説明

無線LANシステム,アクセスポイント,およびそれらに用いるチャネル制御方法並びにそのプログラム

【課題】レーダ波を検出すると動的に周波数を変更するIEEE802.11hに規定されるDFS機能によってチャネル変更する際,レーダサーチ処理に要する時間以外に要する時間をできるだけ短くし,迅速にチャネル変更を行う。
【解決手段】レーダ波を検出すると動的に周波数を変更するIEEE802.11hに規定されるDFS機能を備えるアクセスポイントを含むBSSからなる無線LANシステムにおけるアクセスポイントであって,当該アクセスポイントは,BSSが使用するチャネルに対するレーダ波を検出するレーダ波検出手段とレーダ波が検出された場合,各BSSの位置関係に基づいて変更先チャネル候補が予め定義されている変更チャネル情報に基づいて変更先チャネルを候補として選択する次チャネル候補選択手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIEEE802.11系の無線LANシステムにおいて,動的周波数選択機能(DFS機能)を考慮したチャネル制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速に普及している無線LANシステムは,IEEE802.11で標準化されている。中でも周波数5GHz帯を使用するシステムに関しては,IEEE802.11hで,動的周波数選択機能(以下DFS機能と称す)および送信電力制御機能(TPC機能)が定義されている。これらの機能は,同一周波数を使用する他のシステム(気象レーダや各種レーダ)との干渉を軽減するためのものであり,無線LANシステム側に実装が義務づけられている。
【0003】
DFS機能は,同一周波数を使用する他のシステムのレーダ波を検出すると,使用している周波数を他の空きチャネル周波数へ変更を行うものであるが,その際,DFS機能により検出されたレーダ波と同一チャネルでの30分以内の運用禁止と,レーダの有無情報が予め分かっていないチャネルでの運用開始前60秒間のレーダサーチが必須となっている。
【0004】
ところが,DFS機能による変更先となるチャネルの決定方法に関しては,規格上の具体的定義がなく,多くの場合,システム独自の実装となっている。例えば特許文献1のようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開第2007−181200号公報
【0006】
特許文献1は,DFS機能によるチャネル変更が必要と判断されたとき,その時の複数の空きチャネルのうち,それらの品質に基づいて新しい使用チャネルを決定するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,特許文献1のシステムは,DFS機能によってチャネル変更する際,アクセスポイント自身が空きチャネルの走査および品質判定を行わなければならず,走査するチャネル数が多い場合には,相応の時間を要することとなる。これは,運用開始前60秒間のレーダサーチとは別に要する時間である。
【0008】
前述したようにDFS機能は,規格により運用開始前60秒間のレーダサーチ処理が義務づけられており,その間はアクセスポイントとステーションとの間の通信をすることはできない。このような通信不能時間を少しでも短くするには,レーダサーチ処理に要する時間以外に要する時間をできるだけ短くする必要がある。しかし,特許文献1に係る発明は,チャネル変更に比較的多くの時間を要するため,この課題に対する十分な解決策とはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の第1の形態にかかるアクセスポイントは,レーダ波を検出すると動的に周波数を変更するIEEE802.11hに規定されるDFS機能を備えるアクセスポイントを含むBSSからなる無線LANシステムにおけるアクセスポイントであって,BSSが使用するチャネルに対するレーダ波を検出するレーダ波検出手段と,レーダ波が検出された場合,変更先チャネル候補が予め定義されている変更チャネル情報に基づいて変更先チャネルを候補として選択する次チャネル候補選択手段とを備える。
【0010】
より好ましくは,無線LANシステムは,所定の位置関係にある所定数のBSSからなる無線LANシステムであって,変更チャネル情報は,所定の位置関係を含む情報に基づいて変更先チャネル候補が予め定義されているアクセスポイント。
【0011】
より好ましくは,任意のBSSにおいて,変更チャネル情報は,当該BSSに対する電波影響が最も強い他のBSSとの間で,所定チャネル数分隔てて初期チャネルが定義され,且つ,次チャネル候補選択手段による変更チャネル情報に基づいたチャネル変更において,それぞれのBSSが同一チャネルとなるまで少なくとも2回のチャネル変更が必要となるアクセスポイント。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,DFS機能によるチャネル変更の際,予め定められたチャネル変更テーブルに基づいてチャネルを変更することにより,変更候補のチャネルを即座に決定することができる。さらに,初期チャネルおよび変更候補となるチャネルは,他のBSSとの重複が直ぐには発生しないようテーブル上に定義されていることから,チャネル変更後に他のBSSと干渉する危険性を少なくすることができるという効果も奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では図面を参照し,本発明に係る実施例を説明する。なお,各図面において共通する要素には同じ番号を付し,説明は繰り返さない。
[無線LANシステムの概要]
【0014】
図1は本発明に係る無線LANシステムの概要図である。アクセスポイント101およびこれと通信するステーション103,並びにアクセスポイント121,およびこれと通信するステーション123のセットは,それぞれBSS(Basic Service Set:基本サービスセット)と呼ばれる。BSSはIEEE802.11で標準化されているインフラストラクチャモードにおけるアクセスポイントとステーションのセットの事であり,図1では2つのBSSであるBSS0とBSS1が存在している。
【0015】
例えば,オフィスなど1つのロケーションにて複数のBSSを運用する場合,通常は,BSS同士の電波干渉を避けるため,それぞれのBSSはある程度物理的に距離を置いて配置され,隣接するBSS同士は離れた周波数帯のチャネルを使用する。
[無線LANシステムの全体図]
【0016】
図2は本発明に係る無線LANシステムの全体図である。BSS0〜BSS10の合計11のBSSが1つの直線上で運用されており,それぞれのBSSがアンテナ201から発せられるレーダ波の影響下にある。
【0017】
背景技術でも説明したとおり,アクセスポイントは,自身のBSSが使用するチャネルと干渉するレーダ波を検出した場合は,自身のチャネルを変更しなければならないこととなっている。つまり,BSS0〜10の全てにおいて,レーダ波を検出した場合は,それぞれ使用チャネルを変更しなくてはならない。
[機能ブロック図]
【0018】
図3は,本発明に係る無線LANシステム,特にアクセスポイントが実行する機能のブロック図である。なお,以下で説明する機能は,アクセスポイントが備えるCPU,ROMおよびRAMによって実行されるものであるが,専用のハードウェアによって実行されてもよい。このような構成は当業者にとっては自明であるため,図示は省略する。
【0019】
レーダ波検出手段301は,アンテナ201などから発せられるレーダ波を検出するものである。レーダ波の検出技術は,従来技術を用いればよいため詳細は説明しない。なお,後に「近傍チャネル」という概念を説明するが,これはBSS同士のチャネルに限定した概念であり,BSSとレーダ波とのチャネル関係を示すものではない。
【0020】
チャネル候補選択手段303は,テーブル読込手段305および次チャネル読込手段307により構成されている。テーブル読込手段305は,詳しくは後述するチャネル変更テーブルを読み込み,テーブル上における自BSSのチャネル位置を認定する。次チャネル読込手段307は,当該テーブルにおける自BSSのチャネル位置の次の位置に対応するチャネルを読み込む。以上の処理によりチャネル候補選択手段303は,変更先チャネルを候補として選択する。この時点では,変更先チャネルはあくまで候補であり,実際に運用しない。
なお,テーブル上における選択チャネルの位置は,後述するように明示的にリセットされない限り保持される。
【0021】
レーダサーチ手段309は,候補として選択されたチャネルについて60秒間のサーチを行い,使用されているかどうかの検出を行う。なお,この処理は,DFS機能として必須とされているものである。
【0022】
判定手段311は,サーチした結果に基づいて,チャネルを変更するかどうかを判定し,チャネル設定手段313は,チャネルを変更すると判定された場合に,チャネル候補選択手段303によって選択されたチャネルをBSSの運用チャネルとして設定する。この時点で実際にBSSのチャネルが変更されることとなる。
【0023】
選択位置リセット手段315は,チャネル候補選択手段303によって選択されたチャネル変更テーブル上における選択チャネルの位置をリセットし,初期位置に戻す。
[フローチャート]
【0024】
図4は,本発明に係る無線LANシステム,特にアクセスポイントが実行する処理のフローチャートである。
ステップ401にてレーダ波検出手段301は,レーダ波の検出を試み,検出されれば処理がステップ403に進み,そうでなければ当該検出処理を繰り返す。
【0025】
ステップ403にてチャネル候補選択手段303は,変更先となるチャネル候補を選択する。具体的には,ステップ451にてテーブル読込手段305がチャネル変更テーブルを読み込み,テーブル上における自BSSの現在のチャネル位置を特定する。次いで,ステップ453にて次チャネル読込手段307がテーブルに基づいて次のチャネルを読み込む。
【0026】
ステップ405にてレーダサーチ手段309は,60秒間のサーチ処理を行い,その結果を,ステップ407にて判定手段311が判定する。判定の結果,レーダ波が検出された場合,ステップ403に戻り,再度チャネル候補を選択することとなる。なお,この際,テーブル上における選択チャネルの位置は既に保持されている選択位置を基準として次の変更順に対応するチャネルを選択することとなる(詳細は後述する)。一方,レーダ波が検出されなければステップ409に進む。
ステップ409にてチャネル設定手段313は,テーブル上における現在選択されているチャネルをBSSの運用チャネルとして設定する。
ステップ411にて選択位置リセット手段315は,テーブル上における現在選択されているチャネル位置をリセットする。
[初期チャネル]
【0027】
図5は,各BSSが運用するチャネルの初期値である。図から明らかなとおり,各BSSはそれぞれ異なる初期チャネルで運用を開始する。また,隣接するBSS同士は大きくチャネルを離していることが特徴である。例えば,隣接するBSSであるBSS0とBSS1の初期チャネルは,それぞれ100と136である。
【0028】
なお,本実施例において,この初期値は,実際のBSS間の物理的距離に基づいて定義されている。本実施例の場合,各BSSが同一直線上に配置されていることから,自ら運用するBSSのチャネルとその近傍チャネル(同一チャネルおよびその前後4チャネル)を運用するBSSとの間について,4つのBSSが使用する距離に対応するチャネル分隔てている。例えばBSS0の100チャネルに対する近傍チャネルである104チャネルは,BSS5の初期チャネルであり,間に4つのBSS分の距離に対応するチャネルの乖離が存在する。
【0029】
また別の例として,図6に示すように,各BSSが円周上に配置されている場合は,各BSS同士の実際の距離に応じて初期値を定義する。ただし,どのよう配置の場合も距離だけに応じて初期値を定義すればよいのではなく,他のBSSから受ける電波の強度に応じて定義する。この場合,距離に加えて各BSSの電波出力や遮蔽物の存在なども考慮する。
[チャネル変更テーブル]
【0030】
図7は,テーブル読込手段305が読み込むテーブルであり,レーダ波検出手段301がレーダ波を検出した時,各BSSが運用しているチャネルの次のチャネル候補を選択するためのものである。テーブルを参照すると明らかであるが,本テーブルには,各BSSが選択すべき次チャネル候補が変更順に予め定義されている。なお,初期チャネルについてすでに説明したように,本テーブルにおける各BSSの並びは,それぞれのBSSが他のBSSから受ける電波の強度に応じて定義されている。例えば,BSS0とBSS1は,実際に物理的距離が最も近く,他の条件が全て同一とした場合に,互いに電波の影響を最も受けやすいBSS同士であるため,隣接して定義されている。
【0031】
本テーブルの特徴の1つは,既に説明したが,隣接するBSS同士の初期チャネル(変更順1)は近傍チャネルでないことである。図8を参照して,例えば,BSS0とBSS1の変更順1(つまり初期チャネル)を見ると,それぞれ100と136となっており,近傍チャネルとなっていない。他の隣接BSS同士においても同様である。
【0032】
もう1つの特徴は,あるBSSにチャネル変更が生じても,少なくとも2回の変更では隣接BSSに対する近傍チャネルとならないようチャネル候補をあらかじめテーブルで定義していることである。一般には,レーダ波検出によるチャネル変更がそれほど頻繁に生じるものではないと推定される。ただ,チャネル変更が生じた際,即座に隣接BSSの近傍チャネルとなってしまっては,運用上に支障の出るおそれがあるため,本実施例では少なくとも2回としている。図9を参照して,BSS0の変更順1のチャネルである100にチャネル変更の必要が生じても,テーブルによれば次のチャネルは120であり,BSS0に隣接するBSSであるBSS1の変更順1(チャネル136)および2(チャネル112)の何れに対しても近傍チャネルとなっていない。ただし,変更を繰り返すと,この例の場合,BSS1が初期チャネル(100)から2回変更を繰り返すとチャネルが140となり,隣接BSSのチャネル136の近傍チャネルとなる。しかし,実際には近傍チャネルとなった場合であっても,同一チャネルでない限り通信が可能な場合が多く,本テーブルでは,同一チャネルとなる場合については,さらにチャネル変更ステップが必要となるよう定義している。先ほどの例で言えば,BSS0の変更順3が隣接BSSのチャネル136と同一チャネルになるには,変更順5に達する必要があり,さらに2回チャネルの変更が必要となる。
【0033】
このように本発明によれば,DFS機能によるチャネル変更の際,予め定められたチャネル変更テーブルに基づいてチャネルを変更することにより,変更候補のチャネルを即座に決定することができる。さらに,初期チャネルおよび変更候補となるチャネルは,他のBSSとの重複が直ぐには発生しないようテーブル上に定義されていることから,チャネル変更後に他のBSSと干渉する危険性を少なくすることができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】無線LANシステム概要
【図2】無線LANシステムの全体図
【図3】アクセスポイントの機能ブロック図
【図4】フローチャート
【図5】BSSの初期チャネル
【図6】BSSを円周上に配置した図
【図7】チャネル変更テーブル
【図8】隣接BSSのチャネル(1)
【図9】隣接BSSのチャネル(2)
【符号の説明】
【0035】
101 アクセスポイント
301 レーダ波検出手段
303 チャネル候補選択手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ波を検出すると動的に周波数を変更するIEEE802.11hに規定されるDFS機能を備えるアクセスポイントを含むBSSからなる無線LANシステムにおけるアクセスポイントであって,
前記BSSが使用するチャネルに対するレーダ波を検出するレーダ波検出手段と,
レーダ波が検出された場合,変更先チャネル候補が予め定義されている変更チャネル情報に基づいて変更先チャネルを候補として選択する次チャネル候補選択手段と,を備えるアクセスポイント。
【請求項2】
前記無線LANシステムは,所定の位置関係にある所定数のBSSからなる無線LANシステムであって,
前記変更チャネル情報は,前記所定の位置関係を含む情報に基づいて変更先チャネル候補が予め定義されていることを特徴とする請求項1に記載のアクセスポイント。
【請求項3】
任意のBSSにおいて,前記変更チャネル情報は,当該BSSに対する電波影響が最も強い他のBSSとの間で,所定チャネル数分隔てて初期チャネルが定義され,
且つ,前記次チャネル候補選択手段による前記変更チャネル情報に基づいたチャネル変更において,それぞれのBSSが同一チャネルとなるまで少なくとも2回のチャネル変更が必要となることを特徴とする請求項1に記載のアクセスポイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−193101(P2011−193101A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55857(P2010−55857)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(500112146)サイレックス・テクノロジー株式会社 (74)
【Fターム(参考)】