説明

無線機

【課題】妨害波のような高レベルの信号が影響するときにおいても受信品質を保つことができる無線機を提供する。
【解決手段】無線部2は、アンテナを介して無線信号を送受信する。また、無線部2は、複数段のAGCアンプを有する無線信号の受信回路を備える。記憶部3は、無線部2の受信回路が備える各AGCアンプ毎に、各AGCアンプのゲインの各温度に対応した補正量を格納する温度補正テーブルを記憶する。信号処理部1は、無線部2で受信した無線信号のSNRを算出する。制御部4は、アンテナから受信した無線信号のSNRに応じて、記憶部3に記憶されている温度補正テーブルから各温度に対応した補正量を読み出し、無線部2の受信回路が備える各AGCアンプの補正ゲインの総和を略一定に保ちながら各AGCアンプのゲインの補正量の配分を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数段のAGCアンプを有する受信回路を備える無線機に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信を行う無線機の受信回路は、スーパーヘテロダイン方式等に代表されるように、中間周波数(IF)の信号を処理するIF回路と、無線周波数(RF)の信号を処理するRF回路とを設けるとともに、信号レベルのダイナミックレンジを拡大するために、これらIF回路およびRF回路の各々にゲインを調整するAGC(Automatic Gain Control)アンプを設けるのが一般的である。このような受信回路では、高温時には回路ゲインが低下するため、AGC電圧を上げてAGCアンプのゲインを増加させ、低温時には回路ゲインが増加するため、AGC電圧を下げてAGCアンプのゲインを低下させ、受信回路のゲインが全温度で一定になるように調整を行う。
【0003】
なお、特許文献1には、温度に応じてAGCによりアンプのゲインを制御する無線通信機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−236958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の無線機の受信回路では、高温時にはAGCアンプのゲインを上げ、低温時にはAGCアンプのゲインを下げる動作を行って、温度補正により、受信回路のゲインを全温度で一定に保つことができるが、アンプ、ミキサ等のデバイスは高温になるほど雑音が増加し、回路のNF(Noise Figure)が劣化してしまうため、常温時に比べて信号品質の劣化を生じることとなる。そこで前段のAGCアンプの補正量と後段のAGCアンプの補正量とを異なる値として、NFの劣化を抑制する補正が考えられる。ところが、他システムからの高レベルの妨害波が受信される場合、ミキサ等の回路が妨害波により飽和してしまい、受信特性が劣化することになる。NF重視の補正では、前段のAGCアンプのゲインを大きく、後段のAGCアンプのゲインを小さくするような補正を行うが、これにより回路前段部のゲインが高くなることで、AGCアンプ以降のデバイスにおいて飽和し易くなり、妨害波のような高レベルの信号に対する許容量が小さくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、妨害波のような高レベルの信号が影響するときにおいても受信品質を保つことができる無線機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、複数段のAGCアンプを有する無線信号の受信回路を備える無線機であって、前記AGCアンプ毎にAGCアンプのゲインの補正量を格納する補正テーブルを記憶する記憶部と、前記補正テーブルを参照して、受信した前記無線信号の受信品質に応じて、前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の総和を略一定に保ちながら前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の配分を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記制御部は、前記補正テーブルを参照して、前記無線信号を送信した他の無線機からの距離と、受信した前記無線信号の受信品質に応じて、前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の総和を略一定に保ちながら前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の配分を制御することが好ましい。
【0009】
また、前記制御部は、前記受信回路の温度補正を行うとともに前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の配分を制御することが好ましい。
また、前記受信品質を受信SNRとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、妨害波のような高レベルの信号が影響するときにおいても受信品質を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る無線機の要部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】無線部の受信回路の具体的構成を示す機能ブロック図である。
【図3】各温度での受信回路の出力特性を示す図である。
【図4】温度補正テーブルの一例を示す図である。
【図5】複数段のAGCアンプを備える受信回路において各AGCアンプで温度補正を行うときの補正テーブルの一例を示す図である。
【図6】本発明に係る受信回路の各AGCアンプで温度補正を行うときの補正テーブルの一例を示す図である。
【図7】制御部がSNRの値に応じてAGCアンプの補正量の配分を変更するときの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る無線機の要部の概略構成を示す機能ブロック図である。この無線機は、例えば、基地局を構成するもので、信号処理部1、無線部2、記憶部3、および全体を制御する制御部4を有する。
【0013】
無線部2は、アンテナを介して無線信号を送受信する。また、無線部2は、複数段のAGCアンプを有する無線信号の受信回路を備える。
記憶部3は、無線部2の受信回路が備える各AGCアンプ毎に、各AGCアンプのゲインの各温度に対応した補正量を格納する温度補正テーブルを記憶する。
信号処理部1は、無線部2で受信した無線信号のSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)を算出する。
制御部4は、アンテナから受信した無線信号の受信品質(SNR)に応じて、記憶部3に記憶されている温度補正テーブルから各温度に対応した補正量を読み出し、無線部2の受信回路が備える各AGCアンプの補正ゲインの総和を略一定に保ちながら各AGCアンプのゲインの補正量の配分を制御する。なお、温度情報は、図示しない温度センサにより、無線部2の温度(例えば、受信回路を構成するAGCアンプ近傍の温度)を検出して制御部4に供給する。
【0014】
図2は、図1に示した無線部2の受信回路の具体的構成を示す機能ブロック図である。受信回路は、LN(Low Noise)アンプ21、RFミキサ22、前段AGCアンプ23、IFアンプ24、IFミキサ25、後段AGCアンプ26を有する。
【0015】
アンテナから供給される入力信号INは、LNアンプ21で増幅され、RFミキサ22により、RFLO(Local Oscillator)信号と混合されて中間周波数にダウンコンバートされる。RFミキサ22の出力信号は、前段AGCアンプ23で増幅された後、IFアンプ24でさらに増幅され、IFミキサ25により、IFLO(Local Oscillator)信号と混合されてベースバンド周波数にダウンコンバートされる。IFミキサ25の出力信号は、さらに後段AGCアンプ26により増幅され、ADコンバーターによりデジタル変換された後、信号処理部1に送られる。
【0016】
前段AGCアンプ23のゲイン調整は、AGC電圧(VGCTL1)を調整して行い、後段AGCアンプ26のゲインの調整は、AGC電圧(VGCTL2)を調整して行う。受信回路は、ADコンバーターの入力レンジと受信信号のダイナミックレンジから算出される回路ゲインになるようにAGCアンプのゲインを調整してキャリブレーションを行う。
【0017】
回路構成に示す増幅器やミキサ等の半導体デバイスは、一般的に、高温時にゲインが常温時に比べて低下し、低温時にゲインが増加する特性を有する。図3に各温度での受信回路の出力特性を示す。高温時にゲインが低下することで、同じAGC電圧設定で常温時に比べて出力が低下し、低温時にゲインが増加することで、同じAGC電圧設定で常温時に比べて出力が増加する。受信回路の出力は全温度で一定の必要があるため、温度補正テーブルを用いて常温以外の温度で回路ゲインの補正を行う必要がある。図4に、AGCアンプ全体の温度補正テーブルの一例を示す。図4は、各indexの補正量(dB)と温度(deg)の関係を表している。温度補正テーブルには、各温度に対応したAGCアンプのゲインの補正量が記載されており、制御部4は、低温になるほど受信回路のゲインを抑制し、高温になるほど受信回路のゲインを高くする補正を行う。マイナス値はゲイン抑制を、プラス値はゲイン増加を表す。
【0018】
受信特性においてはNF(Noise Figure)が重要なパラメータとなり、回路のNFが低いほど、回路内部で発生する雑音が小さくなり、受信感度が向上する。また、回路が、複数の部品により複数段で構成されている場合、各々がNFとゲインを持ち、前段になるほど、そのNFおよびゲインが、回路全体のNFを左右する。すなわち、前段のNFが良好であれば、回路全体のNFも良好になる。そこで温度補正の際にも、複数段のAGCアンプに同じゲイン補正量を適用するのではなく、前段のAGCアンプのゲインが高く、後段のAGCアンプのゲインが低くなるように補正量を配分することで、回路NFの低下を抑制する制御が考えられる。
【0019】
図5に、受信回路が複数段のAGCアンプを備え、各AGCアンプで温度補正を行うときの温度補正テーブルの一例を示す。マイナス値はゲイン抑制を、プラス値はゲイン増加を表す。前段AGCアンプには、図5(a)に示すindex1の温度補正テーブルの値を適用し、後段AGCアンプには、図5(b)に示すindex2の温度補正テーブルの値を適用する。高温においては回路ゲインが下がるために、温度補正により回路ゲインの増加を行うが、index1の補正量をindex2の補正量よりも大きくすることで、前段AGCアンプのゲインが後段AGCアンプよりも高くなり、NFの劣化を抑制することができる。また低温においては回路ゲインが上がるために、温度補正により回路ゲインの抑制を行うが、index1の補正量をindex2の補正量よりも小さくすることで、前段AGCアンプのゲインが後段AGCアンプよりも高くなり、NFの劣化を抑制することができる。なお、図5のindex1、2のconfig_rxTemp_z(zは0〜20)の補正量の和は、図4のconfig_rxTemp_z(zは0〜20)の補正量と、略同じに設定してある。
【0020】
携帯端末を扱う無線通信システムにおいては、端末の位置情報から、基地局と端末間の距離が算出され、近距離の場合は受信信号も大きいことから受信信号のSNR(Signal to Noise Ratio)は大きく、遠距離の場合は受信信号が小さいことから受信信号のSNRは小さくなる。
ここで、前段AGCアンプのゲインが高い場合、このAGCアンプの後段にあるデバイスには、より高いレベルの信号が入力されることになる。帯域外において他システムから強い干渉波がある場合、前段AGCアンプのゲインが高いと、後段にあるミキサ等のデバイスで飽和が生じ、受信信号のSNRは低下することになる。
【0021】
従って、距離が近いにも関わらず、SNRが低下している場合は、他システムからの干渉を受けていることが考えられる。この場合、前述のように、前段AGCアンプのゲインを上げることは、回路の飽和レベルを下げてしまい、干渉に対してさらに弱くなることになる。距離が近い場合は、元々受信信号のレベルは高く、SNRは高いことから、回路NFが良好でなくても、受信特性は低下しない。従って、距離が近いにも関わらず、SNRが低下している場合においては、温度補正において、前段AGCアンプのゲインを下げ、後段AGCアンプのゲインを上げる補正を行うことで、回路の飽和レベルを上げ、妨害波に対する特性を向上させることが可能となる。
【0022】
基地局と端末との距離が遠い場合は、受信信号のSNRは小さいため、回路NFの劣化を最小限に抑えるために、前段AGCアンプのゲインを高く、後段AGCアンプのゲインを低くするような温度補正を、各AGCアンプに適用することで、受信特性の向上を図ることが可能となる。
【0023】
図6に、図1に示す本発明に係る受信回路の各AGCアンプで温度補正を行うときの温度補正テーブルの一例を示す。前段AGCアンプ23には、図6(a)に示すindex1の補正テーブルの値を適用し、後段AGCアンプ26には、図6(b)に示すindex2の補正テーブルの値を適用する。通常の温度補正においては、NFの劣化を最小限に抑えるために、テーブルのSNR1の欄の補正値を適用して、前段AGCアンプ23のゲインを高くし、後段AGCアンプ26のゲインを低くする制御を行う。そして距離が近いにも関わらず、受信SNRが低下している場合、SNR2の欄の補正値を適用して、前段AGCアンプ23のゲインを抑える補正を行う。受信SNRの改善があまり見られない場合は、さらにSNR3の欄の補正値を適用して、さらに前段AGCアンプ23のゲインを抑え、後段AGCアンプ26のゲインを上げる補正を行う。なお、図6のSNR1、SNR2、SNR3それぞれのindex1、2のconfig_rxTemp_z(zは0〜20)の補正量の和は、図4のconfig_rxTemp_z(zは0〜20)の補正量と、略同じに設定してある。
【0024】
図7は、制御部がSNRの値に応じてAGCアンプの補正量の配分を変更するときの動作を説明するフローチャートである。なお、本フローチャートは、基地局に実装されている無線機の制御部4の動作を表している。まず、制御部4は、無線部2内の温度センサから温度情報を取得する(S101)。次に、信号処理部1が算出した受信信号のSNRを所定の閾値と比較してSNRが小さいか否かを判定し(S102)、SNRが大きい場合(S102でNoの場合)は、温度補正テーブルのSNR1を選択し、SNR1の欄のステップ101で取得した温度情報(以下、該当温度という)に対応する補正値を取得して、前段AGCアンプ23のゲインを高くし、後段AGCアンプ26のゲインを低くする制御を行う(S107)。
ステップ102において、受信信号のSNRが小さい場合は、端末の位置情報から、基地局と端末間の距離が近いか否かを所定の閾値を用いて判定する(S103)。距離が遠い場合(S103でNoの場合)は、温度補正テーブルのSNR1を選択し、該当温度に対応する補正値を取得して前段AGCアンプ23のゲインを高くし、後段AGCアンプ26のゲインを低くする制御を行う(S107)。
ステップ103において、距離が近い場合は、温度補正テーブルのSNR2を選択し、該当温度に対応する補正値を取得して前段AGCアンプ23のゲインを抑える補正を行う(S104)。次に、SNRが改善されたか否かを判定し(S105)、改善されなければ、温度補正テーブルのSNR3を選択し、該当温度に対応する補正値を取得して、さらに前段AGCアンプ23のゲインを抑える補正を行う(S106)。
【0025】
また、良好なSNRで受信していたにも関わらず、急にSNRが劣化した場合、妨害波の影響が考えられるので、この場合においても、上述のような補正を行い、SNRの改善を図るものとする。
【0026】
上述のように、本発明の受信回路は、距離と受信SNRの状況に応じて、前段AGCアンプと後段AGCアンプに対する温度補正を切り替える、さらには急なSNRの劣化に対して前段AGCアンプと後段AGCアンプに対する温度補正を切り替えることで、帯域外の干渉波に対しても許容特性を大きくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 信号処理部
2 無線部
3 記憶部
4 制御部
21 LNアンプ
22 RFミキサ
23 前段AGCアンプ
24 IFアンプ
25 IFミキサ
26 後段AGCアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段のAGCアンプを有する無線信号の受信回路を備える無線機であって、
前記AGCアンプ毎にAGCアンプのゲインの補正量を格納する補正テーブルを記憶する記憶部と、
前記補正テーブルを参照して、受信した前記無線信号の受信品質に応じて、前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の総和を略一定に保ちながら前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の配分を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする無線機。
【請求項2】
前記制御部は、前記補正テーブルを参照して、前記無線信号を送信した他の無線機からの距離と、受信した前記無線信号の受信品質に応じて、前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の総和を略一定に保ちながら前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の配分を制御することを特徴とする請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記制御部は、前記受信回路の温度補正を行うとともに前記AGCアンプのそれぞれのゲインの補正量の配分を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の無線機。
【請求項4】
前記受信品質を受信SNRとすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−23422(P2012−23422A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157561(P2010−157561)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】