説明

無水アダマンチルコハク酸

【課題】樹脂原料化合物として利用しうる無水アダマンチルコハク酸、及び該無水アダマンチルコハク酸を安価な原料を用いて製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表される無水アダマンチルコハク酸である。


[式中、Rは、メチル基、カルボキシル基、またはハロゲン原子を示す。mは2〜4の整数であり、nは0〜3の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無水アダマンチルコハク酸、及び該無水アダマンチルコハク酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式炭化水素のアダマンタンは、ダイヤモンド構造単位と同じ構造を持つ、対称性の高いカゴ型化合物として知られている。化学的には、(1)分子の歪みエネルギーが少なく、熱安定性に優れ、(2)炭素密度が大きいため脂溶性が大きく、(3)昇華性があるにもかかわらず、臭いが少ないなどの特徴を有しており、1980年代からは医薬品分野においてパーキンソン氏病治療薬やインフルエンザ治療薬の原料として注目されていたが、近年アダマンタン誘導体の有する耐熱性や透明性などの特性が、半導体製造用フォトレジスト、磁気記録媒体、光ファイバー、光学レンズ、光ディスク基板原料などの光学材料や、耐熱性プラスティック、塗料、接着剤などの機能性材料、化粧品などの分野で注目され、その用途が増大しつつある。また、医薬分野においても抗癌剤、脳機能改善薬、神経性疾患治療薬及び抗ウイルス剤などの原料としての需要が増大してきている。
【0003】
近年、樹脂原料化合物に対する要求が、益々高度化、かつ多様化する中、このようなアダマンタン誘導体の特異な機能が注目されており、アダマンタン誘導体の樹脂原料化合物としての利用が活発に検討されている。例えば、アダマンタンジオールを用いたポリエステル、ポリカーボネートや、2,2−ビス(グリシジルオキシフェニル)アダマンタンを用いたエポキシ樹脂組成物や(例えば、特許文献1)、その高性能化を目的としたポリイミド樹脂への導入が検討されている(例えば、特許文献2)。しかし、上記のような要求に応えるためには、樹脂原料化合物として利用しうる新規な、かつ安価な原料から製造されるアダマンタン誘導体の開発が、より一層求められている。
【0004】
また、アダマンタンと無水マレイン酸との反応による1−アダマンチルコハク酸無水物の合成、及び脂環式構造の中で特に高性能化を実現するためにアダマンタン構造を導入することが報告されている(例えば、非特許文献1及び2)。しかし、非特許文献2にはアダマンチル基1個に対してサクシニル基が1個結合した構造を有したものが報告されるだけで、サクシニル基が2個以上結合した構造を有するアダマンタン誘導体は知られていなかった。近年の樹脂組成物への要求に対応するには、新規なアダマンタン誘導体を見出し、これを用いた樹脂の特性を検討することは極めて重要である。
【0005】
【特許文献1】特開平10−130371号公報
【特許文献2】特開2006−18153号公報
【非特許文献1】S.H.Hsiao et.al,J.Polym.Sci.,PartA,Polym.Chem.,37,1619,1999
【非特許文献2】Koushi Fukushi,Iwao Tabushi,Synthesis 826頁,Octber 1988年,Thieme Chemistry
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような状況から、樹脂原料化合物として利用しうる無水アダマンチルコハク酸、及び該無水アダマンチルコハク酸を安価な原料を用いて製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、アダマンチル基1個に対して複数個のサクシニル基を有する無水アダマンチルコハク酸が樹脂原料化合物として有用であることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、以下の無水アダマンチルコハク酸、及び該無水アダマンチルコハク酸の製造方法を提供するものである。
1. 下記一般式(I)で表される無水アダマンチルコハク酸。
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、Rは、メチル基、カルボキシル基、またはハロゲン原子を示す。mは2〜4の整数であり、nは0〜3の整数である。]
2. 上記一般式(I)において、m=2、かつn=0であり、下記化学式(II)で表される上記1に記載の無水アダマンチルコハク酸。
【0010】
【化2】

【0011】
3. ラジカル発生剤の存在下、アダマンタン類と無水マレイン酸とを、無水マレイン酸をアダマンタン類に対して0.3倍モル以上を添加して反応させることを特徴とする上記1又は2に記載の無水アダマンチルコハク酸の製造方法。
4. 上記1又は2に記載の無水アダマンチルコハク酸を用いてなるエポキシ樹脂硬化剤。
5. 上記1又は2に記載の無水アダマンチルコハク酸を用いてなるポリイミド樹脂。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無水アダマンチルコハク酸は、樹脂原料化合物として有用であり、また、本発明の無水アダマンチルコハク酸の製造方法によれば、安価な原料を用いて無水アダマンチルコハク酸を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[無水アダマンチルコハク酸]
本発明の無水アダマンチルコハク酸は、アダマンチル基にサクシニル基が結合した構造を有する、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0014】
【化3】

【0015】
上記一般式(I)において、Rはメチル基、カルボキシル基、又はハロゲン原子を示す。mは2〜4の整数を示し、nは0〜3の整数を示す。中でも、原料の入手が容易であり、高分子量かつ高強度・高耐熱性を有するエポキシ樹脂やポリイミド樹脂を得る観点から、m=2、かつn=0である下記化学式(II)で表される化合物が好ましい。
【0016】
【化4】

【0017】
[無水アダマンチルコハク酸の製造方法]
本発明の無水アダマンチルコハク酸は、ラジカル発生剤の存在下、アダマンタン類と無水マレイン酸とを、無水マレイン酸をアダマンタン類に対して0.3倍モル以上を添加して反応させることで得ることができる。
本発明の無水アダマンチルコハク酸の製造方法において、無水マレイン酸はアダマンタン類に対して0.3倍モル以上であることを要し、0.3〜2.0倍モルが好ましく、0.35〜1.6倍モルがより好ましい。無水マレイン酸の使用量が、この範囲内にあれば、無水アダマンチルコハク酸を高効率で得ることができ、無水マレイン酸が有効に反応に消費されるので、安価に無水アダマンチルコハク酸を得ることができる。
【0018】
本発明の無水アダマンチルコハク酸の原料であるアダマンタン類としては、アダマンタン、ジメチルアダマンタン、メチルアダマンタン、クロロアダマンタン、ジクロロアダマンタン、ブロモアダマンタン、ジブロモアダマンタン、アダマンタンカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、入手の容易さと安価であることから、アダマンタンが好ましい。
【0019】
また、ラジカル発生剤としては、過酸化物系ラジカル開始剤(例えば、tert−ブトキシパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、メチルエチルケトンパーオキシド)、アゾ系ラジカル開始剤(例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸メチル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等が挙げられる。製造効率の観点から、ラジカル発生剤は、アダマンタン類に対して、0.05〜20質量%を添加するのが好ましく、0.1〜10質量%を添加するのがより好ましい。また、必要に応じて、高圧水銀灯やUV(紫外線)ランプで照射すると反応が促進される。
【0020】
本発明にかかるアダマンタン類と無水マレイン酸との反応は、無溶媒又は溶媒中で行われる。用いられうる溶媒としては、ハロゲン化炭化水素類(例えば四塩化炭素、クロロホルム,ジクロロエタン)、芳香族類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン)、ケトン類(例えばアセトン,メチルエチルケトン)、エーテル類(例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、モノグライム)、アルコール類(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、エチレングリコール)及び非プロトン性極性溶媒(例えばジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル)、カルボン酸類(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸)及び水等が挙げられる。通常、当該反応は、無溶剤又はハロゲン化炭化水素類の溶媒中で行われる。
溶媒の使用量は、アダマンタン類と無水マレイン酸との混合物の濃度が0.5質量%以上、好ましくは5質量%以上となる量である。このとき、該混合物は懸濁状態でもよいが、溶解していることが好ましい。
【0021】
反応温度は、アダマンタン類と無水マレイン酸との反応モル比、使用する溶媒の種類や使用量、用いるラジカル発生剤の種類や使用量によって異なり、一概に定まらないが、通常100〜200℃程度で行われる。実際には、例えば、無溶媒の場合、原料となるアダマンタン類と無水マレイン酸との混合物が溶解し、攪拌できる温度や、ラジカル発生剤の10時間半減期の温度付近で反応させることが好ましい。溶媒を用いる場合、室温から溶媒の還流する温度や用いるラジカル発生剤の10時間半減期の温度付近が好ましい。反応温度がこの範囲内にあれば、反応速度が低下することなく、副生成物の生成が抑制される。
また、反応時間は通常1〜30時間であり、3〜20時間がより好ましい。反応時間がこの範囲内にあれば、未反応の原料を少なく抑えることができるので、収率が向上し、製造効率を向上させることができる。
このようにして得られたアダマンタン類と無水マレイン酸との反応生成物は、蒸留、晶析、カラム分離等により精製することができ、精製方法は反応生成物の性状と不純物の種類により適宜選択することができる。
【0022】
[エポキシ樹脂硬化剤]
本発明の無水アダマンチルコハク酸は、サクシニル基を有する酸無水物系の化合物であり、酸無水物系のエポキシ樹脂硬化剤として好適に用いることができる。また、エポキシ硬化反応により得られるエポキシ樹脂の用途に応じて、エポキシ樹脂硬化剤として本発明の無水アダマンチルコハク酸を単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。本発明の無水アダマンチルコハク酸と組み合わせて使用できるエポキシ樹脂硬化剤としては、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、及びアミン系硬化剤を挙げることができる。
酸無水物系のエポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。
【0023】
また、酸無水物系のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合は、硬化を促進させる目的で、硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤は、エポキシ樹脂とその硬化剤との反応の促進に用いられる物質であれば、特に限定されない。硬化促進剤としては、例えば、リン化合物、3級アミン類、イミダゾール類、オクチル酸塩、4級アンモニウム塩、有機金属塩類、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0024】
フェノール系のエポキシ樹脂硬化剤としては、例えばフェノール/ノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、トリアジン変性フェノールノボラック樹脂などが挙げられる。アミン系のエポキシ樹脂硬化剤としては、例えばジシアンジアミドや、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて、本発明の無水アダマンチルコハク酸と併用することができる。
本発明の無水アダマンチルコハク酸と併用するエポキシ樹脂硬化剤としては、得られる硬化樹脂の透明性などの物性の点から、酸無水物系のエポキシ樹脂硬化剤が好適であり、中でも、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルテトラヒドロ無水フタル酸が最適である。
硬化促進剤の含有率は、得られるエポキシ樹脂100質量部に対して、0.01〜8.0質量部であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜3.0質量部である。硬化促進剤の含有率を上記範囲とすることにより、充分な硬化促進効果を得られ、また、得られる硬化物に変色が見られない。
【0025】
得られるエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との配合割合は、グリシジル基と反応する硬化剤の官能基の比率で決定する。通常は、グリシジル基1当量に対して、対応するエポキシ樹脂硬化剤の官能基が0.5〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.2当量となる割合である。得られるエポキシ樹脂と硬化剤との配合割合を上記範囲とすることにより、硬化の反応速度が遅くなることや、その硬化樹脂のガラス転移温度が低くなることがなく、また、耐湿性の低下もないので好適である。
【0026】
また、本発明の無水アダマンチルコハク酸をエポキシ樹脂硬化剤として用いて得られるエポキシ樹脂には、必要に応じて、従来から用いられている、例えば、劣化防止剤、変性剤、シランカップリング剤、脱泡剤、無機粉末、溶剤、レベリング剤、離型剤、染料、顔料などの、公知の各種の添加剤を適宜配合してもよい。
【0027】
[ポリイミド樹脂]
本発明のポリイミド樹脂は、耐熱性及び透明性に優れ、本発明の無水アダマンチルコハク酸を原料として得られる樹脂であり、該無水アダマンチルコハク酸は、ポリイミド樹脂の用途に応じて、単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。本発明の無水アダマンチルコハク酸は、脂環状構造であるアダマンチル基1個に対してサクシニル基を2個以上有するため、高分子量のポリイミド樹脂が生成するので、耐熱性及び透明性に優れるポリイミド樹脂を得ることができる。より具体的には、本発明のポリイミド樹脂は、溶媒中においてテトラカルボン酸無水物としての本発明の無水アダマンチルコハク酸と有機ジアミンとの縮合反応により得られる。この場合の反応条件は特に制限はないが、本発明の無水アダマンチルコハク酸は、有機ジアミンのアミノ基1当量に対してアダマンチル基に結合したコハク酸が1当量となるように加えて反応させるのが好ましい。反応温度は0〜50℃、反応圧力は常圧又は加圧状態のいずれでもよく、反応時間は通常0.5〜5時間程度である。
【0028】
有機ジアミンとしては、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,4−ジアミノ−2−メチルベンゼン、1,4−ジアミノ−2−クロロベンゼン、1,4−ジアミノ−2,5−ジメチルベンゼン、1,4−ジアミノ−2,5−ジクロロベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニル等が挙げられる。
【0029】
反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−アルキルカプロラクタム、フェノール類等の極性溶媒を好ましく挙げることができる。また、上記の溶媒の他に、希釈剤を用いてもよい。希釈剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルのほか、N−ジアルキルアミド類が挙げられる。また、本発明のポリイミド樹脂を得る反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0030】
本発明のポリイミド樹脂は、従来のポリイミド樹脂と同様に耐熱性、機械的強度、難燃性を有するので、耐熱プリント基板、電線エナメル等の電気・電子機器部品、機械部品、高強度繊維等の産業用資材等に用いられるほか、宇宙航空機分野でも好適に用いられる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
実施例1(アダマンチルジサクシネート(化学式(II))の合成)
200mlのフラスコにアダマンタン11.08g(82.6mmol)、無水マレイン酸3.12g(31.2mmol)、クロロベンゼン100ml、ジ−tert−ブチルパーオキシド0.504gを入れ撹拌しながら135〜140℃で加熱した。8時間後、加熱を止め、冷却後反応物をヘキサン1000mlに注いだ。析出物を濾取し50℃に減圧で乾燥した。反応生成物の収量は、2.70gであった。この反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、化学式(II)の構造を有するアダマンチルジサクシネートが61%、アダマンチルモノサクシネートが26%、残りはアダマンチルサクシネートのオリゴマーが生成していることが分った。この反応生成物1.0gをアセトン20mlに溶解し、ヘキサン1000mlに加えて析出物を濾取し、50℃で減圧乾燥した。生成物の収量は0.63gであり、ガスクロマトグラフィーの測定により化学式(II)で表されるアダマンチルジサクシネートが86%、残りはアダマンチルモノサクシネートであることが分った。得られた生成物を、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)及びGC−MSにより同定した。核磁気共鳴スペクトルは、溶媒としてクロロホルム−d6を用いて、日本電子株式会社製のJNM−ECA500により測定した。また、GC−MSは、株式会社島津製作所製のGCMS−QP2010により測定した。測定した結果は以下の通りである。
1H-NMR(500MHz):1.62(m,6H),1.82(s,6H),1.94(s,3H),2.61(m,2H),2.78(m,2H),3.15(m,2H),3.15(s,1H),3.92(m,2H),4.42(m,2H)
13C-NMR(125MHz):28.6,36.2,36.6,39.9,44.6,49.2,62.2,65.1,65.4,67.2
GC-MS(EI):350(1.2%),277(3.9%),249(6.7%),174(10.1%),135(100.0%),107(6.1%),93(11.3%),79(13.0%)
【0033】
実施例2
200mlのフラスコにジメチルアダマンタン6.68g(41.3mmol)、無水マレイン酸6.24g(62.4mmol)、クロロベンゼン100ml、ジ−tert−ブチルパーオキシド0.504gを入れ撹拌しながら140℃で加熱した。8時間後、加熱を止め、冷却後反応溶液をヘキサン1000mlに注いだ。析出物を濾取し50℃に減圧で乾燥した。反応生成物の収量は、5.34gであった。この反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析したところ一般式(I)で表される1,3−ジメチル−2,4−ジサクシニル−アダマンタンが71%であり、1,3−ジメチル−4−サクシニルアダマンタンが29%であることが分った。
【0034】
実施例3
200mlのフラスコにアダマンタン11.08g(82.6mmol)、無水マレイン酸3.12g(31.2mmol)、クロロベンゼン50ml、ジ−tert−ブチルパーオキシド0.504gを入れ撹拌しながら140℃で加熱した。8時間後、加熱を止め、冷却後反応物をヘキサン1000mlに注いだ。析出物を濾取し50℃に減圧で乾燥した。反応生成物の収量は、2.51gであった。この反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析したところ化学式(II)の構造を有するアダマンチルジサクシネートが71%生成しており、残りはアダマンタンにサクシネート基が3個以上結合した構造を有するアダマンチルトリサクシネートであることが分った。この生成物1.0gをアセトン10mlに溶解しヘキサン1000mlに加えて析出物を濾取し、50℃で減圧乾燥した。生成物の収量は、0.80gであり、ガスクロマトグラフィーの測定により化学式(II)で表されるアダマンチルジサクシネートが75%、残りはアダマンチルトリサクシネートであることが分った。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の無水アダマンチルコハク酸は、樹脂原料化合物として有用であり、また、本発明の無水アダマンチルコハク酸の製造方法によれば、安価な原料を用いて無水アダマンチルコハク酸を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される無水アダマンチルコハク酸。
【化1】

[式中、Rは、メチル基、カルボキシル基、またはハロゲン原子を示す。mは2〜4の整数であり、nは0〜3の整数である。]
【請求項2】
上記一般式(I)において、m=2、かつn=0であり、下記化学式(II)で表される請求項1に記載の無水アダマンチルコハク酸。
【化2】

【請求項3】
ラジカル発生剤の存在下、アダマンタン類と無水マレイン酸とを、無水マレイン酸をアダマンタン類に対して0.3倍モル以上を添加して反応させることを特徴とする請求項1又は2に記載の無水アダマンチルコハク酸の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の無水アダマンチルコハク酸を用いてなるエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の無水アダマンチルコハク酸を用いてなるポリイミド樹脂。

【公開番号】特開2008−120697(P2008−120697A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303196(P2006−303196)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】