説明

無鉛シーリングガラス粉末及び製造方法

【課題】 環境に汚染を容易に招く成分を含まず、貴重金属の酸化物も含まず、シーリングされようとする真空ガラス製品に対して、無毒、無汚染のシーリングを行うことができる無鉛シーリングガラス粉末を提供する。
【解決手段】 少なくとも酸化バナジウム(V2O5)、酸化りん(P2O5)及び酸化アンチモン(Sb2O3)を相互に混合した後、溶融冷却及び粉砕を経て形成したガラス粉体であり、酸化バナジウム(V2O5)の重量パーセントは30%-70%であり、酸化りん(P2O5)の重量パーセントは10%-30%であり、酸化アンチモン(Sb2O3)の重量パーセントは0.5%-30%である。その製造方法には、重量パーセントに応じて、酸化バナジウム(V2O5)、酸化りん(P2O5)、及び酸化アンチモン(Sb2O3)を秤量した後、充分に混合し;前記混合料を800℃〜1200℃において2-3時間融合させて、粉末になるように冷却硬化且つグラインドさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あるガラス粉末に関し、特に、様々な真空ガラス部品のシーリングに広く適応でき、低融点、低膨張特性を有し、無毒、無汚染のガラス粉末、及び当該ガラス粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ガラス製品の生産過程において、通常、低融点、低膨張係数のガラス粉末がシーリング材として使用される。
【0003】
従来において、大量使用されているシーリングガラスは、鉛-亜鉛系(PbO-ZnO)の低融点のシーリングガラスであり、そのようなガラスは、真空ガラスのシーリングの要求を満足することができるが、従来のシーリングガラスが含有する鉛は環境及び人類の健康に害を及ぼすものである。このため、真空ガラス製品の製造業に、鉛を含まないシーリングガラス材を出来る限り早く提供することが望まれてきた。
【0004】
現在、世界にて既に使用されているシーリングガラス及びガラス粉末は、通常、下記の種類がある。
【0005】
日立製作所から出願され、公開された特開平2-267137号公報において、酸化バナジウム(V2O5)系ガラスが開示されている。そのガラスの膨張係数は90×10−7/℃以下であり、シーリング温度は400℃以下である。その主な作用は、膨張係数が(30〜45)×10−7/℃程度のシーリングガラス粉末を製造することである。しかし、その製品の中で、酸化鉛がコンポネントの必要な成分であるため、無鉛化の要求を満たすことができない。それと同時に、当該製品の中で、非常に有害な物質であるタリウム(Tl)の酸化物を含有し、Tlの含有量が非常に高いので、当該ガラス粉末は環境保護及び経済的に有益なものではない。また、このガラスは、特殊な真空ガラス製品のみ適用可能なものである。
【0006】
更に、日立製作所による出願の公告公報の特公平5-85490号公報においてV2O5-Tl2O-TeO2-R2O類のガラスが開示されている。その主な成分はV2O5,P2O5であり、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、テルル等の酸化物を同時に含有し、400〜500℃のシーリングを完成することができ、膨張係数が(70〜130)×10−7/℃である。当該ガラスの中には鉛は含有されていないが、一定量の非常に有害な物質である酸化タリウム(TlO2)と貴重金属であるテルル等を含有しているので、コストがとても高い。このガラスは、主に高性能ヘッドのシーリング材とギャンプ充填材として用いられる。
【0007】
また、NIPPON電子ガラスが出願した米国特許US2002019303号において、P2O5-Sn0-ZnOのシーリングガラス粉末が開示されている。このガラス粉末のシーリング温度は430〜500℃であるが、その種類のガラス粉末には大量のSnOが含有され、容易に酸化されるので、ニトロゲンガス還元雰囲気で生産とシーリングを行う必要がある。このため、産業化と後序シーリング応用を進行することが難しい。それと同時に、SnOは非常に高価な物質である。上述した欠点があるため、その応用が大きく制限される。
【0008】
無鉛シーリングガラス粉末の研究において、酸化鉛の代りに、酸化ビスマス(Bi2O3)を採用したビスマス系ガラスも存在する。しかし、酸化ビスマスを使用することにより、製造コストが非常に高くなり、その種類のガラスの膨張係数が高すぎるので、実際応用の中で、シーリングされる製品の膨張係数と合うシーリング要求を満たすように調整することが困難である。
【0009】
【特許文献1】特開平2−267137号公報
【特許文献2】特公平5−85490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記シーリングガラス粉末中に鉛成分或いはタリウム或いは貴重金属及びその酸化物を含有している欠点に鑑みてなされたものであり、無鉛シーリングガラス粉末を提供するものである。
当該ガラス粉末の融点温度、膨張係数は、シーリングしようとする製品の特性に応じてマッチング調整することができる。従って、良いシーリング効果を得る。それと同時に、当該シーリングガラス粉末は鉛、テルル、或いはタリウム等の汚染、巨毒物質を含有しないし、貴重金属を含有しない或いは極少量の貴重金属を含有する。
【0011】
本発明は、前記無鉛シーリングガラス粉末の製造方法を提供することを他の目的とする。
当該方法によれば、ガラス粉末の製造過程が簡単になるだけではなく、異なる製品材料の特性、要求に応じて、各成分の比率を柔軟に調整することができて、異なる真空ガラス製品がシーリングガラス粉末の融点温度、膨張係数に対する異なる要求を満たすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、下記の技術内容により実現される。
本発明の無鉛シーリングガラス粉末は、少なくとも酸化バナジウム(V2O5)、酸化りん(P2O5)及び酸化アンチモン(Sb2O3)を相互に混合した後、溶融冷却及び粉砕して形成したガラス粉体である。
【0013】
酸化バナジウム(V2O5)の重量パーセントは30%-70%であり、前記酸化りん(P2O5)の重量パーセントは10%-30%である。前記酸化アンチモン(Sb2O3)の重量パーセントは0.5%-30%である。
【0014】
ガラス粉体自身が低融点温度と低膨張係数を有して、一部の真空ガラス製品のシーリング要求を満たすことができる。異なる膨張係数を有する無鉛シーリングガラス粉末を更に多く獲得するために、ガラス粉体の中に低膨張係数の充填材を混入することができる。充填材の重量パーセントは40%以下である。充填材は膨張係数が(-120 〜60)×10−7/℃である酸化物である。
【0015】
前記無鉛シーリングガラス粉末の製造方法は、少なくとも下記のステップを備える。
ステップ1:重量パーセントに応じて、酸化バナジウム(V2O5)、酸化りん(P2O5)、及び酸化アンチモン(Sb2O3)を秤量した後、充分に混合して、混合料を製造する。
ステップ2:混合料を800℃〜1200℃において2-3時間融合させる。
ステップ3:ステップ2中の混合料の融合液体を冷却硬化させ、グラインドさせて基質ガラス粉末を製造する。
【0016】
以上の製造方法において、さらに、ガラス粉体の中に充填材を混入するステップ4を増加してもよい。当該ステップ4には、先ず、膨張係数が(-120 〜60)×10−7/℃である充填材を選択或いは製造してから、充填材と基質ガラス粉末を充分に混合する段階を備える。
【発明の効果】
【0017】
前記技術内容から分かるように、本発明に従う無鉛シーリングガラス粉末の中には、環境に対して容易に汚染を招く成分を含まず、貴重金属の酸化物も含んでいない。シーリングしようとする真空ガラス製品(例えば、VFD、PDP、CRT等)に対して、無毒、無汚染のシーリングを直接に行うことができる。加工製造過程が簡単であり、工業化生産に適応する。
【0018】
なお、無鉛ガラス粉末の膨張係数を調整する充填材として、膨張係数が(-120 〜60)×10−7/℃である酸化物を採用したので、本発明による無鉛シーリングガラス粉末は、シーリングされる製品の膨張係数に従って、広い範囲で調整することができる。従って、多種材料の異なるシーリング要求、例えば、各種のガラス、セラミックス、金属間のシーリングに適応且つ満足させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に示す実施例を通じて、本発明に対して詳細に説明する。
本実施例は、膨張係数が63×10−7/℃で、作業温度が480℃である無鉛シーリングガラス粉末である。本実施例は、ガラス粉体及び体積パーセントが30%であるグレイアルミナ(Al2O3・TiO2)充填材を充分に混合させて製造されたものである。
【0020】
ガラス粉体の配合は下記の通りである。

(配合表)


上記配合表中の酸化珪素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミナ(Al2O3)はガラスの安定成分である。製造において、前記各成分を重量パーセントによって,秤量して混合し、900℃において、2時間融合した後、冷水ブロー且つ冷却してくずガラスを形成し、くずガラスをさらにクラッシング(crushing)によりくずガラスを細粒化し、シーブ(sieve)により粒度を均一化させて、ガラス粉末を獲得することができる。
【0021】
グレイアルミナ(Al2O3 TiO2)の製造過程は、化学量数の割合(Al2O3 TiO2)によって、別々にアルミナ(Al2O3)と酸化チタン(TiO2)を秤量した後、両者を混合してから、1500℃で17時間焼結し、冷却した後、粉砕、シーブさせて充填材を製造する。
【0022】
製造されたガラス粉体とグレイアルミナ(Al2O3・TiO2)充填材を充分に混合した後、本実施例を製造した。
【0023】
本実施例は低い作業温度を有し、良い流動特性を有する。その流動柱の直径は25.5 mmである。
【0024】
本発明は、ガラス粉体の成分の調整及び充填材の種類と含量の調整により、膨張係数の調整を実現することができる。従って、異なるガラス、セラミックス、或いは金属とのシーリングに適応する。以下に成分が異なり且つ膨張係数も異なる五種の無鉛シーリングガラス粉末を例示する。それらの成分及び性能パラメタを表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
上記表1において、無鉛シーリングガラス粉末のそれぞれ全てが、下記の方法により製造して得られたものである(図1に示すフローチャートを参照)。
【0027】
まず、表1に示す通りに、原料を秤量してから十分に混合し、混合物を800℃〜1200℃の温度において2〜3時間融合する。融合されたガラス液体を成型或いは、冷水ブロー(水炸)、ドライングさせてから、ガラスを粉砕且つシーブさせてガラス粉末を製造する。
【0028】
多種の酸化物からなる充填材の製造過程は、まず、化学量数の割合によって、各酸化物を秤量して、それを混合した後、1500℃において、10-15時間保温且つ焼結させ、固相合成を行なってから、グラインド、シーブさせて製造される。
【0029】
例えば、β-ユークリプタイトの製造:
化学量数の割合(2MgO.Al2O3.5SiO2)によって、別々にMgO、Al2O3、SiO2を秤量して、それらを混合した後、1450℃において、15時間保温させ、固相合成した後、グラインド、シーブさせる。
【0030】
例えば、グレイアルミナの製造:
化学量数の割合(Al2O3.TiO2)によって、別々にAl2O3、TiO2を秤量して、それらを混合した後、1500℃において17時間焼結させて、冷却、粉砕、シーブさせる。
【0031】
表1中の無鉛シーリングガラス粉末は、350〜390℃の軟化温度と400〜500℃のシーリング温度を有する。ガラス粉体の膨張係数は72.5×10-7/℃〜110×10-7/℃である。これらは、優れた流動特性を有し、それらの流動柱の直径は21.5〜25.5mmである。
【0032】
本発明は、具体的なシーリング材の特性、及び温度と膨張係数に対する具体的な要求に応じて、それとマッチングする無鉛シーリングガラス粉末を提供することができることに注意すべきである。その方法としては、異なる成分を選択してガラス粉体を構成し、或いはガラス粉体の中に異なる成分の充填材を混入して、異なる膨張係数を有する多種の無鉛シーリングガラス粉末を獲得する。
【0033】
最後に説明すべきことは、以上の実施例は本発明を説明するためであり、限定する意味ではない。前記実施例を参照して、本発明に対して詳しく説明してきたが、本発明に対して修正或いは変更を行うことは、当該技術分野の技術者に対して理解できることであり、本発明の要旨と範囲を超えない範囲で、本発明の特許請求の範囲の中に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る無鉛シーリングガラス粉末の製造工程のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも酸化バナジウム(V2O5)、酸化りん(P2O5)及び酸化アンチモン(Sb2O3)を相互に混合した後、溶融冷却及び粉砕して形成したガラス粉体であり、
前記酸化バナジウム(V2O5)の重量パーセントが30%-70%であり、
前記酸化りん(P2O5)の重量パーセントが10%-30%であり、
前記酸化アンチモン(Sb2O3)の重量パーセントが0.5%-30%であることを特徴とする無鉛シーリングガラス粉末。
【請求項2】
前記ガラス粉体の成分中に、更に、酸化ビスマス(Bi2O3)を含み、
その重量パーセントが0.5%-15%であることを特徴とする請求項1に記載の無鉛シーリングガラス粉末。
【請求項3】
前記ガラス粉体の成分中に、更に、重量パーセントが40%以下のガラス安定成分を含み、
前記ガラス安定成分が、酸化物或いは一種以上の酸化物から混合してなるものであり;
前記酸化物は、前記ガラス粉体において、重量パーセントが10%以下の酸化珪素(SiO2)、或いは酸化亜鉛(ZnO)、或いはアルミナ(Al2O3)、或いは酸化ジルコニウム(ZrO2)、或いは酸化硼素(B2O3)或いは酸化チタン(TiO2)、或いは酸化セリウム(CeO2)、及び前記ガラス粉体において、重量パーセントが5%以下の酸化タングステン(WO3)或いはアルカリ金属酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の無鉛シーリングガラス粉末。
【請求項4】
前記ガラス粉体の成分の中に、更に、錫(Sn)、或いは亜鉛(Zn)或いは、カルシウム(Ca)のハロゲン化物或いはそのハロゲン化物のいずれかの組み合わせを含み、
前記含有されるハロゲン化物のそれぞれの重量パーセントが5%以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の無鉛シーリングガラス粉末。
【請求項5】
前記ガラス粉体の成分の中に、更に、重量パーセントが40%以下の充填材を含み、
該充填材が前記ガラス粉体と充分に混合され、
前記充填材は、膨張係数が(-120 〜 60)×10−7/℃以内の酸化物であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の無鉛シーリングガラス粉末。
【請求項6】
前記充填材は、グレイアルミナ(Al2O3・TiO2)、或いは酸化第二錫(SnO2)、或いはβ-ユークリプタイト(2MgO・Al2O3・5SiO2)、或いはジルコン(Zr SiO4)、或いはアルミナ(Al2O3)、或いは石英砂(SiO2)、或いは五酸化ニオビウム(Nb2O5)を含有することを特徴とする請求項5に記載の無鉛シーリングガラス粉末
【請求項7】
前記請求項1乃至6の何れかに記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造する方法であり、当該方法が少なくとも、
ステップ1:重量パーセントに応じて、酸化バナジウム(V2O5)、酸化りん(P2O5)、及び酸化アンチモン(Sb2O3)を秤量した後、充分に混合させて、混合料を製造し、
ステップ2:混合料を800℃〜1200℃で2-3時間融合させ、
ステップ3:ステップ2中の前記混合料の融合液体を冷却硬化、グラインドさせて前記ガラス粉末を製造するステップを備えることを特徴とする無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ1が、更に、重量パーセントが0.5%-15%である酸化ビスマス(Bi2O3)を混入する段階を備えることを特徴とする請求項7に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ1が、更に、重量パーセントが40%以下の前記ガラス安定成分を混入する段階を備えることを特徴とする請求項7に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ1が、更に、前記錫(Sn)或いは亜鉛(Zn)或いはカルシウム(Ca)のハロゲン化物或いはそのハロゲン化物のいずれかの組み合わせを混入する段階を備えることを特徴とする請求項7に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ3には、先ず、冷水ブロー或いはローラプレスして成片する方法により、前記混合料の融合液体を冷却硬化させて、硬化されたガラスに対して、クラッシング、グラインドし、最後にシーブさせて、前記ガラス粉末を獲得することを含むことを特徴とする請求項7又は8又は9又は10に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項12】
前記製造方法において、更に、前記ガラス粉体に、前記充填材を混入するステップ4が増加されていることを特徴とする請求項7又は8又は9又は10に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項13】
前記ステップ4が、先ず、膨張係数が(-120 〜60)×10−7/℃である充填材を選択或いは製造した後、前記充填材と前記ガラス粉体を充分に混合する段階を含むことを特徴とする請求項12に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項14】
前記選択において、既存の一種以上の膨張係数が(-120 〜60)×10−7/℃である酸化物を選択して、それを粉末状にして、一種以上の前記酸化物を混合することを特徴とする請求項13に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。
【請求項15】
前記製造には、先ず、化学量数の割合によって、必要する酸化物を構成する各成分を混合した後、
混合した各成分を1500℃以下において、10-15時間焼結且つ保温させて、固相合成体を製造し、
最後に、固相合成体をグラインド、シーブして製造する段階を含むことを特徴とする請求項13に記載の無鉛シーリングガラス粉末の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−290665(P2006−290665A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112175(P2005−112175)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(505130558)京▲東▼方科技集▲とぅあん▼股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】