説明

無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法

【解決手段】シアン化金塩、錯化剤、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を含有する無電解金めっき浴を70〜90℃に保持した状態で上記無電解金めっき浴のめっき能を安定に維持管理する方法であって、シアン化アルカリ、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第1の補給成分として定期的に補給し、更に、めっき処理により金が消費されためっき浴に対し、シアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物のみを第2の補給成分として補給する無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【効果】ニッケル表面の粒界侵食が進行することによる外観不良を引き起こさず、良好な皮膜外観の金めっき皮膜を形成する無電解金めっき浴のめっき能を長期間、安定的に維持管理することができ、また、めっき処理によりシアン化金塩が消費された無電解金めっき浴を長期間、安定的に維持管理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無電解金めっき浴のめっき能の維持管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金は、金属の中で最もイオン化傾向が小さい、つまり最も安定で錆びにくい金属である。またそれだけでなく、電気伝導性にも優れていることから、電子工業分野に広く用いられている。置換金めっきは、プリント基板の回路やICパッケージの実装部分や端子部分等の最終表面処理として幅広く使用されている。具体的には、例えば以下の方法があり、各々以下のような特徴がある。
【0003】
(1)ENIG(Electroless Nickel Immersion Gold:無電解ニッケル/置換金)
・下地無電解ニッケルめっき皮膜上に、置換金めっき皮膜を形成する方法である。
・銅の拡散防止、ニッケルの酸化防止、回路や端子の耐食性向上が可能である。
・はんだ接合に使用可能である。
・ENIG処理後、厚付け金を施すことでワイヤボンディングにも使用可能である。
・ワイヤボンディングの場合、めっき処理後に加熱処理を行なうが、それにより金皮膜上にニッケルが拡散する。それを防ぐためにニッケル/置換金皮膜上に更に無電解金めっきを施し、金の膜厚を増やすことでニッケルの拡散に対応する。
【0004】
(2)DIG(Direct Immersion Gold:直接置換金)
・銅上に直接置換金めっき皮膜を形成する方法である。
・銅の酸化防止、銅の拡散防止、回路や端子の耐食性向上が可能である。
・はんだ接合、ワイヤボンディングにも使用可能である。
・ニッケル/金やニッケル/パラジウム/金に比べると、長期信頼性にはやや劣るが、熱負荷があまりかからない条件(熱処理温度が低い、リフロー回数が少ない等の条件)では十分使用可能である。
・シンプルなプロセスなので低コストである。
【0005】
(3)ENEPIG(Electroless Nickel Electroless Palladium Immersion Gold:無電解ニッケル/無電解パラジウム/置換金)
・下地無電解ニッケルめっき皮膜と置換金めっき皮膜の間に無電解パラジウムめっき皮膜を設ける方法である。
・銅の拡散防止、ニッケルの酸化防止と拡散防止、回路や端子の耐食性向上が可能である。
・近年推進されている鉛フリーはんだ接合に最適である(鉛フリーはんだは、錫鉛共晶はんだに比べ、はんだ接合時に熱負荷がかかり、ニッケル/金では接合特性が低下するため。)。
・ワイヤボンディングに適している。
・金膜厚を厚くしなくてもニッケル拡散が生じない。
・ニッケル/金で対応可能のものでも、より信頼性をあげたい場合に好適である。
【0006】
置換金めっきはニッケルなどの下地とのめっき浴中での酸化還元電位の差を利用して金を析出させるため、金がニッケルを侵食することで酸化(溶出)による腐食点が発生する。この酸化による腐食点は、その後のはんだリフロー時において、はんだ層の錫とニッケルを接続させる際の阻害因子となり、強度などの接合特性を低下させるという問題がある。
【0007】
この問題を解決するために、アルデヒドの亜硫酸塩付加物を含有する無電解金めっき浴が、特開2004−137589号公報(特許文献1)に、ヒドロキシアルキルスルホン酸を含有する金めっき浴が、国際公開第2004/111287号パンフレット(特許文献2)に各々開示されている。これらの技術は下地金属の腐食を抑えることを目的としたものである。
【0008】
しかしながら、国際公開第2004/111287号パンフレット(特許文献2)に記載されているトリエチレンテトラミンのような、アミノ基(−NH2)が存在する1級アミン化合物を用いると、ニッケル表面の粒界侵食が進行することにより金の被覆力が低下し、皮膜外観が赤くなるという不具合が生じる。
【0009】
【特許文献1】特開2004−137589号公報
【特許文献2】国際公開第2004/111287号パンフレット
【特許文献3】特開2002−226975号公報
【特許文献4】特許第2538461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ニッケル表面の粒界侵食が進行することによる外観不良を引き起こさず、良好な皮膜外観の金めっき皮膜が得られる無電解金めっき浴のめっき能を長期間、安定的に維持管理する方法、更には、めっき処理によりシアン化金塩が消費された無電解金めっき浴を長期間、安定的に維持管理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、金成分としてシアン化金塩、還元剤成分としてホルムアルデヒド重亜硫酸付加物及び下記一般式(1)又は(2)
1−NH−C24−NH−R2 (1)
3−(CH2−NH−C24−NH−CH2n−R4 (2)
(式(1)及び(2)中、R1、R2、R3及びR4は−OH、−CH3、−CH2OH、−C24OH、−CH2N(CH32、−CH2NH(CH2OH)、−CH2NH(C24OH)、−C24NH(CH2OH)、−C24NH(C24OH)、−CH2N(CH2OH)2、−CH2N(C24OH)2、−C24N(CH2OH)2又は−C24N(C24OH)2を表わし、同じであっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
で表されるアミン化合物を含有する無電解金めっき浴を用いることで、上記にあるようなニッケル表面の粒界腐食が生じにくくなることを見出したが、これらのめっき浴は、めっき作業の有無に拘わらず、シアンと還元剤成分であるホルムアルデヒド重亜硫酸付加物及び上記一般式(1)又は(2)で表されるアミン化合物がめっき浴中から徐々に消失することにより、浴分解を起こすという問題があることがわかった。そこで、これらの消失成分を適正な濃度比率で少量ずつ補給することにより上記問題が解決できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法を提供する。
[1] シアン化金塩、錯化剤、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物、及び下記一般式(1)又は(2)
1−NH−C24−NH−R2 (1)
3−(CH2−NH−C24−NH−CH2n−R4 (2)
(式(1)及び(2)中、R1、R2、R3及びR4は−OH、−CH3、−CH2OH、−C24OH、−CH2N(CH32、−CH2NH(CH2OH)、−CH2NH(C24OH)、−C24NH(CH2OH)、−C24NH(C24OH)、−CH2N(CH2OH)2、−CH2N(C24OH)2、−C24N(CH2OH)2又は−C24N(C24OH)2を表わし、同じであっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
で表されるアミン化合物を含有する無電解金めっき浴を70〜90℃に保持した状態で上記無電解金めっき浴のめっき能を安定に維持管理する方法であって、シアン化アルカリ並びに上記ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第1の補給成分として定期的に補給することを特徴とする無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[2] 上記シアン化アルカリ、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物の補給比率が、シアン化アルカリ:ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物:アミン化合物=0.5〜5:1:0.1〜5(モル比)となるように補給することを特徴とする[1]記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[3] 上記第1の補給成分をそのホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物基準で建浴時の濃度の0.1〜5モル%を1時間当り1〜20回に分けて補給することを特徴とする[2]記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[4] 更に、めっき処理により金が消費されためっき浴に対し、上記シアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第2の補給成分として補給することを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[5] 上記シアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物の補給比率が、シアン化金塩:ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物:アミン化合物=1:0.1〜5:0.5〜5(モル比)となるように補給することを特徴とする[4]記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[6] 上記第2の補給成分をそのホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物基準で建浴時の濃度の0.1〜5モル%を1時間当り1〜20回に分けて補給することを特徴とする[5]記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[7] 上記ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の1回の補給量がめっき浴1L当り2ミリモル以下であることを特徴とする[3]又は[6]記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
[8] 上記補給するホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の一部又は全部を、上記ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の代わりに同モル量のホルムアルデヒドで補給することを特徴とする[1]乃至[7]のいずれかに記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニッケル表面の粒界侵食が進行することによる外観不良を引き起こさず、良好な皮膜外観の金めっき皮膜を形成する無電解金めっき浴のめっき能を長期間、安定的に維持管理することができ、また、めっき処理によりシアン化金塩が消費された無電解金めっき浴を長期間、安定的に維持管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳述する。
本発明の無電解金めっき浴は、シアン化金塩、錯化剤、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物、及び下記一般式(1)又は(2)
1−NH−C24−NH−R2 (1)
3−(CH2−NH−C24−NH−CH2n−R4 (2)
(式(1)及び(2)中、R1、R2、R3及びR4は−OH、−CH3、−CH2OH、−C24OH、−CH2N(CH32、−CH2NH(CH2OH)、−CH2NH(C24OH)、−C24NH(CH2OH)、−C24NH(C24OH)、−CH2N(CH2OH)2、−CH2N(C24OH)2、−C24N(CH2OH)2又は−C24N(C24OH)2を表し、同じであっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
で表されるアミン化合物を含有する。
【0015】
本発明の無電解金めっき浴は、従来の置換金めっき浴とは異なり、同一のめっき浴中で、置換反応と還元反応との双方が進行する置換−還元型無電解金めっき浴である。金めっき浴に、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物と、上記一般式(1)又は(2)で表される特有の構造を有するアミン化合物とを含有させることで、本発明の無電解金めっき浴は、銅、ニッケルなどの下地金属上で、置換反応により金が析出すると共に、その析出した金を触媒として還元剤により金が析出する。
【0016】
本発明の無電解金めっき浴は、下地金属の侵食が最低限に抑えられるため、めっき浴中への下地金属イオンの溶出が少なく、長期に亘って使用しても安定した析出速度が保たれる。例えば、通常の置換めっきであれば、析出した金と溶出した下地金属(例えば銅やニッケル)の量は化学量論に従って等量となるが、本発明のめっき浴では、例えばENIGプロセスを行なった場合、金の析出の大部分が置換めっきから還元めっきにシフトするため、析出した金に対して溶出する下地ニッケルの溶出は非常に少なく、この場合、従来の通常の置換金めっきの1/8程度に抑えられる。
【0017】
これによって、下地金属の侵食を最低限に抑え、かつ均一で緻密な金めっき皮膜を得ることができる。また、還元剤を含有していることで、析出した金上に、連続して金が析出するので、別途厚付け用の金めっきを行なうことなく、1つのめっき浴で厚膜化が可能である。また、金の析出速度を安定して維持することができ、厚膜化してもめっき皮膜が赤っぽくならず、金特有のレモンイエロー色を保持することができる。
【0018】
下地がパラジウムの場合、ニッケルや銅の場合と異なり、パラジウムと金は電位差が小さい。そのため、従来の置換型の金めっき浴を用いてパラジウム上に金めっきを行なうと、均一な膜厚が得られず、更に十分な膜厚を得ることもできない。これに対して、本発明の無電解金めっき浴は、パラジウム表面を活性化し、パラジウムを触媒として還元剤により金を析出させることができ、また析出した金を触媒として更に金を析出させることができることから、パラジウム上においても金めっき皮膜の厚膜化が可能である。
【0019】
本発明の無電解金めっき浴中に含まれるシアン化金塩としては、シアン化金、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウム、シアン化金アンモニウムなどが挙げられるが、特にシアン化金カリウム、シアン化金ナトリウムであることが好ましい。
【0020】
シアン化金塩の建浴時及び補給後の含有量は、金基準で0.0001〜1モル/Lであることが好ましく、0.001〜0.5モル/Lであることがより好ましい。上記範囲未満であると析出速度が低下するおそれがあり、上記範囲を超えると経済的に不利となる場合がある。
【0021】
本発明の無電解金めっき浴中に含まれる錯化剤としては、無電解めっき浴で用いられている公知の錯化剤を用いることができるが、例えば、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジヒドロキシルグリシン、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、ヒドロキシエチリデンニリン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンリン酸)、又はそのアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
建浴時及び補給後の錯化剤濃度は0.001〜1モル/Lであることが好ましく、0.01〜0.5モル/Lであることがより好ましい。上記範囲未満であると溶出した金属によって析出速度が低下するおそれがあり、上記範囲を超えると経済的に不利となる場合がある。
【0023】
本発明の無電解金めっき浴中には、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物が含まれる。このホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物としては、具体的にはホルムアルデヒド重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒド重亜硫酸カリウム、ホルムアルデヒド重亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0024】
これらのホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の建浴時及び補給後の濃度は0.0001〜0.5モル/Lであることが好ましく、0.001〜0.3モル/Lであることがより好ましい。上記範囲未満であると下地ニッケルが腐食するおそれがあり、上記範囲を超えると浴が不安定になるおそれがある。
【0025】
本発明の無電解金めっき浴は、下記一般式(1)又は(2)
1−NH−C24−NH−R2 (1)
3−(CH2−NH−C24−NH−CH2n−R4 (2)
(式(1)及び(2)中、R1、R2、R3及びR4は−OH、−CH3、−CH2OH、−C24OH、−CH2N(CH32、−CH2NH(CH2OH)、−CH2NH(C24OH)、−C24NH(CH2OH)、−C24NH(C24OH)、−CH2N(CH2OH)2、−CH2N(C24OH)2、−C24N(CH2OH)2又は−C24N(C24OH)2を表し、同じであっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
で表されるアミン化合物を含有する。本発明のホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物は、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物みでは還元剤として作用せず、このアミン化合物と共存することで還元作用が生じる。
【0026】
建浴時及び補給後のこれらのアミン化合物濃度は0.001〜3モル/Lであることが好ましく、0.01〜1モル/Lであることがより好ましい。上記範囲未満であると析出速度が低下するおそれがあり、上記範囲を超えると浴が不安定になるおそれがある。
【0027】
本発明の無電解金めっき浴には、公知の無電解めっきで用いられている安定剤を添加することができる。この安定剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、チオ硫酸、チオグリコール、チオ尿素、チオリンゴ酸等の硫黄化合物、ベンゾトリアゾール、1,2,4−アミノトリアゾール等の窒素化合物が挙げられる。
【0028】
建浴時及び補給後の安定剤濃度は0.0000001〜0.01モル/Lであることが好ましく、0.000001〜0.005モル/Lであることがより好ましい。上記範囲未満であると浴が不安定になるおそれがあり、上記範囲を超えると析出速度が低下するおそれがある。
【0029】
本発明の無電解金めっき浴のpHは、5〜10であることが好ましい。上記範囲未満であると析出速度が低下するおそれがあり、上記範囲を超えると浴が不安定になるおそれがある。pH調整剤としては、公知のめっき浴で使用されている水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、硫酸、リン酸、ホウ酸等を使用することができる。
【0030】
また、本発明の無電解金めっき浴の使用温度は、70〜90℃であることが好ましい。上記範囲未満であると析出速度が低下するおそれがあり、上記範囲を超えると浴が不安定になるおそれがある。
【0031】
本発明においては、上述した無電解金めっき浴は、その浴温度を70〜90℃、特に80℃以上に連続的に保持した場合において、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム等のシアン化アルカリ並びに無電解金めっき浴の成分として上記したホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第1の補給成分として定期的に補給することによって、無電解金めっき浴のめっき能を維持することができる。
【0032】
この場合、シアン化アルカリ、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物の補給比率が、シアン化アルカリ:ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物:アミン化合物=0.5〜5:1:0.1〜5(モル比)となるようにこれらの成分を補給することが好ましい。この補給比率を外れた場合、シアン化アルカリが過剰であると金の被覆力が低下し、また、ニッケルが腐食するおそれがあり、過少であると浴分解を加速するおそれがある。ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物が過剰であると浴分解を加速するおそれがあり、過少であると還元力が低下して、ニッケルが腐食し、また金の被覆力が低下するおそれがある。アミン化合物が過剰であると浴分解を加速するおそれがあり、過少であると還元力が低下して、ニッケルが腐食し、また金の被覆力が低下するおそれがある。この場合、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物とアミン化合物とのバランスが特に重要である。
【0033】
更に、本発明においては、めっき処理により金が消費されためっき浴に対しては、更に、無電解金めっき浴の成分として上記したシアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第2の補給成分として補給することができる。
【0034】
この場合、シアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物の補給比率が、シアン化金塩:ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物:アミン化合物=1:0.1〜5:0.5〜5(モル比)となるようにこれらの成分を補給することが好ましい。この補給比率を外れた場合、シアン化金塩が過剰であるとコスト的に不利となるおそれがあり、過少であると金濃度が低下し、金皮膜特性が劣化するおそれがある。ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物が過剰であると浴分解を加速するおそれがあり、過少であると還元力が低下して、ニッケルが腐食し、また金の被覆力が低下するおそれがある。アミン化合物が過剰であると浴分解を加速するおそれがあり、過少であると還元力が低下して、ニッケルが腐食し、また金の被覆力が低下するおそれがある。この場合も、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物とアミン化合物とのバランスが特に重要である。
【0035】
また、これら第1及び第2の補給成分による各々の補給においては、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物基準で建浴時の濃度の0.1〜5モル%を1時間当り1〜20回に分けて、好ましくは等間隔で補給することが好ましく、更に、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の1回の補給量をめっき浴1L当り2ミリモル以下とすることが好ましい。補給間隔が長くなりすぎると、めっき浴内の組成変化が大きくなり、皮膜特性のバラツキが生じるおそれがある。また、1回の補給量が多くなりすぎると、めっき浴内の組成変化が大きくなり、皮膜特性のバラツキが生じるおそれがある。
【0036】
なお、本発明においては、補給するホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の一部又は全部を、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の代わりに、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物と同モル量のホルムアルデヒドで補給することも可能である。ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物は、めっき浴の温度上昇やめっき処理によって亜硫酸を生成し、生成した亜硫酸は、めっき浴中に蓄積する。めっき浴において亜硫酸は還元剤による反応を抑制するので、めっき浴の分解を防ぐいわゆる安定剤として作用しているが、過剰になると亜硫酸が還元剤による反応を抑制することにより、置換反応の比率が増し、下地ニッケルを腐食させてしまうおそれがある。下地ニッケルが腐食すると、はんだ接合性が低下するなどの不具合が生じるため、補給するホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の一部又は全部を、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の代わりに、ホルムアルデヒド重亜硫酸付加物と同モル量のホルムアルデヒドとすることで、亜硫酸の過剰による上記不具合を抑えることができる。特に、第1の補給成分においてはホルムアルデヒド重亜硫酸付加物、第2の補給成分においてはホルムアルデヒドを用いることで、補給成分の管理もしやすく、めっき浴中の亜硫酸濃度を好適に維持することができ、浴安定性、はんだ接合性共に良好となるため好適である。
【0037】
特に、上記第2の補給成分の補給においては、めっき浴への第2の補給成分による建浴時からの金の補給総量が0.2g/L以上、好ましくは0.1g/L以上となった場合において、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の代わりに、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物と同モル量のホルムアルデヒドで補給するのが好ましい。
【0038】
本発明の無電解金めっき浴においては、浴中でホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物とアミン化合物が共存する事で下記式に示されるようなホルムアルデヒド−アミン複合体が生成し還元剤成分として作用していると考えられる。
ホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物+アミン化合物
→還元剤成分(ホルムアルデヒド−アミン複合体)+亜硫酸
浴中においてこの還元剤成分(ホルムアルデヒド−アミン複合体)が消費され、すなわちホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物およびアミン化合物が消費されることになる。このとき、消費されたホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物およびアミン化合物を補給する必要があるが、ホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物に替えてホルムアルデヒドを補給してもよい。この補給に際し、各成分の補給バランスを考慮して補給しないと浴分解、ニッケルの腐食、金の被覆力の低下等の不具合が生じるため、この補給比率を考慮する必要がある。すなわち、ホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物:アミン化合物、ホルムアルデヒド:アミン化合物あるいはホルムアルデヒドの重亜硫酸付加物およびホルムアルデヒド:アミン化合物をモル比率においてそれぞれ一定比率で補給する事が重要である。
【0039】
本発明の無電解金めっき浴を用いてめっき処理する際の基体の金属表面(被めっき面)の材質としては、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、パラジウム、パラジウム合金などを対象とすることができる。上記ニッケル合金としては、ニッケルーリン合金、ニッケル−ホウ素合金など、パラジウム合金としては、パラジウム−リン合金などを挙げることができる。このような金属表面は、基体自体が金属(合金)であるものの表面の他、基体表面に金属皮膜が形成された該皮膜の表面であってもよい。金属皮膜は、電気めっきにより形成されたもの、無電解めっきにより形成されたもののいずれであってもよいが、ニッケル、ニッケル合金、パラジウム、パラジウム合金の場合、無電解めっきによって形成されたものが一般的である。更に、基体にニッケル又はニッケル合金皮膜を介して形成された、パラジウム又はパラジウム合金皮膜表面を無電解金めっき処理する場合にも好適である。
【0040】
本発明の無電解金めっき浴は、例えば、ENIG(Electroless Nickel Immersion Gold)、即ち、(銅上に形成された)下地無電解ニッケルめっき皮膜上に金めっき皮膜を形成する方法、DIG(Direct Immersion Gold)、即ち、銅上に直接金めっき皮膜を形成する方法、ENEPIG(Electroless Nickel Electroless Palladium Immersion Gold)、即ち、(銅上に形成された)下地無電解ニッケルめっき皮膜上に無電解パラジウムめっき皮膜を介して金めっき皮膜を形成する方法のいずれの金めっき皮膜の形成にも用いることが可能である。
【0041】
本発明の無電解金めっき浴及びこれを用いた無電解金めっき方法は、例えばプリント配線基板やICパッケージ等の電子部品の配線回路実装部分や端子部分を金めっき処理する場合に好適であり、このような金めっき処理において、本発明の無電解金めっき浴のめっき能の維持管理方法を好適に適用し得る。
【0042】
なお、本発明のめっき浴は金属表面(被めっき面)が銅の場合でも良好な皮膜が得られ、下地が銅の場合、銅の酸化、拡散が抑制され良好なはんだ接合特性が得られる。また、厚膜化することで、ワイヤボンディングにも使用可能である。また、本発明のめっき浴は、パラジウム上にも良好な金皮膜を析出させることができるため、鉛フリーはんだ接合やワイヤボンディングへの利用に最適である。
【0043】
下地がパラジウムの場合、ニッケルや銅の場合と異なり、パラジウムと金は電位差が小さい。そのため、従来の置換型の金めっき浴を用いてパラジウム上に金めっきを行なうと、均一な膜厚が得られず、更に十分な膜厚を得ることもできない。これに対して、本発明の無電解金めっき浴は、パラジウム表面を活性化し、パラジウムを触媒として還元剤により金を析出させることができ、また析出した金を触媒として更に金を析出させることができることから、パラジウム上においても金めっき皮膜の厚膜化が可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1,2、比較例1]
表1に表される金めっき浴を建浴時のめっき浴とし、これを80℃で保持し、定期的に表2に示される比率の第1の補給成分を補給し(実施例1,2)又は補給せずに(比較例1)、100時間保持した。めっき液の状態を目視により浴分解の兆候である容器への金の析出の有無を確認し、析出が無い場合はニッケル/金プロセスとして表6に示される処理を施した銅張りプリント基板上にそれぞれの金めっき浴に浸漬して、金めっきを施しめっき外観を確認した結果を表3に示す。補給は、1時間あたりのシアン化カリウムの補給量を15mg/Lとし、補給成分を上記比率で1時間に5回に分けて、12分毎に補給した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

○:浴は安定(金析出なし)で、皮膜外観も良好
【0049】
[実施例3,4]
実施例1の条件でランニングを行い、実施例1で示した第1の補給成分に加えて、更に、表4に示される第2の補給成分を、金が0.1g/L消費する毎に、1回当りのシアン化金カリウムの補給量を0.15g/Lとして、上記比率で補給した。金を0.5g/L補給する毎にニッケル/金プロセスとして表6に示される処理を施した銅張りプリント基板上にそれぞれの金めっき浴に浸漬して、金めっきを施した。得られた金めっき皮膜を上村工業製金剥離剤コプキアリップにより金を剥離し、金剥離後のニッケル表面における腐食の有無を表5に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

○:金剥離後のニッケル表面は良好(腐食なし)
△:金剥離後のニッケル表面に僅かに腐食あり
×:金剥離後のニッケル表面に明らかな腐食あり
【0052】
実施例3においては、ホルムアルデヒド重亜硫酸ソーダの代わりに同モル量のホルムアルデヒドにより補給することで、亜硫酸が過剰生成することがないため金剥離後のニッケル表面には腐食が無く良好であるが、一方の実施例4においては、金補給総量1g/Lを過ぎたあたりから、亜硫酸が過剰生成したことによると考えられる金剥離後のニッケル表面の腐食が生じる。
【0053】
【表6】

各工程間 水洗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化金塩、錯化剤、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物、及び下記一般式(1)又は(2)
1−NH−C24−NH−R2 (1)
3−(CH2−NH−C24−NH−CH2n−R4 (2)
(式(1)及び(2)中、R1、R2、R3及びR4は−OH、−CH3、−CH2OH、−C24OH、−CH2N(CH32、−CH2NH(CH2OH)、−CH2NH(C24OH)、−C24NH(CH2OH)、−C24NH(C24OH)、−CH2N(CH2OH)2、−CH2N(C24OH)2、−C24N(CH2OH)2又は−C24N(C24OH)2を表わし、同じであっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数である。)
で表されるアミン化合物を含有する無電解金めっき浴を70〜90℃に保持した状態で上記無電解金めっき浴のめっき能を安定に維持管理する方法であって、シアン化アルカリ並びに上記ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第1の補給成分として定期的に補給することを特徴とする無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項2】
上記シアン化アルカリ、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物の補給比率が、シアン化アルカリ:ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物:アミン化合物=0.5〜5:1:0.1〜5(モル比)となるように補給することを特徴とする請求項1記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項3】
上記第1の補給成分をそのホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物基準で建浴時の濃度の0.1〜5モル%を1時間当り1〜20回に分けて補給することを特徴とする請求項2記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項4】
更に、めっき処理により金が消費されためっき浴に対し、上記シアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物を第2の補給成分として補給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項5】
上記シアン化金塩、ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物及びアミン化合物の補給比率が、シアン化金塩:ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物:アミン化合物=1:0.1〜5:0.5〜5(モル比)となるように補給することを特徴とする請求項4記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項6】
上記第2の補給成分をそのホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物基準で建浴時の濃度の0.1〜5モル%を1時間当り1〜20回に分けて補給することを特徴とする請求項5記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項7】
上記ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の1回の補給量がめっき浴1L当り2ミリモル以下であることを特徴とする請求項3又は6記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。
【請求項8】
上記補給するホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の一部又は全部を、上記ホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物の代わりに同モル量のホルムアルデヒドで補給することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の無電解金めっき浴のめっき能維持管理方法。

【公開番号】特開2008−169425(P2008−169425A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3139(P2007−3139)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】