説明

無電極放電灯点灯装置及び照明器具

【課題】暗所や低温環境下における始動性を向上する。
【解決手段】制御回路5は、商用交流電源ACから給電が開始された時点から所定の始動準備期間が経過するまでは誘導コイル2に印加する高周波電圧を無電極放電灯1のバルブ内に高周波電界放電(E放電)のみが生じる程度の電圧Veとなるように高周波電源回路3を制御する。故に、始動準備期間に無電極放電灯1のバルブ内で高周波電界放電(E放電)を生じさせることによってバルブ内の放電ガス原子を活性化し、従来技術と比較して暗所や低温環境下における始動性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電極放電灯を点灯する無電極放電灯点灯装置及び、その無電極放電灯点灯装置を有する照明器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の無電極放電灯点灯装置として、図5に示すようなものがある(特許文献1参照)。この従来装置は、商用交流電源ACから供給される交流電力を直流電力に変換する直流電源回路4と、直流電源回路4から出力される直流電力を高周波電力に変換して無電極放電灯1に近接配置された誘導コイル2に供給する高周波電源回路3と、高周波電源回路3を制御して誘導コイル2に供給される高周波電力(高周波電圧)を増減する制御回路5とを備えている。
【0003】
直流電源回路4は力率改善用の昇圧チョッパ回路からなり、商用交流電源ACの出力電圧を昇圧した直流電力を高周波電源回路3に供給する。
【0004】
高周波電源回路3は、直流電源回路4の出力端間に一対のスイッチング素子Q1,Q2を直列接続してなるハーフブリッジ型のインバータ回路30と、インバータ回路30のローサイドのスイッチング素子Q2と誘導コイル2との間に挿入された共振回路31とを具備している。インバータ回路30は、一対のスイッチング素子Q1,Q2を制御回路5で交互に高周波数でスイッチングすることにより、直流電源回路4から出力される直流電力を高周波電力に変換する。共振回路31は、スイッチング素子Q1,Q2の接続点と誘導コイル2の一端の間に直列接続されたインダクタL1およびコンデンサC1と、誘導コイル2およびコンデンサC1に並列接続されたコンデンサC2とからなる。そして、制御回路5がスイッチング素子Q1,Q2を駆動(スイッチング)する周波数(駆動周波数)を共振回路31の共振周波数に近付ければ高周波電源回路3の高周波出力(高周波電圧)が増大し、共振周波数から遠ざければ高周波電源回路3の高周波出力が減少する。
【0005】
制御回路5は、図6(a)に示すように商用交流電源ACから給電が開始された時点から所定の始動準備期間が経過するまでの間は駆動周波数を共振周波数よりも十分に高い周波数(始動準備周波数)f1に設定することより、図6(b)に示すように誘導コイル2に印加する高周波電圧(誘導コイル電圧)Vcoilを無電極放電灯1が始動しない程度の低い電圧(始動準備電圧)V1とし、始動準備期間が経過したら駆動周波数を共振周波数近傍の周波数(始動周波数)f2まで徐々に下降させ、誘導コイル電圧Vcoilを漸次増大させて無電極放電灯1を始動させる(始動スイープ期間)ような制御を行う。尚、無電極放電灯1が点灯した後の期間(点灯期間)においても、制御回路5は駆動周波数を始動周波数f2に固定している。
【0006】
ここで、上述のように無電極放電灯1の始動に先立って、無電極放電灯1が始動(点灯)しない程度の電圧(高周波電圧)を誘導コイル2に印加しておくと、誘導コイル1からの高周波電界によって、バルブ内の自由電子にエネルギが与えられることとなる。このとき、沃化物などのハロゲン化物がバルブ内に持ち込んだ水分などが原因となって生じる不純ガス(例えば、HIなど)が自由電子を捕獲しようとしても、エネルギを与えられて活性化した自由電子は不純ガスに捕獲されず、バルブ内は自由電子が多い状態となっている。この状態で無電極放電灯1に始動電圧を印加すると始動性が向上することとなる。また、誘導コイル2からの高周波電界によって、水銀や希ガスの電離も多少起って、バルブ内の自由電子の個数がさらに多くなる。しかも、誘導コイル2からの高周波電界によって、HIなどの不純ガス分子が解離される場合もあると考えられる。そして、この解離された不純ガス分子はバルブの管壁に付着しやすくなり、したがって、放電空間中の不純ガスの量が少なくなる。以上のような原因により、無電極放電灯1の始動に先立って、無電極放電灯1が始動(点灯)しない程度の電圧を誘導コイル2に印加しておくと、無電極放電灯1の始動性を向上させることができるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−63861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来技術によれば、無電極放電灯を暗所で点灯する場合や消灯状態で長期間放置された後に点灯する場合、あるいは周囲温度が常温よりも低い状況で点灯する場合における始動性向上が期待できる。しかしながら、暗所に長期間放置された後に点灯する場合や周囲温度が常温よりも相当に低い状況で点灯する場合、あるいは無電極放電灯の特性のばらつきが大きい場合においては、上記従来技術を用いても無電極放電灯が点灯しない虞があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、暗所や低温環境下における始動性を向上した無電極放電灯点灯装置及び照明器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、放電ガスを封入したバルブに誘導コイルが近接配置されてなる無電極放電灯を点灯させる無電極放電灯点灯装置であって、外部から給電される直流電力を高周波電力に変換して誘導コイルに供給する電力変換手段と、電力変換手段を制御して誘導コイルに印加する高周波電圧を調整する制御手段とを備え、制御手段は、外部から電力変換手段への給電が開始されてから所定の始動準備期間が経過するまでは誘導コイルに印加する高周波電圧を無電極放電灯のバルブ内に高周波電界放電のみが生じる程度の電圧となるように電力変換手段を制御し、始動準備期間が経過してから無電極放電灯が点灯するまでの始動期間においては誘導コイルに印加する高周波電圧を無電極放電灯のバルブ内に高周波電磁界放電が生じる程度の電圧まで徐々に増大するように電力変換手段を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項1の発明によれば、始動準備期間に無電極放電灯のバルブ内で高周波電界放電を生じさせることによってバルブ内の放電ガス原子を活性化し、従来技術と比較して暗所や低温環境下における始動性を向上できる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、電力変換手段は、スイッチング素子を有するインバータ回路と、インバータ回路と誘導コイルの間に接続された共振回路とを具備し、制御手段は、インバータ回路が有するスイッチング素子の駆動周波数を変化させることで高周波電圧を調整することを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明によれば、制御手段により駆動周波数を共振周波数から遠ざけると高周波電圧を低減でき、反対に駆動周波数を共振周波数に近付けると高周波電圧を増大でき、高周波電圧の調整が容易に行える。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、周囲温度を検出する温度検出手段を備え、制御手段は、温度検出手段の検出温度に応じて始動準備期間における高周波電圧を増減することを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明によれば、温度検出手段の検出温度に応じて制御手段が始動準備期間における高周波電圧を増減するので、高周波電界放電を生じさせる高周波電圧が周囲温度によって変動しても確実に高周波電界放電を生じさせることができる。
【0016】
請求項4の発明は、上記目的を達成するために、請求項1〜3の何れかに記載された無電極放電灯点灯装置と、無電極放電灯を支持する灯体とを有することを特徴とする。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項1〜3の何れかの発明と同様の作用を奏する照明器具が提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、暗所や低温環境下における始動性を向上した無電極放電灯点灯装置及び照明器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る無電極放電灯点灯装置の実施形態1の動作説明図である。
【図2】本発明に係る無電極放電灯点灯装置の実施形態2を示す概略回路構成図である。
【図3】同上における誘導コイル電圧の温度特性を説明するための説明図である。
【図4】本発明に係る照明器具の実施形態を示す概略構成図である。
【図5】従来の無電極放電灯点灯装置を示す概略回路構成図である。
【図6】同上の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態1)
本発明に係る無電極放電灯点灯装置の実施形態1は、制御回路5の制御内容に特徴があり、それ以外の構成は図5に示した従来例と共通である。よって、従来例と共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明は省略する。
【0021】
本実施形態における制御回路5は、商用交流電源ACから給電が開始された時点から所定の始動準備期間が経過するまでは誘導コイル2に印加する高周波電圧を無電極放電灯1のバルブ内に高周波電界放電(E放電とも呼ばれる。)のみが生じる程度の電圧Veとなるように高周波電源回路3を制御し、始動準備期間が経過してから無電極放電灯1が点灯するまでの始動期間においては誘導コイル2に印加する高周波電圧を無電極放電灯1のバルブ内に高周波電磁界放電(H放電とも呼ばれる。)が生じる程度の電圧まで徐々に増大するように高周波電源回路3を制御する(図1(b)参照)。
【0022】
具体的には、図1(a)に示すように商用交流電源ACから給電が開始された時点から所定の始動準備期間が経過するまでの間は駆動周波数を始動準備周波数f1よりも高く且つ始動周波数f2よりも低い周波数feに設定し、始動準備期間が経過した後の始動スイープ期間では駆動周波数を始動周波数f2まで徐々に下降させるように制御回路5がインバータ回路30の駆動周波数を変化させるのである。
【0023】
ここで、高周波電界放電(E放電)とは、無電極放電灯1のバルブ管璧の静電容量を介して放電電流が流れるものであり、誘導コイル2に高周波電圧を印加していくと誘導コイル2と無電極放電灯1のバルブ管璧の静電容量を介して無電極放電灯1内の放電ガス原子が励起されたり、基底状態に戻ったりするときに微弱な放電が生じる。この放電は、微放電(グロー放電状態)となり、誘導コイル2の高周波電圧Vcoilを高くしていくと主放電に移行する。この放電はあたかも主放電へ移行するための種火のごとく作用する。一方、高周波電磁界放電(H放電)とは、無電極放電灯1に近接する誘導コイル2の電磁誘導で誘導電流を流すものであり、誘導コイル2をnターンの1次巻線とし、無電極放電灯1内に発生するプラズマリングを1ターンの2次巻線とするトランスとして理解でき、無電極放電灯1の発光に寄与する主放電(アーク放電状態)である。
【0024】
而して本実施形態によれば、始動準備期間に無電極放電灯1のバルブ内で高周波電界放電(E放電)を生じさせることによってバルブ内の放電ガス原子を活性化し、従来技術と比較して暗所や低温環境下における始動性を向上することができる。
【0025】
(実施形態2)
本実施形態の無電極放電灯点灯装置は、図2に示すように周囲温度(特に無電極放電灯1並びに誘導コイル2周辺の雰囲気温度)を検出する温度検出手段6を備えた点に特徴があり、その他の構成については実施形態1及び従来例と共通である。よって、実施形態1及び従来例と共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0026】
ここで、無電極放電灯1に高周波電界放電(E放電)や高周波電磁界放電(H放電)を生じさせるために誘導コイル2に印加すべき高周波電圧(誘導コイル電圧)Vcoilには、図3に示すように無電極放電灯1並びに誘導コイル2周辺の雰囲気温度(周囲温度)に対する温度特性が存在している。図3における実線イが高周波電界放電に必要な誘導コイル電圧Veの温度特性を示し、実線ロが高周波電磁界放電に必要な誘導コイル電圧Vhの温度特性を示している。図3から明らかなように、周囲温度が低いときは常温(25℃)のときと比較して100〜200ボルト程度も誘導コイル電圧Ve,Vhを増大させる必要がある。
【0027】
さらに、これらの誘導コイル電圧Ve,Vhの温度特性には無電極放電灯点灯装置を構成する回路部品の特性ばらつきに起因したばらつきが存在し、高周波電界放電に必要な誘導コイル電圧Veでは図3における破線ハ〜破線ハ’の範囲でばらつきが生じ、高周波電磁界放電に必要な誘導コイル電圧Vhでは図3における破線ニ〜破線ニ’の範囲でばらつきが生じる。故に、これらのばらつきと温度特性の双方を考慮すれば、図3に実線ホで示すように高周波電界放電に必要な誘導コイル電圧Veの最大値Ve-max(図3の破線ハ’)よりも高く且つ高周波電磁界放電に必要な誘導コイル電圧Vhの最小値Vh-min(図3の破線ニ)よりも低い電圧(誘導コイル電圧)Ve’を周囲温度に応じて調整しながら誘導コイル2に印加する必要がある。
【0028】
そこで本実施形態においては、例えばサーミスタからなる温度検出手段6の検出値(周囲温度)と、図3に実線ホで示される誘導コイル電圧Ve’の温度特性より求まる検出値に対応した駆動周波数fe’との対応関係を表すデータテーブルを制御回路5が記憶している。そして、商用交流電源ACから給電が開始された時点で制御回路5が温度検出手段6の検出値を取得するとともにデータテーブルを参照して当該検出値に対応する駆動周波数fe’を求め、その駆動周波数fe’でインバータ回路30を駆動する。例えば、周囲温度が常温よりも低い低温時には、常温時の駆動周波数feよりも低い駆動周波数fe’でインバータ回路30が駆動されて常温環境下よりも高い誘導コイル電圧Ve’が始動準備期間に誘導コイル2に印加されることになる。その結果、高周波電界放電を生じさせる高周波電圧(誘導コイル電圧Ve’)が周囲温度によって変動しても確実に高周波電界放電を生じさせることができる。
【0029】
(実施形態3)
本実施形態の照明器具を図4に示す。この照明器具は、実施形態1又は2の無電極放電灯点灯装置Aと、無電極放電灯1を支持する灯体Bとを有している。無電極放電灯点灯装置Aは金属製のケース100内に収納され、ケース100から引き出された電源ケーブル101の先端に付設された電源プラグ102をコンセントに差込接続することで商用交流電源ACと接続される。
【0030】
灯体Bは、半球面形状に形成された反射板200を有し、反射板200の天頂部分に無電極放電灯1が装着されるとともに給電線103によって無電極放電灯点灯装置Aと接続されたカプラ201が固定されている。尚、このような構造の無電極放電灯1並びにカプラ201については従来周知であるから詳細な構造についての図示並びに説明は省略する。
【符号の説明】
【0031】
1 無電極放電灯
2 誘導コイル
3 高周波電源回路(電力変換手段)
5 制御回路(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電ガスを封入したバルブに誘導コイルが近接配置されてなる無電極放電灯を点灯させる無電極放電灯点灯装置であって、外部から給電される直流電力を高周波電力に変換して誘導コイルに供給する電力変換手段と、電力変換手段を制御して誘導コイルに印加する高周波電圧を調整する制御手段とを備え、
制御手段は、外部から電力変換手段への給電が開始されてから所定の始動準備期間が経過するまでは誘導コイルに印加する高周波電圧を無電極放電灯のバルブ内に高周波電界放電のみが生じる程度の電圧となるように電力変換手段を制御し、始動準備期間が経過してから無電極放電灯が点灯するまでの始動期間においては誘導コイルに印加する高周波電圧を無電極放電灯のバルブ内に高周波電磁界放電が生じる程度の電圧まで徐々に増大するように電力変換手段を制御することを特徴とする無電極放電灯点灯装置。
【請求項2】
電力変換手段は、スイッチング素子を有するインバータ回路と、インバータ回路と誘導コイルの間に接続された共振回路とを具備し、
制御手段は、インバータ回路が有するスイッチング素子の駆動周波数を変化させることで高周波電圧を調整することを特徴とする請求項1記載の無電極放電灯点灯装置。
【請求項3】
周囲温度を検出する温度検出手段を備え、制御手段は、温度検出手段の検出温度に応じて始動準備期間における高周波電圧を増減することを特徴とする請求項1又は2記載の無電極放電灯点灯装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載された無電極放電灯点灯装置と、無電極放電灯を支持する灯体とを有することを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−28912(P2011−28912A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171409(P2009−171409)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】