説明

無線通信装置および無線通信方法

【課題】無線通信装置を構成するRF受信部内の可変利得増幅部に対して利得設定する際、その利得変化により生ずるDCオフセットに起因して、利得が過度に増大することを抑制する。
【解決手段】RF受信部4を構成する増幅部21に対し、利得自動調整部17から利得を設定するに際し、遅延制御部22を介して行うようにする。この遅延制御部22は、所定の利得設定周期毎に利得変化がある都度、その利得変化時から所定の遅延時間後に通常の利得制御を開始させるように動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置、特にW−CDMA端末等の3GPP(3rd Generation Partnership Project)規格に準拠した無線装置におけるAGC(Auto Gain Control)制御、ならびに無線通信方法特にAGC制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は本発明が適用される無線通信装置の従来例を示すブロック図である。本図に示す無線通信装置1におけるRF(Radio Frequency)受信部(無線受信部)4は、上記のW−CDMAにおいて主流になっているダイレクト・コンバージョン方式の受信機構成となっている。なお、このRF受信部4と対をなすRF送信部7は、本発明に係る上記のAGC制御に直接関係しないので、その詳細は省略するが、このRF送信部7からの送信信号の送信用アンテナは、デュープレクサ(DPLX)3を介して、上記RF受信部4からの受信信号の受信用アンテナと共用している。図中のアンテナ2がその共用アンテナである。
【0003】
アンテナ2より入力されたアナログ信号は、上記RF受信部4にて復調および増幅され、さらにAFE部(Analog Front-End部:アナログ・フロント・エンド部)5にてディジタル信号に変換された後、DBB部(Digital Base Band部:ディジタル・ベースバンド部)6に入力され、ここにおいて、上記のAGC制御が行われる。なお、このDBB部6の後段には、AFC(Auto Frequency Control)部や、W−CDMAによる拡散符号を復号するDEM(Demodulation)部や、エラー訂正と共に暗号化を解く復号処理を行うDECODE(Decoder)部が続くが、図示省略する。
【0004】
ここで上記のRF受信部4、AFE部5およびDBB部6についてさらに説明を加えると次のとおりである。まずRF受信部4について見ると、デュープレクサ(DPLX)3より入力された受信信号はLNA部(Low Noise Amplifier部:低雑音増幅部)11に印加される。その制御入力であるLNAon/off信号がオン(on)のとき、すなわち該受信信号が弱電界強度であるとき、このLNA部11にて信号増幅が行われる。一方オフ(off)のとき、すなわち強電界強度のときはここを信号が単に通過(スルー)する。
【0005】
次にLNA部11を経た受信信号は、BPF部(Band Pass Filter部:バンドパス・フィルタ部)12に入力されて、その信号に含まれる雑音周波数成分が除去されてから、QDEM部(Quadrature Demodulator部:直交復調部)13に入力される。このQDEM部13において、ベースバンド成分とこれを搬送するキャリア成分とからなる上記受信信号より、そのベースバンド成分のみを抽出する。この場合、I−ch受信ベースバンド信号RxIと、Q−ch受信ベースバンド信号RxQとに分離してその抽出が行われる。
【0006】
抽出された上記信号RxIおよびRxQは、さらにLPF(Low Pass Filter部:ローパス・フィルタ部)14にて所要帯域成分以外について除去した後、VGA部(Variable Gain Amplifier部:可変利得増幅部)15において、その制御入力であるGC(Gain Control)信号に従って、可変利得増幅される。その可変利得増幅後の出力は、正転および反転したI−chペア受信信号「RxI(正転/反転)」と、正転および反転したQ−chペア受信信号「RxQ(正転/反転)」である。
【0007】
上記によりRF受信部4により受信処理されたアナログの出力信号、すなわち上記のRxI(正転/反転)信号およびRxQ(正転/反転)信号は、次段のAFE部5に入力され、該AFE部内のADC部(Analog to Digital Converter部)16によりそれぞれディジタル信号に変換される。このディジタル信号に変換されたRxI(正転/反転)信号およびRxQ(正転/反転)信号はさらに、一系列の信号に時分割多重され、RxIQ多重信号としてさらに、次段のDBB部6に入力される。なおこのAFE部5内の18は、送信側でのDAC(Digital to Analog Converter)である。
【0008】
DBB部6に入力された上記のRxIQ多重信号は、該DBB部内のAGC(Auto Gain Control部:利得自動調整部)17において所定の処理や演算が行われ、前述したGC信号ならびにLNAon/off信号を生成し、それぞれVGA部15とLNA部11とに送出する。なお、このAGC部17については図10等を参照して後に詳述する。
【0009】
なお本発明に関連する公知技術として、下記の〔特許文献1〕および〔特許文献2〕がある。後に明白となるように本発明は、RF受信部4内の第1増幅器(LNA)および第2増幅器(VGA)のそれぞれの利得変化時に生ずるDCオフセットに起因する異常利得制御を、そのDCオフセット発生期間中、通常のAGC制御をスリープさせることにより、回避することを特徴とするものである。これに対し〔特許文献1〕では、上記第1増幅器での利得変化のタイミングと第2増幅器での利得変化のタイミングとをずらすことを特徴とし、また〔特許文献2〕では、上記の利得変化をその増大時において、(前回設定利得+4)〔dB〕に抑えることを特徴とする。
【0010】
【特許文献1】特開2004−328494号公報
【特許文献2】特開2004−193914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した図9に示すダイレクト・コンバージョン方式による受信機構成を有する無線通信装置1においては、上記LNAon/off信号によるLNA部11での利得変化時と、上記GC信号によるVGA部15での利得変化時とにおいて、LGA部15の出力にDCオフセットが生じる。そしてこのVGA部15の出力において、そのDCオフセット成分にAC信号成分が重畳すると、このAC信号成分が飽和してしまうことがある(後述の図11参照)。
【0012】
結局、上記のAC信号成分の飽和によってAGC部17での利得制御が正常動作しなくなり、所望の利得に収束するまでの時間が延びてしまう。すなわち、利得収束時間が長くなる。そうすると、W−CDMAで規定する所定の利得収束時間を順守できなくなるという問題が生じる。
【0013】
さらにまた無線通信装置において用いられる重要な情報の1つである受信信号強度表示RSSI(Receive Signal Strength Indicator)に誤差を生じさせるといった問題をひき起こす。これはそのRSSIが、RF受信部4での信号受信の開始から所定時間経過後の該RF受信部4への利得設定(LNAon/offおよびGC)までの時間に基づいて計算によって求められるものだからであり、この時間が上述した利得収束時間の長期化によって不正確になれば、当然、そのRSSIにも誤差が含まれることになる。
【0014】
したがって本発明は、上記問題点に鑑み、VGA部の出力にDCオフセットが発生しても、利得収束時間を従来に比して大幅に短縮することのできる無線通信装置および無線通信方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
図1は本発明に係る装置の基本構成を示す図である。なお全図を通じて、同様の構成要素には、同一の参照番号または記号を付して示す。
【0016】
図1において、無線受信部(RF受信部)4および利得自動調整部(AGC部)17は、前記の図9に示したとおりである。すなわち、無線受信部(RF受信部)4は、受信信号(IN)を入力としてこれを増幅する増幅部21を含む。この増幅部21は、図9の例によれば、LNA部11およびVGA部15に相当する。
【0017】
一方、上記の利得自動調整部(AGC部)17は、所定の利得設定周期毎に、上記のRF受信部4からの出力レベルに応じた利得に更新しながら、増幅部21に対する利得制御を行う。
【0018】
ここで本発明を特徴付ける構成要素は、遅延制御部22である。この遅延制御部22は、増幅部21に対する利得制御を、所定の各前記利得設定周期の開始時点から所定の遅延時間だけ遅延させて、開始させる機能を果たす。
【0019】
また本発明は、新規な無線通信方法としても捉えることができる。
図2は本発明に係る方法の基本ステップを表すフローチャートである。本図において、
ステップS11:可変利得の増幅部21を少なくとも含む無線受信部4において実行されるステップであって、上記の入力した受信信号INを、その可変利得にて制御するステップである。
【0020】
ステップS12:このステップS12は従前からのステップS12bと、本発明の特徴をなすステップS12aとからなり、
そのステップS12bにおいては、利得自動調整部17において、無線受信部4からの出力レベルに応じた利得に、所定の利得設定周期毎に、更新しながら、増幅部21(11,15)に対する利得制御を行う。
【0021】
一方前記ステップS12aにおいては、上記所定の利得設定周期の開始時点から所定の遅延時間が経過するまでの間、上記利得制御を中断し、その後、該利得制御を開始する。
【発明の効果】
【0022】
上述した各利得設定周期において、増幅部21に対しAGC部17から新たな利得の設定を行う都度、この利得変化に起因したDCオフセット電圧が発生する。そしてこのDCオフセット電圧は、後に図11を参照して説明するとおり、AC信号成分の飽和をもたらし、結果として、利得の収束時間を長期化させてしまう。
【0023】
そこで、上記利得設定周期が到来する都度、利得設定はするものの、その開始時点からしばらくの間は本来の利得制御(AGC)をスリープさせる。そうすることによって、上記DCオフセット電圧によるAC信号成分の飽和が生じている間だけ、すなわち利得の不安定期間だけ、利得制御(AGC)を中断するので、その後は安定した利得制御(AGC)が行われて急速に利得は収束に向かい利得収束時間は従来よりも大幅に短縮されることになる(図4参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明によりもたらされる効果を明確にするために、まず初めに、従来のAGC部17の構成例と、その従来のAGC部17を用いたときの利得の収束過程について説明する。
【0025】
図10は従来のAGC部17の一構成例を示す図である。本図において、AGC部17は、図9に示すAFE部5内のADC部16から出力された上記RxIQ多重信号のレベルに応じた利得を算出し、この算出した利得に基づいて、LNA部11に対する前述のLNAon/off信号およびVGA部15に対する前述のGC信号を生成して、それぞれLNA部11およびVGA部15に対する利得設定を行う。
【0026】
さらに詳細には、RxIQ時分割多重された前述のRxIQ多重信号は、IQ分配部31に入力され、ここでRxI信号とRxQ信号に分配される。この分配されたRxI/RxQ信号に対し、電力化部32において、P=I2+Q2なる演算が行われ、電力Pが算出される。
【0027】
この算出された電力Pは、次段の基準値差分積分器(ループフィルタ)33に入力され、ここで上記RxIQ多重信号が有すべき基準となる一定の出力レベルすなわち図中の「基準値」との比較が行われ、その差分が求められると共に、その差分はさらに積分される。ここに得られた差分積分値は、出力設定部34を介して既述のGC(Gain Control)信号となり、VGA部15に対する利得を設定する。なおこの出力設定部34は、RF受信部4の入力インタフェースに適合するデータ形式に変換する機能を果たすものである。
【0028】
上記の基準値差分積分器33からの差分積分値は他方において、LNA切替判定部35に入力され、基準値より大幅に下まわると判定されたときは、LNA11に対するLNAon/off信号をonに切り替える。すなわちLNA11での低雑音増幅を行うように指示する。一方、基準値より大幅に上まわると判定されたときは、そのLNAon/off信号をoffに切り替える。すなわちLNA11はスルーで受信信号を通過させる。
【0029】
上記のLNAon/off信号がonのとき、すなわちLNA部11が利得を持つとき、そのLNA部11の利得分を、VGA部15に対する利得分(GC)に含ませてしまうと、正しいGC信号とならないので、その余分な利得分を減らすように基準値差分積分器33において補償すべく、LNA利得補正部36が設けられている。
【0030】
かかる従来構成のAGC部17を用いた場合の利得の収束過程を図11に表す。本図において、横軸tは、AGC部17が利得制御動作を開始してからの経過時間〔sec〕を表し、T,2T,3T…等の目盛の単位となるTは、既述した利得設定周期の各開始時点を表す。また縦軸Grfは、AGC部17からRF受信部4に対して指定する設定利得〔dB〕を表す。
【0031】
この図11において、まずt=0においてAGC部17による利得制御動作が開始されると、その後、一定時間間隔(一定周期)でAGC部17により利得の設定が行われる。その利得設定周期の開始時点は上記のT〔sec〕である。このT〔sec〕において、最初の利得設定がRF受信部4に対して行われると、該RF受信部内のVGA部15の出力には上記のDCオフセット電圧が発生し、前述のように、AC信号成分が飽和する。このAC信号成分の飽和により、AGC部17は無信号を増幅しようとする。この結果、図11に示すように、次の2T〔sec〕においては、VGA部15への設定利得が過度に増大し、さらにDCオフセット電圧が発生する。その後、徐々に利得は収束に向かい、最終的な安定した利得に収束するのは、本図の例では1/T〔sec〕以降となり、所定信号振幅に対応する収束後の一定のRF利得(図中のGs)に落ち着くまでにかなりの長時間を要してしまう。
【0032】
そこで本発明は図1に示す遅延制御部22を導入することにより、設定利得収束時間の短縮を図る。この遅延制御部22を、AGC部17と一体に組み込んだ一構成例を図に示す。
【0033】
図3は本発明に基づくAGC部17の一構成例を示す図である。本図において、注目すべき構成要素は遅延制御部22である。またこの遅延制御部22により制御されるスイッチ(SW)23である。さらにまた、この遅延制御部22と協働する内部レジスタ24である。それ以外の構成要素(31〜36)は図10に示した対応の各構成要素と同じであり、それらの各機能もほぼ同じである。
【0034】
上記遅延制御部22およびこれに協働するスイッチ(SW)23ならびに内部レジスタ24の機能を図を参照して説明する。
図4は図3に示す本発明に基づくAGC部17を用いた場合の利得の収束過程を表す図である。この図4と、上述した図11とを対比することにより、本発明の効果が明確になる。この図4の横軸tは、AGC部17が利得制御動作を開始してからの経過時間〔sec〕を表し、縦軸QrfはAGC部17からRF受信部4に対して指定する設定利得〔dB〕を表し、図11の場合と全く同様である。また図5は本発明に基づく無線通信装置1の具体的なIC構成例を示す図である。
【0035】
図4において、まずt=0においてAGC部17による利得制御動作が開始されると、一定時間間隔(一定周期)T〔sec〕で、RF受信部4内のVGA部15ならびにLNA部11に対する利得設定が行われる。この利得制御開始前の、図5に示すDBB−LSI6内のMODEM部41への電源投入時に、不揮発メモリ42に予め保持された対応テーブル43の内容や遅延時間の設定回数等の情報が、内部メモリ24(図5にも示す)に取り込まれる。
【0036】
利得制御動作の開始(t=0)から最初の利得設定周期の開始時点(t=T)において、不揮発メモリ42に保持された初回遅延時間Wfirst〔sec〕が付与される。なお、このWfirstは、VGA部15の出力におけるDCオフセット電圧の発生時間に合わせておくのが好ましい。このWfirstの期間中は、図3の遅延制御部22により、上記利得制御は擬似的に中断させられる。なおこの中断は、図3のスイッチ(SW)23内の接点を、端子A側から端子B側に切り替えることによって簡単に行うことができる。通常、上記接点は端子A側にあり、図10で説明したように、基準値差分積分器(ループフィルタ)33において、電力化部32からの電力Pと上記基準値との比較が行われ、AGC動作が実行されるが、上記Wfirstの期間中は、遅延制御部22によりスイッチ23の接点は端子B側に切り替えられる。そうすると、上記基準値差分積分器33は、上記基準値同士の比較を行うことになり、その比較結果は零となる。つまり、上記AGC動作は実質的に中断状態(スリープ)となる。ここに上述の中断が実現される。かくして、利得の設定はするものの、その中断中はAGC制御動作は停止される。
【0037】
上記のt=0より、T,2T…と経過するが、このTや2Tにおいてはそれぞれ新たな利得設定が行われる筈である(図10のTや2T等参照)。ところが本発明に係る図4においては、そのT〔sec〕、2T〔sec〕がWfirstの期間中にあるため、上記の中断により、これらT〔sec〕や2T〔sec〕における利得変化はない。
【0038】
そしてWfirstの経過後に初めて本来の利得制御が開始され、図4における4T〔sec〕においてVGA部15への利得設定が行われる。その後、初期設定利得と、4T〔sec〕時点で設定した利得との差分ΔG1を、遅延制御部22内の差分算出手段25にて算出する。
【0039】
さらにその差分ΔG1に対応した遅延時間W1を、遅延制御部22内の遅延時間算出手段26で算出する。ここに算出した遅延時間W1を、4T〔sec〕時に付与する。そうすると、4T〔sec〕〜(4T+W1)〔sec〕の間は再び利得制御が中断され、その(4T+W1)〔sec〕が経過した後に再び利得制御が開始され、5T〔sec〕後にまたVGA部15への利得設定が行われる。
【0040】
この場合、上記4T〔sec〕にて設定した利得と、上記5T〔sec〕にて設定した利得との差分を、上記差分算出手段25で算出する。この算出した差分がΔG2である。そしてこの差分ΔG2に対応した遅延時間W2を、上記遅延時間算出手段26で算出する。そしてここに算出した遅延時間W2〔sec〕を上記5T〔sec〕において付与し、5T〜(5T+W2)〔sec〕の期間中、利得制御を中断する。
【0041】
上述の操作を所定回数繰り返す。つまり上記遅延時間を付与する利得設定周期の回数を所定回数予め制限しておいて、その回数分、上記の操作を繰り返す。
【0042】
かくして利得収束時間は、一例によれば、従来の11〔sec〕(図11参照)から、図4に示す6T〔sec〕となり、5T〔sec〕の時間短縮を実現することができる。
【0043】
かかる本発明の無線通信装置1における動作、特に図3に示す遅延制御部22の動作の好ましい具体例をまとめると以下のとおりである。
【0044】
(i)前記の遅延時間W1,W2…は、上述のようにΔG1,ΔG2…に比例させることなく任意に指定可能としても良い。
【0045】
(ii)任意に指定する上記の遅延時間を、不揮発メモリ42に予め保持するようにしても良い。
【0046】
(iii)そして上記の遅延時間だけ遅延させる利得設定周期(T,2T,3T…)の回数を、任意に指定可能とすることもできる。つまり、上述した利得制御の中断は、適当な回数に止めるのが好ましい。
【0047】
(iv)上記(iii)にて任意に指定する利得設定周期の回数を不揮発メモリ42に予め保持するようにしても良い。
【0048】
(v)利得自動調整部17により前回設定された利得と、今回設定された利得との差分を算出する前述の差分算出手段25を備えることができる。例えば遅延制御部22内にこれを備える。
【0049】
(vi)上記(v)の差分算出手段25により算出した差分(ΔG1,ΔG2…)の大小に応じて、上記遅延時間の長短を算出する前述の遅延時間算出手段26を備えることができる。例えば遅延制御部22内にこれを備える。
【0050】
(vii)前述の対応テーブル43を有し、利得自動調整部17により前回設定された利得と、今回設定された利得との差分(ΔG1,ΔG2…)を得たとき、予め差分と遅延時間との対応関係を記録したその対応テーブル43を参照して、当該遅延時間を決定することができる。
【0051】
(viii)なお上記遅延時間が次に現れる利得設定周期の開始時点を超えるとき、当該利得設定周期での利得制御を中断するようにする。
【0052】
最後に図3に示す遅延制御部22の詳細な一動作例を示す。
図6は遅延制御部22の詳細な動作例を示すフローチャート(その1)であり、
図7は同フローチャート(その2)であり、
図8は同フローチャート(その3)である。
【0053】
図6〜図8を参照すると、
図6のステップS201では、図に表す初期設定の処理を行う。この中で「AGC入力信号切替SW」についてさらに詳しくは、この切替SW23の切替え論理LおよびHは、Lのとき実信号入力側(図3の電力化部32側)に接続し、Hのときは図3に示す基準値側に接続する。また、「Timer」は内部タイマであって、図4の0〜Tの範囲でカウントアップする。その他、本フローチャートに現れる主要な記号の意味を改めて定義すると、以下のとおりである。
【0054】
Gnow :現在設定利得
Gbefore :前回設定利得
W :遅延時間設定値
ΔG :現在設定利得と前回設定利得の差分
T :AGC利得設定周期
【0055】
ステップS202では、Timerのカウントアップが満了に至るまで(No)、つまりAGC動作が開始してから上記のT〔sec〕が経過するまで、遅延制御部22による処理はない。
【0056】
ステップS203では、上記のTimerのカウントアップが満了すると(Yes)、Timerをリセットし、
ステップS204では、初回利得設定フラグをONにする。
ステップS205は、後述する図8のステップS225において、遅延時間の設定回数nが0でない場合に行われる繰り返し処理の先頭である。
【0057】
ステップS206では、現在の設定利得Gnowを、設定利得レジスタ(図示せず)に書込んだ後、
ステップS207にて、上記初回設定フラグがONになっているか確認する。
【0058】
図7のステップS208では、そのフラグのONが確認されると(Yes)、上記遅延時間設定値WをWfirst(図4参照)に設定して、
ステップS209にて、上記初回設定フラグをONからOFFに設定し直す。
【0059】
ステップS210では、上記ステップS207の結果がNoのとき、AGC部17からRF受信部4への利得設定がキャンセルされたこと(例えば、ステップS216のNoのとき)を示す利得送出キャンセルフラグがONでなければ(No)、
ステップS211において、現在設定利得Gnowと前回設定利得Gbeforeとの差分の絶対値であるΔGを、図3の差分算出手段25において算出し、
ステップS212では、その算出したΔGを用いて、
a)既述の対応テーブル43を参照して、そのΔGに対応するWを設定するか、あるいは
b)そのΔGを使用した簡単な計算式、例えば比例計算式により、Wを求めて設定する。
【0060】
ステップS213は、上記ステップS210の結果がYesのとき、つまり利得の送出がキャンセルされたときは、前回の遅延時間Wから周期Tを差し引いた値をもって今回の遅延時間設定値Wとすると共に、
ステップS214において、上記利得送出キャンセルフラグをOFFに戻す。
【0061】
ステップS215では、上記ステップS209,S212およびS214のいずれかが終了した後に、前回設定利得Gbeforeを現在設定利得Gnowに切り換えて、
ステップS216に至り、ここでその設定遅延時間Wが利得設定周期Tを超えていないか判定する。
【0062】
なお、図7において、点線(2)、(6,7,8)および(9)でそれぞれ包囲した部分の各ステップは、図8のフローチャートの説明を終えた後の巻末に本発明の実施態様として記載する(付記1)〜(付記10)のうちの、(付記2)、(付記6)〜(付記8)および(付記9)にそれぞれ記載した態様に相当する。
【0063】
図8のステップS217において、ステップS216の結果がNoであるときに、続いて、Timerのカウントアップ時間が、設定された遅延時間Wよりも長いか否か判定し、
ステップS218では、上記の長いという判定がなされると(Yes)、図3のスイッチ(SW)23の設定をLにする。すなわち、電力化部32の出力側に接続し、他方
ステップS219では、上記ステップS217での判定が否であると(No)、上記スイッチ(SW)23の設定をHにする。すなわち、図3の基準値を入力とするように接続する。
【0064】
ステップS220において、上記ステップS218またはS219の終了後は、Timerのカウントアップが満了したか否か判定し、満了したならば(Yes)、
ステップS221において、上記Timerをリセットすると共に、既述した遅延時間の設定回数nを+1だけインクリメントする。
【0065】
ステップS222においては、上記ステップS216の判定結果がNoのとき、すなわちWがTを超えてしまったとき、上記利得送出キャンセルフラグをONに設定して、
ステップS223では、図3のスイッチ(SW)23を、上記基準値側に接続する。つまりAGC動作を停止させて、
ステップS224にて、Timerのカウントアップ満了を待つ。
【0066】
ステップS225において、上記ステップS221またはS224の終了後、遅延時間の設定回数nが0になったとき、
ステップS226において、一連の利得制御中断処理を終了すると共に、上記スイッチ(SW)23を再び、上記電力化部32側に接続して、通常の、中断処理を含まないAGC制御動作に入る。
【0067】
以上詳述した本発明の実施態様は以下のとおりである。
(付記1)
受信信号を入力し増幅する増幅部を含む無線受信部と、
所定の利得設定周期毎に、前記無線受信部からの出力レベルに応じた利得に更新しながら、前記増幅部に対する利得制御を行う利得自動調整部と、を備え、
前記増幅部に対する利得制御を、所定の各前記利得設定周期の開始時点から所定の遅延時間だけ遅延させて、開始させる遅延制御部を設けることを特徴とする無線通信装置。
【0068】
(付記2)
前記遅延時間が任意に指定可能であることを特徴とする付記1に記載の無線通信装置。
【0069】
(付記3)
任意に指定する前記遅延時間を予め保持する不揮発メモリを備えることを特徴とする付記2に記載の無線通信装置。
【0070】
(付記4)
前記の遅延時間だけ遅延させる前記利得設定周期の回数を、任意に指定可能とすることを特徴とする付記1に記載の無線通信装置。
【0071】
(付記5)
任意に指定する前記利得設定周期の回数を予め保持する不揮発メモリを備えることを特徴とする付記4に記載の無線通信装置。
【0072】
(付記6)
前記利得自動調整部により前回設定された利得と、今回設定された利得との差分を算出する差分算出手段を有することを特徴とする付記1に記載の無線通信装置。
【0073】
(付記7)
前記差分算出手段により算出した前記差分の大小に応じて、前記遅延時間の長短を算出する遅延時間算出手段を有することを特徴とする付記6に記載の無線通信装置。
【0074】
(付記8)
対応テーブルを有し、前記利得自動調整部により前回設定された利得と、今回設定された利得との差分を得たとき、予め差分と遅延時間との対応関係を記録した前記対応テーブルを参照して、当該遅延時間を決定することを特徴とする付記1に記載の無線通信装置。
【0075】
(付記9)
前記遅延時間が次に現れる前記利得設定周期の開始時点を超えるとき、当該利得設定周期での前記利得制御を中断することを特徴とする付記1に記載の無線通信装置。
【0076】
(付記10)
可変利得の増幅部を少なくとも含む無線受信部において、入力した受信信号をその可変利得にて増幅する第1ステップと、
利得自動調整部において、前記無線受信部からの出力レベルに応じた利得に、所定の利得設定周期毎に、更新しながら、前記増幅部に対する利得制御を行う第2ステップと、を有する無線通信方法であって、
前記第2ステップにおいて、前記所定の利得設定周期の開始時点から所定の遅延時間が経過するまでの間、前記利得制御を中断し、その後、該利得制御を開始するステップを設けることを特徴とする無線通信方法。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明に係る方法の基本ステップを表すフローチャートである。
【図3】本発明に基づくAGC部17の一構成例を示す図である。
【図4】本発明に基づく図3のAGC部17を用いた場合の利得の収束過程を表す図である。
【図5】本発明に基づく無線通信装置1の具体的なIC構成例を示す図である。
【図6】遅延制御部22の詳細な動作例を示すフローチャート(その1)である。
【図7】遅延制御部22の詳細な動作例を示すフローチャート(その2)である。
【図8】遅延制御部22の詳細な動作例を示すフローチャート(その3)である。
【図9】本発明が適用される無線通信装置の従来例を示すブロック図である。
【図10】従来のAGC部17の一構成例を示す図である。
【図11】図10に示す従来のAGC部17を用いた場合の利得の収束過程を表す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 無線通信装置
4 RF受信部
5 AFE部
6 DBB部
7 RF送信部
11 LNA部
12 BPF部
13 QDEM部
14 LPF部
15 VGA部
16 ADC部
17 AGC部
21 増幅部
22 遅延制御部
23 スイッチ(SW)
24 内部レジスタ
25 差分算出手段
26 遅延時間算出手段
31 IQ分配部
32 電力化部
33 基準値差分積分器
34 出力設定部
35 LNA切替判定部
36 LNA利得補正部
41 MODEM部
42 不揮発メモリ
43 対応テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号を入力し増幅する増幅部を含む無線受信部と、
所定の利得設定周期毎に、前記無線受信部からの出力レベルに応じた利得に更新しながら、前記増幅部に対する利得制御を行う利得自動調整部と、を備え、
前記増幅部に対する利得制御を、所定の各前記利得設定周期の開始時点から所定の遅延時間だけ遅延させて、開始させる遅延制御部を設けることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記遅延時間が任意に指定可能であることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
可変利得の増幅部を少なくとも含む無線受信部において、入力した受信信号をその可変利得にて増幅する第1ステップと、
利得自動調整部において、前記無線受信部からの出力レベルに応じた利得に、所定の利得設定周期毎に、更新しながら、前記増幅部に対する利得制御を行う第2ステップと、を有する無線通信方法であって、
前記第2ステップにおいて、前記所定の利得設定周期の開始時点から所定の遅延時間が経過するまでの間、前記利得制御を中断し、その後、該利得制御を開始するステップを設けることを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−78921(P2008−78921A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254718(P2006−254718)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】