説明

無閉塞ノズルとこれを利用した固体生成物の製造方法

【課題】金属ハロゲン化物と液体アンモニアの反応による金属アミドあるいはイミド化合物の製造のように、固体反応生成物が生成して、供給ノズルを閉塞させる反応系において、原料薬剤を原料薬液に容易に供給する手段を提供すること。
【解決手段】1つの原料薬剤をノズルを用いてこれと異なる原料薬液中に注入して固体反応生成物を得るための無閉塞ノズルであって、原料薬剤が内部を流れる中空円筒部と、中空円筒部内に中空円筒部と中心軸を共有して回転するように設置されている駆動軸とを有し、中空円筒部は、原料薬剤を該中空円筒部に導入する薬剤供給口と、原料薬液に原料薬剤を吐出する薬剤吐出口とを有し、薬剤吐出口における駆動軸の先端の少なくとも一部が、駆動軸の長軸方向の位置関係において、中空円筒部の先端によって形成される面付近乃至その面より外側まで延在している、無閉塞ノズル。この無閉塞ノズルを用いた固体反応生成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧雰囲気や有毒物の使用など反応装置からの無漏洩が求められる条件下で、生成物が固体として析出する非常に速い反応を実施する際に、吐出口を閉塞させることなく安定的に原料を供給するノズル、及びその無閉塞ノズルを用いて1つの原料薬剤とこれと異なる原料薬液を反応させて固体状生成物を得る固体状生成物の製造方法に関わり、より具体的には、金属窒化物粉末の製造用前駆体として有用な、金属アミドあるいはイミド化合物粉末の製造方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
金属ハロゲン化物と液体アンモニアとの反応により金属アミドあるいはイミド化合物粉末を合成し、これを熱分解させる方法は、量産に適した高純度金属窒化物粉末の製造方法として知られている。
【0003】
特許文献1には、液体アンモニアと、液体アンモニアと溶けあわずかつ比重が液体アンモニアより大きい有機溶媒とが、比重差により二層に分離している反応系の下部有機溶媒層中に、金属ハロゲン化物を供給することによって、液体アンモニアと金属ハロゲン化物とを反応させ、前駆体の金属アミドあるいはイミド化合物粉末を合成し、これを窒素又はアンモニア雰囲気中で加熱分解させて対応する金属窒化物粉末を製造する方法が開示されている。
【0004】
金属ハロゲン化物と液体アンモニアとの反応では、目的物の金属アミドあるいはイミド化合物の他にハロゲン化アンモニウムが副生する。ハロゲン化アンモニウムは液体アンモニアに容易に溶解する一方、液体アンモニアと溶けあわないような低極性の有機溶媒には難溶である。従って、特許文献1に記載の方法による反応混合物から、金属アミドあるいはイミド化合物をろ過分離したろ液は、副生ハロゲン化アンモニウムが溶存した液体アンモニアと、有機溶媒との混合物として回収される。反応原料としての液体アンモニア及び有機溶媒の再利用は工業的実施の上で必須であるが、前記のような混合物から液体アンモニア及び有機溶媒を分離精製して再利用するためには、複雑かつ多段の工程が必要になり設備費が高価になるという問題がある。
【0005】
例えば特許文献2には、金属ハロゲン化物としてハロゲン化シランを使用した場合の回収技術が開示されている。ここに示されているのは、液体アンモニアと、液体アンモニアと溶けあわずかつ比重が液体アンモニアより大きい有機溶媒とが、比重差により二層に分離している反応系の下部有機溶媒層中に、ハロゲン化シランと前記有機溶媒との混合溶液を供給することによって、ハロゲン化シランと液体アンモニアを反応させて含窒素シラン化合物を製造するに際し、反応液から含窒素シラン化合物を分離した後、有機溶媒、液体アンモニア及び副生するハロゲン化アンモニウムの混合溶液を薄膜蒸発器に供給してそれぞれを分離回収する工程において、混合溶液に対して2.3〜20.0容量%の水を添加する方法である。この方法によれば、蒸発器の塔頂からアンモニアが取り出され、缶液から有機溶媒、ハロゲン化アンモニウム及び水に少量のアンモニアが混入した混合物を回収することができる。次にこの混合物から有機溶媒を分離する必要があるが、これは静置分離のような方法でなし得ることが示唆されている。しかしながら、実際にハロゲン化シランと混合する溶媒として再利用するにあたっては、微量混入している水分などを除去するための更なる精製工程が必須である。こうして例示されるように、有機溶媒、液体アンモニア及び副生するハロゲン化アンモニウムの混合溶液からアンモニア及び有機溶媒をそれぞれ回収して再利用するためには複雑かつ多段の分離/精製工程が必要となる。
【0006】
前記の問題を回避するためには、有機溶媒を使用することなく金属ハロゲン化物と液体アンモニアとを直接反応させることが望まれる。また、目的の金属アミドあるいはイミド化合物重量あたりの有機溶媒の使用量を削減することも、有機溶媒の回収精製設備の小型化につながり有益である。
【0007】
特許文献3には、−69〜−33.3℃の温度で液体アンモニアに対し反応場所の空間部よりハロゲン化珪素を滴下する反応方法を含む、珪素ジイミドの製造方法が開示されている。これは、確かに有機溶媒を使用しない金属ハロゲン化物と液体アンモニアとの反応方法の一例ではあるが、−69〜−33.3℃、好ましくは−65℃、という極端に低い温度を必要とする。このため、極低温の冷媒設備が必要とされ、工業的製法として著しく不経済であると言わざるを得ない。
【0008】
一方、金属ハロゲン化物と液体アンモニアとの常温付近での反応については、例えば特許文献1に記述されているように、非常に激しい発熱反応であって、副生するハロゲン化アンモニウムが反応装置を閉塞し得るなど、トラブル原因が存在することが指摘されているのみであり、有機溶媒を用いることなく、金属ハロゲン化物と液体アンモニアとを直接混合し反応させる具体的方法については開示も示唆もされていない状況である。
【0009】
実際に、金属ハロゲン化物としてSiClを用い、供給ノズルとしてSUSパイプを液体アンモニア中に設置して、無溶媒にてSiClを供給することにより、常温で、対応するアンモニア蒸気圧での加圧条件下において、SiClと液体アンモニアを反応させると、反応熱は液体アンモニアを還流させることにより除去することが出来るが、反応が非常に速く、主としてシリコンジイミドよりなる含窒素シラン化合物が供給ノズル出口近傍で直ちに析出するなどの理由により、高い吐出圧力を有する供給ポンプを使用しないと、供給ノズルが閉塞してしまい反応を実施できないことが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭56−44006号公報
【特許文献2】特開平7−223811号公報
【特許文献3】特開昭62−223008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みなされたものである。すなわち、金属ハロゲン化物を無溶媒か、高濃度で含有する不活性有機溶剤の溶液として液体アンモニア中に供給して、金属ハロゲン化物と液体アンモニアを反応させて金属アミドあるいはイミド化合物を製造する場合のように、固形生成物が生成して反応装置を閉塞させる反応系において、一つの原料薬剤を他の原料薬液に容易に供給する手段、及びその手段を用いて1つの原料薬剤とこれと異なる原料薬液を反応させて固体状生成物を得る固体状生成物の製造方法、特に金属ハロゲン化物と液体アンモニアから金属アミドあるいはイミド化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は以下の事項に関する。
【0013】
1.1つの原料薬剤をノズルを用いてこれと異なる原料薬液中に注入して固体反応生成物を得るための無閉塞ノズルであって、
前記原料薬剤が内部を流れる中空円筒部と、該中空円筒部内に中空円筒部と中心軸を共有して回転するように設置されている駆動軸とを有し、
前記中空円筒部は、前記原料薬剤を該中空円筒部に導入する薬剤供給口と、前記原料薬液に前記原料薬剤を吐出する薬剤吐出口とを有し、
前記薬剤吐出口における前記駆動軸の先端の少なくとも一部が、前記駆動軸の長軸方向の位置関係において、前記中空円筒部の先端によって形成される面まで又はその外側まで延在していることを特徴とする無閉塞ノズル。
【0014】
2.前記薬剤吐出口において、前記中空円筒部と前記駆動軸との隙間が、30μm〜1mmであることを特徴とする、項1に記載の無閉塞ノズル。
【0015】
3.前記駆動軸を駆動するモータを有し、前記駆動軸において前記モータからの駆動力の伝達を受ける部分と前記中空円筒部の間に薬剤供給路付きフランジが介在し、前記薬剤供給路付きフランジは前記原料薬剤を外部から前記中空円筒部内に供給する供給路を有し、前記駆動軸が前記薬剤供給路付きフランジを通って前記中空円筒部中に延在していることを特徴とする、項1又は2に記載の無閉塞ノズル。
【0016】
4.前記中空円筒部の一方の端部がフランジを形成し、そのフランジが前記薬剤供給路付きフランジと液密に結合されていることを特徴とする、項3に記載の無閉塞ノズル。
【0017】
5.前記薬剤供給路付きフランジが反応器に直接に接続可能であることを特徴とする、項3に記載の無閉塞ノズル。
【0018】
6.前記モータから駆動軸への動力伝達が磁力誘導式であることを特徴とする、項3に記載の無閉塞ノズル。
【0019】
7.前記駆動軸の先端部分がコマとして取替え可能に接続され、前記コマと前記中空円筒部の間に環状の隙間が形成されていることを特徴とする、項1〜6のいずれか1項に記載の無閉塞ノズル。
【0020】
8.前記中空円筒部の先端が拡開した形状を有し、前記駆動軸の先端も拡開した形状を有して、それらの両先端の間の隙間から吐出される前記原料薬剤が前記原料薬液中に広く分散される構造になっていることを特徴とする、項1〜7のいずれか1項に記載の無閉塞ノズル。
【0021】
9.項1〜8のいずれか1項に記載の無閉塞ノズルを用いて、1つの原料薬剤とこれと異なる原料薬液を反応させて固体状生成物を得る固体状生成物の製造方法であって、
前記薬剤吐出口を原料薬液中に設置し、前記駆動軸を回転させながら、前記原料薬剤を、円筒部内壁と駆動軸外周面から形成される環状の隙間から前記原料薬液中に供給することを特徴とする、固体状生成物の製造方法。
【0022】
10.前記原料薬剤が、金属ハロゲン化物、または、金属ハロゲン化物濃度が60wt%以上の不活性有機溶剤の溶液であり、前記原料薬液が液体アンモニアであり、前記固体状生成物が金属アミドまたはイミド化合物であることを特徴とする項9記載の固体状生成物の製造方法。
11.金属ハロゲン化物がハロゲン化シランであることを特徴とする、項10記載の固体状生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の無閉塞ノズルを使用すると、高圧雰囲気や有毒物の使用など反応装置からの無漏洩が求められる条件下で、非常に反応が速く生成物が固体として析出する反応を実施する際に、ノズルを閉塞させることなく安定的に原料を供給することができる。具体的には、常温での金属ハロゲン化物(第1の原料薬剤)と液体アンモニア(第2の原料薬液)の反応のように、高圧かつ有害物質を使用する条件下で非常に速くかつ生成物が固体として析出するような反応の実施にあたり、金属ハロゲン化物(第1の原料薬剤)を無溶媒か、又はこれを高濃度で含有する不活性有機溶剤の溶液として、安定的かつ容易に、液体アンモニア(第2の原料薬液)中に供給することが出来る。この結果、高い吐出圧力を有する供給ポンプを必要とせず、工業的に安定に金属ハロゲン化物と液体アンモニアの反応を実施でき、設備コストやメンテナンスの労力が削減できる。また、従来の方法のように大量の不活性有機溶剤を必要とせず、無溶媒もしくは少量の不活性有機溶剤の使用で金属アミドあるいはイミド化合物の製造を実施できるため、有機溶剤の回収設備が不要となるか又はこれを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の無閉塞ノズルの一例を示す模式図である。図1(a)は縦断面図、図1(b)はノズル先端部の端面図である。
【図2】本発明の無閉塞ノズルを用いた製造方法における反応装置の一つの実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明の無閉塞ノズルを用いて、液体アンモニア中にSiClを無溶媒で供給した時のSiCl供給配管の圧力の推移を示したグラフである。
【図4】SUS製パイプノズルを用いて、液体アンモニア中にSiClを無溶媒で供給した時のSiCl供給配管の圧力の推移を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の無閉塞ノズルの一例である。
【0027】
本発明の無閉塞ノズルは、円筒と、この円筒の内径よりも小さな外径を有する円柱状駆動軸を組み合わせて配置し、この駆動軸を常に回転させながら、円筒の内壁と駆動軸外周面から形成される環状の隙間を吐出口として反応の原料となる薬剤を供給するものである。本発明において、無閉塞ノズルから原料薬液中に供給される原料薬剤(第1の原料薬剤)は主に液体であるが、気体であることも可能である。以下では、簡単のために、第1の原料薬剤が液体(原料薬液)であるとして記載するが、本発明は、第1の原料薬剤が液体である場合のみならず気体である場合にも全く同様に適用でき、同様の作用効果を奏することが可能である。
【0028】
非常に速くかつ生成物が固体として析出するような反応において、SUS製パイプのような通常のノズルを使用すると、生成物がノズル壁面に付着しながら吐出口をまたいで析出することにより、吐出口において生成物のブリッジが形成されてしまう。この結果、ノズル吐出口面積が狭くなってしまい、原料薬液の供給に必要なポンプ圧力が高くなる。供給ポンプが充分な吐出圧力を有しておれば、高圧で原料薬液を吐出することにより生成物のブリッジを破壊し、吐出口面積を回復しながら反応を実施することは不可能ではない。しかしながら、吐出口面積が狭くなればなるほど供給に必要なポンプ吐出圧力が高くなる一方で、より少量の生成物のブリッジで吐出口を覆い隠すことが可能になるため、供給ポンプの吐出圧力が充分に高く無ければ、最終的には供給ノズルが閉塞し反応が実施できなくなる。
【0029】
これに対し本発明の無閉塞ノズルでは、吐出口である環状隙間の片方の壁面を形成する駆動軸が常に回転していることから、生成物固体が環状隙間をまたいで析出し、ブリッジを形成することができない。このため、吐出口面積はほぼ一定の状態に保たれることから、供給に必要な吐出圧力が高まることがなく、安定的に原料薬液を供給することが可能となる。
【0030】
本発明の無閉塞ノズルは、市販の、例えば、日東高圧(株)や耐圧硝子工業(株)製の磁力誘導式攪拌機を利用して製作することが出来る。すなわち、磁力誘導式攪拌機の攪拌軸を本発明の無閉塞ノズルにおける駆動軸とし、これに原料薬液の供給路を備えたフランジ4と吐出部を構成するもう一方の部材である円筒7Aを備えたフランジ7を組み合わせることにより構成することが可能である。
本発明の無閉塞ノズルにおいて、吐出部を構成する中空円筒部の材質は原料薬液に耐食性があればよいが、原料薬液や生成物が付着しにくい材質のものが好ましい。一般的には、ステンレス鋼やハステロイのようなニッケル合金などである。
本発明の無閉塞ノズルにおいて、駆動軸を回転させる手段は限定されないが、磁力誘導による動力伝達が簡便である。
【0031】
図1に示す外部マグネット1、内部マグネット格納用内筒2、内部マグネット3及び駆動軸11は市販の磁力誘導攪拌機を構成する通常の部品である。内部マグネット格納用内筒2は、通常の攪拌機用途において、シール材6を挟んで反応器フランジにネジ込むことで接続される。同じ要領で内部マグネット格納用内筒2と薬液供給路付きフランジ4を接続することで、本発明の無閉塞ノズルを構成することができる。なお、図1は市販の磁力誘導式攪拌機を利用した本発明の無閉塞ノズルの構成例を模式的に示したもので、内部マグネット3における軸受けシール部など、各部材の詳細は割愛している。
【0032】
内部マグネット格納用内筒2が接続された薬液供給路付きフランジ4は、それぞれの間にガスケット9を入れながら、ノズル円筒部7A付きフランジ7を挟み込んで、反応槽側取り付けフランジ8に接続され、ボルトによって固定される。
【0033】
ノズル駆動軸11の先端には駆動軸先端コマ12が接続され、駆動軸先端コマ12の外周部とノズル円筒部付きフランジ7に備え付けのノズル円筒部7Aの内周部とによってその間に形成される環状の隙間13が薬液吐出口13を形成する。図1(b)にノズル先端の端面図を示すが、ノズル円筒部7Aと駆動軸先端コマ12の間に横断面が環状(ドーナツ状)の隙間13が形成されており、この環状の隙間13が薬液吐出口を形成している。駆動軸先端コマ12を使用せず、駆動軸11を延長することによって薬液吐出口13を形成することも可能であるが、この環状の隙間の幅を簡便に変更できることから、駆動軸先端コマ12の設置が有用である。
【0034】
ノズル駆動軸11と駆動軸先端コマ12、およびノズル円筒部は構造上の中心軸を共有して設置され、駆動軸回転の際の中心軸は、前記構造上の中心軸と同一である。また、ノズル駆動軸11及び駆動軸先端コマ12の外壁面と、ノズル円筒部7Aの内壁面の間には常に一定の隙間が存在し、回転の際には駆動軸部とノズル円筒部は非接触の状態に保たれる。駆動軸先端コマ12の軸方向長さは、限定されないが、通常10mmから300mmである。
【0035】
外部マグネット1は内部マグネット格納用内筒に接続される。外部マグネットを回転させると、磁力によって誘導され内部マグネット3とこれに接続された動軸11及び駆動軸先端コマ12が回転する。こうして駆動軸部を回転させながら、薬液供給口5にポンプなどを利用して原料薬液を送り込むと、閉塞することなく、吐出口13から薬液を反応槽に供給できる。
【0036】
磁力誘導式攪拌機は加圧条件や有害物質を使用する反応などにおける無漏洩攪拌に使用されていることから、本発明の無閉塞ノズルに好適に利用することができる。なお、吐出口で先端コマの回転による析出物ブリッジ形成回避が達成できれば、磁力誘導式攪拌機以外の無漏洩攪拌機を利用して本発明の無閉塞ノズルを構成しても良い。磁力誘導式以外の具体的な無漏洩攪拌機としては、メカニカルシール式やグランドパッキン式の攪拌機を挙げることができる。
【0037】
本発明の無閉塞ノズルを構成する構造材やシール材の材質には制限はなく、使用する原料薬液や反応の性質に応じて適宜選択し製作することが出来る。金属ハロゲン化物と液体アンモニアから金属アミドあるいはイミド化合物を製造する場合には、限定するわけではないが、構造材としては、たとえばSUS304や316のようなステンレス鋼が、またシール材としては、たとえば、テフロン(登録商標)やカーボンテフロン(登録商標)などが好適に使用される。
【0038】
本発明の無閉塞ノズルの吐出口13付近におけるノズル円筒部付きフランジ7に備え付けのノズル円筒部7Aと駆動軸先端コマ12の、ノズル長軸方向で見た位置関係において、駆動軸先端コマ12の外周部の先端が、ノズル円筒部の先端によって形成される面又は円筒部より外側に、常に位置するように配置しておくことが好ましい。これによって、ノズル先端で析出物のブリッジが形成されることを、駆動軸先端コマ12の回転により確実に防ぐことができる。もっとも、前記の位置関係において、駆動軸先端コマ12の外周部の先端が、ノズル円筒部の先端によって形成される面上あるいはそれより外側でなくても、ノズル円筒部の内側にわずかに入り込んだ程度であれば、無閉塞ノズルの機能が失われることは無いので、そのような構成も本発明において採用できる。しかし、駆動軸先端コマ12の外周部の先端がノズル円筒部の先端よりも大きく内側に位置すると、駆動軸先端コマ12の回転による析出物のブリッジを回避することができなくなる。駆動軸先端コマ12の外周部の先端がノズル円筒部の内側に入り込んでもよい程度は、反応速度や、ノズル及びコマの径(隙間)、原料薬液の流速などによるが、一般的に10mm以下、さらに5mm以下がよい。
【0039】
本発明の無閉塞ノズルにおけるノズル円筒部付きフランジ7に備え付けのノズル円筒部7Aの先端は、ノズル長軸方向に垂直な平面で切断された形状である必要は無く、前記の駆動軸先端コマ12の外周部の先端とのノズル長軸方向における位置関係を満足する範囲であれば、任意の形状に加工して差し支えない。たとえば、駆動軸先端コマが、ノズル円筒部の先端より外側で半径が漸次縮小あるいは拡大する円錐形状であることができる。半径が拡大する円錐形状であれば、ノズルから吐出される第1の原料薬液が第2の原料薬液中で広く分散される効果がある。
【0040】
本発明の無閉塞ノズルの吐出口13付近における、ノズル円筒部内径と駆動軸先端コマ12の外径(いずれも半径)の差分から求められる環状隙間の幅は、反応の種類、原料薬液の流速などにも依存するが、金属ハロゲン化物と液体アンモニアとの反応による金属アミドあるいはイミド化合物を製造する場合は、通常、30μm〜1mm、好ましくは30μm〜500μmである。
【0041】
本発明の無閉塞ノズルにおける駆動軸先端コマ12は円柱形状である必要は無く、前記のノズル円筒部先端とのノズル長軸方向における位置関係や吐出口13付近における環状隙間の幅を満足する範囲であれば、任意の形状に加工して差し支えない。
【0042】
本発明の無閉塞ノズルにおける駆動軸先端コマは、ノズル円筒部とは非接触の状態を保って回転することが理想的であるが、実際の使用においては回転の際に軸ブレを起こすなどしてノズル円筒部と接触し、回転不良などのトラブルを起こす可能性がある。このため、駆動軸先端コマはノズル内筒部とは異なる材料で製作したり、その外周部分をステライトのような高硬度合金やアルミナ、酸化クロムのようなセラミックスでコーティングしておくことが好ましい。
【0043】
本発明の無閉塞ノズルを使用する際の駆動軸の回転速度は、反応の種類や原料薬液の流速などにも依存するが、基本的には回転によって吐出口における析出物のブリッジ形成を回避できれば良い。回転の速度は、吐出口付近の駆動軸先端コマ12の外周面の周速度として、通常0.02m/sec以上、好ましくは0.2m/sec以上である。
【0044】
本発明の無閉塞ノズルを使用する際の駆動軸の回転トルクは通常0.5N・m以上、好ましくは1.0N・m以上である。トルクが大きければ、非常に高速な反応によって吐出口をまたいで析出物のブリッジが形成されても、これを引き剥がしたり、破断することができる。
【0045】
本発明の無閉塞ノズルは、高圧雰囲気や有毒物の使用など反応装置からの無漏洩が求められる条件下で、生成物が固体として析出する非常に速い反応を、大量に有機溶剤や高い吐出圧力を有する供給ポンプを使用することなく実施することができるため有用である。具体的には、金属窒化物粉末の製造用前駆体として有用な、金属アミドあるいはイミド化合物粉末の製造において、金属ハロゲン化物を液体アンモニア中に供給して反応させる工程などにおいて好適に使用することができる。
【0046】
以下に、本発明の無閉塞ノズルを用いた金属アミドあるいはイミド化合物粉末の合成について詳細に説明する。
【0047】
本発明のこの実施態様は、金属ハロゲン化物と液体アンモニアを反応させるにあたり、金属ハロゲン化物を無溶媒か、もしくは金属ハロゲン化物濃度が60wt%以上の不活性有機溶剤の溶液として、無閉塞ノズルを使用して液体アンモニア中に供給することを特徴とする、金属アミドあるいはイミド化合物の製造に関する。
【0048】
金属ハロゲン化物としてハロゲン化シランを用いた場合の金属アミドあるいはイミド化合物の製造方法としては、特願2009−082730及び特願2009−082747に記載の方法を挙げることができる。これらは従来よりも効率的に含窒素シラン化合物粉末を製造することができる方法であるが、本発明の無閉塞ノズルを適用することによって工業的により好適に実施することができる。
【0049】
本発明のこの実施態様で使用される金属ハロゲン化物としては、SiCl、BCl、TiCl、VCl、SiBr、TiBr、GeCl、HSiClなどIII 、IV、V族の金属ハロゲン化物を挙げることができる。これらの化合物と液体アンモニアとの反応は非常に速く大きな発熱を伴って進行し、生成物の金属アミドあるいはイミド化合物が析出する。
【0050】
本反応のこの実施態様の実施において、金属ハロゲン化物は無溶媒あるいは少量の有機溶媒で希釈した溶液として供給される。金属ハロゲン化物を無溶媒で供給した場合には、生成した金属アミドあるいはイミド化合物を反応スラリーからろ別して得られるろ液は、液体アンモニア及びこれに溶解したハロゲン化アンモニウムの二成分のみで構成される。このため、有機溶媒で希釈して供給する場合に比べ、液体アンモニアの回収/再利用がより簡便な工程で実施できるという利点が付加される。
【0051】
金属ハロゲン化物の希釈に使用する有機溶媒は、金属ハロゲン化物を溶解し、金属ハロゲン化物や液体アンモニアと反応しないものの中から適宜選択して使用することができる。例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどのような炭素数5〜12の鎖状の脂肪族炭化水素、シクロヘキサンやシクロオクタンのような環状の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを挙げることが出来る。
有機溶媒と金属ハロゲン化物との混合溶液における好ましい金属ハロゲン化物濃度は、通常60wt%以上、より好ましくは70wt%以上である。
【0052】
本発明のこの実施態様の実施において、金属ハロゲン化物を無溶媒あるいは少量の有機溶媒で希釈した溶液として供給する際の吐出口は反応器内の液体アンモニア中に設置される。
【0053】
本発明のこの実施態様の実施において、反応器における金属ハロゲン化物と液体アンモニアの混合比率は、金属ハロゲン化物重量/液体アンモニア重量=0.02〜0.25である。反応を実施する形式に特に制限はなく、バッチ式でも連続式でも良い。前記の混合比率は、反応をバッチ式で実施する場合には、1バッチあたりに反応器へ供給した金属ハロゲン化物及び液体アンモニアの合計量の比率を指し、連続式の場合には、定常運転状態における金属ハロゲン化物及び液体アンモニアの重量流量の比率を指す。混合比率が0.25より大きくなると、反応スラリーの粘度が高くなり過ぎ、反応器内における攪拌混合が困難になる。混合比率が小さすぎると反応器あたりの生産性が低くなり好ましくない。
【0054】
本発明のこの実施態様の実施において、反応温度に特別な制限はなく、設備仕様に応じて低温から常温の範囲で選択することができるが、反応温度を高くすると液体アンモニアの蒸気圧が高まり反応器の圧力仕様を高くする必要が生じる場合がある。一方、反応温度が低過ぎると冷却設備に過大な負荷がかかってしまう場合がある。適切な反応温度範囲は−約10℃〜約40℃、より好ましくは約0℃〜約30℃である。
【0055】
本発明のこの実施態様を実施する際の圧力は、反応スラリーの大部分を占める液体アンモニアの蒸気圧に従って規定しても良いし、必要に応じて、不活性ガスを反応器に導入することにより、反応器内の液体アンモニアの蒸気圧より高く保持しても良い。不活性ガスの導入は、生成物の金属アミドあるいはイミド化合物中に残留するハロゲン不純物を低減する効果を示すことがある。反応スラリー中の液体アンモニアの蒸気圧は反応温度に依存し、通常、約0.3〜1.6MPa、好ましくは約0.4〜1.6MPaである(絶対圧)。不活性ガスを導入する場合には、導入によって反応器に付加される圧力をΔPとすると、ΔPの通常の範囲は約0.5MPa以上、好ましくは約0.7MPa以上である。
【0056】
本発明のこの実施態様で生成する金属アミドあるいはイミド化合物の炭素含有量は約0.03wt%以下である。液体アンモニアとの反応に際し金属ハロゲン化物は無溶媒あるいは少量の有機溶媒で希釈した溶液として供給されるが、無溶媒で供給された場合、生成物は実質的に炭素を含まない。また、有機溶媒で希釈して供給された場合も、その使用量が少ないため、生成物中の炭素含有量は極めて少なくすることができる。このため、生成する金属アミドあるいはイミド化合物の炭素含有量は約0.03wt%以下である。
【実施例】
【0057】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明する。
【0058】
図2は本発明の無閉塞ノズルを用いた製造方法における反応装置の一つの実施形態を示す模式図である。図2において、参照数字20は反応器、21は金属ハロゲン化物又は金属ハロゲン化物と有機溶媒の混合溶液供給用導管、22は無閉塞ノズル接続用アダプター、23はノズル円筒部、24は液体アンモニア供給用導管、25は窒素ガス供給用導管、26は攪拌装置、27は温度計用鞘管、28は冷却管、29は背圧弁、30は反応混合物抜き出し用導管、31はジャケット冷媒供給用導管、32はジャケット冷媒排出用導管、40は無閉塞ノズルである。
【0059】
<実施例1>
反応には、図2に示すような、攪拌装置26およびコンデンサーを備えた内容積約2Lのジャケット付きSUS製耐圧反応器20を使用し、これに図1に示したような内径8mmの円筒部と外径7.9mmの駆動軸先端コマを組み合わせた無閉塞ノズル40を組み込んだ。従って両者の差分から求められる環状隙間の幅は50μmである。円筒部の材質はSUS304であり、駆動軸先端コマは外周面をステライト盛りして製作した。駆動軸先端コマの長軸方向の長さは40mmで円筒部から突き出て設置されており、その先端位置は円筒部の先端より10mm外側である。反応器20内を窒素ガスで置換した後、液体アンモニアを1L仕込み、次に反応器の攪拌翼を400rpmで回転させながら、50mLのSiClを有機溶媒で希釈することなく供給してバッチ式での反応を行った。SiClはプランジャーポンプによって、無閉塞ノズルの金属ハロゲン化物供給用導管21に送られ、液体アンモニア中に設置された無閉塞ノズル40の吐出口から供給される。また、SiClの供給においては、無閉塞ノズル40の駆動軸を400rpmで常に回転させ、流速を2.5mL/分として50mL全量のSiClを供給した。SiCl供給中の反応混合物の温度は18〜20℃、反応器20内の圧力は0.7〜0.8MPa(ゲージ圧)であった。このときSiCl供給中の供給配管の圧力は非常に安定しており、その最大値は1.0MPa(ゲージ圧)程度であった。反応器20内の圧力とほぼ同じであった。
【0060】
反応終了後、生成したスラリーを攪拌装置と焼結金属フィルターを備えた内容積約2Lのジャケット付きSUS製耐圧容器(ヌッチェ式)に移し、ろ過を行った。得られた湿潤のケーキを更に約1Lの液体アンモニアにてバッチ洗浄した後ろ過した。この洗浄/ろ過操作を合計7回繰り返した。
【0061】
こうして得られた湿潤ケーキを乾燥して、主としてシリコンジイミドからなる含窒素シラン化合物粉末を得た。乾燥操作においては、ろ過槽のジャケットに90℃の熱水を流通させて加熱し、適宜内圧を開放しながら槽内の圧力を0.6MPa(ゲージ圧)に保ち、槽内温度が60℃に到達したところを終点とした。
【0062】
次にろ過槽を大型のグローブボックスに搬入し、一晩かけて窒素ガスを流通させることにより内部の酸素や水分を充分に追い出した。その後グローブボックス内でろ過槽を開放し、生成した含窒素シラン化合物粉末を取り出した。反応は定量的に進行しており、取得量は25.6gであった。
【0063】
<実施例2>
実施例1と同様の反応器を用い、反応器内に液体アンモニアを仕込んだ後、反応器内の窒素分圧が1.2MPaになるよう窒素ガスを導入したこと、およびSiCl供給の流速を5mL/分としたほかは、実施例1と同様の操作により反応及びろ過、洗浄、乾燥の操作を行った。SiCl4供給中の反応混合物の温度は17〜21℃、反応器内の圧力は2.0〜2.1MPa(ゲージ圧)であり、供給配管の圧力は非常に安定しており、その最大値は2.2MPa(ゲージ圧)程度であった。得られた主としてシリコンジイミドからなる含窒素シラン化合物粉末の取得量は27.1gであった。
【0064】
<比較例1>
SiClの供給において、無閉塞ノズル40の代わりに液体アンモニア中に設置された内径0.8mmのSUS製ノズルを用いたほかは実施例1と同様の操作により反応及びろ過、洗浄、乾燥の操作を行った。SiCl供給中の反応混合物の温度は18〜21℃、反応器20内の圧力は0.7〜0.8MPa(ゲージ圧)であった。一方、SiCl供給中の供給配管21の圧力は不安定で、激しく上下しながら推移し、その最大値は5.3MPa(ゲージ圧)に達した。また、得られた主としてシリコンジイミドからなる含窒素シラン化合物粉末の重量は25.2gであった。
【0065】
実施例1及び比較例1の反応時のSiCl供給配管21の圧力の推移を示すチャートをそれぞれ図3及び4に示す。また反応条件と取得した含窒素シラン化合物の分析結果を表1にまとめた。なお、表1のSiCl供給圧力の項における差圧とは下記式1に従って算出したものであり、本発明を実施する際にSiClの供給に使用するポンプにおいて確保すべき吐出圧力の目安となるものである。
差圧(Pa)=SiCl供給圧力の最大値(ゲージ圧)−反応器圧力の最小値(ゲージ圧) ・・・(式1)
【0066】
表1に示した分析結果は次のようにして測定したものである。見掛け密度はJIS K5101に準じて測定した。比表面積は島津フローソーブII2300型を使用し、BET一点法により求めた。Cl含有量は生成物粉末を加水分解させてCl分を液相に溶出させ、イオンクロマトグラフィーによる定量分析を行った。炭素含有量はLECO社製WR−12型炭素分析装置を使用して、燃焼−熱伝導度法により測定した。
【0067】
図3は本発明の無閉塞ノズル40を用いて、液体アンモニア中にSiClを無溶媒で供給した時のSiClを供給配管21の圧力の推移を示したグラフである。
【0068】
図4はSUS製パイプノズルを用いて、液体アンモニア中にSiClを無溶媒で供給した時のSiClを供給配管の圧力の推移を示したグラフである。
【0069】
【表1】

【0070】
<実施例3>
50mLのSiClの代わりに25mLのTiClを用い、TiClの供給流速を10mL/分としたほかは、実施例1と同様の操作により反応及びろ過、洗浄、乾燥の操作を行った。TiCl供給中の反応混合物の温度は16〜21℃、反応器内の圧力は0.7〜0.8MPa(ゲージ圧)であり、供給配管の圧力は非常に安定しており、その最大値は0.9MPa(ゲージ圧)程度であった。また、得られた黄褐色固体の重量は34.8gであった。
【0071】
この生成物粉末をシリコニット雰囲気炉(最高使用温度1600℃、炉心管:ハイアルミナ、発熱体:SiC)に充填し、窒素ガスを500mL/分で流しながら1500℃、1時間の条件で焼成した(昇温時間6時間)。
【0072】
焼成中は分解ガスの発生が顕著であり、焼成後、炉心管には黄金色の粉末が付着したが坩堝内の固体は、黒褐色の粉体であった。この粉体を乳鉢で粉砕しX線回折分析を行なったところ、TiNの生成が確認された。
【0073】
<実施例4>
50mLのSiClの代わりに50mLのVClを用い、VClの供給流速を15mL/分としたほかは、実施例1と同様の操作により反応及びろ過、洗浄、乾燥の操作を行った。VCl供給中の反応混合物の温度は18〜20℃、反応器内の圧力は0.7〜0.8MPa(ゲージ圧)であり、供給配管の圧力は非常に安定しており、その最大値は1.0MPa(ゲージ圧)程度であった。また、得られた黒色固体の取得量は78.9gであった。
【0074】
この生成物粉末の実施例3と同じ装置および条件で焼成したところ、黒褐色の紛体が得られた。これを乳鉢で粉砕しX線回折分析を行なったところ、主たる生成物としてVNが確認された。
【0075】
図3、4からわかるように、本発明の無閉塞ノズルを使用すると、高圧雰囲気や有毒物の使用など反応装置からの無漏洩が求められる条件下で、生成物が固体として析出する非常に速い反応を実施する際に、吐出口を閉塞させることなく安定的に原料を供給することができる。具体的には、常温での金属ハロゲン化物と液体アンモニアの反応のような反応の実施にあたり、金属ハロゲン化物を無溶媒か、又はこれを高濃度で含有する不活性有機溶剤の溶液として、安定的かつ容易に、液体アンモニア中に供給することが出来る。この結果、工業的に有用な高純度金属窒化物粉末の前駆体である、金属アミドあるいはイミド化合物の製造において、高い吐出圧力を有する供給ポンプを必要とせず、安定的に金属ハロゲン化物と液体アンモニアの反応を実施でき、設備コストやメンテナンスの労力が削減できる。また、大量の不活性有機溶剤を必要とせず、無溶媒もしくは少量の不活性有機溶剤の使用で金属アミドあるいはイミド化合物の製造を実施できるため、有機溶剤の回収設備が不要となるか又はこれを小型化することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 外部マグネット
2 内部マグネット格納用内筒
3 内部マグネット
4 フランジ
6 シール材
7、8 フランジ
9 ガスケット
11 駆動軸
12 コマ
13 薬液吐出口
20 反応器
21 金属ハロゲン化物導管
22 アダプター
23 ノズル円筒部
24 液体アンモニア供給用導管
25 窒素ガス供給用導管
26 撹拌装置
27 温度計用鞘管
30 反応混合物抜き出し用導管
40 無閉塞ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの原料薬剤をノズルを用いてこれと異なる原料薬液中に注入して固体反応生成物を得るための無閉塞ノズルであって、
前記原料薬剤が内部を流れる中空円筒部と、該中空円筒部内に中空円筒部と中心軸を共有して回転するように設置されている駆動軸とを有し、
前記中空円筒部は、前記原料薬剤を該中空円筒部に導入する薬剤供給口と、前記原料薬液に前記原料薬剤を吐出する薬剤吐出口とを有し、
前記薬剤吐出口における前記駆動軸の先端の少なくとも一部が、前記駆動軸の長軸方向の位置関係において、前記中空円筒部の先端によって形成される面付近乃至その面より外側まで延在していることを特徴とする無閉塞ノズル。
【請求項2】
前記薬剤吐出口において、前記中空円筒部と前記駆動軸との隙間が、30μm〜1mmであることを特徴とする、請求項1に記載の無閉塞ノズル。
【請求項3】
前記駆動軸を駆動するモータを有し、前記駆動軸において前記モータからの駆動力の伝達を受ける部分と前記中空円筒部の間に薬剤供給路付きフランジが介在し、前記薬剤供給路付きフランジは前記原料薬剤を外部から前記中空円筒部内に供給する供給路を有し、前記駆動軸が前記薬剤供給路付きフランジを通って前記中空円筒部中に延在していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の無閉塞ノズル。
【請求項4】
前記中空円筒部の一方の端部がフランジを形成し、そのフランジが前記薬剤供給路付きフランジと液密に結合されていることを特徴とする、請求項3に記載の無閉塞ノズル。
【請求項5】
前記薬剤供給路付きフランジが反応器に直接に接続可能であることを特徴とする、請求項3に記載の無閉塞ノズル。
【請求項6】
前記モータから駆動軸への動力伝達が磁力誘導式であることを特徴とする、請求項3に記載の無閉塞ノズル。
【請求項7】
前記駆動軸の先端部分がコマとして取替え可能に接続され、前記コマと前記中空円筒部の間に環状の隙間が形成されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の無閉塞ノズル。
【請求項8】
前記中空円筒部の先端が拡開した形状を有し、前記駆動軸の先端も拡開した形状を有して、それらの両先端の間の隙間から吐出される前記原料薬剤が前記原料薬液中に広く分散される構造になっていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の無閉塞ノズル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の無閉塞ノズルを用いて、前記原料薬剤と前記原料薬液を反応させて固体状生成物を得る固体状生成物の製造方法であって、
前記薬剤吐出口を前記原料薬液中に設置し、前記駆動軸を回転させながら、前記原料薬剤を、円筒部内壁と駆動軸外周面から形成される環状の隙間から前記原料薬液中に供給することを特徴とする、固体状生成物の製造方法。
【請求項10】
前記原料薬剤が、金属ハロゲン化物、または、金属ハロゲン化物濃度が60wt%以上の不活性有機溶剤の溶液であり、前記原料薬液が液体アンモニアであり、前記固体状生成物が金属アミドまたはイミド化合物であることを特徴とする請求項9記載の固体状生成物の製造方法。
【請求項11】
金属ハロゲン化物がハロゲン化シランであることを特徴とする、請求項10記載の固体状生成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144068(P2011−144068A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5929(P2010−5929)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】