説明

無線通信システム、移動局、基地局および無線通信方法

【課題】 マルチパスによる干渉を回避しつつ通信可能距離を延長することで、基地局の設置密度が低い地域においても安定性の高い無線通信を遂行することを目的とする。
【解決手段】
本発明の無線通信方法において、移動局110は、基地局120での受信タイミングを規定のタイミングに収めるための送信タイミングの調整限界に到達した場合(S404)、データの有効フレーム長の伸縮要求を行い(S406)、基地局120は、有効フレーム長の伸縮要求を受けて、伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を移動局に送信し(S408)、移動局110は、伸縮要求に対する許可応答を受け、送信するデータの有効フレーム長を、位置情報に基づいた基地局との距離に応じて伸縮する(S410)ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TDMAによる無線通信が可能な無線通信システム、移動局、基地局および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PHS(Personal Handy phone System)や携帯電話等の移動局が普及し、移動局の小型化、軽量化と共に通信品質および通信レートの向上が求められている。また、地方や高層ビル街では依然として通信可能圏の拡大が望まれ、基地局の追加設置が実施されている。
【0003】
このような移動局は、通常1つの基地局を無線通信対象として選択し、その基地局との通信を通じて他の移動局との通信接続を確立する。ここで、ユーザと共に移動局が移動した場合、通信している基地局との距離が大きくなり、ついには通信が途絶えることが想定される。そこで通信対象である基地局を切り換えて通信を継続する所謂ハンドオーバ技術が従来から公開されている。ハンドオーバ技術を用いることでユーザの移動距離に拘わらず継続的な通信が可能となったが、ハンドオーバを実施するためにはその前提として多数の基地局が設置されている必要があり、基地局が無い地域ではやはり通信が途絶えることとなっていた。
【0004】
また、移動局と基地局との距離に応じた伝播遅延による弊害を回避するためガードインターバル技術が用いられているが、ガードインターバルの長さは通常固定されており、基地局との距離に因らず無線能力に余裕がある場合においても、ガードインターバルの許容距離を超えると有効フレームが干渉し通信困難になっていた。
【0005】
上記の伝播遅延による送受信タイミングのずれは、位置情報に基づいて伝播遅延時間を導出することで補正可能であるが、位置情報を推定するためには移動局の電波強度を3つ以上の基地局で測定する必要があり(3点測位法)、基地局が存在しない通信可能範囲外では、その位置すら特定することができなかった。
【0006】
また、通信可能範囲の拡大と共に移動局の利用時間の長期化も望まれ、例えば、特許文献1では、移動局の電源である2次電池が放電間近になると、移動局からの送信信号の頻度を少なくし、移動局の利用時間を延長する技術が知られている。
【特許文献1】特開平8―70273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したいずれの従来技術も通信可能範囲においては効果的に機能するが、見通し範囲が広く無線能力に余裕がある場合であっても所定範囲を超えての利用は不可能であった。
【0008】
従って、移動局を有するユーザが遭難や誘拐にあっても、また、移動局や移動局を運載した自動車等が盗難、紛失にあっても、その移動先が通信可能範囲外であれば追跡できないといった問題が生じていた。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、マルチパスによる干渉を回避しつつ通信可能距離を延長することで、基地局の設置密度が低い地域においても安定性の高い無線通信を遂行することが可能な、無線通信システム、移動局、基地局および無線通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な構成は、移動局と、移動局とTDMAによる無線通信可能な基地局と、を含む無線通信システムであって、移動局は、データを送信するデータ送信部と、GPS信号から位置情報を導出し、データに含める位置情報導出部と、送信されたデータの基地局での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、データの送信タイミングを調整するタイミング調整部と、送信タイミングの調整限界に到達した場合、データの有効フレーム長の伸縮要求を行う伸縮要求部と、伸縮要求に対する許可応答を受けてデータ送信部が送信するデータの有効フレーム長を、位置情報に基づいた基地局との距離に応じて伸縮する伸縮実行部と、を備え、基地局は、データを受信するデータ受信部と、有効フレーム長の伸縮要求を受けて、伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を移動局に送信する許可応答送信部と、を備えることを特徴とする。ここで位置情報は、緯度経度や任意地点からの相対位置等により位置を特定することが可能な情報をいう。
【0011】
本発明では、まず送信データ自体の送信タイミングを調整し、調整限界に到達した後に、送信データの有効フレーム長を伸縮することでマルチパスによる干渉を回避しつつ、通信可能距離を延長する。かかる構成により、フレーム長が縮まった分、送信可能な単位データ量は減るものの、移動局が通常の通信可能範囲を超えた場合においても基地局との通信を継続することが可能となる。こうして、移動局を有するユーザは、基地局の位置や設置密度を比較的気にすることなく安定性の高い無線通信を遂行することができる。このような通信可能距離または通信可能範囲の拡大は、同一の通信可能範囲の下、電波強度や消費電力の低減が可能であることも意味する。
【0012】
また、本発明では、移動局の位置情報を継続的に取得することが可能なので、移動局の位置を他の電気機器で連続的かつ確実に把握することができる。従って、移動局を有するユーザが遭難や誘拐にあった場合においてもその位置を迅速に特定することができ、また、移動局や移動局を運載した自動車等が盗難、紛失にあった場合においても対象物を容易に発見することが可能となる。
【0013】
伸縮実行部は、位置情報の格納領域を確保しつつ有効フレーム長を伸縮してもよい。かかる構成により移動局から少なくとも位置情報を継続的に取得することができ、より安定的に、有効フレーム長の伸縮および移動局の位置特定を実行することが可能となる。
【0014】
移動局は、送信タイミングの調整限界に到達した場合、低消費電力モードに移行するモード移行部をさらに備えてもよい。
【0015】
かかる構成により、位置情報の送信に必要な最小限の伝送路を確保しつつ、消費電力の低減を図ることができ、特に位置情報を長時間継続的に取得し続けることが可能となる。
【0016】
移動局は、当該移動局の主電源とは別体に設けられ移動局の筐体外部から切断不能かつ少なくとも移動情報を送信可能な予備電源をさらに備えてもよい。
【0017】
外部から意図的に切断することができない予備電源を設けることにより、当該移動局を不正に取得した第3者に気付かれることなく移動局の位置情報を送信し続けることができ、事件に巻き込まれた移動局やその移動局のユーザを迅速に確保することが可能となる。
【0018】
本発明にかかる代表的な他の構成は、基地局とTDMAによる無線通信可能な移動局であって、データを送信するデータ送信部と、GPS信号から位置情報を導出し、データに含める位置情報導出部と、送信されたデータの基地局での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、データの送信タイミングを調整するタイミング調整部と、送信タイミングの調整限界に到達した場合、データの有効フレーム長の伸縮要求を行う伸縮要求部と、伸縮要求に対する許可応答を受けてデータ送信部が送信するデータの有効フレーム長を、位置情報に基づいた基地局との距離に応じて伸縮する伸縮実行部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる代表的な他の構成は、移動局とTDMAによる無線通信可能な基地局であって、データを受信するデータ受信部と、移動局からの有効フレーム長の伸縮要求を受けて、伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を移動局に送信する許可応答送信部と、を備え、移動局は、許可応答に応じて送信するデータの有効フレーム長を伸縮することを特徴とする。
【0020】
本発明にかかる代表的な他の構成は、移動局と、移動局とTDMAによる無線通信可能な基地局と、を用いて無線通信を行う無線通信方法であって、移動局は、送信されたデータの基地局での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、データの送信タイミングを調整し、送信タイミングの調整限界に到達した場合、データの有効フレーム長の伸縮要求を基地局に行い、基地局は、有効フレーム長の伸縮要求を受けて、伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を移動局に送信し、移動局は、GPS信号から位置情報を導出し、許可応答を受け、送信するデータの有効フレーム長を、位置情報に基づいた基地局との距離に応じて伸縮することを特徴とする。
【0021】
上述した無線通信システムにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該移動局、基地局、無線通信方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明は、マルチパスによる干渉を回避しつつ通信可能距離を延長することで、基地局の設置密度が低い地域においても安定性の高い無線通信を遂行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
PHS端末や携帯電話等に代表される移動局は、所定間隔をおいて固定配置される基地局と無線で通信を行う無線通信システムを構築する。ここでは、理解を容易にするため無線通信システム全体を説明し、その後、移動局としてのPHS端末および基地局の具体的構成を説明する。また、ここでは、移動局としてPHS端末を挙げているが、かかる場合に限らず、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)、デジタルカメラ、音楽プレイヤー、カーナビゲーション、ポータブルテレビ、ゲーム機器、DVDプレイヤー、リモートコントローラ等無線通信可能な様々な電子機器を移動局として用いることもできる。
【0025】
(第1の実施形態:無線通信システム100)
図1は、無線通信システム100の概略的な接続関係を示した説明図である。当該無線通信システム100は、PHS端末110(110A、110B)と、基地局120(120A、120B)と、ISDN(Integrated Services Digital Network)回線、インターネット、専用回線等で構成される通信網130と、中継サーバ140とを含んで構成される。
【0026】
上記無線通信システム100において、ユーザが自身のPHS端末110Aから他のPHS端末110Bへの通信回線の接続を行う場合、PHS端末110Aは、通信可能範囲内にある基地局120Aに無線接続要求を行う。無線接続要求を受信した基地局120Aは、通信網130を介して中継サーバ140に通信相手との通信接続を要求し、中継サーバ140は、他のPHS端末110Bの位置登録情報を参照し、他のPHS端末110Bの無線通信範囲内にある基地局120Bを選択して基地局120Aと基地局120Bとの通信経路を確保し、PHS端末110AとPHS端末110Bの通信を確立する。
【0027】
ここで、通信相手先となるPHS端末110Bが移動すると、PHS端末110Bと基地局120Bとの距離が大きくなり、最終的に基地局120Bとの無線通信が困難になる。PHS端末110Bは、かかる基地局120Bからの信号の電界強度の減衰により無線通信が困難になることを予測し、改めてキャリアセンスを行って電界強度の高い基地局120Cとの無線通信を基地局120Bに要求する。基地局120Bは、その旨中継サーバ140に伝達すると、中継サーバ140は、基地局120Bから基地局120Cへのハンドオーバを遂行する。
【0028】
このようなハンドオーバにより通信可能範囲内の通信の継続は担保されているが、一旦通信可能範囲外に出ると通信が途絶えてしまう。本実施形態では、マルチパスによる干渉を回避しつつ通信可能距離を延長し、通信可能範囲外であっても安定性の高い無線通信を遂行することが可能となる。以下に、無線通信システム100を構成するPHS端末110および基地局120について詳細に述べる。
【0029】
(PHS端末110)
図2は、PHS端末110のハードウェア構成を示した機能ブロック図であり、図3は、PHS端末110の外観を示した斜視図である。PHS端末110は、端末制御部210と、端末メモリ212と、表示部214と、操作部216と、音声入力部218と、音声出力部220と、端末無線通信部222と、予備電源224とを含んで構成される。
【0030】
端末制御部210は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路によりPHS端末110全体を管理および制御する。また、端末制御部210は、端末メモリ212のプログラムを用いて、通話機能、メール送受信機能、撮像機能、音楽再生機能、TV視聴機能も遂行する。端末メモリ212は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、端末制御部210で処理されるプログラムや音声データ等を記憶する。
【0031】
表示部214は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)等で構成され、端末メモリ212に記憶された、または通信網130を介してアプリケーション中継サーバ(図示せず)から提供される、WebブラウザやアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を表示することができる。操作部216は、キーボード、十字キー、ジョイスティック等のスイッチから構成され、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0032】
音声入力部218は、マイク等の音声認識手段で構成され、通話時に入力されたユーザの音声をPHS端末110内で処理可能な電気信号に変換する。音声出力部220は、スピーカで構成され、PHS端末110で受信した通話相手の音声信号を音声に変えて出力する。また、着信音や、操作部216の操作音、アラーム音等も出力できる。
【0033】
端末無線通信部222は、通信網130における基地局120との無線通信を行う。このような無線通信としては、基地局120内でフレームを時分割した複数のタイムスロットをそれぞれPHS端末110のチャネルに割り当てて通信を行う時分割多元接続(TDMA:Time Division Multiplex Access)等が採用されている。
【0034】
予備電源224は、当該PHS端末110の主電源とは別体にキャパシタや二次電池で構成され、かつ、PHS端末110の筐体外部から切断できないよう(電源オフおよび取り外しできないよう)に設けられ、主電源が切断された後も、端末無線通信部222等、位置情報送信に必要な最低限の構成要素を動作させる。外部から意図的に切断することができない予備電源224を設けることにより、当該PHS端末110を不正に取得した第3者に気付かれることなくPHS端末110の位置情報を送信し続けることができ、事件に巻き込まれたPHS端末110やそのPHS端末110のユーザを迅速に確保することが可能となる。
【0035】
また、端末制御部210は、データ送信部250、位置情報導出部252、タイミング調整部254、伸縮要求部256、伸縮実行部258、モード移行部260としても機能する。
【0036】
データ送信部250は、PHS端末110内で処理されたデータを基地局120に送信する。
【0037】
位置情報導出部252は、GPS(Global Positioning System)衛星262から放出されるGPS信号に基づいて位置情報を導出し、データ送信部250が送信するデータに含める。
【0038】
かかる構成により、PHS端末110の位置情報を継続的に取得することが可能となるので、PHS端末110の位置を他の電気機器で連続的かつ確実に把握することができる。従って、PHS端末110を有するユーザが遭難や誘拐にあった場合においてもその位置を迅速に特定することができ、また、PHS端末110やPHS端末110を運載した自動車等が盗難、紛失にあった場合においても対象物を容易に発見することが可能となる。
【0039】
タイミング調整部254は、データ送信部250が送信するデータの、基地局120での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、基地局120との距離に応じてデータの送信タイミングを調整する。また、基地局120とPHS端末110との間に閉ループを構成し、受信タイミングのずれをフィードバックして送信タイミングをリニアに調整することも可能である。
【0040】
図4は、PHS端末110の位置の変化を示した説明図であり、図5は、PHS端末110からのデータの変化を示したタイミングチャート図である。ここで、TDMAにおいて1つのPHS端末110に割り当てられるタイムスロット280には、送信データとして有効フレーム282とガードインターバル284とが準備され、有効フレーム282は、さらにヘッダ286と、ペイロード288と、フッタ290とから構成される。
【0041】
基地局120では、距離が相違する複数のPHS端末110と無線通信を行っているため、自体が有する規定の通信タイミングを変更することができない。従って、通信距離に応じて変化する通信信号の遅延時間はPHS端末110において補正すべきである。
【0042】
例えば、図4の位置(a)にPHS端末110が在るとき、PHS端末110では、図5(a)に示すように、基地局120が他のPHS端末に送信したデータが伝播遅延dだけ遅れて届く。同様に、PHS端末110が送信したデータは伝播遅延dだけ遅れて基地局120に伝達される。従って、PHS端末110の送信したデータを基地局120の規定の受信タイミングで受信するためには送信データの送信タイミングを図中白抜き矢印で示すように伝播遅延dだけ予め早める必要がある。
【0043】
しかし、単純にPHS端末110の送信タイミングを前倒しすると、基地局120から他のPHS端末に送信されたデータや隣接するPHS端末110から送信されたデータとマルチパスによる干渉を引き起こしてしまう。そこで、当該送信データには上述したように有効フレーム282の他にガードインターバル284が設けられている。PHS端末110の位置(a)において、隣り合う送信データがガードインターバル284内で重畳する分には問題は生じない。
【0044】
また、伝播遅延dは、PHS端末110と基地局120との距離に比例し、離れれば離れるほど大きくなる。従って、PHS端末110は、基地局120との距離に応じて、その送信タイミングを更新し続ける。ここで、PHS端末110が図4の位置(b)に移動し通信可能範囲の境界292に達すると、データの送信タイミングが早まり、ついには図5(b)に示すようにガードインターバル284の許容範囲に達してしまい干渉を引き起こしてしまう。従って、送信タイミングの調整には限界(図5(b)の状態)が設けられている。従って、ガードインターバル284の時間を伝播速度で除算した値が通信可能距離の限界(最大値)ということになる。
【0045】
従来においては、PHS端末110がこのような通信可能範囲の境界292を超えると他の信号とのタイミング干渉が生じてしまい、正常な通信を維持することができなかった。
【0046】
伸縮要求部256は、図5(b)に示すような送信タイミングの調整限界に到達した場合、基地局120に対してデータの有効フレーム長の伸縮要求を行う。ここで、伸縮要求部256は、PHS端末110が通信可能範囲外に所定時間以上位置して初めて伸縮要求を行うとしてもよい。これは、通信可能範囲の境界292にヒステリシスを持たせ、タイミング調整部254による送信タイミング調整と当該伸縮要求部256による伸縮要求との煩雑な切換を防止するためである。上記所定時間としては0sec以上を設定できる。
【0047】
また、伸縮要求部256は、上述した伸縮要求に伸縮後の有効フレーム長を付してもよい。その場合、基地局120はその有効フレーム長を参照して次回からの受信タイミングを計ることができる。
【0048】
伸縮実行部258は、伸縮要求部256による伸縮要求に対する許可応答を基地局120から受け、データ送信部250が送信するデータの有効フレーム長を基地局120との距離に応じて伸縮する。例えば、PHS端末110が図4の位置(c)に移動した場合、PHS端末110からの送信データの有効フレーム282を図5(c)のように短縮することで、隣接するデータとの干渉を回避することができる。このとき基地局120における受信データはタイムスロット280の一部294に削減される。ここでは有効フレーム282の短縮のみを挙げているが伸張も可能であることは言うまでもない。
【0049】
基地局120は位置的に固定されているので、基地局120の位置情報は初期設定時に予め取得することができる。基地局120との距離は、位置情報導出部252により取得された位置情報と、予め取得されている基地局120の位置情報とを比較し、その直線距離から求めることができる。
【0050】
本実施形態では、まず送信データ自体の送信タイミングをタイミング調整部254が調整し、調整限界に到達した後に、伸縮実行部258が送信データの有効フレーム長を伸縮することで、マルチパスによる干渉を回避しつつ、通信可能距離を延長している。かかる構成により、フレーム長が縮まった分、送信可能な単位データ量は減るものの、PHS端末110が従来の通信可能範囲を超えた場合においても基地局120との通信を継続することが可能となる。こうして、PHS端末110を有するユーザは、基地局120の位置や設置密度を気にすることなく安定性の高い無線通信を遂行することができる。このような通信可能距離または通信可能範囲の拡大は、同一の通信可能範囲の下、電波強度や消費電力の低減が可能であることも意味する。
【0051】
また、伸縮実行部258は、少なくとも位置情報導出部252が導出した位置情報の格納領域を確保しつつ有効フレーム長を伸縮している。PHS端末110が図4の位置(c)よりさらに遠のくと、有効フレーム282中のペイロード288はさらに短縮され、最終的に図5(d)に示すように有効フレーム282がヘッダ286とフッタ290のみとなる。このように、当該位置情報を含む通信の維持に最低限必要な情報は、ヘッダ286とフッタ290として確保される。かかる構成によりPHS端末110から少なくとも位置情報を継続的に取得することができ、より安定的に、有効フレーム長の伸縮およびPHS端末110の位置特定を実行することが可能となる。
【0052】
モード移行部260は、送信タイミングの調整限界に到達した場合、低消費電力モードに移行する。低消費電力モードでは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)のバックライトを消灯したり、端末無線通信部222からの送信データを間欠的に送信すること等が考えられる。
【0053】
かかる構成により、位置情報の送信に必要な最小限の伝送路を確保しつつ、消費電力の低減を図ることができ、特に位置情報を長時間継続的に取得し続けることが可能となる。
【0054】
また、端末無線通信部222の送信側は、ペイロード生成部270、ヘッダ付加部272としても機能する。
【0055】
ペイロード生成部270は、伸縮実行部258により伸縮されたフレーム長で、送信すべきデータを分割しペイロード288を生成する。
【0056】
ヘッダ付加部272は、ペイロード生成部270が生成したペイロード288にヘッダ286およびフッタ290を付加して有効フレーム282を生成する。このとき位置情報導出部252の位置情報をヘッダ286またはフッタ290に含める。
【0057】
(基地局120)
図6は、基地局120の概略的な構成を示したブロック図である。基地局120は、基地局制御部310と、基地局メモリ312と、基地局無線通信部314と、基地局有線通信部316とを含んで構成される。
【0058】
基地局制御部310は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により基地局120全体を管理および制御する。また、基地局制御部310は、基地局メモリ312のプログラムを用いて、PHS端末110の通信網130や他のPHS端末110への通信接続を制御する。基地局メモリ312は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、基地局制御部310で処理されるプログラムや時刻情報等を記憶する。
【0059】
基地局無線通信部314は、PHS端末110との通信を確立し、PHS端末110の通信品質に応じて、変調方式やコーデックを適応的に変更することもできる。基地局有線通信部316は、通信網130を介して中継サーバ140を含む様々なサーバと接続することができる。
【0060】
また、基地局制御部310は、データ受信部350、許可応答送信部352としても機能する。
【0061】
データ受信部350は、端末無線通信部222を介してデータを受信する。許可応答送信部352は、PHS端末110からの有効フレーム長の伸縮要求を受けて、伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答をPHS端末110に返信する。
【0062】
また、基地局無線通信部314の受信側は、フレーム位置検出部370、ヘッダ検出部372、ペイロード抽出部374として機能している。
【0063】
フレーム位置検出部370は、PHS端末110から受信したデータの先頭位置を把握し、有効フレームの配置を検出する。
【0064】
ヘッダ検出部372は、伸縮要求部256により要求のあったフレーム長を参照して、フレーム位置検出部370が検出したフレームから、ヘッダ286およびフッタ290を検出する。ヘッダ検出部372は、さらにヘッダ286またはフッタ290から位置情報を抽出する。
【0065】
ペイロード抽出部374は、ヘッダ検出部372がヘッダ286およびフッタ290を検出して残った有効フレーム282を抽出し、通常のデータとして基地局制御部310に伝達する。
【0066】
次に、上述した無線通信システム100におけるPHS端末110と基地局120とによって実行される無線通信方法を説明する。
【0067】
(無線通信方法)
図7は、PHS端末110と基地局120とを用いた無線通信方法の具体的な処理の流れを示したシーケンス図である。PHS端末110は、通信可能範囲内で基地局120との無線通信を確立し、基地局120にGPS信号から導出された位置情報を含むデータを送信している(S400)。このとき、PHS端末110は、送信されたデータの基地局120での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、データの送信タイミングを調整している(S402)。
【0068】
そして、送信タイミングの調整限界に到達した場合(S404)、PHS端末110は、データの有効フレーム長の伸縮要求を基地局120に行い(S406)、基地局120は、有効フレーム長の伸縮要求を受けて、伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答をPHS端末110に返信する(S408)。
【0069】
PHS端末110は、基地局120からの許可応答を受け、送信するデータの有効フレーム長を、PHS端末110の位置情報に基づいた基地局120との距離に応じて伸縮すし(S410)、その伸縮したフレーム長に基づいて基地局120にデータを送信する(S412)。
【0070】
かかる無線通信方法により、マルチパスによる干渉を回避しつつ通信可能距離を延長することで、基地局の設置密度が低い地域においても安定性の高い無線通信を遂行することが可能となる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
例えば、上述した実施形態においては、PHS端末110が通信可能範囲から逸脱したことにより有効フレーム長の伸縮を開始する例を示しているが、かかる場合に限られず、PHS端末110の電源投入時に通信可能範囲外にいる場合もその状態を検知し、直ちに有効フレーム長の伸縮を開始することも可能である。
【0073】
なお、本明細書の無線通信方法における各工程は、必ずしもシーケンス図として記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、TDMAによる無線通信が可能な無線通信システム、移動局、基地局および無線通信方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】無線通信システムの概略的な接続関係を示した説明図である。
【図2】PHS端末のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。
【図3】PHS端末の外観を示した斜視図である。
【図4】PHS端末の位置の変化を示した説明図である。
【図5】PHS端末からのデータの変化を示したタイミングチャート図である。
【図6】基地局の概略的な構成を示したブロック図である。
【図7】PHS端末と基地局とを用いた無線通信方法の具体的な処理の流れを示したシーケンス図である。
【符号の説明】
【0076】
100 …無線通信システム
110 …PHS端末(移動局)
120 …基地局
224 …予備電源
250 …データ送信部
252 …位置情報導出部
254 …タイミング調整部
256 …伸縮要求部
258 …伸縮実行部
260 …モード移行部
270 …ペイロード生成部
272 …ヘッダ付加部
282 …有効フレーム
284 …ガードインターバル
286 …ヘッダ
290 …フッタ
350 …データ受信部
352 …許可応答送信部
370 …フレーム位置検出部
372 …ヘッダ検出部
374 …ペイロード抽出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局と、該移動局とTDMAによる無線通信可能な基地局と、を含む無線通信システムであって、
前記移動局は、
データを送信するデータ送信部と、
GPS信号から位置情報を導出し、前記データに含める位置情報導出部と、
前記送信されたデータの前記基地局での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、該データの送信タイミングを調整するタイミング調整部と、
前記送信タイミングの調整限界に到達した場合、前記データの有効フレーム長の伸縮要求を行う伸縮要求部と、
前記伸縮要求に対する許可応答を受けて前記データ送信部が送信するデータの有効フレーム長を、前記位置情報に基づいた前記基地局との距離に応じて伸縮する伸縮実行部と、
を備え、
前記基地局は、
データを受信するデータ受信部と、
前記有効フレーム長の伸縮要求を受けて、該伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を前記移動局に送信する許可応答送信部と、
を備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記伸縮実行部は、前記位置情報の格納領域を確保しつつ有効フレーム長を伸縮することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記移動局は、前記送信タイミングの調整限界に到達した場合、低消費電力モードに移行するモード移行部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記移動局は、当該移動局の主電源とは別体に設けられ該移動局の筐体外部から切断不能かつ少なくとも前記移動情報を送信可能な予備電源をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
基地局とTDMAによる無線通信可能な移動局であって、
データを送信するデータ送信部と、
GPS信号から位置情報を導出し、前記データに含める位置情報導出部と、
前記送信されたデータの前記基地局での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、該データの送信タイミングを調整するタイミング調整部と、
前記送信タイミングの調整限界に到達した場合、前記データの有効フレーム長の伸縮要求を行う伸縮要求部と、
前記伸縮要求に対する許可応答を受けて前記データ送信部が送信するデータの有効フレーム長を、前記位置情報に基づいた前記基地局との距離に応じて伸縮する伸縮実行部と、
を備えることを特徴とする移動局。
【請求項6】
移動局とTDMAによる無線通信可能な基地局であって、
データを受信するデータ受信部と、
前記移動局からの有効フレーム長の伸縮要求を受けて、該伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を前記移動局に送信する許可応答送信部と、
を備え、
前記移動局は、前記許可応答に応じて送信するデータの有効フレーム長を伸縮することを特徴とする基地局。
【請求項7】
移動局と、該移動局とTDMAによる無線通信可能な基地局と、を用いて無線通信を行う無線通信方法であって、
前記移動局は、
前記送信されたデータの前記基地局での受信タイミングを規定のタイミングに収めるため、該データの送信タイミングを調整し、
前記送信タイミングの調整限界に到達した場合、前記データの有効フレーム長の伸縮要求を前記基地局に行い、
前記基地局は、
前記有効フレーム長の伸縮要求を受けて、該伸縮された有効フレーム長によるデータの受信が可能であれば許可応答を前記移動局に送信し、
前記移動局は、
GPS信号から位置情報を導出し、
前記許可応答を受け、送信するデータの有効フレーム長を、前記位置情報に基づいた前記基地局との距離に応じて伸縮することを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−239759(P2009−239759A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85058(P2008−85058)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】