドレール40がスムースに回動することができる。またガイドレール40とチェーン12とのフリクションを増大させないので、減速比Hi側における燃費悪化やガイドレール40及びチェーン12の強度の低下を防止することができる。
【0054】
軸50は、最Low付近で把持部45と長半径で接する略楕円形状としたので、特殊な加工を必要とせず、コントローラ6による制御も必要ないので、コストを上昇することなく騒音の発生を抑制することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、軸50を楕円として説明したがこれに限られず、最Lowになるほど把持部45と軸50との嵌め合いがきつくなるような形状であればよい。例えば、軸50の二カ所に軸対する突起部を設け、最Low付近で把持部45が突起部を挟むように構成してもよい。
【0056】
なお、本発明の実施形態では、チェーン式無段変速機を例に説明したが、これに限られない。例えば、多数のコマをベルトで連結したVベルトをプーリで挟持するベルト式の無段変速機においても、本発明を同様に適用することができる。
【0057】
1 車両
2 エンジン
3 トルクコンバータ
4 前後進機構
5 無段変速機
6 コントローラ
7 駆動輪
8 減速機
9 差動装置
10 入力プーリ
11 出力プーリ
12 チェーン(巻掛動力伝達体)
40 ガイドレール
41 収装部
42 上底部
43 下底部
44 連結部
45 把持部
50 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源から出力された動力が入力される入力プーリと車両の駆動系の出力側に接続される出力プーリとに巻掛動力伝達体を掛け回し、前記入力プーリ及び前記出力プーリの溝幅を変更することで前記駆動力源の回転速度を無段階に変速して出力する無段変速機において、
前記入力プーリと前記出力プーリとの間に掛け渡されている前記巻掛動力伝達体を収装すると共に、前記溝幅の変更により移動する前記巻掛動力伝達体に、軸を支点として揺動するガイドレールを備え、
前記ガイドレールは、前記軸を把持する把持部が形成され、前記把持部と前記軸との嵌合が、前記無段変速機の減速比が大きいほどきつくなることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記軸は、略楕円形状を有し、
前記把持部は、前記減速比が大きいときに、前記略楕円形状の長半径を把持することを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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