無線通信機及び校正パラメータ値算出方法
【課題】直交復調器の校正を精度良く行う。
【解決手段】通信機は、直交復調部と直交復調部の出力を補償する校正部と校正部に対して校正パラメータの値を設定する設定部とを有する。設定部が、直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
により、校正パラメータの値を算出する。
【解決手段】通信機は、直交復調部と直交復調部の出力を補償する校正部と校正部に対して校正パラメータの値を設定する設定部とを有する。設定部が、直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
により、校正パラメータの値を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信は通信容量を増大させるため、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)をベースとした多値変調やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調が用いられる。これら変調方式は送信側では直交変調器、受信側では直交復調器を使用して振幅と位相を伝達することにより実現されている。しかし、この直交変調器及び直交復調器はアナログ回路であるため、作り込みによる誤差、動作電圧や周波数による特性変動、温度特性、経年変化など様々な要因により、性能が変動してしまう。大容量通信を目指すほど、直交変調器及び直交復調器に求める伝達性能の正確さは高くなるため、正しく校正する技術が求められる。
【0003】
例えば特開平8−307465号公報には、受信信号を検波して互いに直交するI信号及びQ信号を出力する検波器を備えた受信装置に対し、上記受信信号として試験信号を入力し、上記試験信号のI信号及びQ信号に生じる誤差を求めるとともに、これら誤差のデータをメモリに保存する校正ステップと、通信信号を受信したときに上記メモリから誤差データを読み出すとともに、上記誤差データに基づき上記通信信号のI信号及びQ信号を補償する補償ステップとを含む、受信装置の補償方法が開示されている。
【0004】
また、特開2002−77284号公報には、電力増幅器の非線形歪みを補償するための帰還路及び直交復調器を備えた送信機において、無線部の影響を受けず、かつ外部へ妨害波を放射せずに、直交復調器の校正を行う技術が開示されている。具体的には、少なくとも、入力ベースバンド信号により直交変調された変調信号を増幅する電力増幅器と、当該電力増幅器の出力信号を帰還させる帰還回路と、当該帰還回路によって帰還された帰還信号を直交復調する直交復調器と、当該直交復調器によって直交復調された復調信号に基づいて電力増幅器の非線形歪みを補償する送信機において、直交復調器を校正する時に、トレーニング信号を送信機に与え、直交復調器によって直交復調された復調信号と入力トレーニング信号とを比較して直交復調器の校正を行なうための制御信号を生成する制御手段と、直交変調された変調信号を直接直交復調器に与える切替え手段とを設け、直交復調器を校正する時には、直交変調された変調信号を直接直交復調器に与え、直交復調器を校正する。
【0005】
さらに、特開2006−311056号公報には、高い変調精度を維持するための直交変調装置の校正方法が開示されている。具体的には、直交変調装置は、(A)所定の基準信号源に基づいて周波数可変の第1ローカル信号を発生する第1ローカル信号発生器と、(B)アナログの同相成分信号と直交成分信号とを、第1ローカル信号とともに受け、当該第1ローカル信号の周波数をキャリア周波数とする直交変調信号を生成出力する直交変調器と、(C)直交変調器の利得誤差および位相誤差を相殺するために、直交変調器に入力される同相成分信号と直交成分信号とに対して利得補正および位相補正を行う補正部と、同一周波数、同一振幅で、且つ互いに位相が直交する正弦波の同相成分信号と直交成分信号とを校正用信号として生成する校正用信号発生手段と、(D)基準信号源に基づいて第1ローカル信号に対して所定周波数の差を有する第2ローカル信号を生成出力する第2ローカル信号発生器と、(E)直交変調器の出力信号を受けて第2ローカル信号により所定周波数を中心とする中間周波数帯に変換する周波数変換器と、(F)中間周波数帯に変換された信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、(G)A/D変換器で変換されたディジタル信号に対してディジタル直交復調処理を行い、ディジタルの同相成分信号と直交成分信号とを復調する直交復調器と、(H)直交復調器で復調された同相成分信号と直交成分信号とに基づいて、直交変調器の利得誤差および位相誤差を算出する誤差算出部と、(I)算出された利得誤差および位相誤差を補正部で相殺するためにそれぞれ必要な利得の補正値および位相の補正値を算出する補正値算出手段と、(J)利得の補正値および位相の補正値を記憶するためのメモリと、(K)校正用信号を直交変調器に入力させ、キャリア周波数を順次変更するとともに、当該キャリア周波数毎に補正値算出手段によって得られた利得の補正値および位相の補正値を該キャリア周波数に対応づけてメモリに記憶する制御部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−307465号公報
【特許文献2】特開2002−77284号公報
【特許文献3】特開2006−311056号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. K. Cavers, "New Methods for Adaptation of Quadrature Modulators and Demodulators in Amplifier Linearization Circuits," IEEE Trans. Veh. Technol., Vol. 46, No. 3, pp. 707-716, August 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直交変調器の校正では、直交変調器で信号が歪むことを想定して予め逆に歪ませた信号を直交変調器に入力し、結果として正しい出力を得るという方法が採られる。一方、復調器側では、直交復調器出力に対して補正をかけて正しい出力を得る方式を採用する。
【0009】
一般的に、直交復調器の位相誤差及びゲインアンバランス自体は小さいものの、ランダムな位相回転と信号減衰が加わるため、正しく位相誤差、ゲインアンバランス及びDCオフセットなどを推定するためには、位相回転量及び信号の減衰率の影響を除去しなければ、直交復調器の校正を精度良く行うことができない。
【0010】
従って、本発明の目的は、直交復調器の校正を精度良く行うための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る無線通信機は、(A)直交復調部と、(B)直交復調部の出力を補償する校正部と、(C)校正部に対して校正パラメータの値を設定する設定部とを有する。そして、設定部が、(c1)直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
【数1】
により、第1の位相回転角ψp1を算出し、(c2)当該第1の位相回転角ψp1を、前記第1乃至第4の出力値に基づき第2の位相回転角ψp2に補正し、(c3)当該第2の位相回転角ψp2を用いて校正パラメータの値を算出する。
【0012】
このような処理を実施することで、直交復調器による正しい位相回転角を算出できるので、これに基づき校正パラメータの値を正確に算出できるようになる。
【0013】
また、上で述べた設定部が、(c4)第1乃至第4の出力値を含む出力値の大きさの平均を第1乃至第4の校正入力信号を含む校正入力信号の振幅で除することで減衰率を算出し、(c5)当該減衰率をさらに用いて校正パラメータの値を算出するようにしてもよい。これにより、より精度良く校正パラメータの値を算出することができるようになる。
【0014】
さらに、上で述べた校正部に対する校正値を算出する処理において、(c5−1)第2の位相回転角ψp2と減衰率と上で述べた出力値とを用いて、同相成分増幅度補正度、直交成分増幅度補正度、位相補正量、DCオフセットの同相成分補正量及びDCオフセットの直交成分補正量についてのエラーベクトルを算出し、(c5−2)当該エラーベクトルからエラー量(例えば、校正入力信号に対する応答の非線形部分を評価する評価関数によるエラー量)を算出し、(c5−3)当該エラー量が閾値を超える場合には、直前のエラーベクトルと当該エラーベクトルとの差から、校正部に対する同相成分増幅度補正度、校正部に対する直交成分増幅度補正度、校正部に対する位相補正量、校正部に対するDCオフセットの同相成分補正量及び校正部に対するDCオフセットの直交成分補正量を算出するようにしてもよい。このような処理をエラー量が閾値以下になるまで繰り返せば、正しい校正パラメータの値が得られ、精度良く復調を行うことができるようになる。
【0015】
なお、上で述べたような処理をハードウエアに実施させるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。なお、処理途中のデータについては、コンピュータのメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【発明の効果】
【0016】
直交復調器の校正を精度良く行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る無線通信機の機能ブロック図である。
【図2】図2は、QDMの構成例を示す図である。
【図3】図3は、校正入力信号を表すIQ平面の図である。
【図4】図4は、QDMの出力信号を表すIQ平面の図である。
【図5】図5は、QDMCの構成例を示す図である。
【図6】図6は、校正入力信号を表すIQ平面の図である。
【図7】図7は、QDMCの出力信号を表すIQ平面の図である。
【図8】図8は、本実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図9】図9は、校正入力信号を表すIQ平面の図である。
【図10】図10は、QDMCの出力信号を表すIQ平面の図である。
【図11】図11は、1回目の校正処理の結果を表すIQ平面の図である。
【図12】図12は、2回目の校正処理の結果を表すIQ平面の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る無線通信機の機能ブロック図を図1に示す。本実施の形態に係る無線通信機は、第1スイッチSW1と、直交変調器校正器QMC(Quadrature Modulation Compensator)11と、D/A変換器DAC(Digital-Analog Converter)12a及び12bと、直交変調器QM(Quadrature Modulator)13と、第2スイッチSW2と、送信用電力増幅器PA(Power Amplifier)14と、送信用アンテナ21と、受信用アンテナ22と、受信用低雑音増幅器LNA(Low-Noise Amplifier)15と、第3スイッチSW3と、直交復調器QDM(Quadrature DeModulator)16と、A/D変換器ADC(Analog-Digital Converter)17a及び17bと、直交復調器校正器QDMC(Quadrature DeModulation Compensator)18と、第4スイッチSW4と、DSP(Digital Signal Processor)19とを有する。DSP19にはメモリが含まれているか又は外部にメモリが接続されているものとする。
【0019】
第1スイッチSW1は、ベースバンドモジュール10からの出力(ベースバンド信号I及びQ)とDSP19からの出力vq1及びvq2とのいずれかを、QMC11に出力する。QMC11は、第1スイッチSW1からの出力に対して補償を実施する。QMC11で補償された信号Iは、DAC12aでアナログ信号に変換され、QMC11で補償された信号Qは、DAC12bでアナログ信号に変換され、QM13に出力される。QM13は、入力された信号I及び信号Qに対して直交変調を行って、第2スイッチSW2に出力する。第2スイッチSW2は、QM13からの出力を、PA14又は第3スイッチSW3に出力する。PA14は、第2スイッチSW2からの出力を増幅してアンテナ21から送信する。
【0020】
一方、アンテナ22で受信した信号は、LNA15で増幅され、第3スイッチSW3に出力される。第3スイッチSW3は、第2スイッチSW2からの出力と、LNA15の出力とのいずれかをQDM16に出力する。第3スイッチSW3の出力はvqhと表すものとする。QDM16は、第3スイッチSW3からの出力に対して直交復調を行って、復調i信号と復調q信号とを出力する。この復調i信号は、ADC17aでディジタル信号vc1に変換され、復調q信号は、ADC17bでディジタル信号vc2に変換される。QDMC18は、DSP19によって設定された校正パラメータ(以下で説明するαc、βc、φc、cc1及びcc2)に基づき、入力信号に対して補償を実施して、出力信号vd1及びvd2を第4スイッチSW4に出力する。第4スイッチSW4は、QDMC18からの出力を、DSP19又はベースバンドモジュール10に出力する。
【0021】
校正時には、第1スイッチSW1は、DSP19からの出力をQMC11に出力する。第2スイッチSW2は、QM13からの出力を第3スイッチSW3に出力する。第4スイッチSW4は、QDMC18の出力をDSP19に出力する。一方、通信時には、第1スイッチSW1は、ベースバンドモジュール10からの出力をQMC11に出力する。第2スイッチSW2は、QM13の出力をPA14に出力する。さらに、第3スイッチSW3は、LNA15からの出力を、QDM16に出力する。また、第4スイッチSW4は、QDMC18の出力をベースバンドモジュール10に出力する。
【0022】
図2に、本実施の形態に係るQDM16の構成例を示す。QDM16は、入力vqhに対する増幅器161と、局部発振器163と、局部発振器163からの出力信号の位相を90度遅延させる移相器164と、増幅器161の出力と局部発振器163の出力信号とを混合するミキサ162aと、局部発振器163からの出力信号の移相を90度遅らせた信号と増幅器161の出力とを混合するミキサ162bと、ミキサ162aの出力信号に対するローパスフィルタLPF165aと、ミキサ162bの出力信号に対するローパスフィルタLPF165bとを有する。ローパスフィルタLPF165aの出力はADC17aに入力され、ローパスフィルタLPF165bの出力はADC17bに入力される。なお、ADC17aの出力はvc1であり、ADC17bの出力は、vc2である。
【0023】
なお、増幅器161は、ゲイン(減衰率とも呼ぶ)gpを有し、発振器163は、搬送波角周波数ωcの信号を発振するものとする。なお、復調経路において位相角回転量ψpが生ずるものとする。また、移相器164では、位相ずれφpを生じるものとする。さらに、ミキサ162aでは、同相成分についての増幅度αp及び同相成分についてのDCオフセットcp1を生じ、ミキサ162bでは、直交成分についての増幅度βp及び直交成分についてのDCオフセットcp2を生ずるものとする。
【0024】
そして、DSP19は、(1)式のような校正信号を第1スイッチSW1に出力する。
【数2】
【0025】
校正時には、上で述べたように各スイッチが動作するので、第1スイッチSW1、QMC11、DAC12a及び12b、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3を通過する過程で高周波信号に変調され、第3スイッチSW3の出力vqhとなる。このvqhは、(2)式のように示される。
【数3】
【0026】
g0は、変調経路の減衰係数であり、ψ0の変調経路の位相回転量である。なお、QM13の歪みはQMC11で校正されるため、第2スイッチSW2の出力に歪みは生じていないものとする。また、各スイッチは、スイッチング対象の信号を通過させるのに十分なダイナミックレンジと帯域を有しており、スイッチで生ずる歪みはないものとする。
【0027】
そしてQDM16内の減衰率gpを考慮すると、信号vqhは、(3)式に表すように、信号vpに変換される。なお、ψ0はψ1に回転する。
【数4】
【0028】
信号vpは、ミキサ162a、LPF165a及びADC17aにより同相成分について復調され、ミキサ162b、LDP165b及びADC17bにより直交成分について復調される。そうすると、ベースバンド帯域の同相成分信号vc1及び直交成分信号vc2が、以下のように得られる。なお、同じ装置であれば同じ搬送波角周波数ωcを使用できるので、周波数ずれはない。但し、位相回転量は、ψ1はψ2へと変化する。
【数5】
【数6】
なお、上記の式では2ωctが入った高調波分は、LPF165aおよびLPF165bでカットされる。
【0029】
また、このようなvc1及びvc2を整理すると、以下のようになる。
【数7】
【0030】
ここで、減衰率及び位相回転量を、以下のようにまとめる。なお、これらの変数の発生経緯は様々であるが、1カ所で全体量が発生したと仮定しても同じことである。
【数8】
【0031】
さらに、以下のようにパラメータを定義する。
【数9】
【0032】
そうすると上で述べたvc(ベクトル量)の式は、以下の(4)式のように表される。
【数10】
【0033】
例えば校正入力信号vq(ベクトル量)が、IQ平面上で図3に示すような点で表されるものとする。そして、gp=0.994(−0.05dB)、ψp=110°、αp=1.046、βp=0.951、φp=8°、cp1=0.060、cp2=−0.030の場合には、図4に示すような出力信号vc(ベクトル量)として測定されることになる。すなわち、I軸に対応する直線は左下方向にφp/2だけ傾き、Q軸に対応する直線は右上方向にφp/2だけ傾き、中心点は、(cp1,cp2)に移動するように歪みが発生している。なお、このような歪んだ曲線上、出力信号vc(ベクトル量)は任意のψpで回転する。
【0034】
また、QDMC18は、図5に示すような構成を有する。QDMC18は、QDM16からの同相成分信号vc1についてのDCオフセットを補正するミキサ181aと、QDM16からの直交成分信号vc2についてのDCオフセットを補正するミキサ181bと、ミキサ181aで補正された同相成分信号vc1に対して同相成分増幅度の補正を行うミキサ182aと、ミキサ181bで補正された直交成分信号vc2に対して直交成分増幅度の補正を行うミキサ182bと、位相補正を行う位相補正部183とを有する。
【0035】
位相補正部183の同相成分出力はvd1と表し、直交成分出力はvd2と表す。また、同相成分信号に対するDCオフセットの補正量はcc1であり、直交成分信号に対するDCオフセットの補正量はcc2である。さらに、同相成分増幅度の補正度はαcであり、直交成分増幅度の補正度はβcである。位相補正部183の位相補正量は、φcである。
【0036】
ここで、以下のように行列を定義する。
【数11】
【0037】
そうすると、QDMC18の入力vc(ベクトル量)に対する出力vd(ベクトル量)の関係は以下の(5)式のように表される。
【数12】
【0038】
そうすると、(4)式及び(5)式から、DSP19から入力vq(ベクトル量)とQDMC18の出力vd(ベクトル量)との入出力応答式が、(6)式のように表される。
【数13】
【0039】
以下、(6)式で表される入出力応答式の簡略化を行う。
【0040】
そこで、以下の関係を満たすパラメータεp及びεcを導入する。
【数14】
【0041】
本来、αp及びβpにはほとんど差はないはずなので、εpは非常に小さくなり、以下のように近似できる。さらに、αp及びβpの補正値であるαc及びβcもほとんど差がないので、εcも非常に小さくなり、同様に近似ができる。
【数15】
【0042】
さらに、φp及びφcも非常に小さいはずなので、以下のような近似が可能である。
【数16】
【0043】
そうすると、(6)式で用いられる行列Gp、Gc、Φp及びΦcは以下のように表される。
【数17】
【0044】
さらに、以下のようにパラメータを定義し直す。
【数18】
【0045】
さらに、以下のように近似できる。
【数19】
【0046】
そうすると、(6)式は、以下のように簡略化される。
【数20】
【0047】
(1)式と(8)式とからDSP19からの入力vq(ベクトル量)に対して得られるvd(ベクトル量)の大きさVd(振幅とも呼ぶ)は以下のように計算される。
【数21】
【0048】
(9)式の両辺の平方根を計算すると以下のように表される。
【数22】
【0049】
さらに、以下のように定義を行う。
【数23】
【数24】
【0050】
そうすると、vd(ベクトル量)の大きさVdは、以下のように表される。
【数25】
【0051】
(12)式からすると、DSP19からの入力vq(ベクトル量)に対して応答vd(ベクトル量)が線形になるには、gpVqrが最小になるように、ε、φ、c1及びc2を決定すべきである。そのためには、gp及びψpを精度良く推定することが好ましい。
【0052】
ここで、DSP19からの入力信号vq(k,n)(ベクトル量)が、大きさVqkで角度θnを有するとすると、以下のように表される。なお、k毎に、nが1乃至Nで変動し、さらにVqkもk毎に変化する場合がある。
【数26】
【0053】
これに対応するr(k,n)は、(11)式からすると、以下のように表される。
【数27】
【0054】
ここで(14)式を(12)式に代入すると、(15)式が得られる。
【数28】
【0055】
さらに、1≦n≦Nであるnに対するθnについて拡張すると、N列の応答ベクトルVdkが得られる。
【数29】
【0056】
さらに、以下のように行列を定義する。
【数30】
【数31】
ここでqeをエラーベクトルと呼ぶ。
【0057】
そうすると、(16)式は、以下のように表される。
【数32】
【0058】
以下のような入力vq(θ)(ベクトル量)に対する応答vd(θ)(ベクトル量)は、(8)式から以下のように表される。
【数33】
【数34】
【0059】
さらに、vda(ベクトル量)及びvdb(ベクトル量)を(18)式のように定義すると、以下のように整理される。
【数35】
【数36】
【0060】
IQ平面におけるvda(ベクトル量)及びvdb(ベクトル量)のそれぞれの角度[vd(θ+π)(ベクトル量)からvd(θ)(ベクトル量)までのベクトルがI軸となす角度、vd(−θ+π)(ベクトル量)からvd(−θ)(ベクトル量)までのベクトルがI軸となす角度]をζa及びζbとすると、正接値tanζa及びtanζbは以下のように表される。
【数37】
【0061】
さらに、以下のような関係が得られる。
【数38】
【0062】
ここで、θ=π/4として、微小項を無視すると、以下の(19)式が得られる。
【数39】
【0063】
よって、vda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)から、ψpが算出できる。但し、(18)式からθ=π/4、3π/4、5π/4及び7π/4に対する応答の値を用いることになる。
【0064】
なお、上で述べたような算出方法を用いる場合には、実際のψpとは異なり、2ψpは−π/2からπ/2までの値が算出される。すなわち、ψpは−π/4からπ/4までの値となるので、補正を行う。具体的には、以下で述べる。
【0065】
なお、vda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)を直接計算しても以下のようにψpは求められるが精度が悪い。
【数40】
【0066】
例えば図6に示すように、θ=π/4、3π/4、5π/4(=−3π/4)及び7π/4(=−π/4)におけるvq(θ)(ベクトル量)が入力されるものとする。そして、QDM16とQDMC18を通過すると、図7に示すような出力値vd(π/4)(ベクトル量)、vd(3π/4)(ベクトル量)、vd(−3π/4)(ベクトル量)及びvd(−π/4)(ベクトル量)が測定される。上で述べたように、vda(ベクトル量)は、vd(−3π/4)(ベクトル量)からvd(π/4)(ベクトル量)へのベクトルであり、vdb(ベクトル量)は、vd(3π/4)(ベクトル量)からvd(−π/4)(ベクトル量)へのベクトルである。この時、vda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)の方向Aの、軸Iからの角度が、ψpである。なお、上で述べたように2ψ'pが(19)式から得られ、ψ'pも得られるが、このようにvda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)の方向Aが第2象限にあるので、ψ'pにπ/2を加算することで、正しい位相回転角ψpが得られる。なお、方向Aが第3象限にあればπを加算し、方向Aが第4象限にあれば3π/2を加算し、方向Aが第1象限にあれば0を加算する。
【0067】
次に、減衰率gpの計算方法について説明する。(13)式を(9)式に代入すると、以下のような式が得られる。
【数41】
【0068】
ここで、Nを8の倍数とする。さらに、1以上N以下のnについて、以下が成り立つようにする。
θn=2(n−1)π/N+π/4
すなわち、θnに、π/4、3π/4、5π/4及び7π/4が含まれるようにする。
【0069】
そうすると、以下のような関係が得られる。
【数42】
【0070】
次に、図8を用いて、校正時の処理について説明する。まず、DSP19又は他の制御部は、第1スイッチSW1乃至第4スイッチSW4の各スイッチを制御して、校正モードのスイッチ状態に切り替えさせる(ステップS1)。
【0071】
そして、DSP19は、校正パラメータαc=1、βc=1、φc=0、cc1=0及びcc2=0を、QDMC18に設定する(ステップ3)。さらに、DSP19は、直前のエラーベクトルqe=0を設定する(ステップS5)。
【0072】
そして、DSP19は、校正入力信号vq(k,n)(ベクトル量)を第1スイッチSW1を介してQMC11に出力して、QDMC18からの出力vm(k,n)(ベクトル量)を、メモリなどに記録する(ステップS7)。例えば、vq(k,n)(ベクトル量)に対する測定結果vm(k,n)(ベクトル量)は、以下のように表される。
【数43】
【0073】
なお、k毎に、Vqkが変化するので、k毎に、大きさのベクトルmkは、以下のように表される。このベクトルmkも、メモリなどに記録される。
【数44】
【0074】
なお、kは1以上K以下の整数であり、上で述べたようにNは8の倍数とする。さらに、1以上N以下のnについて、以下が成り立つようにする。
θn=2(n−1)π/N+π/4
【0075】
その後、DSP19は、vq(k,n)(ベクトル量)及びvm(k,n)(ベクトル量)から位相回転量ψpを算出する(ステップS9)。具体的には、以下のような演算を実施する。但し、N1乃至N4については、以下のような関係があるものとする。
【0076】
すなわち、θN1=π/4、θN2=3π/4、θN3=5π/4、θN4=7π/4であるとすると、N1乃至N4は、以下のように表される。
【数45】
【0077】
そして、vma(ベクトル量)及びvmb(ベクトル量)を(18)式に従って以下のように定義して算出する。
【数46】
【0078】
なお、図7で示したように、ζaとζbと定義すると、以下のような正接値を算出する。
【数47】
【0079】
そして、(19)式に従って、以下のような演算を実施する。
【数48】
【0080】
なお、上でも述べたように、この(21)式では、π/4から−π/4の値しか得られないので、以下の演算を実施して、ψ'pを補正する。
【数49】
【数50】
【0081】
このように、1行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第1象限に出現するので、ψ'pをそのままkについての位相回転量として採用する。2行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第2象限に出現するので、ψ'pにπ/2を加算した結果をkについての位相回転量として採用する。3行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第3象限に出現するので、ψ'pにπを加算した結果をkについての位相回転量として採用する。4行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第4象限に出現するので、ψ'pに3π/2を加算した結果をkについての位相回転量として採用する。
【0082】
そして、最後に複数のkについての平均を以下のように算出することで、今回の位相回転量ψ^p(「^」は、推定量を表す上付きハットを表す。)が得られる。
【数51】
【0083】
次に、DSP19は、vq(k,n)(ベクトル量)、vd(k,n)(ベクトル量)及びvm(k,n)(ベクトル量)から得られるmk(ベクトル量)を用いて、減衰率gpを算出する(ステップS11)。
【0084】
具体的には、以下の式で算出する。
【数52】
【0085】
この式におけるルート部分はvm(k,n)(ベクトル量)の大きさ(又は振幅)の平均値に相当し、この値を、その際の校正入力信号の振幅Vqkで除した上で異なるkについて平均をさらに算出すると、減衰率gpが得られる。
【0086】
その後、DSP19は、vm(k,n)(ベクトル量)、ψp及びgpを用いてエラーベクトルqe^(「^」は推定量を表す上付きハットを表す)を算出する(ステップS13)。
【0087】
(17)式より、最小二乗法によりエラーベクトルqeを推定する。具体的には、以下の式を定義する。
【数53】
【0088】
qeでEを偏微分すると、以下のように表される。
【数54】
【0089】
なお、(22)式に表すような関係があるので、今回のエラーベクトルqe^は、以下のように算出される。
【数55】
【数56】
【0090】
但し、以下に示すような関係を用いている。なお、Iは単位行列をあらわす。
【数57】
【0091】
そして、DSP19は、エラー量f(qe^)を算出する(ステップS15)。エラー量f(qe^)は、以下のように算出される。
【0092】
(12)式でも説明したが、gpVqrが十分に小さくなれば、入力vq(ベクトル量)に対して応答vd(ベクトル量)が線形になる。そこで、エラー量f(qe^)を以下のように定義する。
【数58】
【0093】
このエラー量f(qe^)は、校正入力信号vd(ベクトル量)に対する応答の非線形部分gpVqkrを評価する評価関数である。
【0094】
そして、DSP19は、エラー量f(qe^)は、予め設定されている閾値A未満であるか判断する(ステップS17)。f(qe^)<Aであれば、QDMC18への校正パラメータの設定状態は適切であるので、DSP19又は制御部は、第1スイッチSW1乃至第4スイッチSW4の各々を通常モードのスイッチング状態に変更させる(ステップS19)。そして処理は終了する。
【0095】
一方、f(qe^)≧Aである場合には、DSP19は、校正パラメータの値を算出する(ステップS21)。
【0096】
具体的には、直前のエラーベクトルqeと今回算出されたエラーベクトルqe^との差から、各エラーベクトルの要素値を算出する。
【数59】
【0097】
そして、(7)式などから、以下のように各校正パラメータの値を算出する。
【数60】
【0098】
また、DSP19は、直前のエラーベクトルqeに、今回算出されたエラーベクトルqe^を設定する(ステップS23)。さらに、DSP19は、算出された校正パラメータの値を、QDMC18へ設定する(ステップS25)。そして、ステップS7に戻る。
【0099】
このような処理を実施すると、徐々に適切な校正パラメータの値がQDMC18へ設定されるようになるので、信号の歪みが除去されて適切な信号が復調されるようになる。
【0100】
例えば、図9に示すような校正入力信号をDSP19が出力したものとする。すなわちk=1ではVq1=0.5であり、k=2ではVq2=1.0である。また、K=2であり、N=8である。
【0101】
これに対して、QDM16の出力が図10に示すようなものであるとする。すなわち、gp=0.994、ψp=110°、αp=1.046、βp=0.951、φp=8°、cp1=0.060。cp2=−0.030であるものとする。
【0102】
ここでステップS3で校正パラメータに対して初期値を設定した場合には、QDMC18では校正を行わないということであるので、図11で示すように、図10と同じ結果が得られる。なお、位相回転量ψp^=109.916829°、減衰率gp^=0.999896、エラーベクトルqe^及びエラー量f(qe^)については以下のような値が算出されたものとする。
【数61】
【0103】
そうすると、位相回転量ψp^、減衰率gp^、エラーベクトルqe^を用いて、校正パラメータの値を算出すると、以下のような値が得られる。すなわち、αc=0.950665、βc=1.047013、φc=−8.080815°、cc1=−0.060231、cc2=0.026976である。そうすると、図12に示すように、位相回転量ψp^は回転したままであるが、歪みが解消していることが分かる。エラー量f(qe^)についても基準値A=10-5よりも小さい0.000006となっているので、図8の処理は完了する。
【0104】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第3スイッチSW3の位置は、LNA15よりアンテナ寄りの場合もある。さらに、図8の処理フローについても、処理結果が変わらない限り処理順番を入れ替えたり、並列実行しても良い。例えば、ステップS9とステップS11の順番は入れ替えても良いし、並列実行しても良い。
【符号の説明】
【0105】
10 ベースバンドモジュール
11 QMC:直交変調器校正器
12a,12b DAC:D/A変換器
13 QM:直交変調器
14 PA:送信用電力増幅器
15 LNA:受信用低雑音増幅器
16 QDM:直交復調器
17a,17b ADC:A/D変換器
18 QDMC:直交復調器校正器
19 DSP:Digital Signal Processor
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信は通信容量を増大させるため、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)をベースとした多値変調やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調が用いられる。これら変調方式は送信側では直交変調器、受信側では直交復調器を使用して振幅と位相を伝達することにより実現されている。しかし、この直交変調器及び直交復調器はアナログ回路であるため、作り込みによる誤差、動作電圧や周波数による特性変動、温度特性、経年変化など様々な要因により、性能が変動してしまう。大容量通信を目指すほど、直交変調器及び直交復調器に求める伝達性能の正確さは高くなるため、正しく校正する技術が求められる。
【0003】
例えば特開平8−307465号公報には、受信信号を検波して互いに直交するI信号及びQ信号を出力する検波器を備えた受信装置に対し、上記受信信号として試験信号を入力し、上記試験信号のI信号及びQ信号に生じる誤差を求めるとともに、これら誤差のデータをメモリに保存する校正ステップと、通信信号を受信したときに上記メモリから誤差データを読み出すとともに、上記誤差データに基づき上記通信信号のI信号及びQ信号を補償する補償ステップとを含む、受信装置の補償方法が開示されている。
【0004】
また、特開2002−77284号公報には、電力増幅器の非線形歪みを補償するための帰還路及び直交復調器を備えた送信機において、無線部の影響を受けず、かつ外部へ妨害波を放射せずに、直交復調器の校正を行う技術が開示されている。具体的には、少なくとも、入力ベースバンド信号により直交変調された変調信号を増幅する電力増幅器と、当該電力増幅器の出力信号を帰還させる帰還回路と、当該帰還回路によって帰還された帰還信号を直交復調する直交復調器と、当該直交復調器によって直交復調された復調信号に基づいて電力増幅器の非線形歪みを補償する送信機において、直交復調器を校正する時に、トレーニング信号を送信機に与え、直交復調器によって直交復調された復調信号と入力トレーニング信号とを比較して直交復調器の校正を行なうための制御信号を生成する制御手段と、直交変調された変調信号を直接直交復調器に与える切替え手段とを設け、直交復調器を校正する時には、直交変調された変調信号を直接直交復調器に与え、直交復調器を校正する。
【0005】
さらに、特開2006−311056号公報には、高い変調精度を維持するための直交変調装置の校正方法が開示されている。具体的には、直交変調装置は、(A)所定の基準信号源に基づいて周波数可変の第1ローカル信号を発生する第1ローカル信号発生器と、(B)アナログの同相成分信号と直交成分信号とを、第1ローカル信号とともに受け、当該第1ローカル信号の周波数をキャリア周波数とする直交変調信号を生成出力する直交変調器と、(C)直交変調器の利得誤差および位相誤差を相殺するために、直交変調器に入力される同相成分信号と直交成分信号とに対して利得補正および位相補正を行う補正部と、同一周波数、同一振幅で、且つ互いに位相が直交する正弦波の同相成分信号と直交成分信号とを校正用信号として生成する校正用信号発生手段と、(D)基準信号源に基づいて第1ローカル信号に対して所定周波数の差を有する第2ローカル信号を生成出力する第2ローカル信号発生器と、(E)直交変調器の出力信号を受けて第2ローカル信号により所定周波数を中心とする中間周波数帯に変換する周波数変換器と、(F)中間周波数帯に変換された信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、(G)A/D変換器で変換されたディジタル信号に対してディジタル直交復調処理を行い、ディジタルの同相成分信号と直交成分信号とを復調する直交復調器と、(H)直交復調器で復調された同相成分信号と直交成分信号とに基づいて、直交変調器の利得誤差および位相誤差を算出する誤差算出部と、(I)算出された利得誤差および位相誤差を補正部で相殺するためにそれぞれ必要な利得の補正値および位相の補正値を算出する補正値算出手段と、(J)利得の補正値および位相の補正値を記憶するためのメモリと、(K)校正用信号を直交変調器に入力させ、キャリア周波数を順次変更するとともに、当該キャリア周波数毎に補正値算出手段によって得られた利得の補正値および位相の補正値を該キャリア周波数に対応づけてメモリに記憶する制御部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−307465号公報
【特許文献2】特開2002−77284号公報
【特許文献3】特開2006−311056号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. K. Cavers, "New Methods for Adaptation of Quadrature Modulators and Demodulators in Amplifier Linearization Circuits," IEEE Trans. Veh. Technol., Vol. 46, No. 3, pp. 707-716, August 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直交変調器の校正では、直交変調器で信号が歪むことを想定して予め逆に歪ませた信号を直交変調器に入力し、結果として正しい出力を得るという方法が採られる。一方、復調器側では、直交復調器出力に対して補正をかけて正しい出力を得る方式を採用する。
【0009】
一般的に、直交復調器の位相誤差及びゲインアンバランス自体は小さいものの、ランダムな位相回転と信号減衰が加わるため、正しく位相誤差、ゲインアンバランス及びDCオフセットなどを推定するためには、位相回転量及び信号の減衰率の影響を除去しなければ、直交復調器の校正を精度良く行うことができない。
【0010】
従って、本発明の目的は、直交復調器の校正を精度良く行うための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る無線通信機は、(A)直交復調部と、(B)直交復調部の出力を補償する校正部と、(C)校正部に対して校正パラメータの値を設定する設定部とを有する。そして、設定部が、(c1)直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
【数1】
により、第1の位相回転角ψp1を算出し、(c2)当該第1の位相回転角ψp1を、前記第1乃至第4の出力値に基づき第2の位相回転角ψp2に補正し、(c3)当該第2の位相回転角ψp2を用いて校正パラメータの値を算出する。
【0012】
このような処理を実施することで、直交復調器による正しい位相回転角を算出できるので、これに基づき校正パラメータの値を正確に算出できるようになる。
【0013】
また、上で述べた設定部が、(c4)第1乃至第4の出力値を含む出力値の大きさの平均を第1乃至第4の校正入力信号を含む校正入力信号の振幅で除することで減衰率を算出し、(c5)当該減衰率をさらに用いて校正パラメータの値を算出するようにしてもよい。これにより、より精度良く校正パラメータの値を算出することができるようになる。
【0014】
さらに、上で述べた校正部に対する校正値を算出する処理において、(c5−1)第2の位相回転角ψp2と減衰率と上で述べた出力値とを用いて、同相成分増幅度補正度、直交成分増幅度補正度、位相補正量、DCオフセットの同相成分補正量及びDCオフセットの直交成分補正量についてのエラーベクトルを算出し、(c5−2)当該エラーベクトルからエラー量(例えば、校正入力信号に対する応答の非線形部分を評価する評価関数によるエラー量)を算出し、(c5−3)当該エラー量が閾値を超える場合には、直前のエラーベクトルと当該エラーベクトルとの差から、校正部に対する同相成分増幅度補正度、校正部に対する直交成分増幅度補正度、校正部に対する位相補正量、校正部に対するDCオフセットの同相成分補正量及び校正部に対するDCオフセットの直交成分補正量を算出するようにしてもよい。このような処理をエラー量が閾値以下になるまで繰り返せば、正しい校正パラメータの値が得られ、精度良く復調を行うことができるようになる。
【0015】
なお、上で述べたような処理をハードウエアに実施させるためのプログラムを作成することができ、当該プログラムは、例えばフレキシブル・ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は記憶装置に格納される。なお、処理途中のデータについては、コンピュータのメモリ等の記憶装置に一時保管される。
【発明の効果】
【0016】
直交復調器の校正を精度良く行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る無線通信機の機能ブロック図である。
【図2】図2は、QDMの構成例を示す図である。
【図3】図3は、校正入力信号を表すIQ平面の図である。
【図4】図4は、QDMの出力信号を表すIQ平面の図である。
【図5】図5は、QDMCの構成例を示す図である。
【図6】図6は、校正入力信号を表すIQ平面の図である。
【図7】図7は、QDMCの出力信号を表すIQ平面の図である。
【図8】図8は、本実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【図9】図9は、校正入力信号を表すIQ平面の図である。
【図10】図10は、QDMCの出力信号を表すIQ平面の図である。
【図11】図11は、1回目の校正処理の結果を表すIQ平面の図である。
【図12】図12は、2回目の校正処理の結果を表すIQ平面の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る無線通信機の機能ブロック図を図1に示す。本実施の形態に係る無線通信機は、第1スイッチSW1と、直交変調器校正器QMC(Quadrature Modulation Compensator)11と、D/A変換器DAC(Digital-Analog Converter)12a及び12bと、直交変調器QM(Quadrature Modulator)13と、第2スイッチSW2と、送信用電力増幅器PA(Power Amplifier)14と、送信用アンテナ21と、受信用アンテナ22と、受信用低雑音増幅器LNA(Low-Noise Amplifier)15と、第3スイッチSW3と、直交復調器QDM(Quadrature DeModulator)16と、A/D変換器ADC(Analog-Digital Converter)17a及び17bと、直交復調器校正器QDMC(Quadrature DeModulation Compensator)18と、第4スイッチSW4と、DSP(Digital Signal Processor)19とを有する。DSP19にはメモリが含まれているか又は外部にメモリが接続されているものとする。
【0019】
第1スイッチSW1は、ベースバンドモジュール10からの出力(ベースバンド信号I及びQ)とDSP19からの出力vq1及びvq2とのいずれかを、QMC11に出力する。QMC11は、第1スイッチSW1からの出力に対して補償を実施する。QMC11で補償された信号Iは、DAC12aでアナログ信号に変換され、QMC11で補償された信号Qは、DAC12bでアナログ信号に変換され、QM13に出力される。QM13は、入力された信号I及び信号Qに対して直交変調を行って、第2スイッチSW2に出力する。第2スイッチSW2は、QM13からの出力を、PA14又は第3スイッチSW3に出力する。PA14は、第2スイッチSW2からの出力を増幅してアンテナ21から送信する。
【0020】
一方、アンテナ22で受信した信号は、LNA15で増幅され、第3スイッチSW3に出力される。第3スイッチSW3は、第2スイッチSW2からの出力と、LNA15の出力とのいずれかをQDM16に出力する。第3スイッチSW3の出力はvqhと表すものとする。QDM16は、第3スイッチSW3からの出力に対して直交復調を行って、復調i信号と復調q信号とを出力する。この復調i信号は、ADC17aでディジタル信号vc1に変換され、復調q信号は、ADC17bでディジタル信号vc2に変換される。QDMC18は、DSP19によって設定された校正パラメータ(以下で説明するαc、βc、φc、cc1及びcc2)に基づき、入力信号に対して補償を実施して、出力信号vd1及びvd2を第4スイッチSW4に出力する。第4スイッチSW4は、QDMC18からの出力を、DSP19又はベースバンドモジュール10に出力する。
【0021】
校正時には、第1スイッチSW1は、DSP19からの出力をQMC11に出力する。第2スイッチSW2は、QM13からの出力を第3スイッチSW3に出力する。第4スイッチSW4は、QDMC18の出力をDSP19に出力する。一方、通信時には、第1スイッチSW1は、ベースバンドモジュール10からの出力をQMC11に出力する。第2スイッチSW2は、QM13の出力をPA14に出力する。さらに、第3スイッチSW3は、LNA15からの出力を、QDM16に出力する。また、第4スイッチSW4は、QDMC18の出力をベースバンドモジュール10に出力する。
【0022】
図2に、本実施の形態に係るQDM16の構成例を示す。QDM16は、入力vqhに対する増幅器161と、局部発振器163と、局部発振器163からの出力信号の位相を90度遅延させる移相器164と、増幅器161の出力と局部発振器163の出力信号とを混合するミキサ162aと、局部発振器163からの出力信号の移相を90度遅らせた信号と増幅器161の出力とを混合するミキサ162bと、ミキサ162aの出力信号に対するローパスフィルタLPF165aと、ミキサ162bの出力信号に対するローパスフィルタLPF165bとを有する。ローパスフィルタLPF165aの出力はADC17aに入力され、ローパスフィルタLPF165bの出力はADC17bに入力される。なお、ADC17aの出力はvc1であり、ADC17bの出力は、vc2である。
【0023】
なお、増幅器161は、ゲイン(減衰率とも呼ぶ)gpを有し、発振器163は、搬送波角周波数ωcの信号を発振するものとする。なお、復調経路において位相角回転量ψpが生ずるものとする。また、移相器164では、位相ずれφpを生じるものとする。さらに、ミキサ162aでは、同相成分についての増幅度αp及び同相成分についてのDCオフセットcp1を生じ、ミキサ162bでは、直交成分についての増幅度βp及び直交成分についてのDCオフセットcp2を生ずるものとする。
【0024】
そして、DSP19は、(1)式のような校正信号を第1スイッチSW1に出力する。
【数2】
【0025】
校正時には、上で述べたように各スイッチが動作するので、第1スイッチSW1、QMC11、DAC12a及び12b、第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3を通過する過程で高周波信号に変調され、第3スイッチSW3の出力vqhとなる。このvqhは、(2)式のように示される。
【数3】
【0026】
g0は、変調経路の減衰係数であり、ψ0の変調経路の位相回転量である。なお、QM13の歪みはQMC11で校正されるため、第2スイッチSW2の出力に歪みは生じていないものとする。また、各スイッチは、スイッチング対象の信号を通過させるのに十分なダイナミックレンジと帯域を有しており、スイッチで生ずる歪みはないものとする。
【0027】
そしてQDM16内の減衰率gpを考慮すると、信号vqhは、(3)式に表すように、信号vpに変換される。なお、ψ0はψ1に回転する。
【数4】
【0028】
信号vpは、ミキサ162a、LPF165a及びADC17aにより同相成分について復調され、ミキサ162b、LDP165b及びADC17bにより直交成分について復調される。そうすると、ベースバンド帯域の同相成分信号vc1及び直交成分信号vc2が、以下のように得られる。なお、同じ装置であれば同じ搬送波角周波数ωcを使用できるので、周波数ずれはない。但し、位相回転量は、ψ1はψ2へと変化する。
【数5】
【数6】
なお、上記の式では2ωctが入った高調波分は、LPF165aおよびLPF165bでカットされる。
【0029】
また、このようなvc1及びvc2を整理すると、以下のようになる。
【数7】
【0030】
ここで、減衰率及び位相回転量を、以下のようにまとめる。なお、これらの変数の発生経緯は様々であるが、1カ所で全体量が発生したと仮定しても同じことである。
【数8】
【0031】
さらに、以下のようにパラメータを定義する。
【数9】
【0032】
そうすると上で述べたvc(ベクトル量)の式は、以下の(4)式のように表される。
【数10】
【0033】
例えば校正入力信号vq(ベクトル量)が、IQ平面上で図3に示すような点で表されるものとする。そして、gp=0.994(−0.05dB)、ψp=110°、αp=1.046、βp=0.951、φp=8°、cp1=0.060、cp2=−0.030の場合には、図4に示すような出力信号vc(ベクトル量)として測定されることになる。すなわち、I軸に対応する直線は左下方向にφp/2だけ傾き、Q軸に対応する直線は右上方向にφp/2だけ傾き、中心点は、(cp1,cp2)に移動するように歪みが発生している。なお、このような歪んだ曲線上、出力信号vc(ベクトル量)は任意のψpで回転する。
【0034】
また、QDMC18は、図5に示すような構成を有する。QDMC18は、QDM16からの同相成分信号vc1についてのDCオフセットを補正するミキサ181aと、QDM16からの直交成分信号vc2についてのDCオフセットを補正するミキサ181bと、ミキサ181aで補正された同相成分信号vc1に対して同相成分増幅度の補正を行うミキサ182aと、ミキサ181bで補正された直交成分信号vc2に対して直交成分増幅度の補正を行うミキサ182bと、位相補正を行う位相補正部183とを有する。
【0035】
位相補正部183の同相成分出力はvd1と表し、直交成分出力はvd2と表す。また、同相成分信号に対するDCオフセットの補正量はcc1であり、直交成分信号に対するDCオフセットの補正量はcc2である。さらに、同相成分増幅度の補正度はαcであり、直交成分増幅度の補正度はβcである。位相補正部183の位相補正量は、φcである。
【0036】
ここで、以下のように行列を定義する。
【数11】
【0037】
そうすると、QDMC18の入力vc(ベクトル量)に対する出力vd(ベクトル量)の関係は以下の(5)式のように表される。
【数12】
【0038】
そうすると、(4)式及び(5)式から、DSP19から入力vq(ベクトル量)とQDMC18の出力vd(ベクトル量)との入出力応答式が、(6)式のように表される。
【数13】
【0039】
以下、(6)式で表される入出力応答式の簡略化を行う。
【0040】
そこで、以下の関係を満たすパラメータεp及びεcを導入する。
【数14】
【0041】
本来、αp及びβpにはほとんど差はないはずなので、εpは非常に小さくなり、以下のように近似できる。さらに、αp及びβpの補正値であるαc及びβcもほとんど差がないので、εcも非常に小さくなり、同様に近似ができる。
【数15】
【0042】
さらに、φp及びφcも非常に小さいはずなので、以下のような近似が可能である。
【数16】
【0043】
そうすると、(6)式で用いられる行列Gp、Gc、Φp及びΦcは以下のように表される。
【数17】
【0044】
さらに、以下のようにパラメータを定義し直す。
【数18】
【0045】
さらに、以下のように近似できる。
【数19】
【0046】
そうすると、(6)式は、以下のように簡略化される。
【数20】
【0047】
(1)式と(8)式とからDSP19からの入力vq(ベクトル量)に対して得られるvd(ベクトル量)の大きさVd(振幅とも呼ぶ)は以下のように計算される。
【数21】
【0048】
(9)式の両辺の平方根を計算すると以下のように表される。
【数22】
【0049】
さらに、以下のように定義を行う。
【数23】
【数24】
【0050】
そうすると、vd(ベクトル量)の大きさVdは、以下のように表される。
【数25】
【0051】
(12)式からすると、DSP19からの入力vq(ベクトル量)に対して応答vd(ベクトル量)が線形になるには、gpVqrが最小になるように、ε、φ、c1及びc2を決定すべきである。そのためには、gp及びψpを精度良く推定することが好ましい。
【0052】
ここで、DSP19からの入力信号vq(k,n)(ベクトル量)が、大きさVqkで角度θnを有するとすると、以下のように表される。なお、k毎に、nが1乃至Nで変動し、さらにVqkもk毎に変化する場合がある。
【数26】
【0053】
これに対応するr(k,n)は、(11)式からすると、以下のように表される。
【数27】
【0054】
ここで(14)式を(12)式に代入すると、(15)式が得られる。
【数28】
【0055】
さらに、1≦n≦Nであるnに対するθnについて拡張すると、N列の応答ベクトルVdkが得られる。
【数29】
【0056】
さらに、以下のように行列を定義する。
【数30】
【数31】
ここでqeをエラーベクトルと呼ぶ。
【0057】
そうすると、(16)式は、以下のように表される。
【数32】
【0058】
以下のような入力vq(θ)(ベクトル量)に対する応答vd(θ)(ベクトル量)は、(8)式から以下のように表される。
【数33】
【数34】
【0059】
さらに、vda(ベクトル量)及びvdb(ベクトル量)を(18)式のように定義すると、以下のように整理される。
【数35】
【数36】
【0060】
IQ平面におけるvda(ベクトル量)及びvdb(ベクトル量)のそれぞれの角度[vd(θ+π)(ベクトル量)からvd(θ)(ベクトル量)までのベクトルがI軸となす角度、vd(−θ+π)(ベクトル量)からvd(−θ)(ベクトル量)までのベクトルがI軸となす角度]をζa及びζbとすると、正接値tanζa及びtanζbは以下のように表される。
【数37】
【0061】
さらに、以下のような関係が得られる。
【数38】
【0062】
ここで、θ=π/4として、微小項を無視すると、以下の(19)式が得られる。
【数39】
【0063】
よって、vda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)から、ψpが算出できる。但し、(18)式からθ=π/4、3π/4、5π/4及び7π/4に対する応答の値を用いることになる。
【0064】
なお、上で述べたような算出方法を用いる場合には、実際のψpとは異なり、2ψpは−π/2からπ/2までの値が算出される。すなわち、ψpは−π/4からπ/4までの値となるので、補正を行う。具体的には、以下で述べる。
【0065】
なお、vda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)を直接計算しても以下のようにψpは求められるが精度が悪い。
【数40】
【0066】
例えば図6に示すように、θ=π/4、3π/4、5π/4(=−3π/4)及び7π/4(=−π/4)におけるvq(θ)(ベクトル量)が入力されるものとする。そして、QDM16とQDMC18を通過すると、図7に示すような出力値vd(π/4)(ベクトル量)、vd(3π/4)(ベクトル量)、vd(−3π/4)(ベクトル量)及びvd(−π/4)(ベクトル量)が測定される。上で述べたように、vda(ベクトル量)は、vd(−3π/4)(ベクトル量)からvd(π/4)(ベクトル量)へのベクトルであり、vdb(ベクトル量)は、vd(3π/4)(ベクトル量)からvd(−π/4)(ベクトル量)へのベクトルである。この時、vda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)の方向Aの、軸Iからの角度が、ψpである。なお、上で述べたように2ψ'pが(19)式から得られ、ψ'pも得られるが、このようにvda(ベクトル量)+vdb(ベクトル量)の方向Aが第2象限にあるので、ψ'pにπ/2を加算することで、正しい位相回転角ψpが得られる。なお、方向Aが第3象限にあればπを加算し、方向Aが第4象限にあれば3π/2を加算し、方向Aが第1象限にあれば0を加算する。
【0067】
次に、減衰率gpの計算方法について説明する。(13)式を(9)式に代入すると、以下のような式が得られる。
【数41】
【0068】
ここで、Nを8の倍数とする。さらに、1以上N以下のnについて、以下が成り立つようにする。
θn=2(n−1)π/N+π/4
すなわち、θnに、π/4、3π/4、5π/4及び7π/4が含まれるようにする。
【0069】
そうすると、以下のような関係が得られる。
【数42】
【0070】
次に、図8を用いて、校正時の処理について説明する。まず、DSP19又は他の制御部は、第1スイッチSW1乃至第4スイッチSW4の各スイッチを制御して、校正モードのスイッチ状態に切り替えさせる(ステップS1)。
【0071】
そして、DSP19は、校正パラメータαc=1、βc=1、φc=0、cc1=0及びcc2=0を、QDMC18に設定する(ステップ3)。さらに、DSP19は、直前のエラーベクトルqe=0を設定する(ステップS5)。
【0072】
そして、DSP19は、校正入力信号vq(k,n)(ベクトル量)を第1スイッチSW1を介してQMC11に出力して、QDMC18からの出力vm(k,n)(ベクトル量)を、メモリなどに記録する(ステップS7)。例えば、vq(k,n)(ベクトル量)に対する測定結果vm(k,n)(ベクトル量)は、以下のように表される。
【数43】
【0073】
なお、k毎に、Vqkが変化するので、k毎に、大きさのベクトルmkは、以下のように表される。このベクトルmkも、メモリなどに記録される。
【数44】
【0074】
なお、kは1以上K以下の整数であり、上で述べたようにNは8の倍数とする。さらに、1以上N以下のnについて、以下が成り立つようにする。
θn=2(n−1)π/N+π/4
【0075】
その後、DSP19は、vq(k,n)(ベクトル量)及びvm(k,n)(ベクトル量)から位相回転量ψpを算出する(ステップS9)。具体的には、以下のような演算を実施する。但し、N1乃至N4については、以下のような関係があるものとする。
【0076】
すなわち、θN1=π/4、θN2=3π/4、θN3=5π/4、θN4=7π/4であるとすると、N1乃至N4は、以下のように表される。
【数45】
【0077】
そして、vma(ベクトル量)及びvmb(ベクトル量)を(18)式に従って以下のように定義して算出する。
【数46】
【0078】
なお、図7で示したように、ζaとζbと定義すると、以下のような正接値を算出する。
【数47】
【0079】
そして、(19)式に従って、以下のような演算を実施する。
【数48】
【0080】
なお、上でも述べたように、この(21)式では、π/4から−π/4の値しか得られないので、以下の演算を実施して、ψ'pを補正する。
【数49】
【数50】
【0081】
このように、1行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第1象限に出現するので、ψ'pをそのままkについての位相回転量として採用する。2行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第2象限に出現するので、ψ'pにπ/2を加算した結果をkについての位相回転量として採用する。3行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第3象限に出現するので、ψ'pにπを加算した結果をkについての位相回転量として採用する。4行目の条件を満たす場合には、vma(ベクトル量)+vmb(ベクトル量)が第4象限に出現するので、ψ'pに3π/2を加算した結果をkについての位相回転量として採用する。
【0082】
そして、最後に複数のkについての平均を以下のように算出することで、今回の位相回転量ψ^p(「^」は、推定量を表す上付きハットを表す。)が得られる。
【数51】
【0083】
次に、DSP19は、vq(k,n)(ベクトル量)、vd(k,n)(ベクトル量)及びvm(k,n)(ベクトル量)から得られるmk(ベクトル量)を用いて、減衰率gpを算出する(ステップS11)。
【0084】
具体的には、以下の式で算出する。
【数52】
【0085】
この式におけるルート部分はvm(k,n)(ベクトル量)の大きさ(又は振幅)の平均値に相当し、この値を、その際の校正入力信号の振幅Vqkで除した上で異なるkについて平均をさらに算出すると、減衰率gpが得られる。
【0086】
その後、DSP19は、vm(k,n)(ベクトル量)、ψp及びgpを用いてエラーベクトルqe^(「^」は推定量を表す上付きハットを表す)を算出する(ステップS13)。
【0087】
(17)式より、最小二乗法によりエラーベクトルqeを推定する。具体的には、以下の式を定義する。
【数53】
【0088】
qeでEを偏微分すると、以下のように表される。
【数54】
【0089】
なお、(22)式に表すような関係があるので、今回のエラーベクトルqe^は、以下のように算出される。
【数55】
【数56】
【0090】
但し、以下に示すような関係を用いている。なお、Iは単位行列をあらわす。
【数57】
【0091】
そして、DSP19は、エラー量f(qe^)を算出する(ステップS15)。エラー量f(qe^)は、以下のように算出される。
【0092】
(12)式でも説明したが、gpVqrが十分に小さくなれば、入力vq(ベクトル量)に対して応答vd(ベクトル量)が線形になる。そこで、エラー量f(qe^)を以下のように定義する。
【数58】
【0093】
このエラー量f(qe^)は、校正入力信号vd(ベクトル量)に対する応答の非線形部分gpVqkrを評価する評価関数である。
【0094】
そして、DSP19は、エラー量f(qe^)は、予め設定されている閾値A未満であるか判断する(ステップS17)。f(qe^)<Aであれば、QDMC18への校正パラメータの設定状態は適切であるので、DSP19又は制御部は、第1スイッチSW1乃至第4スイッチSW4の各々を通常モードのスイッチング状態に変更させる(ステップS19)。そして処理は終了する。
【0095】
一方、f(qe^)≧Aである場合には、DSP19は、校正パラメータの値を算出する(ステップS21)。
【0096】
具体的には、直前のエラーベクトルqeと今回算出されたエラーベクトルqe^との差から、各エラーベクトルの要素値を算出する。
【数59】
【0097】
そして、(7)式などから、以下のように各校正パラメータの値を算出する。
【数60】
【0098】
また、DSP19は、直前のエラーベクトルqeに、今回算出されたエラーベクトルqe^を設定する(ステップS23)。さらに、DSP19は、算出された校正パラメータの値を、QDMC18へ設定する(ステップS25)。そして、ステップS7に戻る。
【0099】
このような処理を実施すると、徐々に適切な校正パラメータの値がQDMC18へ設定されるようになるので、信号の歪みが除去されて適切な信号が復調されるようになる。
【0100】
例えば、図9に示すような校正入力信号をDSP19が出力したものとする。すなわちk=1ではVq1=0.5であり、k=2ではVq2=1.0である。また、K=2であり、N=8である。
【0101】
これに対して、QDM16の出力が図10に示すようなものであるとする。すなわち、gp=0.994、ψp=110°、αp=1.046、βp=0.951、φp=8°、cp1=0.060。cp2=−0.030であるものとする。
【0102】
ここでステップS3で校正パラメータに対して初期値を設定した場合には、QDMC18では校正を行わないということであるので、図11で示すように、図10と同じ結果が得られる。なお、位相回転量ψp^=109.916829°、減衰率gp^=0.999896、エラーベクトルqe^及びエラー量f(qe^)については以下のような値が算出されたものとする。
【数61】
【0103】
そうすると、位相回転量ψp^、減衰率gp^、エラーベクトルqe^を用いて、校正パラメータの値を算出すると、以下のような値が得られる。すなわち、αc=0.950665、βc=1.047013、φc=−8.080815°、cc1=−0.060231、cc2=0.026976である。そうすると、図12に示すように、位相回転量ψp^は回転したままであるが、歪みが解消していることが分かる。エラー量f(qe^)についても基準値A=10-5よりも小さい0.000006となっているので、図8の処理は完了する。
【0104】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第3スイッチSW3の位置は、LNA15よりアンテナ寄りの場合もある。さらに、図8の処理フローについても、処理結果が変わらない限り処理順番を入れ替えたり、並列実行しても良い。例えば、ステップS9とステップS11の順番は入れ替えても良いし、並列実行しても良い。
【符号の説明】
【0105】
10 ベースバンドモジュール
11 QMC:直交変調器校正器
12a,12b DAC:D/A変換器
13 QM:直交変調器
14 PA:送信用電力増幅器
15 LNA:受信用低雑音増幅器
16 QDM:直交復調器
17a,17b ADC:A/D変換器
18 QDMC:直交復調器校正器
19 DSP:Digital Signal Processor
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交復調部と、
前記直交復調部の出力を補償する校正部と、
前記校正部に対して校正パラメータの値を設定する設定部と、
を有し、
前記設定部が、
前記直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する前記校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する前記校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する前記校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する前記校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
【数1】
により、第1の位相回転角ψp1を算出し、
当該第1の位相回転角ψp1を、前記第1乃至第4の出力値に基づき第2の位相回転角ψp2に補正し、
当該第2の位相回転角ψp2を用いて前記校正パラメータの値を算出する
無線通信機。
【請求項2】
前記設定部が、
前記第1乃至第4の出力値を含む出力値の大きさの平均を前記第1乃至第4の校正入力信号を含む校正入力信号の振幅で除することで減衰率を算出し、
当該減衰率をさらに用いて前記校正パラメータの値を算出する
請求項1記載の無線通信機。
【請求項3】
前記校正パラメータの値を算出する処理において、
前記第2の位相回転角ψp2と前記減衰率と前記出力値とを用いて、同相成分増幅度補正度、直交成分増幅度補正度、位相補正量、DCオフセットの同相成分補正量及びDCオフセットの直交成分補正量についてのエラーベクトルを算出し、
当該エラーベクトルからエラー量を算出し、
当該エラー量が閾値を超える場合には、直前のエラーベクトルと当該エラーベクトルとの差から、前記校正部に対する同相成分増幅度補正度、前記校正部に対する直交成分増幅度補正度、前記校正部に対する位相補正量、前記校正部に対するDCオフセットの同相成分補正量及び前記校正部に対するDCオフセットの直交成分補正量を算出する
請求項2記載の無線通信機。
【請求項4】
無線通信機における直交復調部の出力を補償する校正パラメータの値を算出する方法であって、
前記直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する前記校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する前記校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する前記校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する前記校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
【数2】
により、第1の位相回転角ψp1を算出するステップと、
当該第1の位相回転角ψp1を、前記第1乃至第4の出力値に基づき第2の位相回転角ψp2に補正するステップと、
当該第2の位相回転角ψp2を用いて前記校正パラメータの値を算出する校正パラメータ値算出ステップと、
を含む、校正パラメータ値算出方法。
【請求項5】
前記第1乃至第4の出力値を含む出力値の大きさの平均を前記第1乃至第4の校正入力信号を含む校正入力信号の振幅で除することで減衰率を算出するステップ
をさらに含み、
前記校正パラメータ値算出ステップにおいて、当該減衰率をさらに用いて前記校正パラメータの値を算出する
請求項4記載の校正パラメータ値算出方法。
【請求項6】
前記校正パラメータ値算出ステップが、
前記第2の位相回転角ψp2と前記減衰率と前記出力値とを用いて、同相成分増幅度補正度、直交成分増幅度補正度、位相補正量、DCオフセットの同相成分補正量及びDCオフセットの直交成分補正量についてのエラーベクトルを算出するステップと、
当該エラーベクトルからエラー量を算出するステップと、
当該エラー量が閾値を超える場合には、直前のエラーベクトルと当該エラーベクトルとの差から、前記校正部に対する同相成分増幅度補正度、前記校正部に対する直交成分増幅度補正度、前記校正部に対する位相補正量、前記校正部に対するDCオフセットの同相成分補正量及び前記校正部に対するDCオフセットの直交成分補正量を算出するステップと、
を含む請求項5記載の校正パラメータ値算出方法。
【請求項1】
直交復調部と、
前記直交復調部の出力を補償する校正部と、
前記校正部に対して校正パラメータの値を設定する設定部と、
を有し、
前記設定部が、
前記直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する前記校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する前記校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する前記校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する前記校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
【数1】
により、第1の位相回転角ψp1を算出し、
当該第1の位相回転角ψp1を、前記第1乃至第4の出力値に基づき第2の位相回転角ψp2に補正し、
当該第2の位相回転角ψp2を用いて前記校正パラメータの値を算出する
無線通信機。
【請求項2】
前記設定部が、
前記第1乃至第4の出力値を含む出力値の大きさの平均を前記第1乃至第4の校正入力信号を含む校正入力信号の振幅で除することで減衰率を算出し、
当該減衰率をさらに用いて前記校正パラメータの値を算出する
請求項1記載の無線通信機。
【請求項3】
前記校正パラメータの値を算出する処理において、
前記第2の位相回転角ψp2と前記減衰率と前記出力値とを用いて、同相成分増幅度補正度、直交成分増幅度補正度、位相補正量、DCオフセットの同相成分補正量及びDCオフセットの直交成分補正量についてのエラーベクトルを算出し、
当該エラーベクトルからエラー量を算出し、
当該エラー量が閾値を超える場合には、直前のエラーベクトルと当該エラーベクトルとの差から、前記校正部に対する同相成分増幅度補正度、前記校正部に対する直交成分増幅度補正度、前記校正部に対する位相補正量、前記校正部に対するDCオフセットの同相成分補正量及び前記校正部に対するDCオフセットの直交成分補正量を算出する
請求項2記載の無線通信機。
【請求項4】
無線通信機における直交復調部の出力を補償する校正パラメータの値を算出する方法であって、
前記直交復調部に対する位相角π/4の第1の校正入力信号に対する前記校正部の第1の出力値(I1,Q1)と位相角5π/4の第2の校正入力信号に対する前記校正部の第2の出力値(I2,Q2)とでなす角度についての正接値aと、位相角3π/4の第3の校正入力信号に対する前記校正部の第3の出力値(I3,Q3)と位相角7π/4の第4の校正入力信号に対する前記校正部の第4の出力値(I4,Q4)とでなす角度についての正接値bとから、
【数2】
により、第1の位相回転角ψp1を算出するステップと、
当該第1の位相回転角ψp1を、前記第1乃至第4の出力値に基づき第2の位相回転角ψp2に補正するステップと、
当該第2の位相回転角ψp2を用いて前記校正パラメータの値を算出する校正パラメータ値算出ステップと、
を含む、校正パラメータ値算出方法。
【請求項5】
前記第1乃至第4の出力値を含む出力値の大きさの平均を前記第1乃至第4の校正入力信号を含む校正入力信号の振幅で除することで減衰率を算出するステップ
をさらに含み、
前記校正パラメータ値算出ステップにおいて、当該減衰率をさらに用いて前記校正パラメータの値を算出する
請求項4記載の校正パラメータ値算出方法。
【請求項6】
前記校正パラメータ値算出ステップが、
前記第2の位相回転角ψp2と前記減衰率と前記出力値とを用いて、同相成分増幅度補正度、直交成分増幅度補正度、位相補正量、DCオフセットの同相成分補正量及びDCオフセットの直交成分補正量についてのエラーベクトルを算出するステップと、
当該エラーベクトルからエラー量を算出するステップと、
当該エラー量が閾値を超える場合には、直前のエラーベクトルと当該エラーベクトルとの差から、前記校正部に対する同相成分増幅度補正度、前記校正部に対する直交成分増幅度補正度、前記校正部に対する位相補正量、前記校正部に対するDCオフセットの同相成分補正量及び前記校正部に対するDCオフセットの直交成分補正量を算出するステップと、
を含む請求項5記載の校正パラメータ値算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−51539(P2013−51539A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188128(P2011−188128)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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