説明

無線センサ装置

【課題】 無線センサ装置の特性ばらつきを考慮しつつ、検出値から計測値への変換処理を行う。
【解決手段】 少なくとも一つのセンサ101と、センサ101の検出値Sを近似式に代入することによって計測値Sに変換する信号処理部190と、計測値Sを無線により送出するための送信回路部141とを備える。信号処理部190は、センサ101の特性を記憶するフラグ131〜133を参照し、これに応じて異なる近似式を用いた変換を行う。本発明によれば、センサ101の特性に応じて異なる近似式を用いた変換を行うことにより、計測値Sを算出していることから、湿度センサのようにばらつきの大きいセンサを使用する場合であっても、高精度な計測を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線センサ装置に関し、特に、検出値から計測値への変換処理を行う無線センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、温度や湿度等を計測するセンサと無線送信部を一体化した無線センサ装置が知られている(特許文献1参照)。無線センサ装置は、センサ本体と温度や湿度等の計測値を利用する機器(以下、「利用機器」という)とを空間的に離間させることができるため、複数の場所にそれぞれ無線センサ装置を配置して、得られる計測値を集中管理したり、無線センサ装置を移動・携帯することができるなど、多様な形態での利用が可能となる。しかしながら、多くのセンサは、計測対象である温度や湿度等の変化に対してその検出値(電圧レベル等)の変化が直線的でないことから、センサの検出値から実際に温度や湿度等の計測値を得るためには、何らかの方法で変換を行う必要がある。この場合、無線センサ装置のように、利用機器とセンサとが空間的に離間しているケースでは、この変換処理に関して種々の問題が生じる。
【0003】
まず、検出値から計測値への変換処理を無線センサ装置側ではなく利用機器側で行うことが考えられるが、上述の通り、無線センサ装置は一つの利用機器に対して複数個用いられることがあるため、この場合、利用機器側における処理負担が過大となるおそれがある。
【0004】
一方、検出値から計測値への変換処理を無線センサ装置側で行う場合、無線センサ装置内に変換テーブルを設けることによって変換処理を行うことが考えられるが、無線センサ装置に複数のセンサが内蔵されている場合にはセンサごとに変換テーブルを用意しなければならず、また、センサの計測範囲が広い場合には各テーブルのサイズもこれに比例して大きくなってしまう。無線センサ装置は、その特性上小型であることが非常に重要であることから、CPU(Central Processing Unit)とメモリ領域(ROM(Read Only Memory)領域及びRAM(Random Access Memory)領域)がワンチップ化された所謂マイコンチップを用いることが好ましいと考えられるが、この場合、変換テーブルを格納するROM領域の容量については大きく制限され、サイズの大きな変換テーブルを格納することができないといったケースも生じる。
【0005】
以上を考慮すれば、検出値から計測値への変換処理は、無線センサ装置内のCPUを用いて演算により行うことが好ましいと考えられる。しかしながら、一般的な演算方法を用いた場合、CPUの処理負担が過大となるおそれがあり、また、変換処理を行うためのプログラムが複雑でその開発に手間がかかるという問題があった。例えば、温度センサとしてサーミスタを用いた場合、25℃でのサーミスタの抵抗値をR25とすると、温度Xでのサーミスタの抵抗値Rxは、
【0006】
【数1】

によって表される。Bは定数である。つまり、温度(X)とサーミスタの抵抗値(Rx)との関係は対数関数的であり、その演算を行うCPUの処理負担が重いばかりでなく、これを演算するためのプログラム自体も大きくなってしまう。
【0007】
CPUによるこのような変換処理を比較的簡単に行う方法としては、最小二乗近似多項式などの近似式を用いた演算方法が知られている(特許文献2参照)。最小二乗近似多項式を用いた演算は、単純な四則演算の繰り返しであることからCPUの処理負担が軽く、また、演算に必要なプログラム等も比較的小さく且つ単純であるという利点がある。
【特許文献1】特公平8−6955号公報
【特許文献2】特開平6−101899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、センサにはある程度の特性ばらつきが不可避的に存在するため、同じ部品を使用して同じ工程で製造した場合であっても、測定対象となる物理量(温度、湿度など)と実際の検出値との関係は、製品によって多少異なってしまう。このようなばらつきは湿度センサにおいて顕著であり、特に、湿度が高い領域においては、製品によってかなり大きなばらつきが発生することになる。
【0009】
したがって、本発明は、製品による特性ばらつきを考慮しつつ、検出値から計測値への変換処理を行うことが可能な無線センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による無線センサ装置は、少なくとも一つのセンサと、前記センサの検出値を近似式に代入することによって計測値に変換する信号処理部と、前記計測値を無線により送出するための送信回路部とを備え、前記信号処理部は、前記センサの特性に応じて異なる近似式を用いた変換を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、センサの特性に応じて異なる近似式を用いた変換を行うことにより、計測値を算出していることから、湿度センサのようにばらつきの大きいセンサを使用する場合であっても、高精度な計測を行うことが可能となる。
【0012】
本発明において、信号処理部は、センサによる検出値をデジタル値に変換するA/Dコンバータと、センサの特性に応じた複数の近似式の演算にそれぞれ必要なデータを少なくとも格納するメモリと、少なくともA/Dコンバータの出力及びメモリに格納された前記データを用いた演算を行うCPUとを有していることが好ましい。また、メモリは、使用すべき近似式を指定するフラグ有していることが好ましい。フラグとしては、EPROMのように、電気的に書き込みが可能な不揮発性メモリを使用することが特に好ましい。
【0013】
本発明において使用するセンサは、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ及びトナーセンサからなる群より選ばれた少なくとも1種とすることができる。また、本発明による無線センサ装置は、少なくとも前記信号処理部及び前記送信回路部に電力を供給するバッテリをさらに備えることがさらに好ましい。無線センサ装置にバッテリを内蔵させれば、移動・携帯が可能であるという無線センサ装置の利点を十分に活かすことが可能となる。
【0014】
センサの数は複数であることが好ましく、この場合、複数のセンサのうち少なくとも2つのセンサの計測対象は、互いに異なっていても構わないし、互いに同一であっても構わない。これら2つのセンサの計測対象が互いに異なっていれば、複数の事象を同時に測定することが可能となるし、これら2つのセンサの計測対象が互いに同一であれば、一つの事象を異なる側面から測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、センサの特性に応じて異なる近似式を用いた変換を行うことにより、計測値を算出していることから、湿度センサのようにばらつきの大きいセンサを使用する場合であっても、高精度な計測を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい第1の実施形態による無線センサ装置100の構成を概略的に示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態による無線センサ装置100は、センサ101と、A/Dコンバータ110と、CPU(Central Processing Unit)120と、メモリ130と、送信回路部141と、アンテナ142と、バッテリ150とを備えて構成されている。この他、無線センサ装置100には、IDや初期値などをセットするための入力部が備えられているが、本発明の要旨とは直接関係がないことから、入力部の図示及びその説明は省略する。
【0018】
センサ101は、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ、トナーセンサ等から選ばれたセンサであり、図1に示すように、センサ素子101aとセンサ回路101bによって構成されている。センサ素子101aとは、例えば温度センサであればサーミスタ自体であり、センサ回路101bとは、例えばサーミスタの抵抗値を電圧変換する抵抗素子などである。
【0019】
A/Dコンバータ110は、センサ回路101bより得られる検出値Sをデジタル値である検出値S変換するため機能ブロックである。つまり、センサ回路101bより得られる検出値Sは、電圧値や電流値といったアナログ量であることから、これをデジタル処理するための前処理としてA/Dコンバータ110が必要となるのである。A/Dコンバータ110の分解能としては、無線センサ装置100の用途にもよるが、8ビット以上の分解能であることが好ましく、12ビット以上の分解等であることがより好ましい。
【0020】
CPU120は、無線センサ装置100の全体の動作を制御するとともに、A/Dコンバータ110より与えられるデジタル形式の検出値Sを受け、これを温度や湿度等の計測値Sに変換するための演算を行うための機能ブロックである。詳細については後述するが、かかる変換には最小二乗近似多項式を用いた演算が用いられる。特に限定されるものではないが、CPU120としては、スリープ機能(待機時における消費電力を大幅に抑える機能)を有しているものを用いることが好ましい。
【0021】
メモリ130は、CPU120による演算処理に必要なプログラムやデータを格納するための機能ブロックである。メモリ130は、ROM(Read Only Memory)領域及びRAM(Random Access Memory)領域が含まれていることが好ましく、この場合、ROM領域にはCPU120による演算処理に必要なプログラムや係数等のデータが格納され、RAM領域にはCPU120による演算処理に必要な作業データや、得られた計測値等が格納されることになる。
【0022】
メモリ130には、3つのフラグ131〜133が含まれている。フラグ131〜133としては、EPROMのように、電気的に書き込みが可能な不揮発性メモリを使用することが好ましい。不揮発性メモリを使用すれば、出荷時にフラグの書き込みを行うことにより、その後、ユーザはこれを意識する必要がなくなる。フラグ131〜133は、センサ101の特性を記憶させるために用いられ、そのいずれか一つがON状態、残りの2つがOFF状態とされる。フラグをONさせる具体的な手順については後述するが、フラグを用いてセンサ101の特性を記憶させる理由は次の通りである。
【0023】
すなわち、センサ101にはある程度の特性ばらつきが不可避的に存在するため、同じ部品を使用して同じ工程で製造した場合であっても、測定対象となる物理量(温度、湿度など)と検出値Sとの関係は、製品によって多少異なってしまう。このようなばらつきは、センサ101が湿度センサである場合に顕著であり、特に、湿度が高い領域においては、製品によってかなり大きなばらつきが発生することになる。図2はこれを説明するためのグラフであり、横軸が湿度を示し、縦軸が得られる検出値(検出値S又は検出値S)を示している。
【0024】
図2に示すように、同じ部品を使用し、同じ工程で製造したセンサであっても、湿度と検出値との関係はセンサによって異なり、湿度がゼロに近い領域ではばらつきは比較的小さいものの、湿度が高くなるに連れてばらつきは増大する。一般に、湿度センサに許容される誤差は、湿度領域にかかわらず一定値(例えば±5%)であり、このため、湿度の高い領域においては、このばらつきによって許容誤差を超えてしまうおそれがある。
【0025】
メモリ130に設けられたフラグ131〜133は、このようなばらつきの影響を低減するために設けられている。例えば、センサ101の実際の特性が図2に示す特性a1である場合にはフラグ131をオン状態とし、特性a2である場合にはフラグ132をオン状態とし、特性a3である場合にはフラグ133をオン状態とすることによって、センサ101の実際の特性を記憶させる。
【0026】
一方、メモリ130の他の領域には、3種類の最小二乗近似多項式(F1,F2,F3)の演算にそれぞれ必要なデータが格納されている。これら3種類の最小二乗近似多項式のうち、最小二乗近似多項式F1はセンサ101の実際の特性が図2に示す特性a1である場合に適合した式であり、最小二乗近似多項式F2はセンサ101の実際の特性が図2に示す特性a2である場合に適合した式であり、最小二乗近似多項式F3は、センサ101の実際の特性が図2に示す特性a3である場合に適合した式である。
【0027】
図3は、本実施形態による無線センサ装置100の動作を示すフローチャートである。
【0028】
図3に示すように、本実施形態による無線センサ装置100に対して電源投入、すなわちバッテリ150をセットし(ステップS1)、図示しない入力部を介して、無線センサ装置100のIDや信号処理部190に対する初期値などのセット(ステップS2)が完了すると、CPU120はまず、フラグ131〜133のうちオンしているフラグがあるか否かを判断する(ステップS3)。その結果、オンしているフラグが無ければ(ステップS3:NO)、フラグ選択動作を行い(ステップS4)、オンしているフラグがあれば(ステップS3:YES)、フラグ選択動作をスキップする。
【0029】
図4は、フラグ選択動作S4の一例を説明するためのフローチャートである。
【0030】
フラグ選択動作S4は、センサ101の実際の特性を計測し、これに基づいてフラグ131〜133のいずれかをオンさせる動作である。すなわち、あらかじめ定められた条件下(例えば、湿度80%の環境下)に無線センサ装置100を載置し、タイマーカウントを開始させる(ステップS11)。タイマーのカウント値については、センサ101の検出値Sが飽和するのに必要な時間以上であれば特に限定されず、1秒であっても構わないし、60秒や600秒であっても構わない。タイマーカウントがされている間、センサ101から検出値Sが信号処理部190へ入力され(ステップS12)、これがA/Dコンバータ110によってデジタル形式の検出値Sに変換される。
【0031】
そして、タイマーカウントが終了すると(ステップS13)、飽和している検出値Sの出力レベルに基づいて、フラグ131〜133のいずれかをオンする(ステップS14)。これは、あらかじめ定められた条件下における検出値Sの飽和出力レベルが、センサ101の実際の特性を示していることを利用したものである。以上により、フラグ選択動作S4が完了する。
【0032】
また、フラグ選択動作S4は、次の方法によって行うことも可能である。
【0033】
図5は、フラグ選択動作S4の他の例を説明するためのフローチャートである。
【0034】
まず、あらかじめ定められた条件下(例えば、湿度80%の環境下)に無線センサ装置100を載置し、センサ101を一定時間動作させる(ステップS21)。この一定時間についても、センサ101の検出値Sが飽和するのに必要な時間以上であれば、特に限定されない。タイマなどにより一定時間が経過したことが検出されると(ステップS21:YES)、センサ101より得られる検出値Sを取り込む。すなわち、実際の計測を行う(ステップS22)。そして、得られた検出値Sと所定値A1,A2との大小関係を判断する。つまり、検出値Sと所定値A1,A2との関係が下記(1)〜(3)のいずれの条件を満たしているかを判断する(ステップS23,S24)。
A1≧S ・・・(1)
A2>S>A1 ・・・(2)
≧A2 ・・・(3)
【0035】
所定値A1とは、図2に示したように、あらかじめ定められた条件下(例えば、湿度80%の環境下)でセンサ101を一定時間動作させた場合、センサ101が特性a1である場合に得られる値と特性a2である場合に得られる値の中間値であり、同様に、所定値A2とは、上記の条件下でセンサ101を一定時間動作させた場合、センサ101が特性a2である場合に得られる値と特性a3である場合に得られる値の中間値である。
【0036】
その結果、検出値Sと所定値A1,A2とが上記(1)の条件を満たしていると判断された場合、つまり、センサ101の実際の特性が図2に示す特性a1に近いと判断された場合には(ステップS23:YES)、フラグ131をオンする(ステップS25)。また、検出値Sと所定値A1,A2とが上記(2)の条件を満たしていると判断された場合、つまり、センサ101の実際の特性が図2に示す特性a2に近いと判断された場合には(ステップS24:NO)、フラグ132をオンする(ステップS26)。そして、検出値Sと所定値A1,A2とが上記(3)の条件を満たしていると判断された場合、つまり、センサ101の実際の特性が図2に示す特性a3に近いと判断された場合には(ステップS24:YES)、フラグ133をオンする(ステップS27)。
【0037】
このようなフラグ選択動作S4が完了、若しくは、フラグ選択動作がスキップされると、信号処理部190は、センサ101からのデータ入力準備を行う(ステップS5)。データ入力準備とは、センサ回路101bに対し、動作に必要な電圧Vccの供給を開始するとともに、A/Dコンバータ110をウォーミングアップさせる動作である。かかる動作により、センサ回路101bからは検出値Sの出力が開始され、これがA/Dコンバータ110によってデジタル形式の検出値Sに正しく変換されることになる。但し、A/Dコンバータ110のウォーミングアップが既に完了している場合は、これを省略しても構わない。
【0038】
このようなデータ入力準備が完了すると、CPU120は、A/Dコンバータ110の出力である検出値Sの取り込みを行う(ステップS6)。つまり、実際にデータ入力を行う。これに応答してCPU120は、入力された検出値Sから計測値Sへの変換を行う(ステップS7)。
【0039】
図6は、変換動作S7を説明するためのフローチャートである。
【0040】
変換S7においては、まず、フラグ131〜133のうちどのフラグがオンしているかを判断する(ステップS31)。その結果、オンしているフラグがフラグ131であれば、メモリ130に格納されている最小二乗近似多項式F1を選択し、これを用いて検出値Sから計測値Sへの変換を行う(ステップS32)。また、オンしているフラグがフラグ132であれば、メモリ130に格納されている最小二乗近似多項式F2を選択し、これを用いて検出値Sから計測値Sへの変換を行う(ステップS33)。そして、オンしているフラグがフラグ133であれば、メモリ130に格納されている最小二乗近似多項式F3を選択し、これを用いて検出値Sから計測値Sへの変換を行う(ステップS34)。
【0041】
最小二乗近似多項式とは、
【0042】
【数2】

で表される近似式の一種であり、複数の定数a〜aを用いることによって検出値Sを計測値Sに近似することができる。
【0043】
このようにして検出値Sから計測値Sへの変換が完了すると、CPU120は、送信回路部141に間欠動作信号P及び得られた計測値Sを出力する(ステップS8)。間欠動作信号Pは、送信回路部141を起動させる為の信号であり、送信回路部141はこれを受けて活性状態となる。これにより、送信回路部141は計測値Sをアンテナ142へ送出し、アンテナ142を介して図示しない利用機器へと無線送信する。このとき、計測値Sを送出する前に、無線センサ装置100のIDデータを送出すれば、複数の無線センサ装置100が存在する場合であっても、いずれの無線センサ装置100から送信された計測値Sであるのか、利用機器側において判断することが可能となる。
【0044】
その後、CPU120は所定の期間スリープモードとなり(ステップS9)、所定の期間が経過すると、ステップS5に戻って上記一連の動作を再実行する。図2に示すフローチャートでは、データ入力準備(ステップS5)を行う直前にスリープモードから復帰させているが、データ入力準備(ステップS5)を実行するに際してCPU120の負荷はほとんどないことから、データ入力準備(ステップS5)が完了した後、データ入力(ステップS6)を行う際に復帰させても構わない。
【0045】
図7は、無線センサ装置100の好ましい一利用形態を模式的に示すブロック図である。無線センサ装置100は、温度や湿度等の計測値を無線送信することが可能であるため、図7に示すようにこれを利用する一つの利用機器10に対して複数個の無線センサ装置100を割り当てることが可能である。例えば、一つの部屋の複数箇所にこれら無線センサ装置100を設置したり、各部屋にそれぞれ無線センサ装置100を設置したり、さらには、各人が無線センサ装置100を携帯するといった利用の形態が考えられる。いずれにしても、図7に示すように一つの利用機器10に対して複数個の無線センサ装置100を割り当てた場合、利用機器10側において各センサによる検出値を温度や湿度等の計測値に変換すると、処理負担が過大となるおそれがあるが、本実施形態による無線センサ装置100では、このような変換処理を無線センサ装置100の内部で行い、計測値の形で無線送信していることから、利用機器10側においては受信した計測値をそのまま記録するだけで容易に集中管理することが可能となる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態においては、センサ101の特性に応じた複数の最小二乗近似多項式をあらかじめ用意しておき、センサ101による実際の計測結果に基づいて最適な最小二乗近似多項式を選択していることから、湿度センサのようにばらつきの大きいセンサを使用する場合であっても、高精度な計測を行うことが可能となる。
【0047】
尚、上記実施形態では、センサ101の実際の特性を3段階に分類し、これに基づいて最小二乗近似多項式を選択しているが、特性の分類としては3段階に限定されるものではなく、2段階又は4段階以上であっても構わない。
【0048】
次に、本発明の好ましい第2の実施形態について説明する。
【0049】
図8は、本発明の好ましい第2の実施形態による無線センサ装置200の構成を概略的に示すブロック図である。図8に示すように、本実施形態による無線センサ装置200は、複数のセンサ101〜103を備えるとともに、信号処理部190に含まれるメモリ130がメモリ230に置き換えられている点において、上記実施形態による無線センサ装置100と異なる。その他の点については、上記実施形態による無線センサ装置100と同一であることから、同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
これら複数のセンサ101〜103は、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ、トナーセンサ等の各種センサであり、それぞれセンサ素子101a,102a,103a及びセンサ回路101b,102b,103bによって構成されている。これら複数のセンサ101〜103の計測対象は、互いに異なっていても構わないし、一部又は全部が同じであっても構わない。例えば、3つのセンサ101〜103がそれぞれ温度センサ、湿度センサ及び照度センサであっても構わないし、全てが温度センサであっても構わないし、さらには、センサ101及び102が温度センサであり、センサ103が湿度センサであっても構わない。無線センサ装置200内に計測対象の異なる複数のセンサが含まれていれば、複数の事象を同時に測定することが可能となるし、無線センサ装置200内に計測対象が同じである複数のセンサが含まれていれば、一つの事象を異なる側面から測定することが可能となる。例えば、高精度であるが計測可能な範囲が狭い温度センサと、計測可能な範囲は広いが低精度である温度センサの両方を用いれば、広い温度範囲での測定を可能としつつ、所定の温度範囲については特に高精度な温度測定を行うといった使い方が可能となる。また、サーミスタを用いた温度センサと赤外線を用いた温度センサを併用すれば、無線センサ装置200の近傍の温度と、無線センサ装置200から離れた場所の温度の両方を測定することが可能となる。
【0051】
メモリ230には、図8に示すように、9つのフラグ231〜239が含まれている。このうち、フラグ231〜233はセンサ101に対応するフラグであり、フラグ234〜236はセンサ102に対応するフラグであり、フラグ237〜239はセンサ103に対応するフラグである。本実施形態においては、図4又は図5に示したフラグ選択動作S4をセンサ101〜103についてそれぞれ実行する必要がある。つまり、センサ101についてのフラグ選択動作を行うことによってフラグ231〜233のいずれか一つをオンさせ、センサ102についてのフラグ選択動作を行うことによってフラグ234〜236のいずれか一つをオンさせ、さらに、センサ103についてのフラグ選択動作を行うことによってフラグ237〜239のいずれか一つをオンさせる。
【0052】
さらに、本実施形態においては、センサが複数設けられていることから、データ入力準備(図3のステップS5参照)及びデータ入力(図3のステップS6参照)については、時分割的に行われる。つまり、部分的なフローチャートである図9に示すように、まず、センサ101からのデータ入力準備(ステップS5−1)及びセンサ101に対応する検出値Sのデータ入力(ステップS6−1)を行った後、センサ102からのデータ入力準備(ステップS5−2)及びセンサ102に対応する検出値Sのデータ入力(ステップS6−2)を行い、さらに、センサ103からのデータ入力準備(ステップS5−3)及びセンサ103に対応する検出値Sのデータ入力(ステップS6−3)を行う。
【0053】
このようにして、フラグの書き込み、並びに、データ入力準備及びデータ入力が全て完了すると、入力された3つの検出値Sそれぞれに対し、最小二乗近似多項式を用いて計測値Sへの変換を行う。この場合、各センサに対応する検出値Sは、図6を用いて説明したように、オンしているフラグに応じて異なる最小二乗近似多項式を用いて計測値Sに変換される。
【0054】
このようにして、全てのセンサ101〜103に対応する検出値Sから計測値Sへの変換が完了すると、上記実施形態と同様、CPU120は送信回路部141に間欠動作信号P及び得られた計測値Sを出力する。この場合も、部分的なフローチャートである図10に示すように、センサ101,102,103に対応するそれぞれの計測値Sを時分割的に出力する(ステップS8−1,S8−2,S8−3)。その後は、図3のフローチャートに示したとおり、所定の期間スリープモードとなり(ステップS9)、所定の期間が経過すると、ステップS5に戻って上記一連の動作を再実行する。
【0055】
このように、本実施形態では3つのセンサ101〜103の全てについて、実際の計測結果に基づき最適な最小二乗近似多項式を選択していることから、各センサによる高精度な計測を行うことが可能となる。
【0056】
尚、上記実施形態では、3つのセンサ101〜103の全てに3つのフラグを割り当て、これにより、各センサにおいて3種類の最小二乗近似多項式の中から一つを選択可能に構成しているが、全てのセンサにフラグを割り当てることは必須でない。したがって、例えば、センサ101については3つのフラグを割り当てる一方、センサ102,103についてはフラグを割り当てず、それぞれ単一の最小二乗近似多項式を用いて変換を行っても構わない。これは、センサ101については特性ばらつきが大きいものの、センサ102,103についてはそれほど特性ばらつきが大きくない場合や、センサ101による計測対象については高精度な変換が要求される一方、センサ102,103による計測対象についてはそれほど高精度な変換が要求されないといった場合に好適である。
【0057】
さらに、各センサに割り当てるフラグの数についても、各センサにおいて異なっていても構わない。したがって、例えば、センサ101については4つのフラグを割り当て、センサ102については3つのフラグを割り当て、さらに、センサ103については2つのフラグを割り当てても構わない。これは、特性ばらつきがセンサ101において最も顕著であり、センサ103において特性ばらつきが最も小さい場合や、センサ101による計測対象についての変換に最も高い精度が要求される一方、センサ103による計測対象についての変換に最も精度が要求されないといった場合に好適である。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の好ましい第1の実施形態による無線センサ装置100の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】湿度センサと検出値との関係を示すグラフである。
【図3】無線センサ装置100の動作を示すフローチャートである。
【図4】フラグ選択動作S4の一例を説明するためのフローチャートである。
【図5】フラグ選択動作S4の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図6】変換動作S7を説明するためのフローチャートである。
【図7】無線センサ装置100の好ましい一利用形態を模式的に示すブロック図である。
【図8】本発明の好ましい第2の実施形態による無線センサ装置200の構成を概略的に示すブロック図である。
【図9】無線センサ装置200におけるデータ入力準備及びデータ入力動作を示す部分的なフローチャートである。
【図10】無線センサ装置200におけるデータ出力動作を示す部分的なフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
10 利用機器
100,200 無線センサ装置
101〜103 センサ
101a〜103a センサ素子
101b〜103b センサ回路
110 A/Dコンバータ
120 CPU
130,230 メモリ
141 送信回路部
142 アンテナ
150 バッテリ
190 信号処理部
131〜133,231〜239 フラグ
P 間欠動作信号
検出値(アナログ)
検出値(デジタル)
計測値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのセンサと、前記センサの検出値を近似式に代入することによって計測値に変換する信号処理部と、前記計測値を無線により送出するための送信回路部とを備え、前記信号処理部は、前記センサの特性に応じて異なる近似式を用いた変換を行うことを特徴とする無線センサ装置。
【請求項2】
前記信号処理部は、前記センサによる検出値をデジタル値に変換するA/Dコンバータと、前記センサの特性に応じた複数の近似式の演算にそれぞれ必要なデータを少なくとも格納するメモリと、少なくとも前記A/Dコンバータの出力及び前記メモリに格納された前記データを用いた演算を行うCPUとを有していることを特徴とする請求項1に記載の無線センサ装置。
【請求項3】
前記メモリは、使用すべき近似式を指定するフラグ有していることを特徴とする請求項2に記載の無線センサ装置。
【請求項4】
前記センサには、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ及びトナーセンサからなる群より選ばれた少なくとも1種のセンサが含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線センサ装置。
【請求項5】
少なくとも前記信号処理部及び前記送信回路部に電力を供給するバッテリをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無線センサ装置。
【請求項6】
センサの数が少なくとも2つであり、前記2つのセンサの計測対象が互いに異なっていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の無線センサ装置。
【請求項7】
センサの数が少なくとも2つであり、前記2つのセンサの計測対象が互いに同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の無線センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−252216(P2006−252216A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68382(P2005−68382)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】