説明

無線システム

【課題】複数の進行方向ライン上の電界強度を短時間に測定できるようにした無線システムを提供する。
【解決手段】移動体4に異なる進行方向ライン1A,1B,1C上を移動するように複数台の移動局無線装置5A,5B,5Cを搭載し、測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの区間で、基地局無線装置2から送信したフレームチャネル信号6を受信したとき、移動局無線装置5A,5B,5Cはアクチべーションチャネル信号7のそれぞれ異なるアクチべーションチャネルA1,A2,A3を用いて基地局無線装置2に応答し、基地局無線装置2の応答信号処理部12ではこの応答信号を受信したとき電界強度を測定し、位置データ処理部で演算した位置データと測定した電界強度データとを関連付けて、アクチべーションチャネルA1,A2,A3毎に記憶部14に保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上側に設置する基地局無線装置と、測定車両に搭載した移動局無線装置との間で時分割通信を行いながら電界強度の測定を行う際に使用する無線システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の安全性や輸送効率の向上、快適性の向上を目指したサービスを実現するために、道路と車両とを一体化したシステムとした走行支援道路交通システム(AHS)や将来のインターネット接続を目標としたスマートゲートウェイシステム(SGW)に使用される狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication)システムの開発が進められている。この無線システムは、路上に設置されて無線により通信を行う基地局無線装置と、車両である移動体に搭載した移動局無線装置との間で行なう無線通信を利用しており、様々なサービスの実現が期待されている。このようなシステムでは、基地局無線装置を設置する場合、または保守点検時に、通信領域が正しい電界強度を有しているかを把握するために電界強度測定試験を実施する必要がある。
【0003】
従来の電界強度測定試験を実施する無線システムは、基地局無線装置を設置した走行路上を走行する移動体に1台の移動局無線装置を搭載した構成であり、電界強度測定試験を行う場合、基地局無線装置と移動局無線装置との間で時分割無線通信を行いながら移動体を走行させ、基地局無線装置からのフレームチャネル信号を移動局無線装置が受信したとき、移動局無線装置に設けた電界強度測定部で電界強度を測定し、測定した受信電界強度データをアクチベーションチャネルを用いて基地局無線装置に送信するようにしている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−164876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の無線システムでは、走行路の定められた計測開始位置と計測終了位置間で移動体を走行させながら電界強度測定試験を行う場合、移動体に搭載した移動局無線装置の進行方向ラインに対応する電界分布データのみしか取得するすることができなかった。そのため、異なる複数の進行方向ラインにおける電界分布データを取得する場合には、計測開始位置と計測終了位置間で進行方向ラインが異なるように移動体を複数回走行させて、その都度、それぞれの進行方向ラインにおける電界強度の測定を行なわなければならず、多くの労力と時間が必要であった。
【0006】
本発明の目的は、複数の進行方向ラインの電界強度を短時間で測定できるようにした無線システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、無線により通信を行う基地局無線装置と、移動体に搭載されて上記基地局無線装置と無線により通信を行う移動局無線装置からなる無線システムにおいて、上記移動体のそれぞれ異なる進行方向ラインとなる位置に複数台の移動局無線装置を搭載し、上記基地局無線装置は、上記移動体が所定の位置に到達するとき上記複数の移動局無線装置に対して要求信号を送信する送信部と、上記要求信号に応答した上記複数の移動局無線装置からの応答信号を受信する受信部と、この受信部によって受信した応答信号の各電界強度を測定する応答信号処理部と、この応答信号処理部で測定した各電界強度データと上記応答信号を送信してきた位置データとを関連付ける位置データ処理部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による無線システムによれば、移動体のそれぞれ異なる進行方向ラインとなる位置に複数台の移動局無線装置を搭載しており、各移動局無線装置が基地局無線装置からの要求信号に対して応答信号を送信すると、基地局無線装置は応答信号処理部で応答信号の電界強度を測定し、また位置データ処理部では応答信号処理部で測定した電界強度データに位置データを関連付けるため、その後、進行方向ライン毎に、電界強度データと位置データを取りだすことができるようになる。このため、移動体による測定開始位置から測定終了位置までの1回の走行だけで、複数の移動局無線装置に対応する複数の進行方向ライン毎の電界強度データを一括して取得することができ、従来のように移動体に1台のみの移動局無線装置を搭載して各進行方向ライン毎に移動体を繰り返し走行して電界強度データを取得する場合に比べて、短時間に測定を完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明の一実施の形態による無線システムを示す平面図である。
【図2】図2は図1に示した無線システムの側面図である。
【図3】図3は図1に示した基地局無線装置を示すブロック構成図である。
【図4】図4は図1に示した移動局無線装置を示すブロック構成図である。
【図5】図5は図1に示した無線システムにおける通信フレームの説明図である。
【図6】図6は図1に示した無線システムにより取得した電界強度分布曲線の例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
図1および図2は、本発明の一実施の形態による無線通信システムの構成を示す平面図および側面図である。
走行路1の路側にはDSRC方式の基地局無線装置2が設置され、そのアンテナ3は走行路1上に位置している。また走行路1を走行する測定車両である移動体4には、基地局無線装置3との間で無線通信を行う複数台の移動局無線装置5A,5B,5Cが搭載されている。ここでは、各移動局無線装置5A,5B,5Cは、移動体4が走行路1を走行するとき、それぞれ異なる進行方向ライン1A,1B,1C上を走行するように移動体4内に、その走行方向に対して直交する方向に3台の移動局無線装置5A,5B,5Cを並置している。基地局無線装置2からは連続的に複数回の要求信号であるフレームチャネル信号6が移動体4側に送信され、このフレームチャネル信号6を受信した移動体4側からは応答信号であるアクチべーションチャネル信号7が基地局無線装置2へ送信される。
【0011】
図3は、基地局無線装置2の概略構成を示すブロック図である。
基地局無線装置2は、各移動局無線装置5A,5B,5Cとの間で時分割で双方向無線通信を行うアンテナ3と、連続的に複数回の要求信号を移動体4側に送信する処理を行う要求信号処理部9と、この要求信号処理部9からの要求信号をアンテナ3を通して無線で移動体4側に送信する送信部10と、基地局無線装置2からの要求信号に対して移動体4側からの応答信号を受信する受信部11と、応答信号であるアクチべーションチャネル信号7を受信したときに電界強度を測定する応答信号処理部12と、要求信号を送信する頻度、図1に示した測定開始位置8Aのデータおよび受信した応答信号が何回目の要求信号に対応するものかなどの各データから移動体4の位置データを演算する位置データ処理部13と、応答信号処理部12からの応答信号毎に測定した電界強度データと位置データ処理部13で応答信号毎に演算した位置データとを関連付けて記憶する記憶部14と、基地局の検査者が操作して後述する電界分布特性曲線などを表示可能な操作表示部15と、これら各部を制御する制御部16とを有している。
【0012】
図4は、移動体1内に構成した移動局無線装置5Aの概略構成を示すブロック図である。
移動局無線装置5Aは、基地局無線装置2と移動局無線装置5Aとの間で無線信号を送受信するためのアンテナ17と、送受信を切り替えるための切替スイッチ18と、基地局無線装置2からの要求信号であるフレームチャネル信号6を受信する受信部19と、この受信部19を通して要求信号を処理する要求信号処理部20と、移動局無線装置5A自身の個別ID等を記憶するための記憶部21と、移動体4の検査者が所定の情報を表示したりするときに使用する操作表示部22と、要求信号処理部20で受信した要求信号に対して応答信号を処理する応答信号処理部23と、この応答信号処理部23からの応答信号を切替スイッチ18およびアンテナ17を通して送信する送信部24と、これらの各部を制御プログラムに従って制御する制御部25とを有している。他の移動局無線装置5B,5Cは、移動局無線装置5Aと同一構成であるから、ここでの説明は省略する。
【0013】
図5は、通信フレームの説明図である。
基地局無線装置2は時分割無線通信で連続的にフレームチャネル信号6を送信しており、移動体4に搭載した各移動局無線装置5A,5B,5Cは、このフレームチャネル信号6を受信したとき、その応答信号としてアクチべーションチャネル信号7を基地局無線装置2に送信するようにしている。
【0014】
フレームチャネル信号6は、移動局無線装置5A,5B,5Cとの間の通信に必要な制御情報等を含んでいる。またアクチべーションチャネル信号7には、基地局無線装置2との間の通信に必要な制御情報や、各移動局無線装置5A,5B,5Cの各個別ID等を含んでいる。このアクチべーションチャネル信号7は、同図に示すようにチャネル数がA1〜A6の6つであり、各移動局無線装置5A,5B,5Cはそれらの特定の箇所のアクチべーションチャネルA1,A2,A3を予め指定している。ここでは、移動局無線装置5Aに対してはアクチべーションチャネルA1を、また移動局無線装置5Bに対してはアクチべーションチャネルA2を、さらに移動局無線装置5Cに対してはアクチべーションチャネルA3をそれぞれ指定している。
【0015】
今、移動体4が図1に示した測定開始位置8Aに達すると、電界強度測定処理を開始する。基地局無線装置2からのフレームチャネル信号6を受信した移動局無線装置5Aは、予め定められていたアクチベーションチャネルA1を使用し、送信部24からアンテナ17を通してアクチベーションチャネル信号7として応答信号を送り返す。また、移動局無線装置5Bは、図5に示した予め定められていたアクチベーションチャネルA2を使用し、さらに移動局無線装置5Cは、図5に示した予め定められていたアクチベーションチャネルA3を使用して所定の応答信号を送信する。基地局無線装置2は、測定開始位置8Aから測定終了位置8Bに達するまで、複数回のフレームチャネル信号6を連続的に送信する。これに応じて移動局無線装置5A,5B,5Cは、測定終了位置8Bに達するまで同様にアクチベーションチャネルA1,A2,A3を使用してアクチベーションチャネル信号7を応答信号として基地局無線装置2へ送信する。
【0016】
基地局無線装置2は、移動体4からの応答信号に応じて電界強度測定処理を開始し、移動体4が測定終了位置8Bに達するまで連続的に電界強度測定を実施する。先ず、電界強度測定中に基地局無線装置2が移動局無線装置5A〜5Cからのアクチベーションチャネル信号7である応答信号を受信すると、応答信号処理部12ではこの受信した応答信号の電界強度を測定し、この測定した電界強度データと、位置データ処理部13で同じ応答信号を送信してきたときの移動体4の位置を演算した位置データとを関連付け、どの移動局無線装置5A〜5Cからの応答信号かを特定するアクチベーションチャネルA1,A2,A3毎に記憶部14に保存する。このとき、移動体4がアクチベーションチャネル信号7を送信してきた位置は、基地局無線装置2が移動体4に対してアクチベーションチャネル信号7を送信するように要求するフレームチャネル信号6である要求信号と、移動体4が当該要求信号に応答したときのアクチベーションチャネル信号7が関連付けられているため、上述したように予め定められているフレームチャネル信号6の出す頻度、測定開始位置8A、受信したアクチベーションチャネル信号7などを用いて位置データ処理部13で演算することが可能である。この基地局無線装置2での電界強度測定と記憶処理は、移動体4が測定開始位置8Aから測定終了位置8Bに達するまで連続して行う。
【0017】
こうして、移動体4が測定開始位置8Aから測定終了位置8Bに達し、基地局無線装置2での電界強度測定と記憶処理が完了すると、基地局無線装置2の記憶部14には、アクチベーションチャネルA1,A2,A3毎に、測定した電界強度データと、位置データ処理部13で演算した位置データが関連付けられて、測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの全測定範囲にわたって保持される。
【0018】
その後、基地局無線装置2の検査者が移動局無線装置5Aによって取得した進行方向ライン1Aの電界分布を観察する場合、操作表示部15を操作して記憶部14内に格納したもののうち、アクチべーションチャネルA1を抽出する。その後、例えば図6に示すように、縦軸に電界強度を示し、横軸に矢印の移動体4の進行方向における距離を示し、アクチべーションチャネルA1に関連付けた位置データと電界強度データをプロットし、進行方向ライン1A上の測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの通信範囲内の電界分布特性曲線26とすることができる。検査者は、この電界分布特性曲線26を表示部に表示させて、進行方向ライン1Aの電界分布を観察することができる。
【0019】
また、基地局無線装置2の検査者が移動局無線装置5Bによって取得した進行方向ライン1Bの電界分布を観察する場合、操作表示部15を操作して記憶部14内に格納したもののうち、アクチべーションチャネルA2を抽出する。その後、上述した場合と同様にして進行方向ライン1B上の測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの通信範囲内の電界分布特性曲線とすることができる。
【0020】
同様に、DSRC基地局無線装置2の検査者が移動局無線装置5Cによって取得した進行方向ライン1Cの電界分布を観察する場合も、操作表示部15を操作して記憶部14内に格納したもののうち、アクチべーションチャネルA3を抽出し、その後、上述した場合と同様にして進行方向ライン1C上の測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの通信範囲内の電界分布特性曲線とすることができる。
【0021】
上述したように本発明の無線システムは、走行路1上を走行する移動体4に、その走行時におけるそれぞれ異なる進行方向ライン1A,1B,1C上に位置すると共に、基地局無線装置2からのフレームチャネル信号6を受信したときにアクチべーションチャネル信号7を応答信号として返信する複数台の移動局無線装置5A,5B,5Cを搭載し、各移動局無線装置5A,5B,5Cは、予め定めたそれぞれ異なるアクチべーションチャネルA1,A2,A3を用いて各アクチべーションチャネル信号7を送信するようにし、一方、基地局無線装置2は各アクチべーションチャネル信号7の電界強度を測定し、その測定データを位置データと関連付けて記憶部14に格納するようにしたため、基地局無線装置2では、所望のアクチべーションチャネルのみを抽出することができるので、その電界強度データと位置データを使用して測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの電界強度分布曲線を容易に得ることができる。
【0022】
このような構成の無線システムによれば、複数台の移動局無線装置5A,5B,5Cを使用しながらも、移動局無線装置5A,5B,5C側には電界強度測定手段を設けず、基地局無線装置2側で移動局無線装置5A,5B,5Cからの応答信号から電界強度を測定するようにしているため、無線システム全体としても構成も簡略化することができる。
【0023】
しかも、移動体4は、測定開始位置8Aから測定終了位置8Bまでの一回だけの走行で複数の進行方向ライン1A,1B,1Cの電界強度分布を把握することができる。従って、従来のように移動体4に1台のみの移動局無線装置を搭載し、複数の進行方向ライン1A,1B,1C毎に測定車両4を走行してそれぞれ電界分布データを取得する方法に比べて、電界分布取得に要する時間を大幅に短縮することができる。このため、受信電界強度を測定するために長時間にわたって走行路1を占有できない場合、しかも、複数の進行方向ラインに対応する受信電界強度を得ようとする場合に、非常に有効な電界強度測定試験方法となる。
【0024】
上述した実施の形態では、移動局無線装置5AはアクチべーションチャネルA1を、また移動局無線装置5BはアクチべーションチャネルA2を、さらに移動局無線装置5CはアクチべーションチャネルA3を使用するように予め指定したが、アクチべーションチャネルA1〜A6のうちどのチャネルを用いても良い。また上述した実施の形態では、各移動局無線装置5A,5B,5Cが使用するアクチべーションチャネルA1,A2,A3を予め指定しているが、空いているアクチべーションチャネルA1〜A6のいずれかをその都度使用して応答信号を送信しても良い。また、これらの変更に合わせて、どの進行方向ライン1A〜1Cに対応する移動局無線装置5A〜5Cからの応答信号かを特定するために個別IDや他の方法を用いても良い。さらに、進行方向ライン1A〜1Cおよび移動局無線装置5A〜5Cの数を上述した実施の形態の場合の3個に限らず決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、図3および図4に示した基地局無線装置および移動局無線装置の構成に限らず、他の構成のものにも適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 走行路
1A〜1C 進行方向ライン
2 基地局無線装置
3 アンテナ
4 移動体
5A〜5C 移動局無線装置
6 フレームチャネル信号
7 アクチべーションチャネル信号
8A 測定開始位置
8B 測定終了位置
9 要求信号処理部
10 送信部
11 受信部
12 応答信号処理部
13 位置データ処理部
14 記憶部
15 操作表示部
16 制御部
17 アンテナ
18 切替スイッチ
19 受信部
20 受信信号処理部
21 記憶部
22 操作表示部
23 送信信号処理部
24 送信部
25 制御部
26 電界強度分布曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線により通信を行う基地局無線装置と、移動体に搭載されて上記基地局無線装置と無線により通信を行う移動局無線装置からなる無線システムにおいて、上記移動体のそれぞれ異なる位置に複数台の移動局無線装置を搭載し、上記基地局無線装置は、上記移動体が所定の位置に到達するとき上記複数の移動局無線装置に対して要求信号を送信する送信部と、上記要求信号に応答した上記複数の移動局無線装置からの応答信号を受信する受信部と、この受信部によって受信した応答信号の各電界強度を測定する応答信号処理部と、この応答信号処理部で測定した各電界強度データと上記応答信号を送信してきた位置データとを関連付ける位置データ処理部とを有することを特徴とする無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−130080(P2011−130080A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285229(P2009−285229)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】