説明

無線装置及び通信制御方法

【課題】干渉の発生に伴う周波数帯域の変更の回数を抑えることができる無線装置及び通信制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る無線装置(101a)は、移動局MSと通信する無線装置(101a)において、移動局MSと無線信号をある周波数帯域で送受信する移動局側通信部と、他の無線装置(101b)からの無線信号が移動局側通信部からの無線信号に干渉し、且つ移動局MSがハンドオーバにより通信先を変更できる場合、移動局側通信部による無線信号の送信において使用されている周波数帯域の使用を継続する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置及び通信制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局が基地局と通信するためには、移動局は基地局からの無線電波が届く範囲(マクロセル)に位置する必要がある。しかし、山岳地帯や高層ビル等が建ち並ぶ市街地では、障害物が多いため無線電波が届きにくい領域が存在する。また、屋外に設置された基地局からは、電波が届かない領域(例えば、建物の内部や地下)が多く存在する。特に、IEEE標準規格802.16eを基に規格化されたWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)(登録商標)等の高速無線通信方式では、2.5GHz以上の高周波数帯の電波が使用されるが、このような電波は直進性が強く、障害物を回りこむ性質が弱い。そのため、WiMAX等は障害物の影響を強く受ける。このような電波が届かない領域(不感地帯)をカバーするため、基地局と移動局との間の無線信号を中継する中継装置(レピータ)や基地局のマクロセル内に配置されるピコセル基地局といった無線装置が必要となる。
【0003】
従来、無線装置が移動局との通信用に使用する周波数帯域は、設置作業者が無線装置の設置場所にて電波測定を事前に実施し、通信品質の良い周波数帯域を無線装置毎に個別に設定する必要があった。しかし、人の手による電波測定は、手間及び費用がかかるものであり、部分的なマクロセルの補完を目的とする無線装置の設置においては、費用対効果の面で望ましいことではない。そのため、使用する周波数帯域を自動で選択する機能を備える無線装置が提案されている。
【0004】
無線装置が周波数帯域を自動的に選択する場合、セルが重なり合う近隣の無線装置と同一の周波数帯域が選択されることがある。このような状況では、互いに隣接する無線装置の電波同士が干渉し合うことになる。そこで、干渉が生じないように、無線装置の周波数帯域を選択する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該方法を実現する無線通信システムは、移動局と、複数の無線装置と、これらの無線装置に周波数帯域を割り当てる集中制御局から構成される。移動局は、通信中の無線装置からの信号を基にCIR(Carrier to Interference Ratio:搬送波対干渉比)を算出し、当該CIRの情報を集中制御局に送信する。そして、集中制御局は、CIRの情報から複数の無線装置のセル間の干渉の可能性の有無を推定し、推定結果に基づき、無線装置に周波数帯域を割り当てる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−243623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、無線通信システムに、例えばOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:直交周波数分割多元接続)方式及びTDD(Time Division Duplex:時分割複信)方式(以下、OFDMA/TDD方式と記す)が採用されている場合、制御データ及びユーザデータの双方が同じ周波数帯域により送信される。よって、制御データ用の周波数帯域とユーザデータ用の周波数帯域とを分離することができない。そのため、無線装置が、ある移動局との通信における干渉を取り除くために周波数帯域を変更すると、自装置と通信中の他の移動局との通信は切断されてしまう。そのため干渉が発生する度に、周波数帯域が変更されると、干渉とは関係のない移動局との通信が切断され、却って無線通信システムでのスループット速度が低下することになる。
【0007】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、干渉の発生に伴う周波数帯域の変更の回数を抑えることができる無線装置及び通信制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した諸課題を解決すべく、第1の観点に係る無線装置の発明は、
移動局と通信する無線装置において、
移動局と無線信号をある周波数帯域で送受信する移動局側通信部と、
他の無線装置からの無線信号が前記移動局側通信部からの無線信号に干渉し、且つ前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できる場合、前記周波数帯域の使用を継続する制御部と
を備える無線装置である。
【0009】
また、第2の観点に係る発明は、第1の観点に係る無線装置において、前記制御部は、
前記移動局側通信部が受信する前記移動局の受信品質情報を基に、前記移動局側通信部からの無線信号と前記他の無線装置からの無線信号との干渉の有無を判断し、
前記移動局側通信部からの無線信号において干渉が有ると判断し、且つ前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できない場合、前記周波数帯域を変更する
ことを特徴とするものである。
【0010】
また、第3の観点に係る発明は、第1の観点に係る無線装置において、
前記移動局側通信部は複数の移動局と無線信号を送受信し、
前記制御部は、
前記移動局側通信部が受信する前記移動局の受信品質情報を基に、前記移動局側通信部からの無線信号が前記他の無線装置からの無線信号との干渉の有無を判断し、
前記移動局側通信部からの無線信号において干渉が有ると判断し、前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できず、且つ前記複数の移動局との通信負荷が負荷閾値以上であると、前記周波数帯域の使用を継続する
ことを特徴とするものである。
【0011】
また、第4の観点に係る発明は、第2又は第3の観点に係る無線装置において、
前記他の無線装置が、当該他の無線装置が送信する無線信号における干渉の有無を判断するタイミングと異なるタイミングで、前記移動局側通信部からの無線信号と前記他の無線装置からの無線信号との干渉の有無を判断する
ことを特徴とするものである。
【0012】
また、第5の観点に係る発明は、第2乃至第4のいずれか1つの観点に係る無線装置において、
前記移動局側通信部は、前記移動局から、当該移動局の信号強度及び干渉度合いの情報を前記受信品質情報として受信し、
前記制御部は、前記信号強度が信号強度閾値以上且つ干渉度合いが干渉閾値未満である場合に、前記移動局との通信において干渉が有ると判断する
ことを特徴とするものである。
【0013】
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0014】
例えば、本発明を方法として実現させた第6の観点に係る通信制御方法は、
移動局と通信する無線装置における通信制御方法において、当該無線装置が、
移動局と無線信号をある周波数帯域で送受信するステップと、
他の無線装置からの無線信号が前記無線信号に干渉し、且つ前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できる場合、前記周波数帯域の使用を継続するステップと
を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成された本発明に係る無線装置及び通信制御方法によれば、移動局がハンドオーバにより通信先を変更できる場合は、周波数帯域は変更されないため、干渉の発生に伴う周波数帯域の変更の回数を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る中継装置が周波数帯域の使用継続を決定するまでのシーケンス図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る中継装置の通信負荷の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る無線装置を中継装置に適用した場合の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る概略的な無線通信システム構成図である。無線通信システム11は、基地局BS(Base Station)と、移動局MS(Mobile Station)と、中継装置101(101a及び101b)と、ゲートウェイ103とから構成されている。無線通信システム11の通信方式がWiMAXである場合、無線通信システム11には、例えばOFDMA/TDD方式が採用される。中継装置101は、基地局BS及び移動局MSの双方と通信し、基地局BSと移動局MSとの間で送受信される無線信号(データ)を中継する。ゲートウェイ103は、音声データとデジタルデータとを変換するものであり、WiMAXシステムにおいては、ASN−GW(アクセスサービスネットワークゲートウェイ)と称されるものである。ゲートウェイ103は、基地局BS及び中継装置101それぞれに有線で接続されている。
【0019】
中継装置101は、基地局BSと通信を行うドナーノード(MS(Mobile Station)部)111(111a及び111b)と、移動局MSと通信を行うサービスノード(BS(Base Station)部)113(113a及び113b)とを備えている。中継装置101は、一体型、分離型又は車両型である。一体型の中継装置101は、一つの筐体内にドナーノード111とサービスノード113とを備えるものである。分離型又は車両型の中継装置101では、ドナーノード111とサービスノード113とをそれぞれ独立して配置することが可能である。分離型又は車両型のドナーノード111とサービスノード113とは、LAN(Local Area Network)ケーブル等の信号ケーブルにより接続される。
【0020】
図1において、領域104は、基地局BSのセル(通信可能エリア)を示している。また、領域105aは、サービスノード113aのセルを示している。領域105bは、サービスノード113bのセルを示している。ドナーノード111aが基地局BSのセル104に位置しているので、移動局MSは、サービスノード113aのセル105aに位置することにより、中継装置101aを介して基地局BSと無線信号を送受信できる。そして、移動局MSは、中継装置101aと通信している状態で、図1の矢印のように、セル104と、セル105aと、セル105bとが重なりある領域(セルエッジ近傍領域)Aに移動するとする。セル同士が重なっている中継装置及び基地局は互いに隣接していると表現するものとする。なお、セルエッジ近傍領域Bは、セル105aとセル105bとのみが重なっている領域である。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係る中継装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0022】
まず、ドナーノード111の機能ブロックについて説明する。ドナーノード111は、基地局側通信部117と、記憶部119と、制御部121とを備えている。基地局側通信部117及び記憶部119は、制御部121に接続されている。
【0023】
基地局側通信部117は、アンテナを介して基地局BSと無線信号を送受信する。基地局側通信部117は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、制御部121に送る。また、基地局側通信部117は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を基地局BSに送信する。
【0024】
記憶部119は、移動局MSの受信品質情報に関する閾値である信号強度閾値、干渉閾値などの各種情報を記憶するものであり、ワークメモリなどとしても機能する。
【0025】
移動局MSの受信品質情報とは、移動局MSの受信環境を示す指標となる情報であり、例えば、RSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)やCIRの値である。
【0026】
信号強度閾値は、移動局MSが中継装置101からの無線信号を受信するために必要な移動局MSにおける無線信号の信号強度を示すものである。信号強度は、例えば、RSSIである。移動局MSにおける無線信号の信号強度が信号強度閾値以上である場合、移動局MSが中継装置101からの無線信号を受信する上で、中継装置101からの無線信号は十分な信号強度を有していることを意味する。また、移動局MSにおける無線信号の信号強度が信号強度閾値未満である場合、中継装置101からの無線信号の信号強度は十分ではないことを意味する。以下、本実施形態では、信号強度は、RSSIであるとする。
【0027】
干渉閾値は、中継装置101から移動局MSへの無線信号が安定した品質を有することを保証するための干渉度合いを示すものである。干渉度合いとは、例えばCIRやCINR(Carrier to Interference and Noise Ratio:搬送波対干渉雑音比)、SINR(Signal to Interference and Noise Ratio:信号対干渉雑音比)である。安定した品質とは、例えば、移動局MSが中継装置101からの無線信号を正しく復調できる品質や所望のスループット速度を実現できる品質などである。移動局MSの干渉度合いが干渉閾値以上である場合、中継装置101からの無線信号は安定した品質を有していることを意味する。また、移動局MSの干渉度合いが干渉閾値未満である場合、中継装置101からの無線信号は安定した品質を有していないことを意味する。以下、本実施形態では、干渉度合いは、CIRであるとする。
【0028】
なお、本実施形態では、ドナーノード111のみが、記憶部119を有するが、本発明は、この構成に限定されるものではない。例えば、サービスノード113のみが記憶部を有し、当該記憶部が、ドナーノード111及びサービスノード113の各種情報を記憶することもできる。また、ドナーノード111及びサービスノード113の双方が記憶部を有し、各々の記憶部が関連する各々のノードの情報を記憶することもできる。
【0029】
制御部121は、ドナーノード111及びサービスノード113の各機能ブロックをはじめとしてドナーノード111及びサービスノード113の全体を制御及び管理する。ここで、制御部121は、CPU(中央処理装置)等の任意の好適なプロセッサ上で実行されるソフトウェアとして構成したり、処理ごとに特化した専用のプロセッサ(例えばDSP(デジタルシグナルプロセッサ))によって構成したりすることもできる。なお、本実施形態では、ドナーノード111のみが、制御部121を有するが、本発明は、この構成に限定されるわけではない。例えば、サービスノード113のみが制御部を有し、当該制御部が、ドナーノード111及びサービスノード113の全体を制御及び管理することができる。また、ドナーノード111及びサービスノード113の双方が制御部を有し、各々の制御部が関連する各々のノードを制御及び管理することもできる。制御部121が行う処理については、後述の図3の説明にて詳述する。
【0030】
続いて、サービスノード113の機能ブロックについて説明する。サービスノード113は、移動局側通信部123を備えている。移動局側通信部123は、制御部121に接続されている。
【0031】
移動局側通信部123は、アンテナを介して移動局MSと無線信号をある周波数帯域で送受信する。移動局側通信部123は、受信した無線信号に対して低雑音での増幅及びダウンコンバート等を行うことによりベースバンド信号を生成し、制御部121に送る。また、移動局側通信部123は、ベースバンド信号に対してアップコンバート及び増幅等を行うことにより、無線信号を生成し、アンテナを介して当該無線信号を移動局MSに送信する。
【0032】
続いて、中継装置101aが移動局MSとの通信において使用する周波数帯域の変更の必要性を判断する方法について、図1、図3及び図4を参照して説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る中継装置の処理を示すフローチャートである。図4は、本発明の一実施形態に係る中継装置が周波数帯域の使用継続を決定するまでのシーケンス図である。なお、図2の中継装置101に示した各機能ブロックは、中継装置101a及び101bにおいて共通であるので、中継装置101aに関する機能ブロックの参照符号にはaを、中継装置101bに関する機能ブロックの参照符号にはbを付して説明する。
【0033】
なお、図1におけるサービスノード113a及び113bは、同じ周波数帯域FR1を用いて無線信号を送信しているとする。また、基地局BSは、周波数帯域FR1とは異なる周波数帯域FR2を用いて無線信号を送信しているとする。更に、移動局MSは、図1の矢印の方向に移動するものとする。
【0034】
移動局MSは、中継装置101aのサービスノード113aとの通信により、サービスノード113aから無線信号を受信すると、当該無線信号に関するRSSI及びCIRを算出する。そして、移動局MSは、算出したRSSI及びCIRの情報を含む信号をサービスノード113a(中継装置101a)に送信する(図4の1)。なお、WiMAXシステムにおいては、通信変調方式をリアルタイムで変更するために、常時、移動局MSからRSSI及びCIRの情報を中継装置(基地局)に送信する。そのため、本発明では、通信変調方式の変更のために送信されるRSSI及びCIRの情報を中継装置101による周波数帯域の変更のために利用することができる。
【0035】
中継装置101aの移動局側通信部123aは、移動局MSの受信品質情報であるRSSI及びCIRの情報を受信する(ステップS101)。そして、移動局側通信部123aは、受信した情報を制御部121aに送る。
【0036】
制御部121aは、取得した移動局MSのRSSI及びCIRを記憶部119aに記憶されている信号強度閾値及び干渉閾値と比較し、中継装置101aと移動局MSとの間の通信における干渉の有無を判断する(ステップS102)。干渉が有る(干渉が発生している)と、中継装置101aからの希望波と干渉波とが足し合わされるため、RSSIの値は大きくなり、CIRの値は小さくなる。よって、制御部121aは、まずRSSIを信号強度閾値と比較する。RSSIが信号強度閾値未満の場合、移動局MSは、単に中継装置101aから離れ、圏外となるエリアに近づいていることを意味する。つまり、制御部121aは、サービスノード113aと移動局MSとの間に干渉は発生していないと判断できる(ステップS102のNo)。
【0037】
制御部121aは、RSSIが信号強度閾値以上の場合、CIRを干渉閾値と比較する。CIRが干渉閾値以上である場合、移動局側通信部123aからの無線信号は、安定した品質で移動局MSに届いている。つまり、制御部121aは、サービスノード113aと移動局MSとの間に干渉は発生していないと判断できる(ステップS102のNo)。
【0038】
RSSIが信号強度閾値以上であり、且つCIRが干渉閾値未満である場合、制御部121aは、サービスノード113aと移動局MSとの間に干渉は発生していると判断できる(ステップS102のYes及び図4の2)。つまり、図1において、サービスノード113a及び113bが使用する周波数帯域FR1が同じであるため、セルエッジ近傍領域Aでは、中継装置101a(無線装置)の移動局側通信部123aが送信する無線信号に、中継装置101b(他の無線装置)からの無線信号が干渉することになる。よって、移動局MSがセルエッジ近傍領域Aに位置すると、RSSIは信号強度閾値以上となり、CIRは干渉閾値未満となる。
【0039】
すると、制御部121aは、ハンドオーバ処理の開始を指示する信号を移動局MSへ送信するように移動局側通信部123aを制御する(ステップS103及び図4の3)。
【0040】
移動局MSは、ハンドオーバ処理の開始を指示する信号を受信すると、移動局MSが受信可能な電波の電界強度を測定する。そして、移動局MSは、現在通信しているサービスノード113aよりも品質の良い電波を発している基地局又は中継装置(無線装置)を特定する。図1においては、移動局MSは、サービスノード113bと基地局BSとから電波を受信できるが、サービスノード113bは干渉源であるため、基地局BSからの電波が最も良い電波となる。よって、移動局MSは、ハンドオーバにより、接続先を基地局BSに切り替えたい旨を示す要求信号を中継装置101a(サービスノード113a)に送信する(図4の4)。
【0041】
中継装置101aは、当該要求信号をゲートウェイ103に送信する(図4の5)。そして、ゲートウェイ103は、要求信号を、移動局MSが接続先として希望する装置である基地局BSに送信する(図4の6)。
【0042】
基地局BSは、要求信号を受信すると、無線リソースの空き状況等を確認する。そして、移動局MSとの通信接続が可能な場合は、ハンドオーバを許可する旨の許可信号をゲートウェイ103に送信する(図4の7)。すると、ゲートウェイ103は、許可信号を中継装置101aに送信し(図4の8)、中継装置101aは、当該許可信号を移動局MSに送信する(図4の9)。
【0043】
移動局MSは、許可信号を受信すると、ハンドオーバによる切替先である基地局BSに通信接続の確立を要求する要求信号を送信する(図4の10)。すると、基地局BSは、ゲートウェイ103に、有線パス(経路)を切り替えて、切替先である基地局BSから移動局MSの通話先の移動局までのパスの確立を要求する旨の要求信号を送信する(図4の11)。
【0044】
ゲートウェイ103が、有線パスを切り替えると、有線パスの切替えの完了を通知するための信号を基地局BSに送信する(図4の12)。そして、基地局BSはハンドオーバによる接続要求に対する応答信号を移動局MSに送信する(図4の13)。これにより、移動局MSと基地局BSとの通信接続が確立される。つまり、ハンドオーバは成功し、移動局MSは通信先を変更したことになる。
【0045】
ハンドオーバが成功すると、ゲートウェイ103は、ハンドオーバの成功を通知するための信号を中継装置101aに送信する(図4の14)。すると、中継装置101aの制御部121aは、ハンドオーバが成功したことを認識し(ステップS104のYes)、干渉の原因である周波数帯域と同一の周波数帯域FR1の使用を継続する(ステップS105)。つまり、移動局側通信部123aは、今後も周波数帯域FR1において無線信号を送信する。なお、制御部121aは、ハンドオーバの成功を通知するための信号を受信すると、移動局MSの情報(呼番号等)を削除する。
【0046】
ステップS103において、中継装置101aが移動局MSにハンドオーバ処理の開始を指示した際、移動局MSが基地局BSのセル104の範囲外、例えば図1の領域Bに位置しているような場合、ハンドオーバによる新たな通信先がない。また、新たな通信先が仮にあっても、新たな通信先において無線リソースが空いていない場合もある。更に、ハンドオーバ処理中の通信エラーにより、ハンドオーバ処理が中断することもある。このような場合、ハンドオーバは失敗し、移動局MSのユーザの意図しない通信切断(異常切断)が生じる。つまり、移動局MSは、ハンドオーバにより通信先を変更できない。すると、ゲートウェイ103から中継装置101aにハンドオーバの失敗を通知するための信号が送信される。
【0047】
中継装置101aが、ハンドオーバの失敗を通知するための信号を受信すると、中継装置101aの制御部121aは、ハンドオーバが失敗したことを認識し(ステップS104のNo)、移動局側通信部123aが無線信号を送信する際に使用する周波数帯域を変更する(ステップS106)。なお、制御部121aは、ハンドオーバの失敗を通知するための信号を受信すると、移動局MSの情報(呼番号等)を保持する。周波数帯域が変更されることにより、サービスノード113aからの無線信号とサービスノード113bからの無線信号との干渉は無くなり、サービスノード113aは、移動局MSと通信することができる。
【0048】
上記内容をまとめると、以下の表のようになる。
【0049】
【表1】

干渉が無い場合は、そもそもサービスノード113aにおいて使用される周波数帯域を変更する必要はない。また、干渉が有る場合にも、ハンドオーバ処理が成功する場合は、移動局MSは、干渉する周波数帯域とは異なる周波数帯域で、ハンドオーバ先の基地局又は中継装置と通信することになるので、サービスノード113aとの通信接続は切断されることになる。よって、サービスノード113aは、移動局MSの受信環境を改善するために、周波数帯域を変更する必要がなくなる。サービスノード113aは、移動局MSによるハンドオーバ処理が失敗した場合は、移動局MSが通信を継続するために周波数帯域を変更する。これにより、干渉は取り除かれ、サービスノード113aと移動局MSとは、通信を継続することができる。
【0050】
このように本実施形態では、ある無線装置である中継装置101aの制御部121aは、他の無線装置である中継装置101bからの無線信号が移動局側通信部123aからの無線信号に干渉し、且つ移動局MSがハンドオーバにより通信先を基地局BSに変更できる場合、移動局側通信部123aによる無線信号の送信において使用されている周波数帯域の使用を継続する。つまり、ハンドオーバが成功した場合は、移動局MSは、中継装置101a以外の中継装置又は基地局と通信接続を確立することになるので、中継装置101aと移動局MSとの通信接続は切断される。つまり、制御部121aは、移動局MSの受信環境を改善するためにサービスノード113aにおける周波数帯域を変更する必要がないため、周波数帯域の変更の回数を抑えることができる。これにより、中継装置101aが移動局MS以外の移動局と通信接続を確立している場合、周波数帯域の変更に伴う当該通信接続の切断を防ぐことができる。
【0051】
また、本実施形態では、制御部121aは、移動局側通信部123aからの無線信号において干渉が有ると判断し、且つ移動局MSがハンドオーバにより通信先を変更できない場合、移動局側通信部123aによる無線信号の送信において使用されている周波数帯域を変更することができる。つまり、ハンドオーバが失敗した場合は、制御部121aは、サービスノード113aにおける周波数帯域を変更することにより、移動局MSとの通信を継続することができる。
【0052】
また、本実施形態では、制御部121aは、信号強度が信号強度閾値以上且つ干渉度合いが干渉閾値未満である場合に、移動局MSとの通信において干渉が有ると判断することができる。つまり、制御部121aは、干渉の発生を、信号強度のみ又は干渉度合いのみで判断しないことにより、単に移動局MSが圏外エリアに近づいて希望波の信号強度が低下した場合に干渉が有るとは判断しない。これにより、ハンドオーバ処理及び周波数変更処理が必要以上に行われることを防ぐことができる。
【0053】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0054】
例えば、各部材、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0055】
上記の実施形態においては、本発明の無線装置を中継装置に適用した場合について説明したが、本発明は、中継装置に限定されるものではない。例えば、本発明の無線装置を、基地局のセル内に設置され、基地局のサービスエリアを補完するピコセル基地局に適用することができる。
【0056】
また、上記の実施形態においては、中継装置101aの制御部121aが、干渉の有無を判断するとして説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、移動局MSが算出した受信品質情報(RSSI、CIR)を基に、干渉の有無を判断することができる。この場合、移動局MSは、中継装置101aからハンドオーバ処理の開始を指示する信号を受信することなく、ハンドオーバ処理を開始することができる。
【0057】
また、上記の実施形態では、中継装置101aの制御部121aは、移動局MSからRSSI及びCIRを受信すると、移動局側通信部123aが送信する無線信号における干渉の有無を判断する。中継装置101aに隣接する中継装置101bも同様の機能を有するため、中継装置101bも、移動局側通信部123bが送信する無線信号における干渉の有無を判断することができる。よって、中継装置101aが干渉の有無を判断するタイミングと、中継装置101bが干渉の有無を判断するタイミングとが揃うことがある。サービスノード113aが使用する周波数帯域とサービスノード113bが使用する周波数帯域とが同じである場合、一方のサービスノードの周波数帯域が変更されれば、双方のサービスノードの周波数帯域は異なることになる。しかし、双方のサービスノードが周波数帯域を変更すると、周波数帯域の変更後、再度、双方のサービスノードの周波数帯域が同じになるおそれがある。この状況は、サービスノードが選択できる周波数帯域の数が少なければ少ないほど顕著となる。
【0058】
そこで、中継装置101aが干渉の有無を判断するタイミングと、中継装置101bが干渉の有無を判断するタイミングとが異なることが好ましい。なお、タイミングが異なるとは、一方の中継装置が干渉の有無を判断するタイミングが、他方の中継装置が干渉の有無を判断する処理から周波数帯域を変更する処理までの間ではないことを意味する。
【0059】
中継装置101aが干渉の有無を判断するタイミングと、中継装置101bが干渉の有無を判断するタイミングとを異ならせる方法の具体例を説明する。中継装置101の制御部121は、中継装置101の固有の情報を用いて、干渉の有無を判断するタイミングを決定することができる。固有の情報とは、例えば、中継装置101のID(識別番号)、製造番号などである。本実施形態では、中継装置101aのIDが13であり、中継装置101bのIDが17であるとする。中継装置101aに隣接する中継装置及び基地局は60個以下であるとする。また、中継装置101が干渉の有無を判断する処理から周波数帯域を変更する処理までに2分かかるとする。更に具体的には、中継装置101が干渉の有無を判断し、ハンドオーバの成否が判明するまでに1分かかり、周波数帯域を変更する処理に1分かかるとする。
【0060】
このとき、中継装置101が干渉の有無を判断するタイミング(時刻の分)を求める式を以下のように定める。
(タイミング)[分]={(ID)mod60}×2 (1)
【0061】
mod60は、中継装置101aに隣接する中継装置及び基地局の数に関係するものであり、中継装置101aに隣接する中継装置及び基地局が10個であれば、mod10とすればよい。これにより、中継装置101aが干渉の有無を判断するタイミングと、中継装置101bが干渉の有無を判断するタイミングとが異なることになる。
【0062】
また、モジュロの計算結果を2倍しているのは、中継装置が干渉の有無を判断する処理から周波数帯域を変更する処理までにかかる時間に関係するものであり、当該処理に必要な時間が5分であれば、モジュロの計算結果を5倍すればよい。これにより、中継装置101aが干渉の有無を判断するタイミングが、中継装置101bが干渉の有無を判断する処理から周波数帯域を変更する処理までの間に含まれことがなくなる。
【0063】
数式(1)に基づいて、中継装置101a及び101bが干渉の有無を判断するタイミングを求めると以下の表のようになる。
【0064】
【表2】

【0065】
以上より、中継装置101aは、24時制(12時制)におけるある時(例えば、1時、2時、3時)の26分に干渉の有無を判断する。また、中継装置101bは、24時制(12時制)におけるある時の34分に干渉の有無を判断する。
【0066】
また、上記の実施形態では、中継装置101aの制御部121aは、移動局側通信部123aが送信する無線信号において干渉が有ると判断し、且つ移動局MSがハンドオーバにより通信先を変更できない場合は、移動局側通信部123aが無線信号を送信する際に使用される周波数帯域を変更する。しかし、本発明は、ハンドオーバが失敗した場合は、必ず周波数帯域が変更されるという態様に限定されるものではない。中継装置101a(サービスノード113a)は、移動局MS以外の移動局と通信接続を確立している場合がある。このような場合、中継装置101aによる周波数帯域の変更が、移動局MS以外の移動局との通信接続の中断を招き、中継装置101aのサービス品質の低下を引き起こす。
【0067】
そこで、中継装置101aのサービス品質低下を防ぐため、中継装置101aの制御部121aは、中継装置101a(サービスノード113a)が複数の移動局と通信を行う上での通信負荷を求めることができる。通信負荷とは、例えば、中継装置101aが移動局に送信するデータ量の総和や中継装置101aと通信接続を確立している移動局の数である。そして、制御部121aは、求めた通信負荷を予め定められた負荷閾値と比較し、通信負荷が負荷閾値以上の場合は、移動局MSのハンドオーバが失敗したとしても、周波数帯域の変更を行わないことができる。また、制御部121aは、移動局MSのハンドオーバが失敗した場合に、通信負荷が負荷閾値未満であれば、周波数帯域の変更を行うことができる。
【0068】
例えば、中継装置101a及び101b(サービスノード113a及び113b)の通信負荷の時間変化が図5のように表されているとする。図5の実線131は中継装置101aの通信負荷を、破線133は中継装置101bの通信負荷を表している。表2のように、中継装置101aは、26分になると干渉の有無を判断し、27分になると周波数帯域の変更処理を開始することが可能になるとする。また、中継装置101bは、34分になると干渉の有無を判断し、35分になると周波数帯域の変更処理を開始することが可能になるとする。
【0069】
中継装置101aは、干渉の有無を判断した結果、干渉は有ると判断でき、且つ移動局MSによるハンドオーバは失敗したとする。図5においては、周波数帯域の変更処理が開始可能となる27分には、中継装置101aの通信負荷は負荷閾値未満となっている。よって、中継装置101aは、周波数帯域を変更する。なお、通信負荷と負荷閾値とを比較するタイミングは、厳密に周波数帯域の変更処理が開始可能となった時刻に限定されるものではない。例えば、制御部121aは、周波数帯域の変更処理用に割り当てられた時間(周波数帯域変更時間)内に通信負荷が負荷閾値未満になった場合にも、周波数帯域を変更することができる。
【0070】
また、中継装置101bは、干渉の有無を判断した結果、干渉は有ると判断でき、且つ移動局MSによるハンドオーバは失敗したとする。図5においては、周波数帯域の変更処理が開始可能となる35分には、中継装置101bの通信負荷は負荷閾値以上となっている。よって、中継装置101bは、周波数帯域を変更しない。
【0071】
以上より、周波数帯域を変更する上で通信負荷を考慮することにより、1つの移動局MSの通信のための周波数帯域の変更が、他の移動局の通信接続に与える影響を小さくすることができる。
【0072】
また、上記の実施形態の説明において、例えば、閾値「以上」または閾値「未満」のような表現の技術的思想が意味する内容は必ずしも厳密な意味ではなく、中継装置の仕様に応じて、基準となる値を含む場合又は含まない場合の意味を包含するものとする。例えば、閾値「以上」とは、閾値の比較対象である値が閾値に達した場合のみならず、閾値を超えた場合も含意し得るものとする。また、例えば閾値「未満」とは、閾値の比較対象である値が閾値を下回った場合のみならず、閾値に達した場合、つまり閾値以下になった場合も含意し得るものとする。
【符号の説明】
【0073】
11 無線通信システム
101、101a、101b 中継装置
103 ゲートウェイ
104 基地局BSのセル(領域)
105a 中継装置101aのセル
105b 中継装置101bのセル
111、111a、111b ドナーノード
113、113a、113b サービスノード
117 基地局側通信部
119 記憶部
121 制御部
123 移動局側通信部
131 中継装置101aの通信負荷(実線)
133 中継装置101bの通信負荷(破線)
BS 基地局
MS 移動局
A、B セルエッジ近傍領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局と通信する無線装置において、
移動局と無線信号をある周波数帯域で送受信する移動局側通信部と、
他の無線装置からの無線信号が前記移動局側通信部からの無線信号に干渉し、且つ前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できる場合、前記周波数帯域の使用を継続する制御部と
を備える無線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線装置において、前記制御部は、
前記移動局側通信部が受信する前記移動局の受信品質情報を基に、前記移動局側通信部からの無線信号と前記他の無線装置からの無線信号との干渉の有無を判断し、
前記移動局側通信部からの無線信号において干渉が有ると判断し、且つ前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できない場合、前記周波数帯域を変更する
ことを特徴とする無線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の無線装置において、
前記移動局側通信部は複数の移動局と無線信号を送受信し、
前記制御部は、
前記移動局側通信部が受信する前記移動局の受信品質情報を基に、前記移動局側通信部からの無線信号が前記他の無線装置からの無線信号との干渉の有無を判断し、
前記移動局側通信部からの無線信号において干渉が有ると判断し、前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できず、且つ前記複数の移動局との通信負荷が負荷閾値以上であると、前記周波数帯域の使用を継続する
ことを特徴とする無線装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の無線装置において、前記制御部は、
前記他の無線装置が、当該他の無線装置が送信する無線信号における干渉の有無を判断するタイミングと異なるタイミングで、前記移動局側通信部からの無線信号と前記他の無線装置からの無線信号との干渉の有無を判断する
ことを特徴とする無線装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の無線装置において、
前記移動局側通信部は、前記移動局から、当該移動局の信号強度及び干渉度合いの情報を前記受信品質情報として受信し、
前記制御部は、前記信号強度が信号強度閾値以上且つ干渉度合いが干渉閾値未満である場合に、前記移動局との通信において干渉が有ると判断する
ことを特徴とする無線装置。
【請求項6】
移動局と通信する無線装置における通信制御方法において、当該無線装置が、
移動局と無線信号をある周波数帯域で送受信するステップと、
他の無線装置からの無線信号が前記無線信号に干渉し、且つ前記移動局がハンドオーバにより通信先を変更できる場合、前記周波数帯域の使用を継続するステップと
を含む通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−98579(P2013−98579A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236373(P2011−236373)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】