説明

無線ICデバイス

【課題】曲面に取り付けた場合であっても、素体と放射体との剥離が生じることなく、かつ、通信特性が変動しにくい無線ICデバイスを得る。
【解決手段】直方体形状をなす誘電体素体20と、誘電体素体20の表面に設けられて放射体として機能する金属パターン30と、金属パターン30の給電部35a,35bに結合された無線IC素子50と、を備えた無線ICデバイス。誘電体素体20には、表面に複数のスリット21が形成され、可撓性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICデバイス、特にRFID(Radio Frequency Identification)システムに用いられる無線ICデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の情報管理システムとして、誘導磁界を発生するリーダライタと、物品に付されたRFIDタグ(無線ICデバイスとも称する)とを電磁界を利用した非接触方式で通信し、所定の情報を伝達するRFIDシステムが実用化されている。このRFIDタグは、所定の情報を記憶し、所定の無線信号を処理する無線ICチップと、高周波信号の送受信を行うアンテナ(放射体)とを備え、管理対象となる種々の物品(あるいはその包装材)に貼着して使用される。
【0003】
この種のRFIDタグとして、特許文献1には、絶縁フィルム上にループアンテナを形成し、該ループアンテナに無線ICチップを実装した後、該絶縁フィルムを誘電体部材に巻き付けたものが記載されている。
【0004】
ところで、この種のRFIDタグを貼り付ける対象となる物品の表面は、様々な形状を有している。例えば、ガスボンベの表面などの湾曲面にも貼着可能であることが要求される。特許文献1に記載のRFIDタグにあっては、誘電体部材としてシリコンなどの材料を用いれば、湾曲面であっても貼着が可能ではある。しかし、単に素材の可撓性のみを利用して湾曲面に貼着すると、誘電体部材が撓んだ際に、誘電体部材とループアンテナとの間に応力が集中してループアンテナが誘電体部材から剥離したり、誘電体部材にクラックが発生するおそれがある。あるいは、ループアンテナに歪みを生じ、通信特性が変動して通信の信頼性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−272264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、曲面に取り付けた場合であっても、素体と放射体との剥離が生じることなく、かつ、通信特性が変動しにくい無線ICデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態である無線ICデバイスは、
上面及び下面を有する誘電体素体と、
前記誘電体素体の表面に設けられた放射体と、
前記放射体の給電部に結合された無線IC素子と、
を備えた無線ICデバイスにおいて、
前記放射体は可撓性を有する金属パターンにて形成されており、
前記誘電体素体は、少なくとも表面に複数の凹部が形成され、可撓性を有すること、
を特徴とする。
【0008】
本発明の第2の形態である無線ICデバイスは、
上面及び下面を有する誘電体素体と、
前記誘電体素体の表面に設けられた放射体と、
前記放射体の給電部に結合された無線IC素子と、
を備えた無線ICデバイスにおいて、
前記放射体は可撓性を有する金属パターンにて形成されており、
前記誘電体素体は、少なくとも表面に複数の凹部が形成され、可撓性を有し、
前記誘電体素体が金属体の表面に貼着されていること、
を特徴とする。
【0009】
前記無線ICデバイスにおいては、放射体が可撓性を有する金属パターンで形成され、かつ、誘電体素体が少なくとも表面に形成された複数の凹部によって可撓性を有するため、湾曲した物品(金属体)の表面に取り付けた場合であっても、誘電体素体及び放射体が湾曲面に追随することになり、素体と放射体との間での応力集中が回避される。これにて、放射体の剥離、放射体の歪みなどによる通信特性の変動が抑制され、通信の信頼性を損なうことがない。また、無線ICデバイスを金属体に取り付けることにより、該金属体が放射素子として機能し、通信距離が長くなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲面に取り付けた場合であっても、素体と放射体との剥離が生じることなく、かつ、通信特性の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施例である無線ICデバイスを示し、(A)は誘電体素体を示す斜視図、(B)は誘電体素体上に放射体を接合した状態を示す斜視図、(C)は断面図、(D)は放射体に無線IC素子を実装した状態を示す斜視図である。
【図2】第1実施例である無線ICデバイスの物品への取付け状態を示し、(A)は取付け前の状態を示す断面図、(B)は取付け後の状態を示す断面図である。
【図3】(A),(B),(C)ともに、誘電体素体に形成したスリットの作用を示す説明図である。
【図4】第2実施例である無線ICデバイスを示し、(A)は誘電体素体を示す斜視図、(B)は誘電体素体上に放射体を接合した状態を示す斜視図、(C)は断面図である。
【図5】第3実施例である無線ICデバイスを示す断面図である。
【図6】誘電体素体の第1変形例を示す断面図である。
【図7】誘電体素体の第2変形例を示す断面図である。
【図8】誘電体素体の第3変形例を示す斜視図である。
【図9】誘電体素体の第4変形例を示す斜視図である。
【図10】第4実施例である無線ICデバイスを示し、(A)は誘電体素体を示す斜視図、(B)は誘電体素体上に放射体を接合する状態を示す斜視図、(C)は断面図である。
【図11】第5実施例である無線ICデバイスを示す断面図である。
【図12】第6実施例である無線ICデバイスを示す断面図である。
【図13】第7実施例である無線ICデバイスを示す断面図である。
【図14】第8実施例である無線ICデバイスを示す断面図である。
【図15】無線IC素子としての無線ICチップを示す斜視図である。
【図16】無線IC素子として給電回路基板上に前記無線ICチップを搭載した状態を示す斜視図である。
【図17】給電回路の一例を示す等価回路図である。
【図18】前記給電回路基板の積層構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る無線ICデバイスの実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分は同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
(第1実施例、図1及び図2参照)
第1実施例である無線ICデバイス10Aは、UHF帯の通信に用いられるものであり、図1に示すように、直方体形状をなす誘電体素体20と、放射体として機能する金属パターン30と、無線IC素子50とで構成されている。
【0014】
誘電体素体20は、フッ素系樹脂材、ウレタン系樹脂材などの誘電体(絶縁性、磁性体であってもよい)からなり、上面、下面及び側面(図1(A)での手前側と奥側)にはそれぞれ複数のスリット21が形成されている。誘電体素体20は、それ自体が可撓性を有する材料にて形成されているが、表面に短辺方向(Y方向)に延在するスリット21が形成されていることにより、厚み(Z方向)方向に一層の可撓性を備えていることになる。
【0015】
金属パターン30は、可撓性を有する銅箔やアルミ箔など導電性素材からなり、誘電体素体20の上面から側面(図1(A)での左側と右側)及び下面にわたって連続して配置され、上面電極31と側面電極32と下面電極33とで構成されている。上面電極31と下面電極33とは図示しない接着層(両面テープが用いられる)にて誘電体素体20の上面及び下面に接着されている。側面電極32は誘電体素体20の側面に接着されることはなく、隙間25が形成されている。
【0016】
上面電極31には、開口34とスリット35とが形成され、スリット35の対向部分である給電部35a,35bに無線IC素子50が実装される。無線IC素子50は、高周波信号を処理するもので、その詳細は図15〜図18を参照して以下に詳述する。無線IC素子50と給電部35a,35bとの結合は電磁界結合あるいは半田バンプなどによる電気的な直接結合(DC接続)である。
【0017】
以上の構成からなる無線ICデバイス10Aは、無線IC素子50から所定の高周波信号が給電部35a,35bに伝達されると、開口34の周囲に電流が集中する。この電流集中部分が所定長さのループ状磁界電極として機能し、給電部35a,35bに対して所定の電位差を有することになる。そして、ループ状磁界電極の所定の電位差が上面電極31に伝達され、下面電極33との電位差により、上面電極31がパッチアンテナとして動作する。このように、給電部35a,35bから供給される信号の特性(例えば、広帯域な周波数特性)をそのまま金属パターン30から外部に伝えることができる。金属パターン30が外部からの高周波を受信した場合も同様に開口34の周囲に電流が誘起され、給電部35a,35bから無線IC素子50に電力が供給される。この場合、ループ状磁界電極は、無線IC素子50と金属パターン30とのインピーダンスのマッチングを図っている。
【0018】
金属パターン30単体からの電磁界放射は弱く短い距離でしか通信できない。図2に示すように、無線ICデバイス10Aを金属体40に接着材層41を介して貼着すると、金属パターン30(下面電極33)が金属体40と容量結合し、金属体40からその表面方向に強い電磁界が放射され、離れた位置にあるリーダライタとの通信が可能になる。なお、金属パターン30と金属体40との間に形成される容量は無限大であってもよい。換言すれば、下面電極33は金属体40と直接電気的に導通してもよい。
【0019】
前記無線ICデバイス10Aにおいては、放射体が可撓性を有する金属パターン30で形成され、かつ、誘電体素体20が複数のスリット21によって可撓性を有するため、湾曲した金属体40(例えば、ガスボンベ)の表面に取り付けた場合であっても、誘電体素体20及び金属パターン30とが湾曲面に追随することになり、素体20と金属パターン30との間での応力集中が回避される。これにて、金属パターン30の剥離、歪みなどによる通信特性の変動が抑制され、通信の信頼性を損なうことがない。
【0020】
しかも、スリット21によって誘電体素体20が好ましい状態で湾曲するとともに、スリット21は誘電体素体20の上面及び下面に加えて側面にも形成されているため、誘電体素体20の可撓性を助長する。スリット21が誘電体素体20の長辺方向の稜線部に臨んで形成されていることも、誘電体素体20の可撓性を助長している。
【0021】
さらに、本第1実施例において、金属パターン30の上面電極31及び下面電極33は誘電体素体20の上下面に接着されているが、側面電極32は接着されておらず、隙間25が形成されている。これにて、無線ICデバイス10Aが金属体40の湾曲した表面に貼着されて誘電体素体20が湾曲した際(図2(B)参照)、隙間25が若干潰された状態となる。即ち、誘電体素体20及び金属パターン30が湾曲したときに側面電極32に作用する引張り力を吸収することになる。なお、上面電極31又は下面電極33はのいずれか一方のみが誘電体素体20に接着されていてもよい。
【0022】
金属パターン30の幅寸法は誘電体素体20の幅寸法よりも小さく形成されている。換言すれば、金属パターン30は誘電体素体20の稜線部分20a,20b(図1(B)参照)の内側に接合(貼着)されている。これにて、金属パターン30が側部から剥離されにくくなる。
【0023】
(スリットの他の作用、図3参照)
また、スリット21は誘電体素体20の湾曲を固定させる作用も有する。即ち、図3(A)に示すように、誘電体素体20が湾曲した際に、接着剤層41がスリット21に入り込み、両側部分41aがスリット21と固着する。これにて、誘電体素体20の湾曲状態の固定化、つまり形状保持化に寄与する。
【0024】
また、図3(B)に示すように、スリット21が細長い形状であれば、誘電体素体20が湾曲した際(図3(C)参照)、スリット21の開口部に進入した接着剤層41が硬化し誘電体素体20とより固着しやすくなり、誘電体素体20の湾曲状態の固定化にさらに寄与する。
【0025】
(第2実施例、図4参照)
第2実施例である無線ICデバイス10Bは、図4に示すように、放射体として機能する金属パターン30の開口34及びスリット35を上面電極31の中央部分に配置し、上面電極31、一対の側面電極32及び下面電極33によって誘電体素体20をループ状に囲うように配置した。
【0026】
また、誘電体素体20の上面に形成されたスリット21と下面に形成されたスリット21とは深さが異なっている。即ち、下面のスリット21のほうが上面のスリット21よりも僅かに深く形成されている。この無線ICデバイス10Bを図2に示した金属体40の凸形状湾曲面に貼着する場合、誘電体素体20は下面のスリット21が深いほうが湾曲しやすくなる。他の構成は前記第1実施例と同様であり、その作用効果も第1実施例で説明したとおりである。
【0027】
(第3実施例、図5参照)
第3実施例である無線ICデバイス10Cは、図5に示すように、基本的には前記第2実施例と同様の構成からなり、下面電極33の中央部に下面電極33を横断するようにスリット33aを形成したものである。金属パターン30はスリット33aで形成されるキャパシタンス素子によって容量結合し、ループ状の放射体として機能する。また、本第3実施例では誘電体20の下面にのみスリット21が形成されている。他の構成は前記第1実施例と同様であり、その作用効果も第1実施例で説明したとおりである。
【0028】
(誘電体素体の変形例、図6〜図9参照)
誘電体素体20は、以下に示す形状や配置であってもよい。例えば、図6に示すように、誘電体素体20の上面に形成されたスリット21と下面に形成されたスリット21とは、互いにオフセットされて配置されていてもよい。図7に示すように、スリット21は誘電体素体20の端部から給電部が配置される中央部に向かってその深さが小さくなるように形成されていてもよい。また、図8に示すように、スリット21をY方向のみならずX方向にも延在するように形成してもよい。これらのスリット21の形状、配置によって、誘電体素体20が金属体40の湾曲に沿って曲がりやすくなる。また、図7に示すように、給電部が配置される中央部に向かってスリット21の深さが小さくなるように形成されているので、無線IC素子50への応力集中を緩和することができる。
【0029】
あるいは、図9に示すように、平面視で楕円形状のスリット21であってもよい。誘電体素体20に形成される凹部は前述したスリット21以外に、半球状の凹凸部が連続したもの、波型形状が連続したものなど、種々の形状、構成を採用することができる。
【0030】
(第4実施例、図10参照)
第4実施例である無線ICデバイス10Dは、図10に示すように、金属パターン30を可撓性樹脂フィルム28(両面テープを用いてもよい)の表面に貼着し、このフィルム28を誘電体素体20の上面から下面に巻きつけるように貼着したものである。この場合も誘電体素体20の側面には貼着されずに隙間25が形成されることが好ましい。
【0031】
本第4実施例の他の構成は前記第1実施例と同様であり、その作用効果も第1実施例で説明したとおりである。特に、第4実施例では、図10(B)に示すように、誘電体素体20に巻き付ける前の段階で無線IC素子50を金属パターン30に実装しておくことができ、製造工程上有利である。なお、第4実施例においては、金属パターン30の上面電極31に開口34やスリット35を形成することなく、上面電極31を2分割し、分割部分を給電部として無線IC素子50を結合させてもよい。
【0032】
(第5実施例、図11参照)
第5実施例である無線ICデバイス10Eは、図11に示すように、基本的には前記第4実施例と同様の構成からなり、側面電極32を誘電体素体20の側面に対して円弧形状で対向させ、隙間25をより大きく形成したものである。他の構成は前記第1実施例と同様であり、その作用効果も第1実施例で説明したとおりである。
【0033】
(第6実施例、図12参照)
第6実施例である無線ICデバイス10Fは、図12に示すように、誘電体素体20の中央部分に空洞部22を形成し、かつ、可撓性樹脂フィルム29の裏面に金属パターン30を貼着し、該金属パターン30に実装した無線IC素子50を空洞部22に配置したものである。可撓性樹脂フィルム29及び下面電極33はスリット29a,33aにて分割されており、フィルム29及び金属パターン30は、スリット29a,33aの一端を始点として、他端を終点として誘電体素体20に巻回、貼着されている。なお、空洞部22は貫通孔であっても、キャビティであってもよい。
【0034】
本第6実施例において、金属パターン30はスリット33aで形成されるキャパシタンス素子によって容量結合し、ループ状の放射体として機能する。他の構成は前記第1実施例と同様であり、その作用効果も第1実施例で説明したとおりである。第6実施例では、無線IC素子50を空洞部22に配置することで、無線IC素子50の保護を図ることができる。空洞部22は下面電極33で閉止されることが好ましい。
【0035】
(第7実施例、図13参照)
第7実施例である無線ICデバイス10Gは、図13に示すように、好ましい取付け形態とした第1例である。この無線ICデバイス10Gは、誘電体素体20、金属パターン30及び無線IC素子50を被覆する保護カバー45を備えている。保護カバー45は、金属体40に貼着された無線ICデバイス10Gを覆うように、金属体40に接着剤46にて貼着される。
【0036】
金属体40がガスボンベなどでは、露天に放置される場合があったり、手荒く取り扱われる場合もある。このような種々の場合を想定すると、保護カバー45によって誘電体素体20や金属パターン30を周囲の環境、衝撃から効果的に保護することができる。
【0037】
(第8実施例、図14参照)
第8実施例である無線ICデバイス10Hは、図14に示すように、好ましい取付け形態とした第2例である。この無線ICデバイス10Hは、前記第7実施例で示した保護カバー45の裏面に両面テープ47を配置している。両面テープ47は金属体40への貼着手段であり、かつ、保護カバー45とともに誘電体素体20や金属パターン30を保護する。なお、両面テープ47はフィルムであってもよく、その場合は別途接着剤を介して保護カバー45の裏面や金属体40と接着することになる。
【0038】
(無線IC素子、図15〜図18参照)
以下に、無線IC素子50について説明する。無線IC素子50は、図15に示すように、高周波信号を処理する無線ICチップ51であってもよく、あるいは、図16に示すように、無線ICチップ51と所定の共振周波数を有する共振回路を含んだ給電回路基板65とで構成されていてもよい。
【0039】
図15に示す無線ICチップ51は、クロック回路、ロジック回路、メモリ回路などを含み、必要な情報がメモリされている。無線ICチップ51は、その裏面に入出力用端子電極52,52及び実装用端子電極53,53が設けられている。入出力用端子電極52,52は前記各実施例で示した給電部35a,35bと金属バンプなどを介して電気的に接続される。なお、金属バンプの材料としては、Au、はんだなどを用いることができる。
【0040】
図16に示すように、無線ICチップ51と給電回路基板65とで無線IC素子50を構成する場合、給電回路基板65には種々の給電回路(共振回路/整合回路を含む)を設けることができる。例えば、図17に等価回路として示すように、互いに異なるインダクタンス値を有し、かつ、互いに逆相で磁気結合(相互インダクタンスMで示す)されているインダクタンス素子L1、L2を含む給電回路66であってもよい。給電回路66は、所定の共振周波数を有するとともに、無線ICチップ51のインピーダンスと金属パターン30とのインピーダンスマッチングを図っている。なお、無線ICチップ51と給電回路66とは、電気的に接続(DC接続)されていてもよいし、電磁界を介して結合されていてもよい。
【0041】
給電回路66は、無線ICチップ51から発信された所定の周波数を有する高周波信号を前記アンテナに伝達し、かつ、受信した高周波信号をアンテナを介して無線ICチップ51に供給する。給電回路66が所定の共振周波数を有するので、インピーダンスマッチングが図りやすくなり、インピーダンスの整合回路、即ち、ループ状とした金属パターン30の電気長を短くすることができる。
【0042】
次に、給電回路基板65の構成について説明する。図15及び図16に示すように、無線ICチップ51の入出力用端子電極52は、給電回路基板65上に形成した給電端子電極142a、142bに、実装用端子電極53は、実装端子電極143a、143bに金属バンプなどを介して接続される。
【0043】
給電回路基板65は、図18に示すように、誘電体あるいは磁性体からなるセラミックシート141a〜141hを積層、圧着、焼成したものである。但し、給電回路基板65を構成する絶縁層はセラミックシートに限定されるものではなく、例えば、液晶ポリマなどのような熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のような樹脂シートであってもよい。最上層のシート141aには、給電端子電極142a,142b、実装端子電極143a,143b、ビアホール導体144a,144b,145a,145bが形成されている。ビアホール導体144a,145aは給電端子電極142aによって接続されている。ビアホール導体144b,145bは給電端子電極142bによって接続されている。2層目〜8層目のシート141b〜141hには、それぞれ、インダクタンス素子L1,L2を構成する配線電極146a,146bが形成され、必要に応じてビアホール導体147a,147b,148a,148bが形成されている。
【0044】
以上のシート141a〜141hを積層することにより、配線電極146aがビアホール導体147aにて螺旋状に接続されたインダクタンス素子L1が形成され、配線電極146bがビアホール導体147bにて螺旋状に接続されたインダクタンス素子L2が形成される。また、配線電極146a,146bの線間にキャパシタンスが形成される。
【0045】
シート141b上の配線電極146aの端部146a−1はビアホール導体145aを介して給電端子電極142aに接続され、シート141h上の配線電極146aの端部146a−2はビアホール導体148a,145bを介して給電端子電極142bに接続される。シート141b上の配線電極146bの端部146b−1はビアホール導体144bを介して給電端子電極142bに接続され、シート141h上の配線電極146bの端部146b−2はビアホール導体148b,144aを介して給電端子電極142aに接続される。
【0046】
以上の給電回路66において、インダクタンス素子L1,L2はそれぞれ逆方向に巻かれているため、インダクタンス素子L1,L2で発生する磁界が相殺される。磁界が相殺されるため、所望のインダクタンス値を得るためには配線電極146a,146bをある程度長くする必要がある。これにてQ値が低くなるので共振特性の急峻性がなくなり、共振周波数付近で広帯域化することになる。
【0047】
インダクタンス素子L1,L2は、給電回路基板65を平面透視したときに、左右の異なる位置に形成されている。また、インダクタンス素子L1,L2で発生する磁界はそれぞれ逆向きになる。これにて、給電回路66をアンテナに結合させたとき、アンテナには逆向きの電流が励起され、近接する金属板に電流を発生させることができ、その電流による電位差で該金属板を放射素子(アンテナ)として動作させることができる。
【0048】
給電回路基板65に共振/整合回路を内蔵することにより、外部の物品の影響による特性変動を抑えることができ、通信品質の劣化を防ぐことができる。また、無線IC素子50を構成する無線ICチップ51を給電回路基板65の厚み方向の中央側に向けて配置すれば、無線ICチップ51の破壊を防ぐことができ、無線IC素子50としての機械的強度を向上させることができる。
【0049】
(他の実施例)
なお、本発明に係る無線ICデバイスは前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0050】
特に、誘電体素体は必ずしも直方体形状である必要はなく、またその材料に関しては、ゴムやエラストマ、エポキシなどの熱硬化性樹脂やポリイミドなどの熱可塑性樹脂であってもよい、あるいは、表面に凹部を形成することにより必要な可撓性を有するのであれば、LTCCなどのセラミックであってもよく、多層に形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明は、無線ICデバイスに有用であり、特に、曲面に取り付けた場合であっても、素体と放射体との剥離が生じることなく、かつ、通信特性が変動しにくい点で優れている。
【符号の説明】
【0052】
10A〜10H…無線ICデバイス
20…誘電体素体
20a,20b…稜線部分
21…スリット(凹部)
22…空洞部
25…隙間
30…金属パターン(放射体)
31,32,33…電極
45…保護カバー
50…無線IC素子
51…無線ICチップ
65…給電回路基板
66…給電回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面及び下面を有する誘電体素体と、
前記誘電体素体の表面に設けられた放射体と、
前記放射体の給電部に結合された無線IC素子と、
を備えた無線ICデバイスにおいて、
前記放射体は可撓性を有する金属パターンにて形成されており、
前記誘電体素体は、少なくとも表面に複数の凹部が形成され、可撓性を有すること、
を特徴とする無線ICデバイス。
【請求項2】
前記放射体は前記誘電体素体の稜線部分の内側に接合されていること、を特徴とする請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項3】
前記凹部は前記誘電体素体の稜線部に臨んで形成されていること、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無線ICデバイス。
【請求項4】
前記放射体は前記誘電体素体の上面から側面及び下面にわたって連続して配置されており、
前記放射体は、前記誘電体素体の上面及び/又は下面に接着されており、側面には接着されていないこと、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項5】
前記放射体は可撓性を有するフィルム上に設けられていること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項6】
前記誘電体素体の少なくとも表面に形成した複数の凹部はスリットであること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項7】
前記スリットは前記誘電体素体の上面及び/又は下面に形成されていること、を特徴とする請求項6に記載の無線ICデバイス。
【請求項8】
前記スリットは前記誘電体素体の側面にも形成されていること、を特徴とする請求項7に記載の無線ICデバイス。
【請求項9】
前記誘電体素体の上面に形成されたスリットと下面に形成されたスリットとは深さが異なっていること、を特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項10】
前記誘電体素体の上面に形成されたスリットと下面に形成されたスリットとは、互いにオフセットされて配置されていること、を特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項11】
前記スリットは前記誘電体素体の端部から前記給電部に向かってその深さが小さくなるように形成されていること、を特徴とする請求項6ないし請求項10のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項12】
前記誘電体素体、前記放射体及び前記無線IC素子を被覆する保護部材を備えたこと、を特徴する請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項13】
前記無線IC素子は所定の無線信号を処理する無線ICチップであること、を特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項14】
前記無線IC素子は、所定の無線信号を処理する無線ICチップと、所定の共振周波数を有する給電回路を含む給電回路基板とからなること、を特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項15】
上面及び下面を有する誘電体素体と、
前記誘電体素体の表面に設けられた放射体と、
前記放射体の給電部に結合された無線IC素子と、
を備えた無線ICデバイスにおいて、
前記放射体は可撓性を有する金属パターンにて形成されており、
前記誘電体素体は、少なくとも表面に複数の凹部が形成され、可撓性を有し、
前記誘電体素体が金属体の表面に貼着されていること、
を特徴とする無線ICデバイス。
【請求項16】
前記誘電体素体、前記放射体及び前記無線IC素子が保護部材にて被覆されていること、を特徴とする請求項15に記載の無線ICデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−244109(P2011−244109A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112675(P2010−112675)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】