説明

焼結バルブガイド材およびその製造方法

【課題】焼結バルブガイド材と同等の耐摩耗性を維持し、低コストと耐摩耗性の維持の両立を図る。
【解決手段】全体組成が、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなり、気孔と気孔を除く基地組織からなるとともに、基地組織が、パーライト相、フェライト相、鉄−リン−炭素化合物相、および銅相の混合組織からなり、気孔の一部に黒鉛が分散する金属組織を呈し、断面金属組織を観察したときの金属組織に対する面積比で、鉄−リン−炭素化合物相が、3〜25%であり、銅相が、0.5〜3.5%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる焼結バルブガイド材およびその製造方法に係り、特に、耐摩耗性をより一層向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるバルブガイドは、内燃機関の燃焼室への燃料混合ガスを吸気する吸気バルブおよび燃焼室から燃焼ガスを排気する排気バルブのステム(竿部)を、その内周面で支持する円管状の部品であり、自己の耐摩耗性とともにバルブステムを摩耗させず円滑な摺動状態を長期に亘り維持することが必要である。このようなバルブガイドとしては、従来、鋳鉄製のものが使用されてきたが、焼結合金は、溶製材では得ることができない特殊な金属組織の合金を得ることができ耐摩耗性を付与できること、一度金型を作製すれば同じ形状の製品が多量に製造でき大量生産に向くこと、ニアネットシェイプに造形でき機械加工にともなう材料の歩留まりが高いこと、等の理由から、焼結合金製(特許文献1〜4等)のものが多く使われるようになってきた。
【0003】
特許文献1の焼結バルブガイド材は、重量比で、炭素(C)1.5〜4%、銅(Cu)1〜5%、錫(Sn)0.1〜2%、リン(P)0.1〜0.3%未満および鉄(Fe)残部の鉄系焼結合金からなる焼結バルブガイド材である。この特許文献1の焼結バルブガイド材の金属組織写真およびその模式図を図3に示す。図3に示すように、特許文献1の焼結バルブガイド材では、銅および錫を添加して基地強化されたパーライト基地中に鉄−リン−炭素化合物相が析出する。また、鉄−リン−炭素化合物が周囲の基地からCを吸収して板状に成長する結果、鉄−リン−炭素化合物相に接する部分にフェライト相が分散する。また、焼結時の高温下で常温での固溶限を超えて基地中に一旦溶け込んだCuが、冷却時に基地中に析出した銅合金相が分散している。なお、図3(a)の金属組織写真において、黒鉛相は金属組織を観察するため試料を研磨した際に脱落し観察できないが、図3(b)の模式図に示すように、大きい気孔内部には黒鉛が残留し黒鉛相として分散する。この特許文献1の焼結バルブガイド材は、上記の鉄−リン−炭素化合物相により優れた耐摩耗性を発揮することから、自動四輪車の内燃機関用バルブガイドのスタンダード材として国内外の自動車メーカにて搭載され実用化が進んでいる。
【0004】
また、特許文献2の焼結バルブガイド材は、特許文献1の焼結バルブガイド材の被削性を改善するため、特許文献1の焼結バルブガイド材の金属マトリックス中に、メタ珪酸マグネシウム系鉱物やオルト珪酸マグネシウム系鉱物等を粒間介在物として分散させたものであり、特許文献1の焼結バルブガイド材と同じく、国内外の自動車メーカにて搭載され実用化が進んでいる。
【0005】
特許文献3、4に開示された焼結バルブガイド材は、より一層の被削性の改善を図ったものであり、リン量を低減させることで硬質な鉄−リン−炭素化合物相の分散量を、バルブガイドの耐摩耗性維持のため必要な量だけに低減させて、被削性を改善したものであり、国内外の自動車メーカにて搭載され実用化が始まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭55−34858号公報
【特許文献2】特許第2680927号公報
【特許文献3】特許第4323069号公報
【特許文献4】特許第4323467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、各種産業用機械部品においては低コスト化の要求が高まってきており、自動車部品についても低コスト化の要求が高まってきている。このような中、内燃機関用焼結バルブガイド材としても、低コスト化の要求が高まってきている。
【0008】
その一方で、最近の自動車用内燃機関等の高性能化や燃費向上にともなって、内燃機関稼働中のバルブガイドは一段と高温および高面圧下に曝されることとなり、さらに最近の環境意識の高まりの中でバルブガイドとバルブステムとの境界面に供給される潤滑油の供給量が減少される傾向があり、バルブガイドにとってより過酷な摺動環境となってきている。このような背景から、特許文献1、特許文献2の焼結バルブガイド材相当の耐摩耗性が要求されている。
【0009】
したがって、本発明は、従来の焼結バルブガイド材、すなわち上記特許文献1、特許文献2等と同等の耐摩耗性を有するとともに、低コストな焼結バルブガイド材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の焼結バルブガイド材は、全体組成が、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなり、気孔と気孔を除く基地組織からなるとともに、前記基地組織が、パーライト相、フェライト相、鉄−リン−炭素化合物相、および銅相の混合組織からなり、前記気孔の一部に黒鉛が分散する金属組織を呈し、断面金属組織を観察したときの金属組織に対する面積比で、前記鉄−リン−炭素化合物相が、3〜25%であり、前記銅相が、0.5〜3.5%であることを特徴とする。
【0011】
上記の本発明の焼結バルブガイド材においては、鉄−リン−炭素化合物相は、倍率200倍の断面組織の視野において、該視野に対する面積率が0.05%以上の板状鉄−リン−炭素化合物として識別することができる。この場合において、前記視野に対する面積率が0.15%以上の板状鉄−リン−炭素化合物の総面積が、前記板状鉄−リン−炭素化合物の総面積の3〜50%であると、耐摩耗性を向上させることができる。なお、本発明においては、鉄−リン−炭素化合物以外に鉄炭化物も析出するが、鉄炭化物と鉄−リン−炭素化合物を金属組織上区別することは困難であるため、以下の説明においては、「鉄−リン−炭素化合物」には鉄炭化物も含むものとする。これについては請求項の記載も同様である。
【0012】
また、基地組織の粉末粒界および前記気孔中に、硫化マンガン粒子、珪酸マグネシウム系鉱物粒子、弗化カルシウム粒子のうちの少なくとも1種が、2質量%以下分散することが好ましい。
【0013】
本発明の焼結バルブガイド材の製造方法は、原料粉末の全体組成が、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなるよう、鉄粉末に、鉄燐合金粉末、銅粉末および黒鉛粉末を添加し、混合する原料粉末調整工程と、成形型の円管状のキャビティに前記原料粉末を充填し加圧圧縮して、該原料粉末を円管状の圧粉体に成形する工程と、前記圧粉体を、非酸化性雰囲気中で、加熱温度970〜1070℃で焼結する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
上記の本発明の焼結バルブガイド材の製造方法においては、前記加熱温度における保持時間が10〜90分であることを好ましい態様とする。さらに、前記加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃に冷却する際の冷却速度が、5〜25℃/分であること、もしくは前記加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃の間の領域において、10〜90分の間、恒温保持した後、冷却することを好ましい態様とする。そして、前記原料粉末の調製工程において、さらに、硫化マンガン粉末、珪酸マグネシウム鉱物粉末、弗化カルシウム粉末から選択される少なくとも1種の粉末を前記原料粉末の2質量%以下となるように添加することを好ましい態様とする。
【0015】
本発明の焼結バルブガイド材は、全体組成中からSnを省いて低コストとしつつ、必要な量の鉄−リン−炭素化合物相と銅相を分散させたことで、従来の焼結バルブガイド材と同等の耐摩耗性とバルブガイドとして必要十分な強度を兼ね備えたものである。また、本発明の焼結バルブガイド材の製造方法は、上記の本発明の焼結バルブガイド材を、従来と同等の簡便な方法で製造できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の焼結バルブガイド材をナイタールでエッチングしたときの金属組織写真およびその模式図であり、図1(a)が金属組織写真、図1(b)が図1(a)の金属組織写真の模式図である。
【図2】本発明の焼結バルブガイド材を村上試薬でエッチングしたときの金属組織写真および画像処理した結果を示す模式図であり、図2(a)が金属組織写真、図2(b)が図2(a)の金属組織写真を画像処理して、鉄−リン−炭素化合物相を抽出した結果を示す模式図である。
【図3】従来の焼結バルブガイド材の金属組織写真およびその模式図であり、図3(a)が金属組織写真、図3(b)が図3(a)の金属組織写真の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
焼結バルブガイド材においては、自己の耐摩耗性を高めることも重要であるが、相手材となるバルブステムの摩耗を抑制することも重要である。この点で、上記の特許文献1の焼結バルブガイド材においては、基地中に硬質な鉄−リン−炭素化合物を分散させることにより自己の耐摩耗性を高めるとともに、基地中に軟質な銅錫合金相を分散させることにより、相手材(バルブステム)に対する攻撃性を緩和するとともに、相手材(バルブステム)とのなじみ性を付与したものである。
【0018】
本発明の焼結バルブガイド材およびその製造方法においては、低コストとするため、比較的高価な銅錫合金粉末を用いず、比較的安価な銅粉末を用いて、基地中に銅相を分散させるとともに、銅粉末から基地へのCuの拡散状態を制御し、銅粉末を未拡散の状態で残留させて銅相を形成することで銅相の分散量を制御したことを特徴とする。また、上記のように基地へのCuの拡散状態を制御したことにより、特許文献3および特許文献4のようにP量を低減しても、特許文献1と同等の大きさ、量の鉄−リン−炭素化合物相を得ることを可能にした。
【0019】
以下に、本発明の焼結バルブガイド材およびその製造方法につき詳細に説明する。
本発明の焼結バルブガイド材の断面組織を鏡面研磨し、ナイタール(1質量%硝酸アルコール溶液)でエッチングしたときの金属組織を図1に示す。図1(a)は金属組織写真であり、図1(b)はその模式図である。図1に示すように、本発明の焼結バルブガイド材の金属組織は、気孔と気孔を除く基地からなり、気孔は基地中に分散している。この気孔は原料粉末を成形した際の原料粉末間の隙間が残留して形成されたものであり、原料粉末の鉄粉末の部分が基地(鉄基地)を形成する。基地はパーライト相、フェライト相、鉄−リン−炭素化合物相、および銅相の混合組織からなる。また、図1(a)の金属組織写真において、黒鉛相は金属組織を観察するため試料を研磨した際に脱落し観察できないが、図1(b)の模式図に示すように、大きい気孔内部には黒鉛が残留し黒鉛相として分散する。
【0020】
鉄−リン−炭素化合物相は板状に析出しており、図3に示す従来の焼結バルブガイド材とほぼ同等の形状および量となっている。また、銅相は、上記のように銅粉末から基地へのCuの拡散状態を制御し、銅粉末を未拡散の状態で残留させて形成したものであり、図1に示すように、未拡散の状態で気孔中もしくは気孔に隣接した状態で分散する。
【0021】
図2(a)は、同じ焼結バルブガイド材を村上試薬(ヘキサシアノ鉄酸カリウム、水酸化カリウム各10質量%水溶液)でエッチングしたときの金属組織写真であり、図2(b)は図2(a)を画像解析した模式図である。図2より、板状の鉄−リン−炭素化合物相は濃くエッチングされ(灰色の部分)、パーライト部分は薄くエッチングされている(白色の部分)。なお、図2の黒い部分は気孔である。したがって、板状の鉄−リン−炭素化合物相は、パーライトを構成する鉄炭化物(FeC)と上記のようにして区別できる。
【0022】
本発明の焼結バルブガイド材において、銅相は、相手材(バルブステム)に対する攻撃性の緩和、および相手材(バルブステム)とのなじみ性向上のため必須である。銅相は、基地中に分散する量が金属組織断面における面積比で0.5%に満たないとこれらの効果が乏しくなる。また、基地中に分散する銅相の量が増加させると、上記効果も向上するが、基地中に分散する銅相の量がある程度以上となると、上記効果の向上の割合があまり増加しなくなってくる。その一方で、銅相の量を増加するためにはCu量を増加させる必要があるが、Cu量を増加するとその分コストが増加する。この点から基地中に分散する銅相の量を金属組織断面における面積比で3.5%を上限とする。
【0023】
Cuは、銅粉末の形態で付与され、上記の銅相の形成のほか、基地に拡散して銅相を基地に固着させる作用、および基地中に固溶して基地の強度を向上させる作用を有する。これらの効果を発揮するため全体組成中のCu量は1質量%以上が必要となる。ところで、本発明において銅相は、原料粉末に添加して付与された銅粉末を一部未拡散の状態で残留させて形成するが、Cuの拡散量が増加すると、その分銅相として残留するCuの量が減少する。また、Cuの拡散量が増加すると、上記の基地に拡散して銅相を基地に固着させる作用、および基地中に固溶して基地の強度を向上させる作用は増加するが、内燃機関用バルブガイドとしての使用を考慮すると、圧環強さで500MPa以上であれば、十分使用できるものとなる。したがって、過度にCuを基地に拡散させる必要はなく、必要十分なだけのCuを基地に拡散させて、残部を未拡散の状態として銅相を形成することがコストの点から有効である。これらのことから全体組成中のCu量の上限を4質量%とする。以上より全体組成中のCu量を1〜4質量%とする。また、原料粉末に添加する銅粉末の量を1〜4質量%とする。
【0024】
上記のように、原料粉末に添加された銅粉末から必要十分なだけのCuを基地に拡散させて、残部を未拡散の状態として銅相を形成するためには、焼結時の加熱温度(焼結温度)が重要となる。Cuは融点が1084.5℃であり、この温度を超えて焼結すると原料粉末に添加された銅粉末は全て溶融して鉄基地中に拡散してしまい、銅相として残留できなくなる。また、融点を超えない温度であっても、焼結時の加熱温度が高くなると、その分基地へのCuの拡散量が増加する。このため、必要十分なだけのCuを拡散させるため焼結時の加熱温度上限を1070℃とする。その一方で焼結時の加熱温度が低くなると、上記のCuのみならず、鉄粉末どうしの拡散接合、他の元素(P、C)の拡散が不充分となり、強度および耐摩耗性が低くなる。このため焼結時の加熱温度の下限を970℃とする。この温度の範囲でCuは液相を発生せず、固相拡散でCuの一部は基地へ拡散する。
【0025】
Pは、硬質な鉄−リン−炭素化合物の形成に寄与し、焼結バルブガイド材の耐摩耗性向上に寄与する。全体組成におけるP量は、過多となると硬質な鉄−リン−炭素化合物の量が増加して相手材の摩耗を促進するとともに、焼結バルブガイド材を脆化させて強度を低下させる。このためP量の上限を0.3質量%とする。また、特許文献1において、必要量の鉄−リン−炭素化合物を得るにあたり、P量下限は0.1質量%と記載されているが、本願発明においてはSnを用いずCuのみとするとともに、上記のようにしてCuの拡散状態を制御したことによりP量下限を0.01質量%まで拡張することができる。
【0026】
すなわち、Cuは、鋼の臨界冷却速度を小さくする元素であり、鋼の焼入れ性を改善する効果を有する。すなわち、連続冷却変態図のパーライトノーズを時間の遅い側(右側)に移動させる効果を有する。このような効果を有するCuが鉄基地中にある程度、均一に拡散した状態で加熱温度から冷却すると、パーライトノーズが時間の遅い側に移行する結果、鉄基地中の焼入れ性が改善され、通常の焼結炉における冷却速度では、鉄−リン−炭素化合物が充分に成長する間がなく冷却されるため、P量が少ないと核となる鉄−リン−炭素化合物が少なくなって、微細なパーライト組織となり易い。
【0027】
しかしながら、上記のようにCuの拡散量を必要十分なだけに止めた結果、基地中でCu濃度の高い部分とCu濃度の低い部分が混在するCu濃度の不均一な状態となり、Cu濃度の低い部分ではCuの焼入れ性改善の効果が薄くなる。このため基地のCu濃度の低い部分では、焼結後の冷却においてP量が少なく、核となる鉄−リン−炭素化合物の量が少なくても、鉄−リン−炭素化合物が周囲のCを吸収して十分な大きさに成長することが可能となる。このためP量を低減しても、特許文献1と同等の大きさ、量の鉄−リン−炭素化合物が得られる。
【0028】
なお、鉄−リン−炭素化合物は、周囲のCを吸収して成長するとともに、近傍の鉄−リン−炭素化合物と結合、吸収して成長するため、鉄−リン−炭素化合物周囲においてはCが少なくなり、フェライト相が分散する。
【0029】
鉄−リン−炭素化合物相の量は、少ないと耐摩耗性が低下するため、気孔を含む断面金属組織を観察したときの金属組織に対する面積比で3%以上必要である。その一方で、過大となると相手(バルブステム)に対する攻撃性が高まり相手材の摩耗を生じさせたり、バルブガイドの強度の低下、バルブガイドの被削性の低下等の問題が生じることから、上限を25%とする。なお、パーライトは微細な鉄炭化物とフェライトとの層状組織であり、厳密には鉄−リン−炭素化合物と区別ができないが、本発明における板状の鉄−リン−炭素化合物は、断面金属組織において、画像解析ソフトウェア(例えば三谷商事株式会社製WinROOF等)によって、図2(b)に示すように、閾値を制御して濃い色の部分、すなわち鉄−リン−炭素化合物相のみ抽出し、その面積を解析することにより面積比を求めることができる。
【0030】
上記の鉄−リン−炭素化合物は、上記の画像解析を行うと、前述のように倍率200倍の断面組織の視野において、いずれも面積率が0.05%以上として識別される。したがって、画像解析において面積率が0.05%以上の部分を積算しても求めることができる。そして、板状鉄−リン−炭素化合物相においては、上記の断面面積比とした上で、倍率200倍の断面組織の視野において、面積率が0.15%以上の大きな板状鉄−リン−炭素化合物相が、板状鉄−リン−炭素化合物相の3〜50%であると耐摩耗性の観点より好ましいことも既に述べた。
【0031】
Pは、鉄燐合金粉末の形態で付与される。銅燐合金粉末は、液相発生温度が、P量が1.7〜14質量%未満のもので714℃、P量が14質量%のもので1022℃と、上記の焼結時の加熱温度において容易に液相を発生し、銅粉末と反応して銅粉末から液相が発生するから使用できない。一方、P量が2.8〜15.6質量%で、残部がFeの鉄燐合金粉末は液相発生温度が1050℃であり、P量が15.6〜21.7質量%で、残部がFeの鉄燐合金粉末は液相発生温度が1166℃である。したがって、P量が15.6〜21.7質量%で、残部がFeの鉄燐合金粉末を用いれば上記の焼結時の加熱温度の範囲で液相を発生せず、銅粉末から基地へのCuの拡散は上記のように固相拡散で行われる。なお、焼結炉内の温度のバラツキを考慮すると、多少温度バラツキがあったとしても液相発生が生じないP量が15.6〜21.7%の鉄燐合金粉末を用いることが好ましい。
【0032】
Cは上記の鉄−リン−炭素化合物相の形成、パーライト相の形成および固体潤滑剤としての黒鉛相形成のため必須である。このため、Cは1.3%以上とする。一方でCは黒鉛粉末の形態で付与されるが、原料粉末における黒鉛粉末の添加量が3.0質量%を超えると、原料粉末の流動性の低下、充填性の低下、および圧縮性の低下が顕著となり、製造し難くなる。これらのことから、焼結バルブガイド材におけるC量を1.3〜3.0質量%とする。
【0033】
また、Cは全て黒鉛粉末の形態で付与される。したがって、原料粉末に添加される黒鉛粉末の量は1.3〜3.0質量%となる。黒鉛粉末の形態で付与されたCは、上記の焼結時の加熱温度において、一部は基地(オーステナイト)中に拡散して溶け込んだ状態となり、残った部分は固体潤滑剤として働く黒鉛相として残留する。このような状態から冷却すると、鉄基地のCu濃度の低い箇所では、鉄基地の焼入れ性改善の効果が小さくなり、連続冷却変態図のパーライトノーズの時間の遅い側への移行がわずかとなる結果、焼結後の冷却過程でオーステナイト中より析出する鉄炭化物が成長し易く、P量を0.3質量%以下としても鉄−リン−炭素化合物を成長させることができる。
【0034】
なお、上記のCu、C等の元素の拡散は、加熱温度の影響が最も大きく、加熱時間の影響は比較的小さいが、加熱時の保持時間があまりに短いと、これらの元素の拡散が充分に行われない虞があるため、加熱時の保持時間を10分以上とすることが好ましい。また、加熱時の保持時間をあまりに長くすると、Cuの拡散が進行し過ぎる虞があるため、加熱時の保持時間を90分以下とすることが好ましい。
【0035】
焼結後の冷却過程においては、加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃に冷却する際に、この温度範囲での冷却速度を25℃/分以下とすると、析出した鉄−リン−炭素化合物が板状に成長し易くなるため好ましい。その一方で、冷却速度があまりに遅いと、冷却に要する時間が長くなって製造コストが増加する。このためこの温度範囲での冷却速度を5℃/分以上とすることが好ましい。
【0036】
また、焼結後の冷却過程においては、加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃に冷却する際に、この温度範囲で一旦恒温保持して、析出する鉄−リン−炭素化合物を板状に成長させてから冷却してもよい。このときの恒温保持時間は10分以上とすることが好ましい。その一方で、恒温保持時間が過多となると、冷却に要する時間が長くなって製造コストが増加する。このためこの温度範囲での恒温保持時間を90分以下に止めることが好ましい。
【0037】
以上より、本発明の焼結バルブガイド材は、全体組成が、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなり、気孔と気孔を除く基地組織からなるとともに、前記基地組織が、パーライト相、フェライト相、鉄−リン−炭素化合物相、および銅相の混合組織からなり、前記気孔の一部に黒鉛が分散する金属組織を呈し、断面金属組織を観察したときの金属組織に対する面積比で、前記鉄−リン−炭素化合物相が、3〜25%であり、前記銅相が、0.5〜3.5%であるものとなる。
【0038】
また、本発明の焼結バルブガイド材の製造方法は、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなるよう、鉄粉末に、鉄燐合金粉末、銅粉末および黒鉛粉末を添加し、混合する原料粉末調整工程を行うことを特徴とする。次いで、成形型の円管状のキャビティに原料粉末調整工程で得られた原料粉末を充填し加圧圧縮して、該原料粉末を円管状の圧粉体に成形する工程を行う。この成形工程は、焼結バルブガイドの製造工程として、従来から行われているものである。そして、成形工程で得られた圧粉体を、非酸化性雰囲気中で、加熱温度970〜1070℃で焼結する工程とすることを特徴とする。
【0039】
本発明の焼結バルブガイド材およびその製造方法においては、P量が0.01〜0.3質量%の範囲で、従来の焼結バルブガイド材(特許文献1)に比して、高価な銅錫合金粉末を使用せず、比較的安価な銅粉末を用いることで、その分コストの削減が行える。また、P量が0.01〜0.1質量%未満の範囲では、上記のコスト削減に加え、P量を低減することによる効果が追加される。
【0040】
上記の焼結バルブガイド材においては、特許文献2等のような従来から行われている手法により、被削性を改善することができる。すなわち、原料粉末に、硫化マンガン粉末、珪酸マグネシウム鉱物粉末、弗化カルシウム粉末から選択される少なくとも1種の粉末を原料粉末の2質量%以下となるように添加して、成形、焼結する。これにより、得られる焼結バルブガイド材の基地組織の粉末粒界および気孔中に、硫化マンガン粒子、珪酸マグネシウム系鉱物粒子、弗化カルシウム粒子のうちの少なくとも1種を、2質量%以下分散させることにより、被削性を改善することができる。
【実施例】
【0041】
[第1実施例]
全体組成に対するCuの含有量が及ぼすバルブガイドの特性への影響を調査した。鉄粉末と、P含有量が20質量%で残部がFeの鉄燐合金粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末を用意し、鉄粉末に表1に示す割合の鉄燐合金粉末および銅粉末と、2質量%の黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、得られた原料粉末を、成形圧力650MPaで加圧圧縮して、外径11mm、内径6mm、長さ40mmの円管形状の圧粉体(摩耗試験用)、及び外径18mm、内径10mm、長さ10mmの円管形状の圧粉体(圧環強さ試験用)に成形し、得られた円管形状圧粉体をアンモニア分解ガス雰囲気中、加熱温度1000℃、保持時間を30分として焼結し、その後、上記加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃に冷却する際の冷却速度を10℃/分として冷却し、試料番号01〜09の焼結体試料を作製した。
【0042】
また、従来例として、Sn含有量が10質量%で残部がCuの銅錫合金粉末、P含有量が20質量%で残部がFeの鉄燐合金粉末を別途用意し、鉄粉末に、5質量%の銅錫合金粉末、1.4質量%の鉄燐合金粉末、2質量%の黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、この原料粉末についても上記の2種類の形状に成形を行い、上記の焼結条件の下で焼結を行って試料番号10の焼結体試料を作製した。この従来例は、特許文献1に記載の焼結バルブガイド材に相当するものである。これらの試料の全体組成を表1に併せて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
上記で得られた焼結体試料について、摩耗試験を行ってバルブガイドの摩耗量とバルブステムの摩耗量を測定するとともに、圧環試験を行って圧環強さを測定した。また、断面金属組織の観察を行って、鉄−リン−炭素化合物相の面積比および銅相の面積比を測定した。
【0045】
摩耗試験は、固定された円管形状の焼結体試料の内径にバルブのバルブステムを挿通するとともに、バルブを鉛直方向に往復動するピストンの下端部に取り付けた摩耗試験機により行い、5MPaの横荷重をピストンに加えながら、500℃の排気ガス雰囲気中で、ストローク速度3000回/分、ストローク長8mmの下でバルブを往復動させ、30時間の往復動の後、焼結体の内周面の摩耗量(μm)およびバルブステム外周の摩耗量(μm)を測定した。
【0046】
圧環試験は、JIS Z2507に規定する方法に従って行い、外径D(mm)、壁厚e(mm)、長さL(mm)の円管形状の焼結体試料を径方向に押圧し、押圧荷重を増加させて焼結体試料が破壊したときの最大荷重F(N)を測定して、下記1式により圧環強さK(N/mm)を算出した。
K=F×(D−e)/(L×e) …(1)
【0047】
銅相の面積比の測定は、試料の断面を鏡面研磨した後、ナイタールで腐食し、その金属組織を顕微鏡観察するとともに、三谷商事株式会社製WinROOFによって画像解析してその面積を測定して面積比を測定した。鉄−リン−炭素化合物相の面積比の測定は、腐食液として村上試薬(ヘキサシアノ鉄酸カリウム、水酸化カリウム各10質量%水溶液)を用いた以外は銅相の面積比の測定と同様に行った。なお、画像解析により識別される相の面積は、視野に対して0.05%以上のものである。
【0048】
これらの結果を表2に示す。なお、表中、「合計」はバルブガイドの摩耗量とバルブステムの摩耗量の合計値である。以下の検討においては、バルブガイドとして使用可能なレベルとして、圧環強さの目標値を約500MPa以上、摩耗量の目標値を合計摩耗量が75μm以下として評価を行った。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の試料番号01〜09の試料により、焼結バルブガイド材の全体組成におけるCu量の影響および原料粉末における銅粉末添加量の影響がわかる。Cu量(銅粉末添加量)が2.5質量%以下の試料番号01〜05の試料においては、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比は、Cu量の増加とともに僅かに減少する傾向はあるが、従来例(試料番号10)と同等の鉄−リン−炭素化合物が析出分散している。しかしながら、Cu量(銅粉末添加量)が2.5質量%を超えると、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が急に減少する傾向を示しており、Cu量が4.0質量%の試料(試料番号08)では、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が4.5%まで減少し、Cu量が4.0質量%を超える試料(試料番号09)では、鉄−リン−炭素化合物相の面積比が2.6%まで低下している。
【0051】
銅相はCu量(銅粉末添加量)に比例して増加する傾向を示しており、Cu量(銅粉末添加量)が0.5質量%の試料(試料番号01)では金属組織断面における銅相の面積比が0.2%であり、Cu量(銅粉末添加量)が4.0質量%の試料(試料番号08)では銅相の面積比が3.3%まで増加し、Cu量(銅粉末添加量)が4.0質量%を超える試料(試料番号09)では、銅相の面積比が3.6%まで増加している。
【0052】
圧環強さは、Cu量(銅粉末添加量)が0.5質量%の試料番号01の試料においては、Cu量が少ないため基地強度が低く、圧環強さが低い値を示しているが、Cu量(銅粉末添加量)が増加するに従い、Cuによる基地強化作用が増加するため、Cu量(銅粉末添加量)に比例して圧環強さが増加する傾向を示している。ここで、Cu量(銅粉末添加量)が1.0質量%に満たない試料番号01の試料では圧環強さが低く、バルブガイドとしての使用に耐えないが、Cu(銅粉末添加量)量が1.0質量%以上の試料(試料番号02〜09)では、圧環強さが500MPa以上となり、バルブガイドとして十分使用できる強度が得られている。
【0053】
バルブステム摩耗量は、Cu量(銅粉末添加量)が0.5質量%の試料番号01の試料においては、なじみ性を改善する銅相が存在しないことから、若干量摩耗しているが、Cu量(銅粉末添加量)が1.0質量%の試料番号02の試料においては、銅相が分散することによりなじみ性が改善され、摩耗量が減少し、Cu量(銅粉末添加量)が1.5質量%以上の試料番号03〜09の試料においては、充分な量の銅相が分散することにより、バルブステム摩耗量が低く、一定の値となっている。
【0054】
バルブガイド摩耗量は、Cu量(銅粉末添加量)が0.5質量%の試料番号01の試料においては、Cu量が少ないため基地強度が低く、このため摩耗量も大きい値となっており、合計摩耗量も大きい値となっている。一方、Cu量(銅粉末添加量)が1.0質量%の試料番号02の試料においては、Cuの基地強化作用により、基地強度が向上し、バルブガイド摩耗量が低減し合計摩耗量も低減している。また、Cu量(銅粉末添加量)が1.5〜3.0質量%の試料番号03〜06では、Cuによる基地強化作用が充分に得られるとともに、板状の鉄−リン−炭素化合物の析出量が多いことから、バルブガイド摩耗量は、従来例(試料番号10)と同等であり、ほぼ一定の低い値となっており、この結果合計摩耗量も従来例(試料番号10)と同等かつ、ほぼ一定の低い値となっている。しかしながら、Cu量(銅粉末添加量)が3.5〜4.0質量%の試料番号07,08の試料では、Cuによる基地強化作用よりも板状の鉄−リン−炭素化合物が減少することによる耐摩耗性低下が大きくなって、バルブガイド摩耗量が若干増加する傾向を示している。そしてCu量(銅粉末添加量)が4.0質量%を超える試料番号09の試料においては、鉄−リン−炭素化合物が減少することによる耐摩耗性低下が顕著となり、バルブガイド摩耗量が増大して合計摩耗量が増大する傾向を示している。
【0055】
以上の結果より、Cu量(銅粉末添加量)は1.0〜4.0質量%の範囲で、特許文献1の焼結バルブガイド材とほぼ同等の耐摩耗性を示すとともに、この範囲でバルブガイドとして使用できる強度であることが確認された。また、上記範囲で金属組織断面における銅相の面積比は0.5〜3.3%であることが確認された。さらに、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比は約3%以上必要であることが確認された。
【0056】
[第2実施例]
全体組成に対するCの含有量が及ぼすバルブガイドの特性への影響を調査した。第1実施例で用いた鉄粉末と、鉄燐合金粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末とを用意し、鉄粉末に表3に示す割合の鉄燐合金粉末、銅粉末、および黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、得られた原料粉末を、第1実施例と同じ条件で成形、焼結して試料番号11〜16の試料を作製した。これらの試料の全体組成を表3に併せて示す。また、これらの試料について、第1実施例と同様にして摩耗試験、圧環試験を行うとともに、鉄−リン−炭素化合物相の面積比および銅相の面積比を測定した。この結果を表4に示す。なお、表3および表4には、黒鉛粉末の添加量が2.0質量%の例として第1実施例の試料番号04の試料の値を併せて示した。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表4の試料番号04、11〜16の試料により、焼結バルブガイド材の全体組成におけるC量の影響および原料粉末における黒鉛粉末添加量の影響がわかる。C量(黒鉛粉末添加量)が1質量%の試料番号11の試料においては基地に拡散するCが乏しく、板状の鉄−リン−炭素化合物相が析出しない。一方、C量(黒鉛粉末添加量)が1.3質量%の試料番号12の試料においては、基地に拡散するCが十分となり、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が3.1%となっている。そして、C量(黒鉛粉末添加量)が増加するにしたがい、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比は増加する傾向を示しており、C量(黒鉛粉末添加量)が3質量%の試料番号15の試料では、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が25.0%、C量(黒鉛粉末添加量)が3質量%を超える試料番号16の試料では、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が28.0%まで増加している。一方、銅相は、Cu量(銅粉末添加量)が一定であり、焼結条件が一定であることから、C量(黒鉛粉末添加量)によらず、金属組織断面における面積比がほぼ一定の値となっている。
【0060】
圧環強さは、基地中に板状の鉄−リン−炭素化合物相が析出しない試料番号11の試料が最も高く、C量(黒鉛粉末添加量)が増加して基地中に析出する鉄−リン−炭素化合物相の量が増加するに従い、低下する傾向を示している。ただし、C量(黒鉛粉末添加量)が3質量%の試料(試料番号15)は、圧環強さは502MPaであり、C量(黒鉛粉末添加量)が3質量%までであれば、バルブガイドとして十分使用できる強度が得られている。
【0061】
C量(黒鉛粉末添加量)が1質量%の試料番号11の試料においては、耐摩耗性の向上に寄与する鉄−リン−炭素化合物相が基地中に析出しないことから、バルブガイド摩耗量は大きい値となっている。一方、C量(黒鉛粉末添加量)が1.3質量%の試料番号12の試料では、基地中に板状の鉄−リン−炭素化合物が析出してバルブガイド摩耗量が低減されており、C量(黒鉛粉末添加量)が増加するにしたがい基地中に析出する板状の鉄−リン−炭素化合物相の量が増加して、板状の鉄−リン−炭素化合物相による耐摩耗性向上の効果によりバルブガイド摩耗量が低減されている。この傾向はC量(黒鉛粉末添加量)が2.5質量%の試料番号14の試料まで認められる。しかしながら、C量(黒鉛粉末添加量)が3質量%の試料番号15の試料においては、板状の鉄−リン−炭素化合物が増加することにより焼結体試料の強度が低下することから、バルブガイド摩耗量は若干増加し、C量(黒鉛粉末添加量)が3質量%を超える試料番号16の試料においては、バルブガイド摩耗量が増大している。バルブステム摩耗量は、C量(黒鉛粉末添加量)が2.5質量%から増加するに従い基地中に析出する硬質な板状の鉄−リン−炭素化合物相の量が増加することから、C量(黒鉛粉末添加量)が増加するに従い増加する傾向を示している。これらの摩耗状況から、合計摩耗量は、C量(黒鉛粉末添加量)が1.3〜3質量%の範囲で低減されていることが確認された。
【0062】
以上の結果より、C量(黒鉛粉末添加量)は1.3〜3質量%の範囲で、特許文献1の焼結バルブガイド材とほぼ同等の耐摩耗性を示すとともに、この範囲でバルブガイドとして使用できる強度であることが確認された。また、上記範囲で金属組織断面における鉄−リン−炭素化合物相の面積比は3〜25%であることが確認された。
【0063】
[第3実施例]
全体組成に対するPの含有量が及ぼすバルブガイドの特性への影響を調査した。第1実施例で用いた鉄粉末と、鉄燐合金粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末を用意し、鉄粉末に表5に示す割合の鉄燐合金粉末、銅粉末、および2質量%の黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、得られた原料粉末を、第1実施例と同じ条件で成形、焼結して試料番号17〜24の試料を作製した。これらの試料の全体組成を表5に併せて示す。また、これらの試料について、第1実施例と同様にして摩耗試験、圧環試験を行うとともに、鉄−リン−炭素化合物相の面積比および銅相の面積比を測定した。この結果を表6に示す。なお、表5および表6には、鉄燐合金粉末の添加量が0.8質量%の例として第1実施例の試料番号04の試料の値を併せて示した。
【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
表6の試料番号04、17〜24の試料により、焼結バルブガイド材の全体組成におけるP量の影響が判る。P量が0.30質量%以下の試料番号04、17〜23の試料においては、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比は、ほぼ一定であり、従来例(試料番号10)と同等量の鉄−リン−炭素化合物が析出分散している。また、圧環強さとバルブガイドおよびバルブステムの摩耗量も従来例と同等の結果が得られている。このように、Pの含有量を低減しても低コストと耐摩耗性の維持を両立することが確認された。
【0067】
[第4実施例]
焼結温度が及ぼすバルブガイドの特性への影響を調査した。第1実施例で用いた鉄粉末と、鉄燐合金粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末とを用意し、鉄粉末に表7に示す割合の鉄燐合金粉末、銅粉末、および黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、得られた原料粉末を、第1実施例と同じ条件で成形し、表7に示す温度で30分間保持する焼結を行い、その後冷却して試料番号25〜29の試料を作製した。加熱温度から常温までの冷却に際し、850℃から600℃までの温度域の冷却速度は10℃/分とした。これらの試料の全体組成を表7に併せて示す。また、これらの試料について、第1実施例と同様にして摩耗試験、圧環試験を行うとともに、鉄−リン−炭素化合物相の面積比および銅相の面積比を測定した。この結果を表8に示す。なお、表7および表8には、焼結温度が1000℃の例として第1実施例の試料番号04の試料の値を併せて示した。
【0068】
【表7】

【0069】
【表8】

【0070】
表8の試料番号04、25〜29の試料により、焼結時の加熱温度の影響がわかる。金属組織断面における銅相の面積比は、焼結時の加熱温度が高くなるにしたがい、基地中へのCuの拡散量が増加することから銅相として残留する量が減少して低下する傾向を示し、Cuの融点(1085℃)を超える加熱温度が1100℃の試料番号29の試料では、銅粉末として添加したCuが殆ど基地中へ拡散して銅相は僅か0.4%となっている。
【0071】
加熱温度が920℃の試料(試料番号25)では、焼結時の加熱温度が低く、Cの拡散が不充分となって板状の鉄−リン−炭素化合物相がほとんど析出しない。一方、加熱温度が970〜1070℃の試料(試料番号04、26〜28)では十分なCの拡散が得られ、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が、従来例(試料番号10)とほぼ同等もしくは充分な量となっている。しかしながら、加熱温度が高くなると、基地に拡散するCu量が増加して板状の鉄−リン−炭素化合物相が形成され難くなることから、板状の鉄−リン−炭素化合物相の析出量が低下して金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比は減少する。そして、Cuの融点(1085℃)を超える加熱温度が1100℃の試料(試料番号29)では、Cuが基地中に均一に拡散した結果、大きな板状の鉄−リン−炭素化合物相として析出できず、ほとんどがパーライト状に析出して金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が極めて少なくなっている。
【0072】
圧環強さは、焼結時の加熱温度が高くなるにしたがい、基地の強化に寄与するCuが基地に拡散する量が増加するため、増加する傾向を示している。しかしながら、加熱温度が920℃の試料(試料番号25)では、Cuの拡散が不充分であるため、圧環強さは500MPaを下回っており、バルブガイドとして必要な強度が得られていない。一方、加熱温度が970℃以上の試料(試料番号04、26〜29)では、基地へのCuの拡散量が増加する結果、500MPa以上の圧環強さが得られ、バルブガイドとして十分な強度が得られている。
【0073】
加熱温度が920℃の試料(試料番号25)においては、Cの拡散が不充分で、耐摩耗性に寄与する板状の鉄−リン−炭素化合物相が殆ど析出しないことから、バルブガイド摩耗量は大きい値となっている。一方、加熱温度が970℃の試料(試料番号26)においては、Cの拡散が十分に行われ、板状の鉄−リン−炭素化合物相の析出量が従来例(試料番号10)とほぼ同等となり、バルブガイド摩耗量が低減している。また、加熱温度が1000〜1070℃の試料(試料番号04、27、28)では上記の作用によりバルブガイド摩耗量がさらに低い値を示す。しかしながら、加熱温度が高くなるにしたがい、基地へのCuの拡散量も増加することから、加熱温度が1100℃の試料(試料番号29)では、析出する板状の鉄−リン−炭素化合物相の量が著しく減少して耐摩耗性が低下し、バルブガイド摩耗量が増大している。バルブステム摩耗量は、加熱温度によらずほぼ一定となっている。このため、合計摩耗量は、加熱温度が970〜1070℃の範囲で低減されている。
【0074】
以上の結果より、焼結バルブガイド材を鉄−銅−炭素焼結合金で構成する場合、焼結時の加熱温度は、970〜1070℃の範囲で良好な耐摩耗性を示すとともに、この範囲でバルブガイドとして使用できる強度であることが確認された。
【0075】
[第5実施例]
焼結の加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃に冷却する際の冷却速度が及ぼすバルブガイドの特性への影響を調査した。第1実施例で用いた鉄粉末と、鉄燐合金粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末とを用意し、鉄粉末に表9に示す割合の鉄燐合金粉末、銅粉末、および黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、得られた原料粉末を、第1実施例と同じ条件で成形し、1000℃で30分間保持する焼結を行い、850℃から600℃に冷却する際の冷却速度を表9に示す速度で冷却して試料番号30〜34の試料を作製した。これらの試料の全体組成を表9に併せて示す。また、これらの試料について、第1実施例と同様にして摩耗試験、圧環試験を行うとともに、鉄−リン−炭素化合物相の面積比および銅相の面積比を測定した。この結果を表10に示す。なお、表9および表10には、上記温度域における冷却速度が10℃/分の例として第1実施例の試料番号04の試料の値を併せて示した。
【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度が遅いほど金属組織断面における鉄−リン−炭素化合物相の面積比は増加し、冷却速度が速いほど鉄−リン−炭素化合物相の面積比が減少する傾向がある。すなわち、常温で過飽和なCが、焼結時の加熱温度域ではオーステナイト中に溶け込んでいるが、この温度域において過飽和なCが鉄炭化物(FeC)として析出する。この温度域をゆっくり通過すれば析出した鉄炭化物が成長して鉄−リン−炭素化合物相の量が増加し、この温度域を素早く通過すれば析出した鉄炭化物が成長する時間がなく、微細な鉄炭化物が分散するパーライト組織の割合が多くなって鉄−リン−炭素化合物の量が減少する。ここで、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度が25℃/分まで早くなると、金属組織断面における鉄−リン−炭素化合物相の面積比が5.7%となり、それより早くなると鉄−リン−炭素化合物相の面積比が3%を下回る。
【0079】
一方、銅相は過飽和なCuが析出して分散するものではなく、未拡散の銅粉末が銅相として残留することから、金属組織断面における銅相の面積比は、冷却速度によらずほぼ一定の値となる。
【0080】
圧環強さは、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度が早いほど、微細な鉄炭化物が増加して板状の鉄−リン−炭素化合物相の量が減少することから、増加する傾向を示す。また、バルブガイド摩耗量は、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度が早いほど、耐摩耗性に寄与する鉄−リン−炭素化合物相の量が減少することから微増する傾向を示し、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度が25℃/分を超えて早くなると、鉄−リン−炭素化合物相の面積比が3%を下回り、バルブガイド摩耗量は急激に増加している。
【0081】
以上の結果より、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度を制御することにより、板状の鉄−リン−炭素化合物相の量を調整することができ、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度を25℃/分以下とすることで、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比を3%以上として、耐摩耗性を良好なものとすることができることが確認された。なお、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度をあまりに遅くすると、加熱温度から室温までの冷却時間が長くなり、その分製造コストが増加するため、850℃から600℃まで冷却する際のその温度域における冷却速度は5℃/分以上とすることが好ましい。
【0082】
[第6実施例]
焼結の加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃の間の領域において恒温保持する時間が及ぼすバルブガイドの特性への影響を調査した。第1実施例で用いた鉄粉末と、鉄燐合金粉末と、銅粉末と、黒鉛粉末とを用意し、鉄粉末に表11に示す割合の鉄燐合金粉末、銅粉末、および黒鉛粉末を添加、混合して原料粉末を調整し、得られた原料粉末を、第1実施例と同じ条件で成形し、1000℃で30分間保持する焼結を行い、加熱温度から常温まで冷却する際に、850℃から780℃までの温度域の冷却速度を30℃/分とし、780℃で表11に示す時間一旦恒温保持し、その後780℃から600℃までの冷却速度を30℃/分として冷却して試料番号35〜38の試料を作製した。これらの試料について、第1実施例と同様にして摩耗試験、圧環試験を行うとともに、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比および銅相の面積比を測定した。この結果を表12に示す。なお、表11および表12には、この温度域の冷却速度が30℃/分で、恒温保持しない例として第5実施例の試料番号34の試料の値を併せて示した。
【0083】
【表11】

【0084】
【表12】

【0085】
加熱温度から常温まで冷却する際に、850℃から600℃の温度域において、恒温保持した試料(試料番号35〜38)では、第5実施例において金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が3%を下回る冷却速度の場合においても、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比を3%以上に増加させることができることがわかる。また、恒温保持時間が長くなるにしたがい、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が増加することがわかる。すなわち、オーステナイト中に過飽和に溶け込んだCが鉄炭化物として析出する温度域で恒温保持することにより、析出した鉄炭化物が成長できる時間を与えることにより、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比を増加させることができ、この温度域での恒温保持時間が長くなれば、その分、板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比を増加させることができる。したがって、この温度域で恒温保持する場合は、恒温保持する間に板状の鉄−リン−炭素化合物相が成長するため、恒温保持温度前後の冷却速度を速くしても問題とはならない。
【0086】
一方、銅相は過飽和なCuが析出して分散するものではなく、未拡散の銅粉末が銅相として残留することから、金属組織断面における銅相の面積比は、恒温保持時間によらずほぼ一定の値となる。
【0087】
850℃から600℃の温度域における恒温保持時間が短いほど板状の鉄−リン−炭素化合物相が成長する時間が少なく板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が減少し、恒温保持時間が長いほど鉄炭化物が成長する時間が長く板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比が増加することから、圧環強さは、恒温保持時間が長くなるにしたがい低下する傾向を示している。また、バルブガイド摩耗量は、850℃から600℃の温度域における恒温保持時間が長いほど、耐摩耗性に寄与する板状の鉄−リン−炭素化合物相の量が増加することから恒温保持時間にしたがって低下する傾向を示している。
【0088】
以上の結果より、850℃から600℃の温度域において恒温保持することにより、板状の鉄−リン−炭素化合物相の量を調整することができ、恒温保持する場合に保持時間を10分以上とすることで、金属組織断面における板状の鉄−リン−炭素化合物相の面積比を5%以上として、耐摩耗性を良好なものとすることができることが確認された。なお、恒温保持時間をあまりに長くすると、加熱温度から室温までの冷却時間が長くなり、その分製造コストが増加するため、恒温保持時間は90分以下とすることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体組成が、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなり、
気孔と気孔を除く基地組織からなるとともに、前記基地組織が、パーライト相、フェライト相、鉄−リン−炭素化合物相、および銅相の混合組織からなり、前記気孔の一部に黒鉛が分散する金属組織を呈し、
断面金属組織を観察したときの金属組織に対する面積比で、前記鉄−リン−炭素化合物相が、3〜25%であり、前記銅相が、0.5〜3.5%であることを特徴とする焼結バルブガイド材。
【請求項2】
前記鉄−リン−炭素化合物相は、倍率200倍の断面組織の視野において、該視野に対する面積率が0.05%以上の板状鉄−リン−炭素化合物であり、前記視野に対する面積率が0.15%以上の板状鉄−リン−炭素化合物の総面積が、前記板状鉄−リン−炭素化合物の総面積の3〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の焼結バルブガイド材。
【請求項3】
前記基地組織の粉末粒界および前記気孔中に、硫化マンガン粒子、珪酸マグネシウム系鉱物粒子、弗化カルシウム粒子のうちの少なくとも1種が、2質量%以下分散することを特徴とする請求項1または2に記載の焼結バルブガイド材。
【請求項4】
原料粉末の全体組成が、質量比で、P:0.01〜0.3%、C:1.3〜3%、Cu:1〜4%、および残部がFeと不可避不純物からなるよう、鉄粉末に、鉄燐合金粉末、銅粉末および黒鉛粉末を添加し、混合する原料粉末調整工程と、
成形型の円管状のキャビティに前記原料粉末を充填し加圧圧縮して、該原料粉末を円管状の圧粉体に成形する工程と、
前記圧粉体を、非酸化性雰囲気中で、加熱温度970〜1070℃で焼結する工程とを有することを特徴とする焼結バルブガイド材の製造方法。
【請求項5】
前記原料粉末の全体組成におけるP量を0.01〜0.1質量%未満としたことを特徴とする請求項4に記載の焼結バルブガイド材の製造方法。
【請求項6】
前記加熱温度における保持時間が10〜90分であることを特徴とする請求項4または5に記載の焼結バルブガイド材の製造方法。
【請求項7】
前記加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃に冷却する際の冷却速度が、5〜25℃/分であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の焼結バルブガイド材の製造方法。
【請求項8】
前記加熱温度から室温までの冷却過程において、850℃から600℃の間の領域において、10〜90分の間、恒温保持した後、冷却することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の焼結バルブガイド材の製造方法。
【請求項9】
前記原料粉末の調製工程において、さらに、硫化マンガン粉末、珪酸マグネシウム鉱物粉末、弗化カルシウム粉末から選択される少なくとも1種の粉末を前記原料粉末の2質量%以下となるように添加することを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の焼結バルブガイド材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92439(P2012−92439A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211786(P2011−211786)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)
【Fターム(参考)】