説明

無線中継装置及び無線信号中継方法

【課題】必要な場合にだけ偏波切替を実行することで、安定した稼働動作を担保し、コストや現場作業の負荷を低減する。
【解決手段】中継元の無線通信装置から放射された無線信号の垂直偏波及び水平偏波を夫々独立して受信する受信アンテナ2と、上記受信アンテナ2から垂直偏波若しくは水平偏波の何れかの信号を受信して増幅する信号増幅部4と、増幅された信号を中継先の無線通信装置に向けて放射する送信アンテナ5と、垂直偏波及び水平偏波の受信レベルの差分値を算出する演算部8と、算出された差分値が所定の閾値以下である場合に、上記垂直偏波及び水平偏波のうち受信レベルが高い偏波を受信アンテナ2から上記信号増幅部4に入力するように伝送路を切り替えるスイッチ制御部9及び切替スイッチ7とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線基地局と無線端末機器とを中継する無線中継装置及び無線信号中継方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、無線基地局(以下、単に「基地局」と称する)や移動局(携帯電話等)の一方から受信した電波を増幅して他方に向けて再放射する無線中継装置(レピータ装置)が広く利用されている。このレピータ装置は、主として建物の密集地や屋内等における極所的な通信環境の維持・改善に利用されている。そのため、電波がレピータ装置に到達する際には、多くの場合、周辺建物や地形等の影響で反射や回折によって垂直偏波と水平偏波とが混在した状態となっている。何れの偏波を優先的に受信するかによってレピータ装置の入力(受信レベル)は大きく左右される。一般的に、この偏波の切替えは、アンテナ角度を調整することで行っている。しかし、レピータ装置の周囲の環境変化に応じて現場での頻繁な角度調整作業が必要になり、メンテナンスコストが嵩む原因となる。
【0003】
ここで、基地局や移動局では、垂直偏波と水平偏波の複数のアンテナを用意し、電波が強い方の偏波をリアルタイムで選択する偏波ダイバーシチが採用されている。これにより、移動局においては、基地局との相対位置やアンテナ角度の変化等による通信品質への影響を最小限に抑えることができる。また基地局においては、周辺環境を考慮してアンテナの角度等を設定しておくことで、通信品質を安定的に保つことができる。基地局や移動局における偏波ダイバーシチ機能については、例えば特許文献1〜4に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−115044号公報(段落[0037]、図11等)
【特許文献2】特表2000−509950号公報(請求項5、図5等)
【特許文献3】特開2003−244046号公報(段落[0016]、請求項1等)
【特許文献4】特開2003−46422号公報(段落[0018]、請求項1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した偏波ダイバーシチ機能をレピータ装置に導入して通信品質を維持・向上することが考えられる。レピータ装置が基地局の遠方に設置されている場合や、基地局との間に高層ビルなどの遮蔽物が存在する場合は、レピータ装置の平均受信レベルが低く、また、フェージングの影響も強く受けるためダイバーシチ効果は大きいと言える。上記した特許文献1にも、偏波ダイバーシチ機能を備えたレピータ装置が開示されている(特許文献2、請求項35、図12、図13、図16等)
【0006】
一方で、レピータ装置が基地局近傍の見通しに設置される場合もある。例えば、レピータ装置の設置後に近傍に基地局が設置された場合、ビルなどの遮蔽物がなくなった場合、設置基準を満たさず最適位置から外れた位置にレピータ装置を設置せざるを得なかった場合、などである。
【0007】
このような場合には、レピータ装置と基地局との間のパスロス(電波伝搬損失)は小さいためレピータ装置の平均受信レベルは高い。また、フェージングの影響も小さく、仮にフェージングの影響を受けても所要品質を満足できないレベルまで落ち込む確率は極めて低い。従って、偏波ダイバーシチを実行する必要性に乏しい。却って、頻繁に偏波切替を実行すると機器に負荷がかかり、経時的に機器の劣化や故障の原因にもなる。
【0008】
また、レピータ装置の設置環境に応じて、偏波ダイバーシチ機能を有するタイプと有しないタイプとを使い分けるのは、製造コスト等の点で負荷が大きい。さらに、上記したように、レピータ装置の周辺環境は基地局やビルの新設若しくは撤去、道路の拡張などによって経時的に変化する。このような環境変化に応じて現地の再調査やレピータ装置の交換を行うのはコストや現場作業の負荷が大きい。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、無線中継装置において必要な場合にだけ偏波切替を実行することで、安定した稼働動作を担保し、コストや現場作業の負荷を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る無線中継装置は、受信アンテナと、信号増幅手段と、送信アンテナと、算出手段と、偏波切替手段とを具備する。
受信アンテナは、中継元の無線通信装置から放射された無線信号の垂直偏波及び水平偏波を夫々独立して受信する。
信号増幅手段は、上記受信アンテナから垂直偏波若しくは水平偏波の何れかの信号を受信して増幅する。
算出手段は、上記垂直偏波及び水平偏波のそれぞれの受信レベルの差分値を算出する。
偏波切替手段は、上記算出手段が算出した差分値が所定の閾値以下である場合に、上記垂直偏波及び水平偏波のうち受信レベルが高い偏波を上記受信アンテナから上記信号増幅手段へ入力するように切替える。
【0011】
このような構成により、垂直偏波と水平偏波との受信レベルの差分が小さく偏波切替の必要性が高い場合にだけ切替処理を実行することができ、無線中継装置の安定動作を確保できる。また、設置現場に応じて複数タイプの無線中継装置を用意したり、環境変化等に応じて頻繁にメンテナンスをする必要がない。
【0012】
また、本発明の他の一形態に係る無線信号中継方法は、偏波受信ステップと、信号増幅ステップと、算出ステップと、偏波切替ステップとを具備する。
偏波受信ステップは、受信アンテナが中継元の無線通信装置から放射された無線信号の垂直偏波及び水平偏波を夫々独立して受信する。
信号増幅ステップは、上記受信アンテナから垂直偏波若しくは水平偏波の何れかの信号を受信して増幅する。
算出ステップは、上記垂直偏波及び水平偏波のそれぞれの受信レベルの差分値を算出する。
偏波切替ステップは、上記算出ステップで算出された差分値が所定の閾値以下である場合に、上記垂直偏波及び水平偏波のうち受信レベルが高い偏波を上記受信アンテナから上記信号増幅手段へ入力するように切替える。
【0013】
このような構成により、垂直偏波と水平偏波との受信レベルの差分が小さく偏波切替の必要性が高い場合にだけ切替処理を実行することができ、無線中継装置の安定動作を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るレピータ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同じく、偏波と基準値との関係を示す図である。
【図3】同じく、偏波と基準値との関係を示す図である。
【図4】同じく、偏波切替の処理工程を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るレピータ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】同じく、処理工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい実施態様においては、さらに、受信レベル測定手段を具備する。
この受信レベル測定手段は、特定時点で受信アンテナが受信した垂直偏波及び水平偏波の受信レベルを測定し、記憶装置に記憶する。
上記算出手段は、所定のタイミングで上記記憶装置に記憶された垂直偏波及び水平偏波のそれぞれの受信レベルの差分値を算出する。
このような構成により、受信レベルの測定時点とは別に偏波の差分値を算出するタイミングを柔軟に設定することができる。
【0016】
本発明の好ましい他の実施態様においては、上記受信レベル測定手段は、複数の特定時点で垂直偏波及び水平偏波の受信レベルを測定して夫々記憶装置に記憶する。
上記算出手段は、記憶装置に記憶された垂直偏波及び水平偏波の複数の受信レベルの平均値について差分値を算出する。
このような構成により、瞬間的な異常値に左右されず、一定期間内の平均値の差分値に基づいて偏波切替の要否を適切に判定できる。
【0017】
本発明の好ましい他の実施態様においては、さらに、遠隔監視制御モデムを具備する。
この遠隔監視制御モデムは、無線中継装置を遠隔監視する管理サーバに対して、上記受信アンテナが受信した垂直偏波及び/若しくは水平偏波の信号受信レベルを所定のタイミングで送信する。
このような構成により、管理サーバにおいて、無線中継装置の稼動状態、通信環境などを容易に遠隔監視することができる。
【0018】
本発明の好ましい他の実施態様においては、さらに、第1のカプラを具備する。
この第1のカプラは、上記受信アンテナが受信した垂直偏波及び水平偏波の伝送路を、夫々遠隔監視制御モデム及び信号増幅手段への2系統に分岐する。
上記遠隔監視制御モデムは、上記第1のカプラから分岐され自身が受信した垂直偏波若しくは水平偏波の信号受信レベルを管理サーバに送信する
このような構成により、遠隔監視制御モデムを備えた従来の無線中継装置に最小限の設計変更を加えるだけで本発明を容易に適用することができる。
【0019】
本発明の好ましい他の実施態様においては、さらに、出力検出手段と、演算部とを具備する。
出力検出手段は、上記信号増幅手段で増幅された垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号の受信レベルを検出する。
演算部は、検出された増幅後の偏波の受信レベルに基づいて、増幅前の偏波の受信レベルを算出する。
上記遠隔監視制御モデムは、垂直偏波若しくは水平偏波の他方の信号を取得する。
上記算出手段は、演算部が算出した垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号レベルと、遠隔監視制御モデムが取得した垂直偏波若しくは水平偏波の他方の信号のレベルとの差分値を算出する。
このような構成により、受信アンテナが受信した信号の一部を遠隔監視制御モデムに分配しなくても垂直偏波及び水平偏波の受信レベルの差分値を算出することができる。これにより、分岐ロスが発生せず、信号増幅手段の入力を最大にすることができる。
【0020】
本発明の好ましい他の実施態様においては、さらに、第2のカプラを具備する。
この第2のカプラは、上記信号増幅手段で増幅された垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号の伝送路を、上記出力検出手段及び送信アンテナへの2系統に分岐する。
このような構成により、受信アンテナが受信した信号の一部を遠隔監視制御用に分配せずに、全て信号増幅手段で増幅することができる。また、他方の偏波が全て遠隔監視制御モデムに入力される。これにより、低入力時でも遠隔監視制御モデムでレベル検出が可能になる
【0021】
本発明の好ましい他の実施態様においては、さらに、判定時期受付手段を具備する。
この判定時期受付手段は、上記遠隔監視制御モデムを介して、管理サーバから上記算出手段の算出周期若しくは算出時期の指示を受け付ける。
上記算出手段は、受け付けた算出周期若しくは算出時期に差分値を算出する
このような構成により、現場の通信環境や環境変化等に応じて、受信レベルの差分値を算出する周期やタイミングを適切に遠隔制御できる。ここで、「周期」は、1時間毎、24時間毎などの周期を意味し、「時期(タイミング)」は、年月日や日時、曜日などを意味する。また、「平日の朝8時から1時間毎に5回」のように、両方を組み合わせて指定することもできる。
【0022】
(本発明の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る無線中継装置(レピータ装置)の構成を示すブロック図である。この図に示すように、本実施形態に係る無線中継装置1は、垂直偏波及び水平偏波を夫々受信する垂直偏波アンテナ2A及び水平偏波アンテナ2Bと、受信した信号を増幅する信号増幅部(アンプ)4を内蔵した中継増幅ユニット3と、増幅された信号を中継先の無線通信装置(携帯電話や他の無線中継装置等)に向けて放射する送信アンテナ5とから構成される。なお、以下の説明における入/出力、送/受信などの表現は、無線基地局から移動局へのダウンリンクを基準にしている。
【0023】
垂直偏波アンテナ2A及び水平偏波アンテナ2Bは、中継元の基地局BSから放射された電波の垂直偏波及び水平偏波を夫々独立して受信できる構造や角度で設置される。何れのアンテナも、ダイポールアンテナ、ループアンテナ、ロッドアンテナ、平面アンテナ等の従来周知の種々のタイプのアンテナを適宜採用できる。上記の送信アンテナ5も同様である。また、再表2005-11148号公報、特表平10-501661号公報、特開2008-236656号公報などに開示されている垂直偏波と水平偏波とを同時に受信可能なアンテナを採用してもよい。なお、以下の説明においては、垂直偏波アンテナ2A及び水平偏波アンテナ2Bを受信アンテナ2と表記する。また、特に言及しない限り、垂直偏波が増幅対象信号として選択されたことにする。
【0024】
中継増幅ユニット3は、上記した信号増幅部4と、2つのカプラ6A、6Bと、切替スイッチ(SW)7と、演算部8と、スイッチ制御部9と、遠隔監視制御モデム10とを具備する。なお、電源やフィルタ等の従来周知の構成は省略している。
【0025】
信号増幅部(アンプ)4は、伝送路を通じて上記垂直偏波アンテナ2A(受信アンテナ)が受信した垂直偏波の信号を増幅する。この信号増幅機能は周知であるため、詳細説明は省略する。
【0026】
カプラ6A、6Bは、垂直偏波アンテナ2A、水平偏波アンテナ2Bが受信した垂直偏波及び水平偏波を、切替SW7(信号増幅部4)及び遠隔監視制御モデム10側の夫々の伝送路に所定の割合で分岐する部材である。このカプラ6A、6Bは、伝送路の切替えや分配比率の調整などの実体的な機能は有していない。
【0027】
切替スイッチ(SW)7は、スイッチ制御部9が判定した増幅対象信号(垂直偏波)が上記受信アンテナ2A、2Bから信号増幅部4に入力されるように信号の伝送路を切り替える機能を有する。その結果、増幅対象信号以外の偏波信号(水平偏波)が上記遠隔監視制御モデム10に入力されるように伝送路が切り替えられる。
【0028】
演算部8は、上記受信アンテナ2A、2Bが受信した垂直偏波及び水平偏波の受信レベルの差分値を算出する。この受信レベルは、1分、1時間などの所定周期で遠隔監視制御モデム10が測定し、内部メモリ11に記録している。本実施形態では、所定期間内に計測された垂直偏波及び水平偏波の受信レベルについて夫々平均値を算出し、この平均値の差分値を算出する。これにより、瞬間的、突発的な異常値による影響を最小限に止めて、偏波切替の判定精度を維持することができる。
【0029】
上記した受信レベルの計測、平均値の算出及び平均値の差分算出処理は、リアルタイムで行なう必要はない。例えば、受信レベルの計測を1時間毎に実行し、平均値算出及び差分算出処理を6時間、12時間などの所定周期で行なうことができる。すなわち、周囲の環境等によって垂直偏波、水平偏波のレベルが大きく変化するタイミングで受信レベルの平均値の差分値を算出してスイッチ制御部9に偏波切替の要否等を判定させるのが好ましい。そして、この差分算出処理の周期やタイミングに合わせて、受信レベルの計測周期が設定される。
【0030】
また、本実施形態の演算部8は、上記遠隔監視制御モデム10を介して、管理サーバCSから種々の設定変更指示を受け付けて処理する機能も有する。具体的には、基準値11Aの変更指示を受け付けてメモリに記録された基準値を更新する機能(閾値変更指示受付機能、更新機能)、受信レベルの計測周期や、差分値及び平均値の算出時等の変更指示を受け付けて更新する機能(判定時期受付機能)などである。
【0031】
スイッチ制御部9は、演算部8が算出した垂直偏波及び水平偏波の平均値の差分値を内部メモリ(閾値記憶手段)11に記録された偏波切替の基準値(閾値)11Aと比較し、基準値11A以下であるかに基づいて偏波ダイバーシチの要否を判定する。
【0032】
無線中継装置1が基地局BSの近傍でかつ見通し内に設置された場合、垂直偏波及び水平偏波の受信レベルの差分は数dB程度になる。この場合、垂直偏波及び水平偏波の受信レベルは高く、何れを選択しても所要品質レベルを下回ることはほとんどない。また、フェージングの影響も小さい。一方で、偏波切替を頻繁に繰り返すと、機器の負荷が大きくなり故障や経時劣化の原因になる。そこで、本実施形態では、垂直偏波及び水平偏波の受信レベル(平均値)の差が基準値11Aを超えている場合は、基地局BSの近傍等で通話品質は高いとみなして、偏波ダイバーシチを実行せず、機器の安定稼動と受信品質の改善との両立を図ることにした。逆に、垂直偏波及び水平偏波の受信レベル(平均値)の差が基準値11A以下である場合は、基地局遠方などで受信品質が低いと判断し、偏波ダイバーシチを実行する。
【0033】
上記した偏波切替の基準値11Aは、無線中継装置1を設置した時や電源をONした時に、遠隔監視制御モデム10によって測定された2種類の偏波の差分をそのまま採用したり、所定期間内の差分の最大値・最小値・平均値等を採用することができる。また、定期/不定期のメンテナンスの際に現場の状況に応じてマニュアルで設定・調整してもよい。
【0034】
次に、スイッチ制御部9の判定の例を図2及び図3を参照して説明する。これらの図において、横軸は時間(t)、各図の(A)(B)における縦軸は受信レベル、t1〜t3は、偏波切替の要否判定が実行される時点を夫々表している。また、各図の(C)は、偏波切替(ダイバーシチ)の実行/非実行を示している。偏波切替の実行期間においては、従来の偏波ダイバーシチと同様に、受信レベルの高い方の偏波がリアルタイムで判定・選択され、信号増幅部4で増幅される。
【0035】
まず、図2の例では、偏波切替の要否判定が行われるt1〜t3の何れの時点でも、その前の判定時期(t0〜t2)以降の垂直偏波の平均値Vavと水平偏波の平均値Havとの差分Δt1〜Δt3が基準値(S)よりも大きいため(Δtn>S)、通話品質は高く偏波切替は不要と判定される。その結果、偏波切替は実行されず、現在の増幅対象信号である偏波(垂直偏波)が引き続き信号増幅部4に入力される。なお、偏波切替の要否判定においては、所要通話品質(C)との差は考慮しない。
【0036】
また、図3の例では、最初の判定時期であるt1の時点では、t0〜t1の期間における垂直偏波の平均値Vavと水平偏波の平均値Havとの差分Δt1が基準値(S)よりも大きいため(Δt1>S)、偏波切替不要と判定される。そのため、次の判定時期であるt2が到来するまで偏波切替は実行されない。
【0037】
t1の後、垂直偏波のレベルが徐々に上がってきて水平偏波のレベルに近づいてきている。その結果、t1〜t2の期間では、2つの偏波の平均値の差分Δt2が基準値(S)以下になり(Δt2≦S)、偏波切替要と判定される。そのため、次の判定時期t3が到来するまでリアルタイムで偏波切替(偏波ダイバーシチ)が実行される。具体的には、スイッチ制御部9が垂直偏波の受信レベルVavと水平偏波の受信レベルとを比較し、大きい方の偏波が信号増幅部4に入力されるように伝送路の切替えを切替スイッチ7に指示する(図3(C)参照)。
【0038】
また、t2〜t3の間に垂直偏波のレベルは徐々に高くなり、水平偏波は徐々に低くなっている。その結果、t2〜t3の期間においては、両偏波の平均値の差分Δt3が基準値(S)より大きくなっている(Δt3>S)。そのため、次の判定タイミングが到来するまで偏波切替不要と判定される。
【0039】
遠隔監視制御モデム10は、2つのカプラ6A、6Bから夫々分岐された伝送路を介して受信アンテナ2が受信した信号のレベルを取得し、この受信レベルを複数の無線中継装置1、1…を遠隔監視する管理サーバCSに対して所定のタイミングで送信する。上記したように、この遠隔監視制御モデム10には、信号増幅部4に入力される偏波(垂直偏波)ではない方の偏波(水平偏波)が入力される。ここで、遠隔監視制御モデム10の電力制御範囲は、信号増幅部4の動作電力範囲よりも大きいため、信号増幅部9を優先して偏波アンテナを選択しても実用上問題ない。
【0040】
また、本実施形態の遠隔監視制御モデム10は、特定のタイミングや、予め設定された所定周期(1時間毎、6時間毎など)で、上記受信アンテナ2A、2Bが受信した垂直偏波及び水平偏波の受信レベルを測定し、上記内部メモリ11に格納する機能(受信レベル測定機能)も有する。測定のタイミングは、上記の他、無線中継装置1の設置時や電源をONした時、若しくは管理サーバCSから遠隔指示された場合などを含めてもよい。また、時間帯や曜日、季節などに応じて異ならせてもよい。例えば、オフィス街では、平日の通勤時間帯や昼休みなどに受信レベルの計測周期や差分算出周期を短く設定し(1分毎に計測、10分毎に差分算出など)、それ以外の時間帯や週末では長い周期で設定する(1時間毎に計測、6時間毎に差分算出など)。
【0041】
ここで、図2、図3の何れの例でも、垂直偏波及び水平偏波は所要(通話)品質レベルCより高いので、何れの偏波を選択して増幅しても無線中継装置1(基地局BS)がカバーするエリア内の通話品質に影響はない。一方で、偏波切替の要否をリアルタイムで判定し偏波切替えを実行する設定にすると、例えば、図3のt2の直前のように、一瞬だけ受信レベルの高い偏波が入れ替わった場合でも偏波切替が実行される。そして、その直後に偏波切替が再度実行されることになる。そのため、機器への負荷が大きくなり経時劣化や故障の原因となる。
【0042】
図2、図3のパターンは、同一の無線中継装置において、時間帯、曜日(特に、平日か週末か)、周辺道路の交通量、季節等によって生じる可能性がある。そのため、何れかの偏波の受信レベルに変動が生じた場合に常に偏波切替を実行するのではなく、一定期間における2つの偏波の差分が一定範囲内にある場合にだけ偏波切替を実行することにした。
【0043】
すなわち、一定期間における両偏波の平均値の差分(Δtn)が基準値(S)より大きい限り、スイッチ制御の要否判定及び伝送路の切替えは行なわれず、現在、信号増幅部4に入力されている偏波が継続して入力(増幅)される。
【0044】
なお、無線中継装置1は、上記した構成以外に、例えば、ハウリングのような発振を防止する干渉除去機能などを備えてもよい。
【0045】
(偏波切替手順)
次に、図4のフローチャートを参照して、本実施形態の偏波切替の手順を説明する。
【0046】
まず、受信アンテナ2が受信した垂直偏波及び水平偏波がカプラ6A、6Bを介して遠隔制御モデム10に入力され、受信レベルが測定される(S1)。測定された受信レベルは測定時刻と偏波の種別と共に、演算部10の内部メモリに記録される。この受信レベルの計測処理は判定時期が到来するまで継続される(S2)。偏波切替の判定時期の到来は演算部8が監視する。なお、受信レベルの測定及び記録は、偏波切替の要否と無関係に実行される。
【0047】
判定時期が到来すると(S2のYes)、演算部8はメモリ10に記録された所定期間内の受信レベルを読み出して、垂直偏波及び水平偏波の平均値(Vav、Hav)及びそれらの差分(Δtn)を夫々算出する(S3)。また、演算部8は、平均値の差分Δtnをメモリ11に記憶された基準値(S)と比較する(S4)。
【0048】
平均値の差分Δtnが基準値(S)以下である場合には(S5のYes)、この無線中継装置は基地局遠方である(受信品質が高くない)確率が高いため、演算部8は偏波切替要と判定する(S6)。そして、スイッチ制御部9は、リアルタイムで偏波ダイバーシチを実行する(S7)。すなわち、遠隔監視制御モデム10から取得した垂直偏波及び水平偏波の受信レベルが大きい方の偏波が信号増幅部4に入力されるように切替スイッチ7を切り替える。この偏波ダイバーシチは、次の判定時期が到来するまで継続する(S8)。なお、偏波切替要の場合に、平均値ではなく、メモリ11に記録された最新の受信レベルや、所定期間内の最大値、最小値などを比較対象として増幅対象信号となる偏波を判定してもよい。また、偏波切替要と判定された場合は、上記のように受信品質が高くない場合が多いため、リアルタイムでアンテナ切替を実行して受信品質を向上させるのが好ましい。
【0049】
一方、平均値の差分Δtnが基準値(S)を超えている場合には(S5のNo)、演算部8は偏波切替不要と判定する(S9)。その結果、次の判定時期が到来するまでスイッチの切替は行われずに、受信レベルの測定処理にリターンする。
【0050】
なお、上記のように、内部メモリ11の記憶容量を確保するため、偏波の平均値を算出した後、偏波切替の要否を判定した後、若しくは所定周期(24時間毎等)で、メモリ11に記録した各偏波の受信レベルのデータをクリア(消去)したり、算出した平均値に置換してもよい。また、無線中継装置の電源をONにした時(機器の設置時)に測定した偏波に基づいて偏波ダイバーシチの実行要否を判定するようにしてもよい。この場合は、内部メモリ11に受信レベルのデータを記録しなくてもよい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の無線中継装置は、基地局遠方と基地局近傍との偏波特性の違いを利用して、偏波切替の閾値を設定する。そして、基地局近傍の見通し内のように、何れの偏波を増幅対象信号として選択しても所要品質を確保できる場合は偏波切替を実施しない。したがって、無線中継装置への負荷が軽減され、安定稼動やメンテナンスコストの低減を図ることができる。
また、無線中継装置の種々の設置環境に対して偏波切替の要否を自動的かつ適切に判定することができる。
これにより、受信品質の改善と、機器の故障発生率の低減とを両立させることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、図5、図6を参照して本発明の第2の実施形態に係る無線中継装置を説明する。
この実施形態は、受信アンテナから受信した電波をカプラで分岐させず、何れかの受信偏波を全て信号増幅部に入力させて無線中継装置の入力を確保する点に特徴を有する。具体的には、この実施形態では、2種類の偏波のうち、増幅対象の偏波の受信レベルを直接測定するのではなく、計算によって推定するようにしている。以下においては、上記した第1の実施形態と共通の構成及び相当する構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
図5に示すように、この無線中継装置20は、受信アンテナ2A、2Bと、中継増幅ユニット21と送信アンテナ5とから構成される。中継増幅ユニット21は、信号増幅部4、切替スイッチ22、演算部8、スイッチ制御部9、遠隔監視制御モデム10、出力検出器23及びカプラ24(第2のカプラ)を具備する。
【0054】
切替スイッチ22は、受信アンテナ2側の入力経路から入力される2種類の偏波を、信号増幅部4に接続される第1の出力側伝送路と、遠隔監視制御モデム10に接続される第2の出力側伝送路とに切り替えるものである。上記したように、この実施形態では、受信アンテナ2の下流側(信号増幅部4や遠隔監視制御モデム10との間)にカプラを設けず、受信アンテナ2から切替スイッチ22に直接到達した偏波信号の一方がそのまま信号増幅部4に、他方の偏波が遠隔監視制御モデム10に入力される。すなわち、何れの偏波が増幅対象信号として選択された場合でも、一部が遠隔監視制御モデム10等へ分配されることなく、全てが信号増幅部4に入力される。これにより、無線中継装置の入力を最大にすることができる。
【0055】
出力検出器23は、信号増幅部4で増幅された垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号の受信レベルを検出する。また、カプラ24は、増幅後の信号を送信アンテナ5及び出力検出器23に分配するものである。そのため、上記した第1の実施形態のように、カプラで分岐した受信信号の一部を遠隔監視制御モデム10に入力する場合に比べて、遠隔監視制御モデム10に入力される信号レベルを高くすることができる。これにより、低入力時でも遠隔監視制御モデム10でレベル検出が可能になる。
【0056】
遠隔監視制御モデム10は、切替スイッチ22を介して、受信アンテナ2から垂直偏波若しくは水平偏波の他方の信号を取得し、受信レベルを計測して、管理サーバCS及び演算部8に伝送する。
【0057】
演算部8は、上記出力検出器23が検出した垂直偏波若しくは水平偏波の一方の増幅後の信号レベルに基づいてアンテナ受信時の信号レベルを算出(推定)し、この推定値と、遠隔監視制御モデム10が測定した垂直偏波若しくは水平偏波の他方の信号の受信レベルとの差分値を計算して偏波切替要否を判定する。信号レベルの算出は、以下の式に示すように、増幅後の信号レベル(R)から、信号増幅部4による利得(G)を減算し、カプラ24による分岐ロス(X)を加算することで、アンテナ受信時(増幅前)の入力信号レベル(R)を推定する。
(dB)=R(dB)−G(dB)+X(dB)
【0058】
(偏波切替手順)
次に、図6のフローチャートを参照して、本実施形態の特徴的な処理工程を説明する。以下の処理は、図4に示した第1の実施形態のフローチャートのS1に相当する。
【0059】
まず、受信アンテナ2が垂直偏波及び水平偏波を受信すると(S20−1、S20−2)、切替スイッチ22によって各偏波が信号増幅部4若しくは遠隔制御モデム10に入力される。この例では、初期設定で垂直偏波が増幅対象信号となり、水平偏波が遠隔制御モデム10に入力される。図中のV、Hは各偏波のアンテナ受信レベル、R、Mは信号増幅部4及び遠隔制御モデム10への入力レベルを夫々示す。
【0060】
垂直偏波は、信号増幅部4によって増幅される(S22)。この時の利得をGで表す。増幅された垂直偏波は、カプラ24によって送信アンテナ5と出力検出器23とに分岐される(S23)。この時の出力検出器23に入力されるカプラロスをXで表す。送信アンテナ5に伝送された信号はそのまま放射される(S24)。この時の出力(放射)レベルをROで示す。
【0061】
出力検出器23は、伝送された信号、すなわち上記アンテナ放射レベルROを検出して演算部8に転送する(S25)。そして、演算部8は、検出された出力値RO、上記カプラロスX、及び信号増幅部4の利得Gとをパラメータとして、受信アンテナ2による受信レベルを算出(推定)する(S26)。
【0062】
一方、S21で遠隔監視制御モデム10に伝送された水平偏波については、遠隔監視制御モデム10が入力値(M)を測定する(S27)。
【0063】
推定された垂直偏波の受信レベルR及び、S27で測定された水平偏波の受信レベルMは、演算部8及び遠隔監視制御モデム10によって演算部8の内部メモリ11に時刻及び偏波種別と共に記録される(S28)。メモリ11に記録された受信レベルのデータは、第1の実施形態で説明したように、偏波切替要否の判定時期が到来すると夫々平均値が算出され、基準値Sと比較される(図4のS2〜S5等)。
【0064】
上記したように、本実施形態においては、アンテナが受信した偏波をカプラで分配せずに全て信号増幅部4に入力するようにした。これにより、最大限の入力を確保できると共に、機器の劣化等も有効に防止できる。また、低入力時でも遠隔監視制御モデムに十分なレベルの信号を入力することができる。
【0065】
(変形例)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。
【0066】
例えば、上記の実施形態では、遠隔監視制御モデム10で無線測定機能を兼用していたが、専用の測定手段を設けてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1、20…無線中継装置
2A…水平偏波アンテナ
2B…垂直偏波アンテナ
3、21…中継増幅ユニット
4…信号増幅部(アンプ)
5…送信アンテナ
6A、6B、24…カプラ
7、22…切替スイッチ(SW)
8…演算部
9…スイッチ制御部
10…遠隔監視制御モデム
11…メモリ
11A…切替基準値
11B…測定値
CS…管理サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中継元の無線通信装置から放射された無線信号の垂直偏波及び水平偏波を夫々独立して受信する受信アンテナと、
上記受信アンテナから垂直偏波若しくは水平偏波の何れかの信号を受信して増幅する信号増幅手段と、
上記垂直偏波及び水平偏波のそれぞれの受信レベルの差分値を算出する算出手段と、
上記算出手段が算出した差分値が所定の閾値以下である場合に、上記垂直偏波及び水平偏波のうち受信レベルが高い偏波を上記受信アンテナから上記信号増幅手段へ入力するように切替える偏波切替手段と
を具備する無線中継装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線中継装置であって、
さらに、特定時点で受信アンテナが受信した垂直偏波及び水平偏波の受信レベルを測定し、記憶装置に記憶する受信レベル測定手段を具備し、
上記算出手段は、所定のタイミングで上記記憶装置に記憶された垂直偏波及び水平偏波のそれぞれの受信レベルの差分値を算出する
無線中継装置。
【請求項3】
請求項2に記載の無線中継装置であって、
上記受信レベル測定手段は、複数の特定時点で垂直偏波及び水平偏波の受信レベルを測定して夫々記憶装置に記憶し、
上記算出手段は、記憶装置に記憶された垂直偏波及び水平偏波の複数の受信レベルの平均値について差分値を算出する
無線中継装置。
【請求項4】
請求項1に記載の無線中継装置であって、
さらに、無線中継装置を遠隔監視する管理サーバに対して、上記受信アンテナが受信した垂直偏波及び/若しくは水平偏波の信号受信レベルを所定のタイミングで送信する遠隔監視制御モデムを具備する
無線中継装置。
【請求項5】
請求項4に記載の無線中継装置であって、
さらに、上記受信アンテナが受信した垂直偏波及び水平偏波の伝送路を、夫々遠隔監視制御モデム及び信号増幅手段への2系統に分岐する第1のカプラを具備し、
上記遠隔監視制御モデムは、上記第1のカプラから分岐され自身が受信した垂直偏波若しくは水平偏波の信号受信レベルを管理サーバに送信する
無線中継装置。
【請求項6】
請求項4に記載の無線中継装置であって、
さらに、上記信号増幅手段で増幅された垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号の受信レベルを検出する出力検出手段と、
検出された増幅後の偏波の受信レベルに基づいて、増幅前の偏波の受信レベルを算出する演算部と、を備え、
上記遠隔監視制御モデムは、垂直偏波若しくは水平偏波の他方の信号を取得し、
上記算出手段は、演算部が算出した垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号レベルと、遠隔監視制御モデムが取得した垂直偏波若しくは水平偏波の他方の信号のレベルとの差分値を算出する
無線中継装置。
【請求項7】
請求項6に記載の無線中継装置であって、
さらに、上記信号増幅手段で増幅された垂直偏波若しくは水平偏波の一方の信号の伝送路を、上記出力検出手段及び送信アンテナへの2系統に分岐する第2のカプラを具備する
無線中継装置。
【請求項8】
請求項4に記載の無線中継装置であって、
さらに、上記遠隔監視制御モデムを介して、管理サーバから上記算出手段の算出周期若しくは算出時期の指示を受け付ける判定時期受付手段を具備し、
上記算出手段は、受け付けた算出周期若しくは算出時期に差分値を算出する
無線中継装置。
【請求項9】
受信アンテナが中継元の無線通信装置から放射された無線信号の垂直偏波及び水平偏波を夫々独立して受信する偏波受信ステップと、
上記受信アンテナから垂直偏波若しくは水平偏波の何れかの信号を受信して増幅する信号増幅ステップと、
上記垂直偏波及び水平偏波のそれぞれの受信レベルの差分値を算出する算出ステップと、
上記算出ステップで算出された差分値が所定の閾値以下である場合に、上記垂直偏波及び水平偏波のうち受信レベルが高い偏波を上記受信アンテナから上記信号増幅手段へ入力するように切替える偏波切替ステップと
を具備する無線信号中継方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−288057(P2010−288057A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140084(P2009−140084)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(501440684)ソフトバンクモバイル株式会社 (654)
【出願人】(501275178)ソフトバンクBB株式会社 (112)
【Fターム(参考)】