説明

無線通信装置

【課題】無線通信システムのスループットの向上を図る無線通信装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一形態の無線通信装置は、複数のMACフレームを集約した集約フレームを生成する集約フレーム生成手段(322)と、前記集約フレーム生成手段で生成された集約フレームを宛先装置へ送信する送信手段(311)と、前記集約フレーム内の各MACフレームを受信できたか否かを示す情報を含む送達確認応答フレームを、前記宛先装置から受信する受信手段(312)と、前記送達確認応答フレームの受信を待機している時間を計測する時間計測手段(326)と、前記時間計測手段で計測された時間が所定時間に達した後、前記受信手段が前記送達確認応答フレームを受信していない場合、前記宛先装置へ前記集約フレームを再送するか前記送達確認応答フレームを要求する送達確認要求フレームを送信するかを選択する選択手段(324)と、から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の無線通信装置が同一の媒体を共有して通信を行う無線通信システムにおいて、各無線通信装置がフレームの送信を行う前にキャリアセンスを行い、無線チャネルの使用状況を確認する方式が知られている。このキャリアセンスを行うことにより、ある無線通信装置が送信している間、それ以外の無線通信装置が送信待機をすることによって、フレームの衝突をできるだけ回避することが可能になる。
【0003】
例えば、このキャリアセンスを行う無線通信システムに対して、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11規格がある。このIEEE802.11規格では、MAC(Medium Access Control、媒体アクセス制御)層のプロトコルおよび物理層のプロトコルが規定される。媒体アクセス制御は、複数の通信装置が媒体にどのようなタイミングで通信データを送信すればよいかを制御する技術である。物理層には、通信のデータ伝送速度や無線周波数帯域等に関する規定がある。
【0004】
IEEE802.11規格の無線LANシステムでは2.4GHz帯を用いており、最大データ伝送速度が2Mbpsであった。これまで物理層におけるプロトコルを主に変更することにより、データ伝送速度の高速化を実現してきた。現在では、2.4GHz帯においてはIEEE802.11g(2003年成立)、5GHz帯においてはIEEE802.11a(1999年成立)の無線LAN標準規格が存在し、最大データ伝送速度はどちらも54Mbpsである。そして、さらに高速化を実現する無線LAN標準規格を目指すために、IEEE802.11nにおいてMAC層および物理層に関する検討が進められている。
【0005】
無線LANシステムにおいて、MAC層でのスループットを向上させる技術として、複数のMACフレームを1つのフレームに集約して送信するFrame・Aggregationがある。非特許文献1では、IEEE802.11nにおいて検討されているMAC層技術について言及しており、Frame・Aggregationを用いた通信方法が記載されている。
【0006】
従来、IEEE802.11で規定されるMAC層では、それぞれのMACフレームが個別に送信されていた。Frame・Aggregationでは、複数のMACフレームを連結することにより、1つの長いMACフレームとして物理層へ転送し、変調処理を施し送信する。この方法によって、送信されるフレーム間の時間間隔(IFS:Interframe Space)と、物理層ヘッダの送信時間を削減することが可能となる。
【0007】
複数のMACフレームを集約したAggregationフレームを送信元無線通信装置が宛先無線通信装置へ送信する無線通信システムでは、宛先無線通信装置は規定時間内に送達確認応答フレームを送信する。この送達確認応答フレームには、Aggregationフレーム内の各MACフレームを宛先無線通信装置が受信できたか否かを示す情報が含まれる。
【0008】
従来の無線通信システムにおいて、送信元無線通信装置がAggregationフレームを送信後、規定時間内に送達確認応答フレームを受信しなかった場合、送信したAggregationフレームを再送するか、もしくは送達確認要求フレームを送信することにより、送達確認応答フレームを再度要求する仕組みがある。
【0009】
しかしながら従来では、送信元無線通信装置が同じAggregationフレームを再送すればよいか、送達確認要求フレームを送信すればよいかを判断する方法がなかった。したがって、Aggregationフレームを送信後、規定時間内に送達確認応答フレームを受信しなかった場合、不適当なフレームを送信することで余分なフレーム交換が生じ、効率が悪かった。また、余分なフレームを送信することになり、無線通信装置の消費電力を増大させる原因となっていた。
【非特許文献1】Adrian Stephens, et al. ,“Joint Proposal: High throughput extension to the 802.11 Standard: MAC”, IEEE 802.11−05/1095r5, 2006年1月.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、無線通信システムのスループットの向上を図る無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態の無線通信装置は、複数のMACフレームを集約した集約フレームを生成する集約フレーム生成手段と、前記集約フレーム生成手段で生成された集約フレームを宛先装置へ送信する送信手段と、前記集約フレーム内の各MACフレームを受信できたか否かを示す情報を含む送達確認応答フレームを、前記宛先装置から受信する受信手段と、前記送達確認応答フレームの受信を待機している時間を計測する時間計測手段と、前記時間計測手段で計測された時間が所定時間に達した後、前記受信手段が前記送達確認応答フレームを受信していない場合、前記宛先装置へ前記集約フレームを再送するか前記送達確認応答フレームを要求する送達確認要求フレームを送信するかを選択する選択手段と、から構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無線通信システムのスループットの向上を図る無線通信装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、送信元無線通信装置がAggregationフレームを宛先無線通信装置へ送信後、規定時間内に送達確認応答フレームを受信しなかった場合、その規定時間内における受信状況から判断し、次に送信するフレームを選択する。送信元無線通信装置は、無線状況に応じて、同じAggregationフレームを再送するか、もしくは送達確認応答フレームを送信するかを選択する。
【0015】
図1は、本第1の実施の形態に係る無線通信システムであるIEEE802.11規格の無線LANシステムの通信形態の例を示す図である。図1においては、1つの無線基地局101に複数の無線端末102,103が無線接続されている。この無線基地局と1つまたは複数の無線端末とから構成される単位を、IEEE802.11ではBSS(Basic Service Set)と称する。
【0016】
図1は1つのBSS101から構成される無線通信システムであるが、図2に示すように複数のBSS(BSS1,BSS2)から構成されていてもよい。このような無線通信システムの形態を、IEEE802.11ではESS(Extended Service Set)と称する。無線基地局201,202間はDS(Distributed System)と称され、有線で接続されていてもよいし無線で接続されていてもよい。
【0017】
本第1の実施の形態では、図1のような無線通信システムの構成をとり、同一のBSS内に存在する無線基地局101及び無線端末102がそれぞれ単一のアンテナを備えているが、複数のデータストリームを送受信可能な複数のアンテナをそれぞれ備えた無線基地局及び無線端末であってもよいし、複数のアンテナを備えた無線基地局と単一のアンテナを備えた無線端末とが混在するBSSであってもよい。以上のような無線通信システムを例にして、以下に説明する。
【0018】
図3は、本第1の実施の形態による無線通信システムに適用される無線通信装置の構成例を示す図である。
【0019】
図3の無線通信装置300は、無線チャネルを介して他の無線通信装置と通信する装置であり、無線通信を実現するための物理層における処理を行う物理層処理部310と、MAC(Medium Access Control)層における処理を行うMAC層処理部320を備える。物理層処理部310及びMAC層処理部320は、アナログ回路またはデジタル回路等として実現してもよいし、CPUによって実行されるソフトウェア等により実現してもよい。物理層処理部310にはアンテナ301が接続されている。アンテナ301は実装される通信処理に応じて1本であってもよいし、2本以上であってもよい。
【0020】
物理層処理部310は、実装される通信処理を実現するための物理層プロトコル処理を行う。その処理のために物理層処理部310は、MAC層処理部320から転送されるフレームを無線チャネルへ送出するための送信部311と、アンテナ301から受信した無線信号を処理するための受信部312と、キャリアセンスを行うための無線キャリア検出部313とを備える。なお、実装される物理層プロトコルは1種類に限定されない。2種類以上の物理層プロトコルに対応可能なように構成されてもよい。
【0021】
MAC層処理部320は、実装される通信処理を実現するためのMAC層プロトコル処理を行う。MAC層処理部320は、MACフレームを集約するための集約フレーム生成部322と、送達確認応答フレームを要求するための送達確認要求フレームを生成する送達確認要求フレーム生成部323と、集約フレーム生成部322及び送達確認要求フレーム生成部323から出力されるフレームを選択するための送信フレーム選択部324と、物理層処理部310から転送されるフレームを解析するための受信フレーム解析部325と、応答フレームを受信するために待機する期間を計測する応答待ちタイマ326とを備える。
【0022】
本第1の実施の形態は、図1に示すIEEE802.11規格の無線LANシステムにおいて、無線基地局101が無線端末102にフレームを送信する場合を例として説明するが、逆に無線端末102が無線基地局101にフレームを送信する場合にも同様に適用できる。無線基地局101と無線端末102が通信をするために用いるフレームは、IEEE802.11におけるMAC(Medium Access Control)フレームでの制御フレームの一種でもよいし、管理フレームまたはデータフレームであってもよい。
【0023】
本第1の実施の形態では、1つのPSDU(PLCP Service Data Unit)に集約された複数のMACフレームを含むフレームを、PPDU(PLCP Protocol Data Unit)として送信する無線基地局101が、無線端末102からの送達確認応答フレームを受信できない場合における再送制御方法について説明する。なお、PPDUはPHY(Physical layer)ヘッダおよびPSDUを含む物理フレームである。
【0024】
ここで、IEEE802.11規格の無線LANシステムにおけるMACフレームの構成を図4に示す。MACフレームは、受信処理に必要な情報を設定するMAC・Header部、フレームの種類に応じた情報(上位レイヤからのデータ等)が設定されるFrame・Body部、及びMAC・Header部とFrame・Body部が正常に受信できたか否かを判定するために用いるCRC(Cyclic Redundancy Code)が設定されるFCS(Frame Check Sequence)部から構成される。
【0025】
MAC・Header部には、フレームの種類に応じた値が設定されるFrame・Controlフィールド、送信を抑制する期間(NAV:Network Allocation Vector)を示すDuration/IDフィールド、直接の送信先や最終宛先、送信元のMACアドレスを設定するMACアドレスフィールド(複数存在)、送信するデータのシーケンス番号や、フラグメント化した場合のFragment番号を設定するSequence・Controlフィールド等が含まれる。なお、Frame・Controlフィールドには、フレームの種類を示すTypeフィールド、Subtypeフィールドや、DS宛て(つまり、無線基地局宛て)かどうかを示すToDSビット、DSから(つまり、無線基地局から)送信されたかどうかを示すFromDSビットなどが含まれる。
【0026】
また、単一のPSDUに複数のMACフレームが含まれるAggregationフレームの構成例を図5に示す。PSDUフレームは、n個(nは正の整数)のSubframeが連結されたフレームとして構成される。各Subframeは、Subframeの境界を検出するためのDelimiterフィールド、及びMACフレームから構成される。Delimiterフィールドには、現状は未使用とするReservedサブフィールドと、後続するMACフレームの長さを示す情報(Frame Lengthサブフィールド)と、ReservedサブフィールドおよびFrame Lengthサブフィールドの誤りを検出するためのCRCサブフィールドと、このDelimiterフィールドがDelimiterであることを識別するためのビット列が設定されるDelimiter Signatureサブフィールドとが含まれる。このように、各Subframe内の先頭にはDelimiterフィールドが存在し、それに含まれるFrame Lengthサブフィールドに設定された値を確認することで後続するMACフレームの長さを認識することができる。
【0027】
無線基地局101が無線端末102へAggregationフレームを送信し、そのSIFS(Short Interframe Space)経過後に無線端末102からの送達確認応答フレームを受信するフレームシーケンス例を図6に示す。
【0028】
ここで、SIFSとは、IEEE802.11規格において最小のフレーム間隔である。図6では、無線基地局101がシーケンス番号として1番〜8番を設定した8個のMACフレームを集約して1つのPSDUとして送信する。無線端末102は、前記複数のMACフレームを集約したPSDUを受信した場合、各MACフレームを正常に受信できたか否かを示す送達確認応答フレームを送信する。
【0029】
この送達確認応答フレームには、Frame Controlフィールドと、Duration/IDフィールドと、宛先MACアドレスと、送信元MACアドレスと、始点シーケンス番号と、受信記録として0か1を設定する64ビット固定長のビットマップフィールドが含まれる。ビットマップフィールドには、始点シーケンス番号を起点とする過去のMACフレームの受信記録を、フレームの先頭から0か1を設定することで通知する。MACフレームを正常に受信した場合には、そのMACフレームのシーケンス番号に対応するビットマップフィールドのビット位置に1を設定し、正常に受信しなかった場合には、そのMACフレームのシーケンス番号に対応するビットマップフィールドのビット位置に0を設定する。
【0030】
図6のシーケンスにおいて、無線端末102は、無線基地局101からの8個のMACフレームを全て正常に受信できた場合には、送達確認応答フレームに含まれる始点シーケンス番号を1に設定し、ビットマップフィールドには1111111100…と設定する。この場合、無線端末102は8個のMACフレームしか受信成功していない。したがって、ビットマップフィールドの9ビット目から64ビット目までのビットには0を設定する。
【0031】
図7のシーケンス例では、無線端末102が受信した8個のMACフレームのうち、シーケンス番号が2、6、7番のMACフレームに対するFCSチェックの結果、誤りが生じた場合を示す。この場合における送達確認応答フレームに含まれる始点シーケンス番号には1を設定し、ビットマップフィールドには1011100100…と設定する。この送達確認応答フレームを受信した無線基地局101は、シーケンス番号1、3、4、5、8番のMACフレームは送信に成功したと判断し、残りの2、6、7番のMACフレームに関しては送信に失敗したと認識する。そして、無線基地局101は2、6、7番のMACフレームを再送する処理を行う。
【0032】
このように無線端末から送達確認応答フレームを正常に受信できた場合には、次に行うべき処理は明確である。しかし、送達確認応答フレームを正常に受信できなかった場合の制御方法は明確に規定されていない状況であった。本第1の実施の形態に従って制御する場合を以下に説明する。
【0033】
以下、図8及び図9のフレームシーケンスと、図10のフローチャートを用いて、無線基地局101が送達確認応答フレームを受信しなかった場合の通信制御方法を説明する。
【0034】
図8及び図9のシーケンスは、どちらも無線基地局101が複数のMACフレームを集約したPSDUを無線端末102に送信し、送達確認応答フレームを要求しているシーケンスである。この2つのシーケンスの異なる点は、無線基地局101が最初にPSDUを送信した後の応答待ち時間中にキャリアセンスを行った結果、無線チャネルに電波を検出したか否かである。図8は電波を検出しなかった場合の再送シーケンスを示し、図9は電波を検出した場合の再送シーケンスを示す。
【0035】
次に、図10のフローチャートを基に無線基地局101の動作を説明する。まずステップS101で、無線基地局101は複数のMACフレームを集約し、1つのAggregationフレームを生成する。次にステップS102で、無線基地局101は、そのAggregationフレームを無線端末102へ送信する。Aggregationフレームを送信後、ステップS103で、無線基地局101は応答待ち時間(Rsp_Time)だけ送信を待機する。ただし、無線基地局101はこのRsp_Time期間でキャリアセンスを行う。
【0036】
キャリアセンスの結果、ステップS104で、Rsp_Time期間に無線チャネルに電波を検出しなかった場合(これをIdle状態という)、例えば所定のしきい値(例えば−62dBm)以上の電力レベルの無線信号を検出しなかった場合には、無線基地局101はAggregationフレームの再送処理を行う。この場合、Aggregationフレームを再送する前に、ステップS105で、再送制限回数N(Nは0以上の整数、例えば4〜7)が0よりも大きいか否かを判定する。
【0037】
再送制限回数Nが0よりも大きい場合には、ステップS106で、無線基地局101は同じAggregationフレームを再送する。そしてステップS107で、Nを1だけ減算し、ステップS103で、応答待ち時間だけ送信を待機する。
【0038】
したがって無線基地局101は、応答待ち時間の間、無線チャネルがIdle状態である場合には、ステップS103からステップS107までの処理を再送制限回数Nが0になるまで繰り返す。再送制限回数Nが0になった場合には、そのAggregationフレームの送信は中止される。
【0039】
ステップS104においてNoと判定した場合、つまり、無線基地局101がそのAggregationフレームを無線端末102へ送信した後、Rsp_Time期間でキャリアセンスを行った結果、無線チャネルに電波を検出した場合(これをBusy状態という)、例えば所定のしきい値(例えば−62dBm)以上の電力レベルの無線信号を検出した場合には、ステップS108で、その電波が送達確認応答フレームか否かの判定を行う。
【0040】
ステップS108において、送達確認応答フレームを正常に受信しなかったと判定した場合には、無線基地局101は送達確認要求フレームを送信する。なお、ここで無線チャネルに電波を検出したが送達確認応答フレームを正常に受信しなかった場合とは、MACフレームに付加されたFCSチェックの結果、誤りが検出された場合や、FCSチェックの結果、誤りが検出されなかったが送達確認応答フレーム以外のMACフレームである場合や、電波を検出したがIEEE802.11で規定される物理フレームであると認識されなかった場合を意味する。この場合、無線基地局101は、送達確認要求フレームを送信する前に、ステップS109で、再送制限回数M(Mは0以上の整数、例えば4〜7)が0よりも大きいか否かを判定する。
【0041】
再送制限回数Mが0よりも大きい場合には、ステップS110で、無線基地局101は送達確認要求フレームを送信する。そしてステップS111で、Mを1だけ減算し、ステップS112で、Rsp_Time時間だけ送信を待機する。
【0042】
したがって、無線基地局101は、送達確認要求フレームを送信した後、送達確認応答フレームを受信できない場合には、ステップS108からステップS112までの処理を再送制限回数Mが0になるまで繰り返す。再送制限回数Mが0になった場合には、その送達確認要求フレームの送信は中止される。
【0043】
なお、ステップS108において送達確認応答フレームを正しく受信した場合には、無線基地局101は、受信した送達確認応答フレームに含まれるMACヘッダ、始点シーケンス番号、及びビットマップフィールド等を確認し、ステップS113で、MACフレームの送信が成功したか否かを確認する。MACフレームの送信が全て成功した場合には、この送信処理は終了する。送信に失敗したMACフレームが確認された場合には、ステップS114で、無線基地局101は送信に失敗したMACフレームの再送処理を行うことになる。
【0044】
図8に示すシーケンスでは、図10のフローチャートにおけるステップS101からステップS107までの送信処理が実行される。このシーケンスでは、Aggregationフレームを無線基地局101から送信した後、無線チャネルがIdle状態であったことから、無線端末102はAggregationフレームを全く受信できなかったと考えられる。そのような場合には、送達確認応答フレームを要求するだけの送達確認要求フレームを無線基地局101から送信するのではなく、同じAggregationフレームを再送することで、無線端末102にMACフレームを送信すると共に、送達確認応答フレームを要求する方が効率が良い。
【0045】
また、図9に示すシーケンスでは、図10のフローチャートにおけるステップS101からステップS104と、ステップS108からステップS112までの送信処理が実行される。このシーケンスでは、Aggregationフレームを無線基地局101から送信した後、無線チャネルがBusy状態であったことから、無線端末102はAggregationフレームを受信でき、送達確認応答フレームを送信したが、無線環境の状況により無線基地局101が送達確認応答フレームを正しく認識できなかったと考えられる。そのような場合には、無線端末102はすでにAggregationフレームを受信できているので、同じAggregationフレームを再送することは余分な送信時間を消費することになる。したがって、無線基地局101が送達確認応答フレームを要求する送達確認要求フレームを送信し、送達確認応答フレームのビットマップフィールドを確認した後、再送が必要なMACフレームを再送する方が、余分な送信時間を削減することができる。
【0046】
本第1の実施の形態によれば、Aggregationフレームを送信後、応答待ち時間内に送達確認応答フレームを受信しなかった場合には、応答待ち時間における無線チャネルをキャリアセンスした情報に応じて、同じAggregationを再送するか、送達確認要求フレームを送信するかを選択することにより、スループット性能の向上を実現することができ、余分なフレーム交換が生じることによる無線通信システム全体の効率の低下を防ぐことができる。
【0047】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、第1の実施の形態に基づくものであり、第1の実施の形態との相違点を中心として以下に説明する。
【0048】
本第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、図1における無線基地局101がAggregationフレームを送信した後、応答待ち期間において無線チャネルがIdle状態であった場合、N回だけAggregationフレームを再送した後に、M回だけ送達確認要求フレームを送信するように制御する点である。なお、無線通信装置の構成は図3と同じである。
【0049】
本第2の実施の形態における送信制御を図11のフローチャートに示す。
【0050】
第1の実施の形態においては、無線基地局101がAggregationフレームを再送する回数が制限回数に達した場合には、そのAggregationフレームの再送を中止するように制御していたが、もし宛先となる無線端末がBSS内から存在しなくなっていた場合には、余分なフレームの送信が続くことになり好ましくない。
【0051】
そこで本第2の実施の形態では、無線基地局101は、AggregationフレームをN回だけ再送した後に、送達確認要求フレームを送信するように切り替える。ここで、送達確認要求フレームはM回だけ送信するようにする。Aggregationフレームのフレーム長と伝送レートに依存するが、多くの場合Aggregationフレームの送信時間は、送達確認要求フレームの送信時間よりも長い。
【0052】
したがって、以上のように送信するフレームをAggregationフレームから送達確認要求フレームに切り替えることにより、宛先無線端末がBSS内に存在しなかった場合に、余分なフレームを送信する時間を削減することが可能になる。
【0053】
なお、この場合における各フレームの送信制限回数値の設定は運用方針によるが、第1の実施の形態におけるAggregationフレームの再送制限回数をN1回とし、本第2の実施の形態におけるAggregationフレームの再送制限回数と送達確認要求フレームの送信制限回数をそれぞれN2、M2回とすると、N1=N2+M2(N2<M2)となるように設定してもよい。N2の値を適切な範囲で小さく設定することにより余分なAggregationフレームの送信時間を低減させることになる。
【0054】
本第2の実施の形態によれば、Aggregationフレームを送信後、応答待ち時間内に送達確認応答フレームを受信しなかった場合に同じAggregationフレームを再送するとき、Aggregationフレームの再送回数を少なくし、その代わりに送達確認要求フレームを送信する。これにより、もし宛先無線端末がBSS内から存在しなくなっていた場合には、無駄なAggregationフレームを送信してしまうことによる余分な時間を低減することができ、無線通信システム全体の効率の低下を防ぐことが可能になる。
【0055】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、第1の実施の形態に基づくものであり、第1の実施の形態との相違点を中心として下記に説明する。
【0056】
本第3の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、図1における無線基地局101がAggregationフレームを送信後、応答待ち期間において無線チャネルがBusy状態であった場合、新規の(シーケンス番号が先に進んだ)MACフレームを集約したAggregationフレームを送信する点である。
【0057】
なお、無線通信装置の構成は図3と基本的に同様である。ただし、送達確認応答フレームを受信した場合に受信フレーム解析部325が抽出するビットマップフィールドのビット列に応じて、集約フレーム生成部322は、再送すべきMACフレームを集約したAggregationフレームを生成するか、新規のMACフレームを集約したAggregationフレームを生成するかを選択する。
【0058】
第1の実施の形態においては、無線基地局101はそのAggregationフレームを無線端末102へ送信後、Rsp_Time期間でキャリアセンスを行った結果、無線チャネルがBusy状態であることを検出し、送達確認応答フレームを正常に受信しなかった場合には、送達確認要求フレームを送信する制御をしていたが、その代わりにさらに新規のMACフレームを送信してもよい。
【0059】
このように制御することによって、無線基地局101は無線端末102に対して送達確認応答フレームを要求すると共に、シーケンス番号が先に進んだ最新のMACフレームを送信することができる。このような制御によって実現されるフレームシーケンス例を図12に示す。
【0060】
このシーケンスでは、無線基地局101がAggregationフレームを送信後、無線チャネルがBusy状態であったことから、無線端末102が最初のAggregationフレームを受信でき、送達確認応答フレームを送信したが、無線環境の状況により無線基地局101は送達確認応答フレームを正しく認識できなかったと考えられる。そのような場合には、無線端末102はすでに最初のAggregationフレームを受信できているので、無線基地局101は送達確認応答フレームを要求すると共に、シーケンス番号がさらに先に進んだAggregationフレームを送信することでスループットを向上させることができる。
【0061】
もし、新規のAggregationフレームを送信した後、また送達確認応答フレームを受信できなかった場合には、それよりもさらに新しいAggregationフレームを送信してもよい。この場合、シーケンス番号をどの程度進めたMACフレームを送信するかについては、送信側で管理するフレームを格納するためのバッファ量によって決めても、受信側で管理するフレームバッファの量によって決めてもよい。また、送達確認応答フレームに設定できるビットマップフィールドの長さによって決めてもよい。以上のような制限値によってMACフレームのシーケンス番号を先に進められなくなった場合には、送達確認応答フレームを要求するために送達確認要求フレームを送信するように制御してもよい。
【0062】
本第3の実施の形態によれば、Aggregationフレームを送信後、応答待ち時間内に送達確認応答フレームを受信しなかった場合には、応答待ち時間において無線チャネルをキャリアセンスした結果がBusy状態であった場合には、シーケンス番号が先に進んだ最新のMACフレームを集約したAggregationフレームを送信することにより、スループット性能の向上を実現することができる。
【0063】
(第4の実施の形態)
IEEE802.11無線LAN規格に対してサービス品質(QoS:Quality of Service)を向上させるために、MAC層を拡張したIEEE802.11e規格によれば、スループットを向上させる方法の1つとして、複数のフレームを最小のフレーム間隔(SIFSという)で連続的に送信することができるチャネル使用期間(TXOP:Transmission Opportunity)が規定されている。ただし、TXOPを獲得するためには、IEEE802.11規格で規定されるバックオフ手順を行う必要がある。
【0064】
バックオフ手順とは、各無線通信装置が規定の範囲内で一様に分布する乱数値を発生させ、一定期間ごとにキャリアセンスを行い、無線チャネルがIdle状態である場合には発生させた乱数値を減算していき、最初に0になった無線通信装置がフレームを送信することができる。このようにしてフレームが衝突する確率を低くしている。このように、TXOPを獲得する前にバックオフ手順を行う必要があるため、同じ無線通信装置が連続してTXOPを獲得できるとは限らない。
【0065】
無線端末102がTXOPを獲得し、PSDUをSIFS間隔で送信するシーケンス例を図13に示す。図13におけるシーケンス例では、無線端末102はTXOPの最後に送達確認応答フレームを受信している。このような場合では、TXOP毎に無線基地局101がどのシーケンス番号のMACフレームを受信できているかを確認することができる。
【0066】
図14におけるシーケンス例では、TXOP1において無線端末102が送達確認応答フレームを受信しなかった場合を示している。このとき、無線端末102がTXOP2を獲得する前に他の無線端末がフレームを無線基地局101へ送信する可能性がある。そのような場合においては、無線基地局101は無線端末102から受信したフレームのシーケンス番号をリセットして、他の無線端末から受信したフレームのシーケンス番号に更新しているかもしれない。
【0067】
図14のように、無線端末102がTXOP1において送達確認応答フレームを受信しなかった場合、TXOP1が終了した後のキャリアセンスの結果、無線チャネルがBusy状態であると無線端末102が判定したときには、他の無線端末がフレームを送信したかもしれない。もし無線基地局101が無線端末102から受信したフレームのシーケンス番号をリセットしてしまっていると、無線端末102は再送する必要があるMACフレームを認識するのが遅くなる可能性がある。
【0068】
これを回避するために、無線端末102は、TXOP1の終了後に無線チャネルがBusy状態であることを検出したならば、TXOP2を獲得した直後に送達確認要求フレームを無線基地局101へ送信し、送達確認応答フレームを受信する。
【0069】
このようにすることで、無線端末102は無線基地局101に対して、今までの受信記録を記憶しているかどうかを確認することができる。その確認の結果、無線基地局101がフレーム受信記録をリセットしていた場合には、無線端末102は送達確認を把握していないMACフレームから送信し直す処置を取ることができる。逆に、無線基地局101がフレーム受信記録を記憶していた場合には、無線端末102はその受信記録に応じた再送処理もしくは新規フレームの送信処理を行えばよい。
【0070】
本第4の実施の形態によれば、無線端末は、あるTXOPにおいて送達確認応答フレームを受信せずにTXOP1が終了し、そのTXOP終了後のキャリアセンスの結果、無線チャネルがBusy状態であると判定した場合には、次に獲得したTXOPの最初で送達確認要求フレームを無線基地局へ送信し、送達確認応答フレームを受信する。
【0071】
これにより無線端末は、無線基地局に対して今までの受信記録を記憶しているかどうかを早い段階で確認し、送達確認を把握していないMACフレームから送信し直す処置を取ることができるため、再送しなければならないMACフレームの再送が必要以上に遅延することを回避することができる。
【0072】
以上のように本実施の形態によれば、複数のMACフレームを1つのフレームに集約するFrame・Aggregation機能を用いた無線通信システムにおいて、送信元無線装置は、複数のMACフレームを集約したAggregationフレームを宛先無線装置へ送信する。Aggregationフレームを受信した宛先無線装置は、送達確認応答フレームを生成し、それを送信元無線装置へ送信する。送達確認応答フレームには、Aggregationフレーム内の各MACフレームを宛先無線装置が受信できたか否かを示す情報が含まれる。
【0073】
このような無線通信システムにおいて、送信元無線装置は、ある一定期間、送達確認応答フレームを受信しなかった場合、受信状況から推測した無線環境に応じて送信したAggregationフレームを再送するか、もしくは送達確認要求フレームを送信することにより、送達確認応答フレームを要求することができる。
【0074】
従来においては、前述した2つフレームのうちどちらを送信するかは規定されていなかった。しかし本実施の形態では、Aggregationフレーム送信後の無線状況から判断し、適切なフレームを選択し送信することにより、無線通信システムのスループット性能の向上を実現することができる。
【0075】
本発明は、上記実施の形態のみに限定されず、要旨を変更しない範囲で適宜変形して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】第1の実施の形態に係る無線通信システムである無線LANシステムの構成例を示す図。
【図2】第1の実施の形態に係る無線LANシステムが別の無線LANシステムと接続する場合の構成例を示す図。
【図3】第1の実施の形態による無線通信システムに適用される無線通信装置の構成例を示す図。
【図4】第1の実施の形態に係るIEEE802.11規格の無線LANシステムで用いられる代表的なMACフレームの構成例を示す図。
【図5】第1の実施の形態に係る複数のMACフレームが1つのPSDUに集約される場合のフレーム構成例を示す図。
【図6】第1の実施の形態に係るフレームシーケンス例を示す図。
【図7】第1の実施の形態に係るPSDU内のMACフレームに誤りが生じた場合のフレームシーケンス例を示す図。
【図8】第1の実施の形態に係る送達確認応答フレームを受信しなかった場合のフレームシーケンス例を示す図。
【図9】第1の実施の形態に係る送達確認応答フレームを受信しなかった場合のフレームシーケンス例を示す図。
【図10】第1の実施の形態に係る通信制御方法を示すフローチャート。
【図11】第2の実施の形態に係る通信制御方法を示すフローチャート。
【図12】第3の実施の形態に係るフレームシーケンス例を示す図。
【図13】第4の実施の形態に係るフレームシーケンス例を示す図。
【図14】第4の実施の形態に係るフレームシーケンス例を示す図。
【符号の説明】
【0077】
101…無線基地局 102,103…無線端末 201,202…無線基地局 203〜207…無線端末 208…有線端末 300…無線通信装置 301…アンテナ 310…物理層処理部 311…送信部 312…受信部 313…無線キャリア検出部 320…MAC層処理部 322…集約フレーム生成部 323…送達確認要求フレーム生成部 324…送信フレーム選択部 325…受信フレーム解析部 326…応答待ちタイマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のMACフレームを集約した集約フレームを生成する集約フレーム生成手段と、
前記集約フレーム生成手段で生成された集約フレームを宛先装置へ送信する送信手段と、
前記集約フレーム内の各MACフレームを受信できたか否かを示す情報を含む送達確認応答フレームを、前記宛先装置から受信する受信手段と、
前記送達確認応答フレームの受信を待機している時間を計測する時間計測手段と、
前記時間計測手段で計測された時間が所定時間に達した後、前記受信手段が前記送達確認応答フレームを受信していない場合、前記宛先装置へ前記集約フレームを再送するか前記送達確認応答フレームを要求する送達確認要求フレームを送信するかを選択する選択手段と、
を具備したことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記送達確認応答フレームの受信の待機中に無線キャリア検出を行う無線キャリア検出手段を備え、
前記選択手段は、前記無線キャリア検出手段の検出結果に応じて、前記集約フレームを送信するか前記送達確認要求フレームを送信するかを選択し、選択されたフレームを前記宛先装置へ送信するよう前記送信手段に指示する請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記選択手段は、前記無線キャリア検出手段によってキャリア検出信号が検出されなかった場合、直前に送信した前記集約フレームを選択し、前記集約フレームを再送するよう前記送信手段に指示し前記無線キャリア検出手段によってキャリアセンス信号が検出された場合、前記送達確認要求フレームを選択し、前記送達確認要求フレームを送信するよう前記送信手段に指示する請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記選択手段は、前記受信手段が前記送達確認応答フレームを受信していない場合、前記宛先装置へ前記集約フレームを所定回数再送した後、前記送達確認要求フレームを送信するよう前記送信手段に指示する請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記選択手段は、前記無線キャリア検出手段によってキャリア検出信号が検出されなかった場合、直前に送信した前記集約フレームを選択し、前記集約フレームを再送するよう前記送信手段に指示し前記無線キャリア検出手段によってキャリアセンス信号が検出された場合、新規の集約フレームを選択し、前記新規の集約フレームを送信するよう前記送信手段に指示する請求項2に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−160551(P2008−160551A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348001(P2006−348001)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】