説明

無線送信装置

【課題】より狭い周波数偏差の要求に応えつつ、変調の周波数応答特性の平坦化を図る。
【解決手段】無線送信装置100は、被変調信号を2系統に独立させる信号処理回路118と、PLLループを構成し、2系統の一方の被変調信号の電圧に応じて、PLLループによって定められる基本波を変調するVCO124と、PLLループを構成し、2系統の他方の被変調信号に応じて分周比を変化させることで、PLLループによって定められる基本波を変調するPLL回路128とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLLループを利用してFM変調やFSK変調を行う無線送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調(FM:Frequency Modulation、以下単にFM変調という。)や周波数偏移変調(FSK:Frequency Shift Keying、以下単にFSK変調という。)では、例えば、電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled CRYStal Oscillator、以下単にVCXOという。)で生成される信号を基準周波数としてPLL(Phase Locked Loop)ループを構成し、PLLループを形成する電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator、以下、単にVCOという。)に被変調信号を入力して変調信号を得る。
【0003】
また、直流から数kHzまでの広帯域に変調をかけるため、上記のVCOによる変調に加え、PLLループの基準周波数を生成するVCXOにおいても、被変調信号に応じ、自ら生成している基準周波数の信号に変調をかけることとし、変調経路として、VCOを主体とするVCO変調経路とVCXOを主体とするVCXO変調経路の2系統を設ける場合がある。
【0004】
ただし、VCO変調経路とVCXO変調経路とは、それぞれ異なる周波数応答特性を示すので、一方の経路、例えば、VCO変調経路において、両経路における周波数に対する変調度のバランスを調整する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−341046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような、VCO変調経路とVCXO変調経路の2系統により変調信号を生成する従来の変調回路では、VCXO自体に変調をかけているので、VCXOの制御電圧に対する周波数偏移量の感度を高くする必要があり、周囲温度による出力周波数の変動も考慮しつつ、システム周波数偏差の規格に適合させるのは困難であった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、変調の平坦な周波数応答特性を維持しつつ、より狭い周波数偏差の要求に応えることが可能な無線送信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の無線送信装置は、被変調信号を2系統に独立させる信号処理回路と、PLLループを構成し、2系統の一方の被変調信号の電圧に応じて、PLLループによって定められる基本波を変調するVCOと、PLLループを構成し、2系統の他方の被変調信号に応じて分周比を変化させることで、PLLループによって定められる基本波を変調するPLL回路とを備えることを特徴とする。
【0009】
無線送信装置は、2系統のいずれか一方または両方における被変調信号の位相を調整する位相調整部をさらに備えてもよい。
【0010】
無線送信装置は、2系統のいずれか一方または両方における被変調信号の周波数応答特性を調整する周波数応答調整部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無線送信装置は、変調の平坦な周波数応答特性を維持しつつ、より狭い周波数偏差の要求に応えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】無線送信装置におけるFM変調回路の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【図2】VCXOを変調する場合の無線送信装置の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【図3】FM変調回路の周波数応答特性を説明するための説明図である。
【図4】スイッチの他の例を示す回路図である。
【図5】位相調整の必要性を説明するための説明図である。
【図6】周波数応答調整部の動作を説明するための説明図である。
【図7】無線送信装置の他の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
マイクで収音した音声を無線信号として送信する本実施形態の無線送信装置は、FM変調回路として、VCXOを基準周波数としたPLLループを構成し、PLLループを構成するVCOにおいて、被変調信号となる音声信号に応じ、PLLループによって定められる基本波を変調(FM変調方式やFSK変調方式)している。
【0015】
また、本実施形態では、無線送信装置に、VCOを主体とするVCO変調経路に加え、PLL回路の分周比を変化させて基本波に変調をかけるPLL変調経路の2系統を設けることで、直流から数kHzまでの広帯域に変調をかけることが可能となる。さらに、PLL変調経路を採用することによる信号の時間方向の歪みや、VCO変調経路とPLL変調経路との周波数応答特性の違いによる変調度のバランスの問題も回避する。以下、本実施形態の無線送信装置100について具体的に説明する。
【0016】
(無線送信装置100)
図1は、無線送信装置100の電気的な構成を示した機能ブロック図である。図1中、実線矢印は音声信号等送信対象となる信号の流れを、破線矢印は制御信号の流れを示す。無線送信装置100は、PTT(Push To Talk)110と、制御回路112と、収音部114と、ADC(Analog to Digital Converter)回路116と、信号処理回路118と、DAC(Digital to Analog Converter)回路120と、SMF(SMoothing Filter)122と、VCO124と、VCXO126と、PLL回路128と、ループフィルタ130と、スイッチ132と、送信回路134と、アンテナ136とを含んで構成され、例えば、無線受信装置102に変調信号を送信する。ここで、信号処理回路118と、DAC回路120と、SMF122と、VCO124と、VCXO126と、PLL回路128と、ループフィルタ130とはFM変調回路として機能する。本実施形態では、各構成をFM変調回路として説明するが、FSK変調回路等、原理の等しい変調回路にも適用可能である。
【0017】
PTT110は、押圧式の操作キーで構成されたスイッチであり、ユーザの操作入力を受け付ける。ユーザは、PTT110を押圧した状態を維持しつつ、後述する収音部114に音声を発することで音声信号の送信を実行する。
【0018】
制御回路112は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROMやワークエリアとしての用いられるRAM等を含む半導体集積回路で構成され、無線送信装置100全体を管理および制御する。本実施形態において、制御回路112は、PTT110を通じたユーザの操作入力に応じて、信号処理回路118やスイッチ132に制御指令を発する。例えば、制御回路112は、PTT110の操作入力を受け付けると、スイッチ132を制御回路112側に倒し、PLL回路128に基本波となる周波数データを設定し、その後、スイッチ132を信号処理回路118側に切り換えて、PLL回路128と信号処理回路118とを接続する。
【0019】
収音部114は、マイク、入力アンプ、LPF(Low Pass Filter)で構成され、マイクで収音された音声を電気的な音声信号に変換し、高周波数帯域の信号成分を除去した上でADC回路116に送信する。ADC回路116は、収音部114から受信したアナログの音声信号を、例えば、96kHzのサンプリング周波数でデジタルの音声データに変換し、信号処理回路118に送信する。ここでは、音声信号と音声データを区別しているが、実質的な情報は等しいので、以下の実施形態において、説明の便宜上、等しく扱う場合もある。また、本実施形態において音声信号や音声データは被変調信号と同義である。
【0020】
信号処理回路118は、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成され、ADC回路116から受信した音声データを加工し、加工した音声データを被変調信号として、VCO変調経路140とPLL変調経路142の2系統に独立して送信する。
【0021】
また、信号処理回路118は、信号処理制御部150と、PLL制御部152と、位相調整部154(図1中154aおよび154bで示す。)と、周波数応答調整部156としても機能する。位相調整部154aと周波数応答調整部156とはVCO変調経路140の一部を担い、位相調整部154bとPLL制御部152とはPLL変調経路142の一部を担う。
【0022】
信号処理制御部150は、ADC回路116を通じて入力されたデジタルの音声データにサブトーンを重畳する。サブトーンは、PTT110が押圧されている間、音声データと共に送信され、無線受信装置102では、当該サブトーンを受信している間、スケルチ回路を開いて、復調した音声をスピーカ等に出力する(トーンスケルチ機能)。また、サブトーンとしては、CTCSS(Continuous Tone Coded Squelch System)方式による300Hz以下の所定周波数で形成されるトーン信号や、DCS(Digital Code Squelch)方式による拡張トーン信号、またはNRZ(Non Return to Zero)符号が用いられる。
【0023】
信号処理制御部150は、サブトーンが重畳されたデジタルの音声データを後段の位相調整部154a、154bに送信する。こうして、音声データは、VCO変調経路140とPLL変調経路142との2系統に分流される。音声データは、信号処理制御部150が位相調整部154a、154bに音声データを送信する時点において、位相および振幅が等しいが、信号処理回路118から出力される時点において、VCO変調経路140とPLL変調経路142とにより生成される最終的な変調信号が歪まないように、位相調整部154a、154bおよび周波数応答調整部156によって、その位相および振幅が調整される。位相調整部154と周波数応答調整部156に関しては後ほどその機能を詳述する。
【0024】
PLL制御部152は、位相調整部154bから送信された音声データを受信し、PLL回路128の制御形式に従って音声データをPLL回路128にシリアル転送する。
【0025】
DAC回路120は、VCO変調経路140の一部を構成し、信号処理回路118からのデジタルの音声データを、例えば96kHzの更新速度でアナログの音声信号に変換してSMF122に送信する。SMF122は、VCO変調経路140の一部を構成し、例えば、カットオフ周波数10kHzのLPFで形成され、DAC回路120の折り返し成分等を排除し、アナログの音声信号の波形を整形する。
【0026】
VCO124は、後述するPLL回路128とループフィルタ130と協働することでPLLループを構成し、PLLループによって定められる周波数の基本波(搬送波)を送信回路134に送信する。また、本実施形態において、VCO124は、VCO変調経路140の一部を構成し、直流から数kHzまでの帯域中、比較的高い帯域に関し、VCO変調経路140を経由したアナログの音声信号の電圧に応じて基本波を変調する。
【0027】
VCXO126は、水晶発振器を内蔵し、入力電圧に比例した周波数信号を出力する。本実施形態においてVCXO126の基準周波数は固定されるので、変調感度を下げることが可能となり、安定的に動作させることができる。したがって、VCXO126として、温度補償型のVCXOであるTCXO(Temperature Compensated CRYStal oscillator)を用いることもできる。
【0028】
PLL回路128は、VCXO126で出力された信号の基準周波数と、VCO124で出力された信号の出力周波数とを比較する位相比較器、位相比較後の信号を出力するチャージポンプ回路によって構成される。また、本実施形態のPLL回路128としては、フラクショナルN方式のPLLが用いられ、制御回路112やPLL制御部152からの周波数データに応じて、例えば、96kHzの更新速度で、分周比N(分解能、例えば218)を変化させ、基本波を段階的に偏移させる。
【0029】
このような基本波の偏移は、通常、送信チャネルの中心周波数(搬送波の周波数)を偏移させるために用いられるが、本実施形態においては、直流から数kHzまでの帯域中、比較的低い帯域に関し、音声データに応じた基本波の変調にも用いる。即ち、PLL回路128は、基本波を例えば数百MHzとした上で、音声データに応じて分周比Nを変化させることで、基本波を、例えば数百Hzの範囲で変調する。
【0030】
ループフィルタ130は、PLL回路128から出力された信号を平滑化し、VCO124に出力する。上述したPLLループのカットオフ周波数は当該ループフィルタ130の周波数応答特性によって決定される。したがって、PLLループは、カットオフ周波数以下(直流から数kHzまでの帯域中、比較的低い帯域)においてのみ、PLL制御部152からの音声データの変動に追従することとなる。ここで、VCXO変調経路に代えてPLL変調経路を採用した理由を説明する。
【0031】
図2は、VCXOを変調する場合の無線送信装置10の電気的な構成を示した機能ブロック図である。ここでは、図1で既に述べた構成要素は実質的に機能が同一なので重複説明を省略する。図2における無線送信装置10では、SMF122で波形が整形されたアナログの音声信号に応じ、VCO124を主体とするVCO変調経路およびVCXO12を主体とするVCXO変調経路で変調がかかっている。
【0032】
しかし、VCXO12を変調主体とすると、VCXO12の制御電圧に対する周波数偏移量の感度を高くする必要があり、VCXO12の動作が不安定になる。このような変調回路を搭載する無線送信装置10では、温度の変動も考慮しつつ、システム周波数偏差の規格に適合させるのは困難であった。
【0033】
本実施形態においては、VCXO12で直接変調する代わりに、VCXO126の基準周波数を固定し、図1に示したように、PLL回路128自体の周波数偏移を利用して変調をかける。こうして、VCO変調経路140とPLL変調経路142の2系統でFM変調やFSK変調等の変調を実現することが可能となる。
【0034】
図3は、FM変調回路の周波数応答特性を説明するための説明図である。任意の周波数において、VCO変調経路140とPLL変調経路142とのどちらが支配的な変調度となるかは、任意の周波数とPLLループのカットオフ周波数fcとの周波数位置関係によって決まる。
【0035】
PLLループでは、その特性上、カットオフ周波数fcより高い周波数帯域170では、PLLループが応答せず、図3(a)のPLL変調経路142の周波数応答特性174で示すように、PLL変調経路142の変調は反映されない。
【0036】
このようにPLLループが応答しないと、ループフィルタ130の出力電圧は変化しないということになり、VCO124に対して基本波(搬送波)が固定される。したがって、VCO124は、PLLループの応答に影響されることなく、図3(a)のVCO変調経路140の周波数応答特性176で示すように、VCO124において変調がかかる。
【0037】
逆に、カットオフ周波数fcより低い周波数帯域172では、PLLループが応答するので、図3(a)のPLL変調経路142の周波数応答特性174で示すように、PLL変調経路142の変調が反映され、PLL回路128において変調がかかる。
【0038】
また、この周波数帯域172では、VCO124がPLLループの一部として機能するため、ループフィルタ130のローパス効果によって、図3(a)の領域176のように、VCO変調経路140の変調は、PLL変調経路142による変調信号に反映されない。
【0039】
仮に、PLL変調経路142のみで変調を実行しようとすると、広帯域の動作を確保するためPLLループのカットオフ周波数fcを上げなくてはならず、図3(b)に示すように、カットオフ周波数fcの上昇(fc→fc’)に伴い、図3(b)中、白抜き矢印で示すように、高周波数帯域におけるノイズ成分178が増加し、VCO124のC/N比(Carrier to Noise ratio)が劣化して、隣接チャンネル漏洩電力等のシステム要求を満たすのが困難になる。
【0040】
ここでは、VCO変調経路140とPLL変調経路142とが互いに補完し合って、図3(a)に示すように、全体的な変調回路の周波数応答特性180を大凡平坦にすることができる。このようなVCO変調経路140とPLL変調経路142との構成では、図2に示したVCO変調経路とVCXO変調経路とで構成した場合に比べ、VCXO126の直接変調を伴わないため、VCXO126の温度等による周波数変化量を抑える事ができ、結果として無線送信装置100の周波数安定度が向上する。
【0041】
また、図2に示すVCXO変調経路でアナログの音声信号を変調する場合と比べ、本実施形態のPLL変調経路142では、デジタルデータで変調するので、精度および分解能が高く、安定性にも長けている。
【0042】
スイッチ132は、制御回路112から制御指令を受けて、制御回路112またはPLL制御部152のいずれかをPLL回路128と接続する。また、スイッチ132は、機械式の例えばリレーに限らず、制御回路112とPLL制御部152との信号を排他的に切り換える論理回路を通じて構成してもよい。
【0043】
図4は、スイッチ132の他の例を示す回路図である。例えば、制御ラインとして、データ線(DATA)、データを読ませるためのクロック(CLOCK)、および、チップセレクト(CHIPSELECT)が対象となる場合、図1におけるスイッチ132の構成を具体的に示すと、図4(a)のようになる。ここでは、機械式のリレーが制御ラインの本数分(ここでは、3本分)、準備される。このようなスイッチ132に論理回路を用いると、例えば、図4(b)のように配置され、制御回路112およびPLL制御部152それぞれの信号をNOT回路190とAND回路192で制限して、OR回路194でPLL回路128に送信するように構成することができる。
【0044】
このように、スイッチ132を論理回路で構成することで、チャタリングを防止し、制御回路112からPLL制御部152への切換を安定かつシームレスに行うことができ、さらに、機械式のスイッチ132に比べ占有面積を削減することが可能となる。
【0045】
位相調整部154a、154bは、データを遅延する機能を有し、信号処理回路118中のVCO変調経路140またはPLL変調経路142のいずれかまたは両方の経路において、音声データ(被変調信号)の位相を、それぞれ予め定められた時間遅延させて調整する。かかる位相の調整量(遅延量)は、製造時に予め設定されるが、事後的に変更できるとしてもよい。
【0046】
図5は、位相調整の必要性を説明するための説明図である。ここでは、位相差の影響が大きいFSK変調に基づいて説明する。上述したように、VCO124の周波数偏移の入力はアナログの信号であり、PLL回路128の周波数偏移の入力はデジタルのデータであり、信号処理の過程が異なるため両者間で位相のずれが生じ得る。
【0047】
図5(a)のように、一方の変調経路、ここではVCO変調経路140に信号処理上での遅延が生じると、両信号を変調した変調信号は、歪んだ被変調信号で変調を行われたのと同じことになる。これでは、この信号を受信する無線受信装置において正しく復調できないおそれがある。特にFSK変調では、FM変調に比べ、図5(a)のように、エッジに相当する波形の位相差が変調信号に顕著に影響するので、このような位相差が生じるのを可能な限り回避する必要がある。
【0048】
VCO変調経路140とPLL変調経路142との信号が入力された場合、図5(b)のように、両信号がそれぞれ変調された結果、変調信号内の被変調信号の位相が一致することが望ましい。
【0049】
そこで、位相調整部154は、VCO変調経路140またはPLL変調経路142のうち、遅延している経路とは異なる経路において、音声データの位相を予め定められた時間だけ遅延させる。例えば、DAC回路120の変換時間等により、VCO変調経路140の信号がPLL変調経路142の信号(データ)より遅延している場合、信号処理制御部150とPLL制御部152との間に設けられた位相調整部154bの遅延量を例えばDAC回路120の変換時間分調整する。
【0050】
このように、VCO変調経路140における音声信号(音声データ)またはPLL変調経路142における音声データのいずれか一方、もしくは、両方を遅延させることで変調信号における位相差を吸収し、変調信号の時間方向の歪みを低減できる。こうすることで、安定した変調特性を実現でき、復調時のデータ読み取りエラーを抑制可能となる。
【0051】
また、位相調整部154aまたは位相調整部154bは、搭載する無線送信装置100が決まっている場合、必要となる一方のみをFM変調回路に予め設けるとしてもよいが、汎用性を高めるべく、本実施形態のように、VCO変調経路140とPLL変調経路142の両方を準備しておき、適宜、利用する位相調整部154と遅延量を設定するのが望ましい。かかる構成により、信号処理回路118を搭載する機種が異なったり、あるいは部品を変更したりすることで、VCO変調経路140とPLL変調経路142との遅延関係が変化した場合においても、遅延量のみの設定で対応することができる。
【0052】
周波数応答調整部156は、位相調整部154aが設定されていれば、位相調整部154aによって遅延処理された音声データを受信し、また、位相調整部154aが設定されていなければ、信号処理制御部150からの音声データを受信し、音声データの周波数応答特性を調整して、最終的にVCO124から出力される変調信号の周波数に対する変調度を平坦(フラット)にする。
【0053】
図6は、周波数応答調整部156の動作を説明するための説明図である。具体的には、まず、図6(a)のように、VCO変調経路140とPLL変調経路142とを併用した場合における、VCO変調経路140の周波数応答特性176と、PLL変調経路142の周波数応答特性174とを重畳した全体的な周波数応答特性180が測定される。そして、図6(b)のように、その周波数応答特性の変調度が平坦になる逆特性フィルタ182が求められ、周波数応答調整部156として設定される。周波数応答調整部156は、図6(c)のように、周波数応答特性180のバランス崩れを相殺し、全体的な周波数応答特性184を平坦に近づける。
【0054】
また、ここでは、周波数応答調整部156を一方のVCO変調経路140にのみ設定する構成を例示したが、一方のみの設定に限らず、PLL変調経路142にも設定することで、より高周波数範囲かつ細かい波形整形を行うことが可能となり、周波数応答特性を平坦に近づけることができる。
【0055】
このような逆特性フィルタとしては、有限インパルス応答(FIR:Finite Impulse Response)フィルタや無限インパルス応答(IIR:Infinite Impulse Response)フィルタ等、既存の様々なデジタルフィルタを適用して構成することができる。デジタルフィルタは、アナログフィルタに比べ、任意の特性を容易に形成することが可能であり、また、環境温度等の影響を受け難いといった利点も有する。
【0056】
このように、周波数応答調整部156による逆特性フィルタによって、ピークの無い平坦な周波数応答特性を得ることが可能となる。また、従来では、図2に示すように、周波数応答特性の調整を、高価かつ制御が煩雑な電子ボリューム14で行う場合もあったが、本実施形態では、電子ボリューム14で行うべき変調度の調整を、信号処理回路118内で実行しているので、電子ボリューム14を省くことが可能となり、コスト削減や小型化を実現できる。
【0057】
送信回路134は、VCO124から出力される変調信号を増幅し、アンテナ136を通じて無線受信装置102に送信する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の無線送信装置100では、直流から数kHzまでの広帯域に変調をかける場合であっても、位相調整部154によって時間方向の位相差を吸収し、歪み(バランス崩れ)の低減を図り、より狭い周波数偏差の要求に応えると共に、周波数応答調整部156によって周波数応答特性を平坦化し安定した変調特性を実現することができる。こうして、無線送信装置100に入力された音声を正確に無線受信装置102に伝達することが可能となる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0060】
例えば、上述した実施形態においては、信号処理制御部150、PLL制御部152、位相調整部154a、154b、周波数応答調整部156を信号処理回路118の一部として、デジタル処理させているが、いくつかをアナログ処理させるように構成することができる。例えば、図7のように、本実施形態の他の無線送信装置200では、ADC回路116がPLL制御部152の前段に配され、信号処理制御部150、位相調整部154a、154b、周波数応答調整部156をアナログ回路で実現している。このような実施形態においても、時間方向の歪みの低減と、周波数応答特性の平坦化を図ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、PLLループを利用してFM変調やFSK変調を行う無線送信装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10、100、200 …無線送信装置
118 …信号処理回路
124 …VCO
128 …PLL回路
140 …VCO変調経路
142 …PLL変調経路
154 …位相調整部
156 …周波数応答調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被変調信号を2系統に独立させる信号処理回路と、
PLLループを構成し、前記2系統の一方の被変調信号の電圧に応じて、前記PLLループによって定められる基本波を変調するVCOと、
前記PLLループを構成し、前記2系統の他方の被変調信号に応じて分周比を変化させることで、前記PLLループによって定められる基本波を変調するPLL回路と、
を備えることを特徴とする無線送信装置。
【請求項2】
前記2系統のいずれか一方または両方における前記被変調信号の位相を調整する位相調整部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記2系統のいずれか一方または両方における前記被変調信号の周波数応答特性を調整する周波数応答調整部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の無線送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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