説明

無電解パラジウムめっき液及びそれを用いて形成された3層めっき被膜端子

【課題】無電解ニッケルめっき被膜/無電解パラジウムめっき被膜/置換金めっき被膜の3層めっき被膜端子において、取り扱いが簡単な置換金めっきのみで金被膜を形成し、汎用性の高い無電解ニッケル−リンを使用しても、ワイヤーボンディング接合及びはんだボール接合の両方において優れた接合強度を有し、ランニング特性にも優れた無電解パラジウムめっき液を提供することができる。
【解決手段】少なくとも、成分(a)、(b)及び(c)
(a)パラジウム塩有機錯体
(b)スルフィド基を有するモノカルボン酸又はその塩
(c)次亜リン酸又はその塩
を含有することを特徴とする無電解パラジウムめっき液により課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解パラジウムめっき液に関し、更に詳しくは、電子部品端子の上に、順次、無電解ニッケルめっき、無電解パラジウムめっき、置換金めっきが施された3層めっき被膜端子形成用に用いられる無電解パラジウムめっき液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の銅端子上に無電解ニッケルめっきを施し、その上に置換金めっきを施した2層構造は、ENIG(electroless nickel immersion gold)と呼ばれる端子めっきプロセスであるが、無電解パラジウムめっき層をニッケル層と金層の間に挿入する3層構造の端子めっきプロセスも知られている。
【0003】
ニッケル/パラジウム/金(本発明において、以下このような記載は、「/」の右に記載した金属層が左に記載した金属層の上に形成されていることを示す)の3層構造にすることにより、電子部品の実装工程で加熱を行っても、パラジウム層が下地金属の拡散を抑制し、金めっき表面を汚染しなくなるので、結果として電子部品の端子部の接合信頼性が高まると言われている。
【0004】
そして、無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金の3層構造を電子部品の接合端子に適用するに当たっては、端子部の接合方法の違いにより、夫々に適しためっき層の形成プロセスが検討されて来た。
【0005】
すなわち、ワイヤーボンディング接合用には、
(1)金めっき層として置換金めっきを施した後に更に還元金めっきを施す方法(特許文献1)
(2)無電解パラジウムめっき層を置換パラジウムめっきを用いてポーラスな構造にし、その上の置換金めっきの厚さを増加させる方法(特許文献2)
が知られている。
【0006】
また、はんだボール接合用には、
(3)無電解ニッケルめっき層を、無電解ニッケル−ボロンめっきにて形成する方法(特許文献3)
(4)無電解パラジウムめっき層のパラジウム純度を99%以上にする方法(特許文献4)
が知られている。
【0007】
しかしながら、これらの方法は何れも、例えば以下のような問題点を有している。
(1)の還元金めっきは浴管理が煩雑で、コスト的にも不利である。
(2)のポーラスな置換パラジウムめっきでは下地金属の拡散抑制効果が期待できない。
(3)の無電解ニッケルーボロンめっきは、ニッケルーリンめっきに比べ、汎用性が乏しい。
(4)の純パラジウムめっきは、鉛フリーはんだボールとの接合強度が不十分である。
【0008】
そこで、これらの問題点を解決し、以下の条件を満たしたニッケル/パラジウム/金の3層めっき構造が望まれている。
(A)金めっきは、取り扱いが簡単な置換金めっきのみで行い、還元金めっきを必要としないこと。
(B)パラジウムめっきは、下地金属の拡散抑制効果の優れた還元型無電解パラジウムめっきを使用すること。
(C)無電解ニッケルめっきは、汎用性の高い無電解ニッケル−リンめっきを使用すること。
【0009】
しかしながら、上記(1)ないし(4)の問題点を解決し、上記(A)、(B)、(C)の条件を満たす、ワイヤーボンディング接合とはんだボール接合の両方に適用され得る3層めっき構造形成用の無電解パラジウムめっき液はできていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平9−008438号公報
【特許文献2】特開平9−172236号公報
【特許文献3】特開平11−140658号公報
【特許文献4】特開2000−277897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、上記(A)、(B)、(C)の条件のもとで、ワイヤーボンディング接合用に用いても、はんだボール接合用に用いても、接合強度に優れ、また、めっき液ランニング後であっても、その接合強度が低下しないニッケルめっき被膜/パラジウムめっき被膜/置換金めっき被膜の3層めっき被膜端子を与える無電解パラジウムめっき液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある特定の組成の無電解パラジウムめっき液を使用することにより、上記課題を解決した無電解パラジウムめっき液を得ることができることを見出し本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は、 少なくとも、成分(a)、(b)及び(c)
(a)パラジウム塩有機錯体
(b)スルフィド基を有するモノカルボン酸又はその塩
(c)次亜リン酸又はその塩
を含有することを特徴とする無電解パラジウムめっき液を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、電子部品端子の上に、順次、無電解ニッケルめっき被膜、上記無電解パラジウムめっき液を用いて形成された無電解パラジウムめっき被膜及び置換金めっき被膜を有することを特徴とする3層めっき被膜端子を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニッケル/パラジウム/金の3層めっき被膜端子において、上記(A)(B)(C)の条件を満たし、すなわち、(A)取り扱いが簡単な置換金めっきのみで金被膜を形成し、(C)汎用性の高い無電解ニッケル−リンを使用しても、ワイヤーボンディング接合及びはんだボール接合の両方において優れた接合強度を有し、ランニング特性にも優れた3層めっき被膜形成用の(B)還元型無電解パラジウムめっき液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の無電解パラジウムめっき液は、成分(a)パラジウム塩有機錯体を必須成分として含有する。成分(a)パラジウム塩有機錯体において、パラジウムに配位する配位子としては、有機物であれば特に限定はないが、置換基を有していてもよい直鎖炭素数3〜6個のアルキレン基の両端にアミノ基が結合した有機化合物であることが特に好ましい。
【0017】
アルキレン基の両端にアミノ基が結合した上記有機アミン化合物に代えて、無機のアンモニアが配位したアンミン錯体では、無電解パラジウムめっき液の長期ランニング特性が劣る場合があり、パラジウムが沈殿してくる場合がある。また、両端にアミノ基が結合したアルキレン基の直鎖炭素数が2個以下の時、すなわち、該アルキレン基が、置換基を有していてもよいメチレン基又はエチレン基の場合は、長期ランニング後のパラジウム析出速度が低下したり、ランニング中にめっき速度が変動する場合がある。
【0018】
パラジウムに配位する配位子として特に好ましくは、下記式(3)で表されるアミノ基を2個以上有する有機アミン化合物である。
【化3】

(式(3)中、R、Rは、繰り返し単位において異なっていてもよい水素原子、アルキル基、アミノ基を示し、kは3〜6の整数を示す)
【0019】
式(3)中、R、Rは、繰り返し単位において異なっていてもよい水素原子、アルキル基又はアミノ基を示すが、特に好ましくは、水素原子又はアルキル基であり、更に好ましくは水素原子である。また、kは3〜6の整数を示すが、好ましくは3又は4であり、特に好ましくは3である。kが2以下の場合は、めっき速度が安定しない場合があり、kが大きすぎる場合は、錯体の合成が困難になる場合がある。
【0020】
パラジウムに配位する好ましい配位子としては、具体的には例えば、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、2,4−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン等が挙げられる。このうち、特に、1,3−ジアミノプロパンが、めっき液の安定性の点で特に好ましい。
【0021】
パラジウム塩有機錯体の陰イオンとしては、特に限定はないが、塩素イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、蓚酸イオン等が好ましく、錯体合成のやりやすさの点で塩素イオンが特に好ましい。
【0022】
本発明の成分(a)パラジウム塩有機錯体は、建浴時に配合してもよいし、パラジウム塩と錯化剤を別々に配合して建浴し、めっき液保存中又はめっきランニング中に錯体形成がなされてもよいが、好ましくは建浴時に配合することである。建浴時に配合する場合、成分(a)パラジウム塩有機錯体は、パラジウム塩と上記配位子とを、成書、実験化学講座 無機錯体、キレート錯体 日本化学会編、に記載されている方法に従って合成することが出来る。この時使用するパラジウム塩としては、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、亜硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、蓚酸パラジウム等が好ましく、塩化パラジウムが特に好ましい。
【0023】
本発明の無電解めっき液中の成分(a)パラジウム塩有機錯体の濃度は、金属パラジウム換算で、0.1g/Lから10g/Lの範囲が好ましく、0.5g/Lから5g/Lの範囲が特に好ましい。成分(a)の濃度が大きすぎる場合は、めっき液が不安定になる場合があり、小さすぎる場合は、十分なめっき速度が得られない場合がある。
【0024】
本発明の無電解パラジウムめっき液は、成分(b)スルフィド基を有するモノカルボン酸又はその塩を必須成分として含有する。すなわち、成分(b)は、チオール基ではなくスルフィド基を含有し、更に分子中にカルボキシル基を1個有する物質である。スルフィド基の硫黄原子には炭素原子が結合しているが、結合しているアルキル基又はアルキレン基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また置換基を有していてもよい。置換基としては特に限定はないが、アミノ基、メトキシ基等が挙げられる。
【0025】
成分(b)には、上記スルフィド基を有するモノカルボン酸の塩も含まれる。カルボン酸塩の陽イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン等が挙げられる。好ましくは、水溶液中での安定性等の点で、ナトリウムイオン又はカリウムイオンである。
【0026】
成分(b)としては、上記要件を満たしていれば特に限定はないが、アルキルチオアルキルカルボン酸若しくはアルキルチオアミノ酸又はそれらの塩が好ましい。
【0027】
このうち、アルキルチオアルキルカルボン酸とは、アルキルチオ基が炭素原子に結合したアルキルカルボン酸をいう。ここで、アルキルチオ基の炭素数、そのアルキル基が直鎖か分岐を有するか等は特に限定はなく、また、アルキルカルボン酸の炭素数、そのアルキル基が直鎖か分岐を有するか等は特に限定はないが、下記式(1)で表されるアルキルチオアルキルカルボン酸が好ましい。
【0028】
【化4】

(式(1)中、m及びnは、何れも1〜5の整数を示す。)
【0029】
式(1)中、C2m+1、C2nは、直鎖であってもアルキル分岐を有していてもよいが、直鎖であることが好ましい。また、m又はnが6以上の整数の場合には、何れもめっき液への溶解性が不十分となる場合がある。また、mが0の場合、すなわちチオール(メルカプタン)化合物の場合には、はんだボール接合強度が劣ったり、めっき速度が遅くなる場合がある。mは特に好ましくは1〜3であり、nは特に好ましくは1〜4である。
【0030】
アルキルチオアルキルカルボン酸としては、具体的には例えば、メチルチオ酢酸、メチルチオプロピオン酸、メチルチオ酪酸、メチルチオ吉草酸、メチルチオカプロン酸、エチルチオ酢酸、エチルチオプロピオン酸、プロピルチオプロピオン酸、ブチルチオプロピオン酸、ペンチルチオプロピオン酸等が挙げられる。このうち、メチルチオ酢酸、メチルチオプロピオン酸、メチルチオ酪酸、エチルチオ酢酸、エチルチオプロピオン酸等が特に好ましい。
【0031】
成分(b)の好ましいもののうち、アルキルチオアミノ酸とは、アルキル基を有するアミノ酸のアルキル基炭素にアルキルチオ基が結合した化合物をいい、両アルキル基の炭素数、それが分岐を有するか否か、アミノ酸のアミノ基の数等に特に限定はないが、下記式(2)で表されるアルキルチオアミノ酸が好ましい。
【0032】
【化5】

(式(2)中、p及びqは、何れも1〜5の整数を示し、rは1又は2を示す。)
【0033】
式(2)中、C2p+1、C2q−rは、直鎖であってもアルキル分岐を有していてもよいが、直鎖であることが好ましい。また、p又はqが6以上の整数の場合には、何れもめっき液への溶解性が不十分となる場合がある。pは、好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは、1〜3の整数である。qは、好ましくは1〜5の整数であり、特に好ましくは、1〜3の整数である。また、式(2)中、rは1又は2を示すが、好ましくは1である。
【0034】
アルキルチオアミノ酸としては、具体的には例えば、2−アミノ−3−メチルチオプロピオン酸、2−アミノ−4−メチルチオ酪酸(メチオニン)、2−アミノ−5−メチルチオ吉草酸、2−アミノ−6−メチルチオカプロン酸、2−アミノ−3−エチルチオプロピオン酸、2−アミノ−4−エチルチオ酪酸、2−アミノ−5−エチルチオ吉草酸、2−アミノ−4−エチルチオ吉草酸等が挙げられる。このうち、2−アミノ−3−メチルチオプロピオン酸、2−アミノ−4−メチルチオ酪酸(メチオニン)が特に好ましい。
【0035】
本発明の無電解パラジウムめっき液中の成分(b)の濃度は、0.01g/Lから100g/Lの範囲が好ましく、0.1g/Lから10g/Lの範囲が特に好ましい。成分(b)の濃度が、大きすぎる場合は、めっき速度が低下する場合があり、小さすぎる場合は、液中のパラジウムが析出する場合がある。
【0036】
成分(b)は、本発明の無電解パラジウムめっき液中で、一般に錯化剤としての効果を有する。本発明の無電解パラジウムめっき液において、成分(b)は、他の錯化剤に比較して、ワイヤーボンディング接合の接合強度とはんだボール接合の接合強度を上げるのに極めて効果的である。
【0037】
本発明の無電解パラジウムめっき液は、成分(c)次亜リン酸又はその塩を必須成分として含有する。次亜リン酸又はその塩は、本発明の無電解パラジウムめっき液において、還元剤としての効果を有する。ギ酸誘導体、ヒドラジン誘導体、チオ尿素誘導体、ホウ素化合物等のリンを含有しない還元剤では、はんだボール接合の強度が劣る場合があり、成分(c)次亜リン酸又はその塩の配合は、ワイヤーボンディング接合、はんだボール接合の何れであっても、その接合強度を上げるのに極めて効果的である。
【0038】
成分(c)のうち、次亜リン酸塩の陽イオンは特に限定はないが、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン;テトラアルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。好ましくは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンである。
【0039】
本発明の無電解パラジウムめっき液中の成分(c)の濃度は、0.01g/Lから100g/Lの範囲が好ましく、0.1g/Lから10g/Lの範囲が特に好ましい。成分(c)の濃度が、大きすぎる場合は、パラジウムが析出しやすくなる場合があり、小さすぎる場合は、十分なめっき速度が得られない場合がある。
【0040】
本発明の無電解パラジウムめっき液には、更に必要に応じて、めっき基板への濡れ性を調節するために界面活性剤を、pHの変動を抑制するために緩衝剤を、めっき液に混入してくる各種金属イオンの沈殿を防止するためにキレート剤を配合すること等も好ましい。
【0041】
本発明の無電解パラジウムめっき液は、電子部品端子の上に、順次、無電解ニッケルめっき、無電解パラジウムめっき、置換金めっきが施された3層めっき被膜端子形成用に用いた時に、本発明の上記効果を発揮する。
【0042】
本発明はまた、電子部品端子の上に、順次、無電解ニッケルめっき被膜、本発明の上記無電解パラジウムめっき液を用いて形成された無電解パラジウムめっき被膜、置換金めっき被膜を有することを特徴とする3層めっき被膜端子を提供するものである。以下に、電子部品の接合端子に、無電解ニッケルめっき被膜/無電解パラジウムめっき被膜/無電解置換金めっき被膜を有する3層めっき被膜端子の構造について説明する。
【0043】
電子部品端子の表面は一般には銅である。そして、その上に無電解ニッケルめっき被膜が形成される。無電解ニッケルめっき被膜形成に用いられる無電解ニッケルめっき液は特に限定はないが、次亜リン酸又はその塩、亜リン酸又はその塩等のリン含有の還元剤を含有していることが、ワイヤーボンディング特性とはんだボール接合特性を同時に向上させるために好ましい。また、無電解ニッケルめっき被膜は、リンを含有していることが好ましく。リンの含有量はニッケルめっき被膜全体に対して1質量%以上が好ましく、3質量%以上が特に好ましい。また、15質量%以下が好ましく、12質量%以下が特に好ましい。ニッケルめっき被膜中のリン含有量が少なすぎても多すぎても、はんだボール接合強度が低下する場合がある。無電解ニッケルめっき被膜の膜厚は、1μm〜10μmが好ましく、2μm〜8μmが特に好ましい。
【0044】
無電解ニッケルめっき被膜の上には、本発明の無電解パラジウムめっき液を用いて、無電解パラジウムめっき被膜が形成される。無電解パラジウムめっき被膜は、リンを含有していることが好ましく。リンの含有量はパラジウムめっき被膜全体に対して1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上が特に好ましい。また、5質量%以下が好ましく、4質量%以下が特に好ましい。パラジウムめっき被膜中のリン含有量が少なすぎても多すぎても、はんだボール接合強度が低下する場合がある。無電解パラジウムめっき被膜の膜厚は、0.01μm〜0.5μmが好ましく、0.02μm〜0.3μmが特に好ましい。
【0045】
無電解パラジウムめっき被膜の上には、無電解金めっき被膜が形成される。かかる無電解金めっき被膜は、還元剤を使用しない置換型金めっき液によって得られるものであることが、本発明の無電解パラジウムめっき液の効果を奏するために好ましい。本発明の無電解パラジウムめっき液を用いると、その上に形成される無電解金めっき皮膜を還元型金めっき液で厚く形成させず、置換型金めっき液で薄く形成させても、ワイヤーボンディング接合の接合強度が優れている。金被膜の膜厚は、0.003μm〜0.1μmの範囲が好ましく、0.005μm〜0.05μmの範囲が特に好ましい。
【0046】
置換金めっき被膜には、リンを含有しないか又は含有しても1質量%以下であることが好ましい。置換金めっき被膜中に、リンを1質量%より多く含有すると、ワイヤーボンディング特性が劣る場合がある。無電解金めっき皮膜の金の純度は、ワイヤーボンディング特性やはんだ濡れ性等の点から、99質量%以上であることが好ましい。
【0047】
従来、ワイヤーボンディング接合用と、はんだボール接合用とは、金めっき皮膜の膜厚や形成方法等について異なった3層構造が提案されていたので、ワイヤーボンディング接合とはんだボール接合とを同時に可能にし両用途に用いられ得る3層構造を有するめっき被膜端子を提供できるという本発明の効果は予想外のものであり、本発明の無電解パラジウムめっき液を用いる技術は、実装技術として極めて有用な技術である。
られる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[無電解パラジウムめっき液の調製]
下記の組成で、無電解パラジウムめっき液(1)ないし(7)を、それぞれ調製した。
<無電解パラジウムめっき液の組成>
【0050】
無電解パラジウムめっき液(1)の組成
塩化パラジウムの1,3−プロパンジアミン錯体 :パラジウムとして、1g/L
次亜リン酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
メチオニン CH3-S-(CH2)2CH(NH2)-COOH : 2g/L
水 :残量
【0051】
無電解パラジウムめっき液(2)の組成
塩化パラジウムの1,3−プロパンジアミン錯体 :パラジウムとして、1g/L
次亜リン酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
メチルチオプロピオン酸 CH3-S-(CH2)2-COOH : 2g/L
水 :残量
【0052】
無電解パラジウムめっき液(3)の組成
塩化パラジウム :パラジウムとして、1g/L
1,3−プロパンジアミン :20g/L
ギ酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
水 :残量
【0053】
無電解パラジウムめっき液(4)の組成
塩化パラジウムの1,3−プロパンジアミン錯体 :パラジウムとして、1g/L
次亜リン酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
メルカプトプロピオン酸 H-S-(CH2)2-COOH : 2g/L
水 :残量
【0054】
無電解パラジウムめっき液(5)の組成
塩化パラジウムの1,3−プロパンジアミン錯体 :パラジウムとして、1g/L
次亜リン酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
チオジグリコール酸 HOOC-CH2-S-CH2-COOH : 2g/L
水 :残量
【0055】
無電解パラジウムめっき液(6)の組成
塩化パラジウムのエチレンジアミン錯体 :パラジウムとして、1g/L
次亜リン酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
メチオニン : 2g/L
水 :残量
【0056】
無電解パラジウムめっき液(7)の組成
ジクロロテトラアンミンパラジウム :パラジウムとして、1g/L
次亜リン酸ナトリウム : 5g/L
ホウ酸 :20g/L
メチオニン : 2g/L
水 :残量
【0057】
[評価]
下記の方法で、ワイヤーボンディング接合強度、はんだボール接合強度、析出速度、めっきランニング特性(3MTO後のめっき液を用いての上記特性)を評価した。
【0058】
<ワイヤーボンディング接合強度測定用基板の作製方法>
ワイヤーボンディング(以下、「W/B」と略記することがある)接合強度を測定するための基板(以下、「S/R基板」と略記する)の作製方法を以下に記載する。
【0059】
図1に示したような、厚さ33μmの銅パッドが複数個並び、パッド周辺が厚さ20μmのソルダーレジストで保護されている樹脂基板(S/R基板)を、脱脂液PAC−200(ムラタ株式会社製、商品名)に、50℃で5分間浸漬処理した。続いて、ソフトエッチング液MEOX(ムラタ株式会社製、商品名)に、30℃で2分間浸漬し、銅表面を1.5μm前後エッチングし、常温の10%硫酸に30秒間浸漬した。
【0060】
続いて、市販のパラジウム触媒付与液であるKAT450(上村工業株式会社製、商品名)に、常温で1分間浸漬処理し、市販の無電解ニッケル−リンめっき液NPR4(上村工業株式会社製、商品名)を用いて、80℃で30分間、無電解ニッケルめっき処理を行った。ニッケル被膜の厚さは、5μm前後であった。
【0061】
ここでニッケル被膜の厚さは、微小部蛍光X線分析計SEA5120(セイコーインスツルメンツ社製、商品名)にて測定した。なお、この後のパラジウムめっき被膜の膜厚、金めっき被膜の膜厚も同じ機器にて測定した。
【0062】
続いて、上記無電解パラジウムめっき液(1)〜(7)を用いて、パラジウムめっき被膜の膜厚が、0.10μm〜0.11μmになるように、それぞれ無電解パラジウムめっきを施した。この時の無電解パラジウムめっき液の温度は、全て70℃に設定した。
【0063】
続いて、市販の置換金めっき液IM−GOLD IB(日本高純度化学株式会社製、商品名)に、90℃で5分間、置換金めっき処理を行い、厚さ0.05μm前後の金めっき被膜を形成させた。以上により、銅の上に、Ni/Pd/Auの3層めっき被膜構造を形成させた。
【0064】
<ワイヤーボンディング接合強度の測定方法>
ワイヤーボンディング接合強度測定(以下、「W/Bテスト」と略記する)を以下の方法で行った。すなわち、上述のNi/Pd/Auの3層めっき被膜構造を形成させたS/R基板をエタノールに浸漬してめっき表面を洗浄した後、ウエッジ−ウエッジ型ボンダー
WEST BOND 5400−45G(WEST BOND社製)を使用して、金ワイヤ径25μmφ、荷重80g、温度120℃、超音波Power 1:800mW、70msec、超音波Power2:800mW、70msecの条件でワイヤーボンディングし、ワイヤーボンディングされた金ワイヤーの引っ張り強度と、金ワイヤーの破断箇所を観察した。
【0065】
図2は、下地がNi/Pd/Au上のW/Bテストについての説明図であるが、図2に示したように、金ワイヤーが切れずに、接合部か破断したものを「評価×」とし、金ワイヤーが切れたものを「評価○」とし、下記の式から「評価○発生率」を算出した。「評価○発生率」の高いものほど、W/B接合強度が優れている。
(評価○発生率)=100×(「評価○」の数)/(総テスト数)
【0066】
<はんだボール接合強度測定用基板の作製方法>
はんだボール接合強度(以下、「CBP」と略記することがある)を測定するための基板の作製方法を以下に記載する。
【0067】
図3に示したような、樹脂上に厚さ12μmの円形の銅パッドが複数個並び、パッド周辺が厚さ20μmのソルダーレジストで保護されている樹脂基板を用いて、上記したW/B接合強度測定用基板の作製方法と同様にして、銅の上に、Ni/Pd/Auの3層めっき被膜構造を形成させた。
【0068】
<はんだボール接合強度の測定方法>
はんだボール接合強度測定(以下、「CBPテスト」又は「CBP評価」と略記することがある)を以下の方法で行った。すなわち、上述のめっきプロセスにて、Ni/Pd/Auの3層めっき被膜構造を形成させた基板にフラックスを塗布後、0.76mm径の鉛フリーはんだボール(Sn95.5質量%、Ag4質量%、Cu0.5質量%)を搭載し、ピーク温度条件250℃でリフローした半田ボールのCBP引っ張り強度及び破断面(図4参照)を観察した。測定はDage社製Dage#4000を用いて行った。また、引っ張り速度は、5000μm/秒と300μm/秒の2水準で測定した。
【0069】
図4に示したように、界面破壊したものを「評価×」とし、はんだ内破壊したものを「評価○」とし、下記の式から「評価○発生率」を算出した。「評価○発生率」の高いものほど、はんだボール接合強度が優れている。
(評価○発生率)=100×(「評価○」の数)/(総テスト数)
【0070】
<無電解パラジウムめっき被膜の析出速度の測定方法>
「W/B接合強度測定用基板の作製方法」で記載したように、無電解パラジウムめっき液(1)〜(7)を用いて、膜厚0.10μm〜0.11μmになるように無電解パラジウムめっき被膜を形成させるのに要した時間を測定し、「析出速度」とした。
【0071】
<めっきランニングテスト方法>
S/R基板を用い、上述の「ワイヤーボンディング接合強度測定用基板の作製方法」と同様に、無電解パラジウムめっき液(1)〜(7)を用いて無電解パラジウムめっきを行った。消費したパラジウム量を随時補充しながら無電解パラジウムめっき処理を継続し、3MTOまでパラジウムを消費させて、めっきランニングした時点で、以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0072】
ここで、「MTO」は以下の式で定義される。
1MTO=建浴時のパラジウム量と同量のパラジウム消費(随時補充量の総量)
【0073】
<<3MTO後の析出速度>>
新建浴時のCBP評価において「評価○発生率」が60%以上の無電解パラジウムめっき液について、3MTO後のパラジウム析出速度を、上記した新建浴時と同様の方法で測定した。ここで、「3MTO後」とは、建浴時のパラジウム量の3倍を補充しながらランニングを行った後、を意味する。析出速度が遅いものについては、パラジウムめっき膜厚が0.05μmになるのに要した時間を測定した。3MTO後での析出速度が新建浴時から変化していないものが、めっきランニング特性に優れている。
【0074】
<<3MTO後のW/Bテスト>>
新建浴時のCBP評価において「評価○発生率」が60%以上の無電解パラジウムめっき液について、上記の新建浴時のW/Bテストと同様の方法で、3MTO後の「評価○発生率」を測定した。3MTO後での析出速度が新建浴時から変化していないものが、めっきランニング特性に優れている。
【0075】
<<3MTO後のCBPテスト>>
新建浴時のCBP評価において「評価○発生率」が60%以上の無電解パラジウムめっき液について、上記の新建浴時のCBPテストと同様の方法で、3MTO後の「評価○発生率」を測定した。3MTO後での析出速度が新建浴時から変化していないものが、めっきランニング特性に優れている。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1及び表2より、無電解パラジウムめっき液(1)(2)は、新建浴時の析出速度、W/Bテスト及びCBPテストに優れていた。また、3MTO後の析出速度、W/Bテスト及びCBPテストにも優れており、めっきランニング特性にも優れていることが判った。
【0079】
一方、表1及び表2より、無電解パラジウムめっき液(3)(4)(5)は、新建浴時でのCBPテストにおいて、評価○発生率が無電解パラジウムめっき液(1)(2)(6)に比べて大きく劣っていた。また、無電解パラジウムめっき液(6)は、新建浴時及び3MTO後のCBPテストの結果は良好だが、3MTO後の析出速度が新建浴時の50%にまで低下してしまった。また、無電解パラジウムめっき液(7)は、めっき処理中に浴分解してしまったので実用的でなかった。なお、無電解パラジウムめっき液(3)を分析したところ、塩化パラジウムの1,3−プロパンジアミン錯体が形成されていた。
【0080】
<めっき被膜中のリンの定量方法>
表1、表2のパラジウムめっき被膜(0.1μm付近)では、精度が不足するので、めっき時間を10倍にし、1μm付近の被膜を形成させた後、エネルギー分散型X線分析装置(EMAX−5770W、堀場製作所社製)にて、リン濃度を測定した。
【0081】
無電解ニッケルめっき被膜中のリンの含有量は、7質量%であった。また、無電解パラジウムめっき被膜中のリンの含有量については、以下の通りであった。
無電解パラジウムめっき液(1):2質量%
無電解パラジウムめっき液(2):2質量%
無電解パラジウムめっき液(3):0質量%
無電解パラジウムめっき液(4):3質量%
無電解パラジウムめっき液(5):3質量%
無電解パラジウムめっき液(6):3質量%
無電解パラジウムめっき液(7):測定不可
また、置換金めっき被膜中のリンの含有量は、0質量%であった。
【0082】
これより、Pd被膜中にリンが実質的に含有されていないと、CBPが不十分であり、成分(b)は、CBPとW/B接合強度の両方に必須であり、成分(a)はめっき液の安定化に必要であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の無電解パラジウムめっき液は、ニッケルめっき被膜/パラジウムめっき被膜/置換金めっき被膜の3層めっき被膜端子において、ワイヤーボンディング接合とはんだボール接合の両方において優れた接合強度を有するので、プリント基板、半導体パッケージ等の分野に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ワイヤーボンディング接合強度の測定と析出速度の測定に用いたS/R基板の平面図である。
【図2】ワイヤーボンディング接合強度の評価方法を示す図である。
【図3】はんだボール接合強度の測定に用いた基板の平面図と断面図である。
【図4】はんだボール接合強度の評価方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、成分(a)、(b)及び(c)
(a)パラジウム塩有機錯体
(b)スルフィド基を有するモノカルボン酸又はその塩
(c)次亜リン酸又はその塩
を含有することを特徴とする無電解パラジウムめっき液。
【請求項2】
成分(b)が、式(1)で表されるアルキルチオアルキルカルボン酸又はその塩である請求項1記載の無電解パラジウムめっき液。
【化1】

(式(1)中、m及びnは、何れも1〜5の整数を示す。)
【請求項3】
成分(b)が、式(2)で表されるアルキルチオアミノ酸又はその塩である請求項1記載の無電解パラジウムめっき液。
【化2】

(式(2)中、p及びqは、何れも1〜5の整数を示し、rは1又は2を示す。)
【請求項4】
成分(a)パラジウム塩有機錯体の配位子が、置換基を有していてもよい直鎖炭素数3〜6個のアルキレン基の両端にアミノ基が結合した有機化合物である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の無電解パラジウムめっき液。
【請求項5】
成分(a)パラジウム塩有機錯体の配位子が、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、2,4−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノペンタン及び1,6−ジアミノヘキサンよりなる群から選ばれた1種以上のアミン化合物である請求項4記載の無電解パラジウムめっき液。
【請求項6】
電子部品端子の上に、順次、無電解ニッケルめっき被膜、無電解パラジウムめっき被膜、置換金めっき被膜が施された3層めっき被膜端子形成用の請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の無電解パラジウムめっき液。
【請求項7】
3層めっき被膜端子が、ワイヤーボンディング接合及びはんだボール接合の何れにも用いられるものである請求項6記載の無電解パラジウムめっき液。
【請求項8】
電子部品端子の上に、順次、無電解ニッケルめっき被膜、請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の無電解パラジウムめっき液を用いて形成された無電解パラジウムめっき被膜及び置換金めっき被膜を有することを特徴とする3層めっき被膜端子。
【請求項9】
無電解ニッケルめっき被膜及び無電解パラジウムめっき被膜の何れにも1質量%以上のリンを含有し、置換金めっき被膜にはリンを含有しないか又は1質量%以下のリンを含有する請求項8記載の電子部品端子上の3層めっき被膜端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−9305(P2007−9305A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194740(P2005−194740)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(399133947)日本高純度化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】