説明

無電解めっき液の再生方法および再生装置

【課題】劣化した無電解めっき液の不要イオンを目標とする濃度まで精度良く除去できる無電解めっき液の再生方法を提供する。
【解決手段】不要イオンが蓄積し、劣化した無電解めっき液(めっき液と記す)を電気透析法により再生する方法であって、陽極板および陰極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットを用いて、脱塩室にめっき液を循環して供給する工程、濃縮室に希薄電解液を循環して供給する工程、陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析して、めっき液に蓄積した不要イオンをめっき液側から希薄電解液側に移行させて除去し、めっき液を再生する工程を有し、蓄積した不要イオン濃度が減少していくめっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率の変化により電気透析条件を制御するめっき液の再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解めっき液の再生方法、および再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、銅、金などの無電解めっき液は、金属イオンとしてニッケルイオン、銅イオン、金イオンなど、更に還元剤として次亜リン酸ナトリウムやヒドラジン、ホルマリン、アルキルアミノボランなどを含有している。無電解めっき液を用いて、金属を析出させると、めっき液中の金属イオン、還元剤の濃度が減少するため、これらのイオンを補給しながら無電解めっき処理が行われている。例えば、無電解ニッケルめっきの場合では、無電解ニッケルめっきを長期間連続して行うと還元剤である次亜リン酸イオンが酸化し、亜リン酸イオンとなって蓄積される。また、消費されるニッケルイオンの補充として主に硫酸ニッケルを使用するため、硫酸イオンも消費されることなく蓄積される。さらに、次亜リン酸イオンの補充は主に次亜リン酸ナトリウムとして補給されるためナトリウムイオンが蓄積される。これらは、めっき液の性能を劣化させ、析出性や物性等に悪影響を及ぼす要因となる。このため、一定期間めっきを行うとめっき液を廃棄する必要があった。
【0003】
劣化した無電解めっき廃液中には金属イオンや還元剤としてのPやBを含む化合物やEDTAや乳酸等の有機酸等が多量に含まれているため、排水処理が非常に困難であり、産業廃棄物として廃棄されるために大きな環境問題となっている。
このような問題を解決する方法として、特許文献1では電気透析法によってめっき液中の不要成分である亜リン酸イオンや硫酸イオンを選択的に除去し、再生する方法が開示されている。
【特許文献1】特公平5−83635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無電解めっき液を電気透析によって再生する場合は、有用で高価の金属イオンや還元剤等も同時に除去される為、最適の電気量で除去対象イオンの除去を効率良く行なうことが、その経済性から重要で、それには以下の2項目が重要である。
1.電気透析開始時点の劣化しためっき液の不要イオン濃度、
2.電気透析途中での劣化しためっき液の不要イオン濃度推移。
【0005】
従来例では、上記項目に言及している文献は無い。
そして、特許文献1では透析時間や電流値の電気量が記載されているだけである。透析時間や電気量で制御する場合には、以下のような問題点がある。電気透析開始時点での劣化しためっき液の不要イオンの濃度は、無電解めっきでは還元剤の副反応や自己分解により一定ではなく、その濃度を知るにはキャピラリー電気泳動法などの分析方法が必要である。その分析方法は、時間と高度な分析装置が必要であるため、消費した金属イオンから推定するのが一般的であるが、そのめっき液の不要イオン濃度のばらつきは大きい。また、電気透析の途中の不要イオンの濃度推移は組成や各濃度に影響を受け、一定ではないことが一般的である。
【0006】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、劣化した無電解めっき液の蓄積したイオンからなる不要イオンの濃度が変動する場合でも、前記不要イオンを目標とする濃度まで精度良く除去できる無電解めっき液の再生方法および再生装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、劣化した無電解めっき液の蓄積したイオンからなる不要イオン濃度と、前記無電解めっき液の導電率が相関関係にあることを見出した。それに基づいて、あらかじめ無電解めっき液の不要イオン濃度と、導電率の検量線を作成する。その結果に基づき、電気透析開始時点のめっき液の導電率を測定し、不要イオン濃度を推定した後に、電気透析途中の不要イオンの濃度推移を導電率により常に観測する。そして、目標とする不要イオン濃度の導電率になるまで電気透析を行うことで、めっき液のイオン濃度を分析しなくても、精度良く目標とする無電解めっき液の再生液を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記の課題を解決する無電解めっき液の再生方法は、不要イオンが蓄積し劣化した無電解めっき液を電気透析法により再生する方法であって、少なくとも陽極板および陰極板の両極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して、前記陽イオン交換膜と陰イオン交換膜によって仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットを用いて、前記脱塩室に劣化した無電解めっき液を循環して供給する工程、前記濃縮室に希薄電解液を循環して供給する工程、前記陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析を行い、劣化した無電解めっき液に蓄積した不要イオンを脱塩室の無電解めっき液側から濃縮室の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する工程、前記電気透析により、蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化した無電解めっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率の変化によって電気透析条件を制御する工程を有することを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決する無電解めっき液の再生装置は、不要イオンが蓄積し劣化した無電解めっき液を電気透析法により再生する装置であって、少なくとも陽極板および陰極板の両極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して、前記陽イオン交換膜と陰イオン交換膜によって仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットと、前記脱塩室に劣化した無電解めっき液を循環して供給する脱塩槽と、前記濃縮室に希薄電解液を循環して供給する濃縮槽と、前記陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析を行い、劣化した無電解めっき液に蓄積したイオンを脱塩室の無電解めっき液側から濃縮室の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する電気透析手段と、前記電気透析により、蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化した無電解めっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率を測定する導電率計と、前記導電率計により測定された導電率の変化によって電気透析条件を制御する制御手段を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、劣化した無電解めっき液の蓄積したイオンからなる不要イオンの濃度が変動する場合でも、前記不要イオンを目標とする濃度まで精度良く除去できる無電解めっき液の再生方法および再生装置を提供することができる。
【0011】
特に、本発明は、劣化しためっき液の不要イオンの濃度が変動する場合でも、電気透析開始時点の劣化しためっき液の不要イオンの濃度と、電気透析途中の不要イオンの濃度推移を常に導電率によって観測し、不要イオン濃度を目標とする濃度まで精度良く除去できるように制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る無電解めっき液の再生方法は、不要イオンが蓄積し劣化した無電解めっき液を電気透析法により再生する方法であって、少なくとも陽極板および陰極板の両極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して、前記陽イオン交換膜と陰イオン交換膜によって仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットを用いて、前記脱塩室に劣化した無電解めっき液を循環して供給する工程、前記濃縮室に希薄電解液を循環して供給する工程、前記陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析を行い、劣化した無電解めっき液に蓄積した不要イオンを脱塩室の無電解めっき液側から濃縮室の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する工程、前記電気透析により、蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化した無電解めっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率の変化によって電気透析条件を制御する工程を有することを特徴とする。
【0013】
前記蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化しためっき液の導電率は、電気透析による脱水分を補正した導電率を用いることが好ましい。
前記不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率は、電気透析による増水分を補正した導電率を用いることが好ましい。
【0014】
本発明は、蓄積したイオンを含む劣化した無電解めっき液の不要イオン濃度と、その時の導電率の関係を事前に測定し、その測定結果に基づき、電気透析開始時点のめっき液の導電率と、電気透析途中の導電率を常に観測し、目標とする不要イオン濃度の導電率になるまで電気透析を行うことで、めっき液のイオン濃度を分析しなくても精度良く目標とする再生液とすることができる。
【0015】
なお、本発明において、無電解めっき液の不要イオンとは、還元剤の酸化されたイオンと安定剤や補充金属イオン等の対イオンを表す。
本発明の劣化した無電解めっき液の再生方法および再生装置について図1を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る無電解めっき液の再生装置の一実施態様を示す概略図である。
本発明に係る無電解めっき液の再生装置は、不要イオンが蓄積し劣化した無電解めっき液を電気透析法により再生する装置であって、少なくとも陽極板および陰極板の両極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して、前記陽イオン交換膜と陰イオン交換膜によって仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットと、前記脱塩室に劣化した無電解めっき液を循環して供給する脱塩槽と、前記濃縮室に希薄電解液を循環して供給する濃縮槽と、前記陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析を行い、劣化した無電解めっき液に蓄積したイオンを脱塩室の無電解めっき液側から濃縮室の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する電気透析手段と、前記電気透析により、蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化した無電解めっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率を測定する導電率計と、前記導電率計により測定された導電率の変化によって電気透析条件を制御する制御手段を具備することを特徴とする。
【0017】
本発明の無電解めっき液(以降、めっき液とも記す。)の再生方法は、再生対象とする劣化しためっき液を電気透析ユニット1の脱塩室8に供給して電気透析を行う。電気透析ユニット1として用いる電気透析装置については特に制限はなく、陽極板2と陰極板3の間に陽イオン交換膜6と陰イオン交換膜7が交互に配列された構造であれば、公知の電気透析ユニット1を特に限定なく使用できる。例えば、両極間に陽イオン交換膜6と陰イオン交換膜7を、それぞれ室枠を介して交互に配列し、これらの両イオン交換膜と室枠によって脱塩室8と濃縮室9とを形成させた構造からなる電気透析ユニット1を用いることができる。
【0018】
電気透析ユニット1に用いる膜数、膜面積、脱塩室8および濃縮室9の流路間隔(膜間隔)等は処理するめっき液の種類や処理量によって適宜選択すればよい。
陽イオン交換膜6としては、特に制限されず、例えばセレミオンCMV(AGCエンジニアリング社製)、ネオセプタCM−1(アストム社製)、Nafion324(デュポン社製)等を使用できる。陰イオン交換膜7は、特に制限はされず、セレミオンAMV(AGCエンジニアリング社製)、ネオセプタAM−X(アストム社製)等を使用できる。電気透析ユニット1の両端部に位置する陽極室4、陰極室5には硫酸ナトリウム水溶液など電解質溶液を適宜選択し供給すればよい。一般的に極液の隔膜10は陽イオン交換膜で構成されている。
【0019】
電気透析の通電条件は、限界電流密度以下であれば通常の運転条件を適用できる。例えば0.1から10A/dm程度で電気透析を行うことができる。
本発明の再生方法において再生対象とするめっき液は、ニッケル、銅、金などの無電解めっき液である。一般的な無電解めっき液の基本成分は、金属の供給源として、硫酸ニッケル等のニッケル塩、硫酸銅等の銅塩、シアン化金カリウム等の金塩:金属イオンの還元剤として、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸アンモニウムなどの次亜リン酸塩、ホルムアルデヒド、ホルマリンやジメチルアミノボラン等のアルキルアミノボラン:金属イオンの錯化剤として酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、EDTA等の有機酸:安定剤として鉛やビスマスなどの負触媒金属等が用いられる。さらに必要に応じて、析出促進剤等が含まれる。その組成については特に制限はなく、公知の各種組成の無電解めっき液処理対象とすることができる。しかしながら本発明の再生対象はこれらの成分を含むめっき液に限定されるものではない。
【0020】
電気透析ユニット1の脱塩槽11に劣化しためっき液を供給し、濃縮槽12には希薄電解液を供給する。劣化しためっき液は、脱塩槽11と脱塩室8を循環させ、希薄電解液は、濃縮槽12と濃縮室9を循環させる。前記陽極板および陰極板間に電源16から電圧を印加して電気透析することによって、劣化した無電解めっき液に蓄積したイオンを脱塩室8の無電解めっき液側から濃縮室9の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する。電気透析は、電源16と電気透析ユニット1を含む電気透析手段により行なわれる。
【0021】
移行させて除去されるイオンは、例えば安定剤の対イオンの陽イオンは陰極側に移動し設置されている陽イオン交換膜で、また還元剤の酸化イオンや金属の対イオンなどの陰イオンは陽極側に移動し設置されている陰イオン交換膜を介して移行する。
【0022】
供給される劣化しためっき液の液温が高いと、電気透析ユニット内の電極、イオン交換膜等に金属が析出し、電気透析の効率が低下する。また、イオン交換膜や配管等の熱による破損や変形が生じ易くなる。液温が低すぎると、脱塩液、濃縮液に含まれる成分が結晶化して配管の目詰まり等が生じ易くなる。このため、処理対象とする無電解めっき液、脱塩液、濃縮液の液温を15から50℃程度に保持することが好ましい。
【0023】
無電解めっきでは金属の析出とともに減少するイオンに関しては補給が行われるため、これらのイオン濃度は一定に保たれているが、還元剤の酸化生成物や、また金属イオンの補充として主に金属塩を使用するため、ナトリウムやカリウムが消費されることなくめっき液中に蓄積される。
【0024】
劣化しためっき液を脱塩槽11および脱塩室8に循環供給し電解すると、めっき液中の全てのイオンが各割合を持って減少し、濃縮槽12および濃縮室9を循環している希薄電解液に移行するため、希薄電解溶液中のイオンは増加する。移行するイオンのなかで、還元剤の酸化生成物イオンの含有量が多く、さらに電気透析により移行する量も多いため、酸化生成物イオンは全てのイオンの増加、減少を示す代表的なイオンとなる。このため、本発明では、酸化生成物イオン濃度と測定用めっき液の導電率との関係を事前に測定し、その測定結果に基づき検量線を作成し、透析開始時と透析終了時のめっき液、または希薄電解液の導電率を測定し、酸化性生物イオン濃度を推定する。ここで、検量線作成時に使用する測定用めっき液は金属イオンと還元剤イオン量をめっき使用条件時の基準濃度とし、還元剤の酸化生成物イオンの濃度を変えて導電率を測定することで検量線作成を行うことが好ましい。
【0025】
導電率の測定は、導電率計13が用いられ、特に制限はなく、市販のものが用いられる。浸漬型の導電率計の場合には、めっき液または希薄電解液の循環経路内に設置し常にモニターできるのが好ましい。また、通水型の場合には脱塩槽内のめっき液、もしくは濃縮槽内の希薄電解液が常に循環するように設置し、常に導電率をモニターできることが好ましい。
【0026】
次に、パソコン14、コントローラー15から構成される制御手段により、前記導電率計により測定された導電率の変化によって電気透析条件を制御する。導電率計13をパソコン14に接続し、めっき液または希薄電解液の導電率を常時パソコンに出力する。そしてあらかじめ作成した検量線で不要イオン濃度を算出し電気透析条件を演算し、コントローラー15で電源16のON、OFFを制御する。これにより、前記電気透析により、蓄積したイオン濃度が減少していくめっき液の導電率、またはイオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率の変化によって電気透析条件を制御することができる。
【0027】
なお、電気透析条件の演算は以下により行なう。
所定時間内に透析処理が終了されるように、導電率から得られた移動対象イオンの初期濃度(g/L)と目標濃度(g/L)から液量(L)を元に総移動量(g)を算出し、使用するイオン交換膜の固有イオン移動量(g/A・H・dm)と総膜面積(dm)から使用する電流値(A)を求め透析を行なうことで一定時間(H)での透析処理が可能となる。この場合透析の終了の判断は設定された導電率値による。更にまた所定の電流値で透析を行なう場合、透析終了時間を同様に演算することも同様に可能である。
【0028】
さらに加えて、電気透析時においてはめっき液中のイオンがめっき液側(脱塩室8)から希薄電解液側(濃縮室9)に移行するとともに、劣化しためっき液中の水もめっき液側(脱塩室8)から希薄電解液(濃縮室9)へと移行する。電気透析後、めっき液を再利用する場合には水の損失分と、電気透析によって除去された必要成分を補正してめっき液の調整をするため、めっき液の導電率は減水を、希薄電解液の導電率は増水を補正する必要がある。水の補正手段としてめっき液の場合は電気透析を行いながら透析開始時点の液量まで水を供給する、もしくは電気透析によって減量した水量を測定し、計算により導電率を補正する方法がある。希薄電解液の場合には電気透析によって増加した水量を測定し、計算により導電率を補正する方法などがある。
【0029】
以上のように電気透析開始時点の劣化しためっき液の導電率を測定し、めっき液中の還元剤の酸化生成物濃度を推定した後に、電気透析途中で導電率を測定しながら目標とする酸化生成物濃度の導電率になるまで電気透析を行うことで、めっき液中の酸化生成物の濃度を分析しなくても精度良く目標とする再生液とすることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
500Lの無電解ニッケルめっき液を用いてSPC材(鉄素材)の部品に連続的に無電解ニッケルめっき処理を行った。使用しためっき液の組成は下記のとおりである。
【0031】
ニッケルイオン 5.5g/L
次亜リン酸イオン 20g/L
錯化剤(リンゴ酸等) 60g/L
【0032】
[検量線作成]
あらかじめ上記の組成の測定用めっき液に、不要イオンである亜リン酸イオン濃度が25、75、125、175、225g/Lになるように亜燐酸Naで調整して導電率を測定し、亜リン酸濃度と導電率の関係を示す図2を作成した。図2から、下記の式1に示す検量線を求めた。
亜リン酸イオン[g/L]=10×導電率[S/m]−25・・・(式1)
【0033】
[めっき処理]
めっき処理中は無電解ニッケルめっき液は自動コントローラー(カニゼン株式会社 CAAC−752ST)により、ニッケルイオン濃度とpHは自動で管理されている。建浴時にめっき液中に存在するニッケルイオンと等量のニッケルイオンを補充した時点を1ターンとし、5ターンまでめっきを行った。電気透析処理前のめっき液の組成は下記のとおりである。
【0034】
ニッケルイオン 5.5g/L
次亜リン酸イオン 20g/L
錯化剤(リンゴ酸等) 60g/L
亜リン酸イオン 110から140g/L
【0035】
このめっき液を、図1に示す無電解めっき液の再生装置を用いて、以下の条件で電気透析処理を行った。
【0036】
透析時間は10時間と電気透析ユニットで使用した陰イオン交換膜は、AGCエンジニアリング社製のセレミオンAMV、陽イオン交換膜はAGCエンジニアリング社製のセレミオンCMVを用いた。イオン交換膜の膜面積は5dm、陰イオン交換膜、陽イオン交換膜各150枚ずつを並列に配列して、劣化めっき液を脱塩槽と電気透析ユニットの脱塩室を循環させながら導電率を測定した。
【0037】
検量線により、導電率の値から亜リン酸濃度を算出し、劣化しためっき液の導電率が5.0S/m、液中の目標亜リン酸イオン濃度が25g/lになるまで電気透析条件が10時間で一定になるように透析条件を算出した。その結果を表1に示す。算出した電流(A)の拘束で、導電率が5.0S/mになるまで透析処理を行なった。
【0038】
(電気透析条件の算出)
使用する陰イオン交換膜の固有値として亜燐酸移動量を0.35g/1A/1H/1dmと液量500Lから、各々総移動量(g)を求め陰イオン交換膜の面積750dm(150枚*5dm/1枚)と透析時間10(H)より個別の電流値(A)を算出した。固有亜燐酸移動量は前記導電率測定用溶液から得られた。
【0039】
そして、透析後に亜リン酸イオン濃度が25g/lになっているか、キャピラリー電気泳動装置(Agilent Technologies社製 G1600A)で亜リン酸イオン濃度を測定し確認した。
【0040】
電気透析ユニットの濃縮室には、予め同様の電気透析を行った際に得られた濃縮液が充填された状態であった。
電気透析ユニットの陽極室、陰極室には10%の硫酸ナトリウム水溶液を循環しながら電解処理を行った。
【0041】
また、劣化しためっき液、または希薄電解液の導電率は導電率計(堀場製作所社製 D−54 流通型導電率電極3652−10D)により随時測定し、パソコンに出力し、電気透析条件を演算し、コントローラーで電源を制御した。
以上の評価を10回行い、その結果を表2に示す。これより、目標の亜リン酸濃度に対し誤差±10%で制御することが可能となった。
【0042】
【表1】

【表2】

【0043】
実施例2
実施例1と同じように500Lの無電解ニッケルめっきを用いてSPC材部品を被めっき物として連続的に処理し、5ターン程度無電解ニッケルめっきを行った。このめっき液の組成を以下に示す。
【0044】
ニッケルイオン 5.5g/L
次亜リン酸イオン 20g/L
錯化剤(リンゴ酸等) 60g/L
亜リン酸イオン濃度 110〜140g/L
【0045】
このめっき液を実施例1と同じ条件で電気透析を行い、めっき液からの脱水を考慮して、計算によって導電率の補正を行いながら、亜リン酸イオン濃度が25g/Lになるまで電気透析を行い、実施例1と同じ評価を行った。
【0046】
めっき液からの脱水による導電率の補正は、液面計から脱水量を算出し元の500L相当に換算することにより行なった。
以上を5回繰り返し行い、その結果を表3に示す。これより、目標の亜リン酸濃度に対し誤差±5%で制御することが可能となった。電気透析による水の移動を補正し導電率で管理を行うと、さらに高精度な管理が出来ることが得られた。
【0047】
【表3】

【0048】
比較例1
実施例1と同じように500Lの無電解ニッケルめっき液を用いてSPC材部品を被めっき物として連続的に処理し、5ターン程度無電解ニッケルめっきを行った。このめっき液の組成を以下に示す。
【0049】
ニッケルイオン 5.5g/L
次亜リン酸イオン 20g/L
錯化剤(リンゴ酸等) 60g/L
亜リン酸イオン濃度 110〜140g/L
【0050】
このめっき液について、従来の実験から求めた、この実験装置固有の亜リン酸イオンの除去量と時間、電流量の関係から、亜リン酸イオン濃度が25g/Lになるまでにかかる透析時間を4時間と算出し、実施例1と同じ条件で電気透析を行った。電気透析後、めっき液の亜リン酸イオン濃度をキャピラリー電気泳動装置で測定し、確認した。
【0051】
以上を10回行い、その結果を表4に示す。目標の亜リン酸イオン濃度に対し、±20%の誤差が生じた。
【0052】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の無電解めっき液の再生方法は、劣化した無電解めっき液の蓄積した不要イオンの濃度が変動する場合でも、目標とする濃度まで精度良く除去できるので、電気透析による高純度薬品の製造や醤油等の脱塩として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る無電解めっき液の再生装置の一実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明における無電解めっき液の亜リン酸濃度と導電率の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 電気透析ユニット
2 陽極板
3 陰極板
4 陽極室
5 陰極室
6 陽イオン交換膜
7 陰イオン交換膜
8 脱塩室(めっき液)
9 濃縮室(希薄電解液)
10 隔膜
11 脱塩槽(めっき液)
12 濃縮槽(希薄電解液)
13 導電率計
14 パソコン
15 コントローラー
16 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不要イオンが蓄積し劣化した無電解めっき液を電気透析法により再生する方法であって、少なくとも陽極板および陰極板の両極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して、前記陽イオン交換膜と陰イオン交換膜によって仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットを用いて、前記脱塩室に劣化した無電解めっき液を循環して供給する工程、前記濃縮室に希薄電解液を循環して供給する工程、前記陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析を行い、劣化した無電解めっき液に蓄積した不要イオンを脱塩室の無電解めっき液側から濃縮室の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する工程、前記電気透析により、蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化した無電解めっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率の変化によって電気透析条件を制御する工程を有することを特徴とする無電解めっき液の再生方法。
【請求項2】
前記蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化しためっき液の導電率は、電気透析による脱水分を補正した導電率を用いることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき液の再生方法。
【請求項3】
前記不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率は、電気透析による増水分を補正した導電率を用いることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき液の再生方法。
【請求項4】
不要イオンが蓄積し劣化した無電解めっき液を電気透析法により再生する装置であって、少なくとも陽極板および陰極板の両極板間に複数の陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置して、前記陽イオン交換膜と陰イオン交換膜によって仕切られた脱塩室および濃縮室を有する電気透析ユニットと、前記脱塩室に劣化した無電解めっき液を循環して供給する脱塩槽と、前記濃縮室に希薄電解液を循環して供給する濃縮槽と、前記陽極板および陰極板間に電圧を印加して電気透析を行い、劣化した無電解めっき液に蓄積したイオンを脱塩室の無電解めっき液側から濃縮室の希薄電解液側に移行させて除去し、劣化した無電解めっき液を再生する電気透析手段と、前記電気透析により、蓄積した不要イオン濃度が減少していく劣化した無電解めっき液の導電率または不要イオン濃度が増加していく希薄電解液の導電率を測定する導電率計と、前記導電率計により測定された導電率の変化によって電気透析条件を制御する制御手段を具備することを特徴とする無電解めっき液の再生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−37573(P2010−37573A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198700(P2008−198700)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】