説明

無線タグシステム

【課題】高速移動するリーダとタグとの間で、低消費電流かつ確実に起動信号および応答信号の送受信を可能にする。
【課題手段】保守監視対象物に設置されるタグと、保守監視対象物の近傍を通過する移動体に設置されるリーダとにより構成され、リーダから所定の周期で起動信号を送信し、当該起動信号を受信したタグから応答信号を送信し、当該応答信号をリーダが受信する無線タグシステムにおいて、リーダは、起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナを移動体の底面に水平に設置し、応答信号を電波方式で受信する電波用アンテナを移動体の進行方向後方に備えた構成であり、タグは、起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナを保守監視対象物の上部に水平に設置し、起動信号の受信に応じて応答信号を電波方式で送信する電波用アンテナを備えた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方が移動するリーダとタグとの間で情報交換を行う無線タグシステムに関する。
【0002】
例えば、マンホール内の保守監視情報を収集蓄積するタグと、マンホールのある道路上を通過する車両に搭載したリーダとにより構成され、マンホールの上または近傍を通過する車両のリーダに対して、タグが収集蓄積したマンホールの保守監視情報を送信する無線タグシステムに関する(特許文献1)。
【背景技術】
【0003】
図7および図8は、従来の無線タグシステムの通信シーケンスおよびタグの消費電流の時間変化を示す。縦軸は時間である。
図7において、タグは周期的かつ自律的に信号を間欠送信するアクティブタグであり、その信号を受信できる位置に移動したリーダがその信号を受信する。タグは、信号送信時の電流(送信時電流)が大きく、待機時電流はタグ内部のクロック駆動や回路自体のリーク電流であり、送信時電流に比べてかなり小さい。このようにアクティブタグは、信号の間欠送信に応じて発生する送信時電流がタグ全体の消費電流の大部分を占めている。したがって、高速に移動するリーダが受信できるように送信間隔を短くすると消費電流がさらに増え、電池駆動の場合には長時間の稼働ができなかった。
【0004】
これに対して、図8に示すように、リーダが起動信号を送信し、その起動信号を受信したタグが応答信号を送信することにより、消費電流を抑えて長時間の稼働を可能する方法がある。
【0005】
図8において、タグはリーダが送信する起動信号を受信するために、受信動作を周期的に繰り返す。この受信動作時の電流(受信時電流)は、待機時電流より大きいが、送信時電流よりも小さい。また、リーダは、タグの間欠受信間隔より短い周期で起動信号を送信しており、タグはいずれかの受信動作時にリーダが送信する起動信号を受信できるものとする。タグは、起動信号の受信に応じて規定回数(ここでは3回)だけ応答信号を所定の周期で送信する。このときは送信時電流が消費される。応答信号の送信後は、起動信号を受信するための間欠受信動作に入る。
【0006】
これにより、タグが信号を間欠送信する図8の形態に比べて消費電流を抑えることができるが、起動信号の受信を行うめたの間欠受信動作が必要であり、そのための消費電流が必要になることは避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−252571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示す例では、リーダからタグへ送信する起動信号を電波方式で伝送することを想定しているため、タグ側で間欠受信動作を行う必要があり、そのための消費電流が必要になる。そこで、タグ側の間欠受信動作を不要にして消費電流を低減するために、リーダからタグへ送信する起動信号を電磁誘導方式で伝送する方法が検討されている。
【0009】
図9は、電磁誘導方式を用いる無線タグシステムの通信シーケンスおよびタグの消費電流の時間変化を示す。縦軸は時間である。
図9において、起動信号は、例えば走行車両に搭載したリーダに接続される電磁誘導用アンテナから送信される。走行車両から短周期で連続的に送信された起動信号は、マンホールの蓋面に平行に設置された電磁誘導用アンテナを介してマンホール内のタグに受信される。タグは、起動信号の受信に応じて規定回数(ここでは3回)だけ応答信号を所定の周期で送信する。この応答信号は電波方式で送信され、所定の送信時電流が消費される。応答信号の送信後は待機状態に戻る。
【0010】
応答信号を送信する際の送信時電流は図8に示す例と変わらないが、応答信号の送信時以外は待機時電流のみで、電磁誘導方式による起動信号の受信動作は殆ど消費電流を必要としない。したがって、図7および図8に示す従来方法よりもタグの消費電流は大幅に小さくなることが予想される。
【0011】
しかし、一般的に電磁誘導方式は指向性が鋭く、リーダとタグの双方の電磁誘導用アンテナが正対していないと信号伝達ができない。すなわち、リーダが送信する起動信号をタグが受信することが困難である。また、通信距離も数mと短いため、車両がタグに十分近づいた状態でないと通信が困難である。よって、電磁誘導方式を用いて高速移動時に通信を行うためには、電磁誘導用アンテナの設置方法に工夫が必要である。
【0012】
本発明は、リーダからタグへの起動信号を電磁誘導方式で送信し、タグからリーダへの応答信号を電波方式で送信する無線タグシステムにおいて、高速移動するリーダとタグとの間で確実に起動信号および応答信号の送受信を可能にする無線タグシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、保守監視対象物に設置されるタグと、保守監視対象物の近傍を通過する移動体に設置されるリーダとにより構成され、リーダから所定の周期で起動信号を送信し、当該起動信号を受信したタグから応答信号を送信し、当該応答信号をリーダが受信する無線タグシステムにおいて、リーダは、起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナを移動体の底面に水平に設置し、応答信号を電波方式で受信する電波用アンテナを移動体の進行方向後方に備えた構成であり、タグは、起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナを保守監視対象物の上部に水平に設置し、起動信号の受信に応じて応答信号を電波方式で送信する電波用アンテナを備えた構成である。
【0014】
本発明の無線タグシステムにおいて、起動信号を送信する電磁誘導用アンテナは、移動体の底面に凸に円弧状または山型に曲げて設置され、その法線方向に指向性をもたせる構成である。
【0015】
本発明の無線タグシステムにおいて、起動信号を送信する電磁誘導用アンテナは、それぞれ垂直方向およびその左右斜め方向に指向性をもつ複数のアンテナによる構成である。隣接する電磁誘導用アンテナから送信される起動信号のタイミングが互いに重ならないように設定される。
【0016】
本発明の無線タグシステムにおいて、応答信号を受信する電波用アンテナは、移動体の進行方向後方の高い位置に固定された構成である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、リーダからタグへの起動信号を電磁誘導方式で送信し、タグからリーダへの応答信号を電波方式で送信することにより、起動信号の受信に必要な消費電流を抑えながら、高速移動するリーダとタグとの間で確実に起動信号および応答信号の送受信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の無線タグシステムの実施例を示す図である。
【図2】車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例1を示す図である。
【図3】車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例2を示す図である。
【図4】車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例3を示す図である。
【図5】隣接する電磁誘導用アンテナの距離を離した例を示すである。
【図6】車両1の電波用アンテナ12のアンテナ高に応じた距離と受信電力の関係を示す図である。
【図7】従来の無線タグシステムの通信シーケンスおよびタグの消費電流の時間変化を示す図である。
【図8】従来の無線タグシステムの通信シーケンスおよびタグの消費電流の時間変化を示す図である。
【図9】電磁誘導方式を用いる無線タグシステムの通信シーケンスおよびタグの消費電流の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(無線タグシステムの実施例)
図1は、本発明の無線タグシステムの実施例を示す。図1(1) は全体的な実施例構成を示し、図(2) はリーダおよびタグの実施例構成を示す。
【0020】
図1(1) において、車両1に搭載されるリーダ10には、起動信号の送信に用いる電磁誘導用アンテナ11および応答信号の受信に用いる電波用アンテナ12が接続される。車両1が走行する道路の下(地中)にマンホール5があり、マンホール5内に設置されるタグ20には、起動信号の受信に用いる電磁誘導用アンテナ21および応答信号の送信に用いる電波用アンテナ22が接続される。
【0021】
電磁誘導方式による起動信号および電波方式による応答信号の通信シーケンスは図9に示す通りである。すなわち、リーダ10は、電磁誘導用アンテナ11から所定の周期で起動信号を送信しており、リーダ10に接続される電磁誘導用アンテナ11と、タグ20に接続される電磁誘導用アンテナ21が正対したときに、電磁誘導方式により起動信号がリーダ10からタグ20に伝達される。タグ20は起動信号の受信により、タグ20の電波用アンテナ22から応答信号を送信し、当該応答信号がリーダ10の電波用アンテナ12に受信される。したがって、車両1の電波用アンテナ12は、車両1の進行方向に対して後部に設置されるのが好ましい。
【0022】
図1(2) おいて、リーダ10は、起動信号を生成して電磁誘導用アンテナ11から送信する送信部13と、電波用アンテナ12に受信した応答信号の受信・復号処理を行い、受信データの表示、蓄積、読み出しを行う受信部14を備える。
【0023】
タグ20は、電磁誘導用アンテナ21を介して受信する信号の復号処理を行い、それがリーダ10から送信された起動信号であれば、タグ20を構成する他の部分の動作を開始させる受信部23、受信部23から起動信号を入力して起動信号に情報に応じた応答信号を生成する制御部24、制御部24から応答信号を入力して電波用アンテナ22から電波として送信する送信部25を備える。なお、タグ20が送信する応答信号には、タグ20に接続されたセンサ等の情報生成機器から取得した情報が含まれる。
【0024】
ここで、マンホール5に設置されるタグ20は、リーダ10が送信する特定の起動信号を受信した場合にのみ動作し、通常はタグ内部の構成の大部分は動作を停止しており、消費電力をほとんど必要としない。
【0025】
本発明では、リーダ10が起動信号を送信する電磁誘導用アンテナ11は車両1の下部に取り付け、起動信号を真下方向に送信することで、車両1がタグ20のあるマンホール5の上の通過したときに、タグ20の電磁誘導用アンテナ21が起動信号を受信する。これが、本発明の第1の特徴である。
【0026】
通常の車両1は車高(地上から車両の床下面まで)が20cm程度であり、またマンホール5の深さは3m以内のものがほとんどである。また、日本では電磁誘導方式としてLF帯やHF帯が使用されており、アスファルトや土壌等による電波の損失はほとんどない場合が多い。この場合には、自由空間において3m以上通信可能であれば、マンホール5内に設置したタグ20の電磁誘導用アンテナ21と、車両1の下面に取り付けた電磁誘導用アンテナ11との間で通信が可能である。実際に、電磁誘導用アンテナのサイズが1m×1m程度で、通信距離が5mまで通信可能な市販製品も存在する。また、車両1の下面は、小型車や軽自動車でも長さ 1.7m以上、幅1m以上のサイズはあるため、1m×1m程度の電磁誘導用アンテナ11を取り付けることにより、タグ20の電磁誘導用アンテナ21との間で5m程度の通信は可能である。
【0027】
また、リーダ10とタグ20が通信可能な時間は、リーダ10の電磁誘導用アンテナ11がタグ20の電磁誘導用アンテナ21の上の通過する時間T1 (s) と等しいが、この時間T1 (s) は電磁誘導用アンテナ11の長さL(m) と車両の移動速度V(m/s) より、
1 =L/V
と決まる。例えば、電磁誘導用アンテナ11の長さLが 1.7m、車両1の移動速度Vが60km/h≒16.7m/s の場合、通信可能時間T1 は約 0.1秒となる。
【0028】
次に、起動信号の送信間隔をI1(s)、タグ20の受信回数をN1 (回) とすると
1 =T1 /N1
となるので、車両1が通過する間にタグ20で起動信号を受信したい回数N1 を決めると起動信号の送信間隔I1 が決定される。例えば、長さ 1.7mの電磁誘導用アンテナ11を搭載し、時速60kmで走行中の車両1から起動信号を2回受信したい場合は、起動信号の送信間隔I1 を約0.05秒(=50msec) とする必要がある。なお、起動信号は電磁誘導方式で伝送されるので、そのオン時間は送信間隔50msecに対して例えば20msec程度が必要である。
【0029】
また、上記の数値条件のうち、車両1の移動速度を40km/h≒11.1m/s とすると、通信可能時間T1 は約0.15秒となり、同じ受信回数2回を満足するためには、起動信号の送信間隔I1 は0.075 秒(=75msec)となる。このように、走行する車両1に取付ける電磁誘導用アンテナ11の長さL、その車両1の移動速度Vにより、リーダ10とタグ20との通信可能時間T1 が決まり、その通信可能時間T1 とタグ20側で要求する受信回数N1 に応じて、起動信号の送信間隔I1 が決定する。すなわち、車両1の速度に基づいて起動信号の送信間隔を適切に設定する。
【0030】
さらに、タグ20は起動信号を受信するとリーダ10に応答信号を送信(返信)するが、タグ20が起動信号受信から応答信号送信までには多少の時間を要することから、その間に車両1は既にマンホール5を通過していることになる。したがって、リーダ10はタグ20からの応答信号を車両1の後方から受信することになるので、応答信号を受信する電波用アンテナ12を車両1の後方に設置し、また電波方式により通信を行うことによって高速移動をしながらの通信を実現する。これが、本発明の第2の特徴である。
【0031】
電波方式は、電磁誘導方式より通信距離が長く、また指向性も電磁誘導方式ほど鋭くないため、タグ20から離れた位置でも通信可能である。例えば、電波方式での通信可能距離をX(m) 、移動速度をV(m/s) とすると通信可能な時間T2 (s) は
2 =X/V
となる。応答信号の送信回数をN2 、応答信号の送信間隔をI2 (s) とすると、
2 =T2 /N2
となるので、車両1がタグ20の通信エリアを通過する間にリーダ10で応答信号を受信したい回数N2 を決めると、応答信号の送信間隔I2 が決定する。例えば、電波方式での通信可能距離が10mであり、60km/h≒16.7m/s で走行中に応答信号を2回受信したい場合は、通信可能時間T2 は約0.60秒であり、応答信号の送信間隔I2 は約 0.3秒(=300msec)となる。
【0032】
また、上記の数値条件のうち、車両1の移動速度を40km/h≒11.1m/s とすると、通信可能時間T2 (s) は約0.90秒となり、応答信号の送信間隔I2 は約0.45秒(=450msec)となる。このように、応答信号の通信可能距離X、車両1の移動速度Vにより、リーダ10とタグ20との通信可能時間T2 が決まり、その通信可能時間T2 とリーダ10側で要求する受信回数N2 に応じて、応答信号の送信間隔I2 が決定する。よって、リーダ10は、起動信号の生成時に車両1の速度を検出し、当該車両の速度に応じて応答信号の送信間隔を算出し、当該応答信号の送信間隔を起動信号を用いてタグ20に通知すれば、タグ20における消費電力を抑えつつ、受信に必要な間隔で応答信号を送信させることが可能となる。
【0033】
以上説明したように、車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の長さ、車両1の移動速度、起動信号および応答信号の受信回数、送信間隔を適切に設定し、起動信号の伝送に電磁誘導方式、応答信号の伝送に電波方式を用いることにより、タグ20の消費電力を必要最小限に抑えて長期間の稼働を実現しつつ、車両1の高速移動時にもリーダ10とタグ20との間の通信が可能なる。
【0034】
(車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例)
図2は、車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例1を示す。
図2において、車両1の後方または前方から見た状態を示し、電磁誘導用アンテナ11は左右のタイヤの間の床下に水平に設置される。道路の下には、マンホール(図示せず)の内部に設置されたタグ20および電磁誘導用アンテナ21がある。
【0035】
一般的に、電磁誘導用アンテナの指向性は非常に鋭く、2つの電磁誘導用アンテナ11,21が正対した状態でなければ通信ができない。したがって、車両1の床下に電磁誘導用アンテナ11を水平に設置した場合は、車両1が電磁誘導用アンテナ21の上、すなわちマンホールの真上を通過した時にしか通信ができない。しかし、走行中の車両1がマンホールの真上を必ず通過するとは限らないので、車両1がマンホールの真上を通過しなくても通信が可能なように、2つの電磁誘導用アンテナ11,21間の通信エリアを拡張する必要がある。この例を以下に説明する。
【0036】
図3は、車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例2を示す。
図3において、車両1の後方または前方から見た状態を示し、電磁誘導用アンテナ11は左右のタイヤの間の床下に、地面に対して凸に円弧状に曲げて設置される。道路の下には、マンホール(図示せず)の内部に設置されたタグ20および電磁誘導用アンテナ21がある。
【0037】
電磁誘導用アンテナ11は、コイルに電流を流すことで磁界を発生させる構造であり、コイルは銅線を用いているため曲げることが可能である。そこで、図3に示すように1枚の電磁誘導用アンテナ11を円弧状に曲げることにより、法線方向に磁界を発生させて通信エリアを拡げる。これにより、車両1からみてマンホール内の電磁誘導用アンテナ21が斜め横方向にずれた場合でも通信が可能となる。ここでは、例として電磁誘導用アンテナ11を円弧状に曲げた場合を示したが、V字型などの曲げ方であってもよい。
【0038】
図4は、車両1に搭載の電磁誘導用アンテナ11の実施例3を示す。
図4において、車両1の後方または前方から見た状態を示し、左右のタイヤの間の床下に、3枚の電磁誘導用アンテナ11−1,11−2,11−3を地面に対して外向き斜め、水平、外向き斜めに設置する。道路の下には、マンホール(図示せず)の内部に設置されたタグ20および電磁誘導用アンテナ21がある。本構成でも通信エリアが拡がり、車両1からみてマンホール内の電磁誘導用アンテナ21が斜め横方向にずれた場合でも通信が可能となる。ここでは、3枚の電磁誘導用アンテナを使用する例を示したが、使用する電磁誘導用アンテナの枚数や設置向きは様々考えられる。
【0039】
また、複数枚の電磁誘導用アンテナを使用する場合、隣接する電磁誘導用アンテナで発生する双方の磁界の向きが逆方向になり打ち消しあってしまう可能性もある。この場合は、例えば隣接する電磁誘導用アンテナで磁界を発生するタイミングを時間的にずらす、電磁誘導用アンテナ同士の距離を離すなどの調整を行う必要がある。
【0040】
図4(2) は、隣接する電磁誘導用アンテナから送信される起動信号(磁界発生)のタイミングが交互になるように設定した例を示す。ここで、起動信号の送信間隔は上記のように車両1の速度およびその他の条件に応じて決まるが、隣接する電磁誘導用アンテナで交互に送信される起動信号が重ならないように、さらに所定のガードタイムを設ける必要がある。1つの起動信号が長く、隣接する電磁誘導用アンテナ間で起動信号の重なりが避けられない場合には、起動信号をコンパクトにする。上記の例では、起動信号の中に、応答信号の送信回数や送信間隔を指定する情報を含めていたが、これらの応答信号の設定情報は別の設定・制御手段を用いて予めタグに対して設定しておき、起動信号には直ちに応答信号を送信することのみを要求する情報だけにすることにより、起動信号のコンパクト化が可能になる。
【0041】
図5は、隣接する電磁誘導用アンテナの距離を離した例を示す。3つの電磁誘導用アンテナ11−1〜11−3で発生する磁界の磁力線を破線およびその矢印でそれぞれ表す。各電磁誘導用アンテナの両端では発生する磁力線がループを作り、これら磁力線の方向(破線の矢印)が違うため、隣接する電磁誘導用アンテナ間ではそれぞれ別々のループになる。ただし、この3つの電磁誘導用アンテナの磁界の向きは互いに同じであるとする。すなわち、図5(1) に示すようにあるタイミングにおいて、3つの電磁誘導用アンテナとも磁界は下向き(−)であり、別のタイミングでは3つの電磁誘導用アンテナによる磁界はいずれも上向き(+)となる。これは、複数の電磁誘導用アンテナの間隔を離すことにより、隣接する磁界の影響を避け、時間的には1つの電磁誘導用アンテナと同じように機能することを示す。すなわち、間隔を離した電磁誘導用アンテナによる起動信号の磁界発生は、図5(2) に示すようにすべて同じタイミングになる。
【0042】
なお、1つの起動信号は、磁界の方向として電磁誘導用アンテナ上向き(+)と下向き(−)に対応し、(+)と(−)が交互に繰り返すプリアンブルと、(+)と(−)が伝送情報に応じた配列を示すデータにより構成される。このような起動信号により、他の制御・設定信号やノイズ(雑音)との的確に判別することができ、誤動作やノイズによる不必要なタグ起動による消費電力の増加を抑制し、不要な応答信号の送信も回避することができる。
【0043】
以上示した図4および図5では、複数の電磁誘導用アンテナ11−1〜11−3を車両1に取付ける対応について説明した。一方、タグ20側の電磁誘導用アンテナ21についても、垂直方向の他に斜め横方向(垂直方向に対して左右斜め方向)と、さらに車両進行方向に傾けた電磁誘導用アンテナを用意してもよい。このような工夫により、タグ20の真上を車両1が通過するケースでなくても、走行する車両1に搭載するリーダ10とマンホール5に設置したタグ20との間の通信で、高い成功率を確保することができる。
【0044】
(車両1に搭載の電波用アンテナ12の実施例)
車両1のリーダ10は、マンホール通過後にタグ20から送信された応答信号を電波方式で受信するが、車両1はタグ20から遠ざかる方向に移動しており、高速移動時でも通信を可能とするためには電波方式での通信距離を延ばす必要がある。
【0045】
図6は、車両1の電波用アンテナ12のアンテナ高に応じた距離と受信電力の関係を示す。ここでは、タグ20の電波用アンテナ22から送信した応答信号を車両1の電波用アンテナ12で受信する場合に、両アンテナ間の距離に応じた受信電力を測定した結果である。また、この受信電力の測定では、車両1の後部に取り付けた電波用アンテナ12の高さ(電波用アンテナ高:A>B>C)をパラメータとした結果も示す。
【0046】
この測定結果の中では、最も高い電波用アンテナ高Aを選んだケースでは、マンホールから短い距離(3m以内)では受信電力が急に上昇し、この受信電力のピーク(−75dBm 、距離3m)となる。さらに、マンホールからより遠い(3mを超える)範囲では、距離が伸びるのに伴いそのピークから受信電力が次第に下降する傾向が確認できる。他の電波用アンテナ高B,Cに関しても同様であり、受信電力のピークがある距離や、このピーク時の受信電力にはそれぞれに違いがある。しかし、マンホールからの大まかな距離に対する受信電力の変化の傾向として、数m程の近距離に受信電力のピークがあり、さらに離れると徐々に受信電力が低下する様子は同じである。
【0047】
この図6に示すとおり、マンホール内に設置したタグから送信された信号を地上で受信する場合、タグに近い位置(マンホールに近い距離)では車両側で受信する電波用アンテナが低い位置にあるほど受信レベルが高く、タグから離れた位置(マンホールから離れた距離)では受信する電波用アンテナが高い位置にあるほど受信レベルが高いことが確認されている。よって、タグからの距離に合わせて電波用アンテナ高を変更することができれば受信レベルを高く保つことが可能であるが、実際は通信している短時間の間にタグからの距離に合わせて電波用アンテナ高を調整することは難しい。タグに近い位置では、電波用アンテナ高が高い位置は電波用アンテナ高が低い位置に比べて相対的に受信レベルが低くなるが、そもそも受信レベルの絶対値は高い。
【0048】
よって、受信レベルの絶対値が低くなるタグから離れた位置での受信レベルを高くすることを重視し、車両の進行方向に対して後方に設置する電波用アンテナは、車両の天井の上など可能な限り車両の高い位置に固定する。これにより、マンホール遠方での通信距離を延ばすことができるため、応答信号の受信可能なエリアを拡げることが可能となる。例えば,この図6で受信レベルの絶対値を−90dBm とすると、低い電波用アンテナ高C(<B<A)の場合では大凡6mまでの通信距離に止まることになる。この例で挙げた受信電力のレベルで−90dBm とした値は、電波用アンテナと車載されるリーダの最低受信レベルと考えている。一方、より高い電波用アンテナ高A(>B>C)の場合、先程と同じ受信レベル(−90dBm )なら10mの距離まで電波が受信できる範囲が広がる。
【符号の説明】
【0049】
1 車両
5 マンホール
10 リーダ
11 電磁誘導用アンテナ
12 電波用アンテナ
13 送信部
14 受信部
20 タグ
21 電磁誘導用アンテナ
22 電波用アンテナ
23 受信部
24 制御部
25 送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保守監視対象物に設置されるタグと、前記保守監視対象物の近傍を通過する移動体に設置されるリーダとにより構成され、前記リーダから所定の周期で起動信号を送信し、当該起動信号を受信した前記タグから応答信号を送信し、当該応答信号を前記リーダが受信する無線タグシステムにおいて、
前記リーダは、前記起動信号を電磁誘導方式で送信する電磁誘導用アンテナを前記移動体の底面に水平に設置し、前記応答信号を電波方式で受信する電波用アンテナを前記移動体の進行方向後方に備えた構成であり、
前記タグは、前記起動信号を電磁誘導方式で受信する電磁誘導用アンテナを前記保守監視対象物の上部に水平に設置し、前記起動信号の受信に応じて前記応答信号を電波方式で送信する電波用アンテナを備えた構成である
ことを特徴とする無線タグシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線タグシステムにおいて、
前記起動信号を送信する電磁誘導用アンテナは、前記移動体の底面に凸に円弧状または山型に曲げて設置され、その法線方向に指向性をもたせる構成である
ことを特徴とする無線タグシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の無線タグシステムにおいて、
前記起動信号を送信する電磁誘導用アンテナは、それぞれ垂直方向およびその左右斜め方向に指向性をもつ複数のアンテナによる構成である
ことを特徴とする無線タグシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の無線タグシステムにおいて、
隣接する電磁誘導用アンテナから送信される前記起動信号のタイミングが互いに重ならないように設定される
ことを特徴とする無線タグシステム。
【請求項5】
請求項1に記載の無線タグシステムにおいて、
前記応答信号を受信する電波用アンテナは、前記移動体の進行方向後方の高い位置に固定された構成である
ことを特徴とする無線タグシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−61711(P2013−61711A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198252(P2011−198252)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】