説明

無線回線設計支援システムおよび無線回線設計支援プログラム

【課題】 予測領域全体での電波伝播区間損失を一元的に把握することができる無線回線設計支援システムおよび無線回線設計支援プログラムを提供する。
【解決手段】 基準点Xを中心とする予測領域Sにおける電波伝播区間損失について、基準点Xを中心に複数の放射状に設定された基線Rnに基づいて演算するとともに所定の電波伝播区間損失レベルlv0,lv1,lv2,…に区分して電波伝播区間損失分布データを作成し、当該電波伝播区間損失分布データを地図上に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波応用通信設備等の置局検討およびその回線設計業務において用いられる無線回線設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線局等の電波応用通信設備の置局検討およびその回線設計業務においては、電波伝播の予測および実測を行っている。具体的には、まず、設計領域の数値地図データ(特に、標高値)に基づいて所定の基地局(基準点)からの電波伝播区間の見通し図(基準点から所定の定点を通る基線上の電波伝播区間損失を当該基線上の標高データより予測する)を作成する(例えば、非特許文献1参照)。そして、電波伝播の損失が生じる領域およびその損失の程度を予測する(例えば、特許文献2,3参照)。
【0003】
一方、所定の基地局から電波を送信している状態で、設計領域に電波を受信可能な計測車両を走らせることにより、受信した電波の電界強度を解析している(例えば、特許文献1,2参照)。そして、計測車両による実際の測定値と予測値とを照会することにより、最終的な電波応用通信設備の設計検討を行っている(例えば、非特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−160086号公報
【特許文献2】特開平5−302944号公報
【非特許文献1】黒川廣、渋谷茂一著「マイクロウェーブ伝搬解説 第9版」P361-363
【非特許文献2】渋谷茂一著「電波伝搬基礎図表 第2版」P300-301
【非特許文献3】電気技術調査委員会編「電力保安通信規程 電気技術規程通信編」1991,P518-640
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来において、上記従来技術は、以下のような問題があった。まず第1に地図データの等高線等に基づいて電波伝播区間の見通し図は手作業で計測するものであり、設計領域全体をカバーするには、膨大な時間がかかっていた。しかも、上記見通し図は、基準点から一直線上の電波伝播区間損失を調べることはできるものの、予測領域全体での電波伝播区間損失を把握することは容易ではなかった。第2に予測と実測との連携が十分ではなく、それぞれを十分に有効利用することができなかった。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するべくなされたもので、予測領域全体での電波伝播区間損失を一元的に把握することができる無線回線設計支援システムおよび無線回線設計支援プログラムを提供することを第1の課題とする。また、電波伝播区間損失の予測データと実測データとを有効利用することができる無線回線設計支援システムを提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無線回線設計支援システムは、前記第1の課題を解決すべく、所定の基準点からの電波伝播状況を予測し、無線設備の置局検討およびその回線設計の支援を行う無線回線設計支援システムであって、地図上の座標および当該座標における標高を含む数値地図データベースを格納する数値地図データ記憶部と、地図上の所定の基準点および所定の定点の入力を受けて、前記数値地図データ記憶部より前記基準点から定点を通る基線上における一連の標高データを読み出し、当該標高データに基づいて基準点から所定の電波を送信したときの前記基線上における電波伝播区間損失を積算する電波伝播区間損失演算部と、演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線上の地点を段階的に記録することにより前記基線を複数の電波伝播区間損失レベルに区分して電波伝播区間損失分布データを作成する電波伝播区間損失分布演算部と、前記基準点を中心に前記基線を所定角度ごとに回転させた基線について、当該基線ごとに電波伝播区間損失分布データの作成を繰り返す繰り返し演算部と、演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、前記基準点を中心とする予測領域の前記電波伝播区間損失分布を前記数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示する電波伝播区間損失分布地図表示部とを有するものである。
【0007】
上記構成の無線回線設計支援システムによれば、数値地図データ記憶部に数値地図データベースが格納される。数値地図データベースには、座標および当該座標における標高が含まれている。地図上の所定の基準点および所定の定点の入力を受けると、電波伝播区間損失演算部において、前記数値地図データ記憶部より前記基準点から定点を通る基線上における一連の標高データが読み出され、当該標高データから基準点から所定の電波を送信したときの前記基線上における電波伝播区間損失が積算される。続いて、積算された電波伝播区間損失に基づいて電波伝播区間損失分布演算部により、演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線上の地点が段階的に記録される。これにより、前記基線を複数の電波伝播区間損失レベルに区分した電波伝播区間損失分布データが作成される。さらに、繰り返し演算部により、基準点を中心に前記基線を所定角度ごとに回転させた基線について、当該基線ごとに上記と同様の電波伝播区間損失分布データを作成すべく上記処理が繰り返される。そして、電波伝播区間損失分布地図表示部により、演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、前記基準点を中心とする予測領域の前記電波伝播区間損失分布が前記数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示される。
【0008】
このように、基準点を中心とする予測領域における電波伝播区間損失を基準点中心に複数の放射状に設定された基線に基づいて演算するとともに所定の電波伝播区間損失レベルに区分して電波伝播区間損失分布データを作成し、当該電波伝播区間損失分布データを地図上に表示することにより、基準点を中心とする予測領域全体における電波伝播区間損失状況を一元的に把握することができる。
【0009】
好ましくは、前記電波伝播区間損失分布地図は、基線間の等しい電波伝播区間損失レベルにある地点同士を結ぶことにより予測領域が区切られ、当該区切られた予測領域ごとに色分け表示されるように構成される。
【0010】
この場合、基線間の電波伝播区間損失レベルが等しい地点同士が結ばれることにより、予測領域が電波伝播区間損失レベルごとに区切られる。そして、区切られた領域に応じて異なる色で色分け表示される。すなわち、等しい電波伝播区間損失レベルの領域は等しい色が付され、異なる電波伝播区間損失レベルの領域は異なる色が付されることにより、色により電波伝播区間損失レベルが区別される。したがって、地図上の予測領域内の任意の地点において予想される電波伝播区間損失レベルが一見して把握できる。
【0011】
また、第2の課題を解決すべく、出力表示された前記電波伝播区間損失分布地図に基づいて設定された実走経路を走る測定車両において前記基準点に相当する地点からの送信電波を受信することにより電界強度を測定する実測部と、測定された電界強度の値を複数の電界強度レベルに区分して電界強度分布データを作成する電界強度分布データ演算部とを有し、前記電波伝播区間損失分布地図表示部は、前記電界強度分布データに基づいて電波伝播区間損失分布地図における実走経路上の実測地点ごとに電界強度レベルを出力表示するように構成される。
【0012】
この場合、電波伝播区間損失分布地図に基づいて測定車両の実走経路を設定し、実走経路上を実際に測定車両が走行しながら基準点に相当する地点からの送信された電波の電界強度を測定する。そして、実測部により、受信した送信電波の電界強度が測定される。実測部において測定された電界強度の実測値は、電界強度分布データ演算部により、複数の電界強度レベルに区分され、電界強度分布データが作成される。さらに、当該電界強度分布データは、電波伝播区間損失分布地図表示部により、電波伝播区間損失分布地図における実走経路上の実測地点ごとに電界強度レベルが出力表示される。
【0013】
したがって、予測される電波伝播区間損失状況を一元的に把握可能な電波伝播区間損失分布地図に基づいて実測すべき地点を容易に設定することができるとともに、測定車両による実測結果を電波伝播区間損失分布地図に反映することができるため、電波伝播区間損失の予測データと実測データとをより有効に利用することができる。
【0014】
好ましくは、前記実測地点における数値地図データおよび電界強度を含む実測データが集計された実測データ表を記憶する実測データ表記憶部を有し、前記実測データは、前記電波伝播区間損失分布地図における実測地点と対応付けられており、実測地点を指示することにより、対応する実測データを出力表示可能に構成される。
【0015】
この場合、実測データ表記憶部に、実測地点における数値地図データおよび電界強度を含む実測データが集計された実測データ表として記憶される。この際、実測データのそれぞれは、電波伝播区間損失分布地図に表示された実測地点と対応付けられており、電波伝播区間損失分布地図表示部上で実測地点を指示することにより、対応する実測データが出力表示される。
【0016】
したがって、電波伝播区間損失分布地図上に表示された実測結果の詳細を容易に表示させることができるため、より効率的な利用を図ることができる。
【0017】
好ましくは、前記実測部で測定されたデータに基づいて前記実測データ表を自動作成する表作成部を有するように構成される。
【0018】
この場合、表作成部により、実測部で測定された実測データに基づいて実測データ表が自動作成される。したがって、実測データ表を作成する手間を省くことができるとともに、実測の後、実測データ表を即座に無線回線設計に生かすことができる。
【0019】
また、本発明の無線回線設計支援プログラムは、第1の課題を解決するべく、地図上の座標および当該座標における標高を含む数値地図データベースを使用して所定の基準点からの電波伝播状況を予測し、無線設備の置局検討およびその回線設計の支援を行う無線回線設計支援プログラムであって、コンピュータを地図上の所定の基準点および当該基準点および所定の定点の入力を受けて、前記数値地図データベースより前記基準点から定点を通る基線上における一連の標高データを読み出し、当該標高データに基づいて基準点から所定の電波を送信したときの前記基線上における電波伝播区間損失を積算する電波伝播区間損失演算部、演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線上の地点を段階的に記録することにより前記基線を複数の電波伝播区間損失レベルに区分して電波伝播区間損失分布データを作成する電波伝播区間損失分布演算部、前記基準点を中心に前記基線を所定角度ごとに回転させた基線について、当該基線ごとに電波伝播区間損失分布データの作成を繰り返す繰り返し演算部、および演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、前記基準点を中心として前記基線を半径とする予測領域の前記電波伝播区間損失分布を前記数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示すべく制御する電波伝播区間損失分布地図表示制御部として機能させるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る無線回線設計支援システムおよび無線回線設計支援プログラムによれば、基準点を中心とする予測領域における電波伝播区間損失について、基準点を中心に複数の放射状に設定された基線に基づいて演算するとともに所定の電波伝播区間損失レベルに区分して電波伝播区間損失分布データを作成し、当該電波伝播区間損失分布データを地図上に表示することにより、基準点を中心とする予測領域全体における電波伝播区間損失状況を一元的に把握することができる。
【0021】
また、本発明に係る無線回線設計支援システムによれば、予測される電波伝播区間損失状況を一元的に把握可能な電波伝播区間損失分布地図に基づいて実測すべき地点を容易に設定することができるとともに、測定車両による実測結果を電波伝播区間損失分布地図に反映することができるため、電波伝播区間損失の予測データと実測データとをより有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る無線回線設計支援システムの構成を示す概略ブロック図である。
【0023】
本実施形態の無線回線設計支援システムは、図1に示すように、入力装置1、記憶装置2、CPU3および表示装置4を含み、それぞれが信号バス5で相互通信可能に構成されている。すなわち、無線回線設計支援システムは、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを核とするシステムとして構築できる。
【0024】
入力装置1は、ユーザが各種入力を行うためのユーザインターフェイスであるキーボードやマウス等の入力機器のみならず、他の測定装置からのデータの受け渡しを行い得るGP−IB等のインターフェイス及びプリンター等のI/O機器をも含むものである。
【0025】
記憶装置2は、CPU3における各処理に用いるデータ等を一時記憶するRAM、本実施形態の無線回線設計支援プログラムを記憶するROMおよび外部記憶装置であるハードディスク装置及び、光学式ディスクドライブ装置を含むものである。記憶装置2の外部記憶装置は、地図上の座標および当該座標における標高を含む数値地図データベースを格納する数値地図データ記憶部21を有している。この数値地図データベースは、例えば、国土地理院の数値地図(50mメッシュ(標高))等の数値地図データベースが使用できる。
【0026】
表示装置4は、上記数値地図データ記憶部21に記憶される数値地図データベースに基づく所定の地図を表示可能である。図2は本実施形態における所定領域の地図表示画面を示す図である。
【0027】
CPU3は、入力装置1から入力されたデータ等および/または記憶装置2から読み出されたデータ等に基づいて各種処理を行うものであって、地図上の所定の基準点Xおよび所定の定点Yの入力を受けて、前記数値地図データ記憶部21より前記基準点Xから定点Yを通る基線R0上における一連の標高データを読み出し、当該標高データに基づいて基準点Xから所定の電波を送信したときの前記基線R0上の各地点における電波伝播区間損失を積算する電波伝播区間損失演算部31と、演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線R0上の地点L1,L2,…を段階的に記録することにより前記基線R0を複数の電波伝播区間損失レベル(lv0,lv1,lv2,…)に区分して電波伝播区間損失分布データを作成する電波伝播区間損失分布演算部32と、前記基準点Xを中心に前記基線R0を所定角度θごとに回転させた基線R1,R2,…について、当該基線R1,R2,…ごとに電波伝播区間損失分布データの作成を繰り返す繰り返し演算部33と、演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、前記基準点Xを中心として前記基線R(R0,R1,R2,…)を半径とする予測領域Sの前記電波伝播区間損失分布を表示装置4で表示する前記数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示させることにより、表示装置4を電波伝播区間損失分布地図表示部41として機能させるべく制御する電波伝播区間損失分布地図表示制御部34とを有している。
【0028】
ここで、本実施形態のシステムの電波伝播区間損失分布地図作成表示処理についてより具体的に説明する。図3は本実施形態における電波伝播区間損失分布地図作成表示処理についてのフローチャートである。
【0029】
まず、ユーザは、入力装置1を用いて基準点Xの座標と定点Yの座標とを入力する(ステップS1)。基準点Xおよび定点Yは、予め数値地図データ記憶部に記憶される数値地図データベースに基づいて表示装置2に地図を表示させた上で地図上をマウスでクリック等することにより入力してもよいし、座標値を直接入力することとしてもよい。
【0030】
さらに、表示させる電波伝播区間損失分布地図の精度を設定すべく回転角度θを設定入力するとともに、基準点Xを中心とし、基線Rnの距離を半径とする予測領域Sを設定すべく、基準点Xから定点Yを通る基線R0および基線R0より回転角度θずつ基準点Xを中心に回転させた基線R1,R2,…の設定を行う(ステップS2)。基線Rnの距離は、基準点Xと定点Yとの距離でもよいし、基準点Xから定点Yを通る所定の線分(図2参照)の距離としてもよい。回転角度θについては、入力することなく予め定められた固定値としてもよいし、当該固定値に加えて必要に応じて変更入力可能に構成してもよいし、後述する予測領域Sの大きさに応じて自動的に変更されるものとしてもよい。図4は図2における基線上の電波伝播区間損失を求めるための標高に関する見通し図を示す図である。図4に示すように、横軸を基準点Xからの距離、縦軸を標高として規定し、基線R0上の標高データに基づいて地形のプロフィールを表示するものである。また、基準点Xと定点Yとを通る楕円は第1フレネルゾーン軌跡を示すものである。
【0031】
上記ユーザからの入力を受けたCPU3は、まず基線Rnのnの値をリセット(初期値n=0)した上で(ステップS3)、電波伝播区間損失演算部31として機能し、数値地図データ記憶部21より前記基準点Xから定点Yを通る基線R0上における一連の標高データ(すなわち、基線R0上における地形のプロフィール)を読み出し(ステップS4)、当該標高データに基づいて基準点Xから所定の電波を送信したときの前記基線R0上の各地点における電波伝播区間損失を積算する(ステップS5)。2地点間の電波伝播区間損失の演算は、公知の方法、例えば、非特許文献2に記載された方法等により求められる。
【0032】
続いて、電波伝播区間損失演算部31における演算の後、CPU3は、電波伝播区間損失分布演算部32として機能し、演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線R0上の地点L1,L2,…を段階的に記録することにより前記基線R0を複数の電波伝播区間損失レベル(lv0,lv1,lv2,…)に区分して電波伝播区間損失分布データを作成する(ステップS6)。例えば、図4に示すように、損失が0である領域がlv0、0〜5dBの損失がある領域がlv1、5〜10dBの損失がある領域がlv2…(lv0とlv1との境界がL1、lv1とlv2との境界がL2…)といったように予め設定される。
【0033】
次に、基準点Xを中心に前記基線R0を所定角度θ回転させて基線R1を設定する(ステップS7)。この際、nの値としてθが加算され、n=θに変更される(ステップS8)。そして、新たに設定された基線R1について上記ステップS4〜S8と同様に基線R1についての電波伝播区間損失分布データが作成される。ここで、CPU3は、繰り返し演算部33として機能し、ステップS8においてθを加算することによりnの値が360となるまで(または360を超えるまで)、すなわち、設定される基線が一周するまで、基線R1,R2,…のそれぞれについての電波伝播区間損失分布データを順次作成する(ステップS9)。したがって、基準点Xを中心とする一周分の基線R0,R1,R2,…のそれぞれについての電波伝播区間損失分布データが作成される。例えば、所定角度θが1°の場合、360本の基線R0〜R359のそれぞれについて電波伝播区間損失レベルデータが作成されることとなる。
【0034】
そして、CPU3は、電波伝播区間損失分布地図表示制御部として機能し、表示装置4を電波伝播区間損失分布地図表示部41として機能させる。そして、演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、基準点Xを中心として基線R(R0,R1,R2,…)を半径とする予測領域Sの前記電波伝播区間損失分布を表示装置4で表示する数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示させる(ステップS10)。
【0035】
以上のように、基準点Xを中心とする予測領域Sにおける電波伝播区間損失を基準点Xを中心に複数の放射状に設定された基線Rnに基づいて演算するとともに所定の電波伝播区間損失レベルlv1,lv2,…に区分して電波伝播区間損失分布データを作成し、当該電波伝播区間損失分布データを地図上に表示することにより、基準点Xを中心とする予測領域S全体における電波伝播区間損失状況を一元的に把握することができる。
【0036】
図5は本実施形態において表示される電波伝播区間損失分布地図を示す図である。本実施形態においては、図5に示すように、電波伝播区間損失分布地図が、すべての基線Rnにおいて等しい電波伝播区間損失レベルにある地点L1,L2,…をそれぞれ結ぶことにより予測領域Sが区切られ、当該区切られた領域LV1,LV2,…ごとに色分け表示されるように構成される。
【0037】
つまり、すべての基線Rnについて電波伝播区間損失レベルlv1,lv2,…が等しい地点が結ばれることにより、予測領域Sが電波伝播区間損失レベルlv1,lv2,…ごとに区切られる。そして、区切られた領域LV1,LV2,…に応じて異なる色で色分け表示される。すなわち、等しい電波伝播区間損失レベルの領域は等しい色が付され、異なる電波伝播区間損失レベルの領域は異なる色が付されることにより、色により電波伝播区間損失レベルlv1,lv2,…が区別される。したがって、地図上の予測領域S内の任意の地点において予想される電波伝播区間損失レベルlv1,lv2,…が一見して把握できる。
【0038】
なお、本実施形態においては、図5のように電波伝播区間損失レベルごとに色分け表示することとしたが、本発明はこれに限られず、様々な表示態様が可能である。
【0039】
本実施形態においては、上記入力装置1、記憶装置2、CPU3および表示装置4を測定車両(図示せず)に搭載し、CPU3が、出力表示された前記電波伝播区間損失分布地図に基づいて設定された実走経路を走る測定車両において前記基準点Xに相当する地点からの送信された電波を受信することにより電界強度を測定する実測部35、および、測定された電界強度の値を複数の電界強度レベルに区分して電界強度分布データを作成する電界強度分布データ演算部36としても機能する。また、測定車両には、GPS(図示せず)が搭載されており、測定車両の現在地をCPU3に伝達可能に構成され、測定車両は、基準点Xに相当する地点から送信される所定の電波を受信可能なアンテナを具備している。
【0040】
まず、ユーザは、上記のように色分け表示された電波伝播区間損失分布地図を見ながら測定車両を走行させる実走経路を設定する。損失が予想される箇所を重点的に実測すべきであるので、電波伝播区間損失分布地図において電波伝播区間損失が生じると思われる箇所(電波伝播区間損失レベルlv1,lv2,…)を中心に実走経路を設定する。続いて、設定した実走経路上を実際に測定車両により走行しながら基準点Xに相当する地点からの送信された電波を受信する。
【0041】
CPU3は、実測部35として機能し、受信した電波の電界強度を測定する。すなわち、実走経路上の所定の座標と当該座標において実際に測定された電界強度をデータとして記憶装置2に記憶する。続いて、CPU3は、電界強度分布データ演算部36として機能し、実測部35において測定された電界強度の実測値のそれぞれを複数の電界強度レベルに区分し、電界強度分布データを作成する。
【0042】
そして、電波伝播区間損失分布地図表示部41に、当該電界強度分布データに基づいて、電波伝播区間損失分布地図における実走経路上の実測地点Ai(i=1,2,…)ごとに電界強度レベル(le1,le2,…)が出力表示される。図6は図5の電波伝播区間損失分布地図上に表示された電界強度レベルを示す部分の拡大図である。本実施形態においては、図6に示すように、電波伝播区間損失分布地図上の実走経路に相当する箇所に、各実測地点Aiが電界強度レベルに応じて色分け表示される。
【0043】
したがって、予測される電波伝播区間損失状況を一元的に把握可能な電波伝播区間損失分布地図に基づいて実測すべき地点(実測地点Ai)を容易に設定することができるとともに、測定車両による実測結果を電波伝播区間損失分布地図に反映することができるため、電波伝播区間損失の予測データと実測データとをより有効に利用することができる。
【0044】
本実施形態において、記憶装置2は、実測地点Aiにおける数値地図データおよび電界強度を含む実測データが集計された実測データ表を記憶する実測データ表記憶部22を有し、実測データは、前記電波伝播区間損失分布地図における実測地点Aiと対応付けられており、実測地点Aiを指示することにより、対応する実測データを出力表示可能に構成される。
【0045】
さらに、本実施形態において、CPU3は、表作成部37としても機能し、実測部35で測定されたデータに基づいて前記実測データ表を自動作成する。図7は本実施形態における各実測地点の実測データ表を示す図である。なお、本実施形態においては、実測データのパラメータは、座標、標高、基準点に対する方位、電波伝播区間損失レベルおよび電界強度レベルを例示しているが、これに限られるものではなく、空中線海抜高、送信設備条件(送信電力、空中線設備及び周波数等)、伝播区間損失値(自由空間損失や山岳遮蔽損失等)および区間信号対雑音比(S/N)等、無線回線設計に必要な情報を表示可能である。これにより、実測データ表を作成するユーザの手間を省くことができるとともに、実測の後、実測データ表を即座に無線回線設計に生かすことができる。
【0046】
本実施形態によれば、図6において、電波伝播区間損失分布地図上に表示されている実測地点Aiのそれぞれは、図7において、実測データ表に表示されている各実測地点Aiに対応する実測データ(実測地点表示lkA1,lkA2,…)とリンクしている。また、基準点X(図7のlkX)や定点Y等も同様にリンクが貼られることとしてもよい。
【0047】
したがって、図6において、実測地点Aiのいずれかをマウスでクリックし、該当する実測地点番号(Ai)を別途入力することによって、入力装置1を用いてユーザが指示することにより、図7の実測データ表の対応する実測データ箇所が表示装置4に表示される。このように、電波伝播区間損失分布地図上に表示された実測結果の詳細を容易に表示させることができるため、より効率的な利用を図ることができる。
【0048】
もちろん、図7において、実測データ表の実測地点表示lkAiのいずれかをマウスでクリック等することにより、図6の電波伝播区間損失分布地図が表示されることとしてもよい。なお、この際は、該当する実測地点Aiを点滅表示させる他、色を変えて表示させる等により、ユーザに分かり易く表示させることとすることが好ましい。

なお、本実施形態においては、測定車両内にすべての構成要素を搭載する態様について説明したが、これに限られるものではない。例えば、測定車両には、前記実測部35を搭載する一方、屋内(事業所等)にその他の構成要素を設置して、相互に通信可能な構成にすることも可能である。この際には、測定車両から実測部35において測定された実測データを屋内のシステムに送信する一方、屋内のシステムから電波伝播区間損失分布データを送信することにより、測定車両内においても実測を行いながら電波伝播区間損失分布地図の利用を図ることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線回線設計支援システムの構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本実施形態における所定領域の地図表示画面を示す図である。
【図3】本実施形態における電波伝播区間損失分布地図作成表示処理についてのフローチャートである。
【図4】図2における基線上の電波伝播区間損失を求めるための標高に関する見通し図を示す図である。
【図5】本実施形態において表示される電波伝播区間損失分布地図を示す図である。
【図6】図5の電波伝播区間損失分布地図上に表示された電界強度レベルを示す部分の拡大図である。
【図7】本実施形態における各実測地点の実測データ表を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1…入力装置
2…記憶装置、21…数値地図データ記憶部、22測定データ表記憶部
3…CPU、31…電波伝播区間損失演算部、32…電波伝播区間損失分布演算部、33…繰り返し演算部、34…電波伝播区間損失分布地図表示制御部、35…実測部、36…電界強度分布データ演算部、37…表作成部
4…表示装置、41…電波伝播区間損失分布地図表示部
X…基準点、Y…定点、Rn…基線、S…予測領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基準点からの電波伝播状況を予測し、無線設備の置局検討およびその回線設計の支援を行う無線回線設計支援システムであって、
地図上の座標および当該座標における標高を含む数値地図データベースを格納する数値地図データ記憶部と、
地図上の所定の基準点および所定の定点の入力を受けて、前記数値地図データ記憶部より前記基準点から定点を通る基線上における一連の標高データを読み出し、当該標高データに基づいて基準点から所定の電波を送信したときの前記基線上における電波伝播区間損失を積算する電波伝播区間損失演算部と、
演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線上の地点を段階的に記録することにより前記基線を複数の電波伝播区間損失レベルに区分して電波伝播区間損失分布データを作成する電波伝播区間損失分布演算部と、
前記基準点を中心に前記基線を所定角度ごとに回転させた基線について、当該基線ごとに電波伝播区間損失分布データの作成を繰り返す繰り返し演算部と、
演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、前記基準点を中心とする予測領域の前記電波伝播区間損失分布を前記数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示する電波伝播区間損失分布地図表示部とを有することを特徴とする無線回線設計支援システム。
【請求項2】
前記電波伝播区間損失分布地図は、基線間の等しい電波伝播区間損失レベルにある地点同士を結ぶことにより前記予測領域が区切られ、当該区切られた予測領域ごとに色分け表示されることを特徴とする請求項1記載の無線回線設計支援システム。
【請求項3】
出力表示された前記電波伝播区間損失分布地図に基づいて設定された実走経路を走る測定車両において前記基準点に相当する地点からの送信電波を受信することにより電界強度を測定する実測部と、
測定された電界強度の値を複数の電界強度レベルに区分して電界強度分布データを作成する電界強度分布データ演算部とを有し、
前記電波伝播区間損失分布地図表示部は、前記電界強度分布データに基づいて電波伝播区間損失分布地図における実走経路上の実測地点ごとに電界強度レベルを出力表示することを特徴とする請求項1または2記載の無線回線設計支援システム。
【請求項4】
前記実測地点における数値地図データおよび電界強度を含む実測データが集計された実測データ表を記憶する実測データ表記憶部を有し、
前記実測データは、前記電波伝播区間損失分布地図における実測地点と対応付けられており、実測地点を指示することにより、対応する実測データを出力表示可能に構成されることを特徴とする請求項3記載の無線回線設計支援システム。
【請求項5】
前記実測部で測定されたデータに基づいて前記実測データ表を自動作成する表作成部を有することを特徴とする請求項4記載の無線回線設計支援システム。
【請求項6】
地図上の座標および当該座標における標高を含む数値地図データベースを使用して所定の基準点からの電波伝播状況を予測し、無線設備の置局検討およびその回線設計の支援を行う無線回線設計支援プログラムであって、
コンピュータを
地図上の所定の基準点および当該基準点および所定の定点の入力を受けて、前記数値地図データベースより前記基準点から定点を通る基線上における一連の標高データを読み出し、当該標高データに基づいて基準点から所定の電波を送信したときの前記基線上における電波伝播区間損失を積算する電波伝播区間損失演算部、
演算された電波伝播区間損失の損失値が所定の値となる基線上の地点を段階的に記録することにより前記基線を複数の電波伝播区間損失レベルに区分して電波伝播区間損失分布データを作成する電波伝播区間損失分布演算部、
前記基準点を中心に前記基線を所定角度ごとに回転させた基線について、当該基線ごとに電波伝播区間損失分布データの作成を繰り返す繰り返し演算部、および
演算された複数の前記電波伝播区間損失分布データに基づいて、前記基準点を中心として前記基線を半径とする予測領域の前記電波伝播区間損失分布を前記数値地図データベースに基づく地図上に電波伝播区間損失分布地図として出力表示すべく制御する電波伝播区間損失分布地図表示制御部として機能させることを特徴とする無線回線設計支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−287711(P2006−287711A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106298(P2005−106298)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(503471215)
【Fターム(参考)】